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,単にウアバインの不活性な生合成前駆体で

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植物配糖体のアグリコンは,従来,不活性な生合成前駆体であると認識されてきた.今回,われわれは,哺乳類にお いて強心配糖体アグリコン ウアバゲニン の生理活性を初めて見いだした.すなわち,ウアバゲニンはオキシステ ロール受容体LXR Liver X Receptor のリガンドとして,腎臓での上皮性ナトリウムチャネルの発現を抑制した.

多様なLXR生理作用を選択的に制御するリガンドは,有用な創薬シーズとして期待される.このため,ウアバゲニ ンが重篤な副作用の脂肪肝を惹起せず,選択性の高いLXRリガンドであったことは,新たな医薬シーズの可能性を 提示している.以上,本研究では,新規生理活性物質の探索における配糖体アグリコンの有用性について紹介する.

配糖体とアグリコン

これまで多くの研究者により多数の化合物の単離・構 造が決定され,生理活性が明らかとなってきた.これら の発見は,医薬品開発候補となる化合物や生命現象の解 明に役立つケミカルツールに多大な貢献をもたらしてい る.化合物探索の代表的な戦略として,膨大な化合物ラ イブラリーから鍵穴となるタンパク質を探索する網羅的 な方法と,標的タンパク質の立体構造に基づき化合物を 開発する方法とが挙げられる.しかしながら,同様のコ ンセプトだけでは,新規生理活性物質を見いだすことが 年々難しくなっており,新しい切り口による資源の探索 が課題となっている.このような観点から,われわれは 新たな資源として,分子内に糖部を有する配糖体と呼ば れる化合物に着目した.配糖体は生理活性を有するアグ リコンが配糖化された構造をとり,天然物の世界におい て数多く存在するものの,排泄あるいは貯蔵を担う不活 化された化合物と考えられていた.しかし,特異な多官 能基性分子であるそのアグリコンのもつ生物活性を,活 性試験からスクリーニングする試みはあまり行われてい ない.そこでわれわれが着目したのが,強心配糖体とし て知られている ウアバイン とそのアグリコンである

ウアバゲニン である.

ウアバインはキョウチクトウ科植物などに含まれてい るステロイド配糖体であり,植物においてはほかの配糖 体と同様に貯蔵・排泄が主な役割と考えられている.一

方,哺乳動物においては,ウアバインは心筋収縮作用を 発揮することが知られており,古くより鬱血性心不全や 不整脈の治療などに用いられてきた(1, 2)

.長年,この作

用機序は不明であったが,ウアバインの標的がナトリウ ム‒カリウムポンプであるNa/K-ATPaseであること が明らかとなった.X結晶構造解析より,ウアバインの 3位水酸基上の糖部(ラムノース)がその親和性獲得に 重要な役割を果たしていることが示されている.興味深 いことに,ウアバインをはじめととする強心配糖体はヒ トを含めた哺乳動物の体内からも微量成分として見いだ されており, 内因性ジキタリス様物質 と呼称されて いる.実際,ウアバインは,副腎組織から初めて同定さ れた内因性ジキタリス様物質であり,現在では血圧調節 に関与する内因性リガンドであると考えられている(3, 4)

一方,ウアバインのアグリコンであるウアバゲニンに ついてはほとんど研究例がない.ウアバインと比較し て,ウアバゲニンはNa/K-ATPaseへの親和性が著し

く低く(5, 6)

,単にウアバインの不活性な生合成前駆体で

あるとみなされていた.このように,従来,哺乳動物に おけるウアバゲニンの標的や生理活性については全くの 未知であった.そこで,われわれは,ウアバゲニンが生 体内において新たな生理活性を有する可能性に着目し た.このような可能性を推測するうえで重要な鍵となっ たのが,ウアバゲニンの分子構造である.ウアバゲニン はステロイド骨格に6個の水酸基が結合した構造をとっ ており,高度に酸化されたオキシステロールと捉えるこ とが可能である.オキシステロール類については,近 年,次々と多様な生理活性が明らかにされてきており,

炎症の誘発(7)

,ミトコンドリア傷害の助長

(8, 9)

,脂肪肝 2017

年ガードナー国際賞受賞記念特集

強心配糖体ウアバインのアグリコン「ウアバゲニン」の新規生理活性

田村 理 * 1 ,岡田麻衣子 * 2 ,上田 実 * 3

Satoru TAMURA, Maiko OKADA, Minoru UEDA, *1 岩手医科大 学,*2 東京工科大学,*3 東北大学

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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の誘導(10)などはその一例である.そこで,われわれは ウアバゲニンにも同様に生理活性が存在するのではない かと考え,その標的分子探索に着手した.

核内受容体リガンドとしてのウアバゲニン

標的分子の探索においては,まずウアバゲニンがステ ロイド骨格を有することに着目した.哺乳動物において ステロイド骨格を有する低分子化合物は,内分泌ホルモ ンとして生体内の恒常性維持を司ることが知られてい る.たとえば,性ホルモンであるエストロゲンやアンド ロゲンは代表的なステロイドホルモンの一つである.こ れらの低分子化合物の生理活性はヒトでは48種類存在 するリガンド依存性転写因子群,核内受容体スーパー ファミリーにより仲介され,リガンドの生理作用は核内 受容体の標的遺伝子産物により発揮される(11)

核内受容体の構造は,転写活性化領域A/B, DNA結 合領域C,ヒンジ領域D,リガンド依存性転写活性化領 域E/Fの6つの機能ドメインから構成され,E/F領域に 存在する疎水性のリガンドポケットで各受容体に応じた 低分子化合物をリガンドとして受容する.興味深いこと に,一つの核内受容体に対して複数のリガンドを受容で きることが知られており,各々のリガンドの構造で異な るアロステリックな構造変換を起こすため,リガンド種 に応じた標的遺伝子発現制御が可能となっている(12〜15)

このような観点から,われわれはウアバゲニンが核内 受容体を標的とした,新たなリガンドとして生理活性を 発揮する可能性を検討した.特に,一般的なステロイド

ホルモン類が ‒ ‒ 縮環の平面的な構造であ るのに対し,ウアバゲニンは,A-B-C-D環が ‒ ‒ で縮環した全体的に折れ曲がった特徴的な構造を有 している(図

1

.上述のように,核内受容体はリガン

ド種に応じた生理作用を発揮するため,ウアバゲニン は,既知のリガンドとは全く異なる新たなリガンド作用 を発揮する可能性が期待された.

そこでわれわれは,まず,デュアルルシフェラーゼレ ポーターシステム(10)を用いて,核内受容体群の転写活 性化能を指標にスクリーニングを行い,ウアバゲニンが 核内受容体のリガンドとなる可能性について検討した

(図

2

.各種核内受容体遺伝子をコードするプラスミ

ド,核内受容体プロモーター領域とホタルルシフェラー ゼ遺伝子を融合させたレポータープラスミド,およびコ ントロールとしてCMVプロモーター領域とウミシイタ ケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたレポータープラス ミドをヒト胎児腎臓由来293T細胞に導入後,ウアバゲ ニンをこの細胞系に供して,各ルシフェラーゼの活性を 測 定 し た.そ の 結 果,ウ ア バ ゲ ニ ン は 肝X受 容 体

(LXR)群に作用し,既知LXR合成リガンドT0901317 図1ウアバインの化学構造と縮環による全体構造の相違

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● 化学 と 生物 

天然物の中には思いもよらない有用な資源が秘め られています.本稿で紹介したウワバゲニンによる 哺乳類での生理活性の発見はまさにその一例と言え るでしょう.このコラムでは視点を変えて,核内受 容体の視点から天然物資源の魅力を紹介したいと思 います.核内受容体は一つの原初遺伝子から派生し た遺伝子スーパーファミリーを形成しており,ヒトで は48種類存在します.核内受容体の互いの構造と分 子機能は類似しており,いずれもDNA結合性転写因 子ですが,その最大の特徴は疎水性のリガンド受容ポ ケットを有することです.このポケットへのリガン ドの結合がスイッチとなって核内受容体は標的遺伝 子群の発現を制御するため,リガンドの生理作用は核 内受容体の標的遺伝子産物により発揮されることに なります.また,核内受容体はがんや糖尿病,骨代 謝疾患,動脈硬化,腎障害,高血圧,脂質代謝異常 など現代社会において罹患率の高い疾患とも密接に 関与します.視点を変えると,核内受容体リガンド

はこれらの疾患を制御する魅力的な創薬シーズと言 えるでしょう.たとえば,最も臨床的に汎用されて いる薬剤としては,Glucocorticoid Receptor (GR)の アゴニストが挙げられ,アトピーや臓器移植後の抗 炎症薬として使用されています.Peroxisome prolif- erator-activated receptor (PPAR)

γ

に対する弱いアゴ ニストはインスリン抵抗性の糖尿病の治療薬として,

Estrogen receptor (ER)やAndrogen receptor (AR)は 乳がんや前立腺がんの中心的な内分泌療法薬として 大きな成功を収めています.今後は,核内受容体の 多様な生理作用・病理作用の中から,目的の生命現 象のみをピンポイントで制御できるような核内受容 体リガンドが,天然物資源に眠る原石より発見され ることが期待されるでしょう.ウアバゲニンのよう にステロイド配糖体のアグリコン一つとっても数多 く存在するので,天然物資源にはまだまだ未知の核 内受容体リガンドが眠っているのではないでしょう か.このように,核内受容体の新たなリガンドの発 見は次世代の治療薬開発の福音となることが期待さ れ,天然物資源の生理活性の同定はまさにこの魅力 を秘めているのではないでしょうか.

コ ラ ム

(3)

と同等のアゴニスト活性を発揮することが示された.一 方で,ウアバゲニンはほかの核内受容体群(ファルネソ イドX受容体(FXR)

,ビタミンD受容体(VDR)およ

び5種のステロイドホルモン受容体)に対しては作用し なかったことから,ある程度LXRに選択性の高いリガ ン ド で あ る 可 能 性 が 確 認 さ れ た.実 際 に,LXRと T0901317の共結晶構造(16, 17)を用いて,ウアバゲニンを LXRとの ドッキングシミュレーションに供する と,ウアバゲニンはLXR

α

および

β

のいずれにおいても,

T0901317と同様にLXRのリガンドポケットに収まるこ とが示唆された.また,その際のウアバゲニンの安定化 エ ネ ル ギ ー も 種 々 の 既 知LXRリ ガ ン ドT0901317,  GW3965, 24( ),25-epoxycholesterolに近い値を示すこ とが確認された(図

3

.一方で,ほかの核内受容体

(AR, GR, MR, VDR, FXR)では,安定化エネルギーは 各々の既知リガンドと比較して大幅に低下した.特に,

LXRと類似性が高いといわれているVDR, FXRに親和 性を示さなかったことは,ウアバゲニンの特徴的な核内 受容体選択性を支持する結果となった.

ウアバゲニンは脂肪肝を誘導しないLXRリガンド である

LXRはコレステロール代謝産物のオキシステロール

を内因性リガンドとする核内受容体であり,コレステ ロール排泄,脂質代謝,グルコース代謝,免疫応答など 多様な生理作用を担い,生体内の恒常性維持を担うこと が知られている(18〜24)

.また,近年ではLXRのアゴニス

ト の 抗 が ん 作 用 や 降 圧 作 用 が 明 ら か と な り つ つ あ

(25〜30)

.このため,新たなLXRリガンドの発見は動脈

硬化や糖尿病,がんなど,現代社会で罹患率の高い疾患 の有用な分子標的薬開発の基盤となることが期待されて いる.一方で,既存のLXR合成リガンドは重篤な副作用 として脂肪肝を惹起することが知られており,創薬開発 の大きな障壁となっている(18, 31, 32)

.LXRにはLXR α

と LXR

β

の2つのサブタイプが存在するが,LXR

β

がユビキ タスに発現する一方で,LXR

α

の発現は主に肝臓や小腸,

脂肪組織など組織特異性を示し,合成リガンドによる脂

質代謝遺伝子群( など)の誘導

が脂肪肝の主要因となることが知られている.したがっ て,サブタイプ特異的に制御可能なLXRリガンドの発見 は,創薬開発のブレイクスルーとなることが期待される.

興味深いことに,われわれがLXRリガンドとして同 定したウアバゲニンは,脂肪肝を惹起しないことを見い だした.マウス肝がん由来Hepa1-6細胞株ではT0901317 と異なり,ウアバゲニンによる脂質代謝制御遺伝子群の 誘導は認められなかった.さらに,マウス個体を用いた 解析においても,このようなウアバゲニンの遺伝 子発現制御の特性が確認された.特筆すべきは,従来,

LXR合成リガンドの課題であった脂肪肝をウワバゲニン は誘導しないことである.合成リガンドあるいはウアバ ゲニンを10 mg/kg/dayで5日間連続投与すると,従来 の報告どおり,T0901317投与群では肝臓が肥大してお り肝臓重量比も有意に増加したが(33)

,ウアバゲニン投与

群 で は ほ ぼ コ ン ト ロ ー ル 群 と 同 等 で あ っ た.ま た,

T0901317では亢進した肝トリグセリド量についても,

ウアバゲニンでは顕著な変化は認められなかった.

このようなウアバゲニンの特性を説明する理由とし て,まず,肝臓における薬物代謝との関連が推測され た.一般に,ステロール類は肝臓において代謝を受け分 解されるため,肝臓におけるウアバゲニンと既存リガン ドとの薬物代謝の違いが,今回のようなリガンド特性の 差異を規定する可能性を検討した.そこで,肝臓以外の 組織として腎臓に着目し,マウス腎集合管由来M-1細胞 において同様の検討を行った.その結果,T0901317で は脂質代謝制御遺伝子群の有意な亢進が認められたもの の,ウアバゲニンでは肝臓由来細胞と同様にこれらの遺 伝子群について発現変動は確認されなかった.

以上より,ウアバゲニンは肝臓の薬物代謝とは異なる 図2デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ

図3 ドッキングスタディによるウアバゲニンとLXR の安定配座

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● 化学 と 生物 

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機構で,LXRの生理作用にある程度の特異性をもつ希 有なリガンドであることが示唆された.また,このよう な脂質代謝に対する既存リガンドとウアバゲニンの作用 の違いは,ヒト肝がん由来HepG2細胞株においても認 められ,種間で保存された重要なリガンド応答の違いで あると言える.

既存の合成LXRリガンドとは異なる応答を示すウ アバゲニン

ウアバゲニンが脂肪肝を誘導しないことは,既存の合 成LXRリガンドとの最も明瞭で有用な違いであると言 えるが,ほかにもいくつかの違いが明らかとなってい る.まず第一に,ウアバゲニンの受容体特異性の高さが 挙げられる.T0901317は,LXRのみならずFXRとも結 合して転写活性化能を発揮するため,FXRを介してア ポリポタンパクの発現(34)や脂肪酸代謝(26)に影響を与え ることが知られている.一方で,ウアバゲニンはFXR をはじめとするほかの受容体には作用しないことが,先 のレポーターアッセイにおいて確認されており,ウアバ ゲニンはT0901317よりも選択性の高いLXRリガンドと いえる.第二に,細胞毒性の低さである.M-1細胞に対 し てT0901317とGW3965が そ れ ぞ れIC50値12 

μ

M,  3.2 

μ

Mの生育阻害活性を示したのに対して,ウアバゲニ ンは0.1 mMの濃度でもほとんど阻害活性を示さなかっ た.第三に,生理作用の特異性の高さが挙げられる.

LXR合成リガンドの作用として,脂肪肝の誘導のほか,

GW3965はヒト結腸腺がん由来HCT116細胞株において 細胞周期のG1期に停滞を引き起こすことが知られてい る(27)

.一方で,ウアバゲニンではGW3965と同濃度で

作用させてもG1期停滞を含めた細胞周期への影響は認 められなかった.以上から,ウアバゲニンは既知合成リ ガンドより毒性が低く,選択性の高いLXRリガンドで ある可能性が示された.

ウアバゲニンのENaC発現抑制作用

前項では既存の合成LXRリガンドの副作用に対する ウアバゲニンの差異について紹介してきたが,最後に,

ウアバゲニンによる選択的なLXRの生物活性およびそ の制御機構について紹介する.

LXRリガンドの生理作用にはコレステロールや糖代 謝に加え,腎臓における血圧調整作用を有する可能性が 指摘されている(28, 29)

.さらに2012年には,LXRリガン

ドが集合尿細管細胞上の上皮性ナトリウムチャネル

(ENaC)の発現を抑制することが報告されている(30)

尿細管細胞においてENaCは原尿からのナトリウムイオ ン取り込みを担っており,体内水分や塩分の恒常性維持 ひ い て は 血 圧 の 安 定 に 欠 か せ な い 機 能 を 有 し て い

(35, 36)

.本チャネルの発現量低下はナトリウムの再吸

収抑制につながり,体内の水分貯留を低減させることか ら,血圧低下を促すことが考えられる.実際に,ENaC 阻害剤であるトリアムテレンやアミロライドは利尿降圧 作用を示すことが知られている.したがって,LXRリ ガンドも作用機序は依然として未知ではあるものの,同 様の降圧作用が期待される.そこで,われわれは選択性 の高いLXRリガンドであるウアバゲニンがこのような LXR生理作用に寄与するかを検討し,その作用機序の 解明を試みた.

マウスENaCは

α

β

γ

の3種のサブユニットから構成 されており,このうちのいずれかが欠如してもナトリウ ムチャネルとしての機能が大きく損なわれると言われて

いる(37〜40)

.まず,ウアバゲニンによるこれらの遺伝子

のmRNAの発現制御の可能性について,マウス腎集合 管由来M-1細胞を対象にqRT-PCRに供して検討した.

その結果,ウアバゲニンを含めたいずれのLXRリガン ドも,

α

については影響しないものの,

β

およ び

γ

の発現を抑制することが示された.さらに,

siRNAを用いたノックダウン法により,これらのリガ ンド作用が確かにLXRを介することが確認された.先 に述べたように,LXRには

α

β

の2つのサブタイプが 存在するため,LXRのサブタイプ特異的なノックダウ ン条件を確立して検討したところ,興味深いことに,

LXR

β

を特異的にノックダウンしたときのみウアバゲニ ンおよび合成リガンドによる sの発現抑制がキャン セルされることを見いだした.さらに,この条件下で LXR

α

を過剰発現させても, 発現抑制活性はレス キューされないことが示された.以上から,LXRリガ ンドの 発現抑制活性はLXR

β

にのみ依存して引き 起こされており,LXR

α

には影響されないことが証明さ れた(図

4

さらに,ウアバゲニンのENaC発現抑制活性につい て,マウス個体を用いた 実験においても検証す ることとした.ddyマウスに対して1 mg/kgの各リガン ドを腹腔内投与して6時間後に腎臓を摘出し, の mRNA発現量を評価した.その結果,驚くべきことに

α

サブユニットを含めたすべてのサブユニットの発現量 が低下していることが明らかとなった.すなわち,ウア バゲニンには, でもマウスに対して腎臓のENaC 発現を抑制する効果があることが認められた.

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● 化学 と 生物 

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おわりに

これまでウアバゲニンは,強心配糖体ウアバインの不 活性な生合成前駆体アグリコンとして考えられてきた が,今回,選択性の高いLXRリガンドとして機能し,

腎臓でのENaC発現抑制を担う生理活性が明らかとなっ てきた.LXRの生理作用を鑑みると,LXRリガンドは アテローム動脈硬化症(41)や糖尿病,がんなどさまざま な疾患の分子標的薬となることが期待されるが,一方 で,脂肪肝を誘導するため,創薬として諸刃の剣の性質 を有してきた.脂肪肝の誘導は主としてLXR

α

を介して 発揮されるため,LXR

β

に選択的なリガンドの開発が望 まれてきた.しかしながら,LXRの両サブタイプのリ ガンドポケットは相同性が高く,両サブタイプの機能を 個別に制御可能な,サブタイプ特異的なリガンドの開発 には至っていない.このようなリガンドの開発は創薬の みならず,各サブタイプに依存した生理作用・病理作用 の解明にも必要不可欠であると考えられる.したがっ て,われわれが見いだしたウアバゲニンの生理活性が LXR

β

に特異的であり,脂肪肝の誘導を伴わないこと は,今後のLXRの基礎および創薬研究において利用価 値の高い全く新しいLXRリガンドとなることが期待さ れる.また,ルシフェラーゼ活性やドッキングシミュ レーションの結果からは,ウアバゲニンはいずれの LXRサブタイプの転写活性化能も有する潜在性を秘め ており,如何にして生体内においてウアバゲニンのサブ タイプ特性が発揮されるかは興味深い.作用機序は未知 であるが,内因性のLXRでは脂肪肝を誘導しないため,

これらの機構とウアバゲニンの作用機序の共通項を見い だすことは,新たな選択的LXRリガンドの開発の手が かりとなると考えられる.また,本研究により,ウアバ ゲニンは培養細胞系とマウス個体の両方でENaCsを抑

制することが明らかとなった.今後,ウアバゲニンによ るENaCs抑制作用は,利尿降圧剤シーズとして,高血 圧治療薬の選択肢を拡げることが期待される.またウア バゲニンは脂肪肝だけでなく,既存のLXRリガンドの 副作用についても認められないことから,医薬品シーズ として有望であると言える(図

5

このようなウアバゲニンの生理活性を「配糖体‒アグ リコン」の観点から考えると,腎臓において「配糖体」

であるウアバインがNa/K-ATPaseを介して昇圧作用 を発揮する可能性と,「アグリコン」であるウアバゲニ ンが腎臓のENaC発現を介して降圧作用を発揮する可能 性が,如何にして関連していくかは非常に興味深い.哺 乳動物において両化合物を変換する糖付加酵素や脱糖酵 素は未知であり,現段階では両化合物の関係性は想像の 範疇を超えることができない.しかしながら,これら化 合物の生体内の変換が,ENaCからNa/K-ATPaseへ 標的変化を引き起こし,生理活性として血圧降下から血 圧上昇へと全く逆の活性へと切り替わる可能性は,極め てユニークで魅力的な仮説である.今後のさらなる解析 により,「ウアバイン‒ウアバゲニン」の関係が,体内の 状況に応じて糖部の解離/結合を操作して血圧の安定を 図る可能性も考えられる.

天然物化学においては,配糖体とアグリコンの関係 は,どちらか一方が生理活性を有し,もう一方はその不 活性化体であるというのが一般的な視点であった.今 回,ウアバインを例として配糖体とアグリコンの双方が 個別の標的タンパク質を介して,全く異なる生理活性を 発揮する例を見いだすことができた.ウアバイン‒ウア バゲニンが哺乳動物において内因性リガンドであること の証明や,その生合成経路を解き明かすことは,今後の 重要な課題である.しかし,ウアバゲニンを例に,過去 に生物活性を示さないとされた配糖体アグリコンに,予 図4ウアバゲニンはLXRβを介してENaCの発現を抑制する 図5ウアバゲニンは脂肪肝を誘導せず腎臓でのENaC発現を

抑制する

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● 化学 と 生物 

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想だにしないような生物活性が潜んでいる可能性は少な くなく,天然に多く存在する配糖体分子のアグリコンが 新たな生理活性分子の探索資源として有用であることを 指摘できたのではないかと考えている.

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プロフィール

田 村  理(Satoru TAMURA)

<略歴>1998年大阪大学薬学部製薬化学 科卒業/2003年同大学大学院薬学研究科 博士課程修了/同年同大学薬学研究科助手

(のちに改組により助教)/2009年京都薬 科大学研究員/2010年JST ERATO袖岡 生細胞分子化学プロジェクト博士研究員/

同年大阪大学大学院薬学研究科特任助教/

2012年東北大学大学院理学研究科講師/

2016年岩手医科大学薬学部准教授,現在 に至る<研究テーマと抱負>医薬品シーズ となる天然由来化合物の開発およびそれら 作用メカニズムの解明<趣味>サッカー,

フットサル

岡田 麻衣子(Maiko OKADA)

<略歴>2004年日本女子大学理学部物質 生物科学科卒業/2009年東京大学大学院 農学生命科学科博士課程修了/同年東京大 学分子細胞生物学研究所ERATO研究員/

2010年中外製薬株式会社研究員/2011東 京大学分子細胞生物学研究所助教 /2013 年聖マリアンナ医科大学特任助教/2016 年聖マリアンナ医科大学研究員および東京 工科大学研究員/2018年東京工科大学応 用生物学部助教.現在に至る<研究テーマ と抱負>内分泌ホルモンによるゲノム発現 制御機構の解明<趣味>ねこを眺める 上 田  実(Minoru UEDA)

<略歴>1989年甲南大学理学部化学科卒 業/1994年名古屋大学大学院農学研究科 博士課程修了/同年慶應義塾大学理工学部 助手/2001年同助教授(独立講座)/2004 年東北大学大学院理学研究科教授.現在に 至る<研究テーマと抱負>天然物ケミカル バイオロジー,化学と生物学から生物現象 を解明したい<趣味>ねこ全般,ミステ リー小説など

Copyright © 2018 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.56.184

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

Referensi

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によって引き起こされる トマトの根腐れを防除することやコウチュウ目昆虫に対 して殺虫活性を示すことが報告されている12, 13.また, はその代謝物を使用して開発された液体 製剤に,蚊の幼虫に殺虫活性があることが報告されてい る14.したがって, および のアカイエカに対する殺虫活性は世界初の報告とな る. 本研究では殺ボウフラ活性を示す4種類の細菌を土壌