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「合成代謝工学」による化学品生産 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 8, 2012 567

今日の話題

「合成代謝工学」による化学品生産

発酵工学のための新たなパラダイム構築にむけて

代謝工学に基づく微生物ゲノムの改変は,発酵生産能 力の改良を目指すうえで今や最も重要な戦略の一つと なっている.その一方で代謝工学的手法により設計・導 入した改変が,期待どおりの生産性向上に結びつかない という事例も少なくない.これは,われわれが特定の代 謝産物の生産性増大を目論んで微生物ゲノムに人為的改 変を加えようとも,その改変が彼らの生存や増殖にとっ て不利に働くものであった場合,何らかのセーフティー ネットワークが発動し,改変の効果が打ち消されるため であるとされる.発展著しい各種の-omics技術を駆使 し,いわゆる「生命のロバスト性」と呼ばれるこれら一 連のネットワークをより深く理解し制御しようという試 みが,近年の代謝工学分野における潮流の一つとなって いる.

一方,筆者らのグループでは,これとは全く異なるア プローチで代謝工学が抱える諸問題を克服することを試 みている.すなわち,生きた細胞の代謝経路を改変する のではなく,あらかじめモジュール化した代謝酵素を任 意に組み合わせ,物質生産に特化した経路を で 再構築しようというものである.本法を用いれば,微生 物の生物活動に依存しない生産プロセスが構築可能であ るため,温度・pH等の単純な操作パラメーターの制御 のみで変換反応が実施可能となり,反応条件のフレキシ ビリティーも格段に向上する.上述した生命のロバスト 性に起因する問題も含め,従来の発酵生産につきまとっ てきた「生き物を取り扱う」がゆえの問題を回避するこ とが可能となる.

しかし,ここで問題となるのは複数の代謝酵素を副反 応を伴わないレベルにまで精製する作業の煩雑さであ る.筆者らはこの煩雑さを回避するため,(超)好熱菌に 由来する耐熱性酵素に着目した.まず,耐熱性酵素遺伝 子を大腸菌などの中温性宿主微生物内で過剰発現させ る.得られた組換え菌を70oC程度の熱処理に供した後,

触媒としてそのまま利用する.この結果,宿主由来酵素 の大部分が熱変性により不可逆的に失活し,精製酵素と 同レベルの高い選択性を有した生体触媒が容易に得られ る.本法は異種宿主内での機能的発現さえ可能であれ ば,あらゆる耐熱性酵素に対して適用可能である.した

がって代謝経路を構築する一連の酵素をモジュール化 し,これらを任意に組み合わせることによって,化学品 生産のための人工代謝経路をオンデマンドで構築できる

「合成代謝工学」なるアプローチが可能となる.

での代謝経路の再構築とこれを用いた物質生 産の例はこれまでにも多くの報告がなされており,古く は1985年にWelchとScopesによって報じられた酵母由 来の解糖系酵素群およびATPaseを用いたグルコースか らのエタノール生産が挙げられる(1).本報告によれば,

1 Mのグルコースから8時間の反応で,理論収率である 2 Mに迫るエタノールが生産されており,反応速度と対 基質収率のみで比較すれば,通常の発酵法を凌駕する生 産性が得られている.また近年では,岩田と奥により耐 熱性酵素を用いたエタノール生産が報告されている(2). 好熱菌を遺伝子ソースとすることで,酵素の安定性が格 段に増したことに加え,精製ステップを大幅に簡略化さ せることが可能となっており,このアイデアはわれわれ の研究立案にも欠かせないものであった.本系は余剰 ATPの再生反応を含まないため,高濃度基質の利用に は適さないが,5 mMのグルコースから9 mM程度のエ タノール生産が可能であり,対基質収率の高さはWelch とScopesのシステムと同等である.

ただし,これらの報告例で再構築された代謝経路は,

いずれも天然のエタノール発酵経路をそのまま模倣した ものである.代謝の生理的意義がATPやNAD(P)Hな どの補酵素を通貨としたエネルギーや還元力の獲得(異 化代謝)ならびに,ここで得られたエネルギーを利用し た細胞構成物質の合成(同化代謝)にある点を考慮すれ ば,天然の代謝経路の一部を無作為に「コピー&ペース ト」しただけの合成経路では,補酵素の過不足による反 応停止が避けられない.適当な補酵素再生反応の導入も 一つの解決策ではあるが,微生物由来酵素の多様性を活 用すれば,これらの方法に頼らなくとも補酵素収支の問 題を克服することが可能となる.たとえばグルコースか らのエタノール生産経路の場合,真核・原核生物におけ るEmbden‒Meyerhof (EM) 経路を経ればグルコース1 分子当たり2分子のATPが生産される(すなわちADP  2分子が消費される).一方,一部のアーキアにはADP

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今日の話題

依存型キナーゼなどのユニークな補酵素要求性を有した 酵素からなる変形EM経路の存在が知られている(3).原 核・真核生物型EM経路においてグリセロアルデヒド-3- リン酸 (GAP) から3-ホスホグリセリン酸 (3-PG) への 変換は,GAPデヒドロゲナーゼ (GAPDH) によるリン 酸依存型の脱水素反応とホスホグリセリン酸キナーゼ 

(PGK) による脱リン酸化反応の2段階から成り立って おり,この一連の反応でGAP 1分子当たり1分子の ATPが産生される.これに対し,変形EM経路中では,

リン酸非依存的にGAPを脱水素するGAPフェレドキシ ン 酸 化 還 元 酵 素 (GAPOR)  や non-phosphorylating  GAPDH (GAPN) により,GAPは1段階の反応で直接 3-PGへと変換される.GAPNが触媒する反応ではATP 生産は伴わないため,原核・真核生物型EM経路中の GAPDHおよびPGKをアーキア由来のGAPNに置換す ることでATP収支の合致したキメラ型EM経路を構築 することが可能となる(図1

筆 者 ら は, 由 来 の

GAPN(4)ならびに 由来の原核生 物型EM経路酵素群を組み合わせたキメラ型EM経路を

で構築し,これを用いたグルコースからの乳酸 生産に取り組んだ.なお,本経路の最終ステップとなる ピルビン酸から乳酸へのNADH依存的還元反応は通常,

乳酸デヒドロゲナーゼ (LDH) によって触媒されるが,

由 来LDHは,比 較 的 低 濃 度 

(0.5 mM以上)のNAD存在下で阻害を受け,同経路内 ではほとんど機能しないことが明らかとなった.そこで われわれは,同細菌より,LDHと同様の反応を触媒可 能な別の酵素を探索し,リンゴ酸/乳酸デヒドロゲナー ゼ (MLDH) を選抜した.生きた細胞を用いない合成代 謝工学では,転写・翻訳レベルでの調節作用に束縛され ない物質生産が可能であることは言うまでもないが,こ のように異なる代謝経路(もしくは異なる微生物)に由 来する酵素をアッセンブルすることによりタンパク質レ ベルで作用するアロステリック調節をも回避できる点に は着目すべきだろう.こうして構築されたキメラ型EM 経路を用い,現在のところ6 mMのグルコースから理論 収率どおりの乳酸(すなわち12 mM)を生産させるこ とに成功している.最終生産物濃度という点からは,ま だまだ満足する値には程遠いものの,合成代謝工学の魅 図1 原 核/真 核 生 物 型EM経 路

(左),アーキアにおける変形EM経 路(中),および筆者らが構築した キメラ型EM経路(右)

変形EM経路で特徴的に見られる反 応を白抜き矢印で示した.

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化学と生物 Vol. 50, No. 8, 2012 569

今日の話題

力の一つは反応条件のフレキシビリティーの高さにあ り,酵素濃度を高めることで生産速度ならびに生産物濃 度を向上させることは十分に可能であると考えられる.

あるいは,固定化処理などにより一連の代謝酵素を空間 的に近接させる「spacial organization」も,合成代謝工 学による化学品生産のフィージビリティー向上を目指す うえでの魅力的な技術的課題となろう.

  1)  P. Welch & R. K. Scopes : , 2, 257 (1985).

  2)  奥 崇,岩田英之: セルロース系バイオエタノール製造

技術 ,エヌ・ティー・エス,2010, p. 291.

  3)  大島敏久,櫻庭春彦:蛋白質 核酸 酵素,54, 134 (2009).

  4)  K. Matsubara, Y. Yokooji, H. Atomi & T. Imanaka : , 81, 1300 (2011).

(本田孝祐,岡野憲司,大竹久夫,大阪大学大学院工 学研究科生命先端工学専攻)

大 西  利 幸(Toshiyuki Ohnishi)  歴>2000年大阪大学理学部化学科卒業/

2003年京都大学大学院農学研究科応用生 命科学専攻博士前期課程修了/ 2004年日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員DC2(京 都 大 学)/2006年京都大学大学院農学研究科応 用 生 命 科 学 専 攻 博 士 後 期 課 程 修 了(農 学)/同年同大学化学研究所博士研究員/

2007年カナダ・ブリティッシュコロンビ ア大学博士研究員/ 2008年日本学術振興 会海外特別研究員(ブリティッシュコロン ビア大学)/2009年静岡大学若手グローバ ル育成拠点特任助教(テニュアトラック)現在に至る<研究テーマと抱負>化学的視 点から植物の生存戦略=生命現象を物質レ ベルで解き明かすこと<趣味>阪神タイ ガース,書店めぐり,スポーツ観戦

小笠原 渉(Wataru Ogasawara) <略 歴>平成9年長岡技術科学大学大学院工学 研究科博士後期課程情報・制御工学専攻修 了・博士(工学)/同年岩手大学工学部応 用分子科学科・助手/平成10年連合王国 ブリストル大学化学科・客員研究員/平成 12年長岡技術科学大学・生物系・助手/

平成19年長岡技術科学大学・生物系・助 教/平成20年長岡技術科学大学・産学融 合トップランナー養成センター・産学融合 特任准教授/平成22年長岡技術科学大学・

生物系・准教授,現在に至る<研究テーマ と抱負>糸状菌トリコデルマ・リーセイに おけるセルラーゼ誘導生産メカニズムの解 明,糸状菌トリコデルマ・リーセイ日本型 系統樹の進化因子の解明,比較ゲノムを用 いた菌体内進化分子工学系の確立,糸状菌 トリコデルマ・リーセイの形態とセルラー

ゼ生産能の関係について,オリゴペプチド 特異的タンパク質分解システムの解明/カ ビの生き方と生存戦略を研究し,学ぶこと で,謙虚に地球環境に共存できる人類社会 は形成することについて<趣味>大学の近 くの温泉で,ボーっとしながらカビの生き 方を考えること

岡 野  憲 司(Kenji Okano) 略 歴2004年神戸大学工学部応用化学科卒業/

2009年同大学大学院自然科学研究科分子 物質科学専攻博士後期課程修了(工博)/

同年日本水産(株)中央研究所研究員/

2011年大阪大学大学院工学研究科生命先 端工学専攻特任助教/同年同研究科助教,

現在に至る<研究テーマと抱負>ビジネス として成立しうるバイオプロセスの構築を 実現したい<趣味>散歩

プロフィル

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