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両親媒性ペプチドによる膜貫通タンパク質の機能制御

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化学と生物 Vol. 50, No. 12, 2012 865

今日の話題

好熱性シアノバクテリア由来 Photosystem I の安定化技術の開発と太陽電池への応用

両親媒性ペプチドによる膜貫通タンパク質の機能制御

地球温暖化や原発リスクへの関心の高まりから,従来 の化石燃料や原子力に代わる再生可能な代替エネルギー の開発が求められている.代替エネルギーのなかでも,

太陽光のエネルギーを直接的に電力に変換する太陽電池 への注目は高く,太陽電池の提供は低炭素社会の成長産 業として期待されている.しかしながら,太陽電池の普 及には,ほかの電源と比較して割高な発電コストの低減 が必要であり,発電コストの低減のため,発電効率のさ らなる向上が試みられている.

一方,自然界には太陽電池をはるかに上回る効率で光 エネルギーを電力(還元力)に変換するタンパク質複合 体 と し て,Photosystem I (PS-I)  や Photosystem II 

(PS-II) が存在する.PS-Iは,光合成を行う細菌,シア ノバクテリア(藍藻),藻類,植物のすべてが保有する 反応中心のうちの一つである.PS-Iは,チラコイド膜上 に膜貫通タンパク質として存在し,光を捕捉し膜の表裏 での電荷分離を引き起こすことにより,電子をルーメン 側からストロマ側に移動させる.その光エネルギーの利 用効率はほぼ100%と非常に高いエネルギー変換効率を 有しており(1),太陽電池への応用が実現すると,現在主 流のシリコン系太陽電池(変換効率20%)を大幅に上回 る発電効率が期待できる.

PS-Iの太陽電池への応用のためには,その複雑なタン パク質複合体構造を で安定に保つ技術の開発が 不 可 欠 で あ る.好 熱 性 シ ア ノ バ ク テ リ ア 

  のPS-Iは,分子質量が1.07 MDa のホモ3量体からなる巨大なタンパク質複合体構造を とっている.その単量体は,127個のコファクターを含 む12個のポリペプチドの複合体であり,34個の膜貫通 

α

  へリックスをもち,脂質二重膜中に包埋されてい る(2).このように,PS-Iが多数の膜貫通へリックスをも ち,チラコイドの脂質二重膜と複雑に相互作用している ことが,その応用開発を困難にしている.

細胞や細胞小器官の脂質二重膜中に存在する膜貫通タ ンパク質の多くは,機能解析や応用開発のために水溶液 中に可溶化すると,立体構造が壊れ変性失活を伴う凝集 を引き起こす.これを防ぎ,安定化を図るために,一般 的にグリセロールやスクロースのような糖類,Triton 

X-100のような界面活性剤,アルコール,ペプチド,合 成ポリマーなどの添加剤が利用されている.PS-Iの安定 化剤に関しても,これまでいろいろな安定化剤の検討が 行われてきたが,多分に経験的手法がとられ,安定化剤 とPS-Iとの相互作用の解析に基づく科学的な検索はほ とんど行われてこなかった.

両親媒性ペプチドは,膜貫通タンパク質との相互作用 を制御することを目的として開発されたペプチドであ る(3).従来から一般的に利用されているTriton X-100の ような界面活性剤よりも,膜貫通タンパク質に対して穏 和な作用を示し,またその構成アミノ酸の種類やデザイ ンを変更することで膜貫通タンパク質とペプチド間の相 互作用の強度を調整できる利点がある.マサチューセッ ツ工科大学のZhangらのグループは,両親媒性ペプチ ドがウシロドプシンなどの膜貫通タンパク質を一般的な 界面活性剤より効果的に安定化できることを報告してい る(4)

Matsumotoらはこの両親媒性ペプチドの特徴を生か し,アミノ酸の配列や組成の異なる9種類のペプチドを 合成し(図1 由来PS-Iの水溶液への可溶 化と安定化への効果を,光応答電子移動活性の測定から 評価している.その結果,acetyl-AAAAAAK-NH2 (ac- A6K-NH2)  や acetyl-VVVVVVRR-NH2 (ac-V6R2-NH2) 

図1両親媒性ペプチドの構造と物理的性質

各ペプチド分子のアミノ酸配列および物理的性質を示す.下線は 負に荷電しているアミノ酸残基および解離基を示す.枠内は正に 荷電しているアミノ酸および分子基を示す.

(2)

化学と生物 Vol. 50, No. 12, 2012

866

今日の話題

などのC末端側に陽イオン性アミノ酸残基をもつ両親媒 性ペプチドが,一般的な界面活性剤であるTriton X-100  や  -dodecyl-

β

-d-maltopyranoside (DDM) などの10倍 ものPS-I活性化効果を有することを見いだした.一方,

acetyl-AAAAAAD-OH (ac-A6D-OH) などの陰イオン性 両親媒性ペプチドや,acetyl-AAAAAAK-OH (ac-A6K- OH) などの中性両親媒性ペプチド,およびN末端側に 陽イオン性残基をもつ NH3-KAAAAAA-NH2 (KA6- NH2) では活性の上昇は認められなかった(図2

この両親媒性ペプチドとPS-Iとの相互作用の機構を 明らかにするため,原子間力顕微鏡分析による両親媒性 ペプチド‒PS-I複合体の形態観察を行い,両親媒性ペプ チドがPS-Iを包埋した小胞を形成することを見いだし た.またそれぞれのペプチド小胞の安定性を評価するた め,蛍光色素が小胞内から漏出する速度の測定を行い,

PS-Iを活性化する両親媒性ペプチドによる小胞は構造強 度が著しく高いことを見いだした.これら結果からPS-I の安定化に伴う高活性の維持には,両親媒性ペプチドの 正電荷と強固な小胞を形成する能力が重要な役割を果た していることが明らかになった(5)

さらに,PS-I活性化技術を応用した太陽電池が試作さ れている.試作品は次のような点に配慮して設計されて いる.①まずPS-Iの電極上への固定にあたり,PS-Iの 配向をペプチドタグにより制御している.具体的には,

無機半導体である酸化亜鉛表面に親和性を有するZnO ペプチドタグ(24アミノ酸残基タグ:RSNTRMTAR- QHRSANHKSTQRARS)(6)  と,PS-Iのストロマ側に配

向する10 kDaのサブユニットであるPsaEとの融合タン パク質PsaE-ZnOを,遺伝子工学的に作製.このPsaE- ZnOタンパク質をPS-Iとインキュベートし,PS-I複合 体中の天然型PsaEと交換することで,ZnOペプチドタ グ化PS-Iを調製し,両親媒性ペプチドac-A6K-NH2と混 和後,酸化亜鉛電極,および酸化チタン電極に,ZnO ペプチドタグの親和力を用いて分子配向性を有する固定 化を行っている.②次にPS-Iが光応答電子を電極に受 け渡した後に,PS-Iが放出した電子を補って電気回路を 形成するために,メディエーターとしてコバルトイオン を含むZ813 electrolyte(7) を利用している(図3.試作 図3PS-I固定化太陽電池の概略図

負極:フッ素ドープ酸化スズ (FTO) 膜コーティングガラス上に 酸化チタンを積層,または,インジウムドープ酸化スズ (ITO) 膜 コーティングガラス上に酸化亜鉛を積層に,ZnOペプチドタグ化 PS-Iを固定化.正極:FTO膜コーティングガラス上にプラチナを 積層.メディエーターとしてZ813 electrolyteを利用.

図2界面活性剤および両親媒性ペ プチドのPS-I活性への影響 PS-I量1 mgクロロフィル (Chl) の活 性値を比較.

(3)

化学と生物 Vol. 50, No. 12, 2012 867

今日の話題

したPS-I太陽電池は実際に光発電に成功し,起電力 

(electrical power density) 81 

μ

W/cm2, 起電密度 (pho- tocurrent density) 362 

μ

A/cm2の値を達成した.本結 果は,これまで報告されているPhotosystemベースの 太陽電池と比べ,4桁上回る高出力であった(8)

生体内において膜貫通タンパク質は,PS-Iに代表され るエネルギー変換,ホルモン受容体のような情報伝達,

イオンチャンネルなどの物質輸送を担う重要な高機能分 子である.本稿で紹介した各種ペプチドの利用により,

膜貫通タンパク質のバイオテクノロジー分野での応用が 広まるものと期待される.

  1)  R.  A.  Marcus  &  N.  Sutin :   , 811,  265 (1985).

  2)  P. Jordan, P. Fromme, H. T. Witt, O. Klukas, W. Saenger 

& N. Krauss : , 411, 909 (2001).

  3)  S.  Vauthey,  S.  Santoso,  H.  Gong,  N.  Watson  &  S. 

Zhang : , 99, 5355 (2002).

  4)  X. Zhao, Y. Nagai, P. J. Reeves, P. J. Kiley, H. G. Khorana 

&  S.  Zhang : , 103,  17707 

(2006).

  5)  K. Matsumoto, M. Vaughn, B. D. Bruce, S. Koutsopoulos 

& S. Zhang : , 113, 75 (2009).

  6)  K.  Kjærgaard,  J.  K.  Sorensen,  M.  A.  Schembri  &  P. 

Klemm : , 66, 10 (2000).

  7)  M. Graetzel : , 414, 338 (2001).

  8)  A. Mershin, K. Matsumoto, L. Kaiser, D. Yu, M. Vaughn,  M.  K.  Nazeeruddin,  B.  D.  Bruce,  M.  Graetzel  &  S. 

Zhang : , 2, 234 (2012).

(松本和也,三井化学株式会社触媒科学研究所)

川越 義則(Yoshinori KAWAGOE)    

<略歴>1987年東京大学農学部農業工学 科卒業/ 1991年東京大学農学部助手(農 業工学科)/ 2007年東京大学大学院農学 生命科学研究科助教(生物・環境工学専 攻)/ 2012年日本大学生物資源科学部准 教授(生物環境工学科)<研究テーマと抱 負>農産物の呼吸特性,農産物の貯蔵と追 熟,農産物の非破壊品質評価

高 田  大 輔(Daisuke TAKATA) <略 歴>2000年岡山大学総合農業科学部卒 業/岡山大学にて博士(農学)を取得後,

東京大学農学生命科学研究科附属農場に赴 任,2009年 よ り 現 職<研 究 テ ー マ と 抱 負>モモの生理障害(果肉障害)につい て,果樹の放射性セシウムの移行と分配

<趣味>造形からお菓子作りまで,ちまち ました作業全般

田 野 井 慶 太 朗(Keitaro TANOI)  歴>2003年東京大学大学院農学生命科学 研究科応用生命化学専攻中途退学/同年6

月東京大学生物生産工学研究センター助 手/ 2007年東京大学生物生産工学研究セ ンター助教/ 2012年東京大学大学院農学 生命科学研究科准教授<研究テーマと抱 負>マグネシウム-28を利用した植物のマ グネシウム輸送機構の解析,放射性セシウ ムの測定<趣味>ソフトボール,バレー ボール,吹奏楽

寺 本  祐 司(Yuji TERAMOTO)  歴>1981年九州大学農学部農芸化学科卒 業/1989年九州大学大学院農学研究科博 士課程農芸化学専攻修了.農学博士(九州 大学)/1989年熊本工業大学助手(2000年 熊本工業大学は崇城大学に改称)/2007年 崇城大学教授<研究テーマと抱負>世界の 希少酒の調査研究とその微生物資源の開発

<趣味>ロックミュージック

東 原  和 成(Kazushige TOUHARA) 

Vol. 49, No. 7, p. 508参照

西増 弘志(Hiroshi NISHIMASU) <略

歴>2007年東京大学大学院農学生命科学 研究科応用生命工学専攻博士課程修了/

2007年日本学術振興会特別研究員PD,東 京工業大学生命理工学研究科生命情報専攻 COE特任助教,東京大学医科学研究所基 礎医科学部門染色体制御分野助教を経て,

現在,東京大学大学院理学系研究科生物化 学専攻特任助教/2007年農博(東京大学)

<研究テーマと抱負>RNAサイレンシン グ,疾患関連タンパク質<趣味>ボクシン

野  崎   浩(Hiroshi NOZAKI)  歴>1974年広島大学理学部化学科卒業/

1979年同大学大学院理学研究科博士課程 修了(理博)/同年日本学術振興会特別研 究員/1981年米国ノースカロライナ大学 薬学部博士研究員/1982年岡山理科大学 理学部化学科助手/1984年同講師/1988 年同助教授/1992年同生物化学科教授,

現在に至る<研究テーマと抱負>天然生理 活性物質の構造と機能の解析<趣味>ドラ イブと健康のためのゴルフ

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ノ酸全般の液胞内含量が大きく変化することを見い出し た(図4).さらに液胞膜小胞に前負荷したこれらアミ ノ酸のATP依存的な排出活性を検出し,この活性が および の発現に依存することを明らかに した11(図5).これらの結果はAvt3とAvt4が広い基 質特異性を有し,中性アミノ酸全般を液胞外へと排出す ることを示唆する.また液胞内の塩基性アミノ酸含量が

のような観点からも,今回末端糖残基に選択したモラノ リン残基が−1サブサイトに対して強い親和性を有して いることがわかる.実際に,モラノリン残基の環窒素原 子には活性中心のAsp52を含む複数のアミノ酸残基と の水素結合の形成が確認された(図3B). 長い間HEWLの触媒機構は,リゾチームの構造や非 酵素的なアセタールの分解機構,さらには(GlcNAc)4