2010 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
効果的なMR活動の提案
提出年月日 2010/12/02 A0742226 中野翔太
―目次―
1. はじめに 1.1 MR とは
1.2 製薬業界の現状
1.3 調査の背景(素朴な疑問)
1.4 調査の目的
2. イノベーションの普及理論を用いた医師ターゲティング 2.1 イノベーションの普及理論とは
2.2 普及理論の医師ターゲティングへの忚用 2.3 事例の紹介
3. 効果的なMR活動を実践する為の提案
3.1 医師ターゲティングのプロダクトライフサイクルへの適忚
3.2 短・中期的に見たMR活動効率化 ―時系列・医師クラスター別のアプローチ方法の提案 3.3 長期的に見たMR活動効率化 ―チェンジ・エージェントの役割
3.4 MRに対するインタビュー調査
4. まとめ
1.はじめに
1.1 MRとは
医療機関を訪問することにより、自社の医療用医薬品を中心とした医薬情報(医薬品およびその関 連情報)を医療関係者(医師、歯科医師、薬剤師、看護師など)に提供し、医薬品の適正な使用と普 及を図ること、そして使用された医薬品の有効性情報(効き目や効果的な使い方)や安全性情報(副 作用など)を医療の現場から収集して企業に報告すること、そして医療現場から得られた情報を正し い形で医療関係者にフィードバック(伝達)することなどを主な業務としています。
[出典]<財>医薬情報担当者教育センター 噛み砕いて説明すると、MRの役割は2つある。
①医師に医薬品情報を提供すること
②自社の薬品を普及させること
ただ、これらは形式的な役割であり、MRの使命は、『医薬品情報を提供した上で、医師に自社薬品 を採用して貰うこと』だと言いきれる。
1.2 製薬業界の現状
近年、製薬業界では大手企業による合併が盛んに行われている。ニーズが大きい薬品があらかた開 発され尽くしてしまったことが一番の要因であろう。
合併前 合併後 年度
三共 第一製薬 山之内製薬 藤沢薬品工業 大日本製薬 住友製薬 アストラ ゼネカ ファイザー ワイス
グラクソ・ウエルカム
スミスクライン・ビーチャム 中外製薬
日本ロシュ 中外製薬
2005 2005 2005 2000 2009 2000 2002 第一三共
アステラス製薬 大日本住友製薬
アストラゼネカ ファイザー
GSK
これらの度重なる合併により、1つの企業が有するMRの数は増加し、今まで以上にMRのマネジ メントが重要になってきている。
1.3 調査の背景(素朴な疑問)
私は当初、『MRは不要か』というテーマで卒業論文を書いていた。なぜMR不要論が囁かれるのか、
素朴に疑問に思ったからだ。その結果、『MRは不要ではないが、削減するべきである』という結論に 至った。MR活動に無駄な点が多くみられたからである。その無駄の中で一番大きかったものが、本 論文のテーマである、『医師ターゲティング』だ。
来年からMRとして働く予定である私は、就職活動中も製薬会社を中心に参加していた。MRの方 にお話を伺う際、私は決まって「仕事をしていて不満に思うことはありますか?」という質問を投げ かけていたのだが、多くのMRが『上司に指定される営業先の医師が的外れすぎる』という不満を持 っていた。
その上で卒業論文を書くにあたり、ロジャーズによるイノベーション普及理論を医師ターゲティン グに忚用できるのではと考え、テーマを『効果的なMR活動の提案』とした。MR削減論を唱えるよ り、MR活動の無駄をなくす方法を探す事の方が価値があると考えたからである。
1.4 調査の目的
新しい医師ターゲティングの手法を提案し、それぞれの医師に対する効果的な営業活動について明 らかにすることが本論文の目的である。ただ、仮説を立て、じっくりと検証していくことが理想であ ったが、多くの医師やMRにアンケートを取ることは現実的に考えて難しい。よって、MRに対して インタビュー調査で仮説を検証したいと考えている。
2.イノベーションの普及理論を用いた医師ターゲティング
2.1 イノベーションの普及理論とは
消費者の商品購入に対する態度を新しい商品に対する購入の早い順から以下の5タイプに分類した、
スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズによる理論。
①イノベーター=革新的採用者(2.5%)
―冒険的
②オピニオンリーダー(アーリーアドプター)=初期少数採用者(13.5%)
―尊敬の対象
③アーリー・マジョリ ティ=初期多数採用者(34%)
―慎重派
④レイトマジョリティ=後期多数採用者(34%)
―懐疑派
⑤ラガード=伝統主義者(または採用遅滞者)(16%)
―因習派
[出典]エベレット・ロジャーズ:イノベーションの普及、翔泳社(2007)
ロジャーズのイノベーター理論では、一般的にオピニオンリーダーへの普及が商品普及の鍵を握る とされている。理由はオピニオンリーダーの特性であり、その特性は大別して 2 点挙げられる。
第一に、オピニオンリーダーは、これまでの商品にはない新しいベネフィットそのものに着目する。
導入されて間もない商品ほど、実際の開発者が当初考えていた商品の利用シーン、用途は、実際のそ れと異なる。それゆえ、実際に商品の用途を考え出すのは、まさにオピニオンリーダーの役目とも言 える。オピニオンリーダーが実際の商品の利用方法を生み出してはじめて、商品は市場にフィットし たものとなるのだ。
第二に、一般にオピニオンリーダーは他の消費者への影響力が非常に大きいという点も挙げられる。
オピニオンリーダーが中心となってクチコミのネットワークが形成されることで、商品普及の道が大 きく開ける。オピニオンリーダーが商品普及の鍵を握るといわれるのはそのためである。イノベータ ーとオピニオンリーダーをあわせても市場全体 16%を占めるに過ぎない。しかし、この初期市場でオピ ニオンリーダーをうまく獲得できるかどうかが、商品普及をアーリーマジョリティ、レイトマジョリ ティに拡げられるかどうかの分かれ道となるのである。
(ロジャーズ,2007)
ところで、ロジャーズ(2007)は、「チェンジ・エージェント」という存在に以下のように言及して いる。
●チェンジ・エージェントとは、製品の普及を促進する外部の人間であり、学校教師・コンサル タント・衛生職員・農業エクステンションエージェント・セールスマン等、色々な職業の人間 が他該当する。
●チェンジ・エージェントには、何らかの専門組織の資源とクライアント・システムの両者をつ なぐコミュニケーション連結がある
●チェンジ・エージェントは新しいアイデアの採用を促すことが多いが、時には望ましくないイ ノベーションを減速させる
これらの表現より、MRはチェンジ・エージェントであると私は確信している。またロジャーズ
(2007)によると、チェンジ・エージェントの役割は7つのステップに分けられる。私はこれら7つ のステップをMR活動に当てはめ、その上でMRの営業活動効率化について述べたいと考えている。
(この7つのステップについては、3.2 で扱う)
2.2 普及理論の医師ターゲティングへの忚用
私は、上記 2.1 の普及理論を、医師のターゲティングにも適用できると考えた。医師を『イノベー ター』『オピニオンリーダー』『アーリーマジョリティ』『レイトマジョリティ』『ラガード』に分け、
オピニオンリーダーを最重要ターゲットとしてディテーリング1)を行うことで、営業効率が上がるの ではないか。つまり、下図のオピニオンリーダーを最優先ターゲットとしてディテーリングを行うと いう事だ。下図に医師ターゲティングのイメージを提示する。
尐ない 普通 多い
コール数2) 小
コール数 中
コール数 大 対象薬品を利用するであろう患者総数
尐ない 普通 多い
ラガード コール数
小
コール数 小
コール数 小 レイトマジョリティ コール数
小
コール数 小
コール数 中 アーリーマジョリティ コール数
中
コール数 中
コール数 大 オピニオンリーダー コール数
大
コール数 大
コール数 大 イノベーター コール数
中
コール数 中
コール数 大 対象薬品を利用するであろう患者総数
医師の分類
質的\量的
[参考]武藤猛:顧客バリューマトリクスを活用した営業力強化(2007)
図:従来のターゲティング
図:新しいターゲティング
2.3 事例の紹介
イノベーションの普及理論を利用してMRの営業活動を効率化する旨の論文はすでに発表されてい た(武藤,2005)。またこの論文では、実データで検証しようとすると6分類は多すぎ、実践に展開す る場合も3分類程度が機能しやすいとのことから、下図のように医師を3分類している。
保守派 ラガード レイトマジョリティ アーリーマジョリティ
イノベーター オピニオンリーダー 先進派
追随派
尐ない 普通 多い
保守派 コール数 小
コール数 中
コール数 中 追随派 コール数
中
コール数 中
コール数 大 先進派 コール数
大
コール数 大
コール数 大 対象薬品を利用するであろう患者総数
医師の 分類
質的\量的
この論文では、過去の処方データを基に医師を『保守派』『追随派』『先進派』の 3 つのクラスター に分類し、それぞれの処方率について言及している。(この実験は、MRに先進派・追随派・保守派の 概念を知らせずに行った)また、先進派~保守派のクラスター分けは、過去の処方履歴によってなさ れた。
<1>セグメント別使用率(全医師中)
尐ない 普通 多い 合計
保守派 9% 47% 40% 23%
追随派 39% 55% 57% 52%
先進派 42% 55% 80% 60%
合計 19% 52% 56% 38%
N=793
<2>セグメント別使用率(認知医師中)
尐ない 普通 多い 合計
保守派 21% 54% 44% 37%
追随派 54% 66% 68% 64%
先進派 90% 89% 98% 93%
合計 39% 65% 66% 57%
N=513
<3>最近1カ月のMRとの面談医師(セグメント別カバー率)
尐ない 普通 多い 合計
保守派 9% 47% 40% 23%
追随派 39% 55% 57% 52%
先進派 42% 55% 80% 60%
合計 19% 52% 56% 38%
N=793 出所:株式会社日本医療データセンターのマルチクライアント調査
質的\量的 対象薬品を利用するであろう患者総数
医師の 分類
医師の 分類
質的\量的 対象薬品を利用するであろう患者総数
医師の 分類
質的\量的 対象薬品を利用するであろう患者総数
(1)によれば,セグメント別の薬剤Pの使用率(全医師中)は,保守派<追随派<先進派の順となって おり,各クラスターを保守派,追随派,先進派と名付けたことが妥当であると推測できる。さらに,
薬剤Pを認知している医師に限定したセグメント別使用率を示す
(2)によれば,先進派の使用率が極めて高く,上記の推測を裏付けている。
(3)によれば,患者数が少ないが処方意欲の高い医師セグメントである「先進派×患者数少」において も,実際にMRが訪問しているのは 50%以下である。従って,このセグメントにMRの訪問を集中す れば,営業生産性を著しく高めることが可能であると推測される。
以上の考え方を複数の製薬企業で適用したところ,いずれも営業生産性の大幅な改善を達成した。
(武藤,2005)
この論文により、以下の事実が判明した。
●オピニオンリーダーを含む先進派医師へ集中してディテーリングすることは、効果的なMR活動 である
●過去の処方履歴を調べれば、現在の医師のクラスターがある程度わかる。つまり、医師のクラス ター分けは容易に行うことができる
●先進派であるが、抱えている患者数が少ない医師に対しては 42%しかディテーリングをしていな い。
因みにこの論文では、先進派医師にアプローチをした際の、追随派医師に対する間接的な影響を 表していない。2.1 でも述べたが、先進派医師に含まれるオピニオンリーダーは追随派医師の処方に 対して大きな影響を与える為、先進派医師の役割は更に重要だと考えられる。
3. 効果的なMR活動を実践する為の提案
3.1 医師ターゲティングのプロダクトライフサイクルへの適忚
時系列に沿って最優先ターゲットをシフトさせていくことで更に生産性が向上すると私は考える。
つまり、導入期には先進派医師に対して重点的にアプローチし、成長期・成熟期には追随派、衰退期 には保守派の医師をメインターゲットにしてディテーリングを行うということだ。参考までに、プロ ダクトライフサイクルに沿ったイメージ図を以下に掲示する。また、これ以降は便宜上、先進派=オ ピニオンリーダーとして話を進めていく。
[出典]佐賀国一:実践医薬品マーケティング、日本能率協会マネジメントセンター(1999)
導入期においては、先進派のみにディテーリングをするというわけではない。ロジャーズ(2007)
によると、採用を決心するまでにかかる時間は、先進派が一番短く、保守派が一番長い。更に、新薬 が導入された際にディテーリングを行うことで、医師と良い関係を築けるだろう。よって、導入期に は追随派・保守派にもディテーリングをする必要がある。その際、導入期で採用を決める先進派を最 重要ターゲットとし、先進派>追随派>保守派の優先順位でディテーリングを行うのが妥当であろう。
成長期・成熟期に突入すると、最重要ターゲットは追随派の医師となる。その際、当該薬品をまだ 採用していない先進派の医師や、衰退期での採用が期待できる保守派の医師に対してもディテーリン グを行う。また、既に当該薬品を採用済みの先進派の医師に対しても、既処方薬品の採用継続・採用 量増加願い・市販後調査3)・添付文書の改訂4)などの新情報を提供するべきである。ただし、ここで 注意しなければならないことがある。それは、彼らに対して『情報を過度に提供しないこと』だ。な ぜなら、先進派はその特性上非常に多忙であり、過度の量の情報を得ることを嫌うからだ。(ただし、
メガハブだった場合は別)
衰退期には保守派の医師を中心にディテーリングを行い、未採用の先進・追随派医師に対してもア プローチをし、当該薬品を採用済の医師に対しては、嫌われない程度に追加情報を提供する。
以上 3 点のまとめとして、以下のイメージ図を作成した。
先進派
追随派
保守派
導入期 成長期 成熟期 衰退期
先進派 ○ △ △ ×
追随派 △ ○ ○ △
保守派 × △ △ ○
プロダクトライフサイクル 医師クラ
スター
私が 3.1 で伝えたかったことは 2 点だけだ。1 つ目は、導入期に先進派、成長・成熟期に追随派、衰 退期に保守派を最重要ターゲットとすること。2 つ目は、最重要ターゲット以外の採用済・未採用医師 それぞれに対してもディテーリングを行う必要があるということだ。
導入期・成長期・成熟期・衰退期それぞれの時期に、どのセグメントの医師にどうやってアプロー チをすればよいのか、更に、長期的に売上を確保する為の効果的な手法については 3.2 で説明したい。
3.2 短・中期的に見たMR活動効率化 ―時系列・医師クラスター別のアプローチ方法の提案
3.1 では、時系列に沿って最重要ターゲットをシフトしていくことの重要性について触れた。3.2 で はそれに加え、先進派・追随派・保守派それぞれの医師に適忚したコミュニケーションを取り方につ いて考察し、更に効果的な営業活動を追及していきたい。つまり、時系列に沿って最優先ターゲット をシフトさせていき、なおかつ、各ターゲットにマッチしたディテーリング内容・プロモーション5)
方法を実践することで、更に生産性が向上するということだ。例えば、<導入期において先進派医師 に対してディテーリングをする際には、該当薬品に対する論文やエビデンス情報6)を中心に提供する
>…等である。ロジャーズ(2007)の普及理論と照らし合わせて多くの仮説を創り、3.4 でMRに対し てインタビューを行う事で、その検証をしたいと考えている。
最初に、先進派・追随派・保守派医師それぞれの特性について、ロジャーズ(2007)の普及理論と 照らし合わせて作成した以下の表をご覧いただきたい。
特性分類 初期採用者の特性 先進派に応用 追随派 後期採用者の特性 保守派に応用
社会的な地位が高い 社会的な地位が低い
社会的流動性が高い 社会的流動性が低い
抽象概念に対処する 能力が高い
抽象概念に対処する 能力が低い
合理性をもっている 感情的である
知性的である 知性的でない
科学に対して好意的な 態度をもっている
科学に対して好意的な 態度をもってない 変化に対して好意的な
態度を持っている
変化に対して好意的な 態度を持ってない
向上心がある 向上心がない
社会参加することが多 い
社会参加することが尐 ない
人との繋がりが強い 人との繋がりが弱い
所属する外部の社会 システムへの志向が 強い
・MRに対して好意 的
・治験医師である
所属する外部の社会 システムへの志向が 弱い
・MR嫌い
・講演会を主催・参 加する
・医師会に参加する
[参考]エベレット・ロジャーズ:イノベーションの普及、翔泳社(2007)
社会経済的地位 大学病院の権威あ
る医師
高齢者の開業医(町医 者)
人格
・エビデンス重視
・論文を好んで読む
・接待好き
・熱心なMR活動に反応 しやすい
・ブランドロイヤリティが 高い
・新薬説明会等に好 んで参加する
・新製品への切り替 えが早い
コミュニケーショ ン行動
勉強会・講演会に興味 がない
後述するが、上図の追随派と先進派の間にネットワークを創る事が、薬品普及の大きなカギとなる。
また、ロジャーズ(2007)は、追随派の中の初期採用者であるアーリーマジョリティ(先進派寄りの
追随派)に対して以下の様に定義付けしている。1 つ目が、『追随派の中でも先進派に近い存在であり、
両者を繋ぐ重要な立ち位置である』こと、2 つ目が『先進派の採用を観察し、ある程度不確実性をなく してから採用を決定する』ことだ。これらの特性や上図を利用して下図を作成した。(考えられる医師 像についてはインタビュー調査や下記参考文献から推測)
先進派
(導入期)
・新製品への関心が大
・治験に参加している
・学会活動に熱心(論文発表、座長)
・新製品への切り替えが早い
・ブランドロイヤリティが低い
・MRとの対話は情報収集中心
イノベーター
⇒開発担当医 オピニオンリーダー
⇒大病院専門医
追随派
(成長期・成熟期)
・新製品の安全性、利便性への関心が大
・医師仲間の影響力が大(後述)
・業界標準に敏感
・使用錠剤の種類が多い
アーリーマジョリティ
⇒若手~中年の開業医 レイトマジョリティ
⇒50代以上の開業医・他領域専門医
保守派
(衰退期)
・新製品への関心は大きくない
・従来の処方方針へのこだわり大
・処方の中心は、成熟期以降の錠剤
・勉強会、講演会に無関心
ラガード
⇒高齢者の開業医 ディテーリングの内容
採用時期別
医師クラスター 考えられる医師像
[参考]前田英二:医療用医薬品マーケティング―実務者が説く理論と実践―、メディカルレビュー社(2010)
[参考]武藤猛:効果的な顧客ターゲティングのための一手法、SASFORUM(2005)
[参考]佐賀国一:実践医薬品マーケティング、日本能率協会マネジメントセンター(1999)
[参考]エベレット・ロジャーズ:イノベーションの普及、翔泳社(2007)
次に、イノベーションの決定過程について説明したい。ロジャーズ(2007)によると、イノベーシ ョンの決定過程とは、個人が初めてイノベーションに関する知識を獲得してから、イノベーションに 対する態度を形成して、採用するか拒絶するかという意思決定を行い、新しいアイデアを導入・使用 し、その意思決定を確認するに至る過程のことである。これは次の 5 段階からなる。
①『知識』…個人がイノベーションについて知り、理解する。
―医師が新薬の情報を得て、理解する
②『説得』…個人がそのイノベーションに対して好意的・否定的態度を形成する ―医師が新薬を採用するかどうか考える
③『決定』…個人がそのイノベーションを採用するかどうか決定する ―医師が新薬を採用する
④『導入』…個人がそのイノベーションを使用する ―医師が新薬を患者に処方する
⑤『確認』…個人がそのイノベーションについての判断を再確認する ―医師が新薬に対する認識を再確認し、採用量を変更する
医師は新薬採用の不確実性を減らす為に、これら5段階で情報を収集する。その中でも特に重要な のが、①『知識』②『説得』段階だ。
先進派に対しては①『知識』段階に注力するべきだろう。なぜなら、彼らの採用に対して最も大き な影響を与えるのが、新薬に対する論文やエビデンス情報であるからだ(このことに対しては後述)。
またロジャーズ(2007)によると、先進派に対してはマスメディア・チャネル7)が対人チャネルより
重要であると述べている。
追随派に対しては、②『説得』段階に注力するべきだろう。なぜなら、彼らの採用に対して最も大 きな影響を与えるのが、医師仲間からのクチコミであるからだ。またロジャーズ(2007)も、追随派 に対してはコスモポライト・チャネルより対人チャネルの方が重要だと述べている。具体的には、M Rが主導して病診連携、講演会を斡旋する事で、追随派の医師と先進派の医師を繋ぐべきである。
これら 2 点について、簡単に以下の表にまとめてみた。
段階 本文 MR・医師に応用 ターゲット ターゲットに有効なチャンネル
知識 知る・理解する 先進派の医師は新薬説明会に興味大
先進派の医師は論文・エビデンス情報に敏感 先進派 マスメディア・チャネル コスモポライト・チャネル 説得 肯定するかどうか判断する
追随派の医師に対しては、病診連携・講演会・
勉強会をコーディネートすることで、薬品採用 の要因を増やす事が重要
追随派
(保守派)
ローカライト・チャネル 対人チンネル 決定 採用する・しないか決断する 薬品採用の決断
導入 実際に使用する 患者に処方する
確認 ベネフィットを認知する・評価する 処方量を増減する
[参考]エベレット・ロジャーズ:イノベーションの普及、翔泳社(2007)
最後のまとめとして、導入期・成長期・成熟期・衰退期それぞれにおいて、それぞれの医師にどう いったアプローチをすれば良いのかを以下の表にまとめた。
PLC 医師分類 注力する段階 コール数 ディテーリング内容 プロモーション 先進派 知識 大 ・エビデンス重視
・論文紹介 新薬説明会の開催
追随派 知識 中 薬品の認知・理解を促す 保守派 知識 小 薬品の認知・理解を促す 先進派 知識 中 薬品に対する新しい情報を提供 追随派 説得 大 先進派の処方例を出し、不確実性をなく
す 勉強会・講演会の開催
保守派 知識 小 薬品に対する新しい情報を提供 先進派 知識 小 薬品に対する新しい情報を提供 追随派 説得 中 未採用医師に対するディテーリング 保守派 説得 大 先進派の処方例を出し、不確実性をなく
す 導入期
成長期・
成熟期
衰退期
この表において注目して頂きたい点が5点ある。
①最も重要なのは導入期の先進派に対するディテーリングであることを忘れてはいけない。既に 2.3 の様な論文で説かれているように、先進派の医師は多くのパイプを持っており、追随派・保守派の採 用に大きな影響を与えるからだ。
②この表は、当該薬品を未採用の医師に対するものである。既に採用済みの医師に対しては、当該薬 品に関する副作用などの新情報を提供する必要がある。つまり、医師の『確認』段階に注力するとい うことだ。前述したが、この際に過度の情報提供をしないように気をつけるべきである。
③この表は、1 つの薬品のイノベーションを普及させる為のツールである。MRは自分の担当している 薬品全てをこの表に当てはめ、毎日の訪問医師を選択していく。
④治験・薬品研究等は総合病院(大学病院)を中心に行われており、同僚医師も多いことから、ネッ トワークが発生しやすい。それに対して、開業医は主にMRから情報を得ている。よって私は、総合 病院(大学病院)に勤務する医師には先進派が、開業医には追随派が多く含まれていると推測する。
そしてこの溝を埋めるのが、上図の病診連携・勉強会・講演会だろう。これらの会合によって築かれ るネットワークは、新薬の普及の上で極めて重要である。
⑤この表は大雑把なマニュアルであり、最終的には一人ひとりの医師に対してニーズに沿ったアプロ ーチをするべきである。例えば先進派の医師に対しても、『説得』段階に注力するべき場合もある。し
かし、3.4 のインタビュー調査でも明らかになったが、現役MRはあまり時系列や医師のクラスターを 意識しないでディテーリングをしている。彼らは経験による感覚で医師の特性を把握しているのだと 考えられるが、それをカタチにすることに価値があると考え、この表を作成した。
3.3 長期的に見たMR活動効率化 ―チェンジ・エージェントの役割
次に、MRの役割について再確認したい。私は 2.1 で、MRはチェンジ・エージェントの役割を担 っていると述べたが、ロジャーズ(2007)はチェンジ・エージェントの役割を以下の 7 つのステップ で説明している。これらのステップとMR活動を照らし合わせたものが、以下の表である。
STEP チェンジ・エージェントの役割 MR活動への応用
1 変化に対するニーズを高める 『知識』段階。シーズを提示する事で、医師の ニーズを掘り起こす
2 情報交換する関係を構築する
初対面の医師に対しては、薬品を売るのではな く、ニーズを聞きながら密接な関係を築いていく。
真摯さが大切である
3 問題点を突き止める 医師のニーズから問題点を探す。医師の立場に 立って考えることが重要
4 変化したい気持ちをクライアントに起こさせる
分析した医師のニーズと薬品のシーズを合致さ せることで、採用意欲を上げる。(ニーズとシーズ が合致した場合、先進派医師はこの段階で採用 を決定する)
5 変化したい気持ちを行動に変える 追随派の医師に対して『説得』段階に注力する 6 採用を安定させ、中断を未然に防ぐ
薬品を採用して貰ったあとでも、採用拡大や採用 継続の為のディテーリングを行う。また副作用な どの新情報が発生した場合、迅速に伝える 7 関係を終結させる
MRが先導して医師間のネットワークを創ること で、自発的にニーズを生み出してくれるよう持ち かける。追随派と先進派に繋げることが目的 [参考]エベレット・ロジャーズ:イノベーションの普及、翔泳社(2007)
ここで、長期的な観点で売上を上げる為の効果的な方法を、上図より2つ提案したい。
1 つ目は、STEP1~6についてだ。ここで重要なことは、医師に深く感情移入し、ニーズを察知 することである。しかし、冒頭でも説明した通り、MRの使命は『自社製品を売る事』であるのに対 して、当該新薬の採用を望まない医師もいるはずだ。私はこの矛盾が、MR活動を非効率的にしてい ると考える。最近MR訪問禁止の医局が増加しているのも、この矛盾の影響が大きいだろう。ロジャ ーズ(2007)も、チェンジ・エージェントと医師のニーズが合致すれば感情移入が深まり、結果的に 普及に良い効果をもたらすと説明している。そこで私は、MRの評価基準を変更するべきだと考える。
従来は殆ど売上高でMRの賞与が決まっていたが、これからはMRの営業活動の過程も賞与に反映さ せていくべきではないか。
2 つ目は、STEP7についてである。先進派に対してSTEP7は必要ない。なぜならば彼らは 既に、自発的に薬品に対しての情報を収集するからだ。よって私は、追随派の医師を先進派に移行す ることが、STEP7の課題だと捉えている。では、どのような方法で追随派の医師に『薬品に対す る自発性』を持たせるのであろうか。一番の方策は、『MRが主導して病診連携のコーディネートをす る』ことであると私は考える。(病診連携とは、診療所と総合病院・大学病院が相互に協力し、患者の 為により良い治療を提供する事である。例えば膵臓癌などの治療が難しい疾患を開業医が診断した場
合、高度な施設が揃っている大学病院での診療が望ましい。そこで、開業医が総合・大学病院の医師 に患者を紹介し、診療をしてもらう。そして患者がある程度回復したら、再び開業医が診察を請け負 うというものだ)。このように診療所と総合病院・大学病院を繋ぐことで、追随派医師が先進派医師と 接触するきっかけを与えることが出来る。その結果、追随派医師が先進派医師から得た新薬の情報に ついて、更に詳しくMRに聞く(=自発的なニーズ形成)かもしれない。もちろん、説明会、講演会 を開催する事ももちろん、追随派の医師と先進派医師間のネットワークを築く為の効果的な手段だろ う。しかし、それらの開催は、自社の薬品を普及させる為の短期的な手段として捉えられており、既 に注目されている。その点、病診連携をコーディネートしても、自社の薬品のPRには繋がらない為、
未だ注目されていない。よって、医師の病診連携に対してのニーズが存在すると考えられる。(後述す るが、病診連携を中心的にコーディネートするのは大学病院を担当しているベテナンMRだというこ とが分かった。しかし、大学病院担当MRにインタビューをすることができず、病診連携に関する詳 しい検証は出来なかった)
3.4 MRに対するインタビュー調査
上記のA社とB社に注目して頂きたい。A社とB社は同数のMR1500 人が所属しているが、売上に は倍以上の差がある。つまり、B社のMRは明らかにA社のMRより効果的なMR活動を行っている。
そこで、私は以下の仮説を立てた。
仮説:B社のMRは営業活動を効率化する為に、本論文の医師ターゲティング理論を用いている
この仮説を検証する為に、A社B社それぞれ一人ずつのMRに対してインタビューを行った。次のペ ージにその結果を掲載する。
B社
A社
ヒアリング
前提 Q インタビュー項目 A社 B社 分かったこと
Q1 役職 MR MR
Q2 年齢 25 24
Q3 会社 外資系中堅 内資系大手
Q4 勤務年数 3年目 2年目
Q5 MR形態 チームMR 非チームMR
Q6 担当病院 診療所・総合病院 診療所・総合病院
Q7 勤務地 仙台 釧路
Q8 ターゲットの医師の選択方法
上司から医局と、そこに所属する50名くらいの医 師リストを渡される。そのリストから30名ほどを選 んで上司に提出。また、医局は強制指定。その 中の勤務医に対するターゲティングはある程度 MR任せ
上司から医局と、そこに所属する100名くらいの 医師リストを渡される。そのリストから70名ほどを 選んで上司に提出。(既に70人選んであるモデ ルターゲティングあり)。医局は強制指定ではな い
Q9 ターゲット医師の人数(自分が担当する医師) 30名 70名
Q10 その上司からの指示の詳細 ・医局
・医師の名前+各薬品を採用しているか否か
・医局
・医師の名前+各薬品を採用しているか否か
Q11 上司とは? マーケティング部の専門部署 マーケティング部から受け取った資料を営業所
の上司が分析し、ターゲティングする
Q12 そのターゲティングに不満はあるか? 特にない 尐しある
Q13 どのような不満?
・数年前からMRの訪問が禁止されている医局 だったりすること。上司に聞くと、「取ったらでか いから頑張れ」という。
・各医師の詳細の採用履歴・誕生日等の情報が 欲しい。(前任MRに聞くから良いけど)
Q14 ターゲティングについての指示はどれくらいの頻
度で下ってくるのか。 1年に2回+新薬が出た際 1年に4回+新薬が出た際
Q15 自分でターゲティングをする際は、どれくらいの 頻度でやってる?
半年に一度(一応、毎月報告するが、普通変更
しない) 毎月計画を立て、上司に報告
Q16 どのような基準で行うか。 ・患者数が多い医師
・MRを受け入れてくれる医師
・新薬と同じ領域の薬品を過去に採用している か(マーケに聞けば資料送ってくれる)
Q17 1人の医師に対するディテーリングの回数は月に
どれくらい? まちまちだが、平均すると月4回 平均すると月1回
Q18 医師によってディテーリングの回数が増減する? あまり変わらない。 する
Q19 どれくらいの増減? 月に3~5回 月に2回~半年に1回等様々
Q20 それはどういう基準?
・患者を多く抱えている医師に対して多く訪問す る(売上が見込めるから)
・MRを受け入れてくれる医師には多く訪問する
・採用薬品が多い医師に対して多く訪問する
(普段は意識していないが、思い返してみると)
・医薬品情報を欲しがる医師に対しては、細か い副作用情報まで伝えているので、頻度が多く なる
・新製品の切り替えが早い医師には、新薬導入 直後に訪問しまくる(Q:どこ情報?⇒A:前任M R)
・採用してもらいたい薬剤が尐ない場合、あまり 訪問しないか(切り捨てる場合もある)
・処方薬品の数・量が多い医者には多く訪問し ている場合が多い
コールの回 数・ディテー リングの内 容・プロ モーション
Q21
ある薬品のPLCを考えた際、コール数、ディテー リング内容、プロモーション方法は時系列によっ て変化しているか
こちらからのアプローチするときは、担当医師に は大体同じように接するよう努めている。
意識していないけど、結果的にはそうなっている かもしれない
A2は意識していないが、経験から漠然とした ターゲティングを行っている
Q22 ディテーリングの内容 世間話:薬品の話が半々 ほとんど薬品の話
Q23 薬品の話の中で、未採用薬品:既採用の比率
7割未採用薬品のセールス
3割の:既処方薬品の採用継続・採用量増加願 い・市販後調査・添付文書の改訂・医師に対す るアンケート願い等
5割:未採用薬品のセールス
5割:既処方薬品の採用継続・採用量増加願い・
市販後調査・添付文書の改訂・医師に対するア ンケート願い等
Q24 採用が早い人はいつも早く、逆に遅い人はいつ
も遅いイメージはあるか あまりない ある!
Q25 採用が早い人はどのようなイメージ?
好奇心旺盛なイメージ。30代~40代の医師が多 い。
・総合病院の人。総合病院には、大学病院から 肺の専門医がくるので、顔を売る為に薬品につ いての勉強をしている。
Q26 早い人は特別な行動をとったりする?
・ネットで自主的に情報収集
・新薬説明会に参加したがる
・講演会参加率高
・院長との人間関係の為に、院長主催の講演会 に出席する
【3,3】
キャズム Q27 その講演会を主催する人はどんな人? 大学病院の教授レベル この教授がコネクターなのだろうか
Q28 早い人に対するディテーリング内容 エビデンス重視
Q29 早い人に対するディテーリング以外のアプロー
チ 新薬説明会
Q30 遅い人はどのようなイメージ?
・60歳以上の開業医
・効用を見定めてから採用
・同期等、友達と相談してから採用
・あまり新薬に興味がない。
Q31 遅い人に対するディテーリング方法は 足繁く医局に通うしかないのでは
Q32 遅い人に対するディテーリング以外のアプロー チ
勉強会。普段のディテーリングの中での薬品の セールスを嫌う医師でも、この時ばかりは聞いて くれる
Q33 病診連携について知っているか 知っている 知っている
Q34 医師の病診連携に対するニーズはあるか 分からない
あると思う。例えば、「釧路での認知症をなくそう 会」⇒認知症を診断できる医師は殆どいない。
だから、病身連携をして、診療所から大学病院 へ紹介するのだ。
Q35 誰がコーディネートをするか 釧路の会については営業所長とベテナンMR3
人でやっている
A2は医師クラスターを認識している。
A1は、効率の良いMR活動を求められていな い(MRの人数が倍いるから)
【3,3】
キャズム
【3.2】
医師クラス ター別特性 対象者プロ フィール
【2.2・3.1】
ターゲティン グ
【3.1】
コールの回 数
【3.2】
ディテーリン グ
【3.2】
医師クラス ター別特性
・総合病院にオピニオンリーダー多
・総合病院は対人チャンネル多
・A2は先進派医師を認識している
・総合病院内に医師ネットワークが存在する
・コネクターがいるのでは?
A2はA1の2倍以上の医師を担当しており、
これが売り上げに直結するのだと考えられ る。それを可能としているのが、会社・MRとも に医師ターゲティングに注力していることだろ う。
A2は、1人の医師に対するコール頻度が圧 倒的に尐ない。それは、時系列・医師クラス ターに応じて頻度を調整しているからである。
それに対してA1は薬品セールスと関係のな い訪問を多くしている。
(しかしA2は追随派については認識していな いようだ)
A1の営業活動に無駄が見える。ある程度の 感情移入の為であっても、半々は多すぎだろ う。なぜそれでも薬品が売れるのかというと、
製品力があるからであると考えられる。A社は 昨年、B社の約2倍の新薬を発売した。
病診連携は規模が大きく、MR1人ではでき ない。大学病院と診療所・総合病院それぞれ を担当した事があるベテナンMRが重宝され る
Q36 勉強会・講演会の開催経験は? 勉強会:10回ほど(月1回) 講演会:1回だけ 勉強会:20回くらい(月3回)
Q37 勉強会の対象は? 特にない。ディテーリング中に「勉強会やっても
良いですか?」と提案し、OKをもらえたらやる 普段ディテーリングで薬品の話を嫌う医師
Q38 (A2に対してのみ質問)その対象の医師は、
エビデンス重視しないですよね? しない
【3.2】
プロモー ション
Q39 勉強会の意義 普段のディテーリングの中での薬品のセールス
を嫌う医師でも、この時ばかりは聞いてくれる
勉強会はプロモーションというよりも、ディテー リングの延長という考え方だった
Q40 講演会の意義
・総合病院の医師にとっては教授に顔を売る為 のチャンス。
・MRにとっても医師に認めてもらうチャンス
・講演者と懇意にしていれば、薬品採用に繋が ることがある
Q41 開催するきっかけは?
自分から開業医に対して提案。何人かの医師が 食いついてくれたら開催。大学病院担当のMR がコーディネート。そして開業医担当のMRが補 助
Q42 具体的にどうやって開催する?
①講演主催医師に承諾をもらう(大学病院MR の仕事)
②優先して出席させたい医師約30人に案内書 配布(開業医MRも参加)
③②の参加人数を見ながら、他の医師に案内状 を出し、人数揃え(開業医MRも参加)
Q43 その②つながりをつけたい とは、どのような 医師??普段の採用が早い人?遅い人?
①講演主催医師の後輩医師
②大学の同期をあつめる 等など。釧路は北大医学部が多い
Q44 評価基準は? 色々あるが、基本売上+上司の評価 大体だけど、基本売上9割+ほか1割
Q45 その上司とは? 直属の上司 直属の上司
Q46 数字以外の評価基準は? 業務の過程
Q47 公正だと思う? 思わない まぁ思う
Q48 なぜ? 不透明
Q49 MR訪問禁止の医局が増加している そう感じる そう感じる MRがチェンジ・エージェントの役割を果たさ
ず、売上に固執した結果なのではないか
【3.3】
キャズム Q50 医師はどこから薬品の情報を仕入れているの
か。医師のつながりのイメージ(MR以外) 同期の医師ではないか
医師が何人か勤務している診療所の場合、院 長⇒部下の医師という感じ。
総合病院の場合、同僚の医師や大学同期の医 師、薬剤師など色々な所から情報を得ているの では
診療所より総合病院の方がネットワークの種 類と量が多い
評価基準の多くを売上がしめる。これでは、
チェンジ・エージェントの役割が果たせず、矛 盾が発生してしまう。
また余談だが、残り1割の上司による過程の 評価も公正ではない。各営業所で基準が違う からだ。評価委員会を設けることで、評価者 の差をなくし、公正化するべきではないか
【3.3】
長期的にみ た営業効率 化
【3.2・3.3】
キャズム・
プロモー ション
私は講演会の意義を、「先進派と追随派間の ネットワークを築く」ことだと考えていたが、現 役MRにとっては薬品採用の為+自分の顔を 医師に売る為の2点に重点が置かれている。
【3.2・3.3】
キャズム・
プロモー ション
・A2は勉強会の対象医師を追随派(・保守 派)に限定している
・A2はA1に比べてプロモーションに注力して いる
このインタビューから、B社MRは医師クラスターや時系列をある程度認識した上で営業活動をし ていること、そして、それがMR活動の効率化を生み、結果A社の倍以上の医師の担当を可能にして いるということがわかった。よって、先程の仮説
仮説:B社のMRは営業活動を効率化する為に、本論文の医師ターゲティング理論を用いている
は採択された。しかし、あくまでB社MRは営業マンの感覚として医師ターゲティングの理論を実 践しているだけで、社内にそのようなツールはないらしい。そこで、各々の医師の特性や過去の採用 時期の情報をデータベース化し、マーケティング部が医師ターゲティングのアシストをするべきだと 私は考える。
また、追随派への効果的なプロモーションとして提案した講演会・病連連携であったが、それらの 開催を決定し、主にコーディネートをするのは大学病院担当のMRだということが判明した。そこで、
当該薬品を追随派医師に採用してもらう為に、開業医担当のMRから大学病院担当MRに向けて開催 を要請する為のネットワークを作っても良いのではないか。
4.まとめ
では、これまでの分析を総括して、「効果的なMR活動を実践する」為に必要な要素を挙げたい。
①「いつ」・「どの医師に」・「何の」情報を提供すれば良いのかを把握する
―医師は多忙である。よってMRは、必要な時に、必要な情報を彼らに提供しなければならない。
その際に医師を先進派・追随派・保守派とクラスター分けすることで、効率的にニーズを把握で き、その結果効果的なMR活動が実践できる。
②医師間のネットワークを形成する
―追随派の医師の処方意欲を上げる為に、勉強会や講演会を企画し、医師間のネットワークを築く 必要がある。
終わりに
冒頭でも説明したが、これからは 1 つの新薬で大きな収益を望むことは難しくなってくるだろう。
今は製品力で持っている企業も、いつかは営業の効率化に迫られる時が来るはずだ。その時にこの論 文が少しでも役に立てばと思う。
また、本論文には検証が足りなかったと自覚している。残りの検証は私自身がMRとして働きなが らこなしていきたい。
<注釈>
1)ディテーリング:医師と面談すること 2)コール:医師を訪問すること
3)市販後調査:新薬を採用した医師に対する調査。処方患者の変化等を尋ねる調査
4)添付文書の改訂:領域拡大・副作用等、採用済みの薬品の処方に変化が生じる変更を医師に伝え ること
5)プロモーション:本論文では以下 3 点について指す
①勉強会:医師だけでなく看護師、患者に対してMRがプレゼンをする会。開催規模は一般的に は 10 人程度
②講演会:有名な医師を招いて講演してもらい、普段面会している医師に聞きに来てもらう会。
内容は主催する会社の扱っている製品に関連する学術講演が一般的だが、医療制度の 話など全く関係ない講演の時もある。講演会の直前に医薬品の説明時間を入れる事も あり、開催規模は 10 人程度のものから 1000 人以上のものまで様々。
③新薬説明会:新薬導入時に製薬会社が医師向けに開催する説明会。規模はまちまち。
6)エビデンス:薬効の根拠のこと。
7)チャネル:以下4点
①マスメディア・チャネル:マスメディアからの情報源との接触経路 ②対人チャネル:人からの情報源との接触経路
③コスモポライト・チャネル:所属するコミュニティ外部の情報源との接触経路
④ローカライト・チャネル:所属するコミュニティ内部の情報源との接触経路
<参考文献・参考URL>
エベレット・ロジャーズ(2007)『イノベーションの普及』翔泳社 2007 年
エマニュエル・ローゼン『クチコミはこうしてつくられる おもしろさが伝染するバズ・マーケティ ング』 日本経済新聞社 2002 年
川越 満『MRバブル崩壊時代に勝ち残る“7 つの眼“―医療制度改革とMR活動―』エルゼビア・ジ ャパン株式会社
佐賀 国一『実践医薬品マーケティング』日本能率協会マネジメントセンター 1999 年 武藤 猛 『効果的な顧客ターゲティングのための一手法』 SASFORUM 2005 年 武藤 猛 『顧客バリューマトリクスを活用した営業力強化』 2007 年
前田 英二『医療用医薬品マーケティング 実務者が説く理論と実践』メディカルレビュー社 2010 年
マルコム・グラッドウェル『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コ ミの法則』ソフトバンク クリエイティブ株式会社 2007 年
医療ランキング 2005 Monthlyミクス増刊号 2005 年 8 月 25 日発行 医薬産業制作研究所 http://www.jpma.or.jp/opir/index.html
株式会社日本医療データセンター http://www.jmdc.co.jp/
厚生労働省 薬事工業生産動態調査 http://www.mhlw.go.jp/topics/yakuji.html 財団法人医薬情報担当者教育センター http://www.mre.or.jp/
トップMR http://www.topmr.com/index.html 日本製薬工業協会 http://www.jpma.or.jp/
メドピア https://medpeer.jp/index.html