紛争が起きて米国が関与 する度に、新しく開発され た兵器システムが大活躍す る。アル・カイダ及びタリ バン勢力と対峙したアフガ ン戦争も、その例外ではな い。この戦争では、無人機
(UAV)と衛星誘導爆弾が、
決定的なダメージをもたら す、きわめて効果的な兵器 として一躍名を上げた。ブ ッシュ米政権は、アフガン 戦争を、反テロ戦争の緒戦 にすぎないと見ている。反 テロ戦争は米国がこれまで に関与した、いなかる戦争 とも異質の、はるかに広範 囲で終わりの見えない戦争 なのだ。その結果、米国の 国防政策は追加的な予算に 助けられつつ、テロ攻撃の 脅威に反撃する軍事能力だ けでなく、より高精度の兵 器使用と投射(プロジェク ション)能力、より包括的 で信頼でき、そして実効性 のある情報活動、より柔軟 なプラットフォームを確保
する能力に重点を置こうと している。欧州の同盟諸国 もこれらの見直しに着手し ているが、彼らの選択肢は 低水準の国防支出によって 制約を受けることになるだ ろう。
資源の動員
米国は、2001 年9月 11 日から数週間以内にアフガ ニスタン制圧のために大規 模兵力を投入したが、これ は米国の圧倒的なパワープ ロジェクション能力を改め て誇示した。たしかにタリ バン政権は近代的戦争に対 応する装備を欠いていた。
しかし、世界のどこで不測 の事態が起きようと、それ に対して直ちに圧倒的な破 壊力をもって反応できる米 軍の能力を過小評価するこ とにはならない。しかも、
米国は、冷戦終結後の1990 年代にいわゆる「調達の休 日」(procurement holiday)と 呼ばれる時期があったにも
関わらず、こうした作戦を 遂行できるのだ。米国の軍 事力の増強は9月 11 日事 件以前にすでに始まってい たが、事件以来、米国の関 心はかつての「平和の配当」
から実存する脅威について の強烈な認識へと大きく変 わった。このことは、米国 の軍事資産と将来の軍事能 力のあり方に重大な意味合 いをもたらすだろう。
ブッシュ大統領は、選挙 戦での公約を踏まえて、政 権 最 初 の 2002 会 計 年 度
(2001 年9月−2002 年 10 月)国防予算での増額(330 億ドル)の大半を兵員の給 与やメンテナンスなどの即 応態勢の整備に振り当てた。
しかし、今年2月に正式発 表した 2003 会計年度(02 年9月-03年10月)予算案 の増額分 380 億ドル−100 億ドルの戦争準備金を含め れば480億ドル−は、より 深遠な目的を明らかにして いる。給与引き上げと健康
反テロ戦争と国防政策のプライオリティ
技術開発と調達計画
保険関係の支出増に加えて、
総国防予算案に占める調達
予算は12.4%増の687億ド
ルに、研究開発(R&D)予
算は11.4%増の539億ドル
に増額されている。こうし た増額は、最近まで、国防 産業が期待し得ないものだ った。
国防予算増額の大部分は 通常戦力の整備を支援する ことになるだろう。例えば、
増額を擁護する政治的コン センサスのおかげで、今の と こ ろ 、 3 つ の 戦 闘 機 開 発・配備プログラム―F-22 ラプター、統合攻撃戦闘機
(JSF)、それに艦載戦闘攻撃
機F/A-18E/F(スーパー・ホ
ーネット)―に予算を割り 振ることについての批判は 払拭されている。実際、ペ ルシャ湾岸で継続されてい る作戦、ボスニア、コソヴ ォ、アフガニスタンでの戦 争など、この数年間におけ る作戦のペースから見て、
兵器の更新とグレードアッ プは緊急な課題となってい る。こうした戦争は航空機 やその他の兵器の陳腐化を 予想以上に早めており、9 月 11 日事件が仮に起きて いなくとも、兵器調達の増 額はおそらく実行されてい ただろう。米国内の現在の
雰囲気が継続すれば、以前 であれば削減の対象になり やすい国防プログラムが存 続することになるだろう。
さらに、それ以外のプロ グラムには、明らかに新た なインセンティブを与えら れた。とりわけ、テロリズ ムに反撃する特化した能力 が重視されようとしている。
例 え ば 、 米 本 土 防 衛 (homeland defense)がそうで あり、ブッシュ政権は本土 安全保障局を設置して、こ れを政策の新しい目玉とし た。米本土防衛の新規支出 の大半は、非軍事的性格の ものだ。例えば、国境警備 隊員や沿岸警備隊員、税関 検査官、空港治安隊員の増 員である。また、生物テロ 攻撃に備えて公衆衛生シス テムの改善措置が講じられ る。また、爆発物や生物兵 器を検出するための新しい 機材が必要となるだろう。
他方では、世界中のあらゆ る敵に対して武力を行使で
きる米国の能力を増強に優 先的考慮が払われるだろう。
能力(capability)の評価 ラムズフェルド国防長官 は、2001年の「4年毎の国 防計画の見直し」(QDR)に おいて米国の軍事思考に重 大な変更を加えた。それは、
二正面戦略(米軍が二つの 大規模な地域戦争を同時に 勝利する戦略)から能力ベ ー ス ・ ア プ ロ ー チ (capability-based approach)
(脅威の源や性質を問わず あらゆる現代の脅威に対処 で き る 能 力 を 確 保 す る 戦 略)へ転換する方針を打ち 出した。QDRによれば、能 力ベース・アプローチは、
「いかなる国、国家連合、あ るいは非国家主体が、今後 数十年間において、米国や 同盟・友好国の重要な利益 に対して脅威を与えること になるか、米国は自信をも って知り得ないという現実 を反映している。しかし、
敵が使う可能性のある能力 を予想することは可能だ。」 この戦略転換は、9月11日 事件以前に計画されたもの だが、結果的にタイムリー になったといえよう。QDR はさらに、米国の軍事的パ ワーを高める能力の広範囲 な領域を特定している。そ れは、①高性能リモート・
センシング(遠隔測定)に よる長距離攻撃、②特殊機 動遠征部隊、③アンチ・ア クセス及び対地・対空機能 の脅威を排除するシステム、
三つだ。③を除いて、すべ て必要なことがアフガニス タンで証明された。③に関 しては、タリバンの防空体 制が取るに足らないものだ ったからだが、これはすべ ての潜在的な敵に当てはま ることではない。
情報・監視・偵察
アフガン戦争は、「軍事 分野の革命」(RMA)の進 展を証明した。それは、コ ンピューター、通信、セン サー、それにサイクル・タ イムを縮減するするウェポ ンの使用による軍事作戦の 精緻化だ。今後は、インテ リジェンスに特別の重点が 置かれるだろう。米国は、
米国の利益を脅かすテロリ
スト勢力が育成され匿われ ている、世界のいくつかの 場所(ソマリア、イエメン、
フィリピンなど)で監視体 制を強化したいと考えてい る。米国防総省によれば、
アル・カイダは世界の60カ 国に下部組織を持っている。
監視体制の強化努力は、
不可避的に適切な情報活動、
監視、偵察資産をさらに重 視することを意味する。米 政府は、テロリストのキャ ンプかもしれない被写体の 上空を通過する瞬間だけの 衛星スナップショットにも はや満足していない。新た に 要 求 さ れ て い る の は 、
「粘り強い」「じっと見詰め る」監視体制だ。米国の情 報機関は偵察衛星を増やし、
高高度のスパイ飛行機を増 やすことを希望している。
ノースロップ・グラマン社 製造の無人機グローバル・
ホークはアフガニスタンで 実戦デビューを飾ったが、
航続距離、センサーを積載 しながら長時間飛行を持続 できる能力を考えると、高 高度監視・偵察のプラット フォームになりそうだ。
アフガン戦争でのグロー バル・ホーク、それに特に 無人機プレデターの使用は、
戦争におけるロボット工学
の新時代の到来を告げてい る。ゼネラル・アトミック ス社製造のプレデターは、
1995年以来、バルカン半島 とイラク上空を飛んでいる。
アフガン戦争では、アル・
カイダ及びタリバン部隊の 捜索を主目的に使われたが、
二つの点で特に注目を集め ている。第1に、司令官た ちは、プレデターのカメラ が送ってくる、地上活動の 生中継ビデオが非常に参考 になると考えている。第2 に、司令官たちは、標的を 絞って、プレデターに搭載 したヘルファイア・ミサイ ルを発射できたことだ。ミ サイル発射にロボットを初 めて利用したことは、画期 的な進歩ながら、ほとんど 注目を集めていない。アフ ガニスタンでの成功は、海 軍の新型無人機を初め、現 在進行中の他の無人戦闘飛 行体開発プログラムを推進 することになるだろう。
さらに、電子情報収集と 通信の傍受にも重点が置か れそうだ。ここでもまた、
無人機が一定の役割を担う ことが可能だろう。人的資 産へのリスクをほとんどな くしてくれるからだ(米国 は、海軍偵察機が中国領に 緊急着陸し、乗員24人が一
時拘束された 2001 年4月 の事件の再発を望んでいな い)。戦場の光景に貢献する あらゆる資産はすべて優先 的取り扱いを受けるだろう。
例えば、統合偵察攻撃シス テム「J-STARS」搭載の無 人偵察機、U2スパイ機、
ミサイル監視専用電子偵察
機RC-135などだ。NATO主
導のコソヴォ戦争では、移 動標的を攻撃する能力面で 大きな欠陥が見つかった。
攻撃で破壊できたセルビア 軍の戦車は数台にすぎなか った。アフガン戦争の初期 の結果は、敵が洗練されて いない、装備も貧弱な部隊 で、セルビア軍ほどカムフ ラージュに長けていないと はいえ、移動体に対する攻 撃能力が改善していること を示している。それはとも かく、センサーの解像力は 改善する余地がまだ大きく、
これは技術的研究の重要な 目標になるだろう。現実に は、核分裂物質の密輸を阻 止するための新型センサー の配備がすでに始められて いるとも伝えられている。
攻撃の精緻性
精密誘導兵器技術はさら に促進されそうだ。艦艇発 射ミサイルや空中発射ミサ
イルは、湾岸戦争で名を上 げて以来、兵器庫の中です でに重要な地位を占めてい る。しかし、アフタニスタ ン戦争で選ばれた新型兵器 は統合直接攻撃弾(JDAM)
だった。これは、全地球測 位システム(GPS)を使っ た安価な衛星誘導装置を尾 部に装備した攻撃精度の極 めて高い自然落下の爆弾だ。
この爆弾の使用によって、
コゾヴォ戦争で経験した問 題を解決している。コソヴ ォ戦争では、民間人に危害 を加える恐れから悪天候下 では爆弾が投下できなかっ た。
JDAMには、2000ポンド 爆弾(GBU-31/B)と 1000 ポンド爆弾(GBU-32/B)が あるが、より精度の高い500 ポンド爆弾の使用が計画さ れている。アフガン戦争で は、JDAM が長距離爆撃機 B-52 と海軍の戦闘爆撃機
F/A-18から数千発投下され
た。米軍の空爆能力の範囲 がこのように広がった結果、
研究開発と実戦配備との融 通性高まってきている。そ の一例が、新型「サーモバ リック」2000ポンド爆弾の 敏速な実験と実戦配備だ。
この爆弾は、高温と強烈な 衝撃波を出すため、敵が隠
れているような洞穴など閉 鎖空間の標的を攻撃するの に特に有効だ。実験は、12 月 14 日にネヴァダで行わ れ、2月末にアフガニスタ ンで初めて使用されたと伝 えられている。
機動性
米国が敏速かつ広範囲に、
そして米本土からはるかな 遠隔地で攻撃を加える能力 を持つためには、多大の機 動性が要求される。そうし た作戦には支援航空機・艦 船の広範囲な配備も欠かせ ない。これらも今後数年の うちに関心を集めることに なるだろう。多くの航空機 が老朽化している。ラムズ フェルド国防長官は、まだ 行動には移していないが、
海軍の新艦艇建造率を引き 上げる必要を認めている。
米空軍(USAF)の輸送能力 も、多数の新型C-17グロー ブマスターを実戦配備して いるものの、アフガン戦争 によって限界ぎりぎりのと ころに来ている。USAF の 空対空給油機隊は大規模だ が老朽化している。空軍首 脳部は、新型のボーイング 767 双 発 ジ ェ ッ ト 旅 客 機 100 機をこの任務のために リース契約することを提案
して政治的なひと騒動を引 き起こした。この他、電子
戦闘機EA-6Bプローラーも
更改の時期を迎えている。
米軍近代化の最後の焦点 は陸軍だ。陸軍首脳部は、
最近の紛争で陸軍が限定的 役割しか果たしていないこ とを意識して、軍の機動性 と弾力性の向上を図ろうと 慌しい。しかし、アフガニ スタン戦争では特殊地上部 隊が真価を発揮し、今や資 源積み増しを要求する地位 に立とうとしている。それ には、通信の改善や、ガン
シップAC-130スペクター/
スプーキー(輸送機を改造 した対地攻撃機)のような 特化した航空機の配備が含 まれるだろう。
そして同盟国は
欧州諸国における9月11 日事件後初の国防ニーズに 関する評価は、英国から出 るだろう。英国は、目下、
1998年「戦略防衛見直し」
(Strategic Defence Review)」に 新たな一章を書き加える作 業に取り組んでいる。英国 防省が実施している協議プ ロセスは、他のNATO同盟 国が近代化に対処するため に改善しなければならない 事項について新たな分析を
提供するはずだ。
欧州諸国は新型戦闘機と 輸送機、それに精密誘導兵 器を購入しようとしている。
その目的は、主として人道 的作戦任務や平和維持活動 など、いわゆるピータース バーグ任務を遂行すること にあるのだが、欧州数カ国 は展開可能な部隊を増強す る方向に大きく踏み出した。
また、一部の国は、新型偵 察機器に投資しようとして おり、これには無人機や戦 場監視機が含まれている。
英国は、新型大型空母2隻 とそこから発進する F-35
(JSF)を購入しようとして いる。F-35の買い入れはほ ぼ確実だ。これらの兵器の 有効性を証明したのはアフ ガン戦争における米国の海 上投影の成功例だけだ。し かし、もし米国の同盟国が 国防予算を現時点では不相 応に見える大幅増額に踏み 切らなければ、米国の軍事 的に先行する米国に後れを とるまいと悪戦苦闘を続け ることになるだろう。現実 の問題として、最近の米国 の国防支出の増加は同盟諸 国をさらに後方に追いやる ことになりそうだ。●