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514 化学と生物 Vol. 55, No. 8, 2017

鉄代謝のキープレイヤー フェリチンの鉄給源としての可能性について

フェリチン鉄は「第三」の栄養鉄形態か?

鉄はほぼすべての生物の生育に必須である反面,過剰 に存在した場合,酸素との反応により活性酸素種の発生 を惹起し,生体にとって大きな害となる.この両刃の剣 とも言える鉄を御するため,生命は精緻な鉄の代謝制御 系を発達させた.ヒトにおける鉄の吸収と利用,排出に 関する分子細胞生物学的な研究は,1980年代半ばから 1990年代にかけてトランスフェリン受容体(transferrin  receptor 1; TfR1)遺伝子のクローニングなどを契機に黎 明期を迎え,小腸における非ヘム鉄の吸収に主体的な役 割をもつ輸送体divalent metal transporter 1(DMT1)(1) が見いだされた1997年以降,続々と鉄代謝関連分子の 同定と機能解析がなされる勃興期となっている.鉄の過 剰と欠乏,代謝異常は多くの疾病の原因となる.なかで も,鉄欠乏とそれに伴う鉄欠乏性貧血の罹患者数は,女 性と乳幼児を中心に全世界で10億人以上に上り,最も 深刻な食糧栄養学的問題となっている(2).本稿では,鉄 代謝の古典的キープレーヤーであるフェリチンについ て,食品由来の安全な鉄給源としての可能性について考 えたい.

フェリチンは原核生物から高等植物,脊椎動物に至る ほぼすべての生物種に存在する鉄貯蔵タンパク質で,生 体・細胞において,有害なFe2+イオンの無毒化と隔離 に寄与する.フェリチンの単量体サブユニットは,脊椎 動物の場合約20 kDa,細菌では約19 kDa,高等植物で は約26 kDaで,24個のサブユニットからなる球状の多 量体を形成する(図1.フェリチン多量体は,内部の 空洞に数千個に及ぶFe3+を水酸基やリン酸基を含む無

毒な重合体(ferrihydrite)からなるナノ粒子として貯 蔵するという類い希な機能をもつ.このフェリチン多量 体は,サブユニット間で多数の水素結合,静電的・疎水 的相互作用を形成しており,高い構造安定性を有してい る.ヒトのフェリチンは,主として細胞質に存在し,構 成サブユニットとしてH鎖とL鎖がある.H鎖は第一鉄 酸化部位(ferroxidase site,以下Fox site)を有してお り,Fe2+をFe3+に酸化し鉄を多量体内に取り込む反応 に必須である.一方,L鎖はFox siteをもたず,フェリ チン内部における安定な鉄の保持に寄与する.哺乳類に おいて,H鎖とL鎖は,細胞・組織によってさまざまな 比率で組み合わさり,ヘテロ多量体を形成する(3).ヒト におけるフェリチンの一生について,これまでに多くの ことがわかってきた.すなわち,生合成時には細胞・生 体の鉄ステータスを感知するiron responsive element

(IRE)/iron regulatory protein(IRP)システムを介し た転写後調節を受け(3),多量体への鉄集積には「鉄シャ ペロン」と呼ばれるタンパク質分子の支援を受ける(4). 生体内の鉄ステータスが欠乏状態となった場合,あるい は細胞内での鉄需要が高まった場合には,フェリチン多 量体がオートファジーによる分解を受けることで内部に 蓄えられた鉄が放出される.オートファジーによるフェ リチンの認識と分解には特異的cargo受容体である NCOA4が主体的な役割を担っており,この過程は特に ferritinophagyと呼ばれている(5).Ferritinophagy後の リソソーム内におけるFe3+からFe2+への還元,リソ ソームからのFe2+の排出にかかわる因子については,

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現在研究が進められている.

脊椎動物の場合とは対照的に,高等植物のフェリチン は,多くの場合葉緑体などのプラスチドに局在する.高 等植物のフェリチンは,N-末端部に約30アミノ酸残基 からなるエクステンション領域を有し,機能的には脊椎 動物のH鎖とL鎖両方の特徴を併せもったハイブリッド 型である.高等植物の鉄貯蔵に対するフェリチンの寄与 は,植物種,組織,器官によっても大きく異なる.たと えば,主要作物のなかで,米,小麦など穀類種子の鉄分 に対するフェリチンの寄与は些少であるが,大豆などマ メ科植物の種子においては,鉄分の大半がフェリチンに 含まれる(6).大豆をはじめとするマメ科種子は,植物性 の食品のなかで非常に鉄含有量が高い.そして,その主 体であるフェリチン鉄は,安定性の高いタンパク質外殻 に覆われており,消化管においてフィチン酸など鉄分の 吸収を妨げる低分子化合物との接触が軽減される可能性 があるため,食事由来の有効な鉄の供給源として注目さ れている.

人体は積極的な鉄の排出機構を備えていないため,小 腸における鉄の吸収調節が体内の鉄ステータスを維持す るうえで極めて重要である(7).生体内に存在する鉄の多 くが体内でリサイクルされるが,細胞の剥離などで日常 的に失われる1 mg程度を日々の食品より吸収する必要 がある.非ヘム鉄は多くの場合,Fe3+として食品中に 存 在 し て お り,duodenum cytochrome  (Dcytb) に

よってFe2+に還元され,DMT1により小腸上皮細胞の 管腔側より吸収される(図1).ここで,食品に含まれ るフェリチンの運命について考えたい.筆者らの検討に よると,ダイズ乾燥種子のフェリチンは多量体あたり約 2,500の鉄原子を含有していた.まず,フェリチンの頑 強なタンパク質殻は調理・加工過程でその構造を保ちう るのだろうか? ダイズ種子より,煮沸を伴う通常の加 工過程を経て豆腐を調製した場合,大半のフェリチンが その多量体構造を保持し,内部に鉄を含んでいた.ま た,市販のダイズ加工食品(豆腐,薄揚げ,厚揚げな ど)にも,鉄を蓄えた多量体フェリチンの存在が認めら れた(8).疑似消化液を用いた検討では,植物型フェリチ ンがその多量体構造を維持したまま,腸管に達する可能 性が示されている(9).フェリチン多量体は,高い熱安定 性をもって知られるが,植物由来のフェリチンはその特 有なN-末端ドメインによりさらに構造の安定性を増し ていることから(10),調理,消化といった過酷な条件下 でも構造を維持しうると考えられる.フェリチン鉄の消 化吸収性に関しては,当初否定的な研究結果が示された が,実験手法が確立された昨今は,むしろ鉄剤として用 いられる硫酸第一鉄などの無機鉄と同等の吸収利用率が 報告されている(11, 12).さらに,腸管におけるフェリチ ン鉄の吸収に関し,caco-2培養細胞によるモデル系を用 いた研究では,未変性のフェリチン多量体を受容体を介 したエンドサイトシスによって直接細胞内に取り込む系 図1植物フェリチンの立体構造と小腸に おける鉄の吸収機構

(左)フェリチンは,相同な24個のサブユ ニットからなる球状の多量体を形成する.多 量体の外径は約120 Åで,内径約80 Åの空洞 を備えている.(右)小腸上皮細胞における,

鉄の吸収機構.Ft: ferritin, Dcytb: duodenal  cytochrome  , DMT: divalent metal trans- porter, HCP: heme carrier protein, HO: heme  oxygenase, HEPH: hephaestin, CP: cerulo- plasmin, FPN: ferroportin, Tf: transferrin. 無 機鉄,ヘム鉄,フェリチン鉄の小腸における 吸収経路.ヘム鉄,フェリチン鉄は,未同定 の受容体によるエンドサイトーシス,あるい はピノサイトーシスにより,小腸上皮細胞よ り取り込まれると考えられる.小腸において 形成されたフェリチンの運命は詳らかではな いが,細胞の新陳代謝とともに脱落するほ か,ferritinophagyによる分解を受け,内部 の鉄が利用される可能性も考えられる.

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の存在も指摘されている(13, 14).血液細胞では,TfR1が フェリチン多量体を細胞内に取り込む受容体として機能 することが報告されており(15, 16),腸管においてもフェ リチンの直接的な吸収に,未知の特異的受容体が関与す るのかもしれない.

一方,フェリチン内のferrihydriteミネラル核を模し た合成ナノ粒子(nano Fe(III))の消化吸収性と,鉄剤 としての利用可能性についても最近活発に検討されてい る.Nano Fe(III)も貧血モデルマウスを用いた実験に より,代表的な鉄剤である硫酸第一鉄と同等の消化吸収 率を示し,フェリチン鉄と同様,腸管への吸収時に Dcytbによる還元を必要とせず,一般的な非ヘム鉄の吸 収経路であるDMT1とは別の経路で,エンドサイトシ スを経て吸収されることが示されている(17, 18).以上の 点から,フェリチン鉄,nano Fe(III)とも,①Fe3+の 状態でありながら,小腸上皮細胞による吸収の際に Fe2+への還元を必要としない.したがって,食品中に 含まれる通常のFe3+よりも良好な吸収率を示し,②鉄 剤として服用した場合,反応性が低いことから,硫酸第 一鉄で見られる吐き気や腹痛,下痢といった副作用のリ スクが軽減される(17),といった利点が考えられる.

近年,怒濤の勢いで鉄代謝関連分子が同定され,人体 における特に無機鉄の吸収利用の分子機構についてその 輪郭が浮かび上がりつつある.しかし,小腸におけるヘ ム鉄の吸収利用に直接かかわる輸送体として同定された ヘムキャリアプロテイン(HCP)が,主として葉酸輸 送体として機能する事実が明らかになったことから(19), ヘム鉄の利用に関する分子機序はいまだ混沌としてお り,教科書的には優れた鉄供給源と記されているヘム鉄 の吸収に関する分子機構について実験的な再評価が必要 であると考えられる.フェリチン内包鉄は,植物由来の 食品において可食部分における鉄成分の主要な部分を占 める場合がある.また,外来フェリチン遺伝子の過剰発 現により,作物の鉄含有量を増強する試みがなされてお り,可食部分におけるフェリチンの蓄積と鉄含有量の増 大が認められている(20, 21).近年,このフェリチン内包 鉄を,無機鉄,ヘム鉄に続く,食品栄養学的な見地から 第三の鉄形態として考える動きがあるが,広く認知され るためには,食品中のフェリチンの動態,小腸における 吸収メカニズムなどに関するさらなる研究が期待され る.

  1)  H. Gunshin, B. Mackenzie, U. V. Berger, Y. Gunshin, M. 

F. Romero, W. F. Boron, S. Nussberger, J. L. Gollan & M. 

A. Hediger:  , 388, 482 (1997).

  2)  M. B. Zimmermann & R. F. Hurrell:  , 370, 511 (2007).

  3)  P.  M.  Harrison  &  P.  Arosio:  ,  1275, 161 (1996).

  4)  H. Shi, K. Z. Bencze, T. L. Stemmler & C. C. Philpott: 

320, 1207 (2008).

  5)  J. D. Mancias, X. Wang, S. P. Gygi, J. W. Harper & A. C. 

Kimmelman:  , 509, 105 (2014).

  6)  G. Zhao:  , 1800, 815 (2010).

  7)  篠田粧子:化学と生物,52, 7 (2014)

  8)  T. Masuda:  , 63, 8890 (2015).

  9)  C. Lv, G. Zhao & B. Lönnerdal:  , 26, 532  (2015).

10)  T. Masuda, F. Goto, T. Yoshihara & B. Mikami: 

285, 4049 (2010).

11)  E. C. Theil, H. Chen, C. Miranda, H. Janser, B. Elsenhans,  M.  T.  Nunez,  F.  Pizarro  &  K.  Schumann:  , 142,  478 (2012).

12)  B. Lonnerdal, A. Bryant, X. F. Liu & E. C. Theil: 

83, 103 (2006).

13)  S. Kalgaonkar & B. Lonnerdal:  , 20, 304  (2009).

14)  C.  D.  San  Martin,  C.  Garri,  F.  Pizarro,  T.  Walter,  E.  C. 

Theil & M. T. Nunez:  , 138, 659 (2008).

15)  L. Li, C. J. Fang, J. C. Ryan, E. C. Niemi, J. A. Lebron, P. 

J. Bjorkman, H. Arase, F. M. Torti, S. V. Torti, M. C. Na-

kamura  :  , 107,  3505 

(2010).

16)  S. Sakamoto, H. Kawabata, T. Masuda, T. Uchiyama, C. 

Mizumoto, K. Ohmori, H. P. Koeffler, N. Kadowaki & A. 

Takaori-Kondo:  , 10, e0139915 (2015).

17)  G. O. Latunde-Dada, D. I. Pereira, B. Tempest, H. Ilyas,  A. C. Flynn, M. F. Aslam, R. J. Simpson & J. J. Powell: 

144, 1896 (2014).

18)  J.  J.  Powell,  S.  F.  Bruggraber,  N.  Faria,  L.  K.  Poots,  N. 

Hondow,  T.  J.  Pennycook,  G.  O.  Latunde-Dada,  R.  J. 

Simpson,  A.  P.  Brown  &  D.  I.  Pereira:   

(Lond.), 10, 1529 (2014).

19)  A.  Qiu,  M.  Jansen,  A.  Sakaris,  S.  H.  Min,  S.  Chattopad- hyay, E. Tsai, C. Sandoval, R. Zhao, M. H. Akabas & I. D. 

Goldman:  , 127, 917 (2006).

20)  F. Goto, T. Yoshihara, N. Shigemoto, S. Toki & F. Taka-

iwa:  , 17, 282 (1999).

21)  H.  Masuda,  Y.  Ishimaru,  M.  S.  Aung,  T.  Kobayashi,  Y. 

Kakei,  M.  Takahashi,  K.  Higuchi,  H.  Nakanishi  &  N.  K. 

Nishizawa:  , 2, 543 (2012).

(増田太郎*1,川端 浩*2,3,*1 京都大学大学院農学研究 科,*2 金沢医科大学大学院医学研究科,*3 京都大学大 学院医学研究科)

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化学と生物 Vol. 55, No. 8, 2017 プロフィール

増田 太郎(Taro MASUDA)

<略 歴>1997年 京 都 大 学 農 学 部 卒 業/

1999年同大学院修士課程修了/同年電力 中央研究所生物科学部/2003年株式会社 島津製作所ライフサイエンス研究所/2005 年農学博士(京都大学)/2006年京都大学 大学院農学研究科助教/2015〜2016年米 国国立衛生研究所客員教授(在外研究)

<研究テーマと抱負>生命の金属利用に関 する研究.特に,金属含有タンパク質の構 造形成,活性発現,分解に至る一生につい て<趣味>渓流釣り,山行き,読書,将棋

川 端  浩(Hiroshi KAWABATA)

<略 歴>1988年 京 都 大 学 医 学 部 卒 業/

1996年に京都大学 博士(医学)を取得し,

同年より2000年まで米国ロサンゼルスの Cedars-Sinai Medical Centerに留学.留学 中にトランスフェリン受容体2を分子ク ローニングした/2000〜2005年金沢医科 大学・血液免疫内科講師/2005年より京 都大学医学研究科血液・腫瘍内科の助手/

助教/講師を経て,2016年7月より金沢医 科大学血液免疫内科学の特任教授<研究 テーマと抱負>個体における鉄代謝制御と 赤血球造血のしくみに興味をもっている.

このほか,骨髄異形成症候群やキャッスル マン病といった難治性の血液疾患にも興味 をもっている<趣味>ハーモニカ,読書

(歴史書)

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.514

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