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昆虫病原性糸状菌が生産する生理活性物質の単離・同定

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220 化学と生物 Vol. 53, No. 4, 2015

昆虫病原性糸状菌が生産する生理活性物質の単離 同定

リポペプチドの新規生合成機構

さまざまな効能がうたわれる健康食品「冬虫夏草」は その名のとおり,冬の間,宿主昆虫(コウモリガ幼虫)

内で過ごしていた糸状菌( )が,夏に なり盛んに増殖した結果,ついには宿主を殺害し,表面 に生じた子実体(きのこ)を指す.冬虫夏草は古来,中 国において漢方薬として重宝されており,滋養強壮,健 康促進効果等が報告されている. のように昆 虫の幼生あるいは成虫の内部に侵入後,寄生し,最終的 に宿主昆虫を死に至らしめる糸状菌は昆虫病原性糸状菌 と称される.昆虫病原性糸状菌は宿主に対する特異性が 高いこと,また,植物病原菌に対しても抗菌作用を示す ことから,安全な微生物農薬や土壌改良材として市販さ れているものもあり,今後も利用の拡大が期待されてい る.さらに昆虫病原性糸状菌は宿主への侵入過程,増殖 過程において,昆虫の免疫システムに対する忌避物質や 昆虫に対する毒素等,さまざまな生理活性物質を生産し ていると予測されていることから,新規生理活性物質探 索源としても注目されており,主に中国,台湾,タイ王 国などで探索研究が行われている.これまでに筆者らは 日本国内で採取した昆虫病原性糸状菌を用いて,植物病 原菌に対する抗菌活性を指標としたスクリーニングや,

構造に着目したスクリーニング等を行ってきた結果,多 くの新規生理活性物質の発見に成功している(1〜5)

ゲノム解析の進捗により,通常糸状菌は少なくとも30 個程度は異なる骨格をもった生理活性物質を作りうる能 力を秘めていることが明らかとなってきた.しかし,筆 者らがさまざまな条件下で培養したサンプルについて,

HPLCにより網羅的な代謝物解析を行った際には,検出 できる化合物ピークは10個程度であり,同一骨格を有 する類縁体が含まれていることも考えると,筆者らが検 討した程度の培養条件では多くの生合成遺伝子が未発現 もしくは発現量が非常に低い状態であると考えられる.

現在はこのような未利用の資源を有効活用するためにさ まざまな試みがなされている.これまでの研究により,

糸状菌の二次代謝による生理活性物質生合成において は,クロマチン構造の変化によるエピジェネティックな 制御が行われていることが明らかとなっており,その事 実に基づいて,東北大の浅井らは化合物添加によるクロ マチン構造の変化を誘導するケミカルエピジェネティッ クの手法により新規化合物の発見に成功している(6).し かし,この実験系では生産誘導される化合物は同一の基 本骨格,すなわち一つの生合成遺伝子の発現誘導にとど

図1A)リポペプチドVerlamelin生合成遺伝子クラスター,(BVerlamin生合成経路

一次代謝により合成された炭素数14の脂肪酸(ミリスチン酸)を出発物質とし,5位が水酸化されたものがVlmSに取り込まれる.その 後,6つのアミノ酸が順次縮合したのち,VlmSの最後の縮合ドメインにより環化が起こり,Verlamelinが生合成される.VlmA:脂肪酸水 酸化酵素,VlmB:チオエステラーゼ,VlmC:AMP依存リガーゼ.

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まることが多く,全体の生産量が増えた結果,これまで は検出できていなかった誘導体の発見につながったもの と思われる.近年では糸状菌での形質転換法が整備され たこと,また,相同組換え効率を挙げる手法が確立され たことなどから,ゲノム解析により得られたデータを基 に遺伝子工学的手法により未発現生合成遺伝子の解析・

利用も行われており,今後の新規化合物の発見が期待さ れている.

筆者らはこれまでの探索研究の過程で,昆虫病原性糸 状菌  sp. MAFF635047に着目し,生産す るさまざまな二次代謝産物の中から一つの化合物を単離 精製したところ,糸状菌では報告例の少ない脂肪酸側鎖 とペプチドからなるリポペプチド系化合物であり,Ver- lamelin (VL)であることを示した(7).本菌がこれまで 報告されていないVL新規類縁体を生産すること,ま た,VL生合成において脂肪酸部位とペプチド部位の結 合反応に興味がもたれたことから生合成遺伝子の同定を 行った.MAFF635047株が有する非リボソームペプチ ド生合成酵素遺伝子を順次破壊したところ,NRPS4遺 伝子( )破壊株においてVLの生産が消失したこと から,この遺伝子を含む領域にVL生合成遺伝子クラス ターが存在しているものと予測した.周辺領域を解析し たところ,VL生合成に関連すると思われる酵素遺伝子,

制御因子遺伝子が存在していたが,脂肪酸側鎖部分の生 合成に関与する遺伝子は見いだされなかった(8)(図1 生合成に関与すると思われた遺伝子それぞれについて機 能解析を進めたところ,クラスター内に存在する水酸化 酵素遺伝子( )産物による炭素数14の脂肪酸(ミ リスチン酸)の5位への水酸基付加がVLへの脂肪酸取 込には必須であることが明らかとなった.ミリスチン酸 本体の生合成については,ゲノム上にただ一つの脂肪酸 生合成酵素遺伝子しか存在しないこと, 付近には 脂肪酸を合成しうるようなポリケタイド生合成酵素遺伝 子がないことから考えると,VLの脂肪酸側鎖は一次代 謝によって合成されたミリスチン酸の5位がVlmAに よって水酸化された後,VlmSの出発基質としてVL生 合成に用いられると考えられた.これまで報告されたリ ポペプチドの生合成において,脂肪酸の水酸化が必須条 件であった例はなく,本化合物のような機構は初めての 報告である.また側鎖の脂肪酸について,VlmA破壊株 において炭素数が異なる脂肪酸を外部添加した場合,

VlmSがミリスチン酸以外も取り込み,VL誘導体を生 産したことから,今後,VlmA, VlmSに変異を導入する ことにより,さまざまな脂肪酸を取り込んだ多様な新規 誘導体の生産が可能となると考えられる.

ゲノム解析を行った結果,MAFF635047株はVL生合 成遺伝子以外に少なくとも27個の化合物生合成遺伝子 を有していることが明らかとなったが,これまでのとこ ろ最終化合物が同定されたものはVLただ一つだけであ る.現在,ランダム変異導入による化合物生産誘導や,

麹菌 を宿主とする異種化合物生産を 行った結果,MAFF635047株では生産が確認されてい ないピークを見いだしており,いまだ同定できていない 代謝産物であると考えられる.今後,これら化合物の同 定を進めることにより,新規生理活性物質の発見が期待 される.

  1)  M. Azumi, K. Ishidoh, H. Kinoshita, T. Nihira, F. Ihara, T. 

Fujita & Y. Igarashi:  , 71, 278 (2008).

  2)  S. Y. Lee, H. Kinoshita, F. Ihara, Y. Igarashi & T. Nihira: 

105, 476 (2008).

  3)  S. P. Putri, H. Kinoshita, F. Ihara, Y. Igarashi & T. Nihira: 

72, 1544 (2009).

  4)  S. P. Putri, H. Kinoshita, F. Ihara, Y. Igarashi & T. Nihira: 

 (Tokyo), 63, 195 (2010).

  5)  S. P. Putri, K. Ishidoh, H. Kinoshita, S. Kitani, F. Ihara, Y. 

Sakihama,  Y.  Igarashi  &  T.  Nihira:  ,  117, 557 (2014).

  6)  T.  Asai,  T.  Yamamoto,  N.  Shirata,  T.  Taniguchi,  K. 

Monde,  I.  Fujii,  K.  Gomi  &  Y.  Oshima:  , 15,  3346 (2013).

  7)  K.  Ishidoh,  H.  Kinoshita,  Y.  Igarashi,  F.  Ihara  &  T.  Ni- hira:   (Tokyo), 67, 459 (2014).

  8)  K.  Ishidoh,  H.  Kinoshita  &  T.  Nihira: 

98, 7501 (2014).

(木下 浩,大阪大学生物工学国際交流センター)

プロフィル

木 下  浩(Hiroshi KINOSHITA)

<略歴>1996年京都大学大学院合成・生 物 化 学 専 攻 博 士 後 期 課 程 修 了/ 同 年 NEDO最先端分野技術研究員/1997年大 阪大学大学院工学研究科応用生物工学専攻 助手/2002年同大学・生物工学国際交流 センター助教,現在に至る<研究テーマと 抱負>糸状菌が生産する生理活性物質に関 する研究<趣味>スポーツ観戦

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