本書は須藤みかが上海に渡った各年齢や職業の
日本人へのインタビューを収録した単行本﹃上海
で働く﹄と月刊﹃中国語ジャーナル﹄の連載インタ
ビュー﹁中国語ワールドのひとびと﹂をまとめたも
のである︒著者は24人の日本人を対象とし︑彼
らがどのようなの動機で上海に渡ったのか︑また︑
そこでの生活や職場での経験はいかがなもので
あったのかを自己叙述の方式で取り上げている︒
さらに︑﹁三年﹂という時間を経て彼らの生活︑仕
事および考えがどのように変化したのかを述べて
いるので︑わたしたち読者は当時上海へ飛び込ん
だ上海ジャパニーズたちの生活実態を読み取るこ
とができる︒
本書は全部で5章から構成されている︒以下︑
各章の内容を紹介してみたい︒
﹁第1章 上海で社会人デビュー﹂と﹁第2章 ﹁マ
イ・リング﹂でリベンジ&チャレンジ﹂では︑企
業から派遣された駐在員や現地採用者などが上海
で自分の目標に向かって努力している人々の姿が
﹇ 書 評 ﹈ ﹁ 魔 都 上 海 ﹂と ﹁ 和 橋 ﹂ ﹃ 上 海 ジ ャ パ ニ ー ズ ﹄ ︵ 講 談 社 ︑ 2 0 0 7 年 9 月
20 日 ︶
記録されている︒﹁第3章 上海で社長になりま
した!﹂では︑上海初のシュークリーム店を作っ
た人やPR会社﹁上海世知文化伝播有限公司﹂を
設立した人などの店や会社を経営する起業家た
ちの成功に到った道を語っている︒﹁第4章 上
海で第2人生を﹂では︑上海を自分に対して新た
な人生を送った場所と見た日本人たちの話になっ
ている︒彼らに対して︑上海は第二の故郷とも言
えるのだろう︒﹁第5章 再び日本へ︱〝夢〟から
現実へ舞い戻る﹂では︑上海生活に区切りをつけ
最後に日本に戻った人々の経験を辿ったものであ
る︒
要するに︑本書の主要な内容は上海ジャパニー
ズたちが上海において︑異文化衝突に直面したと
きに︑いかに解決していき︑その社会に溶け込ん
だなどの事例となった︒著者がこの本を書いた意
図というのは︑読者たちが自分の人生を考えると
きに参考になり︑この24人の経験から外へ一歩
を踏み出す勇気をもらえることである︒ では︑本書のいいところを挙げると︑次のよう
になる︒
第1に︑本書はインタビューの形式であるため︑
24人の話によると︑当時日本人の目から見た上
海︑上海人の様子および日中間の違いが読み取
れる︒中国人と日本人の考え方の面からというと︑
﹁日本人はとても気になることでも︑中国人には
﹁なんで︑こんなことを気にするの?﹂としかおも
えないことがあるし︑ものが壊れたかどうかの基
準も日本人と中国人とでは違う︒﹂と述べている︒
日本人と中国人の物事のやり方という面では︑﹁中
国人は日本人に比べると︑アバウトな部分が多い
と思います︒今日という約束だったのに︑明日や
明後日になるとか︒﹂や﹁謙譲や遠慮深さは日本人
の美徳として素晴らしいことだし︑忘れてはいけ
ないと思いますけど︑中国社会では全く役に立た
ない︒遠慮なんでマイナス要素で︑友人関係にお
いては罪悪にもなる︒﹂という話が出た︒このよう
な比較は本書の中に頻繁に挙げられている︒日本 外国語学研究科中国言語文化専攻博士前期
蒋 貝 琦
● 書評
第3に︑本書のタイトルは﹃上海ジャパニーズ﹄
であり︑いわゆる︑それらの和僑たちが上海との
関わりは緊密と言える︒しかし︑本書はただ24
人のインタビュー内容をそのまま記録しただけで
あり︑上海との関係︑この都市しかない背景要因
や2000年代初期の和僑とはどのような特徴や
影響があるのかなどは明らかにされなかった︒
2000年代から中国はWTOに加盟すること
により︑貿易の自由化や経済のグローバル化が進
んでいた︒特に米国サブプライムローン問題によ
る世界同時不況の時期においても︑中国は依然と
して高成長を続けていた︒外資企業が急速に中国
に進出し︑国内市場も好調である2000年代の
中国︑とりわけ発達している都市である上海にお
いて︑和僑という問題は討議する価値があると考
えられる︒この時期の和僑の動きなどは上海の日
本人研究においても大きな意義があると思ってい
る︒ と中国の異文化の摩擦はこの24人の実際の経験
に反映されている︒
第2に︑インタビューの方法という点である︒
通常の取材というと︑何年間を空けて前後を比較
するのが多くないと思う︒本書では︑3年や1年
などをへて︑再び取材をするという形をとってい
たため︑上海にいる日本人を段階的に考察するこ
とができた︒
第3に︑章と章の間に﹁コラム﹂という欄が設
置されていることである︒﹁コラム・お金の話﹂と
﹁コラム・甘い罠﹂の二つのテーマがある︒ここで︑
上海へ飛び出した日本人という話題に関するい
くつの問題が提起されている︒﹁コラム・甘い罠﹂
を例にすると︑﹁上海には活気が溢れ︑チャンス
もある︒ここで短期間で成果をえることもできる︒
問題は︑その後だ︒上海はともするとぬるま湯に
侵かってしまう場所だ︒﹂と語った︒上海において︑
自分のやりたかったビジネスや職業にチャレンジ
し︑一定な成果を得てから︑そのまま満足し︑自
身の成長を追求しなくなる人は少なくないとい
う︒また︑実際のところ︑多くの日本人は駐在員︑
現地採用者︑そして起業者も上海日本人社会︑日
系企業という狭い枠組みの中で多かれ少なかれ
人づきあいをして暮らしていると著者は指摘して
いる︒このように著者が裏にある様々な問題に着 目したのは価値があることろだと思う︒
以上のように︑いくつのいいところを挙げた︒
しかし︑本書はインタビューの内容をそのまま記
録したため︑いくつの不足な点もある︒以下では︑
それらについて論ずる︒
まず︑本書に取材された24人の経験から見
ると︑似たような話であり︑大きな違いが見え
ない︒上海で暮らす日本人は外務省海外在留邦
人数調査によると︑2006年
10月1日時点で約 4万4000人であり︑中・長期出張者も加え
上海に滞在する日本人は
10万人を超えるという背
景において︑より異なる経験を持つ人を探せば
より上海ジャンパニーズたちの全体的な実態を捕
まえるのではないかと思っている︒しかも︑この
24人がほぼ各職場で順調に進んでいる印象は強
かったので︑他の苦境に立つなど各失敗した人々
の状況を伝えるのも必要があるのではないのだろ
う︒もちろんインタビューのため︑どうしてもプ
ラスの面が前面に出てくるといえとも︑似たよう
な話が重なると︑上海ジャンパニーズ全体的に把
握できるとは言い難い︒
第2に︑﹁日本を飛び出した和僑
2 4人﹂という副
タイトルを注目したので︑この和僑
2 4人を選んだ
理由を本書に触れなかった︒これらの
2 4人は何ら
かの代表性があるかどうかに疑問を持っている︒
[書評] 「魔都上海」と「和橋」 『上海ジャパニーズ』