平方剰余 都築暢夫 平成19年度「先端数学」 6月1日(金)1時限
1.はじめに 平方剰余はオイラーの時代から考察されていて、素数の不思 議な関係を表す「平方剰余の相互法則」の存在は意識されてい た。平方剰余の相互法則はガウスにより最初に厳密に証明さ れ、現在までに多くの別証明が与えられている。平方剰余の 相互法則は、「類体論」の最初の顕在化ともいうべきもので、 ガウスの考察は現在の整数論の序章である。
2.合同関係 nを整数とする。整数a,bに対して a≡b(modn)⇔{ n|a−b(n6=0) a=b(n=0) と定め、aとbはnを法として合同という。 命題2.1.(1)≡は整数環Z上の同値関係である。 (2) a≡b(modn) c≡d(modn)} ⇒{ a+c≡b+d(modn) ac≡bd(modn) が成り立つ。特に、Z/≡は環になる。
pを素数とする。n=pに対する環Z/≡をF pと表す。 定理2.2.Fpは体である。 証明:pと素な整数aに対して ax+py=1 となる整数x,yが存在するから ax≡1(modp) となり、aの像はF pの中で可逆である。したがって、F pは 体である。¤ Fpはp個の元からなるから、p元体という。別な言葉でいう と、FpはZの極大イデアルpZによる剰余体Z/pZである。
3.平方剰余 以下、pを2でない素数とする。 定義3.1.pと素な整数aに対して、pを法としてaが平方 数になるときaはpを法として平方剰余といい、そうでな いとき平方非剰余という。すなわち、 aは平方剰余⇔a≡b2 (modp)(∃b∈Z) と定める。 ( a p) ={ 1ただしaは平方剰余 −1ただしaは平方非剰余 とおき、( a p) をルジャンドル記号という。
命題3.2.a≡b(modp)⇒( a p
) =( b p
) . 特に、( p) はF× pから{±1}への写像と見なせる。 例3.3.p=7のとき次のようになる。 b0123456 b2 0149162536 b2 (modp)0142241
a(mod7)123456 ( a p) 11−11−1−1
4.群準同型としての平方剰余 定理4.1.pを2でない素数、a,bをpと素な整数とすると、 ( ab p) =( a p)( b p) となる。特に、( p) はF× pから{±1}への準同型である。 定理は ]{a∈F× p|( a p) =1}=]{a∈F× p|( a p) =−1}=p−1 2 と( a p) =1のとき定理が成り立つことから証明できる。
5.平方剰余の相互法則 定理5.1.(平方剰余の相互法則)p,qを互いに異なる2でな い素数とする。 ( q p)( p q) =(−1)p−1 2q−1 2. 例5.2.p=3,q=7とすると ( 7 3) =( 1 3) =1,( 3 7) =−1 (−1)3−1 2×7−1 2=(−1)1×3 =−1 となるので、相互法則が成り立つ。
定理5.3.pを2でない素数とする。 (1)(第1補充則)( −1 p) =(−1)p−1 2={ 1p≡1(mod4) −1p≡3(mod4) (2)(第2補充則)( 2 p) ={ 1p≡1,7(mod8) −1p≡3,5(mod8). 例5.4.平方剰余の相互法則を用いて計算してみる。 ( 1009 2003
) =( 2003 1009
) =( 994 1009
) =( 2 1009
)( 7 1009
)( 71 1009
) =1×( 1 7)( 15 71) =1×( 3 71)( 5 71) =(−1)×( 71 3)( 71 5) =−( 2 3)( 1 5) =−(−1)×1=1
6.第1補充則はなぜ成り立つか 定理6.1.F pの乗法群F× pは位数p−1の巡回群である。 第1補充則の証明 ( −1 p) =1⇔−1がFpの中で平方数 ⇔∗ F× pに位数4の元が存在する ⇔∗∗ 4|]F× p=p−1 ⇔p−1 2は偶数 ∗ の⇐で位数2の元は−1ただ一つというとこと∗∗ の⇐ で定理6.1を用いる。¤
定理6.1の証明:有限アーベル群の基本定理から、 F× p∼ =Z/n 1Z⊕Z/n 2Z⊕···⊕Z/n rZ 1<n 1|n 2|···|n r となり、位数がn 1の元の個数はnr 1個である。一方、F pは 体なので、xn 1 −1=0の解は高々n 1個である。したがって、 r=1となり、F× pは巡回群である。¤
7.素数を4で割った余り 定理7.1.(1)4で割ったら3余る素数は無限個存在する。 (2)4で割ったら1余る素数は無限個存在する。 証明:(1)p 1=3,···,prを4で割ったら3余る素数全体と する。 m=p2 1p2 2···p2 r+2≥11 とする。p2 i≡1(mod4)より、m≡3(mod4)である。mの素 因数分解を m=qe 1 1qe 2 2···qes s(e j≥1) とする。p i6|mなので、q 1,···,qsは、4で割ると1余る整 数である。それらの積は、4で割ると1余るので矛盾する。
(2)p 1,···,p rを4で割ったら1余る素数全体とする。 m=4p2 1p2 2···p2 r+1≥5 とする。qをmを割る素数とすると、qは2でもp 1,···,pr でなく、qは4で割ると3余る素数である。このとき 4p2 1p2 2···p2 r≡−1(modq) より ( −1 q) =( 4p2 1p2 2···p2 r q
) =1 となり、第1補充則からqは4で割ると1余る素数である。 これは、矛盾する。¤ °Dirichletの算術級数定理によると、4で割ると1余る素 数と3余る素数は“同じだけ存在”する。
レポート問題.次から2題以上解答せよ。 (1)p=11,13,17,···に対して、平方剰余のリストを作れ。 (2)適当なa,pに対し、平方剰余の相互法則を用いて( a p) を 求めよ。 (3)5以上の素数pに対して、( 3 p) を求めよ。 (4)第1補充則の証明を書いてみよ。 (5)平方剰余の相互法則を証明せよ。 (6)(イ)6で割ったら5余る素数は無限個存在することを示 せ。 (ロ)6で割ったら1余る素数は無限個存在することを示せ。 (7)感想を書け。