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世界の希少酒について - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 12, 2012

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世界の希少酒について

寺本祐司

崇城大学生物生命学部応用微生物工学科

穀芽酒,吸酒管酒やハチミツ酒は,現在,日本ではあまり ポピュラーでない世界の希少酒である.筆者は希少酒に興味 をもち,調査と研究を行っている.まず,日本や中国の書物 に記載のある稲芽酒の再現を行った.実験室で稲芽を造り,

これを糖化剤として用い,稲芽酒を造ることができた.次 に,インド東北部ナガランドでの調査により,現地でズトー 

(zutho) と呼ばれるライスビール,すなわち稲芽酒が現存す ることを初めて確認した.また,エジプトで伝統的手法を用 いて造られる小麦ビール,ブーザ (boza) の調査と分析を 行った.タンザニアのダルエスサラームでは,雑穀を用いて 造るムベゲ (mbege) とコモン (common) という2種の穀芽 酒を調査した.メソポタミアやエジプトの遺跡に残る古代の レリーフやシリンダー型の印には,吸酒管を用いて飲酒して いる様子が描かれている.ウガンダのカンパラでは,現在で も,この吸酒管を用いて飲む酒がある.現地では,吸酒管で 飲むこの酒をアジョン (ajon) と呼んでいた.タイ国では竹 の吸酒管で飲む壺酒,ウ (ou) が今でも造られている.日本 ではハチミツ酒はあまり飲まれないが,世界の多くの地域で は飲まれている.タッジ (tej) は,エチオピアの伝統的ハチ ミツ酒である.ターメリックなどで風味づけされる.オゴル 

(ogol) は,エチオピア南西部地域の森林に住む焼畑民の造 るハチミツ酒である.オゴルの風味づけには現地に自生して いる木の樹皮が使用される.

穀芽酒

中国や日本の書物には,稲芽または穀芽を使ったと思われ る酒の記載があり,さまざまな観点から稲芽酒に関する考察 が行われている(1)

中国の「書経」には「酒醴を作らば,爾惟れ麹糵」の記載 がある(2).しかし,一般に,稲芽の糖化力は,麦芽の糖化力 より弱いので,稲芽は酒造りには適さないとされてきた.

そこで,実験室において以下の手順で稲芽酒の再現に挑戦 した.稲籾を洗浄,吸水後,25℃で約1週間発芽させた.品 種の異なる種々の稲籾を使用しても,稲芽を造ることは可能 であった.麦芽と異なり,稲芽では,籾の外部に根とともに 芽も観察された(図

1

.通常のビール醸造用の麦芽では,

根は観察されるが,芽は穀皮から先端がのぞく程度である.

また,麦芽では強い 「溶け」 の状態が観察されるが,稲芽で は,それが見られず,もろくなっている程度であった.今回 の実験では,稲芽は,籾殻,根,芽を取り除いた後に粉砕し て,糖化剤とした.

次に,市販の白米を,破砕後,水を加え100℃,15分間加 熱した.冷却後,原料の白米の重量に対し上記稲芽を10%

加え,50℃で4時間糖化を行った.冷却後,再度10%量の稲 芽と酵母を加え30℃で発酵させ,約1週間で稲芽酒を造るこ とができた.

稲芽の糖化力は,麦芽に比較すると弱いが,稲芽でも酒を 造ることが可能であった.稲芽酒は,清酒風の香りをもち,

ろ過後は透明でやや淡く着色していた.アルコール濃度も清 酒と同程度まで高めることができた.現代の手法を活用し て,稲芽酒の再現に初めて成功した.

実験室で稲芽酒を再現することは可能であったが,稲芽酒 が実際に造られていたかどうか,また現存するか否かについ ては不明であった.しかし,インド東北部ナガランドでの調 査により,現地でズトー (zutho) と呼ばれるライスビール,

すなわち稲芽酒の存在を初めて確認した(3).この酒は発芽さ せた稲籾,すなわち稲芽を糖化剤に用いて造られる希少なア ルコール飲料である.ズトーは白色の濁酒で,約5%のアル コールを含み,清酒に似た香りと爽やかな酸味をもってい た.

バイオサイエンススコープ

図1稲芽(左)と麦芽(右)の模式図

稲籾を吸水後,25℃に保温すると,約1週間で根とともに芽も伸 長する.麦芽の場合は,根は伸長するが,芽はあまり外部には伸 長しない.

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ナガランドのライスビールは,現在,日本や欧米諸国で飲 まれているようなラガーまたはピルスナーと呼ばれているタ イプのビールではない.ここでのビールという名称は,原料 の糖化に穀物の発芽種子酵素を用いたアルコール飲料の意で ある.ライスビールは,酵母,そのほかの微生物菌体や原料 の残渣で濁っているスラリー状の飲料で,もちろんホップも 使用されない.

ナガランドでライスビールを造っている人々は,インド・

アーリア系ではなく,チベット・ビルマ系の人々である.一 般に,西洋の酒は麦芽を糖化剤に使用し,東洋の酒は麹を使 用して酒を造ると言われるが,稲芽酒は,製造法や原料を見 ると,古代中東や西洋の麦芽を用いたアルコール飲料と,ア ジア諸国や日本の麹を用いた酒の融合したタイプ,またはそ れら酒の中間型の酒と思われる.

稲芽を用いた酒は,タイ国でも造られている.タイルー 

(Thai Lue)  族 は,ラ オ カ ニ ャ オ ダ ム (Lao khow neaw  dum) という稲芽酒を造っている.この酒は糯米(もちご め)の黒米,発芽させた糯米の黒米と餅麹ルパン (loog  pang) を用いて造られる.この餅麹には 属のカ ビ,アルコール耐性の酵母やそのほかの微生物が含まれる.

タンザニアのダルエスサラームでは,ムベゲ (mbege) と コモン (common) という2種の伝統的ビールを見ることが できた.ムベゲは,原料にバナナとミレットを原料に用い た,いわばバナナビールである.バナナは蒸煮後,搾汁しバ ナナジュースとする.一方,ミレットは吸水,発芽,天日乾 燥,粉砕後,水を加え煮沸し,発芽ミレット (ulegi) のマッ シュを造る.マッシュを造る際,発芽ミレットの酵素により デンプン質の糖化が進む.バナナジュースと発芽ミレットの マッシュを混合し,約5日間自然発酵させるとムベゲができ る.ろ過は行わず,スラリー状の濁酒として飲まれている.

コモンの原料は,トウモロコシとミレットである.それぞ れ別個に,吸水,発芽,天日乾燥,粉砕後,水を加え煮沸 し,糖化させる.それぞれのマッシュを混合して,自然発酵 させると1週間以内で飲めるようになる.ムベゲ同様,ろ過 は行わず,スラリー状の濁酒として飲まれている.

エジプトで伝統的手法を用いて造られるビール,ブーザ 

(boza) の調査と分析も行った.ブーザは発芽させた小麦で 造ったパンが原料で,それを水とともに仕込み自然発酵させ て造る.ブーザは約4%のアルコールを含む濁酒で香気成分 としてエステルを多く含んでいた.

吸酒管酒

ビール発祥の地と言われるメソポタミアやエジプトに残る 古代のレリーフやシリンダー型の印には,吸酒管を用いて飲 酒している様子が描かれている(4).現在でも,アフリカ諸国 や東南アジアの限られた地域では,吸酒管で飲む酒が造られ ている.

タイ国では,吸酒管で飲む酒として,ルパンと呼ばれる餅

麹を用いた壺酒,ウ (ou) が造られている(5).ウは,蒸煮し た糯種の稲籾とルパンが原料で,壺を用いて固体発酵で造る ユニークな酒である.ここでは稲籾は,未発芽のまま,脱穀 や精米をせずに原料として使用される.ルパンには,ハーブ などを加え風味づけや防腐効果の工夫がなされている.ま た,壺のフタには,少量の水で練った木灰が用いられ,通気 性と防腐の考慮がなされている.飲酒は竹製の吸酒管を壺に 刺して行うが,その際,発酵残渣として壺内に残る籾殻がろ 過助剤の働きをする(図

2

.タイ国のウから分離した酵母 と黒米を用いて,鮮やかな赤い色を呈し,抗酸化能をもつア ルコール飲料を造ることに成功した(6)

ウガンダのカンパラのカムホチャ地区で吸酒管を用いて飲 む酒を見ることができた.現地では,吸酒管で飲むこの酒 を,アジョン (ajon) と呼んでいた(7).原料はミレット(現 地名oburo)であった.ミレットを,吸水後,発芽,乾燥,

粉砕し,水とともに土製壺に仕込み7 〜 10日間,発酵させ る.温度変化を最小限にするため,発酵は壺を土中に埋めた 状態で行う.発酵後に熱水を加え,もろみを希釈し,吸酒管 を使って飲む.そのままではアルコール濃度が高いので,薄 めるために熱水を加える.熱水を加える工程にはさまざまな 憶測が可能であるが,もろみの量を増大させ,たくさん飲め るよう,大人数で飲めるようにする工夫かもしれないし,ス ラリー状の酒の粘性を下げて吸酒しやすくする効果も期待で きる.ドラム缶を用いた中規模仕込みのアジョンも造られて いた.

ウガンダのアジョン飲酒に使用される吸酒管には,現地に 図2タイ国の吸酒管(左)とウガンダの吸酒管(右)の模式図 タイ国の吸酒管は,壺内の籾殻がろ過助剤となる.ウガンダの吸 酒管では金属製のメッシュや洗濯用ナイロンネットを切ったよう なものをつけてフィルターにしている.

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自生する植物の茎が使用されていた.長さは約1 mで,中は

空洞になっており,先端には,ろ過の工夫がなされていた.

カムホチャで見たものには,金属製のメッシュや洗濯用ナイ ロンネットを切ったようなものが付けられていた.それらを 付けることにより,発酵残渣などを除去しつつ吸酒できる仕 組みになっている.そのようなモダンテクノロジーの産物が なかった時代は,天然の植物繊維からなるネット,身近なと ころではヤシやシュロの仲間に見られるような繊維を吸酒管 につけて飲酒していた.吸酒管は,500ウガンダシリング

(約40円)で分けてもらうことができた.

ハチミツ酒

ハチミツ利用の歴史は古く,スペインのバレンシア近郊ビ コルプ村の旧石器時代の洞窟壁画には,ハチミツ採集の様子 が描かれている(8).また,北欧神話やバイキング伝説には,

ハチミツ酒がたびたび登場する.しかし,ヨーロッパにおい ても,ハチミツ酒のレギュラードリンカーはほとんどいな い.一方,日本では,ハチミツが広く利用されているにもか かわらず,ハチミツ酒を口にする機会はあまりない.

ハチミツは約80%が糖分で,ほぼ等量のグルコースとフ ラクトースがその大半を占めている.ハチミツには微量成分 として,オリゴ糖などそのほかの糖質,タンパク質,ミネラ ル,ビタミン類などが含まれている.

蜜源となる植物にはレンゲ,アカシア,ミカン,アブラ ナ,ソバ,クリ,トチ,ビワ,ボダイジュなどがあり,蜜源 の違いによりハチミツの香りや色など品質も変わる.ミカン やビワの蜜はフルーティーな香りをもち,ソバは非常に個性 的な香りをもつ.一般に,糖分の高いハチミツほど良質とさ れている.

ハチミツは多量の糖を含むため浸透圧が高く,保存性がよ く,そのまま発酵させるのは困難である.水で4 〜5倍に希 釈することにより,酵母によるアルコール発酵が可能にな る.

ハチミツ酒を表現する言葉で,mead (英), medd (ウエー ルズ), Met (独) などはインド−ゲルマン語を起源にしてい る.また,ハチミツ酒を表す言葉として honey wine という 一般名称も使用されている.

ハチミツ酒を表す言葉hydromel (仏), idromele (伊),  ydromeli (希) やaguamiel (西) はいずれも「ハチミツ」と

「水」または「ハチミツ水 」を意味しており,薄めたハチミ ツでハチミツ酒が造られたと推察される.

ビールやワインの製法を知るまでは,狩猟民族であるゲル マン人は,ハチミツ酒を飲んでいた.ゲルマン人の上層階級 の新婚夫婦には,1カ月間ハチミツ酒を酌み交わす習慣が あったといわれ,それが現在使用されているハネムーン 

(honeymoon) という言葉の語源といわれている.

ハチミツ酒はハチミツのほかに,薬草,ハーブ,スパイ ス,フルーツ,ホップ,樹皮などを加えて造る.ハチミツ酒

には用いた原料により,さまざまな名称がある:metheglin 

(スパイス), melomel, mulsum (果実), sack mead (ハチミ ツで甘くしたmead), sack metheglin (ハチミツで甘くした metheglin), pymeat (ハチミツで甘くしたブドウ酒), hip- pocras (スパイスを加えたpymeat), cyser (リンゴジュー ス), morat (クワの実), braggot (麦芽), oxymel (酢),  rhodomel ( バ ラ の 花 の 蒸 留 物 ), capsicumel ( チ リ ペ ッ パー), weirdomel (そのほか,特殊な添加物で風味づけした もの), omphacomel (未熟のブドウジュース) など.そのほ かに,ショウガ,クローブ,シナモン,ターメリックなども 風味づけに使用されている.

タッジ (tej) は,エチオピアの伝統的ハチミツ酒である.

タッジは,ホップやスパイス類で風味づけされている.ろ過 は布でこす程度である(9).また,風味づけにターメリックを 使用するため,タッジは黄色い濁酒である.タッジの入った ボトルの底には,香辛料と酵母菌体の黄色い沈殿が残ってい る.

古来,ハチミツやタッジは高価なものであったため,タッ ジを飲むことができるのは,貴族など限られた人たちだけ だった.タッジは,祝祭や結婚式での飲料,結婚式の持参の 品として重要な役割を果たしてきた.また,高価なタッジ は,古くは市場にもって行けばほかの商品と物々交換するこ とができた.現在のところ,タッジは工業生産されていな い.

図3ハチミツ酒オゴルの製法

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オゴル (ogol) は,エチオピア南西部地域の森林に住む焼 畑民の造るハチミツ酒である.オゴルの風味づけには現地に 自生している木の樹皮が使用される.この植物体にはさまざ まな効果が期待できる.樹皮は,発酵性酵母,発酵性酵母の 生育・発酵のための栄養分,防腐効果のある抗菌性物質の供 給源となるであろう.また,樹皮組織は,バイオリアクター の担体に似た働きをし,酵母による発酵をスムーズにする効 果があると思われる.また,酵母と樹皮を含むろ過残渣は,

次のバッチへ再利用される.オゴルの製法を図

3

に示した.

中国では紀元前より蜜 (mi), 蜂蜜 (feng mi) は甘味料と して,また,薬用として使用されていた.中国のハチミツ酒 は蜜酒 (mi chiu) と呼ばれるが,蜜酒は中国でもポピュ ラーな飲料となることはなかったようだ.

一般に食品産業と環境を考える場合,副産物や廃棄物が問 題になることが多い.しかし,蜂巣はミツロウとして有効利 用され,ローヤルゼリーやプロポリスは健康食品として好評 である.また,日常生活において改めて認識する機会は少な いが,ミツバチが農作物の花粉媒介に果たす役割は非常に大 きい.一方で,美しい環境があって初めて養蜂が営めるとい うことができる.

ハチミツ酒は致酔飲料であるとともに,添加した薬草,

ハーブ,スパイス,フルーツなどの有用成分を含んだ薬酒と 考えることもできる.ハチミツ酒はまた,酵母やそのほかの 微生物の発酵作用により造られたビタミン類やアミノ酸など

が補われている.未ろ過の濁酒の状態で飲めば酵母やその他 微生物菌体由来のタンパク質も摂取することができる.

ここで紹介した穀芽酒,吸酒管酒,ハチミツ酒は,アメニ ティのある酒,話題性のある酒として,古くて新しい嗜好飲 料および健康飲料の可能性を十分に秘めていると思われる.

謝辞:これらの研究は,国立民族学博物館との共同研究「酒をめぐる地 域間比較研究」(1998 〜2000年)および「世界諸地域の酒に関する比較 研究」(2001年)により行った.タイ国の酒に関する研究は JSPS-NRCT  Core University Program on Development of Thermotolerant Microbial  Resource and Their Applications (1998 〜 2008), Asian Core Program  on Capacity Building and Development of Microbial Potential and Fer- mentation Technology towards New Era (2009 〜) により行った.

  1)  T. H. Huang :“Science and Civilisation in China Volume  5,  Biology  and  Biological  Technology  Part  V : Fermentations and Food Science,” ed. by J. Needham,  Cambridge University Press, Cambridge, 2000.

  2)  花井四郎: 黄土に生まれた酒 ,東方書店,1992.

  3)  Y. Teramoto, S. Yoshida & S. Ueda : , 13(2), 39 

(2000).

  4)  Y.  Teramoto : ,  3

(7), 33 (2007).

  5)  Y.  Teramoto  &  A.  Wongwicharn : , 2(7), 31 (2002).

  6)  Y.  Teramoto,  M.  Koguchi,  A.  Wongwicharn  &  N. 

Saigusa : , 10, 10706 (2011).

  7)  Y. Teramoto : , 3(12), 29 (2003).

  8)  Y. Teramoto : , 13(4), 14 (2000).

  9)  Y. Teramoto & R. Sato : , 4(10),  39 (2004).

Referensi

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