交流信号と共振回路テキスト
(最終改訂 2016/01/20 )
実験の目的
直流回路で抵抗に流れる電流とその両端にかかる電圧(電位差)とは比例し、交流回路
(ここでは正弦波交流を扱う)においても電圧と電流は同位相でその比は(0/0で定義され ない瞬間を除き)どの瞬間においても一定である。これに対し、インダクタ(コイル)と キャパシタ(コンデンサ)では、抵抗値に相当する電圧と電流の実効値(註参照)の比が 周波数により異なり、この性質を利用して周波数により選択を行うフィルタを構成できる。
更に、インダクタとキャパシタでは電圧と電流の位相がπ/2 だけずれ、そのずれの符号が 両者で逆であるため、これを組合せることで、工学では最も基本的で重要な現象の一つで ある共振が起る。
かつては、低周波発振器、電子電圧計、オシロスコープ等の高価な装置を動員して測定 したこの現象が、フリーソフトウェアのWaveGene/WaveSpectraを用いることで、PC単 独で容易に確認ができ、本課題では、フィルタと共振(ここでは直列共振のみを扱う)を 通じて交流回路の基本についての理解を深めることを目的とする。
WaveGene/WaveSpectraは、それぞれ信号生成、スペクトル分析の機能が充実した演算 精度も高い極めて有用なソフトウェアである。両者は本課題以外でも情報学実験Ⅰ、Ⅱで 活用しており、その操作に慣れることも本課題の趣旨である。
註:実効値とは時間的に一定ではない信号(交流電圧・電流についていう事が多いが、音 響での空気中の圧力変化等にも用いる)に対して自乗の平均の平方根をとったもので、そ の定義通りのroot mean squareの頭字語でrms値ともいう。交流電流の抵抗による消費電 力は、その実効値と同じ電圧・電流の直流によるものと同じとなる。正弦波交流では実効 値はピーク値(尖頭値)の1/√2である。正弦波交流の電圧と電流の実効値の比を絶対値と し、位相差の情報を加えて抵抗の概念を複素数に拡張したものがインピーダンスである。
注意
本テキストでは実験を行う上で必要な項目について記述しており、交流回路についての 詳細については電気回路の教科書に譲る。工学に限らず社会現象に至るまでシステム(系)
を理解する上で、線形近似による電気回路とのアナロジーは極めて有用である。情報学部 の教育課程では電気回路はコンピュータ科学科の 2 年後期に選択必修科目として開設して いるだけであるが、同科目を履修しない人にも電気回路に関する書籍の一読を推奨する。
ガイダンスでも説明のあった通り、実験実習科目の区分では毎回の作業実態そのものが 成績物であり、他人の作業結果を譲り受けることは不正行為に該当する。不正防止のため 個人毎に全て結果が異なり他人の作業結果の譲り受けを不可能としている課題(課題④
「LabVIEW による論理回路」)もあるが、本課題で使用する共振回路も結果の異なる複数 の種類が用意されており、他人の結果を流用してレポートを作成することはできないこと に注意する。
本課題では、PCのサウンド機能を使用するが、Virtual DesktopのTeradici Virtual Audio Driverでは十分な特性が得られないのでLocal PC(Realtek High Definition Audio実装。
総合周波数特性はpp.9-10図12,13を参照)を使用する。ログインで選択するOSを間違え ないこと。
実験ノート以外に用意するもの
USBメモリ(情報学実験のページからsweep0dB.wavをダウンロードして保存しておく こと)
註:興味のある人は、CR、LR 回路の実験用にメモリプレーヤ(音声ファイルを保存して 再生できる携帯電話等を含む)。3.5φの3極ステレオプラグ用のアダプタが必要な機種につ いては、これも用意すること。【テキスト末尾の備考p.25「キャパシタとインダクタでの電 圧と電流の位相差について」参照】
事前準備
必ず、本テキストに最後まで目を通して、本課題で必要なデータの意味を理解し、全体 の作業の流れを把握しておく。WaveGene/WaveSpectraについては、事前にダウンロード・
解凍し、ヘルプファイルに目を通しておく。
使用機器・部品類
共振回路(ブレッドボード上に構成済)1個およびジャンプワイヤ1本
ジャンプワイヤ付3.5φステレオプラグ2個(黄青ワイヤ付、赤白黒ワイヤ付各1個)
情報科学研究教育センターPC Local PCでログインすることに注意。
使用ソフトウェア
WaveGene/WaveSpectra http://efu.jp.net/
http://efu.jp.net/soft/wg/WG150.ZIP (オーディオ帯域信号発生器)
http://efu.jp.net/soft/ws/WS151.ZIP (リアルタイムスペクトラムアナライザ)
表紙交付基準
以下の事項の全ての完成を確認して表紙を交付する。レポート作成については、実験手 順中の記述の他、本テキスト末尾の備考p.23「レポート作成について」を参照のこと。
● CR、LR、LCRの各実験でジャンプワイヤを挿した穴の位置【実験ノートで確認する】
● LCRの実験でsweep0dB.wavをWaveGeneで再生してWaveSpectraで録音した音声フ ァイル【実験ノートで保存したファイル名(拡張子を含む)とファイルサイズ(プロパテ ィで表示されたバイト単位の値)を確認する】
● LCRの実験で、共振周波数の正弦波を WaveGeneで再生した、WaveSpectraで位相差 の無いリサジュー図形のキャプチャ画像【この項目のみPCのディスプレイに表示して確 認する】
実験手順
0.使用する回路を確認する。
最初に、使用する共振回路のシリアル番号(ブレッドボードの部品面に貼られているラ ベルに記載されている)、部品の配置位置を実験ノートに記録する。回路で使用されている 部品は図1に示すインダクタ(図で黒い円筒形の部品でピン間隔は穴の間隔の3倍に当る 7.62mm)、キャパシタ(図で青い部品)、抵抗(図で薄茶色に帯状のカラーコードが入った
部品)の3個である。図 1は、回路構成前の説明用のもので、実験では部品をブレッドボ ードから取り外さないこと。
図1 ブレッドボードと回路部品(本図は説明用であり、取り外さないこと)
ブレッドボードは図 2 右に示す様に上段、下段のそれぞれで各列が縦に電気的につなが っており表面の各穴に部品、ジャンプワイヤを挿して回路を構成するものである。黒と赤 の行はそれぞれ横に電気的につながっており、電源供給、接地(GND)用に使用される。
隣接する穴の間隔は2.54mm(1/10 inch)で、f行とg行の間隔はその3倍である。
本実験で使用する回路では、3個の部品が直列に接続され、図2の例では、インダクタが f10とg10、キャパシタがj10とj12、抵抗がi12とi17に挿されている。この例は説明用 の個体でシリアル番号を記載したラベルは貼られていない。
図2 共振回路の配置されたブレッドボード (左:部品面、右:裏面)
共振回路をPCに接続するための信号の入出力には図3に示すジャンプワイヤ付3.5φス テレオプラグ2個を使用する。3.5φプラグには、2、3、4極のものがあり、3、4極では信 号の割当の異なる規格が混在するので注意を要する。ここで使用しているものは一般的な3 極(先端から順にT:tip、R:ring、S:sleeveという)ステレオプラグで先端から順に左、右、
GND(オーディオではケーブルの色としてそれぞれ白、赤、黒を用いる)である。図3右 側のプラグはモノラルとして使用し(ここでは、黄がtip、青がsleeveに接続されている)、
PCのサウンドカードの左チャンネルの信号のみを伝送する。
図3 ジャンプワイヤ付3.5φ3極プラグ(左:PC入力用、右:PC出力用)
以下の作業では、CR、LR(以上、フィルタ)、LCR(直列共振)のそれぞれでブレッド ボード上にジャンプワイヤを挿す穴の位置(挿さない場合はその旨)を実験ノートに記録 する。
1.PCのサウンドカードの標本化周波数・ビット深度を設定する。
注意
サウンドカードの設定はPCをログオフした場合にはリセットされるので、実験の途中で ログインし直した場合には再度本節の作業を行うこと。
WaveGene/WaveSectraの既定では標本化周波数44100Hz、ビット深度16ビットの CD 音質の設定で、本実験で使用する信号 sweep0dB.wav もこれに合せて作られている。
Windows7のオーディオエンジンでは標本化周波数変換の十分な対応がされておらず(変換 精度はごく初期のDACレベル)、PCのサウンド機能を使用する上でアプリケーション(こ こではWaveGene/WaveSpectra)とサウンドカードの再生・録音の標本化周波数・ビット 深度を合せる必要がある。
図4 再生の「既定の形式」をCD音質に設定する。
コントロールパネル→個人設定→サウンド→再生→スピーカーのプロパティ→詳細で既
定の形式を「16ビット,44100 Hz(CDの音質)」に変更する(図4、ログイン時の既定は
「24ビット、48000 Hz(スタジオの音質)」)。録音側は、マイク(PCのマイクロホン入力 端子にプラグを挿していない状態では認識されない)のプロパティの既定の形式は既定で
「2チャネル、16ビット、44100 Hz(CDの音質)」であり変更の必要は無い。
2.WaveGene/WaveSpectraを用いてPCのサウンドカードの再生・録音レベルを調節す る。
注意
本節で調節・設定した再生、録音のレベルは、ログインし直した場合(設定はリセット される)に同じ条件で実験作業を再開できる様に必ずその場で実験ノートに記録すること。
PC前面のピンクの音声入力ジャック(上側でマイクロホンの絵が書かれている)に赤白 黒の3本のジャンプワイヤが付いた3.5φステレオプラグを挿し【音声入力ジャックに何も 接続されていない状態ではコントロールパネル→個人設定→サウンドの録音で「マイク」
が認識されない】、黒の音声出力ジャック(下側でヘッドホンの絵が書かれている)に黄青 の2本のジャンプワイヤが付いた3.5φステレオプラグを挿す(図5左)。
次節以降の作業に先立ち、回路に供給する信号電圧のレベル調節(ここでは、電圧の値 そのものは測定せず、PCのサウンドカードの出力を歪の無い状態で実験が行える電圧に設 定する)を行う。両プラグの青と黒のジャンプワイヤをブレッドボードの黒の行、黄、白、
赤のジャンプワイヤをブレッドボードの赤の行に挿して、PC の入出力端子間を直結する
(図5右)。
図5 ブレッドボードとPCの接続(左:PC側 右:ブレッドボード側 レベル調節時)
WaveGeneを開くと、WG150.ZIPを解凍して最初の実行で設定ファイル(WG.INI)が 無い初期状態では図6の様な画面となる(Helpファイル参照を促すウィンドウはOKをク リックしてHelp 画面もそのまま閉じる)。このウィンドウは横幅が固定され、縦にのみ広 げられる(次節以降の説明では、縦に画面一杯に広げた例で示す)。続いて、WaveSpectra を開く。WS151.ZIP を解凍して最初の実行で設定ファイル(WS.INI)が無い初期状態で は、ヘルプ画面と共に「WaveSpectra - 描画方法自動設定」のウィンドウが開くが、その まま閉じる。Waveメニューの設定で「リサジュー(X-Y)」を「別ウィンドウで表示」にチェッ クを入れ、「縦軸(Amplitude)」の倍率を「x1」に、レベルメーターの「表示(横)」を選ぶ
(図7)。Spectrumメニューで、レンジを「80dB」に、「横軸(Frequency)」を「リニア」
にした後、「測定モード」( ボタン)をクリックして「測定モード」にする(図8)。
図6 WaveGeneを最初に起動した画面
図7 WaveSpectraのWaveメニューの設定
図8 WaveSpectraのSpectrumメニューを設定し、「測定モード」をクリックする。
WaveSpectra のウィンドウは縦横に広げられるので、リサジューとレベルメーターのサ イズと共に適当なサイズに設定する。以下の説明では、WaveGeneとWaveSpectraの両画 面でデスクトップが一杯となる例で示している。
WaveGeneでWave1(Wave2~Wave8の他のWaveを指定してもよいが、図6に示す通 り、初期状態ではWave1が「サイン波」で他は「OFF」、出力もWave1は「L+R」で他は「OFF」
となっているので作業手順の少ない Wave1 を選ぶ)の波形メニューが「サイン波」となって いることを確認し、振幅0dB(既定では-10dB:dBについては註参照)を選び、再生ボタ ン(►)をクリックする。コントロールパネル→個人設定→サウンドの録音→マイクのプロ パティ→レベルを「マイク100 マイクブースト 0.0dB」に設定して、WaveSpectraの録 音ボタン(●)をクリックして録音状態にする。PC の音声入力ジャックに 3.5φ3 極プラ グを挿入しない状態でWaveSpectraを開いた場合、録音ボタンをクリックすると「録音で きません(No Wave Input device)」と表示されるので、一度WaveSpectraを閉じて開き 直す。WaveSpectraの録音時の既定では波形、スペクトル、歪率等の計測結果(「測定モード」
が押された状態のとき)が表示されるだけでファイルには保存されない(ファイル保存に ついてはp.17図24参照)。観測するチャンネルはL/Rボタン(押下で表示が 、 と変化 する)で切替える。
コントロールパネル→個人設定→サウンドの再生→スピーカーのプロパティ→レベル、
またはタスクバー右端のスピーカーアイコンを開いて再生音量を調節する(図 9)。スペク トル画面に1kHz以外の応答が目立たない(図8の80dBレンジ設定では画面に現れない)
範囲でWaveSpectraのレベルメーターの表示がなるべく0dBに近い値となる様にし、「ス ピーカーのプロパティ」のレベル(図の例では45であるが、この値は個々のPCにより異 なる)およびWaveSpectraのレベルメーターの読みを実験ノートに記録する(PrtScでキ ャプチャを取ること)。スペクトル画面で縦軸の左に表示されている「THD, +N」(註参照)
の値は、この例ではそれぞれ0.00440%、0.03768%である。本実験の目的にはTHD+Nが 0.1%未満であれば十分である。
図9 WaveGeneで0dB正弦波を再生し、コントロールパネルで再生レベルを調節する。
註:dB(decibel:デシベル)とは、パワーの基準値に対する比の常用対数を 10 倍したも ので、電圧、電流、圧力変化等の振幅の場合にはその自乗がパワーとなるため比の常用対 数の20倍となる。WaveGene/WaveSpectraでは、スペクトルの成分は最大振幅の正弦波、
rms値は既定では最大振幅の矩形波のパワーを基準値としている。210がほぼ103に等しい ことで明らかな通り、2の常用対数はほぼ0.3、すなわちパワーは2倍でほぼ3dB(振幅な らば6dB)の違いとなる。「3dB落ち」、「6dB/Octaveのフィルタ」等と書かれていれば、
整数の3や6ではなくそれぞれ10log102、20log102を意味することに注意する。デシベル については課題⑦「正弦波合成と音声ディザ」で改めて学修する。
註:THD(total harmonic distortion:全高調波歪)は全ての高調波の電圧実効値の自乗和 の平方根と基本波の電圧実効値の比(全ての高調波のパワーの和と基本波のパワーの比の 平方根)を百分率で表したもの、THD+N(total harmonic distortion plus noise:全高調 波歪+ノイズ)は高調波と直流以外のノイズを算入したものである。
注意
前節に述べた標本化周波数とビット深度の設定が正しくできていない場合には、図 9 と 同じ再生レベルで図 10 の様に 1kHz 以外の応答が無視できないレベルで残るが、これが Windows7のオーディオエンジンの標本化周波数変換の精度である。「THD, +N」の値は、
それぞれ0.00544%、0.22755%とTHDの値が図9とそれ程違わないことから分る様に、変 換過程で発生している余計な応答は基本波の周波数の整数倍ではない。THDの値が小さい からと言って応答が正しい訳ではなくTHD+Nの値に注意する必要がある。
図10 再生の「既定の形式」がログイン時の既定の設定の場合
WaveGeneの波形を、(既定の設定では)上限22.05kHzまで単位周波数当りのパワーが 周波数によらない「ホワイトノイズ」に切替え、再生して、ピーク(Peakをクリック)、平均(Avg:
右の「平均回数」のプルダウンメニューからここでは40分析区間の平均を指定)の表示を 追加(図11)すると図12の赤のカーブ(ピーク)が示す様にほぼ19kHzまで平坦な再生・
録音の総合特性を見ることができる。ここでもレベルメーターの読みを実験ノートに記録
しておく(PrtScでキャプチャを取ること)。「ホワイトノイズ」についても情報学実験Ⅰ課題⑦「正 弦波合成と音声ディザ」で改めて学修する。
図11 ピーク表示、平均表示の設定
図12 Local PC内蔵サウンドカードの再生・録音の総合特性
再生・録音の総合特性をより正確に見るには、WaveGene/WaveSpectraの設定を次の様 に変更する。WaveGeneの波形で「パルス」(離散化されていない場合のδ関数に相当し、全 ての周波数成分を等しく含む)を選び、周波数設定バーの「Hz」を右クリックして「Sample 数(周期)(S)」に変更し、FFTの分析区間と同じ4096を選び(4096/44100秒に1パルス)、
WaveSpectraのFFTメニューの設定で窓関数を「なし(矩形)」(分析区間と周期とが一致す る信号では分析誤差を生じない)にする。パルスが波形画面に表示される様に WaveGene では位相を設定し、WaveSpectraではWaveメニューで横軸を倍率x1に設定している(図 13)。
図13は説明用であり、本課題では図13の画面を表示するための作業をする必要はない。
図13ではWaveGeneで生成する正極性のパルスがWaveSpectraの波形画面では負極性で 表示されているが、これは内蔵サウンドカードの再生側の問題で(PCの出力端子に極性の 正しいアンプとスピーカーを接続した場合、本来スピーカーのコーンが手前に動くべき信 号で奥に引っ込むことになるが、本課題の実験には影響しない)、録音側の極性は正しい。
図13 Local PC内蔵サウンドカードの再生・録音の総合特性
WaveSpectraのSpectrumのメニューで、「横軸(Frequency)」を「リニア」から「Log」
に変更する。WaveGeneの再生を停止して(■をクリック)Wave1の波形メニューで「ユー ザー波形」を選び、「ユーザー波形登録」でsweep0dB.wavを開く(図14。註参照)。
図14 「ユーザー波形」の「ユーザー波形登録」でsweep0dB.wavを開く。
註:音声ファイルsweep0dB.wav は、後期の情報学実験Ⅱ課題②「オシロスコープと信号 処理」の前半のオシロスコープ編で使用する高速スイープ信号と同じく正弦波(正確には 正弦波ではないが)の周波数瞬時値を20Hzから20kHzまで200msで指数関数的に変化さ せ50msの無音部分を加えた250ms毎に繰返すもので、短時間に音響機器の周波数特性を 測定することができる。本課題ではオシロスコープでの計測を目的とはしていないので、
トリガー用の第1波のブーストが無く最大振幅の0dBで記録されている。
WaveGeneの再生ボタン(►)をクリックし、sweep0dB.wavを再生しWaveSpectraを 録音の状態にしてピーク表示(操作は図11参照)にする(図15)。図15では「Spectrum」
メニューでレンジを40dBにして見やすくしている。スペクトルのピーク(註に示す通り、
250msを周期として変化する信号であり、250ms間の各周波数応答の最大値)が赤で表示 される。100Hzで-10dB、1kHzで-20dB、10kHz で-30dB と-10dB/decadeで周波数と 共に応答が低下している様に見えるが、この信号は周波数瞬時値が時間と共に指数関数的 に増加する(200msで1000倍。20msでほぼ2倍)ため、周波数の幅を固定して単位時間 に含まれるパワーを求めると周波数に反比例するためであり、実際の応答特性は図12、13 で見た通り平坦である。
図15 sweep0dB.wavを再生してWaveSpectraでのピーク表示で観察する。
注意
以下の作業では、再生・録音のレベルを一切変更しないこと。使用しているインダクタ、
キャパシタには非線形特性があり、特に本実験で使用している積層セラミックの小型キャ パシタは電圧と共に容量が低下し、これに伴う共振周波数の変化が無視できないためであ る。
課題の趣旨からはCR、LR、LCRの順序でデータを取って頂きたいが、作業の進捗状況 を見て、LCR回路の作業を優先してもよい。LCR 回路に sweep0dB.wav の信号を加え、
これを WaveSpectra で音声ファイルに保存したものがあれば備考 p.23の「画像合成につ いて」に示す手順でデータを取ることで共振現象について一応の考察をすることが可能な ので、この項目だけは必ずクリアすること。
3.CR回路を構成して高域通過のフィルタ動作を確認する。
ブレッドボード上でインダクタの両端をジャンプワイヤで短絡させ(図 2 の例では上段 10列と下段10列)、CR回路を構成する。ブレッドボード上でCRの部分のみを使用して もよいが、以下の作業を通してブレッドボードとPCの入出力端子との結線を共通にするた めである。
PCの音声出力より:
黄ジャンプワイヤ→インダクタの開放側(図2の例では上段10列)
青ジャンプワイヤ→抵抗の開放端(図2の例では下段17列)
PCの音声入力へ:
白ジャンプワイヤ→インダクタの開放側(図2の例では上段10列)
赤ジャンプワイヤ→キャパシタと抵抗の接続部(図2の例では下段12列)
黒ジャンプワイヤ→抵抗の開放端(図2の例では下段17列)
WaveGeneでsweep0dB.wavを再生してWaveSpectraを録音状態にし、L/Rボタン(押 下で表示が 、 と変化する)で観測するチャンネルを切替えて、左右両チャンネルのそれ ぞれについて画面をキャプチャする(図16、17)。左チャンネルが回路全体への入力電圧、
右チャンネルが抵抗両端の電位差(回路に流れる電流に比例)を示す。
図16 回路全体への入力電圧
図17 抵抗両端の電位差
図18 図16、17のピークを重ねたもの
図18は、図 16と図17のピークを画像処理で重ねたもので(備考p.23「画像合成につ いて」参照)、周波数が高くなると抵抗両端の電位差は入力電圧に近づき(キャパシタによ る電圧降下が小さくなり)、回路全体は高域通過のハイパスフィルタとなっていることを示 している。図18は説明用であり、実験中に図18の画像を合成する必要はない。図22(p.15)、
図27(p.19)についても同様である。抵抗両端の電位差が入力電圧より 3dB(ここでも3 は10log102を意味する)低くなる周波数(註参照)が遮断周波数(カットオフ周波数)で、
画素座標からおおよその値は読取ることができる(図9、12、15ではPCのサウンドカー ド入力に左右のレベル差は無いが、レベル差がある場合には、その分を考慮する)。CR 回 路の遮断周波数はキャパシタの静電容量をC 、抵抗の抵抗値をRとするとき、1/(2πC R ) で与えられる。
註:遮断周波数ではキャパシタ(次節のLR回路ではインダクタ)両端と抵抗両端の電位差
(実効値)が等しくなる。両者の位相はπ/2 異なるので、回路全体への入力電圧は抵抗両 端の電位差の2倍ではなく√2倍となり、レベル差は6dBではなく3dBとなる。また、遮 断周波数では、回路全体への入力電圧と回路を流れる電流(抵抗両端の電位差に比例)と の位相差はπ/4となる。
図19は、WaveGeneで「サイン波」を選び、両チャンネルのレベル差が3.0dBとなる周波 数の正弦波を再生した例で、リサジュー図形は回路への入力電圧と抵抗の両端の電位差(す なわち回路全体を流れる電流に比例)とに位相の差があることを示している。キャパシタ の両端の電位差とキャパシタを流れる電流との位相差はπ/2 であるが、これに抵抗両端の 電位差(回路全体を流れる電流と同位相)を加算した全体の電圧と電流の位相差は、この 周波数ではほぼπ/4(サウンドカードの入力インピーダンスが十分大きければレベル差が 10log102となる周波数で正確にπ/4となる)となっている。図19は説明用であり、CR回 路の課題では「サイン波」を再生する作業を行う必要はない。
図19 4300Hz正弦波に対するCR回路の応答
4.LR回路を構成して低域通過のフィルタ動作を確認する。
ブレッドボードでインダクタの両端を短絡していたジャンプワイヤを外し、今度はキ ャパシタの両端をジャンプワイヤで短絡させ(図2の例では下段10列と下段12列)、LR 回路を構成する。
図20 回路全体への入力電圧
図21 抵抗両端の電位差
CR回路と同様に、WaveGeneでsweep0dB.wavを再生してWaveSpectraを録音状態に し、左右両チャンネルのそれぞれについて画面をキャプチャする(図 20、21)。左チャン ネルが回路全体への入力電圧、右チャンネルが抵抗両端の電位差(回路に流れる電流に比 例)を示す。
図22 図20、21のピークを重ねたもの
図20、21を合成した図22では、周波数が低くなると抵抗両端の電位差は入力電圧に近 づき(インダクタによる電圧降下が小さくなり)、回路全体は低域通過のローパスフィルタ となっていることを示している。図18と異なり、2本のカーブは近づいても最後まで同じ 間隔(縦軸は対数値であり比が一定)で離れたままである。これはインダクタの中味が巻
線コイルで、直流に対しても抵抗がある(本実験で使用しているインダクタの直流抵抗は 約0.9Ωで、LCR回路で使用している抵抗の10Ωに対して無視し得る値ではない)ためで ある。CR回路と同様に抵抗両端の電位差が入力電圧より3dB(ここでも3は10log102を 意味する)低くなる周波数(p.13註参照)が遮断周波数(カットオフ周波数)で、CR回路 と同様に画素座標からおおよその値は読取ることができる(サウンドカードの入力に左右 のレベル差がある場合には、その分を考慮する)。LR 回路の遮断周波数はインダクタのイ ンダクタンス(誘導)をL 、抵抗の抵抗値をRとするとき、R /(2πL )で与えられる。
図23は、WaveGeneで「サイン波」を選び、両チャンネルのレベル差が3.0dBとなる周波 数の正弦波を再生した例で、リサジュー図形は回路への入力電圧と抵抗の両端の電位差(す なわち回路全体を流れる電流に比例)とに位相の差があることを示している。キャパシタ と同様にインダクタの両端の電位差とインダクタを流れる電流との位相差はπ/2であるが、
これに抵抗両端の電位差(回路全体を流れる電流と同位相)を加算した全体の電圧と電流 の位相差は、この周波数ではほぼπ/4(サウンドカードの入力インピーダンスが十分大きい 場合でも、インダクタの直流抵抗のためレベル差が10log102となる周波数で正確にπ/4と はならない)となっている。図23は説明用であり、LR回路の課題では「サイン波」を再生す る作業を行う必要はない。
図23 1480Hz正弦波に対するLR回路の応答
5.LCR回路を構成して共振現象を確認する。
CR回路、LR回路では、キャパシタとインダクタを流れる電流と各素子の両端の電位差 との間にはπ/2 の位相差があり(メモリプレーヤがあれば確認できる。備考 p.25「キャパ シタとインダクタでの電圧と電流の位相差について」参照)、位相差の符号は両者で逆であ るため、キャパシタとインダクタが直列になっている場合には、両者の電位差にはπの位 相差、すなわち逆符号の正弦波となる。周波数に関らず同じ実効値の正弦波交流が流れて
いるとき、キャパシタでは両端の電位差(実効値)は周波数に反比例し、一方インダクタ では周波数に比例する。したがって、素子両端の電位差の実効値が両者で等しくなる(位 相差がπなので和は0)周波数が存在し、この周波数ではキャパシタとインダクタを直列に した全体では見かけ上電圧降下が無くなる。これに抵抗が直列に接続されていれば、入力 電圧が全て抵抗にかかることになり、この現象が共振(この例は直列共振)でこのときの 周波数が共振周波数である。周波数に関らず回路全体に同じ実効値の電圧がかかっている とすれば、共振周波数では流れる電流の実効値が最大となる。CR回路、LR回路それぞれ の遮断周波数の積の平方根(インダクタのインダクタンスLとキャパシタの静電容量Cの 積の平方根の逆数を2πで割ったもの)が共振周波数となる。
ブレッドボード上でキャパシタの両端を短絡していたジャンプワイヤを外し、LCR 回路 として使用する。
注意
LCR 回路においても CR/LR 回路と同様に、WaveGene で sweep0dB.wav を再生して WaveSpectraを録音状態にして、スペクトルを観察するが、本節では他の作業に先立ち「音 声ファイル」として保存する。このファイルがあれば、他のデータの取得に失敗したとし ても、備考 p.23「画像合成について」に示す様に共振現象についてある程度の考察が可能 になる。
WaveSpectraの再生/録音メニューで、「ファイルへの録音」の項目で、「ファイルへ同時録音する」
にチェックを入れ(図24 左)、「設定」をクリックし、WaveGeneでsweep0dB.wav を再 生状態にする。WaveSpectraの録音ボタンをクリックして録音状態にすると、「Waveファイル の保存」のウィンドウが開くので(図24右)保存するファイル名を入力して「保存(S)」を クリックする。30 秒~1 分経過したら停止ボタンをクリックし、保存先のフォルダを開き ファイルが正しく生成・保存されたかを確認する。確認ができたら、WaveSpectraの再生/
録音メニューで、「ファイルへの録音」の項目で、「ファイルへ同時録音する」のチェックを外し、「設 定」をクリックする。
図24 ファイルへの同時録音の設定(左)とファイルへの保存(右)
以 下 、CR/LR 回 路 で の 作 業 と 同 様 に 、WaveGene で sweep0dB.wav を 再 生 し て WaveSpectraを録音状態にし(ファイルには保存しない)、左右両チャンネルのそれぞれに ついて画面をキャプチャする(図 25、26)。左チャンネルが回路全体への入力電圧、右チ
ャンネルが抵抗両端の電位差(回路に流れる電流に比例)を示す。入力電圧の周波数特性 を示す図25では、2~3kHz付近でカーブが凹んでいる。PCのサウンドカードの音声出力 は負荷によらず一定の電圧(実効値)を負荷に与えられる訳ではなく、ヘッドホン端子の 出力インピーダンス(高級DAC、ヘッドホンアンプでは0.2Ω~1Ωであるが、PCのサウ ンドカードでは50Ω~80Ω)に比べて小さなインピーダンスの負荷(課題の回路では共振 点で約 11Ω)に対しては、供給できる電圧は小さな値となる(註を参照)が、本課題で必 要な情報は、回路全体への入力電圧と抵抗両端の電位差(何れも実効値)の比であり差で はないので、このことは問題とならない。
註:サウンドカードの信号は交流であるが、例えば1.5Vの電池と50Ωの抵抗が直列になっ ているモデルを考えて、外部に1kΩの抵抗を接続した場合と10Ωの抵抗を接続した場合の 外部抵抗両端の電位差を比較してみなさい。
図25 回路全体への入力電圧
抵抗両端の電位差の周波数特性を示す図26では、1~2kHz付近がピークに見えるが、図 15 で見た様にスイープ信号を用いているため、本来平坦な特性が-10dB/decade で右下が りに表示されており、これを補正して戻すと(備考 p.27「出力インピーダンスについて」
の図40参照。実験の作業中に補正の画像処理を行う必要はない)ピークは2~3kHzにな る。図25、26を合成した図27で2本のカーブが縦軸で見て最も接近した周波数が共振周 波数である。
図26 抵抗両端の電位差
図27 図25、26のピークを重ねたもの
6.正弦波を再生して、リサジュー図形が直線となる周波数を求める。
本節では、WaveGeneで0dBの正弦波をその周波数を変えながら再生して共振周波数を 確認する。WaveSpectraのスペクトルの周波数分解能はFFTメニューの既定である「サン プルデータ数」4096では44100÷4096の約11Hzであり、はじめに「サンプルデータ数」
を32768に変更する(図28左)。リサジュー図形のウィンドウも広げて確認し易くし、必 要ならば(リサジュー図形が直線になることを確認する目的では図形全体を枠に入れる必 要は無いので)WaveSpectraのWaveメニューで「縦軸(Amplitude)」の倍率:でx1以外
を選んで拡大する(図28右)。
図28 FFTの分析区間(左)と波形縦軸倍率(右)の変更
WaveGeneのWave1の波形メニューを「サイン波」に変更し、振幅が0dBとなっているこ とを確認する。周波数の値は整数以外も含め、プルダウンメニューに無い値も直接入力が できるが、分解能の関係から1Hz 未満の設定は無意味である。リサジュー図形が直線とな る周波数を探索し(図29、PrtScでキャプチャすること)、このときの両チャンネルのレベ ルを記録する(図30)。図30の値は、図2の回路での例であり、実験対象の個別の回路(註 を参照)でこの周波数に近い値となるとは限らない。
註:インダクタは全員同じ公称値1mHのものを使用しているが、キャパシタは数種類のも のが共振回路のシリアル番号とは無関係にランダムに割当てられている
図29 リサジュー図形が直線となる周波数を求める。
図30 リサジュー図形が直線となる周波数と両チャンネルのレベル
7.正弦波を再生して、両チャンネルのレベル差が共振周波数でのレベル差+3.01dBとな る周波数を求める。
本節の作業は表紙交付基準には含まれていないが、半値幅についてレポートの記述には 必ず含めること。実験時間中にデータを得られなった場合は、5節冒頭で保存した音声フ ァイルを用い備考p.23画像合成についての要領で下記のf1、f2を求めること(p.25図35 参照)。
WaveGene で再生する「サイン波」の周波数を変えながら録音状態のWaveSpectra で左右 のチャンネルを交互に切替えて両チャンネルのレベル差を記録し、前節で求めた共振周波 数における両チャンネルのレベル差(図30 の例では 1.21dB)に3.01dB(パワー比2:1 に相当するデシベル値)を加えた値(図30 の例では 4.22dB)となる周波数を探索する。
この様な周波数は共振周波数の両側に1個ずつあり、これをf1、f2(f1 < f2)とするとき、
f2 -f1 を半値幅(通常、半値全幅full width at half maximum:FWHMを言う)といい、
共振周波数をf0とすればf1×f2=f02の関係がある。f0 / (f2 -f1 ) は共振のピークの鋭さ を示す量で、Q値(quality factor)という(註参照)。
f1、f2の探索では、はじめにレベルメーターの読みで両チャンネルのレベル差が概略で所 定の値(図30の例では4.22dB)に近くなる周波数をWaveGeneに設定した後、レベルメ ーターではなく、測定モードでスペクトル画面左上に表示されるdB値で所定のレベル差と なる周波数を正確に求める。p.22 図31、32 にf1、f2における右チャンネル(抵抗両端の 電位差)の測定モードでの画面を示すが、左右両チャンネルのそれぞれについて画面をキ ャプチャしておくこと。
註:Q 値の本来の意味は共振周波数において 1 周期に系に蓄えられるエネルギーと散逸さ れるエネルギーとの比であるが、本課題で求めたf0 / (f2 -f1 ) は厳密にはこの定義の Q 値に等しくはならない。共振周波数の決定とは異なり、f1、f2の探索ではp.18で述べたPC サウンドカードの出力インピーダンスの問題に加えて入力インピーダンスの問題、また p.11の注意で述べたキャパシタの容量変化があるため共振周波数でのレベル差+3.01dBと なる周波数を求めても上記定義の Q値は得られない。サウンドカードの入出力インピーダ ンスの影響はf1とf2で等しくなり、容量変化の影響のみとなるので前節で求めたf0と本節 で求めた f1、f2との間に f1×f2=f02の関係はほぼ正確に成り立つ。理想的な回路ではイ ンダクタのインダクタンス(誘導)をL 、キャパシタの静電容量をC 、抵抗の抵抗値をR
とするとき、Q値は、√( L /C ) /R で与えられる。実際の回路部品では、分母のRは抵抗 の抵抗値にインダクタの直流抵抗を加えた値となる。
図31 f1における抵抗両端の電位差
図32 f2における抵抗両端の電位差
備考
レポート作成について
レポートの作成に当って、以下の項目についての記述を含めること。
● 実験に使用した共振回路で使用しているキャパシタの静電容量の推定。
● 半値幅の考察(p.21参照)
● 図 31、32 をキャプチャできた場合にはf1、f2 における左右両チャンネルの位相差【位 相差をφとすると、リサジュー図形の楕円形でY 軸切片の値と上端の値との比が sin φ である。】
画像合成について
図18、22、27は回路全体への入力電圧と抵抗両端の電位差の周波数特性を画像処理で重 ねたもので、例えば次のフリーソフトを用い以下の手順により簡単に得られる。
IrfanView
http://www.irfanview.info/files/iview441.zip (本体:2015/11/29版)
http://www.irfanview.info/files/irfanview_plugins_441.zip (プラグイン:同)
yimg
http://homepage2.nifty.com/galaxystar/yimg.htm (紹介ページ)
http://homepage2.nifty.com/galaxystar/download/yimg550e.zip (2016/01/01版)
5節で保存した音声ファイルから共振周波数、半値幅を求めるには次の様にする。
● 保存した音声ファイルをWaveSpectraの「Waveファイルを開く」( ボタン)で開く。
● FFTメニューの「サンプルデータ数」を8192にする。【スイープ信号なので6節で設定 した32768の様な大きな値にはできない】
● WaveSpectraのウィンドウサイズを最大にし、波形部分を縦に縮めてスペクトル部分の 画面をできるだけ大きくする。
● Peakをクリックしてピーク表示にして、再生ボタンをクリックし、左右両チャンネルの 応答を切替えて表示し、それぞれ PrtSc でキャプチャしファイルに保存する(保存せず IrfanViewで直接Edit→Pasteしてもよい)。
● IrfanView で左右両チャンネルのスペクトルのキャプチャ画像を開き、Image→Show channel→Redで赤成分のみ取り出しbmpで(jpgは赤単独画像には不向き)保存する。
● 2枚の画像をyimgのファイル(F)→開く(O)で順に開き、画像合成(C)→画像合成-自動(A) で「加算」にチェックを入れ、合成画像1、合成画像2で開いた画像を指定し、OKをク リックし、ファイル(F)→保存(BMP,JPG,TIF,PPM)(S)で保存する(図33)。
● IrfanViewで開き、共振点付近の領域(図34左の例では縦軸は-20dB~-40dB、横軸 は1kHz~4kHz)を指定し、Edit→Crop selection(Cut out)でクロップし保存する。
● IrfanView の カ ー ソ ル で 縦 軸 横 軸 の グ リ ッ ド の 画 素 座 標 を 読 取 り 、Image→ Resize/Resample…(図 34 右)で両軸の値を直読できる画面サイズに変更する。この例 では、Preserve aspect ratio[proportional]のチェックを外し、縦軸を25pixels/dB、横軸
を250pixels/Octaveとなる様に拡大している。
● IrfanViewで拡大した画像を開き、カーソルで画素座標を読取り、2本の曲線の Y座標 の差の最小値(このときのX座標が共振周波数を与える)を求める。この例では最小値は 30画素(1.2dBに相当)、X座標は355付近である。
● カーソルで画素座標を読取り、2本の曲線のY座標の差が、最小値に3dB(3.01とする だけの精度は無い)分の75画素を加えた105画素となる点を探索する(図35)。
● カーソルで読取ったグリッドの座標は、X座標10が1kHz、510が4kHz、Y座標は32 が-20dB、532が-40dBとなっている。図35左のf1ではX座標217、右のf2ではX 座標491であり、これを周波数に戻すと、それぞれ2^0.828、2^1.924から1775Hz、3795Hz となる。共振点のX座標はこれから(217+491)÷ 2 = 354で相当する周波数は2^1.376 で2595Hzとなる。この付近では1画素が約7Hzで、FFTそのものの分解能も8192サ ンプルでは5Hz強あり、約2600Hzということになる。
図33 サンプルデータ数8192で分析して画面キャプチャしたものを合成
図34 共振点付近をクロップして、画素座標から値を直読できるサイズに変更する。
図35 カーソルで画素の座標を読み取り、f1(左)f2(右)を探索する。
キャパシタとインダクタでの電圧と電流の位相差について
説明用の図19、23ではCR/LR回路全体への入力電圧と抵抗両端の電位差との位相差を 示していた。純粋にキャパシタまたはインダクタ両端の電位差と抵抗両端の電位差(回路 全体を流れる電流と同位相)とを測定できれば、両素子では電圧と電流でπ/2 だけ位相が ずれていることを観測できるが、残念ながらPCの入出力端子ではGNDが共通であるため、
その様な接続はできない(註参照)。もちろんPCとは独立な信号出力機器(USB接続のヘ ッドホンアンプでは、ヘッドホン端子のGNDはPCのGNDと共通の場合がふつうであり L、C 両端の電位差を同時に計測することはできない)があれば可能であり、例えば WaveGene で生成した正弦波をファイルに保存し、これをメモリプレーヤに転送して再生 すればよい。
註:演習室PCのPC相互のGND 間の抵抗は2~4Ω程度であり、2台のPCを(一方の PCを出力、他方のPCを入力として)用いてもL、C両端の電位差を同時に計測すること はできない。本実験では抵抗の開放側をGNDとして抵抗両端の電位差を計測したが、逆に 次の様にインダクタの開放端をGNDとしてLC両端の電位差を計測することはできる。
PCの音声出力より:
青ジャンプワイヤ→インダクタの開放側(図2の例では上段10列)
黄ジャンプワイヤ→抵抗の開放端(図2の例では下段17列)
PCの音声入力へ:
黒ジャンプワイヤ→インダクタの開放側(図2の例では上段10列)
赤ジャンプワイヤ→キャパシタと抵抗の接続部(図2の例では下段12列)
白ジャンプワイヤ→抵抗の開放端(図2の例では下段17列)
図36は、この接続でLC両端の電位差が共振周波数で減少(インダクタの直流抵抗のた め 0 とはならない)する様子を示す。本註は説明用であり、課題では上記の接続による計 測作業を行う必要はない。
図36 回路全体への入力電圧(白)とLC両端の電位差(シアン)
図37、38はあるポータブル録音機で1kHzの正弦波を再生してCR回路、LR回路にそ れぞれ加えた例で、左チャンネルが抵抗両端の電位差、右チャンネルがキャパシタまたは インダクタ両端の電位差を示している。図37のCR回路では、正しく両座標軸を軸とする きれいな楕円を描いているが、図38のLR回路では楕円の軸は座標軸から少し傾き、しか も少しいびつな形をしている。これは図22で2本の曲線が低域でも一定の間隔を保ってい たのと同様、インダクタの直流抵抗の影響である。
図37 CR回路でキャパシタ(右チャンネル)と抵抗両端(左チャンネル)の電位差
図38 LR回路でインダクタ(右チャンネル)と抵抗両端(左チャンネル)の電位差
出力インピーダンスについて
音声出力の出力インピーダンスが回路のインピーダンス(共振点を含む周波数 20Hz~
20kHz で)に比べて十分小さい場合には、回路全体にかかる電圧(実効値)が一定の定電 圧源とみなすことができ、共振周波数においても回路に供給される電圧が減少することな く、抵抗両端の電位差(実効値)は共振周波数で最大となるきれいな曲線を描く。図39は、
あるヘッドホンアンプ(出力インピーダンス0.65Ω)を信号源に用いて、回路への入力(白)、
抵抗両端(赤)、LCの両端(シアン)を合成したもので、(スイープ信号のため、スペクト ル画面の表示は-10dB/decade で右下がりとなる)図40は図39 の50Hz から下を切って +10dB/decadeの補正(註を参照)をして本来の特性表示にしたものである。図40が示す 通り、周波数を対数で目盛った場合には共振周波数の両側で応答は対称になる。
註:例えば、画素座標を読取って垂直方向傾きの角度を計算してペイントで処理すればよ いが、ペイントで指定できる角度は度単位の整数のみであり正確を期すためには画像処理 ソフトを用いる。フリーでリムーバブル媒体に置いて実行できるポータブル版のGIMP は 以下のURLからダウンロードできる。
http://portableapps.com/apps/graphics_pictures/gimp_portable
図39 出力インピーダンスが十分小さな場合
図40 画像処理で +10dB/decadeの補正をした例
逆に、出力インピーダンスが回路のインピーダンス(測定範囲の周波数 20Hz~20kHz で)に比べて十分大きい場合には、回路全体に流れる電流が一定の定電流源とみなすこと ができ、各素子両端の電位差(以下、何れも実効値)もそのインピーダンスに比例する。
図41~47は、入出力共に平衡端子(信号端子がGNDから独立)を持つあるオーディオ インタフェースを用いた例で、LCR による共振では、抵抗両端の電位差が一定(スイープ 信号によるスペクトル画面の -10dB/decadeを考慮して)で、LCR回路全体にかかる電圧 が共振点で最小となる。図41は、LCR回路の各素子両端の電位差と全体にかかる電圧を合 成したもので、白(White)がLCR回路全体(whole)への入力、黄(yeLlow)がインダ クタL、シアン(Cyan)がキャパシタC、赤(Red)が抵抗Rの各素子両端の電位差を示 している。黄とシアンの交わる周波数が共振周波数で(註参照)、黄、シアンのラインが赤 のラインと交わる点がそれぞれLRフィルタ、CRフィルタの遮断周波数を示し、2つの遮 断周波数の積が共振周波数の自乗になる。
図41 LCR直列回路の入力と各素子両端の電位差
図42は、図40と同様に図41の50Hzから下を切って +10dB/decadeの補正をして本来 の特性表示にしたものである。
図42 図41に+10dB/decadeの補正をした例
註:インダクタはコイルの巻線が直流に対しても抵抗を持つため、黄とシアンが交わりイ ンダクタ両端の電位差とキャパシタ両端の電位差(実効値)が等しくなる周波数は正確に は共振周波数と一致しないが、本課題で用いている部品ではその差は2Hz程度である。
図 43、44 は、このインタフェースによるCR、LR回路における各素子両端の電位差を 合成したもので(色と素子の対応は図41と同じ)2本のラインが交わる点がフィルタの遮 断周波数である。
図43 CR回路のキャパシタ、抵抗の両端の電位差
図44 LR回路のインダクタ、抵抗両端の電位差
図41、42、44でインダクタの両端の電位差を示す黄のラインが低域で直線からずれてい るのは巻線の直流抵抗のためで、キャパシタ、インダクタについてフィルタ回路(CR/LR)
での電位差と共振回路(LCR)での電位差を補色にして重ねると、図45の様にキャパシタ では一致して白のラインになるのに対し、図46のインダクタでは低域の直流抵抗とインピ ーダンスが同程度となる周波数以下では青(共振回路)と黄(LRフィルタ)のラインに分 れている。
また、LCR回路、CR回路、LR回路での抵抗両端の電位差をそれぞれ赤、緑、青の三原 色で合成すると図47の様に、低域でLCR回路とCR回路のラインは重なって黄となるが、
キャパシタが入らないLRの青だけがずれている。高域でもインダクタのインピーダンスは 100Ω程度であるのに対し、低域でキャパシタのインピーダンスは 1kΩを超え、もはや定 電流源とはみなせないことによる。
図45 CR回路、LCR回路のキャパシタ両端の電位差を重ねたもの
図46 LR回路、LCR回路のインダクタ両端の電位差を重ねたもの
図47 CR、LR、LCR回路の抵抗両端の電位差を重ねたもの