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フレーバー開発のための基礎研究とその飲料への応用 - J-Stage

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8 化学と生物 Vol. 55, No. 1, 2017

フレーバー開発のための基礎研究とその飲料への応用

のどごしからの香りを解き明かす

飲料用の香料を開発する際,飲む前後において思い描 いていた香りの印象を与えられない場合もある.飲料を 飲もうとするとき,香りの感じ方が飲む過程において異 なり,これが飲料の商品価値にも影響する.飲む直前で は飲料から揮散した香り成分が,直接鼻に吸い込まれ鼻 腔に到達し香りを感じる.その後,飲料が口に入った時 点で飲料中の香り成分は,その素材だけでなく唾液や粘 膜,体温などの外部因子の影響を受けながら揮散し,鼻 腔へと到達して香りを感じる.したがって,飲んでいる 間に口中から鼻腔に達する香り成分の構成は飲む前のも のから大きく変わり,結果として飲料を飲む過程で香り の感じ方にも違いを生じる.飲料を飲んでいる間に感じ る香りは,飲む前と同様に飲料の美味しさを高める重要 なポイントになる.飲む過程の香りを考慮して香料開発 する場合,フレーバーリストが実際に飲んで官能評価し 整えているが,それだけで香料の調整を繰り返すには経 験,知識だけではなく多大な労力も費やす.そこで,飲 んでいる間に口中から鼻腔に達する香り成分を機器分析 して得られた情報と官能評価の両方で評価できれば,飲 む過程における香り成分の揮散挙動の解明や飲んだとき にも美味しいと感じる香料開発につながる.

飲食している間に口中から鼻腔に達する香り成分を機 器に直接導入し分析する手法として,大気圧化学イオン 化-質量分析計(APCI-MS)(1, 2)やプロトン移動反応-質量

分析計(PTR-MS)(3, 4)などが知られている.これら分析 装置は成分を連続的に検出できるが,成分を分離するカ ラムがないため,香りに含まれる多種多様な成分を詳細 に解析するには高度な技量を要する.これに対し,鼻息 に含まれる成分を吸着剤にトラップさせた後,加熱脱着 装 置 に よ っ て ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ-質 量 分 析 計

(GC-MS)(5〜7)に導入し,成分をカラムで分離し分析する 手法もある.これだと多成分系の分析には適している が,成分は分析機器に直接導入されず,さらに吸着剤の 各成分への吸着選択性の影響も受けやすい.飲食してい る間に口中から鼻腔に達する香りの詳細な分析には,成 分を機器に直接導入しカラムで分離し検出できる手法が 適している.

当研究室では飲む過程で感じる香り成分を可能な限り 精確に解析するため,飲み始めから飲み終わりまでの口 中から鼻腔に達する香りを「香りを感じる3ステッ

プ」(8, 9)により分析し,飲食時の美味しさに影響する成分

の明確な情報を得ている.「香りを感じる3ステップ」

とは,「ひと口目の香り」,飲んでいる間に感じる「のど ごしからの香り」(10, 11),飲んだ後に感じる「香りの余 韻」の3分析からなり,各分析において成分はGC-MS に直接導入され,その組成や揮散挙動を追究できる(図 1

「ひと口目の香り」分析は,飲み始めた瞬間に口中か

図1香りを感じる3ステップの概念図

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ら鼻腔に達する香り成分に着目し,ひと口だけ飲んだと きに出す鼻息に含まれる成分を独自開発した「ARISE  Interface」に取り込み包括的2次元ガスクロマトグラ フ-質量分析計(GC×GC-MS)へ直接導入する.その成 分は3次元クロマトグラムとして視覚化され,より具体 的にひと口目に感じる香りの第一印象を評価できる.2 ステップ目の「のどごしからの香り」分析は,飲んでい る間に口中から鼻腔に達する香り成分の組成を忠実に研 究する目的で,その成分を独自開発した「のどごしから の香り分析装置」により濃縮しGC-MSに直接導入する.

飲んでいる間に出す鼻息に含まれる成分は,積算したク ロマトグラムとして表される.これと飲料から揮散する 香り成分および飲料中に含まれる香り成分の比較によ り,各成分が鼻腔に到達しやすいか否かわかり,飲む前 と飲んでいる間の香りの感じ方の違いを調整するための 情報の一つとなる.3ステップ目の「香りの余韻」分析 は,飲み終わった後に口中に残る香り成分の揮散挙動を 追跡するため,人工唾液に飲料を添加した口中のモデル 装置から揮散する成分を追尾方式3次元ガスクロマトグ ラフに直接導入する.得られるクロマトグラムは,図2 に示したX軸が香り成分の揮散パターン,Y軸が経時時 間のクロマトグラム,Z軸が揮散量として表せ,香り成 分の揮散パターンが視覚化される.さらに,この分析か ら飲み終わった直後に口中から揮散しやすい成分までも 知ることができる.各成分固有の揮散パターンの違い が,飲み込んだ後の風味のコクやキレに影響していると 考えられ,これが飲んだ後にも風味豊かな香料開発の基 礎的な情報になる.

「香りを感じる3ステップ」から得られた研究成果は,

飲む過程で感じる香りの有益な知見となり,飲む前後で 思い描いていた香りの印象を与えられる香料の開発の貴 重な情報になる.次に,この3ステップにより香料開発 した1例を紹介する.

当社では「香りを感じる3ステップ」により,果物を 咀嚼したときの食感を香りから想起させる香料の開発に も取り組んでいる.たとえば,ぶどう(巨峰)の果肉を 口に入れて噛むと,フレッシュでフルーティーな香りを 感じ,同時にプルプルとした果肉の食感やジューシーな 果汁感が口中に広がる.飲料を飲んだときにこのような 感覚が香りで想起できれば,香料の付加価値が上がる.

はじめに,フレーバーリストが巨峰果肉の香り成分を詳 細に分析して得られた情報に基づいて試作香料を調香す る.次に,果肉をひと噛みしたときの口中から鼻腔に達 する香り成分を「ひと口目の香り」分析し,噛み砕いた 瞬間の特徴的な香り成分の組成を試作香料と比較する.

「のどごしからの香り」分析で果肉を食べている間に口 中から鼻腔に達する香り成分の組成を知る.これと果肉 中に含まれる香り成分および果肉から揮散する香り成分 の組成を比較し試作香料を調整する.さらに,果肉を食 べた後に口中に残った香り成分の揮散パターンを「香り の余韻」分析し,試作香料中に含まれる成分と比較す る.これら分析で得られた情報を考慮して再調整された 香料を添加した飲料で再び「香りを感じる3ステップ」

分析し,ひと口飲んだときから飲み込み終わるまでの香 り成分の組成や揮散挙動を可能な限り果肉を食べたとき のデータに近づける.再調整された香料を添加した飲料 と果肉を官能評価すると,果肉を食べたときに評価の高 かった果汁感,果肉感は飲料においても高く,この香料 は巨峰果肉を食べたときの食感を想起させる効果がある と考えられた.

「ひと口目からの香り」,「のどごしからの香り」分析 は,実際に人の鼻息に含まれる成分を分析機器に直接導 入している.「香りの余韻」は口中のモデル装置から揮 散する成分を分析しているが,人の鼻息で直接分析でき るように改良を試みている.当研究室では,人が飲食し た過程で感じる香りを可能な限り忠実に再現できる分析 手法にこだわっている.これが香りから食感や果汁感を 想起させる香料開発につながり,今後も飲料の美味しさ に少しでも貢献できれば幸いと思う.

  1)  E.  N.  Friel,  M.  Wang,  A.  J.  Taylor  &  E.  A.  Macrae: 

55, 6664 (2007).

図2「香りの余韻」分析で得られる各成分の揮散パターン

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10 化学と生物 Vol. 55, No. 1, 2017   2)  S. Rabe, R. S. T. Linforth, U. Krings, A. J. Taylor & R. G. 

Berger:  , 29, 163 (2004).

  3)  D. Mayr, T. Märk, W. Lindinger, H. Brevard & C. Yeret- zian:  , 223‒224, 743 (2003).

  4)  F.  Biasioli,  C.  Yeretzian,  F.  Gasperi  &  T.  D.  Märk: 

30, 968 (2011).

  5)  A. Buettner:  , 52, 2339 (2004).

  6)  A.  Buettner  &  F.  Welle:  , 19,  505  (2004).

  7)  T. Itobe, K. Kumazawa & O. Nishimura: 

52, 2339 (2004).

  8)  笠松久美,古城和寿,出口正揮,大西由史:ビバリッジ ジャパン,396, 26 (2015).

  9)  野中 淳:月刊フードケミカル,359, 38 (2015).

10)  馬野克己,中原一晃,穐岡 崇,笠松久美:ビバリッジ ジャパン,336, 64 (2010).

11)  小川 藍,古川瑞樹,馬野克己:月刊フードケミカル,

302, 37 (2010).

(堀内政宏,馬野克己,高田香料株式会社技術開発基礎 研究課)

プロフィール

堀内 政宏(Masahiro HORIUCHI)

<略歴>1995年日本大学生産工学部工業 化学科(現応用分子化学科)卒業/1996 年同大学海外派遣奨学生制度でカリフォル ニア大学デービス校環境毒性学部に留学/

1998年日本大学大学院博士前期課程修 了/同年高田香料株式会社技術部基礎研究 課(現技術開発部基礎研究課)入社<研究 テーマと抱負>食品の香気成分分析と飲食 時におけるリアルタイムな香気分析<趣 味>釣り,スキー<高田香料株式会社ホー ムページ>http://www.takatakoryo.co.jp/

馬野 克己(Katsumi UMANO)

<略歴>1981年大阪府立大学工学研究科 博士課程修了/1981〜1983年,1985〜1987 年University of California, Davis博士研究 員<研究テーマと抱負>GC×GCと独自制 作機器のコンビネーションによる精密香気 分析への活用<趣味>コンピュータグラ フィック,旅行

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.8

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Ⅲ ■出題のねらい 前半はNOとNO の性質や生成反応に関する問題,後半はNO とN O の平衡に関するい ずれも基礎的な問題です。本学の入試にもたびたび登場しています。 ■採点講評 全体的にはよくできていましたので,受験者のみなさんがよく勉強していることが分かりま した。 つの化学反応を記述する問題のうち,NOの生成反応の方はほとんどの答案が正答で