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家電リサイクル法
中古市場に注目して
慶應義塾大学経済学部
山口光恒研究会
青柳美香
川戸博之
籾山智則
吉田紗知
2 目次
第一章 家電リサイクル法の概要
第二章 特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)における今までの論点 第三章 問題点の考察
第四章 まとめ
私達はこの論文において、平成13年4月1日に施行される特定家庭用機器再商品化法(以 下家電リサイクル法)を取り上げる。まずこの法律の概要を述べ、何が問題となるのかを 明らかにする。そしてその問題を改善していくための方法を模索していきたいと思う。
まず第一章では家電リサイクル法の概要と目的を述べ、第二章で今まで論点とされてき た点として、廃棄時支払い方式と購入時支払い方式についてを述べ、私達の考えを記す。
そして第三章では、その中で私達が問題視した点について細かく考察し、第四章でその解 決策を模索していく。
3 第一章 家電リサイクル法の概要
家電リサイクル法は、生活環境の保全と経済の健全な発展を目的として家電製品のリサ イクルについて定められており、平成13年4月1日から施行される。
家電リサイクル法においてリサイクルの対象となる家電製品は、エアコン、テレビ(ブ ラウン管方式のもの)、電気冷蔵庫、電気洗濯機の4品目であり、現状で年間約1800万台、
60 万トンが排出されている。そのほとんどが直接埋め立てられているが、この法律の施行 によりリサイクルされることになる。
家電リサイクル法では、家電4品目のリサイクルを実施するため、製造業者(メーカー)
および輸入業者にはリサイクルの義務(表1)を、小売業者には排出者から廃家電を引き 取り、指定引き取り場所でメーカーに引き渡す収集・運搬の義務を、消費者(排出者)に はリサイクルにかかる料金(表2)と、収集・運搬にかかる料金の負担を定めている。
表1 メーカーに求められる再商品化率は以下のとおり
表2 平成12年9月に大手メーカー各社から発表された再商品化等料金は以下のとおり
また、メーカーの倒産などによってリサイクルができない製品や、独自に製品を回収・
処理1することが難しい輸入業者や小規模業者に対応するため、平成 12 年4 月財団法人家 電製品協会が指定法人に指定された。
家電リサイクル法では、メーカーまでの廃家電の確実な運搬を確保するために、管理票
(マニフェスト)の発行を定めている。
家電リサイクル法は施行後5年が経過した平成18年に制度全般について再検討されるこ とが定められており、対象品目の拡大・再商品化率の引き上げがなされると思われる。
1 この論文では「処理」とは、回収以降の焼却・埋め立て・(一部リサイクル)等の一連の過程を示す。
エアコン テレビ 冷蔵庫 洗濯機 60% 55% 50% 50%
エアコン テレビ 冷蔵庫 洗濯機 3,500円 2,700円 4,600円 2,400円
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第二章 特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)における今までの論点
特定家庭用機器再商品化法(以後家電リサイクル法)が制定された時から大きな論点と なってきたのが再商品化料金の徴収方法である。大きく分ければ、商品の販売価格に再 商品化料金を上乗せする前払い方式と、再商品化料金をその製品の排出時に徴収する廃 棄時支払い方式がある。そして前者については更に一対一対応型と年金型に分かれる。
結果としては廃棄時支払い方式になった訳だが、この議論は今現在も盛んに行われてい る。
そこで、ここではまずそれぞれの徴収方法のメリット・デメリットを考えてみたい。
まず、三者を比較するポイントとして以下の12項目を挙げる。
1. 既存製品(historical waste)への適応 2. 生産者が倒産・撤退した場合の適応 3. 生産者が不明な場合の適応
4. 消費者への排出抑制効果
5. 生産者のリサイクル性に配慮した製品造りへのインセンティブ 6. 消費者の不法投棄への影響
7. 消費者以外のディストリビューターの不法投棄への影響 8. 徴収額の算定
9. 費用負担者と受益者の公平性 10. 消費者の心理
11. 徴収された再商品化料金の管理コスト 12. 生産者の適応を考えた実現可能性
1. 既存製品(historical waste)への適応
廃棄時支払い方式の場合は、その製品が廃棄される時点で料金徴収が成されるため、
確実に再商品化料金を確保できる。また、年金型についても製品の購入者が再商品 化料金を支払うため、確実に再商品化料金を確保できる。しかし、一対一対応型は 既存製品に対しての対応が不可能であり、再商品化料金を確保することができない。
2. 生産者が倒産・撤退した場合の適応
廃棄時支払い方式の場合は、1.と同様に、確実に再商品化料金を確保できる。しか し、年金型・一対一対応型の場合は、再商品化料金をその生産者が管理していない 場合にのみ可能となる。再商品化料金を生産者が管理していた場合は、その確保は 難しい。
5 3. 生産者が不明な場合の適応
廃棄時支払い方式の場合は、1.と同様に、確実に再商品化料金を確保できる。しか し、年金型・一対一対応型の場合は、再商品化料金の確保は不可能である。
4. 消費者への排出抑制効果
廃棄時支払い方式の場合、消費者は再商品化料金を支払うのを避けるため、なるべ く長く使おうとするので排出抑制につながると考えられる。しかし、年金型・一対 一対応型の場合、消費者は製品を買う際に必ず再商品化料金を支払うため、その料 金が一種の「必要経費」と捉えられ、本来の目的が忘れられ、排出抑制にはつなが りにくいと考えられる。
5. 生産者のリサイクル性に配慮した製品造りへのインセンティブ
廃棄時支払い方式の場合、現状ではそうではないが、再商品化料金にメーカーごと に格差ができれば、消費者が購入する時に製品価格に上乗せして考えるようになる ため、メーカーはリサイクル性を考えるようになる。そして一対一対応型では、リ サイクル性が販売価格に直接影響するためインセンティブがある。また年金型は、
販売する製品と徴収されるリサイクル費用は一致しないので、リサイクル性を考慮 した製品を作るインセンティブが最も薄い。
6. 消費者の不法投棄の影響
廃棄時支払い方式の場合、消費者が負担する処理費用が大幅に増加するため、不法 投棄が増加する可能性がある。それに対して年金型・一対一対応型の場合、消費者 は既に再商品化料金を支払っているため、わざわざ不法投棄を選ぶ要因は無いと考 えられる。しかし、後に詳しく述べるが、どの徴収方法においても実際には消費者 からの不法投棄はそれほど増加しないのではないかと我々は考える。
7. 消費者以外のディストリビューターの不法投棄、海外輸出への影響
この法律にのっとった場合を考えると、小売業者、メーカーからの不法投棄は考え られない。しかしこの法律がしっかり守られたとしても、法律内には入ってこない 中古業者からの不法投棄は考えられる。廃棄時支払い方式の場合、中古業者が不要 になった廃家電を捨てる時、再商品化料金を支払う義務が生じ、消費者と同様不法 投棄をするインセンティブになる。消費者と違う点は、業者は輸送手段を持ってい るため実行に移されると考えられる点である。同じ理由から海外輸出も増加すると 考えられる。海外輸出の場合、売ることにより利益を得られるのでより一層のイン センティブが働く。そして一対一対応型、年金型の場合は両方とも消費者が購入時 にリサイクル料金を支払っているため、業者に影響は及ばない。
6 8. 徴収額の算定
廃棄時支払い方式の場合、廃棄される時点で再商品化料金は徴収されるので、徴収 額の算定はほぼ正確になされると考えられる。また、年金型においても廃棄された 製品の再商品化料金は、新たに製品を買った消費者から徴収されるため、その額を 算出するのに廃棄時支払い方式の場合に比べてコストがかかると考えられるもの の、徴収額の算定はほぼ正確になされると考えられる。しかし、一対一対応型の場 合、家庭用機器が耐久財であり、それが廃棄されるまでの期間が長く不確実なため、
廃棄時の物価上昇幅などを考慮した再商品化料金を算定する事は、コストが余計に かかるだけでなく、非常に難しいと考えられる。
9. 費用負担者と受益者の公平性
廃棄時支払い方式・一対一対応型の場合、再商品化料金を支払った者とその便益を 受ける者は一致しているため公平である。しかし、年金型の場合、両者が一致しな いため、公平性が問題とされることが多い。
10. 消費者の心理
廃棄時支払い方式の場合、その名の通り購入時ではなく、廃棄時に何らかの形で再 商品化料金を支払わなくてはならない。消費者にとって捨てるものに対して料金を 支払うことは抵抗があると考えられる。一方、年金型・一対一対応型の場合、既に 再商品化料金はその製品を買う際に支払われているため、その必要はなく、支払わ なくては購入することができないことや、その料金が見えづらいこともあり、廃棄 時支払い方式よりは受け入れられやすいと考えられる。今回、廃棄時支払い方式が 採用され、再商品化料金は①自治体ルート(郵便局で再商品化料金を支払い、後に その製品の輸送を自治体、もしくは小売店などに依頼し、輸送コストほ支払う方法)
②小売店ルート(小売店に再商品化料金と郵送費の両方を支払い、家まで取りに来 てもらう方法)のいずれかを各自が選ぶ事になる。
11. 徴収された再商品化料金の管理コスト
徴収された再商品化料金の管理を生産者がここで行うか、もしくはある特定の機関 が一括して行うかによっても変ってくるが、一般的に、その管理コストは、徴収さ れてから実際使われるまでのタイムラグが大きければ大きいほど増加すると考え られている。そのため、廃棄時支払い方式を採用した場合に比べ、年金型・一対一 対応型を採用した場合の方が管理コストは増加すると考えられる。
7 12. 生産者の適応を考えた実現可能性
廃棄時支払い方式の場合、再商品化料金が購入価格に直接は影響しないため、製品 の値上げという印象を消費者にあまり与えず、販売量の減少にはつながりにくいと 考えられる。一対一対応型、年金型の場合、再商品化料金が直接購入価格に影響す るため、生産者としては受け入れがたい。
(表3)
廃棄時支払い 一対一対応型 年金型
1.既存製品への適応
○ × ○
2.生産者が倒産・撤退した場合の適応
○ × ○
3.生産者が不明な場合の適応
○ × ○
4.消費者への排出抑制効果
○ × ×
5.生産者のリサイクル性に配慮した製品
造りへのインセンティブ
△ ○ ×
6.消費者の不法投棄の影響
△ ○ ○
7.消費者以外のディストリビューターの
不法投棄、海外輸出の影響
× ○ ○
8.徴収額の算定
○ × ○
9.費用負担者と受益者の公平性
○ ○ ×
10.消費者の心理
○ × ×
1 1.徴収された再商品化料金の管理コスト
○ × ×
1 2.生産者の適応を考えた実現可能性
○ × ×
以上12点を説明したが、どの支払方式が優れているかは一概に言えないことがわか る。表を見ると廃棄時支払い方式が最も優れている様に見えるが、各項目の重要度を決 められないため、どの項目を重視するかによってまったく異なる考えが生まれ、前述し たように議論となっているのである。そして4.消費者への排出抑制効果、12.生産者 の適応を考えた実現可能性を重視した結果、旧通商産業省(現経済産業省)は廃棄時支 払い方式を採用したと考えられる。そして、6.消費者の不法投棄の影響、7.消費者 以外のディストリビューターの不法投棄、海外輸出の影響、10.消費者の心理を重視す る人々が、現在も購入時支払い方式を主張しているのである。しかし一旦始まった制度 を、もう一度作り直すことは現実的ではない。ゆえに考えるべきは、どの方式がより優
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れているかではなく、いかにして現状の廃棄時支払い方式の欠点を改善していくかであ る。我々はこの論文においてその改善策を述べていきたい。よってこの表からも読み取 れる廃棄時支払い方式の欠点であり、購入時支払い方式を支持する人が主張する、6、7、
10の点を考えていく。
9 第 三 章 問題点の考察
まず廃棄物の流れに影響する6、7について考えていく。そして最後に10について考える。
6.消費者の不法投棄の影響
まず、消費者の不法投棄の影響について考える。
購入時支払いを支持する者の主な主張に、今回の法律で再商品化料金の徴収時期が廃棄 時になったため、再商品化料金の支払いを嫌がる消費者からの不法投棄が増えるという意 見がある。しかし、この法律の施行によって消費者からの不法投棄が増えるとは言いきれ ないと私達は考える。
我々はこの点について、消費者が実際はどのように感じ、どのように動くのか調査する ために、独自にアンケート2を行なった。その結果、約71%の人がリサイクル料金は高い という回答をしており、91%の人ができるならば支払いたくない、と答えている。そし て、「施行されたら、あなたは廃家電をどうしますか?」という質問に対し、それでも渋々 ながら家電リサイクル法に従って廃棄するであろうと考えている人が約71%、中古品と して売ると答えた人が29%であり、不法投棄をしようと考える人がほぼ0であった。こ の結果から、消費者は支払いを嫌がるが、指定 4 品目が大きく、個人で輸送するのは難し いこともあり、不法投棄はそれほど増えないと考えられる。消費者に関しては不法投棄の 心配は少なく、中古品として売る人が増えると考えられる。言い変えれば、料金を払いた くない気持ちは不法投棄へのインセンティブとならず、中古市場へ製品を流すインセンテ ィブとして働くと言える。
7.消費者以外のディストリビューターの不法投棄、海外輸出への影響
前述の様に消費者から中古市場に流れる廃家電が増加する。、ゆえに、中古市場について 考えていく必要がある。そのために、まず廃家電の現状の流れを把握し、法律が施行され た後の流れについて検証し、その後中古市場の動きについて詳しく見ていくことにする。
2 我々は三田祭の展示を行うにあたって、2000年11月に422人を対象に家電リサイクル法についてのアンケートを 行った。アンケート内容は論文の最後に添える。
10 廃家電の現状の流れ
(図
1
)
図1を見てほしい。家電リサイクル法が施行される前は、廃家電の処理・運搬は主に地方 自治体が行っていた。主な処理方法は埋め立て処理であり、一部は適正処理、または地方 自治体が主催するバザーなどで売られていた。
その他の使用済み家電製品の流れとしては、買い替えの際にその小売店が引き取り、そ の後ヤードに持ち込まれる。その後は地方自治体の処理ルートに乗るが、この時に処理費 用が発生するために、業者レベルの不法投棄・海外輸出が行われている現状がある。
中古業者は、消費者から不要となった家電製品を引き取り、それを国内で販売する中古 品業者①と、引き取った物を修理し国内で販売する中古業者②、引き取ったものを海外で リユースする目的で輸出する中古業者③とに分けるとする。ここで、中古業者①、②は、
売れなかったものなど不要になった家電製品を小売店と同じように不法投棄する可能性が ある。
次に下の図2を参照してほしい。実際、平成11年度における廃家電の行き先の割合を見 てみると、94%は自治体や廃棄物処理業者によって処理・埋め立てされている。そして 中古品としてリユースされている物が約1%であり、残り6%は海外に輸出されている。し かし、不法に廃家電を密輸している可能性もあり、これを考慮するとさらに多くの廃家電 が海外へ流れていることになる。
現状で密輸が取り締まれていないのは、取り締まることができる法律がないことが原因 としてあげられる。
ここで一通り法律について触れたい。中古品の輸出に関する法律は、廃棄物処理法、特
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定有害廃棄物の輸出入等の規制に関する法律、通称バーゼル法、関税法の三つである。し かし、これらの法律では海外へ輸出される廃家電を監視することは難しい。
まず、廃棄物処理法では一般廃棄物および産業廃棄物を輸出する際には、厚生大臣の確 認が必要である(第9条の6および第15条の4の5)とあるが、現在まで一般廃棄物およ び産業廃棄物の輸出に関して厚生大臣の確認がされたことはない。また、バーゼル法にお いても、相手国の事業者との間で取り交わされた契約書などを添付することによって、リ ユースする目的であることを証明すれば規制の対象にはならないのである。そして、関税 法においても、中古品を輸出する際に、輸出入に関するほかの法令に違反していないかを 証明または確認する義務はあるが(関税法第 70 条)、結局数量と質だけを監視しているだ けなのである。つまり、これら現行の三つの法律では、リユースの目的であれば廃家電は 輸出することができるのだが、海外輸出されたものが本当にリユースされているかどうか 監視することは不可能ということである。また、この法律の効力外、つまり密輸されてい るものも多いため、中古品の海外輸出の実態を全て把握するのは難しいのである。
( 図 2 )
この様に、家庭から出された廃家電のほとんどは自治体や廃棄物処理業者によって処 理・埋め立てされており、自治体が無料もしくは低料金で回収を行い、また小売店が無料 で引き取ってくれている現状では、消費者が中古業者に持っていく、つまりリユースする インセンティブは弱いと言える。
埋め立て リユース
海外輸出
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( 図 3 )
次に、法律が施行された場合の流れは上の図のように変化する。ここで注目すべき点は、
不法投棄・海外輸出を行うルートが少なくなったものの、全く無くなった訳ではないこと である。さらに、中古市場に流れてくる使用済み家電製品の絶対数が増えると考えられ、
そのルートが減ったからといって不法投棄・海外輸出が必ずしも減るわけではない。では これからどういった動きが予想されるのか。細かく見ていきたい。
中古業者の種類とその行動
① 中古品を国内でそのままリユースすることを目的とする業者
⇒ 買い取り基準を厳しくし、量は大幅に増やさない。
② 修理をして国内で売る、もしくは部品を取り出し部分的にリユースすることを目的とす る業者
⇒ より多くの物を買い取る。
③ 質にこだわらず買い取り、輸出をして利益を上げようとする業者
⇒ より多くの物を買い取り、より多くの物を輸出する。
一口に中古業者といっても様々な種類が存在するので、上記したように大きく三つに分 け考えた。これは先程、現状を検証する時に用いた分類と同じである。
まず①の場合である。家電リサイクル法では前述の通り、廃棄時に廃棄する者が再商品 化料金と収集・運搬費用を支払う義務を負う。そのため中古業者①は中古品を買い取った
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が売れない場合、廃棄者となりその料金を払う義務を負う。この場合粗悪な廃家電を全て 引き取っていては、売れ残りが生じ、廃棄時の支払い義務が生じてしまう。そのため買い 手は買い取り量を大幅に増やすことなく、質の良い売れる物のみを買い取ろうとする。そ の場合の方法として、買い取り基準を厳しくすることが考えられる。実際ハードオフでは、
中古品の増加をにらみ、今年四月から中古品買い取り基準を厳しくする予定である。3 その結果として、より良いもののみを引き取るので持ち込まれた商品に関しては、ある程 度のリユースできる品か、できない品かの判断を下す事になる。引き取り量が増えるか増 えないかについては消費者からの買い取り依頼の数、品質に関わるため現時点では言及で きない。
次に②の場合である。部品を取り出す、または修理して売り出す場合、引き取りを頼ま れた物に対し基準を設けず、消費者の供給増加に伴い、より多くの物を引き取るようにな る。修理して再び販売する場合はリユースが促進されて良いといえるが、部分的に部品を 取り出す場合、廃家電の中の一部だけ取り出して残りの部分を埋め立て廃棄、または不法 投棄される可能性がある。
最後に③である。輸出をし、利潤を生む事を目的としているので、消費者が中古市場に より多く流すようになることは喜ぶべき事である。また輸出してしまえば廃棄時の支払い をしなくて良いので、流れてきた物を②と同様、拒むことなく受け入れる。
以上より、①は明確ではないが、②、③の業者が廃家電の引取りを増やすと考えられる ため、前述したように消費者から中古市場に流れる廃家電の量が増えると、②、③に吸収 され受け皿に不足はないと言える。その結果中古市場は拡大することが必至である。
中古市場の問題
以上より家電リサイクル法の施行により中古市場が拡大すると予想されたが、中古市場 が拡大されることは、リユースが進むことである。このことは大変望ましいように思われ るが、実際はそうではないと私達は考える。なぜならば日本の廃棄物政策の基本理念であ る3Rの理念に符合しないからである。では、3Rの理念に符合しないとはいったいどうい うことなのか。まず3Rの理念について説明し、その後詳細を述べていきたい。
3R について
2000年に循環型社会形成推進基本法が成立した。この法律によると廃棄物政策の目的は 天然資源保護、環境負荷軽減であり、それを達成するために優先順位づけを行っている。
具体的には、排出そのものの抑制(reduce)、それでも排出されるものは極力再使用(reuse)
し、それが無理であればリサイクル(recycle)するというものである。そしてそれすらも 無理な場合には熱回収または適正処理を行う。これは通称3R政策と呼ばれている。欧州で
3 具体的には、引き取る家電製品の対象を製造後5年から3年とした。
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も既に採用されている考え方であり、これからはこの法律にのっとり、日本も廃棄物政策 のみならず、持続可能な社会の構築をしていくという方向へ向かっていくこととなる。
よって家電のリサイクルについてもこの法律の理念は当然守られるべきであると考えら れる。それゆえ家電リサイクル法にこの理念を当てはめてみる。
まず3Rのリデュースについて考える。この法律により、メーカー側はリサイクルを行う 義務を課されるため、少しでもリサイクルしやすい環境配慮型製品を作るインセンティブ が生まれる。4
次にリユースについて考える。家電リサイクル法は中古市場のことについてはまったく 考慮せず作られたものである。そして、現在リユースを促進するような法律・体制は整え られていない。しかし家電リサイクル法の施行により、中古市場へ流れる使用済み電気製 品が増える事がアンケート結果より予想できることがわかる(p.6参照)。
最後にリサイクルである。そもそも特定家庭用電気機器再商品化法という正式名称か らもわかるように、この法律はリサイクルを促進するために作られたものである。
なぜ望ましくないか?
以上、家電リサイクル法と循環型社会形成推進基本法について見てきたわけだが、私達 がなぜこの法律を問題としたか?この法律はリサイクルを目的とし、リデュースも促進さ れる仕組みになっている。また、リユースを行うことは考慮されていないが、結果として リユースをも促進するものになっている。しかし必要なことはリデュース、リユース、リ サイクルの3Rが順に行われることなのである。しかしこの法律をみると、リユースからリ サイクルへの連結がなされていない。前述した様に中古市場が拡大し、多くの製品がリユ ースされることになるが、リユースからリサイクルへの連結がなされずにリユーズが拡大 すると、リユースされたものが最終的にリサイクルに回らない。その結果リユースがリサ イクルを阻害するという事態も考えられるのである。リユースされたものがリサイクルに 回らず、リサイクルを阻害する原因となるのは、不法投棄と海外市場への輸出増加である。
そのメカニズムについて以下で検証していく。
まず不法投棄である。不法投棄は資源の有効利用につながらない。また環境を汚染する ことになる点で問題であり、許されざる行為であることは言うまでもない。そして先程問 題点6,7で挙げ、考えを述べてきた様に消費者からの不法投棄は問題にならないが、中 古業者が不法投棄を行う可能性は依然として残っている。中古業者からの不法投棄が増加 はリサイクルに回る廃家電の量を減らし、不安定にする。メーカーのリサイクルプラント に十分な廃家電が集まらないと、稼働率の予測が難しくなり採算が取れなくなってきてし まう。これは家電リサイクル法の施行が、家電リサイクル法自らのシステムを阻害する結 果を招くことを意味している。
4 家電リサイクル法は、EPR(Extended Producer Responsibility)の概念に基づいて作られた法律である。
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そして海外輸出である。日本ではもう使えないと判断された廃家電が中国など海外で重 宝されて使われるというのは、国境を超えたリユースで大変良いことであると思う。ただ その廃家電の全てが本当にリユースされているかどうかは疑問であるし、海外でもう本当 に使えなくなった時に、リサイクルするシステムがない。そして海外輸出の増加もまたリ サイクルに回る廃家電の量を減少させ、不安定にする。やはりリサイクルプラントの稼働 率が予測できなくなってしまうのである。
以上をまとめると、業者からの不法投棄、海外輸出の増加は、リユースされたものがリ サイクルに回らないという、3Rの理念に符合しない結果を招き、さらには集められる廃 家電の量を減少させ、不安定にすることがリサイクルプラントの稼働率に悪影響を与え、
リサイクルを阻害してしまうのである。
この点を考慮しつつ、3Rを完成させる方法を考えていきたい。そしてその上で先程問題 点10で挙げた消費者の心理をも満たしていける方法を考えていくべきである。ここで消 費者の心理についての説明を加える。
10. 消費者の心理
消費者の心理としては、より手間のかからない方法で、より安い料金が課せられること が望ましい。しかし家電リサイクル法が廃棄時支払い方式と決定された時点で、料金の支 払いが購入時製品に対する支払い、廃棄時にリサイクルに対する支払いの二つに分断され るため、消費者は負担を感じ、料金を一度に払う時に比べ手間がかかると言える。さらに 料金について述べると、現在、リサイクル料金は冒頭で述べた様に、各メーカー一律であ り、アンケート結果よりそれらは消費者に高いという印象を与えていることがわかった。
これは望ましい状態とはいえない。
16 第四章 まとめ
この章では、前章までの内容を踏まえ、私達なりの提案を述べていく。
今10.消費者の心理についてであるように、家電リサイクル法で、より手間のかからない
方法、より安い料金を追求するのは現状からみて困難である。そこで我々はさきほど述べ た様に、消費者の心理を考慮した上で、家電リサイクル法にリユースを促進する方法を組 み込むのではなく、リユースからリサイクルにつながるルートを組み込みたいと考える。
図4を見てほしい。現状の家電リサイクル法では、中古市場とリサイクル市場が分離さ れている。そのため中古市場からの不法投棄や抜け道としての海外輸出が行われる可能性 がある。しかし、図5のように中古市場とリサイクル市場をつなぐ太く示された矢印のよ うなルートが確立されれば、必要以上に輸出されることや、不法投棄されることを防ぐこ とができる。さらに先程述べた消費者の心理を考えてみると、手間を嫌う消費者、高いリ サイクル料金を払うことを嫌う消費者それぞれに、各自が望む選択肢を与えることができ るのである。
( 図 4 ) ( 図 5 )
では、その具体的な方法、つまり図の矢印はどのようなものが考えられるかのであろう か。何度も述べている様に、リユースは好ましいものであり、この動きを弱める必要はな い。問題なのは3Rの流れが実現されないのことである。ゆえにリユースされたものが、リ サイクルルートに乗るための仕組みが必要だ。現在、国内でリユースする中古業者①・②
(図 3 参照)が、不要な家電製品を廃棄したいと思った時には、高額なリサイクル料金を
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払う必要があり、さらには必要な部品を取り除いた物に関しては家電リサイクル法の流れ に乗せることはできない。よって、私達は中古業者からの廃家電製品、またはその部品を メーカーが引き取るような仕組みを提案し、その矢印を実現しようと考える。そのために は、その料金が不法投棄や不適切な海外輸出を誘引するような高い料金であってはいけな い。処理料金が低ければ、中古業者がメーカーに引き渡すインセンティブが働くからであ る。さらに中古業者が必要な部品を取り除いた後に残ったものも、メーカーは引き取るべ きである。この引き取りでは廃家電が分解されたり、中の部品がなくなっているので、廃 家電の重量などで料金を設定していったらどうかと考える。つまり、処理料金が安くて、
しかも重量換算をすれば、多くの廃家電がリユースからリサイクルの流れに乗り、つまり 図中の太い矢印の流れができ、3Rの実現が可能になると考える。
<参考文献>
・地球環境問題と企業 山口光恒 2000.11
・東京都家電リサイクル研究会 第3回資料No.3 1999
・東京都家電リサイクル研究会報告書 2000
・東京都家電リサイクル研究会 「議論の要点」冊子 1999
・「日経エコロジー エコプロダクツガイド2000」日経BP社 2000
・「日経エコロジー」各月号 日経BP社 2000
・「日経エコ21」各月号 日経ホーム社 2001
・通産省 家電リサイクル法HP http://www.miti.go.jp/kohosys/topics/
・厚生省HP http://www.mhw.go.jp/topics/recycle_14/tp0820-1.html
・日本経済新聞朝刊
・朝日新聞朝刊
・「家電リサイクラ vol.3」 株式会社グリーンマーケティング研究所
・「エコノミスト」 98.5,98.12
・「ジュリスト」 98.10
<お世話になった方々>(五十音順)
清水 智雄様 日本電気大型店協会(NEBA) 常務理事 株式会社ゼロエミッション
湛 久徳様 社会法人 電子情報技術産業協会 環境・安全部 部長代理 中川 惇 様 (株)東芝 常務 家電機器社社長
仲 雅之様 (株)同和鉱業 リサイクル推進室 次長
信谷 和重様 経済産業省機械情報産業局 電気機器課 課長補佐 株式会社ハードオフ
松村 恒男様 (株)三菱電機 リサイクル推進室企画担当部長
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