平方剰余の相互法則 都築暢夫 平成18年度「先端数学」 6月30日(金)2時限
1.はじめに 平方剰余はオイラーの時代から考察されていて、素数の不思 議な関係を表す「平方剰余の相互法則」の存在は意識されてい た。平方剰余の相互法則はガウスにより最初に厳密に証明さ れ、現在までに多くの別証明が与えられている。平方剰余の 相互法則は、「類体論」の最初の顕在化ともいうべきもので、 ガウスの考察は現在の整数論の序章である。 この時間は、p元体の導入と平方剰余について解説をし、「平 方剰余の相互法則」を紹介する。
2.p元体Fp pを素数とする。 定義2.1.整数a,bに対して a≡b(modp)⇔p|a−b と定めて、aとbはpを法として合同という。 命題2.2.≡は整数環Z上の同値関係になり a≡b(modp) c≡d(modp)¾ ⇒½ a+c≡b+d(modp) ac≡bd(modp) を満たす。特に、同値類の集合Z/pZ=Z/≡は環になる。
定理2.3.環Z/pZは体である。 証明.pと互いに素な整数aに対して ax+py=1 となる整数x,yが存在するから ax≡1(modp) となり、aの像はZ/pZの中で可逆である。¤ 定義2.4.環Z/pZをF pで表し、p元体という。
3.平方剰余 以下、pを2でない素数とする。 定義3.1.pと素な整数aに対して、pを法としてaが平方 数になるときaはpを法として平方剰余といい、そうでな いとき平方非剰余という。すなわち、 aは平方剰余⇔a≡b2 (modp)(∃b∈Z) と定める。 µ a p¶ =½ 1ただしaは平方剰余 −1ただしaは平方非剰余 とおき、µ a p¶ をルジャンドル記号という。
命題3.2.a≡b(modp)⇒µ a p
¶ =µ b p
¶ . 特に、µ a p¶ はF× pから{±1}への写像と見なせる。 例3.3.p=7のとき次のようになる。 b0123456 b2 0149162536 b2 (modp)0142241
a123456 µ a p¶ 11−11−1−1
4.p元体と平方剰余 定理4.1.F pの乗法群F× pは位数p−1の巡回群である。 証明.有限アーベル群の基本定理から、 F× p∼ =Z/n 1Z⊕Z/n 2Z⊕···⊕Z/nrZ 1<n 1|n 2|···|n r となり、位数がn 1の元の個数はnr 1個である。一方、Fpは 体なので、xn 1 −1=0の解は高々n 1個である。したがって、 r=1となり、F× pは巡回群である。¤
定理4.2.a∈F× pとすると ap−1 2=1⇔∃b∈Fps.t.a=b2 が成り立つ。特に µ a p¶ =ap−1 2 である。これを、オイラー規準という。 証明.αをF× pの生成元としa=αr とすると、位数はちょ うどp−1なので ap−1 2=αp−1 2r =1⇔p−1¯ ¯ ¯p−
1 2r⇔2|r⇔a=(αr 2)2 となる。F× pは位数がp−1なので、ap−1 2=±1である。¤
5.ガウスの準備定理 F× pの部分集合SとTを S={1,2,···,p−1 2} T={p+1 2
,···,p−1} とする。a∈F× pに対して、 n p(a)=]{s∈S|as∈T} と定める。 例5.1.F pにおいて−i=p−iなので、−S=Tである。 よって np(−1)=p−1 2 となる。
定理5.2.bf(ガウスの準備定理)µ a p
¶ =(−1)np(a) . 証明.T=−Sなので、as=²s(a)us(a)(²s(a)=±1,us(a)∈S) と表せる。s 16=s 2ならばus 1(a)6=us 2(a)なので、 ap−1 2Y s∈Ss=Y s∈Sas=Y s∈S²s(a)us(a)=(−1)np(a)Y s∈Ss となる。Q s∈Ss6=0なので、 µ a p¶ =ap−1 2=(−1)np(a) となる。¤
定理5.3.pを奇素数とする。 (1)(第1補充則)µ −1 p¶ =(−1)p−1 2=½ 1p≡1(mod4) −1p≡3(mod4) (2)(第2補充則)µ 2 p¶ =½ 1p≡1,7(mod8) −1p≡3,5(mod8). 証明.(2)p≡1(mod8)とする。2s∈Tとなるs∈Sは p+1 2
≤2s≤p−1 のときのみ。p≡1(mod8)より、s=p+3 4
,···,p−1 2となり n p(2)=p−1 2−(p+3 4
−1)=p−1 4 である。これは偶数なので、µ 2 p¶ =1である。¤
6.平方剰余の相互法則 定理6.1.(平方剰余の相互法則)p,qを互いに異なる奇素数 とする。 µ q p¶µ p q¶ =(−1)p−1 2q−1 2. 例6.2.p=3,q=7とすると µ 7 3¶ =µ 1 3¶ =1,µ 3 7¶ =−1 (−1)3−1 2×7−1 2=(−1)1×3 =−1 となるので、相互法則が成り立つ。
例6.3.平方剰余の相互法則を用いて計算してみる。 µ 1009 2003
¶ =µ 2003 1009
¶ =µ 994 1009
¶ =µ 2 1009
¶µ 7 1009
¶µ 71 1009
¶ =1×µ 1 7¶µ 15 71¶ =1×µ 3 71¶µ 5 71¶ =(−1)×µ 71 3¶µ 71 5¶ =−µ 2 3¶µ 1 5¶ =−(−1)×1 =1
レポート問題.次から2題以上解答せよ。 (1)p=11,13,17,···に対して、平方剰余のリストを作れ。 (2)第2補充則の証明を完成させよ。 (3)µ 3 p¶ を求めよ。 (4)適当なa,pに対し、平方剰余の相互法則を用いてµ a p¶ を 求めよ。 (5)平方剰余の相互法則を証明せよ。 (6)0でない整数aに対して、素数q(a)(ないこともある)を q(a)=min½ p:素数
¯ ¯ ¯ ¯µ¶µ¶¾ ba =1(∀b<a),=−1 pp と定める。q(a)を(計算機を用いて)求めよ。 (7)感想を書け。
°夏休みに読むことを薦め本 1.高木貞治「解析概論」(岩波書店) 言わずと知れた解析学の古典。3年生が読むと面白さが わかる? 2.G.H.ハーディ、E.M.ライト「数論入門I・II」 (シュプリンガー・フェアラーク東京) 整数論の古典的入門書・素数定理の証明が最大の目標