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出芽酵母発現システムを 利用した天然物の生物合成 - J-Stage

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近年,天然物の生合成遺伝子の情報をもとに,有用天然物を 獲得する取り組みが行なわれるようになってきた.中でも植 物および真菌といった真核生物から単離された生物活性物質 の生物合成に関する報告がなされてきた.ここでは,特に真 核生物由来の天然物生合成遺伝子を出芽酵母の異種発現系を 用いて発現させ,有用物質の生産に挑戦する取り組みについ て解説する.

1929年のフレミングによるペニシリンの発見を皮切 りに,自然界に生息する微生物,植物,海産無脊椎動物 などを対象にして,これまでに数多くの有機化合物,い わゆる天然有機化合物(天然物)が発見されてきた.天 然物そのものはもちろん,その合成誘導体など天然物を 基盤とした様々な有機化合物は,古くから医薬品や栄養 補助食品として幅広く使用されており,多くの人々の健 康的な生活の営みを支えていることから,天然物が人類 に与えてきた恩恵は大きい.古くから新規天然物の発見 が,化合物の構造決定法の開発,化学合成法の開発,生

物活性の作用機序解明や生合成機構の解明などと相まっ て,有機化学分野の学問発展における中心的な役割を 担ってきた.そのため,現代においても新たな新規天然 物を取得することの学術的,産業的な重要性は不変であ る.ましてや,ポストゲノム時代である昨今,低分子有 機化合物を,生体内に存在するタンパク質など生体高分 子の機能を制御する道具や解析する道具として使い,生 命現象を紐解く「ケミカルゲノミクス」あるいは「ケミ カルバイオロジー」と呼ばれる分野が勃興し,その創薬 との深い関連性から低分子化合物の重要性が注目されて いる(1)

.そして,コンビナトリアル化学由来合成化合物

にも決して劣らないほど化学構造的,生物活性的に幅広 い多様性をもつ天然物はこれらの学問を強く推し進める 力をもつ.有名な例ではあるが,Schreiberらによって 行なわれた免疫抑制剤FK506の研究において,FK506 の直接の標的タンパク質としてFKBP (FK506 binding  protein) が 同 定 さ れ た こ と で,カ ル シ ニ ュ ー リ ン/

NFAT経路を介したサイトカイン産生阻害作用が明ら かにされたことは記憶に新しい.このように,天然物を 起爆剤として生命現象が分子レベルで紐解かれることは 枚挙に暇がなく,今後も次々と新規有用天然物が発見さ Engineered Biosynthesis of Natural Products in 

Yuta  TSUNEMATSU,  Hisao  MORIYA,  Kenji  WATANABE, 

*1静岡県立大学薬学部,*2岡山大学異分野融合先端研究コア

【解説】

【2006年農芸化学研究企画賞】

出芽酵母発現システムを 利用した天然物の生物合成

恒松雄太 * 1 ,守屋央朗 * 2 ,渡辺賢二 * 1

(2)

れることに期待が寄せられている.

ところが,現状では新規天然物の獲得がますます難し くなってきている.その理由としては,①長い歴史の中 で数多くの天然物が探索され,すでに発見されてしまっ たこと,②採集できる生物,培養できる微生物は限られ た一部の種であることから,これらが化合物多様性の限 界となっていること,などが挙げられる.①について は,近代の天然物化学を築きあげた先人たちの長年の努 力の賜物であり,特に 誌を中心とした日 本人研究者の貢献が大きい.②については,深海やアマ ゾンの奥地など,極地に生息する生物を研究対象にする ことで地球の生物多様性を最大限に生かすことが可能と なる.より人手の届きにくい場所には未だ発見されてい ない生物資源が数多く存在するだろう.また,培養困難 な微生物を培養する技術も着々と向上しつつある.

ただし,新規天然物を獲得するためのこれらのアプ ローチは決して真新しいものではなく,どちらかと言え ば伝統的な天然物化学の研究手法である.すなわち,斬 新な新規天然物獲得方法が開発されることで,現代の天 然物化学に革命をもたらし,次世代の天然物化学へと駒 が進むことが期待される.近年,天然物の生合成遺伝子 の情報をもとに,新規天然物を獲得する取り組みが行な われるようになってきた.本稿では,そのなかでも特 に,出芽酵母を用いたタンパク質発現系による新規天然 物生産への取り組みについて解説する.

出芽酵母タンパク質発現系による化合物生産

出芽酵母 は,酒造における

アルコール発酵や味噌作りでの発酵に利用されている古 くから我々の食生活になじみ深い微生物である.一方,

真核細胞のモデル生物としても利用されており,細胞周 期や細胞内シグナル伝達系,タンパク質分泌系など様々 な研究領域で解析に用いられてきた.出芽酵母が研究材 料として広く利用された理由として,優秀な宿主‒ベク ター系の確立に成功したことがあげられる.形質転換方 法,選択マーカー遺伝子,自律複製可能なプラスミド,

タンパク質発現を誘導するプロモーター配列などが次々 と開発され,現在では大腸菌とほぼ同様なタンパク質発 現が可能となっている.そのうえ,酵母は真核生物であ るため,原核生物である大腸菌で発現が難しいタンパク 質の発現が可能である.酵母を用いて外来タンパク質を 発現させる際には2つの方法がある.目的遺伝子を組み 込んだベクターを細胞内にプラスミドとして保持させる か,あるいは目的遺伝子をゲノムに挿入させる方法であ

る.それぞれの方法に利点があるが,これらを組み合わ せれば数多くの外来遺伝子を発現させることが可能であ る.

さて,放線菌や糸状菌は多くの二次代謝産物を生産す ることが知られているが,その生合成に関与する遺伝子 は染色体上でクラスターを形成している.化合物にもよ るが,1つの二次代謝産物を生合成するためには1 〜20 個程度の遺伝子の発現が必要になる.これらの遺伝子を 酵母内で活性のある形で発現させることができれば,酵 母の代謝経路を利用して化合物の生産が可能となる.多 くの種類のタンパク質を活性化型で,しかも複数の遺伝 子を発現可能な酵母は,化合物生産の宿主として魅力的 であると考えられる.そのうえ,酵母は多くの薬剤排出 ポンプを有していることから,生産させた化合物に対す る耐性が大腸菌に比較すると飛躍的に強いと考えられ る.加えて,適切な遺伝子を導入することで薬剤耐性を 強化することも可能である.その他にも,増殖速度が速 いこと,相同組換えによる遺伝子破壊が可能なこと,培 養や取り扱いが簡単なことなど,多くのメリットが存在 する.以上の観点から,近年,出芽酵母を宿主とした外 来遺伝子発現系で有用な化合物を生産させる試みがなさ れてきた.

植物由来テルペノイド アルテミシン酸の生物合成 マラリアは 属の原生動物が蚊の唾液腺を 介して血液中に侵入することにより発症し,世界中で毎 年100万人以上の死者を出すほどの重篤な感染症であ る.その治療薬としてはキニーネ,クロロキンなどが従 来使用されていたが,強い副作用や薬剤耐性マラリア株 の出現が問題となっていた.ところで,キク科ヨモギ属 植物であるクソニンジン ( ) は中国の 伝承薬として知られ,古くから解熱やマラリアの治療に 用いられてきた.1972年にその抗マラリア活性成分と してアルテミシニンが単離され,テルペノイド骨格を基 本骨格とした,分子内に珍しいエンドペルオキシド構造 を有する特徴的な化学構造が明らかにされた.

アルテミシニンは前述した抗マラリア薬と比べて副作 用や薬剤耐性が少ないとされ,今日では薬物代謝を改善 した数種の誘導体がマラリア治療の第一選択薬として使 用されている.本化合物の強力な生物活性発現には,分 子内に存在するエンドペルオキシド部位が重要な役割を 担っていることが知られている.その作用機序について は,①小胞体Ca2+-ATPaseオルソログであるPfATP6 の阻害説,②ヘモグロビン分解物であるヘム鉄と結合

(3)

し,マラリア色素産生を阻害することに起因する活性酸 素産生説,など諸説あり,現在でも活発な議論が重ねら れているところである.

さて,このようにマラリア治療に有用なアルテミシニ ン類であるが,現在,本化合物の供給は主に生産植物の 栽培と誘導化反応による半合成によって行なわれてい る.ところが,生産植物の生育速度は遅く,そのうえ生 産量が十分でなく,精製に多くの時間が費やされること などのいくつかの制約から,膨大な需要があるにもかか わらず十分な供給が達成されていない.本化合物につい て,いくつかの合成研究例があるものの,複数の不斉点 を有するがうえに安価で簡便な合成法は生み出されてお らず,化学合成による実用的な化合物供給にも今しばら くの検討が必要である.何より,マラリアを発症する亜 熱帯から熱帯地方には発展途上国が多く,経済的な理由 から満足した薬物投与が行なわれていないことが問題と なっている.以上のことから,より安価に,大量に抗マ ラリア特効薬を供給することが必要である(2)

.このよう

な背景のもと,Keaslingらは,出芽酵母を遺伝子改変す ることで,単純な炭素および窒素源からアルテミシニン 前駆体を迅速かつ高収量にて生合成させることに成功し た(3)

セスキテルペノイド骨格からなるアルテミシニンは,

その生合成中間体アルテミシン酸から半合成によって得 られる.このアルテミシン酸は,メバロン酸経路あるい は非メバロン酸経路にて生合成されたファルネシルピロ リン酸 (FPP) を基質とし,テルペン環化酵素であるア モルファジエン合成酵素 (ADS) が働くことで,まずア ルテミシニンの基本炭素骨格を有した生合成中間体アモ ルファジエンが生合成され,続く数段階の酸化反応を経 て生合成されることが知られている(図

1

そこで,まずはアモルファジエンの生産を目指し,

プロモーターの制御下に 遺伝子を配置した 高コピー型プラスミドを構築し,これを出芽酵母に導入 した.すると,出芽酵母内在性のFPPおよび導入した ADS酵素の働きにより,確かにアモルファジエンが生 図1アルテミシン酸の生物合成

代謝経路のうち,遺伝子組換えによって活性化させた経路を太矢印で,抑制させた経路を点線矢印で示した.HMG-CoA : ヒドロキシメチ ルグルタリルCoA,IPP : イソペンテニル二リン酸,DMAPP : ジメチルアリル二リン酸,FPP : ファルネシル二リン酸,Met :l-メチオニ ン

(4)

産されたが,その生産量は4.4 mg/ と低収量であった.

このとき,高コピープラスミドのガラクトース誘導発現 により は過剰発現されており,細胞内に十分ADS 酵素が存在していると考えられたことから,基質である FPPの供給量の不足が疑われた.そこで,出芽酵母の FPP産生能を向上すべく,遺伝子導入ならびに破壊実 験による代謝経路の改変を行なった.最終的に,①出芽 酵母ゲノム上 のプロモーター領域を相同組換え にて プロモーターに置換すること,②ガラク トース誘導による強制発現が可能な ,  , 

遺伝子を染色体上に挿入することによって,ア モルファジエンの生産量を153 mg/ にまで向上させた 出芽酵母株EPY224株を創出することに成功した.

①については,FPPをスクアレンに変換する酵素を コードする のプロモーター領域をメチオニンの 存在にて転写活性が抑制される のプロモーター へと置換することで, の発現量を低下させ,FPP がエルゴステロール生合成の経路にて消費されることを 妨げている.ところで,FPPはメバロン酸経路の律速 酵素であるHMG-CoA還元酵素 (HMGR) の分解を誘導 するシグナル分子であることが知られており,過剰な FPPの蓄積によってメバロン酸経路に負の制御がもた らされる.ところが,小胞体膜貫通ドメインであるN 末端領域を削ったtHMGRはFPPによる分解を受けず,

遊離型のタンパク質として酵素活性を示すことから,こ の 遺伝子を出芽酵母内に導入した.なお,この とき同時にメバロン酸の生合成経路全般の活性化を目的 とし,転写因子 (本来はメバロン酸を含めたエ ルゴステロール生合成の活性化を担う)とFPP合成酵 素であるERG20についても,強制発現可能な形として 酵母染色体上に導入した.このように,出芽酵母が本来 もち合わせている代謝経路を利用し,かつ適切に改変す ることで目的化合物の収量を大幅に上昇させることが可 能となった.

続いて筆者らは,アモルファジエンからアルテミシン 酸への変換を行なう酵母株の作製を目指し,まずはその 変換反応を司る酵素の同定を行なった.アルテミシン酸 をはじめとし,セスキテルペンラクトン骨格を有する化 合物はキク科植物に特徴的であり,またその初めの反応 はシトクロムP450酵素によって触媒されることが示さ れていた.そこで,バイオインフォマティクスによりキ ク科植物においてのみ高く保存されているシトクロム P450酵素の遺伝子配列をもとに縮重プライマーを設計 し,クソニンジン由来cDNAプールから目的の遺伝子 を増幅し,495アミノ酸残基数からなるシトクロムP450

酵素 ( ) を同定した.当初の予測通り,本 酵素のアミノ酸配列はキク科植物でのみ高く保存されて おり(identify : 約85%)

,また各種テルペノイドを水酸

化するシトクロムP450酵素群と近い系統であることも 明らかとなった.

続いて,異種宿主発現による での酵素活性評 価を行なった.まず, の完全長cDNAを取 得し,これを プロモーター制御下に配置したプ ラスミドを構築した後に,先に作製した出芽酵母EPY  224株に遺伝子導入した.また,このときシトクロム P450酵素活性の再生に必要であるNADPH-シトクロム P450還元酵素遺伝子 ( ) も同時に導入した.これ ら導入した遺伝子群の発現をガラクトースによって誘導 すると,驚くべきことにアモルファジエンから3段階の 酸化反応が一挙に進行し,目的のアルテミシン酸が 32 mg/ の収量で生産されることが明らかとなった.な お,これら3段階の酸化反応は での実験におい ても確かめられている.

以上の成果により,これまでに栽培に数ヵ月を要し,

わずかな量しか得られなかったアルテミシン酸が,遺伝 子組換え出芽酵母を用いることによって短時間で,なお かつ大量に得られるようになった.なお,Keaslingらの さらなる検討(プラスミドコピー数の上昇,薬剤耐性遺 伝子の導入,ファーメンターの使用など)により,現在 ではアルテミシン酸の収量は1 g/ と報告されており(4)

アルテミシンが安価にマラリア患者のもとに届けられる 日もそう遠くはないと期待できる.

植物由来ベンジルイソキノリンアルカロイドの生物 合成

ベンジルイソキノリンアルカロイドは,植物アルカロ イドのなかでも特に生物活性,化学構造の多様性に富む 化合物群である.鎮痛剤モルヒネ,筋弛緩剤ツボクラリ ン,抗菌剤でもあり止瀉薬でもあるベルベリンなど,医 薬品や漢方薬として使用されているものが数多い.商業 的価値が高く,市場にも多く出回る有名なこれらの化合 物もまた,天然物特有の化学構造の複雑さのために,有 機合成による供給が難しく,現在でも天然からの採集に 頼る場合が多い.生合成遺伝子と微生物を用いた発酵法 によりこれらの化合物を大量に生産することが可能にな れば,より安価に,安定的な市場への供給が期待でき る.近年,2つの研究グループによって別々に,ベンジ ルイソキノリンアルカロイドの生物合成が達成された.

佐藤らは,大腸菌 を用いてベンジルイソキノ リンアルカロイドの重要な生合成中間体である ( )-レ

(5)

図2ベンジルイソキノリンアルカロイドの生物合成

それぞれ大腸菌に遺伝子導入した部分を黒矢印,出芽酵母に遺伝子導入した部分をコバルト色矢印で示した.(A) ドーパミンからの ( )- スコウレリンおよびマグノフロリンの生物合成,(B) ( ,  )-ノルラウダノソリンを原料とした ( )-テトラヒドロコルンバミン,( )-テト ラヒドロベルベリンおよびサルタリジンの生物合成

(6)

チクリンの生産を検討した(5)

.大腸菌にモノアミン酸化

酵素 (MAO)

,ノルコクラウリン合成酵素 (NCS) ,ノ

ルコクラウリン6- -メチル基転移酵素 (6OMT)

,コク

ラウリン4- -メチル基転移酵素 (CNMT) および3′-ヒ ドロキシ- -メチルコクラウリン-4′- -メチル基転移酵 素 (4′OMT) の各遺伝子を3種類のベクターを用いて導 入し,基質であるドーパミンを外部供給にて取り込ませ ることで,( )-レチクリンを55 mg/ の収量で得ること に成功した.さらには,本大腸菌の培養液中に適切な修 飾酵素〔シトクロムP450酵素 (CYP80G2) あるいはベ ルベリンブリッジ酵素 (BBE)〕遺伝子を導入した出芽 酵母を加えて共培養することで,( )-レチクリンがさら に変換された化合物マグノフロリンを7.2 mg/

,スコウ

レリンを8.3 mg/ の収量で生合成させた(図

2

-A)

.シ

トクロムP450など大腸菌での発現が難しいタンパク質 も,出芽酵母を用いて発現させ,大腸菌と混合培養する ことで十分に化合物生産が可能であることが示された.

一方,Smolkeらは,6OMT, CNMT, 4′OMTの遺伝子 を導入した出芽酵母を宿主とし,( ,  )-ノルラウダノ ソリンを外部供給基質として ( ,  )-レチクリンを生合 成させることに成功している(6)

.さらには,BBE,ス

コウレリン9- -メチル基転移酵素 (SMT)

,カナジン合

成酵素 (CYP719A)

,シトクロムP450酵素 (CYP2D6) 

遺伝子を適宜,単独あるいは組み合わせて導入すること で,( )-スコウレリン,( )-テトラヒドロコルンバミ ン,( )-テトラヒドロベルベリン,サルタリジンの生産 にも成功した(図2-B)

.これらの修飾酵素遺伝子はい

ずれもプラスミド上で構築しており,遺伝子導入するプ ラスミドを選択するだけで望みの化合物が得られること が示された.今後,さらに適当な生合成遺伝子を導入す ることで,モルヒネなど商用価値の高い化合物の効率的 な生産が期待される.

糸状菌由来PKS-NRPSハイブリッド化合物の生物 合成

我々の生活とも馴染み深い糸状菌は,強力な生物活性 を示す数多くの二次代謝産物を生産することが知られて おり,皮膚病や呼吸器系疾患など感染症の直接の原因物 質となっている.これらの天然物の多くは,ポリケタイ ド系骨格あるいはペプチド系骨格を有し,それぞれポリ ケタイド合成酵素 (PKS) および非リボソームペプチド 合成酵素 (NRPS) によって生合成されることが知られ ている.一般的に,PKSならびにNRPSタンパク質は多 くのドメインからなる巨大な酵素であり,特に大きなも のではその分子量が1,000 kDaを越えるものも存在す

る.そのため,遺伝子クローニングや異種宿主での発現 が比較的難しく,通常とは異なる工夫が必要となる.

近年,糸状菌のゲノム配列が次々と解読され,1つの 種の糸状菌について10数個のPKSやNRPS生合成遺伝 子が存在することが明らかになってきた.PKS-NRPSハ イブリッド生合成遺伝子はそれらと比較すると稀な存在 であるが,本生合成遺伝子から生合成される化合物はポ リケタイド系とペプチド系の両方の特性をもつため,化 学構造的に複雑で興味深い分子が生合成されていること が多い.また,その生物活性も様々であり,たとえば 属糸状菌が産生するミトコンドリア呼吸鎖 複合体III阻害剤フニクロシンや, 属糸状菌 が産生するアクチン重合阻害剤サイトカラシンなど,生 化学研究に欠かせないツールとして活用されているもの も 数 多 い.こ こ で は,Tangら に よ っ て 達 成 さ れ た NRPS-PKSハイブリッド生合成遺伝子の出芽酵母を宿主 とした ならびに 発現による化合物生産(7)

を解説する.

アスピリドンAは糸状菌 の培養

液から発見された,ポリケタイドとフェニルアラニンに 由来するPKS-NRPSハイブリッド型化合物である(図

3

-A)

.その発見の経緯

(8)が非常に興味深いので,ここ で少し紹介する.Hertweckらは糸状菌ゲノム中に多く のPKS,NRPS遺伝子が含まれていることに着目し,こ れらの遺伝子の発現量を調べたところ, というア ミノ酸配列上PKS-NRPSハイブリッドタンパク質を コードする遺伝子がまったく発現していないことを見い だした. 遺伝子の近傍にはシトクロムP450, FAD 結合型モノオキシゲナーゼ (FMO)

,デヒドロゲナー

ゼ,トランスポーターなど,PKS-NRPS酵素によって構 築された主骨格を修飾する酵素や薬剤耐性に関わる酵素 と推測される遺伝子が含まれていたが,一方でジンク フィンガードメインを有する転写因子様タンパク質を コードする遺伝子 も見つかり,これが の転 写 を 調 節 す る こ と が 推 測 さ れ た( 図3-B)

そ こ で,

をクローニングし, を形質転換するこ とで遺伝子導入したところ,興味深いことに の転 写量が著しく増大し,その培養液中からはこれまでに生 産されていなかった数種類の化合物の存在が認められる ようになった.そのうちの1つがアスピリドンAであ り,その化学構造を解析したところ,新規化合物である ことが明らかになった.このように,アスピリドンA は通常の培養条件下では生産されないが,転写因子 の発現に依存して生産が誘導される興味深い化合 物である. 自身の発現がどのように制御されてい

(7)

るかについても興味深い.

さて,話をもとに戻すと,アスピリドンAのその基 本骨格は および によって生合成されると推 測されていた.ApdAはそのN末端領域にケト合成酵素 

(KS)

,マロニルCoA : ACP転移酵素 (MAT) ,脱水酵

素 (DH)

,メチル基転移酵素 (MT) ,

ケト還元酵素 

(KR)

,アシルキャリアプロテイン (ACP) というポリ

ケタイドに特徴的なドメインを有し,C末端領域には縮 合 (C)

,アデニル化 (A) ,チオエステル (T) ,還元 

(R) のNRPSに特徴的なドメインを含んでいる.一方で ApdCはエノイル還元酵素(ER)ドメインのみから成

り,相同性の高いタンパク質(たとえばロバスタチン生 合成遺伝子の一つ, など)の機能から,ApdAに よって形成された骨格を修飾する役割を担うことが予測 された.そこで,まずは ならびに の両遺伝 子を出芽酵母で発現させることによって各酵素を獲得 し, 反応によるアスピリドンAの基本骨格の構 築を検討した.

ところで,ApdAは439 kDaの超巨大タンパク質であ ることから,その完全長cDNAの取得は困難であると 考えられた.そこで,Tangらは ゲノムか ら予測されたエキソン配列をPCRよって増幅し,これ 図3PKS-NRPSハイブリッド分子の生物合成

(A) アスピリドンAの化学構造,(B) アスピリドンA生合成遺伝子クラスター,(C) アスピリドンAの推定生合成経路.FMO : フラビン 依存型モノオキシゲナーゼ,NRPS : 非リボソーム系ペプチド合成酵素,KS : ケト合成酵素,MAT : マロニルCoA:ACP転移酵素,DH : 脱 水酵素,MT : メチル基転移酵素,ER : エノイル還元酵素,ER0: 機能をもたないERドメイン,KR : ケト還元酵素,ACP : アシルキャリア プロテイン,C : 縮合ドメイン,A : アデニル化ドメイン,T : チオエステルドメイン,R : 還元ドメイン

(8)

らを直列につなげることで人工的にイントロンを除去し た 遺伝子を作製し,これを プロモーター下 に配置した出芽酵母発現用ベクター pXW58を構築し た.目的遺伝子の増幅にcDNAではなくゲノムDNAを 利用した本手法では,イントロンの位置を適切に予想す る必要があり,仮に予測が外れてしまった場合にはフ レームシフトなどにより酵素活性の消失を招く可能性が 高い.彼らはApdAと相同性が高い数種のタンパク質 とのアミノ酸配列を比較し,保存された領域を適切に選 び出すことで適切なイントロンの位置を選び出してい る.構 築 し たpXW58は 化 合 物 生 産 用 出 芽 酵 母 株BJ  5464-NpgAに 導 入 し て 遺 伝 子 を 過 剰 発 現 さ せ,抗 FLAG抗体による精製を行なうことによってApdAタン パク質を1.2 mg/ の収量で得た.

なお,この際に用いたBJ5464-NpgA株は出芽酵母液 胞プロテアーゼ遺伝子 ならびに が欠損し,

由来ホスホパンテテニルトランスフェラー ゼ がゲノム上に挿入されている.これにより,過 剰発現させたタンパク質の精製途中でのプロテアーゼに よる分解を防ぐとともに,NpgAによりApdAのACP ドメイン,Tドメインの効率的なホスホパンテテニル化 が起こることで,ホロ化したApdAタンパク質の増加 が期待された.

一方,ApdCについては,大腸菌BL21 (DE3) を宿主 とした異種宿主発現系により,シャペロンタンパク質で あるGroELおよびGroESとともに発現させることに成 功した.

続いて,これらのタンパク質の活性を確認した.それ ぞ れ25 

μ

mのApdAとApdCに 対 し,添 加 剤 と し て NADPH, -アデノシルメチオニン (SAM)

l-チロシ ン,MgCl2, ATP, マロニルCoAを加え,反応をLC/MS にてモニタリングしたところ,UVスペクトルにて 279 nmに極大吸収を示す新たなピークが出現し,その マススペクトルは /  332 [M+H]+を示した.これに より,本化合物がアスピリドンAの前駆体であると推 測されたことから, で本化合物を大量生産させ,

NMRなどの各種機器分析にて構造決定することを試み た.

はじめに, の大腸菌発現用ベクターを出芽酵母 用 へ と 変 換 し たpXW51を 得 た.続 い て,pXW51と pXW58を出芽酵母BJ5464-NpgAに同時に導入し,その 代謝産物をLC/MSで分析したところ, で得られ た化合物と同一の保持時間,UVスペクトル,マススペ クトルを示す化合物が4 mg/ の収量で得られた.本化 合物を各種クロマトグラフィーで精製し,NMRスペク

トルでその化学構造を解析したところ,マロニルCoA 4 分子とフェニルアラニン1分子からなるテトラミン酸構 造を有する新規化合物プレアスピリドンであることが明 らかになった(図3-C)

以上の結果より, と がアスピリドンAの 骨格を有するプレアスピリドンの生合成遺伝子であるこ とが証明されるとともに,プレアスピリドンの

合成に成功した.今回の収量は4 mg/ と中程度である が,今後の生産条件の検討により,さらなる収量の向上 が期待される.また,アスピリドンAの生合成に関与 すると推測されるシトクロムP450酵素などの修飾酵素 遺伝子を併せて導入することで,異種宿主においてアス ピリドンA生合成経路を再構築することが期待される.

スピロトリプロスタチン類の生物合成

最後に,糸状菌 が産生する超微

量成分スピロトリプロスタチンの生物全合成を目指した 筆者らの研究を紹介する.

スピロトリプロスタチン類は,静岡県大井沖海底土壌 より分離された糸状菌  BM939株より発見 された化合物である(9)

.同糸状菌をはじめとした

属や近種である 属糸状菌からは,スピ ロトリプロスタチンと同様にトリプロファンとプロリン からなるジケトピペラジン骨格を有する数多くの類縁化 合物が発見されており,これらの化合物は5員環もしく は6員環が4ないし5つ連続した共通骨格を有している.

その生物活性としては,動物細胞に対する細胞周期阻害 活性などが知られており,特に近年では,フミトレモル ジンCが乳癌細胞に特異的に過剰発現している薬剤耐性 膜タンパク質BCRPを阻害することが明らかとなり,新 たな抗癌化学療法剤の候補として注目されている(10)

スピロトリプロスタチンAおよびBは,

の約400  もの培養液中からそれぞれ,1.2 mgおよび 11 mg程度しか得られない超微量成分である.有望な薬 剤リード化合物の候補であるにもかかわらず,さらなる 詳細な生物活性の評価を行なうには化合物量が絶対的に 不足している.その興味深い生物活性と特徴的なスピロ 環構造から,多くの合成化学者の興味を引き,それぞれ の研究グループにおいて各種独創的な方法論に基づく全 合成が達成されてきた(11)

.しかし,効率的な化合物供

給に関していえば,合成にかかる労力と時間,費用の観 点から十分といえる合成ルートが開発されたとは言い難 い.そこで筆者らは,スピロトリプロスタチン生合成に 関与する遺伝子を取得し,出芽酵母を用いた異種宿主に

(9)

よる発現系でスピロトリプロスタチン生合成経路を再構 築することによって生物による 全合成を行な い,本化合物の効率的な供給を目指すとともに,その特 徴的なスピロ環構造の形成機構を解明することを目的と した.

超微量成分の生合成機構の解明は非常に挑戦的な課題 となる.これまでの生合成研究で用いられた手法は,化 合物生産を司ると推定された生合成遺伝子を欠損させ,

得られた変異体の培養液から単離された生合成中間体の 化学構造に基づいてその生合成経路を解析するというも のがほとんどであった.ところが,超微量成分を研究対 象とした場合,目的化合物が微量成分であるがゆえ,遺 伝子変異体から生合成中間体を単離することが格段に困 難となる.したがって,その生合成経路を証明するため には,生合成遺伝子の発現による物質生産確認が最適で あると考えられる.また,異種発現による天然物生合成 経路の特定は,欠損株の作製により得られた実験結果と 比較して明確であり,学術的に意義深い成果となる可能 性が高い.つまり,二次代謝産物に関して言えば,異種 発現では宿主となる菌株には多くの場合存在しない生合 成遺伝子の導入を試みることになる.したがって,そこ で得られる化合物は,導入された遺伝子による合成産物

であることが直接的に証明される.さらに,異種発現で はいったん目的の生合成遺伝子をクローニングして発現 系を構築するための分子生物学的操作が必要不可欠とな る.そこで得られた発現系を活用し,化合物の合理的な 設計に基づき生合成遺伝子を改変した後,望む誘導体を 合成するための実験を効率的かつ迅速に行なうことがで きる.

スピロトリプロスタチンの類縁化合物であるトリプロ スタチン類,フミトレモルジン類,ベルクローゲンの生 合成については,いくつかのグループにより多くの遺伝 子の機能が明らかにされている(12)

.それによると,こ

れらの化合物のトリプトファンとプロリンからなるジケ トピペラジン骨格はNRPS酵素 (FtmA) により構築さ れてブレビアナミドFを生合成し,さらにプレニル基転 移酵素 (FtmB) によりトリプロスタチンBが,続いて シトクロムP450酵素 (FtmC) およびメチル基転移酵素 

(FtmD) が働くことでトリプロスタチンAが生成する

(図

4

.続いて,シトクロムP450酵素 (FtmE) により

インドール環とジケトピペラジン環が縮環してフミトレ モルジンCを生成し,もう1つ別のシトクロムP450酵 素 (FtmG) が働くことで12

α

,13

α

-ジヒドロキシフミト レモルジンCが,さらにプレニル基転移酵素 (FtmH) 

図4スピロトリプロスタチン類の予想生合成経路

筆者らの研究において出芽酵母内に再構築した生合成経路をコバルト色で示した.

(10)

が働くことでフミトレモルジンBが生成する.最後に,

α

-ケトグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼ (FtmF) が 働くことでベルクローゲンが生成する.

このように,主骨格を形成する1つのNRPS酵素と多 くの種類の修飾酵素が働くことによって,数多くの関連 化合物が生産されているトリプロスタチン類であるが,

ほぼすべての生合成遺伝子の機能解析が行なわれている にもかかわらず,スピロトリプロスタチン類に至る生合 成経路やスピロ環形成に関与する生合成遺伝子について は同定されていなかった.そこで,まずは出芽酵母によ りスピロトリプロスタチン類の推定前駆体を生産させる システムを構築することとし,その候補化合物としてデ メトキシフミトレモルジンCの生産を検討した.

デメトキシフミトレモルジンCを生合成する遺伝子 は,  IFO4057株のゲノムDNAからクロー ニングし,自律複製可能な出芽酵母用シャトルベクター へ導入して目的の発現ベクターを構築した.導入した生 合成遺伝子群は, ,  ,  (遺伝子名は長田ら による  BM939株の命名(13)に準拠した)で あり,それぞれ酵素の機能はNRPS,プレニル基転移酵 素およびシトクロムP450である.また,生合成遺伝子 群に含まれるシトクロムP450酵素活性の効率的な再生 のため,出芽酵母由来NADPH-シトクロムP450還元酵 素遺伝子 ( ) を併せて導入した.

次に,上記プラスミドを用いて目的化合物を出芽酵母 発現系で高収量に合成するために,宿主染色体中に基質 供給系遺伝子群を導入することとした.まずは,NRPS が適切にホロ化されるよう, 由来ホスホパ ンテテニル基転移酵素遺伝子 ( ) を導入し,一方で プレニル基を大量に供給するため,メバロン酸経路の初 期段階であるマロン酸を基質としてマロニルCoAを生 合成する酵素遺伝子 ( ) およびアセトアセチル CoA合成酵素遺伝子 ( ) を酵母染色体へ挿入し た出芽酵母株SCKW14を作製した.上記で示したベク ターおよび染色体に導入された遺伝子は,ウエスタンブ ロッティングによってそれぞれ酵母細胞内で発現するこ とが確認された.

続いて,酵母宿主SCKW14を上記で構築した適切な 発現ベクターで形質転換した後,液体培養によって2%

ガラクトースを加え30˚Cで発現誘導し,得られた培養 液から各種クロマトグラフィーによって目的化合物を分 離精製した.その結果,ブレビアナミドFを25 mg/

トリプロスタチンBを1 mg/

,デメトキシフミトレモ

ルジンCを0.1 mg/ の収量で得ることに成功した.スピ ロトリプロスタチン類を高収量で得るためには,今後さ らなる遺伝子導入や培養条件の検討が必要である.

一方,スピロ環化に関与する酵素の同定を検討した.

Ganesanらはスピロトリプロスタチン類の全合成研究に

図5スピロオキシインドール環形成メカニズム

(A) 有機合成による立体選択的,あるいは (B) 立体非選択的なスピロオキシインドール環形成.(C) 生体酵素によるスピロトリプロスタ チンの推定生合成機構

(11)

おいて, -ブロモスクシンイミド (NBS) によるイン ドール環の酸化反応によって立体選択的に天然型の立体 化学を有したスピロ環の構築を達成している(14) (図

5

-A)

.すなわち,インドール環の立体選択的な酸化反

応の後,セミピナコール型の転位反応が進行することに よってスピロオキシインドール環が形成されると考えら れた.興味深いことに,ジケトピペラジン環を形成して いる基質に対してNBSを作用させると,その立体選択 性が失われ,スピロ炭素が 体および 体の2種類のジ アステレオマーが生成する(図5-B)

.一方,天然から

はスピロ炭素の立体が 体の化合物のみが得られている ことから,生合成経路においてはインドール環の酸化反 応が立体選択的に進行していると推測された(図5-C)

そこで,まずはインドール環の酸化反応を司る酵素を同 定することを目指した.

ところで,近年,金沢県産のイガイから分離された  sp.より単離されたノトアミド類はトリプロ スタチン類と同様に,トリプトファンとプロリンから成 るジケトピペラジン骨格を有しており,そのうちいくつ かの化合物はスピロオキシインドール環を有してい る(15)

.ノトアミド類の生合成に関与すると推測されて

いる遺伝子クラスターがすでに報告されており,

および がコードする2つのFAD結合型モノオキシ ゲナーゼ (FMO) がインドール環の酸化に関与すると

推測されていた(16)

.そこで,これら2つの遺伝子の配

列情報をもとに,これらと高い相同性を示す遺伝子をゲ ノム解読株  Af293株から検索したところ,

遺伝子を見いだすことに成功した.

遺伝子産物については,すでにWalshら によってその機能が解析されており,フミキナゾリンF のインドール環を酸化する酵素であることが明らかにさ れていた(17) (図

6

-A)

.そこで,

 A1159株 由来cDNAから をクローニングし,大腸菌 による大量発現,そしてヒスチジンタグを用いた精製に 供することでAfu6g12060タンパク質を得ることに成功 した.続いて,その酵素活性を確認したところ,基質と してブレビアナミドFやデメトキシフミトレモルジンC を用いた場合,反応がまったく進行しないのに対し,基 質としてトリプロスタチンBを用いると,分子量が16 増加した化合物への変換が認められた(図6-B)

.現在,

本生成物の化学構造を決定するため,前述の出芽酵母で の異種宿主発現を検討中である.

まとめ

以上,出芽酵母を宿主とした外来遺伝子発現系によっ て化合物を生物合成することに挑戦する取り組みを紹介 した.これらの研究は生物を利用したモノづくりであ 図6酸化酵素Afu6g12060NRPS酵素Afu6g12050によるフミキナゾリンA生合成機構 A とトリプロスタチンBを基質とした 酸化酵素Afu6g12060の酵素反応物のHPLCにおけるクロマトグラム(検出波長:210 nm) B

(12)

り,まだまだ有機合成による精密なモノづくりには至ら ない部分も多いが,場合によっては有機合成で必須な煩 雑な反応操作や極度の強酸・塩基性,酸化・還元条件,

高価な基質や金属触媒などのレアメタルを必要とするこ となく,単純な糖類を加えた培養液を震盪培養するだけ で目的の化合物を得ることが可能である.ただし,一般 的に生体酵素は基質認識が厳密であることが多いことか ら,その基質特異性を拡大するような変異を導入するな どして,より柔軟に変換反応が達成されるように進化さ せることが必要だろう.それにより,新たな化合物を創 製することも期待できる.

今回は紹介しなかったが,ブタノールなど石油燃料と なりうる化合物の生産についても酵母を用いて大量に生 産させる研究も報告されており(18)

,いずれは酵母がエ

ネルギー問題を解決するようになる時代が到来するかも 知れない.低分子化合物についても同様に,様々な医薬 品や栄養食品が大量に安価に供給されることにより,世 界中の消費者が差別なく,より健康的な生活を営めるよ うになることが期待される.

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Referensi

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