自然界は多様な植物二次代謝産物で溢れているが,それらの 多くは糖が付加された配糖体として蓄積されている.配糖体 化は反応性の高いアグリコンを安定化し,代謝物の細胞内輸 送や貯蔵を司る重要な反応である.その配糖体化反応を触媒 す るUDP糖 依 存 型 配 糖 体 化 酵 素 の 機 能 解 析 を 通 じ て 明 ら か になってきた酵素機能の可塑性と二次代謝産物の構造多様性 について解説する.
UGT酵素の糖供与体選択性の分布と起源
植物は環境への適応を高めるために多様な二次代謝産 物を生産している.特定の系統に特異的な二次代謝物は Specialized Metaboliteと呼ばれ,薬や香辛料,香水や お酒など,人類の生活を豊かにするために幅広く利用さ れている.二次代謝物の多くが配糖体化されて安定的に 水溶性が高められているが,それらの配糖体化のほとん どはスーパーファミリーを形成しているUDP糖依存型
配 糖 体 化 酵 素(UDP-sugar-dependent Glycosyl trans- ferase : UGT)によって触媒される.UGT酵素はUDP 糖(多くはUDP-グルコース)を糖供与体とし,その糖 を糖受容体である二次代謝物(多くの場合はその水酸 基)に転移する.そのため,糖供与体と糖受容体,そし て糖受容体の糖転移位置と複数の特異性が存在する(図 1).
フラボノイドは最もよく知られた二次代謝産物である が,そのフラボノイドを配糖体化するUGTの位置特異 性と一次構造とは種を超えて相関があり,これらの UGTの位置特異性は種分化の前に確立していたと考え られる.一方,糖供与体の選択性については,同一位置 特異性を示す類似したUGT間においても多様である.
たとえば,シロイヌナズナ ( )のフ ラボノイド3位を配糖体化するUGT78D1, UGT78D2/
Anthocyaninless1 およびUGT78D3は互いに高いアミノ 酸配列相同性を示すが,それぞれUDP-ラムノース,
UDP-グルコースおよびUDP-アラビノースを特異的な 糖供与体とする配糖体化酵素である(1).また,アグリコ ンではなく配糖体の糖に特異的に糖転移するSugar- Sugar UGTと呼ばれるグループには,UDP-グルコー Convergent Evolution of Sugar Donor Specificity of Glycosyl-
transferases in Plant Specialized Metabolisms
Eiichiro ONO, Manabu HORIKAWA, Toru NAKAYAMA
*1サントリー植物科学研究所,*2サントリー生命科学財団生物有 機科学研究所,*3東北大学大学院工学研究科
【解説】
平行進化する基質特異性
小埜栄一郎 * 1 ,堀川 学 * 2 ,中山 亨 * 3
ス,UDP-ラムノース,UDP-キシロースあるいはUDP- グルクロン酸を特異的な糖供与体とするグルコース転移 酵素 (GlcT),ラムノース転移酵素 (RhaT),キシロー
ス転移酵素 (XylT),あるいはグルクロン酸転移酵素
(GAT) が知られている(図1,図2)(2〜6).
したがって,多様に分化した糖供与体選択性は位置特 図1■UGT酵素が触媒する糖転移 反応
UGT酵素には糖受容体と糖供与体 の2つの基質特異性に加え,糖受容 体のどの位置(通常は水酸基)を配 糖体化するかという位置特異性が存 在する.
図2■Sugar-Sugar UGTフ ァ ミ リーの分子系統樹と糖供与体選択 性の分布
NJ法による分子系統樹.n.d.は未決 定
異性と異なり,種分化後に特定の植物系統において独自 に生じた特異性であり,それらの特異性は比較的少数の アミノ酸残基によって決定されていると推測される.言 い換えれば,この局所的に生じた供与体選択性の機能分 化こそが多様な二次代謝物を生み出しているエンジンと 見なすことができる.自然界においては,二次代謝産物 のグルコース配糖体(グルコシド)が頻繁に観察される ことから,そのUGTの祖先型はUDP-グルコースを糖 供与体としていたと推測されるが,新しい供与体選択性 は植物進化の過程でどのように生じてきたのであろう か.
レッドデイジーのアントシアニン グルクロン酸転 移酵素
フラボノイドの一種であるアントシアニンは,多くの 陸上植物の花や葉の色調を決定する主要な色素である.
キク科レッドデイジー(雛菊, )の鮮や かな赤色の花弁には,アントシアニジンの3位のグル コースの2位にさらにグルクロン酸が付加された特徴的 な構造をもつアントシアニン色素が蓄積している(図 3).このグルクロン酸の転移反応を触媒するUGT酵素 は,哺乳類では知られていたが,植物からは初めてレッ ドデイジーからBpUGAT (UGT94B1) が同定された(6). BpUGATはSugar-Sugar UGTフ ァ ミ リ ー に 属 し( 図 2),UDP-グルクロン酸を特異的な糖供与体とする.そ の遺伝子発現パターンは花弁内のBpUGAT活性や色素 合成とほぼ一致しており,レッドデイジーの花色発現に 重要な役割を担っていると考えられる.
結晶構造が明らかにされているブドウのアントシアニ ン3位グルコース転移酵素VvGT1(UGT78A5)を鋳型 としたBpUGATのホモロジーモデル解析の結果,UDP- グルクロン酸の特徴的なカルボキシ基の近い位置に BpUGATのユニークなArg25残基側鎖のグアニジノ基 が配置されることが示唆された(図3)(7).実際に,こ のArg残基を置換した点変異体ではグルクロン酸転移 活性は失われ,それに代わり顕著なグルコース転移活性 を示した(8).このことから,このユニークなArg25残 基はUDP-グルクロン酸の認識に必須であることがわ かった.つまり,正電荷のArg残基のグアニジノ基と 負電荷のUDP-グルクロン酸のカルボキシ基の静電的な 相互作用がUDP-グルクロン酸の認識の分子基盤である と考えられる.
シソ目のフラボン グルクロン酸転移酵素
多くの植物でフラボノイドの7位はグルコースで配糖 体化されており,実際にフラボノイドの7位にグルコー スを転位する酵素としてキンギョソウ (
) のC4′GlcT (UGT88D3) や ダ イ ズ (
) のIF7GlcT (UGT88E3) がすでに同定されてい
る(9, 10).一方,シソ ( ),コガネバナ
( ),キンギョソウ,ゴマ (
) などのシソ目 (Lamiales) に属する植物 は,7位グルコシドに加え,7位がグルクロン酸で修飾 された特徴的なフラボノイド7位グルクロニドを蓄積し ている(図3).タツナミソウ属コガネバナの根には黄 色いフラボン7位グルクロニドの一種であるバイカリン やスクテラリンが豊富に含まれており,その根はオウゴ ンと呼ばれ,消炎や解熱効果のある生薬として古くから 利用されている.逆遺伝学的手法で見いだされたシソ UGT88D7, コガネバナUGT88D1, タツナミソウ (
) UGT88D5, ゴ マUGT88D6, キ ン ギョソウUGT88D4, そしてオオイヌノフグリ (
) UGT88D8はいずれも,UDP-グルクロン酸特異 的なフラボノイド7位グルクロン酸転移活性を示し た(4, 11).
興味深いことに,これらの酵素は前述のレッドデイ ジー BpUGATのArg25に対応するArg残基を有してい なかったが,ホモロジーモデル解析の結果,シソ目フラ ボ ノ イ ド7位 グ ル ク ロ ン 酸 転 移 酵 素 は PSPG (Plant Secondary Product Glycosyltransferase) ボックスと呼 ばれる保存されたC末端領域の通常Trp残基が見られる 位置にユニークなArg残基をもっていることが明らか となった.PSPGボックスは糖供与体である糖ヌクレオ チドと結合する領域であると推察されているが,ホモロ ジーモデル構造から,このArg残基側鎖はUDP-グルク ロン酸のカルボキシ基の近くに配置されると予想された
(図3).実際に,シソUGT88D7の350番目のArg残基 をTrp残基に置換したR350W点変異体酵素では,その 糖供与体選択性がUDP-グルクロン酸からUDP-グル コースへと劇的に変化した(11).同様の変化がゴマの UGT88D6やキンギョソウUGT88D4の点変異体解析で 確認された.このことから,シソ目のグルクロン酸転移 酵素にユニークなArg350残基はUDP-グルクロン酸の 認識に必須であり,シソ目グルクロン酸転移酵素と前述 のレッドデイジーの同酵素はUDP-グルクロン酸に対す る特異性の発現機構は類似しているものの,その起源は 異なることが明らかとなった.
シソ目にはフラボノイド7位グルクロン酸転移酵素と 構造的に類似したフラボノイド7位グルコース転移酵素 が見いだされている(9, 11).一方,ゲノムが解読されたシ ロイヌナズナでは,このシソ目のフラボノイド7位配糖 体化酵素と相同性を示す酵素はUGT88A1の1分子種の
みである.この酵素はUDP-グルコースを糖供与体とす るグルコース転移酵素であることがわかっている(11). したがって,シソ目のフラボノイド7位グルクロン酸転 移酵素の祖先種はグルコース転移酵素であり,それが遺 伝子重複とそれに引き続く機能分化の末にグルクロン酸 図3■3種のフラボノイドGAT酵素の平行進化
3つの異なる植物系統に見られる特徴的なフラボノイドグルクロン酸配糖体(グルクロニド)の生成に関わるフラボノイドグルクロン酸転 移酵素が同定された.それぞれUDP-グルクロン酸に対する特異性を決定するアルギニン残基を有するが,それらの起源は異なる.
転移能が生じたと推察できる.その際に,PSPGボック ス内(350番目付近)にArg残基を生じさせた点変異は グルクロン酸転移酵素の進化の上で決定的な出来事で あったであろう.しかし,シロイヌナズナのUGT88A1 やキンギョソウのUGT88D3,ダイズのUGT88E3のグ ルコース転移酵素のPSPGボックス内の保存性の高い Trp残基をArg残基に置換しただけではグルクロン酸転 移活性は示さない(11).同じように,レッドデイジー BpUGATのArg25残基に相当するArg残基を導入した イネ科モロコシ ( ) のグルコース転移 酵素であるSb UGT 85 B1においても新たなグルクロン酸 転移活性は認められなかった(7).これら結果は,Arg残 基がUDP-グルクロン酸の認識に必要ではあるが十分で はなく,このArg残基以外にもグルクロン酸転移酵素 への機能分化に必要なアミノ酸が存在することを示唆し ている.
ブドウのフラボノール グルクロン酸転移酵素 ブドウ科ブドウ ( ) はワインやジュー ス,レーズンや生食と,我々の生活になじみの深い植物 である.その含有するフラボノイド配糖体は多様で,フ ラボノイドの一種,フラボノールは3位グルコシドに加 え,グルクロニドとガラクトシドが葉や果皮に蓄積して いる(図3).フラボノール配糖体自体は薄い黄色を呈 するが,アントシアニン色素と相互作用することで果実 やワインの色調に影響する補助色素(Co-pigment)と しての機能が知られている.また,細胞保護作用,抗鬱 作用,抗動脈硬化作用などの有用な生物活性が報告され ている.しかし,これまでにブドウ果皮アントシアニン 色素の生成に関わるアントシアニジン3位グルコース転 移酵素VvGT1(UGT78A5)が同定されていたが(12), ブドウのフラボノール配糖体化酵素については不明で あった.
2007年,フランスとイタリアのコンソーシアムによ りブドウゲノムが解読された結果,UGT様遺伝子が250 個同定された(13).その中から,DNA相同配列検索によ りVvGT1と構造類似性の高いUGT遺伝子が7個新たに 見いだされた.このうち (UGT78A11) は,フ ラボノール合成酵素遺伝子である と協調的に葉や 果皮で発現し,大腸菌で発現させたVvGT5タンパク質 はUDP-グルクロン酸に特異的なフラボノール3位グル クロン酸転移酵素であることが生化学的に証明され た(14).興味深いことに,レッドデイジー BpUGATの Arg25やシソUGT88D7のArg350に対応するArg残基
はVvGT5には見当たらなかったが,ホモロジーモデル 解析によりArg140がUDP-グルクロン酸のカルボキシ 基の近くに配置されると予想された(図3).実際に,
このArg残基をTrp残基に置換したVvGT5-R140W点 変異体はUDP-グルクロン酸に対する特異性を失い,そ れに代わってUDP-グルコース転移活性を示した.この ことから,VvGT5ではArg140がUDP-グルクロン酸の 認識において決定的な役割を果たしていることが示され た.
このように,レッドデイジー,シソ,ブドウと異なる 植物系統で発見されたフラボノイドのグルクロン酸転移 酵素はいずれも,共通してグルクロン酸の認識に不可欠 なユニークなArg残基を保有していた.その基質ポ ケット内での配置は類似しているものの一次配列上の位 置は異なることから,これらの起源は独立した突然変異 であるのは間違いない.以上の3種の平行進化の例は,
酵素 (UGT) の可塑性が新たな基質特異性(糖供与体選 択性)の獲得に寄与していることを強く支持する.
糖供与体選択性の発現機構
UGT酵素が通常1種類の糖供与体にしか特異性を示 さない点は特に注目に値し,個々のUGTが進化の過程 で特定の糖供与体に適応してきた進化が伺える.それで はなぜ,UGTは特定の1種の糖供与体に特異性を示す のであろう? VvGT5の場合は,前述のようにUDP- グルクロン酸が糖供与体として酵素に結合したときに Arg140残基が効果的に機能してグルクロン酸を糖受容 体であるフラボノールに転移させるが,グルクロン酸の カルボキシ基とArg140残基のグアニジノ基の効果的な 静電相互作用のみではUDP-グルコースを糖供与体とし て受け付けない理由を説明できない.UDP-グルコース が基質の場合でもVvGT5のArg140残基のグアニジノ 基はUDP-グルコースの6位水酸基と水素結合すること ができることから,UDP-グルコースからのグルコース の転移を不活性化させる決定的な機能をVvGT5は備え ているはずである.
ホモロジーモデリングで得られたVvGT5の立体構造 に よ れ ば,Arg140残 基 は 側 鎖 を 動 か す こ と に よ り Asp119残基との相互作用が可能な位置に存在する(図 4).Asp119残基は,糖受容体であるフラボノールの水 酸基のプロトン引き抜きに重要なHis20と水素結合して His20残基を活性化していることから,Arg140残基と Asp119残基の相互作用によるHis20残基の不活性化が,
UDP-グルコースを糖供与体として利用しない理由だと
推測される.したがって,UGTがグルクロン酸に対す る特異性を示すための本質的な理由は,Arg140残基が グルクロン酸のカルボキシ基と相互作用することによっ て,Asp119残基の触媒的役割を可能とすることにある と考えられる.また,R140W点変異体がUDP-グルコー ス特異性を示しUDP-グルクロン酸を基質としない理由 は,活性発現に重要なHis20残基がグルクロン酸のカル ボキシ基と水素結合を形成するためだと推測される.多 くのグルコース転移酵素がUDP-グルクロン酸を基質と しないことも同じ理由なのかもしれない.
レッドデイジーのBpUGATのArg25残基も,側鎖を 動かすことによりAsp121残基(VvGT5のAsp119残基 と相同性のある残基)と相互作用が可能な位置に存在す ることから,VvGT5と同様な機構により,グルクロン 酸選択性を示すと推察される.一方,シソのUGT88D7 のArg350残 基は,Asp105残基(VvGT5のAsp119残基 と相同性のある残基)とかなり離れた位置に存在するた め,別の構造的な特性によりグルクロン酸特異性を獲得 したと考えられる.現在進行中のグルクロン酸転移酵素 の結晶構造解析がより深い理解を与えてくれるであろ う.
一方,VvGT5のように多くのUGTが特異性の高い単 一の糖供与体選択性を示す酵素に対して,ブドウの VvGT6 (UGT78A12) は例外的にバイファンクショナル な糖供与体選択性を有する酵素として見いだされた(14). VvGT6はUDP-グルコースとUDP-ガラクトースに対し て同程度の親和性を示し,ブドウの葉や果皮でフラボ ノールの3位グルコシドおよびガラクトシドの生成に関 与していると考えられる.これまで,ペチュニア (
),ケツルアズキ ( ) やウド
( ) からフラボノイド3位ガラクトース転 移酵素やダイズサポニンのガラクトース転移酵素の GmSGT2 (UGT73P2) が同定されているが,これらい ずれのPSPGボックスのC末端にも特徴的にHis残基が 認められる(15〜17).実際に,ウドAcGalTのHis残基を Gln残基に置換した点変異体の解析から,このHis残基 がUDP-ガラクトースの認識に重要であることが示され ている(16).興味深いことに,VvGT6のPSPGボックス C末端にはHis残基はなく,保存性の高いGln残基が存 在している.このことから,VvGT6のガラクトース認 識機構はこれまで知られているガラクトース転移酵素と は異なることが示唆された.ホモロジーモデルと点変異 図4■糖供与体選択性の発現機構モデル
VvGT1の結晶構造解析(7)でHis20は活性触媒残基とされている.
体の生化学実験から,VvGT6のN末端に存在するユ ニークなPro19残基がガラクトースとの親和性に重要な 役割を担っている残基であると同定された(14).
このように,同じ糖供与体選択性でもその特異性の獲 得機構が異なることが明らかとなり,UGT酵素の機能 的可塑性をさらに強調する結果となった.VvGT6のよ うなバイファンクショナルな糖供与体選択性は新しい糖 供与体に適応しつつある,いわば酵素進化の遷移過程を 垣間見ているのかもしれない.ブドウゲノム中には と 以外に 遺伝子のホモログが 数コピー存在する.もしその中にVvGT6と機能的に重 複するフラボノール3位グルコース転移酵素が存在して いるのであれば(あるいは,そのようなUGTが生じて くれば),UDP-グルコースへの制約が弱まり,VvGT6 は将来的にUDP-ガラクトースへの適応度を高めてゆく かもしれない.実際に,VvGT6のPSPGボックスのGln 残基をHis残基に置換したVvGT6-Q373H点変異体では グルコース転移活性のみが著しく低下し,人工的にモノ ファンクショナルなガラクトース転移酵素に進化させる ことができた(14).これまでに述べてきたように,ホモ ロジー構造に基づく変異導入により人為的にUGT酵素 の特異性を改変することが可能となってきており,将来 的にオーダーメイドの糖転移反応を触媒するUGT酵素 をデザインできる日も遠くないと期待される.
おわりに
一見同じ糖供与体選択性をもっている酵素でも,その 特異性の進化的な成り立ちは異なり,各植物系統に独立 し て 生 じ た 平 行 進 化(Parallelあ る い はConvergent Evolution)の産物であることがわかった.上記のよう に特定の植物系統で度々生じるこの局所的な機能分化 は,酵素の可塑性が我々の想像以上に高いことを物語っ ている.したがって,今後の二次代謝研究からもこのよ うな酵素の平行進化の実例が出てくることが期待され る.「同じ代謝物でさえ植物系統が異なれば同じ酵素あ るいは同じ経路で生成しているとは限らない」と柔軟に 考えるほうが自然に即しているかも知れない.
植物ゲノムでは,UGTに限らずチトクロムP450モノ オキシゲナーゼ (CYP) や2-オキソグルタル酸依存的ジ オキシゲナーゼ (2OGD) などの多くの二次代謝に関わ る酵素遺伝子が遺伝子重複によってスーパーファミリー
を形成している.これらの遺伝子コピーは新たな機能分 化のための遺伝リソースを提供し,酵素の機能的可塑性 に依存して系統特異的な二次代謝産物が生じてきたので あろう.その機能的可塑性はおのおのの植物の置かれた 環境の自然選択圧によって適応度が高まるように調節さ れてきたはずである.それら総体の結果としてこの自然 界は二次代謝物の構造的多様性で満たされていると想像 すると,深遠でそして感動的である.
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