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放射性セシウムの ラジオエコロジー - J-Stage

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【解説】

日本の生態系には,19501970年代の大気圏内核実験,1986 45月 の チ ェ ル ノ ブ イ リ 原 発 事 故,そ し て20113月 の 福島原発事故による放射性物質が降下し広域の複雑な汚染が 生じた.降下核種のうち長寿命の放射性セシウム *Cs  森林,農耕地,河川や湖沼,海の植物,動物,土,水に不均 一に拡散している.この生態系での放射性セシウムの動態の 理解は,ヒトの生命と,安全や安心できる食生活と活動のた めの環境の復興に大切である.

はじめに:3つの放射性物質の降下

今,日本は三度目の放射性物質の降下(フォールアウ ト)に伴う広域汚染被害への対応と復興対策に直面して いる.2011年3月11日の東日本大地震による津波被害 で運転を停止したあとに起こった東京電力福島第一原子 力発電所(福島NP)での数回の爆発事故によって,福 島の太平洋側の極度の汚染と東北南部と北部関東広域の ホットスポット的な生態系汚染のなかにある.

1

に示すように日本の一度目の広域放射性物質の降 下 (global fallout) は,1945 〜1980年の東西強国による

大気圏内核実験によるものである.汚染の状況がどのよ うなものであるか詳細は不明だが,今も日本の土壌に放 射性セシウム汚染として記録されている.二度目は 1986年4月ソ連(当時)チェルノブイリ原子力発電所

(チェルノブイリNP)の爆発で生じた放射性ヨード 

131I) や放射性セシウム(

*

Cs,半減期2.1年の 134Csと 半減期の30年 137Cs)が世界中(特に北半球)にグロー バルフォールアウトとして拡散し,日本でも検出され た(1)

本稿ではこれら3つ,特にチェルノブイリと東電福島 第一の原発事故 (NPA) による放射性物質,そのうち長 寿命の

*

Csの広域汚染の情報と解析を基礎に,3つの視 点で考察したいと思う.3つの視点とは (1) 広域生態系 への放射性物質のホットスポット的な降下とそのあとの 動 態,(2) 水,植 物 へ の 一 次 汚 染 と 食 物 連 鎖 (food  chain) を経ての動物(家畜,魚貝類)への二次汚染と ヒトへの摂取,(3) 生態系の放射性物質は,固有の物理 的半減期で放射能を失うが,技術的に放射能の消滅を図 ることはできないことを前提とした,ヒトの生活圏や活動圏 からの放射性物質の 隔離のための除染 への考察である.

放射性セシウムの ラジオエコロジー

米山忠克

Radioecology of Fallout Cesium

Tadakatsu YONEYAMA, 農業・食品産業技術総合研究機構

(2)

複雑な陸域生態系の

*

Cs汚染

表1の状況で

*

Csは大気に放出され,気流やプルーム によって大気を移動し,陸域生態系に降下した.チェル ノブイリNPAでは,2,000 km離れたヨーロッパ各国に,

また,8,000 kmの距離にある日本でも森林,農耕地,草 地に,福島NPAでは本州東北地方南部と関東地方北部 に高濃度で,そしてその周辺に低濃度で陸域生態系に降 下した.

*

Csの降下(図

1

)は,風みちや微気象条件によって 左右され極めて不均一であった.降下した場所が森林で あれば,降下時に樹上に現存した葉,枝,樹皮に付着,

また落葉や下草,コケに沈着,さらには土壌表層の腐植 物質に結合し,粘土成分に固定されていった.農耕地や 草地では栽培中の植物に付着,さらに土壌へと移行し た.河川や湖沼に降下すると,

*

Csイオンは水に溶け て,一部は水生植物および水面から出た抽水植物,プラ ンクトンに取り込まれ,さらに食物連鎖でウナギなどの 表1放射性物質による3つの広域汚染とその特徴

大気圏内核実験 

1945 〜1980 チェルノブイリ原発事故 

1986.4.26 福島第一原発事故  2011.3.12 〜16 放射性物質の拡散と降下 長期にわたる放射性物質のグ

ローバル(全地球的)降下.

地球を周回(平均20日).放 出量はチェルノブイリNPAの 約 500 倍(2).1963 〜 1964 年 ピーク.太平洋へも降下(1)

ヨーロッパ大陸へ気流で雲,

プルームにより移動,雨と遭 遇し降下.

放射性プルームが風で移流し 雨などで降下.大気放出 137Cs はチェルノブイリNPAの約 1/8(14).

大気経由で北太平洋に降下(1).  さらに放射性物質含む汚染水 が大量に海に放出された.

降下核種 95Nb, 239U, 90Sr, 137Cs, 131I, 

239, 240Pu, 3H.

103Ru, 132Te, 131I, 90Sr, 134Cs, 

137Cs. 1986.5.1の137Cs/134Cの 比は1.75(8).

131I, 134Cs, 137Cs, 132Te. 

137Cs/134Csの比は約1.0(15). 世界各地での*Csの検出 1963 〜 1965年 北 ヨ ー ロ ッ パ 

フェロー諸島のミルクで40  Bq/L.  カナダのシカ,トナカ イの肉に最大6,400 Bq/kg(3).

スウエーデンでは大気圏内核 実験由来の50 〜75倍(9). イ タ リ ア 玄 麦 試 料3%が200  Bq/kg以上(10).

チェルノブイリNPA後ヨー ロッパ各地でキノコに高い 

137Csが報告された(11)

ヨーロッパで検出.チェルノ ブイリNPAの数百分の1.  年 間被ばくは1 mSvよりはるか に低い(16, 17)

日本,つくばでの*Csの検出 1960年 秋 収 穫  千 葉  水 稲 葉 

(16 Bq/kg),  白 米0.9 Bq/kg 

(内20%が直接降下)(4).1963 北海道産粉ミルク 137Cs 11 〜 81 Bq/kg.  米国から輸入スキ ムミルク13 〜38 Bq/kg (5). 1963年玄麦平均44 Bq/kg,  白 米平均4, 最大約10 Bq/kg(6). 1964年水田作土最大116 Bq/

kg(6).

1966年 新 潟,宮 城 の 松 樹 皮 

(249 Bq/kg),  葉 (71),  落 葉 

(3,193), 土壌表層 (960)(7)

日本には最初1986.5.3降下,8

〜9日最高値(12).

コムギ,ホウレンソウで 131I と*Csをつくばで検出(13).  玄 麦 最大*Cs 2.4 Bq/kg, ホウレ ン ソ ウ 137Cs 4 〜 12 Bq/kg

(生)(6).  表層土壌 137Csはチェ ル ノ ブ イ リ 起 源 が7 Bq/kg

(生),134Csは3.5 Bq/kg(生). このとき核実験起源 137Csは 作土層に7 Bq/kg(生)(13). このころキノコの 137Cs(核実 験降下に起因)<3 〜 16,300  Bq/kg(乾)(11)

土 壌,水,野 菜,玄 麦,コ メ,水産物,牧草,畜産物,

茶,果樹,森林などで高濃度 に検出.

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

図1陸域生態系の放射性セシウム (*Cs による汚染

(3)

魚に摂食されたが,多くは懸濁物などの粒子に吸着さ れ,それらは粘土や有機物を含む底質に固定されてい き,底泥の小動物へも摂食された.

降下した

*

Csの一部は,植物葉から雨などで洗われる など,近距離の移動をするが,生態系有機物と結合した

*

Csは,その分解とともに,解離と再結合そして土壌へ の固定化を繰り返す.このように平常時に

*

Csは小さな 生態系ごとに保持され,広域で再移動することはない.

しかし風雨と洪水のとき,葉や枝,土壌懸濁物(粒状有 機物や溶存有機物)などが押し流され,懸濁物として河 川を移動し,湖に,農耕地に,より下流域へと流れ込 み,底泥へ沈着する.このように

*

Csの広域の拡散が生 じ,再分配される.

イギリスではチェルノブイリNPAによる魚,水,野 生植物の

*

Csは降下後の最初の5年は(生態的)半減期 が1 〜4年であるが,その後は生態系内で

*

Csが循環す るため半減期は6 〜 30年と物理的半減期に近くなっ た(18)

沿岸域―海洋生態系の

*

Cs汚染

福島NPAでは,原子炉のメルトダウンによって

*

Cs を含む放射性物質が汚染水として沿岸域に放出され,海 流とともに移動した(図

2

.海水中では *

Csイオンと してまた海水中の懸濁物への結合,しだいに底泥への吸 着が起こった.魚の生活圏に

*

Cs含有物が到達すると,

*

Csは,エラから水と一緒に取り込まれるのと並行して プランクトンや藻類を介した食物連鎖によって摂取され る.魚は摂取した

*

Csを,ナトリウムイオン (Na) の ように排出するシステムをもっている.川水の魚の体内 に滞在する

*

Csの半減期は約50日とされるが(19)

,海水

ではより長期保持される.さらに摂取源すなわち,エサ のベントスや海底土に

*

Csが含まれる間は見かけ上長く 魚体内に存在することとなる.

沿岸域の

*

Cs汚染は,汚染陸域から河川で有機物とと もに運ばれたり,底泥に堆積したものが,濁流で運ば れ,流れが遅くなった河口域や沿岸域に集積(沈降)す るケースもある.

植物の

*

Cs汚染

表1の

*

Csの降下では植物(特に作物や樹木)で

*

Cs が検出されている(図

3

. *

Cs含有のエアロゾルや粒子 

(hot particles) が降下し,野外の植物や土壌とそれを覆 う落葉やコケなどに付着する.雨はそれらの一部を土壌 へ洗い流すが,陽イオンの

*

Csは植物体内に移行した り,土壌では有機物の負電荷と結合,あるいは粘土粒子 に固定されていく.

チェルノブイリNPA放出の 131Iと

*

Csは数日後日本 のコムギやホウレンソウで検出された(13)

.2011年3月

の福島NPAでは,ホウレンソウなど多くの冬野菜で検 出された.福島NPAのとき,コムギはまだ出穂前で あったが,降下部から体内を移行した

*

Csが出穂したコ ムギで検出されることとなる.5月6月に注目されたの は福島から遠くはなれた埼玉,神奈川,静岡の茶樹の新 芽での

*

Csの検出であり,さらに秋にはモモ,クリ,カ

*Cs *Cs

*Cs

*Cs

図2沿岸域・海洋生態系の放射性セシウム (*Cs による汚染

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

図3植物の放射性セシウム (*Cs による汚染:植物吸収と可 食部への移行

(4)

キなどの果物で検出されたことである.

上に述べたコムギ,茶,果樹では葉,枝,樹皮から体 内に侵入した

*

Csが水や有機物とともに移動,おそらく 篩管を通じて可食部の穀実,新芽,果実に移行したもの と推定される.すなわち植物では,動物で見られる摂取 した

*

Csが体内を循環そして排出される(項目7を参 照)のではなく,新組織や新器官が形成されるとき再移 行する(20)

植物が

*

Csを吸収するもう一つのルートは土壌溶液に ある

*

Csイオン (

*

Cs) の根による吸収である.土壌腐 植や落葉の有機物負電荷に

*

Csイオンは結合している.

また土壌の粘土粒子にも

*

Csイオンが固定されている.

これらの有機物に結合した

*

Csや土壌粒子に固定された

*

Csはアンモニウムイオン (NH4) によって放出され土 壌溶液で

*

Csイオンとなる.土壌溶液の

*

Csイオンは,

おそらく植物の必須多量栄養元素カリウムの吸収トラン スポータで根細胞内に取り込まれる.この

*

Csイオンの 吸収時,多量のカリウムイオン (K) が共存すると,

*

Csイオンの吸収が阻害される.すなわちカリウムイオ ンが十分でない土壌にカリウムを含有するカリ肥料や堆 肥を施用し,カリウムイオン濃度を高くすれば,

*

Csイ オンの吸収を抑制することができる.

土壌の高分子有機物(腐植物質)や落葉など植物遺体 の有機物と結合した

*

Csは土壌の粘土粒子に固定された

*

Csに比べればはるかに解離しやすく,水に溶け,植物 に吸収されやすい(21)

.チェルノブイリNPAで放出され

*

Csが北ヨーロッパの草地に降下した場合,ミネラル 質土壌よりも泥炭など有機質土壌において植物への吸収 率は高いことがよく知られている(22)

*

Csを含む土壌から植物器官への

*

Csの移行,あるい は可食部への集積の度合いを移行率 (transfer factor ;   TF) と言い下記の式で求める.

移行率(TF)=  可食部に含まれる*Csの含有率(Bq/kg)  

  土壌に含まれる*Csの含有率 (Bq/kg)

土壌と可食部の重量 (kg) を乾燥重で示すことが多い が,生態学的には現物重のほうが考えやすい.上の式か らわかるように土壌

*

Csの植物への吸収されやすさは土 壌の性質(たとえば有機質土壌か粘土質土壌か)

,水分,

pH(

*

Csはアルカリ性では塩に酸性ではイオン化され やすい)などで変わってくる.また選択する可食部も野 菜などの葉や茎か,コメ,ムギなどの穀実か,トマト,

リンゴなどの果実かなどで 

*

Csの集積ルートが違うし,

さらに植物種によって 

*

Csを吸収する根の形態が違

(23) ため

*

Cs移行率が違ってくる.一般的には粘土を 多く含む土壌でのTFは0.0005 〜 0.02と有機質土壌の 0.003 〜 1より低く(24)

,また導管を主な集積経路とする

茎葉は,篩管を移行経路とする果実,穀実より高い.

*

Cs汚染土壌の植物による浄化,すなわち植物による 吸収によって土壌に含まれる

*

Csを抽出する「ファイト エクストラクション」の提案がある.これまでヒマワ リ,ナタネ,ソルガムなどの栽培による抽出が検討され たが,その効果,効率は低い.また土壌から植物への

*

Csの移行により

*

Csを含むバイオマスが増大するの で,汚染植物量の減容やバイオマスの燃焼(エネルギー の回収)と

*

Csの回収などを,並行的に進める技術の本 格的整備が必要となる.

土壌表層に蓄積した

*

Csの下層への移行は年に数mm であるが(25)

,汚染した表層土壌を放射能( γ

線)の遮蔽 効果のある土壌の内部に隔離することによって,効果的 に放射能の空間線量を低下させることができる.この下 層土壌への埋設によって,植物による

*

Csの吸収が抑制 されるか否かは,

*

Csがどれほど土壌粒子に固定される か,あるいは

*

Csを植物根による吸収の場面からどれほ ど隔離できるかによる.

コメへの

*

Csの移行

福島NPAは3月半ばに起こり,水稲の植え付け前の 水田に

*

Csが降下した.水稲の栽培を開始する以前に,

*

Cs汚染した農地から,どれほどの

*

Csが水稲に吸収さ れ,コメに集積するか,大きな問題となった.耕す前の 水田には稲株があり,雑草がそして土壌があった.耕し て水を張った水田に水稲を移植した場合,耕うんした土 壌中の

*

Csが水稲の根で吸収され,葉や茎に蓄積する.

コメの生産時期には,土壌の

*

Csは根から導管さらに節 などで篩管に移動し,さらに葉や茎に蓄積されていた

*

Csは篩管による再移動によって,コメに

*

Csが集積す ることとなる(20)

農業環境技術研究所の長年の調査をベースに1年目の コメへの土壌

*

Csの移行率 (TF) は0.1以下と推定され,

コメ

*

Csを暫定規制値500 Bq/kg以下にするには,土壌 の

*

Cs濃度を5,000 Bq/kg以下とするとの指針が示され た.2011年産のコメでは,大部分の水田でこのルール が成立した.しかし数十カ所の山間の水田では見かけ上 このルールが成立せず,500 Bq/kgを超えるコメが報告 された.現場での調査によれば平地の水稲による

*

Csの 吸収は栽培の前半に生じるのに対し,過剰の

*

Cs吸収は 栽培の後半の初夏から盛夏にかけて生じた(26)

.ここで

(5)

見られた栽培後半における水稲根による

*

Cs吸収は,山 間の生態系にある土壌のカリウム含有率が低い条件で起 こった.根本(27)  は土壌以外の

*

Cs源として,

*

Csを吸 着した懸濁物が灌漑水に含まれ流入したと想定してい る.山間の環境

*

Csが濁水で河川や池に流れ込み,水田 には

*

Csが懸濁物に吸着して持ち込まれ,その時期に発 達した上根で吸収されたと考えることができる(図

4

今後の検証が待たれる.

茶,果樹,森林と落葉や腐植物質の

*

Cs汚染 福島NPAで発生した

*

Csは越冬葉をもつ茶樹の葉や 枝,萌芽中の多くの果樹の樹体と下草さらに根群層,そ して森林の樹体と落葉や腐植物質に降下した(図

5

*

Csイオンやそれを含有するパーティクルは沈着サイト にとどまり,その一部は葉や樹体内に侵入,体内水で拡 散したり,通導組織で移動することになった.緑茶の新 葉にも

*

Csの集積が見られる.新芽の

*

Cs濃度を低下さ せるには,葉や枝を刈り込み,

*

Csが沈着した部位を除 き体内循環を断ち切るなどの対策がとられた.茶樹の土 壌からの

*

Cs吸収率はほかの植物のように極めて低い.

果樹の樹皮に沈着した

*

Csはその一部が雨などで除か れるが,樹体内に侵入した

*

Csは,秋の果実に現れた.

果樹木部に貯蔵された

*

Csは次年の果実にも移行しう る.

森林では,葉,枝や幹の樹体,下草,コケやシダそし て落葉や腐植質に

*

Csが沈着した.土壌にもゆっくりと 移動している.生きた樹体の根(菌根型のマツタケ,ト リュフ,エノキダケなど)や腐植質(シイタケ,ナメ コ,ヒラタケなど)に菌糸で着生するキノコには,樹体

の根や腐植質の

*

Cs  が菌糸によって吸収され,特異的 に高い

*

Cs濃度となることが見られる.チェルノブイリ NPA以降,人々が摂取した食物に由来する

*

Csの約30

〜 50%がキノコに由来するとされる(28)

.また *

Csで汚 染した林木でキノコ(シイタケなど)を栽培すれば,動 きやすい

*

Csがキノコに集積する.

森林で生息する大動物のイノシシ,シカ,鳥,小動物 の昆虫やミミズでも,汚染された餌や食物連鎖で

*

Csが 集積される.

食の連鎖:畜産物の

*

Cs

ヒトによる畜産物の摂取は食物連鎖による

*

Csの重要 な流れである(図

6

チェルノブイリNPAにおいて も,福島NPAでも,牧草や水経由の 131Iがミルクで検 出され,つづいて

*

Csが汚染牧草や飼料として家畜に摂 取され,ミルクや肉で検出された.チェルノブイリ NPAからの

*

Csで汚染されたヨーロッパ各国で,草地 に放牧されたウシ,ヒツジ,ヤギ,野生のシカやイノシ シなどの動物の体内に

*

Csが吸収された(3)

.草食性の動

物が

*

Csで汚染された草やサイレージ(これらには

*

Cs 含有土壌粒子,有機物が混入)を食べると,消化される

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

図4放射性セシウム (*Cs で汚染されている山間で栽培され た水稲への*Csの吸収

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs

*Cs *Cs

*Cs

*Cs

図5放射性セシウム (*Cs で汚染された果樹園・茶園・森林

での*Csの移行

(6)

途中で放出された

*

Csイオンのほとんどを腸で吸収す る.非必須の元素でありながらCsの吸収率 (bioavail- ability) は混入土壌粒子からの数%から,食物からの 80%以上と高い効率である(29)

.参考までに同じく非必

須元素のカドミウム (Cd) の食物からのヒトによる吸収 率は5 〜7%である.

十二指腸などで吸収された

*

Csイオンは血液で体内を 循環,ミルクに,筋肉や腎臓,さらには量的には少ない が皮膚などの組織,鳥では卵に集積する.筋肉や臓器な ど体内に蓄積したものは,組織成分の代謝回転や血液の 流れに伴って放出され,尿で排出される.取り込み初期 の半減期はミルクで1 〜 3日,肉で20 〜 40日,卵で2

〜 5日であった(30)

.一方,胃で消化されず未消化食物

に残留した

*

Csはフンとして排出される.尿とフンは草 地に還元され草地生態系の内部で

*

Csは循環する.

畜舎の家畜のように,フンや尿が堆肥として回収され るとその

*

Cs含有率は高くなる.制限値を超える

*

Cs

(有機物と結合)を含む堆肥は圃場に施用されると植物 に吸収されるか,土壌の粘土粒子に固定されるか,水で 系外に放出される.

畜産物への

*

Cs汚染を防ぐには,

*

Cs源となる飼料特 に草の

*

Cs濃度を低下させる以外すべはない.予想でき なかったのが,2011年福島の牛舎で生じた降下

*

Csで 汚染した稲ワラの餌与であった.

*

Cs汚染の少ない単年 性の草は最初の降下

*

Csによる汚染を廃棄し,周辺の枯 れ草や高汚染の土壌粒子の混入を防げばよいが,永年性 の草は降下した

*

Csが草全体やルートマット層に集積さ

れ,それが再生草(二番草)に移行するため

*

Csをすば やく低減するのは難しい.

生態系

*

Csの線源放射能(ベクレル;Bq)と空間 線量(シーベルト;Sv

山間の村の農地(図

7

)で,降下した

*

Csを最も高濃 度で含む表層土壌を除去した効果を確認すると,土壌の 放射能 (Bq) は80%以上も除去できているのに空間線量 計 (dosimeter) による空間線量 (Sv) は20%程度しか 低下していない場合に出会った.土壌

*

Csに由来する

γ

線は低下しているのに,土壌以外の

γ

線の線源が周辺に あることを示している.乗用機械による土壌

*

Csの除染 にかかわった技術者の意見として,かなりの放射線は機 械下の土壌からでなく横方向から,もしかすると森林や 起伏のある農地のあぜや草の

*

Csから来ていると推定さ れた.森では立体的に

*

Csが多く降下し,付着してい る.しかもこの多量の

*

Csからの 

γ

 線は,途中,その透 過を妨げるものが少なければ,長距離まで到達する.一 方多量の

*

Csを含む表層土壌は下層に埋め込めば,そこ から発する 

γ

 線は遮蔽できる.

*

Csが放出する放射線は短波長の多種のエネルギーを もつ光子からなる 

γ

 線である.光子は電荷をもたないが 強いエネルギーをもち,物質と相互作用を起こす.生物 体のDNAなど有機化合物の原子間結合を大きなエネル ギーで切断し,異常なDNAなどを生ずる.細胞分裂し ている器官・組織でこの異常なDNAを修復できないこ とが重なれば,将来腫瘍などに至る.

γ

 線は到達性が高 図6放射性セシウム (*Cs で汚染 した草を摂取した家畜の体内でのミ ルク,肉,臓器への*Csの移行,蓄 積そして排出

*Cs *Cs

*Cs

*Cs *Cs

(7)

く,物質透過力が強い.この

γ

線を遮蔽し,そのエネル ギーを吸収するには厚い鉛や鉄が必要である.生態系で の遮蔽体は土壌と水であり,30 〜 50 cmの厚さで 

γ

 線 は約10分の1に減衰する(31)

.またコンクリートの容器

も遮蔽体である.

生態系システムに沈着した

*

Csが放出する 

γ

 線が,あ る場所における空間線量にどのように影響しているか,

あるいは線源の

*

Csからの 

γ

 線がどのように生態系で減 衰するかは,現在情報が少ないように思う.図7に示し たように,ヒトの内部被ばくを起こす食物や水の

*

Csの 放射能については十分な注意が払われているが,生活空 間の外部被ばくの状況については,多様な線源からの

γ

線などの放射能の到達や減衰の条件と空間線量との関係 について定量的に評価されることが必要である.このよ うにある場所の生態的な放射線源を特定することは,空 間線量を下げるための効果的除染や,

*

Csの効果的な隔 離による安全 (safety) や安心 (reassurance) を図るた めに検討が重要になると思う.

除染:個別技術と本格技術

*

Csで汚染した各種の生態系では,最初降下した

*

Cs は物理的減衰以外,放射能 (Bq) の絶対量を失うことは なく,生態系での拡散と集積(濃縮)といった物質循環 のルールに従った動的な状態にある.

ヒトの生活空間と活動域に

*

Csが降下したところで は,その空間線量を下げるため除染が行われ,それで発

生した

*

Cs含有の土,植物,資材を集めて仮置き場に溜 められる.農耕地に降下した

*

Csが栽培作物に移行しな いようにするため,

*

Csで汚染した土壌表層を除去した り,雑草や

*

Cs濃度が過剰なものを集め貯留されている が,放射線は出続けている.また作物への多量の

*

Csの 集積が懸念される地域で,ソルガム,菜の花,ヒマワリ で土壌の

*

Csを抽出(ファイトエクストラクション)さ せた場合,

*

Csを含む植物バイオマスが残留される.こ のように現在行われている除染は生態系内での

*

Csの

「移動」となっており,ヒトへの影響を縮小する「隔離」

には必ずしも至っていない.

本格的な

*

Csの「隔離」のためのストーリー性のある 技術を模索しなければならない.同時に現在生態的に

「隔離」された放射能が「移動」しないようにすること も必要である.人里から離れ,放射線の到達の少ないと ころの森林では,そこから

*

Csが動かないように,また 森林生産物の

*

Csがヒトの生活にインパクトをもたない ような技術にも配慮されねばならないであろう.

おわりに:3つの公害

筆者は1968年度卒論で「降下物放射性ヨウ素 131Iの 植物葉への吸着と植物体内での移行」をテーマとした.

1977年国立公害研究所(現 国立環境研究所)に入所し

「大気汚染物質の植物影響」を研究課題とした.今日ま での50年近くの間に,食物の生産現場では,(1) 1960 年代からはコメのカドミウム (Cd) 汚染,栄養塩類(窒 素とリン酸)の環境負荷,さらに農薬の残留の問題が発 生,(2) 1970年代からは大気や水の汚染,(3) 今回の放 射性物質による汚染が生じた.いずれも工業生産技術の 発展に伴う生態系への負荷であり,自然生態系で 生き ている人 への脅威となっており, 公害 と言える.

公害は元を断たねば回復できない.回復手法を誤ると二 次汚染を引き起こす.

東電の事故後のシンポジウムにきたデンマークの女性 研究者が話した「日本人の生活は自然に接近しておりそ の強い影響と恩恵下にある.しかし日本の科学者はそう した自然や生態系の仕組みについて無頓着ではないだろ うか」を思い起こす.本稿の放射生態学(ラジオエコロ ジー)がヒトの生存と自然,生態系との関係を考える基 礎になれば幸いである.内容についての責任は筆者にあ り,ご意見,ご指摘をいただき,よりラジオエコロジー が展開し,社会的貢献につながることを望んでいる.本 稿で用いた図は筆者の原案をもとに村上敏文博士が描い たものであり,深謝する.

外部被曝 内部 被曝

図7山間生態系での放射性セシウム (*Cs の線源放射能 

Bq と空間線量 Sv

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文献

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プロフィル

米山 忠克(Tadakatsu YONEYAMA)  

<略歴>1969年東京大学農学部農芸化学 科卒業/東京大学農学系大学院博士課程

(農学博士),国立公害研究所,農業技術研 究所,農業生物資源研究所,農業研究セン ター,筑波大学,東京大学を経て2009年 東京大学名誉教授/2010年から農業・食 品産業技術総合研究機構副理事長/2013 年日本農学賞・読売農学賞<研究テーマと 抱負>2009年大学退職後,未発表の研究 を年に2 〜3報論文化してきた.これから は長年,目,耳,足で蓄えた知見をベース に,年に1テーマを論説化したい.本稿は そのはじまり<趣味>オリジナルなテーマ や課題を設定し,時間をかけて解と展望を 見いだすこと.そのために現場へ足を運 び,自ら実験を設計し,関連資料を集め,

ストーリーをつくる

Referensi

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