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第 45 回農芸化学「化学と生物」シンポジウム
『腸内フローラ研究が拓く新たな健康科学と産業』
平成 31 年3月 27 日(水)13:00 ~ 15:50
東京農業大学世田谷キャンパス (東京都世田谷区桜丘
1-1-1)主催:公益社団法人日本農芸化学会
共催:日本学術会議 農学委員会・食料科学委員会合同農芸化学分科会
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第 45 回農芸化学「化学と生物」シンポジウム
「腸内フローラ研究が拓く新たな健康科学と産業」
日本農芸化学会では、農芸化学分野の活動や研究内容を広く知っていただく農 芸化学「化学と生物」シンポジウムを毎年開催しております。
今年度は、年次大会の東京開催に併せて腸内細菌と健康をテーマとして開催す ることとなりました。腸内フローラの基礎、疾患や健康との関連、産業利用、
研究の国際的な状況などについての最新情報について、これらの分野で世界を リードしている研究者に講演をしていただきます。農芸化学分野でのこの領域 の研究の円滑な推進の一助とするとともに、大会参加者だけではなく、一般の 方や高校生にもご参加いただき、多くの方が腸内細菌と健康について興味を持 ち理解を深める機会になれば幸いです。
日本農芸化学会
学術活動強化委員会
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プログラム
主 催: 公益社団法人日本農芸化学会
共 催: 日本学術会議 農学委員会・食料科学委員会合同農芸化学分科会 日 時: 平成31年3月27日(水) 13:00 ~ 15:50 場 所: 東京農業大学世田谷キャンパス(東京都世田谷区桜丘 1-1-1)
プログラム:
13:00~13:05 開会の挨拶
佐藤 隆一郎(日本農芸化学会 会長)
13:05~13:10 日本学術会議 挨拶
清水 誠(東京農業大学応用生物科学部/日本学術会議農芸
化学分科会)
13:10~13:40 講演「メタゲノミクスから読み解くヒトマイクロバイオーム の実態と機能」
服部 正平(早稲田大学理工学術院/理化学研究所)
座長:加藤 久典
(東京大学大学院農学生命科学研究科/
日本学術会議農芸化学分科会)
13:40~14:10 講演「腸内フローラと宿主の疾患との関係」
大野 博司(理化学研究所)
座長:加藤 久典
(東京大学大学院農学生命科学研究科/
日本学術会議農芸化学分科会)
14:10~14:40 講演「腸内細菌の宿主への影響」
本田 賢也(慶應義塾大学医学部)
座長:中山 二郎(九州大学大学院農学研究院)
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14:40~15:10 講演「乳酸菌の働き:農芸化学からのアプローチ」
辻 典子(産業技術総合研究所)
座長:中山 二郎(九州大学大学院農学研究院)
15:10~15:30 講演「腸内フローラ研究の産業展開に向けた協調的連携
~日本マイクロバイオームコンソーシアムの紹介~」
寺内 淳(日本マイクロバイオームコンソーシアム/小野薬
品工業株式会社)
座長:清水(肖)金忠(森永乳業株式会社)
15:30~15:45 総括
清水(肖)金忠(森永乳業株式会社)
15:45~15:50 閉会の挨拶
吉田 稔(日本農芸化学会 副会長)
第 45 回農芸化学「化学と生物」シンポジウム世話人
加藤久典 (東京大学大学院農学生命科学研究科)(代表)
片山高嶺 (京都大学大学院生命科学研究科)
清水(肖)金忠 (森永乳業株式会社基礎研究所)
中山二郎 (九州大学大学院農学研究院)
山本(前田)万里 (農研機構 食農ビジネス推進センター)
吉田 稔 (理化学研究所 環境資源科学研究センター)
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講演要旨・演者プロフィール
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メタゲノミクスから読み解くヒトマイクロバイオームの実態と機能
服部 正平
(早稲田大学理工学術院先進理工学研究科)
近年における次世代 DNA シークエンシング技術(NGS)の進歩により、腸内、口腔、
皮膚などに生息するヒト常在微生物叢の生態や機能の網羅的な解析が可能となった。こ の NGS 技術を用いて 2010 年以降、これまでダークマターであった数百兆個の細菌か らなる腸内微生物叢の遺伝子・ゲノム(マイクロバイオーム)情報が世界的に収集され
(メタゲノム解析)、その全体像の解明にくわえてこれまでの想像を超えて腸内微生物 叢が消化器系、代謝系、神経系等の全身的な疾患と密接な関係にあることが明らかとな って来た。さらに、その生態的・機能的な多様性は個人間のみならず、国・地域間でも 観察されることや、その多様性に食事、投薬、年齢、ジェンダー、宿主の遺伝的背景や 日内変動等の様々な内的・外的要因が影響することも分かってきた。一方で、無菌マウ ス・ノトバイオートマウスを用いた研究から、ヒトの健康と病気には食・生活環境—腸 内細菌—宿主間の複雑かつ密接な関係の存在が示唆され、細菌と宿主細胞間の相互作用 がヒトの生理状態の決定に重要な役割をもつことが今日認識されてきている。すなわち、
「ヒトはヒトゲノムとマイクロバイオームから成り立つ(ヒト=超生命体)」という新 たな概念が確立されつつある。本講演では、メタゲノム NGS データを元にヒト腸内微 生物叢の生態と機能について技術論を含めて解説する。
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プロフィール
服部 正平(はっとり まさひら)
略 歴
1979 大阪市立大学大学院工学研究科 博士課程修了(工学博士)
1979 東亜合成株式会社 研究員
1984 九州大学遺伝情報実験施設 助手
1987 米国スクリプス研究所およびカルフォニア大学サンディエゴ校 研究員
1990 九州大学遺伝情報実験施設 助手
1991 東京大学医科学研究所ヒトゲノムセンター 助教授
1999 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター チームリーダー
2002 北里大学北里生命科学研究所 教授
2006 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授
2015- 早稲田大学理工学術院先進理工学研究科 教授(本務)
2015- 慶應義塾大学医学部 特別招聘教授(兼任)
2017- 理化学研究所生命医科学研究センター チームリーダー(兼任)
日本学術会議連携会員
日本学術振興会ゲノムテクノロジー第164委員会運営委員 日本学術振興会産学協力研究委員会委員
専門誌DNA Research編集委員
France-Génomiqueアドバイザリーボード
国際ヒトマイクロバイオームコンソーシアム運営委員等
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腸内フローラと宿主の疾患との関係
大野 博司
(国立研究開発法人理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究 チーム・神奈川県立産業技術総合研究所腸内細菌叢プロジェクト)
ヒトを含む動物の腸内には、腸内フローラと称される膨大な数の細菌群が棲息してい る。特にヒトの大腸では総数約 40 兆個と、23~30 兆個と試算されるヒト個体を形成す る体細胞数を超えるとされる。この腸内に共生する膨大な数の腸内細菌叢は、宿主との 相互作用によりその健康や疾患と密接に関わっていることが、メタゲノム解析や無菌マ ウスなどの技術を用いて近年あきらかになりつつある。
腸内フローラの大腸癌や炎症性腸疾患などの腸疾患への関与は想像に難くないが、近 年の研究から、アレルギーや自己免疫疾患、臓器移植や移植片対宿主病(GVHD)などの 免疫関連疾患、病低肥満や糖尿病、動脈硬化症などの生活習慣病、さらには多発性硬化 症や自閉症スペクトラム、パーキンソン病などの神経疾患など種々の疾患で、腸内細菌 叢のバランスの異常、すなわち dysbiosis が認められることが明らかとなってきた。さ らに、dysbiosis は疾患の結果ではなく、むしろ発症や増悪の原因となり、逆に dysbiosis を是正してバランスを正常(symbiosis)に戻してやることで疾患の治療や予防に繋が ることも明らかとなりつつある。
メタゲノム解析は腸内フローラ遺伝子のカタログ作りであり、それだけでは腸内フロ ーラの機能の解明には十分ではない。演者らは、メタゲノム解析に加え、網羅的遺伝子 発現定量解析(トランスクリプトーム)、網羅的代謝物定量解析(メタボローム)など、
異なる階層の網羅的解析を組み合わせた統合オミクス手法を提唱し、本手法が宿主-腸
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内細菌叢相互作用の分子メカニズムを理解する上で有用な手法であることを示してき た。
本発表では、統合オミクス手法による 2 型糖尿病のバイオマーカー探索への演者らの 細菌の取り組みを含め、腸内フローラと疾患との関わりについてディスカッションした い。
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プロフィール
大野 博司(おおの ひろし)
1983年千葉大学医学部卒業、医師免許取得。1991年千葉大学大学院医学研究科修了、
医学博士。1991年千葉大学医学部助手、1994年米国NIH留学、1997年千葉大学医学 部助教授を経て、1999年金沢大学がん研究所教授。2004年理化学研究所チームリーダ ー、2018年より現職。2017年より神奈川県立産業技術総合研究所腸内細菌叢プロジェ クトプロジェクトリーダー兼務。
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MEMO
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腸内細菌の宿主への影響
本田 賢也
(慶應義塾大学医学部 微生物学・免疫学教室)
ほ乳類の腸管には数百の腸内細菌(マイクロバイオータ)が存在し、宿主の生理機能 に深く影響を及ぼしている。従ってマイクロバイオータを人為的に改善することが出来 れば、複数の疾患に対する新たな治療戦略となり得る。我々は、消化管の恒常性維持機 構を理解すると共に、個々の腸内細菌種が免疫システムにどのように影響を与えている かを還元化して把握して行く独自の研究手法を樹立してきた。この方法によってこれま でに、制御性T細胞、Th17細胞、Th1細胞、CD8 T細胞を特異的に誘導する腸内細菌 種の同定に成功した1-5。
本研究では、健康人の便から、IFNg陽性(+)のCD8 T細胞を誘導する11菌株を 単離することに成功した。IFNg+CD8 T細胞は、マウス腸管に多く恒常的に存在してい るが、無菌マウスではその数が著減していることから、腸内細菌がその数を増やしてい ると考えられた。そこで、健常人6名の便をそれぞれ無菌マウスに投与したところ、そ れぞれの便で IFNg+CD8 T 細胞誘導能が異なることがわかった。そこで最も強力に
IFNg+CD8 T細胞誘導が見られたマウスを選択し、その腸内容物を別の無菌マウスに投
与し、異なる抗生物質を投与した。その結果、アンピシリンを投与した際に誘導が増強 されることがわかった。再び最も強力にIFNg+CD8 T細胞誘導が見られたマウスを選択 し、腸内容物を培養し、26菌株を単離した。そこからIFNg+CD8 T細胞誘導能を損な わずに11菌株にまで絞り込むことが出来た。
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IFNg+CD8 T細胞は、以前より、細胞内に感染する微生物の感染防御に非常に重要な
働きをしていることが報告されている。さらに、IFNg+CD8 T細胞は、がん免疫におい て、エフェクター細胞として働くことが知られている。そこで我々は、免疫チェックポ イント阻害薬と同定した11菌株の併用効果を検証した。マウスMC38がん移植モデル を用いた実験では、11 菌株投与の抗腫瘍効果は抗 PD-1 抗体に匹敵するものであり、
かつ抗PD-1抗体と11菌株を併用投与すると抗腫瘍効果が増強することがわかった。
こうした11菌株と免疫チェックポイント阻害薬の併用効果は、抗CTL-4抗体との併用 や、メラノーマのマウスモデルにおいても確認できた。今後、この11菌株を臨床応用 したいと考えている。
1 Ivanov, II et al. Induction of intestinal Th17 cells by segmented filamentous bacteria. Cell 139, 485-498, (2009).
2 Atarashi, K. et al. Induction of colonic regulatory T cells by indigenous Clostridium species. Science 331, 337-341, (2011).
3 Atarashi, K. et al. Treg induction by a rationally selected mixture of Clostridia strains from the human microbiota. Nature 500, 232-236, (2013).
4 Atarashi, K. et al. Th17 Cell Induction by Adhesion of Microbes to Intestinal Epithelial Cells. Cell 163, 367-380, (2015).
5 Atarashi, K. et al. Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation. Science 358, 359-365, (2017).
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プロフィール
本田 賢也(ほんだ けんや)
1994 神戸大学医学部卒業
2001 京都大学大学院医学系研究科 博士課程修了
2001-2007 東京大学医学系研究科免疫学講座 助手・助教
2007-2009 大阪大学医学系研究科免疫制御学 准教授
2009-2013 東京大学医学系研究科免疫学講座 准教授
2013-現在 理化学研究所統合生命医科学研究センター・チームリーダー(兼任)
2014−現在 慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室教授
受賞歴)
2015年 日本免疫学会賞 2016年 井上学術賞 2016年 持田記念学術賞 2016年 ベルツ賞 2018年北里賞
その他)
2010- present Vedanta Bioscience, Scientific cofounder
2015-present Science Translational Medicine, Scientific Advisory Board Member
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MEMO
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乳酸菌の働き:農芸化学からのアプローチ 辻 典子
(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門)
「腸内に常在している乳酸菌」や「食物に含まれるプロバイオティクス乳酸菌」は人々 の健康維持・増進に効果があることが知られており、その安全性の高さ、さらには発酵 食品への応用の観点から関心が寄せられている。特に免疫増強効果については、アレル ギーなどさまざまな免疫疾患への予防効果が期待されており、サプリメント・医薬品業 界からも非常に注目されるとともに、科学的エビデンスの蓄積が求められている。私た ちはこれまでに醤油や糠床由来乳酸菌が、生体防御に重要なインターフェロン-βやイ ムノグロブリン A(IgA)を産生促進することを見出し、なかでも核酸(二本鎖 RNA)
が他の細菌にはみられない乳酸菌の特徴的な有効成分として生体防御や抗炎症を担う 免疫システムにはたらきかけ、効率よく炎症制御と細胞性免疫の活性化に寄与する分子 メカニズムを明らかにしてきた。
乳酸菌は小腸に常在する主要な腸内細菌であるという大きな特徴をもつ。食品由来の 乳酸菌と小腸に常在する乳酸菌は共通の性質を有しているため、乳酸菌に特有の免疫賦 活機構は、外界ストレスや栄養との最大の接点である腸管において共生メカニズムのう えでも重要なはたらきを担っていることが示唆される。今後さらに多くの伝統発酵食品 中乳酸菌について健康増進メカニズムが示されることで、発酵食品の美味しさの中に生 理的な免疫賦活機構という価値が秘められており、長い年月をかけて選抜され継承され てきた意義の一つであることが明らかとなっていくであろう。
また、今後保健等の先制医療の位置付けがますます重要視される社会背景の中では、
「食」と「医」の融合をめざした研究領域の確立や保健機能食品の高度化の必要が高ま
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っている。伝統的に受け継がれてきた発酵食品由来乳酸菌と小腸常在乳酸菌の特徴を明 らかにしていくことは、日本人の健康を支えてきた食文化の意義と価値を高めるばかり でなく臨床免疫への架け橋となる技術開発の促進にもつながると期待される。
参考文献:
The molecular mechanism for activating IgA production by Pediococcus acidilactici K15 and the clinical impact in a randomized trial.
Kawashima T, Ikari N, Kouchi T, Kowatari Y, Kubota Y, Shimojo N, Tsuji NM.
Sci Rep. 8(1):5065. (2018) doi: 10.1038/s41598-018-23404-4.
Double-Stranded RNA Derived from Lactic Acid Bacteria Augments Th1 Immunity via Interferon-β from Human Dendritic Cells.
Kawashima T, Ikari N, Watanabe Y, Kubota Y, Yoshio S, Kanto T, Motohashi S, Shimojo N, Tsuji NM.
Front Immunol. 9:27. (2018) doi: 10.3389/fimmu.2018.00027. eCollection 2018.
Double-Stranded RNA of Intestinal Commensal but Not Pathogenic Bacteria Triggers Production of Protective Interferon-β
Kawashima T, Kosaka A, Yan H, Guo Z, Uchiyama R, Fukui R, Kaneko D, Kumagai Y, You D-J, Carreras J, Uematsu S, Jang MH, Takeuchi O, Kaisho T, Akira S, Miyake K, Tsutsui H, Saito T, Nishimura I, *Tsuji NM.
Immunity. 38: 1187-97 (2013).
辻 典子 腸内細菌叢を標的にした医薬品・保健機能食品の開発ノウハウ集 (技術 情報協会 2018年 9月) 第3章 疾患を改善させる作用を持つ腸内細菌とそのメカニ ズム 第3節 潰瘍性大腸炎を効果的に予防する腸内細菌
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プロフィール
辻 典子(つじ のりこ)
略歴
1985年3月 東京大学農学部農芸化学科卒業
1987年3月 東京大学農学系研究科大学院修士課程修了
1987年4月 農林水産省畜産試験場・研究員
1995年3月 農学博士(東京大学•論文)
1995年1月 エール大学免疫生物学(Dr. Richard Flavell)・博士研究員
1997年7月 農林水産省家畜衛生試験場・主任研究員
2001年3月 (独)農業生物資源研究所・主任研究員
2005年4月 (独)産業技術総合研究所・年齢軸生命工学研究センター•
免疫恒常性チームリーダー
2010年4月 (独)産業技術総合研究所・バイオメディカル研究部門•主任研究員
2015年4月 国立研究開発法人 産業技術総合研究所・バイオメディカル研究部門•
免疫恒常性研究特別チーム長・上級主任研究員 現在に至る
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MEMO
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腸内フローラ研究の産業展開に向けた協調的連携 ~ 日本マイクロバイオームコンソーシアムの紹介~
寺内 淳
(日本マイクロバイオームコンソーシアム/小野薬品工業株式会社)
ヒトマイクロバイオームと健康や疾病との相関が複数報告され多くの注目を浴びて いる中、欧米ではヒトマイクロバイオーム領域で様々な大規模コホート研究が実施され ている。しかしながら、従来から課題である異なるプロトコルあるいは施設間のデータ の相異が依然として散見されているのが現状である。また、ヒトマイクロバイオームに 関しては、地域差あるいは民族差が顕著であり、欧米のデータのみでは日本人の健康に 資する医薬品等の産業応用には不十分である。そこでヒトマイクロバイオームの産業応 用の加速に向けて、2017 年 4 月に産業界のみで構成する一般社団法人日本マイクロバ イオームコンソーシアム(JMBC)を立ち上げ、製薬、食品、化粧品や検査企業など現 在では 30 社以上が参画している。JMBC は産業応用の基盤構築を主目的に協調領域で 活動しており、産業界として標準とすることを想定した推奨プロトコルの策定とそれを 活用した大規模な国内の健常人データベースの構築を共通の目標として掲げている。推 奨プロトコルでは、産業利用に必須であるデータの信頼性・再現性を担保することが重 要であり、測定のバリデーションに用いる標準品の開発も求められる。これら目的を達 成するため,様々な標準化実績やノウハウを有する産業総合技術研究所(産総研)と連携 する覚書を 2018 年 6 月に締結した。さらに産総研とともに NEDO 先導研究プロジェク トに採択され、「ヒトマイクロバイオーム関連計測の標準基盤整備」事業を共同で進め ている。標準品に関しては,微生物に関する専門性の高い製品評価技術基盤機構および 理化学研究所も参画し開発を進めている。2018 同年 11 月には、戦略的イノベーション
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創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」の「食を通じた健康シス テムの確立による健康寿命の延伸への貢献」の研究実施体制にも採択され,「腸内マイ クロバイオームデータの整備」事業に携わっている。これらの事業を通じて、推奨プロ トコルをバリデーションするとともに,ヒトマイクロバイオームデータを含む健常人を 対象としたコホート研究のデータベースを構築する。これらの活動によって構築される データベースを起点とし,ヒトマイクロバイオーム研究をさらに拡大させ産業応用促進 を目指している。
本講演では JMBC の設立の目的や目指すゴールを示すとともに、JMBC の構成や NEDO 先導研究プロジェクト・SIP の活動を含めた活動状況・研究開発計画について紹 介する。また、国内での活動に加え,米国・欧州・アジアにおける関係機関との国際連 携について紹介する。さらに JMBC が掲げる目的実現に向けたロードマップとともに 克服すべき課題点を示しながら、基盤構築に向けた国内の産学官の連携の重要性につい ても言及する。
JMBC ホームページ:http://www.jmbc.life/
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プロフィール
寺内 淳(てらうち じゅん)
京都大学工学研究科合成化学専攻博士課程を修了後、1991年に武田薬品工業に入社。
2000年より1年間は米国ピッツバーグ大学博士研究員として留学。2014年より小野薬 品工業研究本部に勤務。JMBCの準備段階から設立までに関与し、現在運営委員長を 務めている。専門は、マイクロバイオーム、創薬研究戦略、プロジェクト・ポートフォ リオマネジメント、メディシナルケミストリー、有機合成化学、中枢神経系創薬研究。