• Tidak ada hasil yang ditemukan

今日の話題 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "今日の話題 - J-Stage"

Copied!
3
0
0

Teks penuh

(1)

今日の話題

510 化学と生物 Vol. 51, No. 8, 2013

共生細菌による害虫の農薬抵抗性獲得機構

ホソヘリカメムシは土壌中の農薬分解菌を獲得して抵抗性になる

世界的な食糧難が課題となっている昨今,害虫防除資 材としての農薬の重要性はますます高まっており,さま ざまなタイプの農薬が開発され農業現場で使用されてい る.また,農薬は病原性原虫を媒介するカやツェツェバ エなど吸血性害虫の防除や,ゴキブリやシロアリといっ た家屋害虫の防除にも広く用いられており,公衆衛生の 分野においてもその重要性は高い.しかしその一方で,

単一の農薬を連続使用するとしばしば農薬抵抗性の害虫 が出現することが古くから知られてきた.現在までに 500種類以上の昆虫・ダニにおいて農薬への抵抗性発達 が報告されており,世界的な問題となっている(1).なか にはコナガやハマダラカのように複数タイプの農薬が効 かなくなった害虫もおり,農薬以外の防除法が確立され ていないことから作物生産現場に甚大な被害を及ぼして いる事例も見られる.害虫の農薬抵抗性のメカニズムと しては,外骨格の肥大化による農薬浸透性の低下,農薬 の解毒・排出能力の向上,受容体などの農薬標的タンパ ク質の構造変化などさまざまなものが知られている.従 来,このような抵抗性は 昆虫自身の遺伝子によって決 まる性質 とごく当たり前のように考えられてきた.し かし最近われわれは,体内に共生する細菌が宿主害虫の 農薬抵抗性に大きく寄与する事例を発見したのでここに 紹介する.

昆虫は100万種以上が知られる陸上最大の生物群の一 つである.その独特の形態や色彩がひと際目をひくが,

それら昆虫の多くが体内に高度な共生系を発達させてい ることはあまり知られていない.作物害虫や衛生害虫の

ほとんどはその体内に共生細菌を保持しており,緊密な 相互作用を行っている.これら共生細菌は昆虫体内に発 達する共生器官の内腔中や,ときにはその細胞内に局在 しており,エサに不足する栄養素を補償するなど宿主昆 虫の栄養代謝において極めて重要な役割を果たしてい

(2, 3).ダイズの害虫として知られるホソヘリカメムシ 

( )(図1A)は消化管に盲嚢(もうの う)と呼ばれる袋状の組織を多数発達させており,その なかに   属の細菌を保持している.われわ れのこれまでの研究から,このカメムシは環境土壌中に 生息する   共生細菌を口から取り込み消化 管に発達する盲嚢内に共生させることが明らかとなって きた(4)

ホソヘリカメムシの   共生細菌は 

β

 プロ テオバクテリア綱に属する土壌細菌の一種で,農耕地に も普通に見られる細菌である.われわれが土壌中におけ る   共生細菌の遺伝的多様性を調査したと ころ,単離された共生細菌系統のなかに有機リン系殺虫 剤であるフェニトロチオンを分解するものがいくつか含 まれていることがわかってきた(図1B).フェニトロチ オン分解性  (フェニトロチオン分解菌)

とフェニトロチオンを分解できない  (非 分解菌)をそれぞれホソヘリカメムシに感染させ,その 宿主への影響を調査した.その結果,フェニトロチオン 分解菌に感染したカメムシと非分解菌に感染したカメム シの間で,共生細菌の定着率や宿主の生存率,成長速 度,体サイズなどに有意な差は検出されなかった.しか

(2)

今日の話題

511

化学と生物 Vol. 51, No. 8, 2013

図1ホソヘリカメムシ 

 と農薬分解性共生 細菌

(A) ホ ソ ヘ リ カ メ ム シ 成 虫.(B) 

フェニトロチオン含有培地上におけ る   共生細菌のフェニト ロチオン分解活性.分解菌のコロ ニー周辺はフェニトロチオンが分解 されるためハローが見える.

しフェニトロチオン分解菌に感染したホソヘリカメムシ では,非分解菌に感染したホソヘリカメムシに比べて フェニトロチオンへの抵抗性が大幅に増大していること が明らかになった(5).この結果は,農薬分解菌の感染に よってカメムシが農薬抵抗性を獲得したことを示してい る.

フェニトロチオン分解性   の分解過程を 調査したところ,フェニトロチオンはまず昆虫にとって ほぼ無毒の3-メチル-4-ニトロフェノールに分解され,そ の後複数のステップを経て炭素源として利用されること がわかってきた.このことは,分解菌はフェニトロチオ ンをエサとして食べて増殖することを示している.実験 室内において,野外農耕地から採取してきた土壌に週1 回の頻度でフェニトロチオンを4回散布したところ,そ こから単離培養された土壌細菌の実に80%以上がフェ ニトロチオン分解菌で占められていた.この土の上でホ ソヘリカメムシを飼育し成虫になった段階でフェニトロ

チオン分解菌感染の有無を調査したところ,90%以上の 個体が分解菌を保持していることが明らかとなった(5). コントロールとして蒸留水を散布した土壌ではフェニト ロチオン分解菌は検出限界値以下の密度であり,そのよ うな土でホソヘリカメムシを飼育しても分解菌の感染は 全く見られなかった.これらの実験結果は,農耕地にお ける農薬(フェニトロチオン)の散布が土壌中の農薬分 解菌の増殖を促し,さらには農薬分解菌のカメムシへの 感染を促進し,これによって共生細菌を介したカメムシ 類の農薬抵抗性発達が促進される可能性を強く示唆して いる.これらの結果を総合すると,共生細菌によるホソ ヘリカメムシの農薬抵抗性獲得は以下のような過程を経 て成立するものと考えられる(図2.①農薬の連続散 布によって土壌中の農薬分解菌が増殖する,②カメムシ がこれら農薬分解菌を土壌中から取り込んで共生する,

③農薬分解菌と共生したカメムシは農薬抵抗性を獲得す る.

図2共生細菌を介したカメムシ類 の農薬抵抗性獲得過程の概略図

(3)

今日の話題

512 化学と生物 Vol. 51, No. 8, 2013

体内の共生細菌によって害虫が農薬抵抗性になる事例 はこれまで知られておらず,われわれによる研究が世界 で初めての報告と言える.一般的に,農薬抵抗性は昆虫 自身の遺伝子に生じた突然変異に起因するものであり,

昆虫集団中に現れた抵抗性個体が農薬の使用によって選 択を受け,しだいに集団中の個体数を増加させて顕在化 するものと考えられている.今回の共生細菌による農薬 抵抗性獲得機構の発見はこのような従来のモデルを否定 するものではなく,それに加えて,これまで知られてい なかった全く新しい農薬抵抗性の発達機構を提示するも のと言える.害虫が土壌中の農薬分解菌を取り込んで農 薬抵抗性になるという現象は,現行の害虫防除法におい ては全く考慮されていない盲点とも言え,今後その現状 把握と対応策の検討が必要になると言えるだろう.次世 代シークエンスの発達により土壌微生物叢のメタゲノム 解析が行われ,その多様性が徐々に明らかになりつつあ る.しかし,それら土壌中の微生物動態が植物や昆虫な ど農耕地の生きものたちにどのような影響を及ぼしてい るのか,ほとんどわかっていないのが現状である.本現 象の総合的な理解を通して,従来の害虫のみに主眼をお いた防除ではなく,土壌微生物叢の動態をも考慮した新 たな害虫防除法の確立が期待される.

(生物系特性産業技術研究支援センターイノベーショ ン創出基礎的研究推進事業の支援による).

  1)  M. E. Whalon, D. Mota-Sanchez & R. M. Hollingworth :

“Global  Pesticide  Resistance  in  Arthropods,”  CABI,  Ox- ford, 2008.

  2)  P.  Buchner :“Endosymbiosis  of  Animals  with  Plant  Mi- croorganisms,” Interscience, New York, 1965.

  3)  Y. Kikuchi : , 24, 195 (2009).

  4)  Y. Kikuchi, T. Hosokawa & T. Fukatsu : , 73, 4308 (2007).

  5)  Y. Kikuchi, M. Hayatsu, T. Hosokawa, A. Nagayama, K. 

Tago  &  T.  Fukatsu : , 109

8618 (2012).

(菊池義智,産業技術総合研究所)

プロフィル

菊池 義智(Yoshitomo KIKUCHI)   

<略歴>2005年茨城大学大学院理工学研 究科博士課程修了(理学)/同年日本学術 振興会特別研究員 (PD)/同年米国コネチ カット州立大学研究員/2009年産業技術 総合研究所ゲノムファクトリー研究部門博 士研究員/2010年同研究所生物プロセス 研究部門研究員/2013年同研究所主任研 究員,現在に至る/2010年より北海道大 学大学院農学研究院微生物新機能開発学分 野教員を兼任<研究テーマと抱負>共生微 生物による害虫の農薬抵抗性発達メカニズ ムの解明のみならず,そもそも共生という 現象がどのような分子メカニズムで成り 立っているのかを明らかにしたいと考えて います.病原性の研究に比べ共生の研究は まだまだこれからです.特に宿主昆虫の自 然免疫系と共生微生物の関係に着目し研究 を進めています<趣味>登山,犬,スポー ツ観戦

Referensi

Dokumen terkait

4, 2015 昆虫病原性糸状菌が生産する生理活性物質の単離 ・ 同定 リポペプチドの新規生合成機構 さまざまな効能がうたわれる健康食品「冬虫夏草」は その名のとおり,冬の間,宿主昆虫(コウモリガ幼虫) 内で過ごしていた糸状菌( )が,夏に なり盛んに増殖した結果,ついには宿主を殺害し,表面 に生じた子実体(きのこ)を指す.冬虫夏草は古来,中