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ヒトマスト細胞における 高親和性IgE受容体 β鎖の役割 - J-Stage

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(1)

ヒトとマウスFcεRI β鎖遺伝子は7つのexonからなる.ヒト FcεRI β鎖 に は2つ のsplicing variantβTMS4A2truc 呼ばれる)があり,タンパク質に翻訳されるFull length FcεRI β鎖 は,4カ 所 の 疎 水 性 の 強 い 膜 通 過 部 分 を 有 し,N 端,C端 と も に 細 胞 内 に あ る.C端 に は,Immunoreceptor  tyrosine-based activation motif ITAM) と 呼 ば れ る シ グ ナ ル 伝 達 モ チ ー フ が あ る.チ ロ シ ン リ ン 酸 化 し たFcεRI β ITAMには,Lynなどのシグナル分子が会合する.FcεRI β ITAMは 定 型 的 な チ ロ シ ン 残 基(YXXLX7-11YXXL) お よ 3つ 目 の非 定 型 的 な チ ロ シ ン 残 基(YEELNVYSPIYSEL

をもつ.マウスFcεRI βITAMの定型的なYを介したシグ ナ ル が,FcεRIの 架 橋 刺 激 に よ る 脱 顆 粒 お よ び 脂 質 メ デ ィ エーターの産生に対してamplifierとして働いている.一方,

FcεRI βITAMの非定型的なYは,サイトカン産生に対し て 抑 制 的 な 制 御 を 行 っ て い る.す な わ ちFcεRI β鎖 が そ の ITAMの定型的および非定型的Yを介してIgE依存性のマス ト 細 胞 活 性 化 に お け る 正 負 両 方 向 性 の 調 節 に よ る フ ァ イ ン チューニングを行っている.ヒトFcεRI β鎖の発現が抑制さ れたヒトマスト細胞ではFcεRIの架橋による脱顆粒,PGD2 産生,サイトカイン産生は統計学的有意に抑制される.これ は,単 にFcεRIの 細 胞 表 面 の 発 現 が 減 少 し た た め の み な ら

ず,Lynの細胞膜への移行が阻止されていたため下流のシグ ナル伝達が抑制されたことによる.細胞膜に発現しているβ 鎖を標的とした薬剤が,アレルギー疾患の新規治療薬となる 可能性がある.

はじめに

高親和性IgE受容体(Fc

ε

RI)の発現は,齧歯類にお いてはマスト細胞と好塩基球に特異的であり,その構造 は,

α

鎖,

β

鎖,

γ

鎖のダイマーの4量体構造である(1). ヒトにおいてはマスト細胞と好塩基球以外に樹状細胞,

ランゲルハンス細胞および単球にも発現している.樹状 細胞,ランゲルハンス細胞および単球に発現している Fc

ε

RIは

α

鎖と

γ

鎖のダイマーから形成されている3量体 構造である(1).Fc

ε

RI 

β

鎖は,1989年に羅ら(2, 3)により 遺伝子のクローニングがされた.ヒトとマウスFc

ε

RI 

β

鎖遺伝子は7つのexonからなる(4)(図1A).スタート コドンとストップコドンはそれぞれexon 1と7に存在し ている(図1B).ラット,マウスとヒトFc

ε

RI 

β

鎖遺伝 子のホモロジーは約69%である.ヒトFc

ε

RI 

β

鎖には2 つのsplicing variant(

β

TとMS4A2trucと呼ばれる)が あり,タンパク質に翻訳される.

β

Tは,第5イントロ

【解説】

Roles of FcεRI β-Chain in Human Mast Cells

Yoshimichi OKAYAMA, Satoshi NUNOMURA, Chisei RA, *1 日 本大学医学部総合医学研究所,*2 日本大学医学部微生物学

ヒトマスト細胞における

高親和性IgE受容体 β 鎖の役割

岡山吉道 * 1 ,布村 聡 * 1 ,羅 智靖 * 2

(2)

ンにあるストップコドンで転写が止まり,免疫受容体チ ロシン活性化モチーフImmunoreceptor tyrosine-based  activation motif(ITAM)を含むC端を欠損している(4)

(図1C).ITAMとは,チロシン残基を二つ含み,シグ ナル伝達に関与するモチーフである.そのため,シグナ ル伝達の機能はない.また,

β

Tと

α

鎖,

γ

鎖の会合によ るFc

ε

RIの 細 胞 膜 発 現 は 減 少 す る.MS4A2trucは,

exon 3を欠損しそのため細胞膜領域を欠損しているた め(図1C),細胞膜には発現せず,核や核周囲に存在 し,Ca2+依存性のmicrotuble形成に関与し,脱顆粒や サイトカイン遊離に関与している(5, 6).本稿では,Fc

ε

RI 

β

鎖の役割と細胞内シグナル制御機構の解説をする.

Fc

ε

RIの構造と発現細胞分布

齧歯類においてはFc

ε

RIの発現はマスト細胞と好塩基 球に限られており,その構造は,

α

鎖,

β

鎖,および

γ

鎖 のダイマーが非共有結合によって会合した4量体構造を とる.マウスにおいてはFc

ε

RIが細胞表面に発現するた めには

β

鎖が必須であり,

αβγ

2の4量体構造のみが存在 する(1).一方,ヒトのFc

ε

RIは

αβγ

2の4量体構造のみな らず,

αγ

2の3量体構造でも細胞表面に発現することが 遺伝子導入の実験から示されているが(1)(図2,ヒトの 臓器でこの2つのサブタイプがどのような局在を示すの かは全く不明であった.ヒトにおいてはマスト細胞と好 塩基球以外に樹状細胞,ラングハンス細胞および単球に も発現していることが報告されているが,樹状細胞,ラ

ングハンス細胞および単球に発現しているFc

ε

RIは

α

鎖 と

γ

鎖のダイマーから形成されている(1)

α

鎖は細胞外ド メインを主体とした分子で,細胞膜を1回貫通する.細 胞外ドメインは,システインを介したS‒S結合による2 つの免疫グロブリン相同ドメインを形成することから,

免疫グロブリンスーパーファミリーに属し,IgE結合能 を有する.

β

鎖には4カ所の疎水性の強い膜通過部分を 有 し,N端,C端 と も に 細 胞 内 に あ る.C端 に は,

ITAMと呼ばれるシグナル伝達モチーフがある.ヒト

β

鎖はFc

ε

RIの細胞表面発現と

γ

鎖を介する細胞内シグナ ルの増強作用(amplifier)をもつと遺伝子導入の実験か ら報告されている(7).マウスFc

ε

RI 

β

鎖は,IgE依存性 のマスト細胞活性化のファインチューニングの機能をも つ(8)

γ

鎖は,ダイマーを形成し,ITAMをもち細胞内 シグナル伝達に関与し,またFc

ε

RIの細胞表面発現に関 与している.

γ

鎖は,齧歯類,哺乳類で種を超えてよく 保存されており,約90%のアミノ酸が一致する.CD3 複合体の

ζ

η

鎖と同一のファミリーを形成しておりT細 胞受容体とも会合する.また,

γ

鎖は,Fc

γ

RI, Fc

γ

RIIIA およびFc

α

Rとも会合する(9).また,マウスではFc

γ

RIV と

γ

鎖は,会合する.

Fc

ε

RIを介したLyn‒Syk‒LATシグナル複合体に よるシグナル伝達機構

抗原特異的IgEはマスト細胞表面のFc

ε

RIに結合し,

再び侵入してきた特異的抗原と細胞表面の抗原特異的 IgEの結合によりFc

ε

RIは架橋されlipid raftに移行す る.チロシンキナーゼやアダプター分子が細胞膜上でシ グナル伝達複合体を形成してlipid raftと呼ばれるマイ クロドメイン構造をとって物理的に相互作用が可能な単 位を構成する(10).図3に示すようにFc

ε

RI 

β

鎖の細胞内

1 2 3 4 5 6 7

1 2 3 4 5

1 2 4 5 6 7

start

start

start

stop

stop

stop

β

MS4A2truc

Full length

ITAM欠損(βT) TM

TM

TM COOH

COOH COOH NH2

NH2

NH2 ITAM

TM領域欠損 (MAS4A2truc) タンパク構造

転写構造

1 2 3 4 5 6 7

A

C B

図1高親和性IgE受容体(FcεRIβ鎖遺伝子はfull-lengthβ鎖と2つのalternative splicing formβT, MS4A2truc)を encodeする

(A) FcεRI β鎖遺伝子.(B)FcεRI β鎖の転写構造.(C)タンパク 質 構 造TM:  細 胞 膜 ド メ イ ンITAM: Immunoreceptor tyrosine- based activation motif (ITAM).

図2高親和性IgE受容体(FcεRI)の構造

FcεRIの4量体および3量体モデル.上方に細胞外ドメイン,中間 に細胞膜ドメイン,下方に細胞内ドメインを示す.

17, 931 (1999)より改変.

1 2 3 4 5 6 7

1 2 3 4 5

1 2 4 5 6 7

start

start

start

stop

stop

stop

β

MS4A2truc

Full length

ITAM欠損(βT) TM

TM

TM COOH

COOH COOH NH2

NH2

NH2 ITAM

TM領域欠損 (MAS4A2truc) タンパク構造

転写構造

1 2 3 4 5 6 7

A

C B

(3)

領域のITAMには,チロシンキナーゼLynが会合し,

Fc

ε

RIの架橋によりLynはチロシンリン酸化され,活性 化されたLynは

β

鎖と

γ

鎖のITAMのチロシンをリン酸 化する(11)

γ

鎖のITAMには,チロシンキナーゼSykが 会合し,Lynによって活性化される.Lynは脱リン酸化 酵素であるSHIP-1を活性化し,リン酸化酵素と脱リン 酸化酵素の動的なバランスによってシグナルが調節され ている.Sykによってアダプター分子LATをリン酸化 し,LATにSLP76がGadsを介して会合し,SLP76に結 合しているチロシンキナーゼItkによってホスホリパー ゼC (PLC) 

γ

が活性化され,いくつかのカスケードを介 して細胞内カルシウム濃度が増加し,脱顆粒を惹起す る.詳細なシグナル伝達機構の解説はほかの総説(10, 12) を参照されたい.Fc

ε

RI 

β

鎖の細胞内領域のITAMと Lynの会合に始まるシグナル伝達によって脱顆粒,脂質 メディエーターの産生およびサイトカインの産生が惹起 される.

Fc

ε

RI 

β

鎖と会合するシグナル分子

Fc

ε

RI 

β

鎖ITAMは 定 型 的 な チ ロ シ ン 残 基(YXX- LX7‒11YXXL)および3つ目の非定型的なチロシン残基

(YEELNVYSPIYSEL)をもつ(図4.すなわち3つの チロシン残基をもつ.定型的なYをチロシンリン酸化 したマウス

β

鎖ITAMのペプチドを作成してpull down  assayを用いてチロシンリン酸化した

β

鎖ITAMとどの ようなシグナル分子が会合するかを調べた結果,SHIP- 1, SHP-2, PI3 kinase(p85)およびLynが会合した(8). 一方,RBLセルラインを用いた研究では,定型的なY をチロシンリン酸化した

β

鎖ITAMとSyk, Grb2, Shc,  SHIPおよびSHP-1が会合した(13).われわれはヒトの定 型的なYをチロシンリン酸化した

β

鎖ITAMペプチドを 作成してこのペプチドはLynと会合することを確認し た.LynはFc

ε

RIの架橋の強さによって脱顆粒およびサ イトカイン産生に対して正負の両方の制御を行う(14). すなわち,単量体IgEやIgEプラス低価数の抗原(たと え ば,抗hapten 2,4, dinitrophenyl (DNP) IgEプ ラ ス3 価のDNPをもつbovine serum albumin)の刺激で惹起 される弱いFc

ε

RIの架橋ではLynは脱顆粒およびサイト カイン産生に対して正の制御を行い,IgEプラス高価数 の抗原(たとえば,抗DNP IgEプラス21価のDNPをも つbovine serum albumin)の刺激で惹起される強いFc

ε

RIの架橋ではLynは脱顆粒およびサイトカイン産生に 対して負の制御を行う.Lynは,強いFc

ε

RIの架橋でよ り活性化され

β

鎖ITAMとの会合も強くなる.SHIPお よびSHP-1は強いFc

ε

RIの架橋でより強くリン酸化され る(14).Lynを欠損したマウスの骨髄由来培養マスト細 胞(BMMC)ではFc

ε

RIの架橋によってSHIPおよび SHP-1のリン酸化は消失する.強いFc

ε

RIの架橋での Lynによる脱顆粒およびサイトカイン産生に対して負の 制御は

β

鎖ITAMと会合するSHIPおよびSHP-1のリン 酸化によると考えられる(14)

マウスFc

ε

RI 

β

ITAMによるマスト細胞活性化 のファインチューニングの分子機構

Fc

ε

RIの架橋によるマスト細胞活性化における

β

鎖の 役割を検討する目的にて,それぞれ3つのチロシン残基

(Y)をフェニルアラニン(F)に置換した変異体

β

(YYY, FYY, YFY, YYF, FYF, FFF)を作製して,

β

鎖 ノックアウトマウス由来のマウスBMMCに遺伝子導入 し た.そ し て,そ れ ぞ れ の ト ラ ン ス フ ェ ク タ ン ト BMMCのFc

ε

RIの架橋刺激による細胞活性化の分子機 構を検討した(8)

β

鎖ITAMのすべてのYをFに置換し た(FFF) お よ び 定 型 的 なYをF置 換 し た(FYY,  YYF, FYF)BMMCで は,Fc

ε

RIの 架 橋 に よ りLynと

β

鎖 の 会 合 や,Syk, LAT, Fc

ε

RI 

γ

鎖,

β

鎖,PLC

γ

1/

γ

2,  LynおよびSHIP-1のチロシンリン酸化やカルシウム流 FcεRI

β γ γ α

Lyn Syk

LAT

RAS GRB2

GADS PLCγ1/2 SLP76

Ptdins(4,5) P2

SOS VAV 細胞膜

MAPKKK

MAPKs MAPKK

転写因子の活性化 PLA2

脂質メディエーター サイトカイン 脱顆粒

InsP3 DAG

PKC Ca2+

Itk SHIP-1

NF-kBの活性化など

ERK1/2,p38MAPK, JNK)

SHP-1

図3FcεRIを介したLyn-Syk-LATシグナル複合体によるシ グナル伝達機構

FcεRIの架橋反応によりLynは,チロシンリン酸化されFcεRI β鎖 の細胞内領域のITAMには,チロシンキナーゼLynが会合し,

Lynはβ鎖 とγ鎖 のITAMの チ ロ シ ン を リ ン 酸 化 す る.γ鎖 の ITAMには,チロシンキナーゼSykが会合し,Lynによって活性 化される.Lynは脱リン酸化酵素であるSHIP-1を活性化し,リン 酸化酵素と脱リン酸化酵素の動的なバランスによってシグナルが 調節されている.いくつかのカスケードを介して脱顆粒,脂質メ ディエーターの産生およびサイトカインの産生が惹起される.

DAG: diacylglycerol; InsP3: inositol triphosphate; MAPKs: Map  kinases;  MAPKK:  MAPK  kinase;  MAPKKK:  MAPKK  kinase; 

PKC: protein kinase C; PLA2: phospholipase A2; PLCγ1/2: phos- pholipase Cγ1/2; Ptdins(4,5)P2: phosphoinositide 4,5.

FcεRI

β γ γ α

Lyn Syk

LAT

RAS GRB2

GADS PLCγ1/2 SLP76

Ptdins(4,5) P2

SOS VAV 細胞膜

MAPKKK

MAPKs MAPKK

転写因子の活性化 PLA2

脂質メディエーター サイトカイン 脱顆粒

InsP3 DAG

PKC Ca2+

Itk SHIP-1

NF-kBの活性化など

ERK1/2,p38MAPK, JNK)

SHP-1

(4)

入が減少し,脱顆粒および脂質メディエーターの産生が 野生型(YYY)BMMCと比較して減少した(図5.こ の効果は抗原濃度に依存しており,低い抗原濃度でより 顕著に生じることから

β

鎖ITAMの定型的なYを介した シグナルが,Fc

ε

RIの架橋刺激による脱顆粒および脂質 メディエーターの産生に対してamplifierとして働いて いることが明らかとなった.一方,非定型的なYがF置 換 さ れ たFFFお よ びYFY型BMMCは,Fc

ε

RIの 架 橋 刺激によるERK, p38MAPK, IKK

β

, IK

β

のリン酸化亢進 とNF-

κ

Bの核内移行が増強し,SHIP-1のチロシンリン 酸化が減少していた.その結果,IL-6, およびIL-13産生 が,野生型に比べて増加しており,サイトカン産生に対 して

β

鎖ITAMの非定型的なYは抑制的な制御を行って いることがわかった(8)(図5).すなわちFc

ε

RI 

β

鎖がそ のITAMの定型的および非定型的Yを介してIgEに応 答したマスト細胞活性化の正負両方向性の調節による ファインチューニングを行っていることを明らかにした

(図5).

ヒトFc

ε

RI 

β

鎖の役割

NIH3T3細胞にヒトFc

ε

RI 

α

鎖と

γ

鎖を共発現した細胞 とヒトFc

ε

RI 

α

鎖と

β

鎖と

γ

鎖を共発現した細胞にさらに SykとLynを共発現させた細胞を作製し,

β

鎖の役割を 検討した報告では,Fc

ε

RIの架橋後Fc

ε

RI 

α

鎖と

β

鎖と

γ

鎖を共発現した細胞のほうが,

α

鎖と

γ

鎖のみを共発現 した細胞に比較してSykとLynのリン酸化の程度が5〜

7倍大きかった.したがって

β

鎖はシグナル情報伝達の amplifierであると報告されている(15, 16).また,

β

鎖の欠 損マウスにヒト

α

鎖を過剰発現させ,さらにヒト

β

鎖を 導入したマウスのほうがヒト

β

鎖を導入しなかったマウ スと比較してI型のアレルギー反応が大きかった(17). Onら(18)は単球系のセルラインU937細胞に

β

鎖ITAMの すべてのYをFに置換した(FFF)および定型的なYを F置換した(FYY, YYF, FYF)とヒトFc

ε

RI

α

鎖と

γ

鎖 を共発現させ,Fc

ε

RIの架橋後の,

γ

鎖のチロシンリン 酸化,Sykのチロシンリン酸化,細胞内カルシウム動 態,Lynと

β

鎖の会合を調べたところ,定型的なYの一 つTyr-219がamplifier作用に必須のチロシン残基であ ると報告している.

ヒトのアレルギー疾患患者のアレルギー炎症組織の マスト細胞のFc

ε

RI 

β

鎖の発現

私たちは感度が高く,特異性の高い抗体を作成し た(19).この抗体を用いて慢性アレルギー性結膜炎患者

( =10)および疾患コントロール( =10)の結膜にお けるFc

ε

RI 

β

鎖の発現を調べたところ,アレルギー性結 膜炎患者においてマスト細胞数の統計学的有意な増加が 認められたのみならず,Fc

ε

RI 

β

cells/Fc

ε

RI

α

cellsの比率が,アレルギー性結膜炎において0.69±0.08 であり,コントロール(0.07±0.16)に比較して有意な 増加が認められた(20).また,Fc

ε

RI 

β

マスト細胞は アレルゲンに接触しやすい上皮細胞周囲に局在してい た(20).したがってアレルギー性結膜炎においてマスト 細胞に発現しているFc

ε

RI 

β

鎖の発現制御を行うことは 治療につながる可能性がある.

ヒトマスト細胞細胞膜に存在するFc

ε

RI 

β

鎖は Fc

ε

RIのシグナル増幅因子である

Fc

ε

RIの架橋後の脱顆粒および脂質メディエーターの 産生能,サイトカイン産生能における

β

鎖の役割を検討 する目的にてレンチウイルスベクターを用いたshRNA 技術にて培養ヒト末梢血由来マスト細胞Fc

ε

RI 

β

鎖の発 現抑制を行った.Fc

ε

RI 

β

鎖の発現が抑制されたマスト

FcεRI β γ γ α マウスマスト細胞 細胞膜

SHIP-1 Lyn

Β鎖とγ鎖のリン酸化

LynSykのリン酸化

LATのリン酸化

PLCγ1/2のリン酸化

Ca2+動員

SHIP-1のリン酸化

YEELNVYSPIYSEL 定型的チロシン残基による 正の制御

SHIP-1のリン酸化

ERK1/2, p38MAPK NF-κB活性化

YEELNVYSPIYSEL 非定型的チロシン残基による

負の制御 Syk

脱顆粒・脂質メディエーター産生 IL-6, IL-13,TNF-α産生

図5マウスFcεRI βITAMによるシグナル伝達の調節機構 FcεRI β鎖がそのITAMの定型的および非定型的チロシン残基を 介してIgEに応答したマスト細胞活性化の正負両方向性の調節に よるファインチューニングを行っている.

ヒトFcεRIβITAM マウスFcεRIβITAM

定型的ITAM D R LD R VY E E LY E E LN V Y S P I Y S E L N I Y S A TY S E L EDKGEDPG D_ _ Y x x L/I _ _ _ _ _ _ Y x x L/I_ _ _

Y219 Y225 Y229 K V P E

K V P D

図4マウスとヒトFcεRI βITAMと定型ITAMとの比較 β鎖ITAMには定型的なチロシン残基(YXXLX7‒11YXXL)と3つ 目の非定型的なチロシン残基(YEELNVYSPIYSEL)がある.

ヒトFcεRIβITAM マウスFcεRIβITAM

定型的ITAM D R LD R VY E E LY E E LN V Y S P I Y S E L N I Y S A TY S E L EDKGEDPG D_ _ Y x x L/I _ _ _ _ _ _ Y x x L/I_ _ _

Y219 Y225 Y229 K V P E

K V P D

FcεRI β γ γ α マウスマスト細胞 細胞膜

SHIP-1 Lyn

Β鎖とγ鎖のリン酸化

LynSykのリン酸化

LATのリン酸化

PLCγ1/2のリン酸化

Ca2+動員

SHIP-1のリン酸化

YEELNVYSPIYSEL 定型的チロシン残基による 正の制御

SHIP-1のリン酸化

ERK1/2, p38MAPK NF-κB活性化

YEELNVYSPIYSEL 非定型的チロシン残基による

負の制御 Syk

脱顆粒・脂質メディエーター産生 IL-6, IL-13,TNF-α産生

(5)

細胞ではFc

ε

RIの架橋による脱顆粒,PGD2産生,サイ トカイン産生は統計学的有意に抑制された(21).これは,

単にFc

ε

RIの細胞表面の発現が減少したためのみなら ず,細胞内シグナルに影響を及ぼし,活性化が抑制され た.Fc

ε

RIの 架 橋 後 に

β

鎖 はLynな ど のSrc kinaseに よってITAMのチロシン残基がリン酸化され,同時に チロシンリン酸化された

β

鎖ITAMにLynが会合し,

Lynが細胞膜へ移行するが,

β

鎖の発現抑制されたマス ト細胞ではLynの細胞膜への移行が阻止されているこ とがわかった(図6.したがってFc

ε

RI 

β

鎖がIgE依存 性のヒトマスト細胞の活性化を制御していることがこれ らのデータから示唆され,Lynの細胞膜への移行を阻止 することがIgE依存性のヒトマスト細胞の活性化を抑制 できるのではないかと考え,ドミナントネガテイブな効 果を期待しFc

ε

RI

β

鎖のITAMチロシン残基をリン酸化 させたペプチドに細胞膜透過性ペプチドと結合させたペ プチドを作製しその効果を検討したところ,Fc

ε

RIの架 橋による脱顆粒を有意に抑制した.

β

鎖ITAMのチロシ ン残基を3つリン酸化したペプチドおよび定型の外側2 つのチロシン残基をリン酸化したペプチドがIgE依存性

の脱顆粒を統計学的有意に抑制した.

ヒトマスト細胞細胞質に存在するFc

ε

RI 

β

鎖は Fc

ε

RIのシグナルを抑制する

ヒトマスト細胞に改良型アデノウイルスベクターを用 いてFc

ε

RI 

β

鎖の全長を遺伝子導入した(22).導入された Fc

ε

RI 

β

鎖がFc

ε

RI

α

鎖と会合できる範囲ではマスト細胞 表面のFc

ε

RI 

α

鎖の発現は上昇するが,せいぜい1.5倍 程度に過ぎなかった.発現した過剰な

β

鎖タンパクは細 胞質内に存在し,Fc

ε

RI 

α

鎖とは,会合せずLynなどの シグナル分子と会合していた.その結果IgE依存性のヒ トマスト細胞の活性化は,過剰発現させた細胞質内

β

鎖 によって抑制された(22)

おわりに

マスト細胞と好塩基球に特異的に発現しているFc

ε

RI 

β

鎖は,IgE依存性のマスト細胞および好塩基球の活性 化を精密に制御している.今後マスト細胞と好塩基球の 活性化を特異的に制御するため,細胞膜に発現している 図6ヒ ト マ ス ト 細 胞 細 胞 膜 に 存 在 す る FcεRI β鎖はFcεRIのシグナル増幅因子であ る

FcεRI β鎖の発現が抑制されたマスト細胞では FcεRIの架橋による脱顆粒,PGD2産生,サイ トカイン産生は統計学的有意に抑制された.

β鎖の発現抑制されたマスト細胞ではLynの細 胞膜への移行が阻止された.

(6)

Fc

ε

RI 

β

鎖を標的とした薬剤が,アレルギー疾患の新規 治療薬となる可能性がある.

文献

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20)  A. Matsuda, Y. Okayama, N. Ebihara, N. Yokoi, J. Hamu- ro, A. F. Walls, C. Ra, J. M. Hopkin & S. Kinoshita: 

50, 2871 (2009).

21)  Y.  Okayama,  J.  I.  Kashiwakura,  A.  Matsuda,  T.  Sasaki- Sakamoto, S. Nunomura, N. Yokoi, N. Ebihara, K. Kuroda,  K. Ohmori, H. Saito  :  , 67, 1241 (2012).

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プロフィル

岡山 吉道(Yoshimichi OKAYAMA)

<略歴>1985年産業医科大学医学部医学 科卒業.直ちに群馬大学医学部第一内科入 局その後英国サザンプトン大学医学部内科 大学院博士課程修了,サザンプトン大学研 究員,シニア研究員,群馬大学医学部第一 内科助手,米国国立衛生研究所アレルギー 感染研究所アレルギー研究室客員科学者,

理化学研究所を経て日本大学医学部分子細 胞免疫・アレルギー学分野准教授<研究 テーマと抱負>アレルギー・免疫疾患にお けるヒトマスト細胞の多様性の解明<趣 味>筋力トレーニング

布 村  聡(Satoshi NUNOMURA)

<略歴>東海大学大学院医学研究科にて免 疫学を専攻後,2001年より日本大学医学 部分子細胞免疫・アレルギー学分野研究 員・助教を経た後,2013年より現職<研 究テーマと抱負>マスト細胞における免疫 受容体を介したシグナル伝達制御機構の解 明<趣味>4カ月前から始めたウォーキン グ

羅  智 靖(Chisei RA)

<略歴>1980年千葉大学医学部卒業.そ の後NIHへの留学,順天堂大学医学部免 疫学講座助教授を経た後,2001年より日 本大学医学部分子細胞免疫・アレルギー学 分野教授,2013年より日本大学医学部微 生物学分野客員教授<研究テーマと抱負>

免疫・アレルギー疾患におけるマスト細胞 の多彩な役割の解明<趣味>写真撮影 Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

Referensi

Dokumen terkait

(竹内香純,農業生物資源研究所) プロフィル 竹内 香純(Kasumi TAKEUCHI) <略歴>2000年岡山大学大学院修士課程 修了/同年農林水産省農業生物資源研究所 研究員/2001年農業生物資源研究所研究 員/2010年同主任研究員,現在に至る. この間,2004年博士(農学,岡山大学), 2007 〜 2009年ローザンヌ大学にて在外研

(鈴木博紀,イムラ・ジャパン株式会社) プロフィール 鈴木 博紀(Hironori SUZUKI) <略歴>2005年名城大学農学部応用生物 科学科卒業/2010年名古屋大学大学院生 命農学研究科博士課程修了/同年高エネル ギー加速器研究機構物質科学研究所構造生 物学研究センター研究員/2012年Univer- sity of Canterbury