1 / 3 2.研究の詳細
プロジェクト
名 電気回路設計の基礎的能力に関する研究 プロジェクト
期間 平成30年度 申請代表者
(所属講座等)
石橋 直
(教職教育院)
共同研究者
(所属講座等)
1.研究の背景と目的
問題解決能力や論理的思考力の育成を目指した効果的な取組みとして,近年ではSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育やプログラミング教育が注目されている。これらの教育活動を深化させる には,現実的な問題・課題に対し,製作あるいは制作,つまり工学的な“ものづくり”を通して解決を図ることが 求められる。その“ものづくり”の過程には,電気回路の設計を伴うことが多々あるため,学習者には電気回路設 計の能力が必要となってくる。しかし,学校教育で展開されている電気の学習においては,電気回路設計を取り 扱う場面は極めて少ない。例えば,中学校の理科や技術・家庭科技術分野(以降「技術科」)では,電気の諸現 象の理解や機器の仕組みの理解が学習の中心的な内容を占めている。また,実験や製作においては,あらかじめ 準備された電気回路を構築・観察するものが多く,学習者が主体的に設計する場面がほとんど無いため,工学的 な知識・技能を育成する機会が失われている。したがって,電気回路設計に必要な基礎的能力を解き明かし,そ の能力獲得のための効果的な教育方法を開発することは,今後の学校教育の質の向上のために重要なことであ る。設計という行為は創出と最適化を目指した概念操作を伴う知的な活動であり,電気回路設計能力には設計者 のもつ電気回路概念が深く関連している。しかし,これらの関連性については明らかにされていない。そこで本 プロジェクトでは,(1)電気回路概念が電気回路設計能力に及ぼす影響を調査し,(2)その能力育成のための効果 的な教育方法を電気工学の専門教育機関の教育活動から見出し,さらに (3)その教育方法(教材・カリキュラム 含む)を確立することを目的とした。
2.研究内容と研究計画
本プロジェクトは前述の研究の目的に照らし,次の3点で構成した。
(1)電気回路設計能力と電気回路概念の関連性を調査するテスト(質問紙)の開発・実施
設計における思考の展開について,畑村[2000]1)は,機能要求にはじまり,それを分析・分解して機能を得 て,それを回路図などの機構へと写像し,展開・統合することで構造を得るものと定義している。従来から存 在する電気回路概念テストを「機構(回路図)から機能を見出す写像」と捉えたとき,機能から機構を得る作 業は逆写像とみなすことができる。本プロジェクトでは,この機能から機構への移行課題を設計と位置付ける。
この能力測定のために,主として物理教育で用いられている回路概念テストをもとに,要求機能を実現する回 路を考え記述するための回路図作成テストを開発し,教員養成大学の学生を対象にプレテストを実施のうえ改 良し,電気技術を専門に学ぶ工業高校生約240名を対象に実施する。
(2)電気回路設計能力の育成に効果的な教育活動の調査
工業高校における質問紙調査結果に基づき,電気回路概念や設計能力をカテゴリ化し,電気回路概念と設計 能力の関わりについて明らかにする。さらに,工業高校の教育内容がそれぞれのカテゴリに関する能力に影響 を与えているかについて,その関連性を調査する。調査対象の工業高校で取り扱っている教科書の内容だけで はなく,指導計画,実験・実習項目の詳細,資格取得に向けた指導内容,課外授業の内容などから総合的に考 察する。
(3)電気回路設計能力の育成に効果的な教材・指導法の開発
電気回路設計能力の育成に効果的な教育活動を検討し,新たな教育方法を開発する。「電気回路概念の獲得」
から「電気回路設計能力の育成」までつなげていくための,指導法,教材,カリキュラムを構築することを目 指す。
3.平成 (1)「電気
テス による Resisti に,電気 従来型 めの電気
大学生 くの学生 路・抵抗 た。また 覚的に結 たが,電 問の正答 される 図作成テ このテス 18題,
実施し 低く,設 (2)「電気
前述 こでは,
礎1・
の演習 作成テス ら,電気 めるこ 分に取 当たっ とが要 育てる (3)「電気
①回路基礎 電気 ことで学 もに電気 導電性テ につい CUS-8 着させ る学習活 使用す て困難 回路を構 してい 年生12
30 年度実施に 気回路設計能力
ト(質問紙)
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答率が低いこ 問いに困難さ テストでは,短 ストは同一概
回路図作成に た。調査結果 設計能力とそ 気回路設計能力 の調査結果か
,その要因に 2」「電気機器 問題を調査し ストのように 気技術を専門
とはできるが り組めていな ては演習を重 因であると推 としているた 気回路設計能力 礎教育用の教 の理解には,
学ぶ」取組が 気回路を構想 テープに着目 て検討した。
8Tであり,8m る仕組みのた 活動としては るものが挙げ さを伴うこと 構築できるツ るものといえ 2名を対象に
による研究成 力と電気回路概
は,Engelh etermining a Circuits Conc に関連性の高い トを26題,設 テストを16題
対する電気回 念について良好 力概念,電圧概 作成テストでは すい回路・抵抗 電圧のように ことから,機能 さを抱くことが 短絡回路を構 概念を複数の設
については7 果は分析の途中
その育成に係る 力の育成に効果 から,設計能力 について教科書 器」「電力技術 したところ,回 に,求められる 門的に学ぶ工業 が,電気回路の ないことが分か 重視し」とある 推察される。し ため,創出を指 力の育成に効果 教材開発につい
実際に回路を が有効と考えら 想し設計を具体 目し,試行授業 教材として使
mm×2mの銅
ため,粘着面に は,クリップリ げられるが,こ とが懸念される ツールが望まし える。試行授業
,回路を構築 成果
概念の関連性 hardt & Beich and Interpret cepts Test v1 い問題を抽出 設計能力の測定
題設定した。
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が分かった。
構成したり,電 設問から測定 題に改訂し,
中であるが,回 る教育活動と
果的な教育活 力とその育成 書分析を通し 術1・2」「電 回路内の電気諸 る機能を実現す 業高校生の生徒 の振る舞いを直 かった。この るため,この文
しかしながら 指向した設計 果的な教材・
いて を製作し動作 られる。ここ 体化する能力 業を通して,
使用した導電 銅箔テープで にも導電性を リードを使用 これらは回路 る。そのため しいが,この 業は,電圧概 築し,各点を実
2 / 3 性を調査するテ
her[2004]2) ting 1.0)を参考 出し構成した。
定を試みるた
トの結果,多 示したが,回
課題が見られ 機能の関係を視 ては良好だっ 作対象とする設 的なものを要求 さらに,回路 電源の極性を正 定するものが含 これを県立 回路概念テス との関連性につ
活動の調査」に に係る教育活 して探ることを 電子回路」「電
諸量や用語を 現するための配 徒は,回路図 直観的に捉え ことは,学習 文言を受けた
,工業科の目 計学習を展開し
・指導法の開発
作を確かめる,
こでは,電気回 力の育成を指向 導電性テープ 電性テープは㈱
である。金属粉 を有する。電気 用するものや,
路図から実体配 め,回路図の配 の導電性テープ 概念に着目した 実測すること
テスト(質問
た 多
れ 視 っ 設 求 路
正しく接続で 含まれており A工業高等学 ストと回路図作
ついての特徴 について 活動の関連性を を試みた。工業 電子計測技術」
を回答させるも 配線を考えさせ 図内における電
えたり,目的に 習指導要領の各 た教科書の設問 目標には「工業 していく必要
発」について
いわゆる「
回路を理解す 向した教材と プの活用方法
㈱タカチ電気 粉入りの粘着剤
気回路を実際 ブレッドボ 配線への移行 配置・配線ど プはその条件 たものとし,
とを通して電圧
回路概念
抵抗・回 電力 電流 電圧
問紙)の開発
きなかったり 冗長であった 学校の電気科生
作成テストのい 徴を見出すには
を見出すこと 業高校で取り
(いずれも実 もので占めら せるような設 電気諸量を数値 に合った回路
各科目の取扱 問が計算問題 業と社会の発 要があるだろう
て
つくる るとと して や効果 工業の 剤で接 につく ードを におい おりに を満た 大学1 圧につ
回路図作 念テストおよび回路
回路概念テ 回路 0.52
0.49 0.68 0.37
導
・実施」につ
りといった誤 たため,回路概
生徒231名を いずれにおい は至らなかった
とが困難と考え 扱っている教 実教出版に掲載 られており,本 設問は無い。こ 数値計算的な処 を創出したり 扱いに「計算方 題中心のものと 発展を図る創造
う。
作成テストの例 回路図作成テストの 念テスト 回路
2 9 8 7
導電性テープを活用
(試行授業の学習
ついて
りも見られた 概念について を対象に調査を いても正答率が
た。
えられたが,こ 教科書「電気基 載されている 本研究の回路図 これらのことか 処理を通して求 りすることに十 方法の取扱いに となっているこ 造的な能力」を
の正答率(N=51) 路図作成テスト
0.65 0.53 0.39 0.27
用した回路シート 習者による製作)
た。
て を が
こ 基 る)
図 か 求 十 に こ を
いての理 したと p<.05)
②配線の指 配線に の作成に 成にあた 経由しな しなけれ とによっ ど,使用 ったりす ている3 だけで完 るという ートを限 手順を設 ここでは したとこ の配線を ることが
4.研究の 本プロ 際に働く思 能力にど し,回路設
本プロ 的に結びつ は,電気回 の新学習指 材開発に役 すること
5.主な学 石橋直(20 石橋直(20
石橋直(20 その他,工
[参考文献 1) 畑村洋 2) P.V.En
circuit 3) 石橋直
部論文
理解を深める ころ,電圧概 ことから,教 指導法につい に関する能力に に着目しその指 たっては,例え なければならな ればならない って配線ミスを 用する電線の色
することの理解
3)。複線図は決 完成するため,
う課題がある。
限定しない回路 設定した。この は,大学2年生 ころ,誤結線の を指導する際は が重要であり,
の今後の展望 ジェクトで開 思考が異なる のように影響 設計能力を構 ジェクトを通 つけやすいこ 回路設計の基 指導要領に示 役立てられる が期待される
学会発表及び 018),電気工 018),教員養 FIE-1 019),回路図 工業高校生対
献]
洋太郎(2000),
ngelhardt and ts”,America 直(2018),電気 文集,第25巻,p
るものとした。
概念の理解に関 教材に一定の いて
については,電 指導法につい えば,電線がジ
ないことや,器 ことなど,配線 を起こすこと 色が指定され
解が困難であ 決められた作業
,電気回路の
。そこで,電 路図の作成,
の指導によっ 生を対象に,
の数は実験群 は,なぜそこ
,その思考を
望と予想される 開発したテス ることが示唆さ 響するかについ 構成する要素を 通して,電気回 ことから保持し 基礎教育に関わ
示されている ることや,電気 る。
び論文 工事複線図作成 養成大学の学生 18-017,pp.7- 図作成テストに
対象の調査結果
設計の方法 d R.J.Beichn an Journal of 気工事の複線
pp.1-6
。DIRECTに 関して,事後 の成果が認めら
電気工事にお いて検討した。
ジョイントボ 器具間には渡 線ルートが限 と,接地側や非 れたり,あるい
あることが明ら 業手順の通り の動作を意識す 電気回路の振る
Ⅱ:配線ルー って,誤結線が 従来型の指導 群の方が有意に こに繋ぐのか,
を促すことが誤
る成果 トの実施を通 された。今後 いて,プロトコ を探っていく 回路のグラフ しやすく,回路 わる指導者に
「電気回路又 気回路の基礎教
成の指導法に 生がもつ電気
12
による電気回 果については
法論《設計系Ⅲ ner(2004),”S f Physics,V 線図作成におけ
3 / 3 に基づく概念 後テストの正答
られた。
おける複線図 複線図の作 ボックス間を 渡り線を使用 限定されるこ 非接地側な いはされなか
らかにされ りに実行する
することが少 る舞いを意識 ートを限定し がどの程度縮 導法(統制群, に低く,指導 そこに繋ぐ 誤結線の低減
通して,回路の は,設計にお コル分析や新 必要がある。
フに関する概念 路図作成にお にとって有用な 又は力学的な機 教育を実施し
に関する研究,
気回路概念に関
回路概念の実態 は日本産業技術
Ⅲ》,pp.13-19 Students’ un Vol.71,No.1,
ける初学者のつ
テストの事前 答率が事前テ
少なく,手順の 識させながら配 した回路図の作 縮減されるかに ,N=14)と,
導法の効果が示 ぐと回路の動作 減に効果がある
の理解を目指す おける思考過程 新たな質問紙を
念(主として回 おいても有効に な知見になる 機構等を構想 している工業高
日本産業技術 関する研究,電
態調査,平成 術教育学会第
9岩波書店 derstanding
pp.98-115 つまずきに関
「Ⅱ:配線
前・事後を対応 ストに比べて
の意味を理解で 配線に取り組ま 作成,Ⅲ:複線 について,試行 本研究の指導 示唆された(t 作がどのよう ることが確か
す際に働く思 程や学習者の を作成し調査す
回路・抵抗概 に機能するこ ものと考えら して設計を具 高校電気科な
術教育学会第 電気学会教育
31年電気学会 第62回学会全
of direct cur 関する研究,日本
線ルートを限定し
応のあるt検 て有意に高かっ
解できずに作業 組ませるために 線図の作成,
試行授業を通し 導法(N=13)
t=2.12, p<.05 に変化するの められた。
思考と,回路の ものづくり経 査することを通
概念)が,配線 ことが示唆され られる。特に,
具体化する」学 どにおける設
第61回全国大 育フロンティア
学会全国大会 全国にて発表予
rrent resistiv 本産業技術教
した回路図作成」の
検定により比較 った(t=2.42
業にあたってい に,Ⅰ:配線ル といった作業 して検証した。
を実施し比較 5)。電気回路 のかを推論させ
の設計・創出の 経験などが設計 通して明らかに
線と機能を視覚 れた。このこと 中学校技術科 学習の題材・教 設計学習に寄与
大会 ア研究会,
予定
ve electrical 教育学会九州支
の演習問題の例
較 2,
い ル 業
。 較 路
せ
の 計 に
覚 と 科 教 与
支