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国立科学博物館とキノコ多様性プロジェクト - J-Stage

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Academic year: 2023

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国立科学博物館とキノコ多様性プロジェクト

はじめに

キノコは菌界に属する生物であり,

植物ではない.同じく菌界に属する生 物としてはほかにカビや酵母類などが あり,キノコ類もそれらと同じく,微 生物的な生き方をする.たとえば,生 活環の大部分は,人間の目に見えない 胞子や菌糸の状態で過ごす.人間の目 に触れるのは,胞子を形成するための 有性生殖器官(子実体)を形成する時 期だけである.そのため,キノコ類の 分類・多様性研究は,これまでは主に 発生した子実体の採集に基づいて行わ れてきた.キノコ以外のカビ・酵母類 では,肉眼的な観察・採集がそもそも 困難であることもあり,そのような生 物と比べると,同じ菌類といっても,

キノコ類は多様性の把握が比較的しや すいグループであると感じるかもしれ ない.

しかし,そのようなキノコ類におい ても,真の多様性の把握は全く進んで いないといっても過言ではない.菌類 全体で見ると,記載されている種数は 約10万であるのに対し,未発見もし くは未記載種を含む地球上の全菌類の 種数は150万と推定されている(1)

.こ

れは過小評価かもしれず,実際は500 万を超える種が存在するという見解も

ある(2, 3)

.つまり,名前の付いた菌類

よりも,名前がない(または,そもそ も見つかってもいない)菌類のほうが はるかに多いのである.

それでは,150万種以上存在すると 考えられている菌類のうち,キノコ類 はいったい何種くらいになるのであろ うか? 実は,キノコ類に限定した種 数の推定は,あまりなされていない.

その大きな理由の一つは,「キノコ」

が人為的なグループであることであ る.菌界に属する生物のうち,肉眼で 確認できる程度の大きさの子実体を形 成するものを,便宜的に「キノコ」と 呼んでいるのに過ぎないのである.カ ビや酵母も同様に,多分に人為的なグ ループであり,菌類全体の系統樹を見 る と,「キ ノ コ」「カ ビ」「酵 母」 と いった形態はそれぞれ多系統であり,

進化的に複数回発生してきたことは明 らかである.

そのような制約はあるが,いわゆる 大型の子実体を形成する分類群に絞っ て推定してみると(4)

,大まかにではあ

るが10 〜 20万種,というのを推定種 数とすることができる.一方,現在ま でに記載されているキノコ類の種数は 約2万程度である.よって,大型の子 実体を形成し,採集が比較的容易であ るかのようなキノコ類であるが,やは り未記載種のほうがはるかに多い,と いうことがわかるであろう.

キノコに限ったことではないが,菌 類の分類学には長い歴史がある.分類 に用いる形質としては,当初は子実体 の形態のみであったが,光学顕微鏡に よる胞子などの形態が重視された後,

電子顕微鏡レベルの形態に基づくよう になってきた.近年はそのような形態

的特徴に加え,DNAの塩基配列情報 が盛んに用いられるようになってき た.DNA情報の解析により,これま での形態のみに基づいた分類体系から は想像もつかないような新しいグルー プが提唱されている(5)

こ の よ う なDNA情 報 の 普 及 に よ り,菌類の新種の発見・記載はより容 易に,かつ迅速に行われるようになっ たのだろうか? 現実はそう単純では ない.菌類の新種は年に約1,200種程 度の速さで記載されているのだが,そ のペースは決して速くなる傾向にはな い(6)

.そして,このペースで地球上の

全菌類を記載し終わるためには,過小 評価であろう150万種という数字に基 づいても,単純計算であと1,000年以 上かかってしまうのである.なぜ菌類 ではこのように膨大な数の未記載種が 残されているのだろうか?

まず必要なこと:ひたすら標本を数多 く収集する

菌類に未記載・未発見種が非常に多 いのにはさまざまな理由が考えられ る.上記のとおり,生活環の大部分は 微生物的な生き方をすることから,目 に触れにくい,ということは大きな理 由である.また,形態的特徴に乏し く,いわゆる隠ぺい種が多数存在して いることもその一つであろう.そのほ かにもさまざまな要因が考えられる が,詳しい考察についてはほかの文

(2)

(1〜3, 6)を参考にしてほしい.ここで は,これまでほとんど言及されること のなかった,標本収集の重要性につい て述べたい.

分類学はすべての生物科学におい て,最も基礎的な学問である.新しい 生物を発見し,記載することを繰り返 し,現在の多様性把握につながってき た.そして分類学では,記載の基に なった標本を証拠として残すことが求 められる(証拠標本=バウチャー,と 呼ばれる)

.そうすることで,後に同

定の間違いがあった場合の再検証が可 能になるのである.つまり,より多く の種の実体を把握するためには,それ に応じてより多くの標本を確保するこ とが必要なのである.そして,キノコ 類の場合は標本の数が非常に不足して いる.

例として,国立科学博物館に収蔵さ れている標本を見てみよう.植物(こ こでは維管束植物のみを対象にする)

については,合計約100万点の標本が 保管されている.それに対して,地球

上の植物の総種数は約30万とされる.

一方,キノコ類はと言うと,標本数は 10万点程度である.上記のとおり推 定種数は10 〜 20万と,植物と大差は ないのにもかかわらず,標本数は植物 の10分 の1程 度 し か な い の で あ る

(図

1

.つまり,採集・観察の難しさ

などの制約はあるものの,そもそも確 保している標本の数において,キノコ 類は大きく遅れをとっていると言える のである.

そこで私を中心とする国立科学博物 館のキノコ研究チームでは,進行中の すべてのプロジェクトにおいて,ひた すら数多くの標本を収集する,という ことを第一の目標に置いている.具体 的には,日本各地および世界中から1 年間に3,000点以上のキノコ標本を収 集することを目標にしており,ここ数 年間は毎年3,500 〜5,000点の標本を確 保している.

名前と

DNAを一致させる:タイプ標

本の

DNA

バーコード化

菌類に未記載・未発見の種が膨大な 数存在することは述べたとおりであ る.実際に土壌や植物基質からDNA を抽出し,メタゲノム的な解析を行う と,世界中のどこでやっても大量の新 規分類群が検出されることがわかって

いる(7, 8)

.しかし一方で,記載済みの

種においても,その生物学的実体が十 分に把握されているかと言うと,決し

てそうではない.たとえば,標本庫に 保管されている記載種を多数シーケン スしたところ,その70%ほどの塩基 配列が公的データベース(GenBank など)に未登録であったという報告が ある(9)

.また,記載種を多数シーケン

スしたところ,データベースに  un- known fungus などと登録されてい るシーケンスと一致した,という報告 もある(10)

.つまり,多数の記載種で

も信頼のおけるシーケンス情報が未登 録である現在,単純にDNA情報を得 ただけでは,それが既知種か未知種か の判断はできないのである.

このような状況下において,種名と シーケンス情報を確実にリンクさせる 方法はただ一つ,タイプ標本(基準標 本)からDNA情報を得る,というこ とに尽きる.すべての種はただ一つの 標本に基づいて記載され,新種発表が される.その基準となった標本(=タ イプ標本)こそ種名と実体を結びつけ るものであり,タイプ標本から得られ たシーケンスのみが,種のデータとし て信頼のおけるデータとなるのであ る.

そこで,現在われわれは国立科学博 物館に所蔵されている菌類のタイプ標 本約2,000点のDNAバーコード化を 進めている.菌類のDNAバーコード 領域とされる核ITS領域(11)のシーケ ンスを得るのが目標である.本領域は 約600塩基対と決して長い領域ではな いので,通常のサンプルであれば容易 に塩基配列を決定することができる.

キノコ 植物

図1国立科学博物館に収蔵されている キノコ・植物の標本数および全世界の推 定種数

グリーンの四角は推定種数(一つの四角が 10万種),白の四角は標本点数(一つの四 角が10万点)を表す.

(3)

しかし,タイプ標本の多くは数十年前 に採集されたもので,DNAは高度に 断片化が進んでいると考えられる.ま た,当標本庫は歴史的に何回も薬剤に よる燻蒸を経験しており,その中には DNAを効率的に断片化する薬剤も含 まれる(12)

.そのため,現在まで試し

た標本約400点のうち,満足できる データが得られた標本は数パーセント にしか満たない.

DNAの増幅ができなかった標本に ついて,DNAがどの程度断片化され ているかについては検証を進めてい る.明らかになってきたことは,当標

本庫に保管されているキノコ標本で 10年以上経過しているものについて は,そ の ほ ぼ 全 点 に お い てDNAが 150塩基対未満に断片化されている,

ということである.上記のとおり,タ イプ標本からのデータは非常に重要な ものなので,断片化したDNAから複 数回のPCR増幅を経て,全ITS領域 の塩基配列を復元することも進めてい る(12)

このように,タイプ標本から直接 DNAデータを得ることには困難さが 伴う.おそらくITS領域のデータが全 く得られない標本も多数出てくるであ

ろう.そこでわれわれが同時に進めて いるのが,「エピタイプ指定」である.

命名規約によるとエピタイプとは,既 存のタイプ標本に基づくと種の概念が 不明瞭で,決定的な同定ができないと きに選定する,解釈のための標本であ る.つまり,タイプ標本の形態からは 不十分な同定しかできず,かつDNA データを得ることもできない場合は,

新 た な 標 本 を 基 準 産 地 か ら 得 て,

DNAデータをそろえたうえでエピタ イプとして指定する作業を,進めてい るところである.

植物園の全キノコ

DNA

バーコード化 日本全国そして世界各地をくまなく 調査することは不可能である.そこ で,キノコ類を重点的に採集する調査 地をいくつか設定する必要があるが,

われわれが選定した調査地の一つが筑 波実験植物園(茨城県つくば市)であ る.ここには6,000種を超える植物が 存在し,自然環境を反映するかたちで 各区画に植栽されている.そして,区 画ごとに異なるキノコが多数発生す る.そこでわれわれの研究チームでは 2011年より本格的に,植物園におけ るキノコ調査を続けている.

具体的には,週1回の調査を継続 し,採集した全キノコを写真撮影し,

DNAを採り,証拠標本として保管す る.当初の目標は年間1,000点の標本 を確保することであったが,3年目の 図2筑波実験植物園におけるキノコ調査の進捗状況

横軸に時間軸,縦軸に標本点数(累計)を示す.データは2014年1月29日時点のもの.

(4)

途中ですでに標本数は4,000点に迫る 勢いである(図

2

.この全標本から

DNAを 抽 出 し,バ ー コ ー ド 領 域 の ITSに加え,核リボソームRNAの大 サブユニットのシーケンスも得てい る.種の実体である子実体と,そこか ら直接得たDNAデータがそろった状 態は,データベースの理想形であると 言えるかもしれない.

今後は標本・写真・DNAデータを より充実させると同時に,それらをレ ファレンスとして活用し,環境DNA

(土壌などから直接得られたDNA

いわゆる標本を伴わない)の解析結果 と比較することで,多様性の把握をさ らに進める予定である.限られた地域 で集中的にサンプリングをすること で,子実体の採集だけでも,DNAの みの採取でも得ることのできなかっ た,新たな次元の多様性把握に結びつ くことを期待している.

今後の展望

本稿では主に日本国内の状況につい て述べたが,このような集中的なサン プリングは世界中で行っていきたいと

考えている.たとえば,世界の異なる 地域でサンプリングすることで,それ ぞれの地域の固有性と,地域をまたい だ共通種の存在が見えてくるであろう

(図

3

.現在手元にある標本および文

献データを基にすると,キノコ類では 南北両半球をまたいで分布する広域分 布種が多数存在する,という結論に なってしまう(図

4

左)

.しかし,こ

れについてはDNA情報に基づいて再 検討する必要があり,そうすることで 図4右のようなパターンが見えてくる はずである.いずれにしても,菌類多 様性の把握のために進めるべきはより いっそうの標本の確保であり,そのた めに今後博物館が果たす役割は非常に

大きいと感じている.

参考文献

  1) D.  L.  Hawksworth : ,  105, 1422 (2001).

  2) M. Blackwell : , 98, 426 

(2011).

  3) H.  E.  OʼBrien,  J.  L.  Parrent,  J.  A. 

Jackson  :

71, 5544 (2005).

  4) J.  P.  Schmit  &  G.  M.  Mueller :   , 16, 99 (2007).

  5) D.  S.  Hibbett,  M.  Binder,  J.  F. 

Bischoff  : , 111

509 (2007).

  6) D. S. Hibbett, A. Ohman, D. Glotzer,  M. Nuhn, P. Kirk & R. H. Nilsson :  

25, 38 (2011).

  7) C. W. Schadt, A. P. Martin, D. A. Lip- son  : , 301, 1359 (2003).

  8) P. Vandenkoornhuyse, S. L. Baldauf,  C. Leyval  : , 295, 2051 

(2001).

  9) P.  M.  Brock,  H.  Döring  &  M.  I. 

Bidartondo : , 181

719 (2008).

10) L.  G.  Nagy,  T.  Petkovits,  G.  M. 

Kovács,  K.  Voigt,  C.  Vágvölgyi  & 

T. Papp : , 191, 781 

(2011).

11) C.  L.  Schoch,  K.  A.  Seifert,  S. 

Huhndorf  : , 109,  6241 

(2012).

12) K.  Hosaka  &  K.  Uno :

39, 53 (2013).

(保坂健太郎,国立科学博物館植物研 究部菌類・藻類研究グループ)

図3世界の3地域におけるキノコの分 布の概念図

すべての地域にまたがって分布する共通種 が存在すると同時に,一つの地域にしか分布 しない固有種も存在することを表している.

図4標本・文献データに基づく あ る キ ノ コ の 種 の 分 布(左)と DNA情報に基づいて再検討した 結果(右)の概念図

同じ種名で扱われてきたものが,

全くの別種であった結果を示して いる.

(5)

プロフィル

保坂健太郎(Kentaro, HOSAKA)   

<略歴>1999年琉球大学理学部生物学 科卒業/2005年米国オレゴン州立大学博 士 課 程 修 了.Oregon State University,  Ph.D. (Botany & Plant Pathology)/2005

〜 2008年ポストドクトラル・フェロー,

米国シカゴ,フィールド博物館植物研究 部(Department  of  Botany,  The  Field  Museum, Chicago, USA)/2008年 現 職,

現在に至る<研究テーマと抱負>研究テー マ:菌類,特にキノコ類の分類・進化・生 物地理・多様性について;野生キノコ類の 放射性物質蓄積特性;保管標本のDNA保 存状態について.抱負:日本全国および世 界の全大陸でくまなくキノコ調査をするこ と.すでに南極大陸を除くすべての大陸で 調査経験はあるため,ぜひ南極大陸でキノ コ調査を行いたい.キノコ類の多様性・種 構成が分布域ごとにどう異なるのかを,標 本およびDNAデータを基に明らかにした

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