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日本における租税教育の特徴と課題 ―学習指導要領の分析を中心に―

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1.はじめに

 租税教育は,「次代を担う児童・生徒等が,民主主義 の根幹である租税の意義や役割を正しく理解し,社会 の構成員として税金を納め,その使い道に関心を持ち,

さらには納税者として社会や国の在り方を主体的に考 えるという自覚を育てることを目的」としている1)。  租税教育については,1958年以降,全国で,国税庁

(国税局,税務署),地方税関係者及び教育関係者によ り,都道府県及び市区町村単位の租税教育推進協議会

(地方租推協)が立ち上げられ,租税教育の補助教材 の作成や,租税教室への講師派遣等の活動を中心とし て活動している2)

 平成23年度税制改正大綱(2010年12月16日閣議決 定)において,「租税教育の充実」について初めて閣 議決定され,官民及び関係省庁が連携して租税教育の 充実に取り組むこととされた。これを受けて,国税庁,

総務省及び文部科学省(以下,「関係3省庁」)が協議 を行い,2011年11月16日に「租税教育推進関係省庁等 協議会(以下「中央租推協」)」を発足させ,関係3省 庁が協力して租税教育の充実に向けて継続的に取り組 んでいくこととされた。

 このような流れから,租税教育に関しては国税庁の HPの中で様々な資料が提供されている3)。また,こ の他にも作文コンクールなど各種の啓発活動が行われ ている。

 しかしながら,課題も少なくない。それは租税教育 が必ずしも十分に認知されていないことである。学校 教育においては,文部科学省が定める学習指導要領と,

それに基づいて作成される教科書による教育が中心と なる。一方,それ以外にも,様々な「教育」が学校に おいて行われることが求められている。例えば,平成

29年版学習指導要領解説(中学校・社会編)では中学 校社会科で,次のような教育を行うことを求めている。

・海洋に関する教育   ・金融に関する教育

・社会保障に関する教育 ・主権者教育

・消費者教育      ・臓器移植に関する教育

・租税に関する教育   ・地理に関する教育

・農業に関する教育   ・ハンセン病に関する教育

・法に関する教育    ・放射線に関する教育

・マイナンバーに関する教育 ・薬害に関する教育

・拉致問題に関する教育 ・領土に関する教育

・ワークルールに関する教育

 この他にも,防災教育や安全教育,食育,環境教育 など,様々な「教育」が求められている。租税教育も その一つである。このような状況は他の教科において も同様で,教科書以外にも期待されている教育内容は 非常に多く,各学校においてはこれらの内容が十分に 取り上げられないような状態になっている。

 この結果,学習指導要領・教科書に掲載されていな い内容に関しては,「教育」が求められながらも,十 分な学習がなされないケースが多い。

2.租税教育に関する先行研究

 今回取り上げる租税に関しては中学校社会科及び高 校公民科で学習内容に取り上げられているため,その 学習が核になることが多いが,その先行研究は必ずし も多くはない。

 社会科における税教育に関しては,まず,山根

(2014)によるカリキュラムの検討があげられる。山 根は国の累積債務が1000兆円を超える時代には税教育

日本における租税教育の特徴と課題

―学習指導要領の分析を中心に―

* 人間発達文化学類

 本研究では学習指導要領の記述の分析を中心に租税教育の特徴について検討を加えた。

 中学校社会科公民的分野における租税教育の課題としては,租税教育が経済分野に位置づけられ ていることがある。この結果,租税は財政を構成する要素としての位置づけが強くなり,民主主義 社会の根幹としての租税に関する視点が弱くなっている。高等学校では平成30年版学習指導要領よ り公共が必修化された。ただし,その内容は現代社会から大きく変化しておらず,中学校の租税教 育との質的な差が不明瞭である。また,公共が必修化されたにもかかわらず政治・経済にも類似す る内容が残るなど,科目間の内容の整理もついていないなどの課題もある。

〔キーワード〕租税教育   学習指導要領   中学校   高等学校

初 澤 敏 生

(2)

はどうあるべきかを考え,その視点から中学校社会科 公民的分野における税教育の理論とカリキュラムに関 して考察を加えた4)。山根の授業は,通常1時間程度 しか実践されない租税に関して11時間を割いて体系化 を進める意欲的な教育体系を提案している。しかし,

多くの学校ではこのような実践は困難であろう。

 また,中村(2018)は租税教育にゲーミフィケーショ ンを持ち込んでいる5)。租税に関する授業は,税の種 類や特徴など,細かい知識の教授が必要になることか ら教師による講義中心の授業になる傾向が強い。しか し,それでは生徒の関心を呼ぶことができないため,

ゲーミフィケーションの手法を用いた授業を考案した ものである。また,この授業では人生の中でどのよう な税金を納めるのかを学ぶだけでなく,確定申告の模 擬体験を通して累進課税を体験するなどの活動も行っ ている。生徒はこのような活動を通して税金にいろい ろな種類があることを知るとともに,税制のあり方に ついても学びを深めた。その一方で,納税の義務の大 切さなどについての学習は手薄となった。また,税を 財政と結びつけて,その使用について考えることも十 分とは言えない点が残念である。

 このような税教育とは違った視点から租税を取り上 げたものとしては佐藤・真島(2017)がある6)。授業 実践者である佐藤はこれまでの社会科の租税に関する 教育には「なぜ国民が租税を負担するのか」といった

「租税の本質」に関わる内容が欠落していたことを問 題視している。そこで,本実践では市民革命によって 租税負担に対する人々の意識が変化したことに着目 し,主体的な社会参画に必要な資質・能力を高めるこ とを目的とした。この実践では,イギリス革命,アメ リカ独立革命,フランス革命のいずれもが戦争によっ て財政難になった国王が市民に対して新たな課税を要 求したことが発端になっていることを捉えた上で,市 民革命後の議会政治の時代になると市民の代表が政治 を行うことになり,租税に対する市民のイメージが大 きく変化したことを示した。この学習により,生徒の 租税に対する肯定感が高まったことに加え,租税の使 途に関する関心も高まり,主権者意識が形成されてい ることが認められる。

 筆者は,この研究は非常に重要な指摘をしていると 考える。先に国税庁が示す租税教育の目的を示したが,

その中に「民主主義の根幹である租税」という説明が ある。なぜ「租税」が「民主主義の根幹」であるのだ ろうか。佐藤・真島(2017)は,市民の声が全く反映 されない王政時代の租税と,市民革命によって成立し た議会によって政治が行われる社会での租税とは性格 が大きく異なり,自分たちの代表が創ろうとする国の 運営のために行う負担が租税であるとの認識を形成し ている。この視点から言えば,租税教育は財政や政治 と深い結びつきを持っており,それらと深く結びつけ

ながら教育を行わなければならないことがわかる。そ れが「民主主義の根幹としての租税教育」である。

 金子(2015)は,高校世界史の授業において,これ と類似するアプローチを取っている7)。実践者は,租 税教育を行うには公民科だけでは十分な授業時間を確 保することができないという問題意識の下,世界史A の授業において「租税と財産権」に関する発問を継続 的に発信し続けることによって,高校生の租税に関す る学びの変化を捉えた。この実践を行った結果,これ まで抽象的にしか捉えられていなかった「租税」が,

具体的に捉えられるようになり,生徒の税に関する捉 え方が多様化した。また,税金に対する否定的なイメー ジを持つ生徒の割合が減少した。本研究は世界史など 公民以外の教科においても租税教育を行うことが可能 であることを示した。

 この研究は,世界史の中で税を考えることにより,

税が歴史の中でどのように捉えられてきたのか,その 変化を把握でき,具体的な理解が促進されたことが成 果であると捉えられる。先の佐藤・真島が歴史の中の 一場面を切り取った実践であったのに対し,金子は世 界史の授業全体の中で租税を取り上げることによって 税をより具体的にとらえることに成功した。中村が指 摘するように,租税教育は知識教育に陥りがちである が,それでは十分な効果があげられない。金子の実践 のような工夫が必要であろう。

 この他,大学での租税教育の実践報告もある。これ は日本税理士連合会が各大学で寄付講座を展開してい るためである。このような実践報告としては,小金澤

(2018)8),佐々木(2018)9)などがある。

 この他の租税教育に関する研究としては,教科書の 記述を納税に関する理論的側面から分析した分析した 真島(2016)10),租税教育を財政学の中で位置づけた 玉岡(2017)11)があげられる程度である。

 租税教育は,前述のように扱いは小さいものの,学 習指導要領及び教科書の中に位置づけられている。に もかかわらず,なぜこのように先行研究が少ないので あろうか。

 その可能性の一つとして,前述のような国税庁が期 待する租税教育と,社会科・公民科の教育体系とが十 分に結びつき合っていないことが指摘できる。以下で は,これを検証するために中学校及び高等学校におけ る租税教育に関する学習指導要領の記述内容を検討す ることにしたい。

3.中学校社会科学習指導要領における 租税教育に関する記述

 租税教育に関する学習は中学校社会科が中心となっ ている。そこでまず中学校社会科の学習指導要領にお ける租税に関する記述の推移から,その特徴を検討す ることにしたい。

(3)

 社会科は戦後新しく作られた教科であり,当初,そ の内容は十分に固まっていなかった。社会科がほぼ現 在の姿になるのは昭和30年代のことであり,昭和33年 版学習指導要領には租税に関する記述が登場する。こ れは国税庁が租税教育に着手するのと同年であり,両 者の関連性がうかがわれる。

 その内容は「予算,租税,公債などの学習を通して,

国や地方の財政と国民経済との関係を理解させる」と あり,租税は財政を形作るものとしてとらえられてい る。このため,租税に関する教育は「経済分野」に位 置づけられることになり,「経済教育」の一部として 行われることになった。前述のように租税教育は単な る経済教育ではなく,政治教育とも結びついて行われ る必要がある。しかし,既存の実践においては経済教 育に限定したものが少なくない。その原因は,このよ うな学習指導要領上の位置づけにあると考えられる。

これは現在まで継続している。

 昭和44年版学習指導要領の記述は基本的に33年版を 引き継ぐが,「その際,財政における租税の役割を認 識させ,納税の義務と納税者の権利についての理解を 深める」とあり,納税の義務と権利に関する内容が附 加されている。租税を単に予算を構成するものとして とらえるのではなく,納税者によって納められるもの であり,国民には納税の義務と権利があることを示し ている。ただし,33年版と同様,納税を民主主義と結 びつけながらとらえてはいない。

 昭和52年版では44年版の内容を引き継ぎつつ,「貯 蓄,保険,租税などの意義」が加えられる。租税が貯 蓄・保険などと同列に扱われることには違和感がある が,これは,ウにも示されているように租税が福祉な どに用いられていることと結びつけられたためであ る。これは租税が我々の生活に大きな役割を果たして いることを,生活に密接な内容を事例として取り上げ ることによって示したものであろう。この構成は平成 元年版まで継続する。

 平成元年版指導要領においては,租税に関する記述 そのものは昭和52年版とほぼ同じである。ただし,説 明の分量は非常に多くなり,特に国民生活や福祉の向 資料2 昭和44年版学習指導要領の記述

公民的分野 ⑶ 経済生活 ウ 財政の役割  予算,租税,公債などの学習を通して,財政 本来の役割を明らかにするとともに,経済の発 達に伴う社会政策的役割や国民経済の調整の役 割などについても理解させ,財政のあり方が,国 民経済にとって重要なはたらきをしていること を認識させる。また,上記のア(家計と企業),

イ(価格と金融)の内容とも関連させて,今日 の資本主義経済の特色を理解させる。その際,財 政における租税の役割を認識させ,納税の義務 と納税者の権利についての理解を深める。

資料1 昭和33年版学習指導要領の記述 第3学年 ⑶ 産業・経済の構造と機能

 「財政と家計」については,家計の収支,貯蓄 と投資などについて学習させて,家計が生産と 結びついていることを理解させる。また,予算,

租税,公債などの学習を通して,国や地方の財 政と国民経済との関係を理解させる。(下線は引 用者。以下同じ。)

資料3 昭和52年版学習指導要領の記述 公民的分野 ⑵ 国民生活の向上と経済 ア 消費生活と経済の仕組み

 価格のはたらきや物価の動きを理解させると ともに,貯蓄,保険,租税などの意義に着目させ,

経済活動のあらましについて消費生活を中心に 理解させる。

ウ 国民生活と福祉

 国民生活にとって財政収支が重要な意味を もっていることを理解させるとともに,租税の 役割と納税の義務についての理解を深めさせる。

資料4 平成元年版学習指導要領の記述 公民的分野 ⑵ 国民生活の向上と経済 ア 生活と経済

・身近な消費生活を中心に経済活動の意義とあ らましを理解させる。その際,価格の働きや物 価の動き,貯蓄,保険,租税などを取り上げる とともに,現代の生産の仕組みと関連させて社 会における企業の役割について理解させる。ま た,社会生活における職業の意義と役割を考え させるとともに,勤労の権利と義務,労働組合の 意義及び労働基準法の精神について理解させる。

イ 国民生活と福祉

・国民生活の向上や福祉の増大を図るためには,

雇用と労働条件の改善,消費者の保護,社会保 障の充実,社会資本の整備,公害の防止など環 境の保全,資源やエネルギーの有効な開発・利 用などが必要であることを理解させる。その際,

個人や企業などの社会的責任について考えさせ る。また,これらに関し国や地方公共団体が果 たしている役割を取り上げ,財政収支が国民生 活にとって重要な意味をもっていることを理解 させるとともに,租税の意義と役割及び国民の 納税の義務についての理解を深める。

(4)

上には国や自治体の果たす役割が大きいこと示され,

それが租税と結びつけられている。昭和52年版の記述 が深められていると言えよう。

 平成10年版以降は租税を扱う単元は一つにまとめら れる。単元名は「国民生活と福祉」で,租税が福祉と 密接に結びついていることが示されている。しかし,

ここでは新たに「限られた財源の配分」と言う視点か ら財政を考えることが付け加えられ,財政状況が悪化 する中で無条件に福祉を拡大させていくことができな いことも示されている。

 さらに平成20年版では「国民の生活と政府の役割」

と言う単元に変わり,市場に役割に委ねることが難し い問題に関して国や地方公共団体が役割を果たし,そ のために租税が大きな役割を果たしていることを,納 税の義務と重ね併せながら示している。この部分は平 成10年版の記述をさらに深めていると言える。また,

その前段では市場の動きに委ねることが難しい諸問題 が存在すること,それに対処するには国や地方自治体 が重要な役割を果たすことが示されている。

 このようにしてみると,中学校社会科公民的分野に おける租税教育は,まず租税が財政を構成すると言う ことから始まり,そこから納税の義務と権利に拡大,

さらに福祉面から納税の意義をとらえ,財源からの制

約について考えるように拡大してきたとまとめられ る。

 最後に現行の平成29年版について検討する。

 現行の平成29年学習指導要領については,学習指導 要領解説の記述も含め,やや詳しく取り上げることに したい。これは,学習指導要領等の分量自体がこれま でに比べて増加したためでもある。

 29年版の指導要領解説では,「「財政及び租税の役割」

については,財源の確保と配分という観点から,財政 の現状や少子高齢社会など現代社会の特色を踏まえて 財政の持続可能性と関連付けて考察し,表現させるこ と」とされ,財政のための財源確保の視点が強化され ている。一方で,近年は福祉面からの記述内容が減少 する傾向が認められる。これは財政問題の深刻化の表 れとも考えられる。

 この中項目では,国民の生活と福祉の向上を図るこ とに対して,なぜ全ての経済活動を市場の働きだけに 任せておくことができないのか,国や地方公共団体は どのような役割を果たしているのか,財政及び租税の 役割はどのようなことなのか,といった市場の働きに 委ねることが難しい諸問題などに関する理解を基に考 察し,表現することができる適切な問いを設け,それ らの課題を追究したり解決したりする活動を通して,

国民の生活と政府の役割について関心を高め,課題を 意欲的に追究する態度を育成することを主なねらいと している。ここでは,具体的な事例を通して市場メカ ニズムだけでは解決できない課題があること,そして そこでは国や自治体の活動が必要になり,租税がそれ を支えていることが示されている。

 また,「財政及び租税の意義,国民の納税の義務」

資料5 平成10年版学習指導要領の記述 公民的分野 ⑵ 国民生活と経済

イ 国民生活と福祉

・国民生活と福祉の向上を図るために,国や地 方公共団体が果たしている経済的な役割につい て考えさせる。その際,社会資本の整備,公害 の防止など環境の保全,社会保障の充実,消費 者の保護,租税の意義と役割及び国民の納税の 義務について理解させるとともに,限られた財 源の配分という観点から財政について考えさせ る。

資料6 平成20年版学習指導要領の記述 公民的分野 ⑵ 私たちと経済

イ 国民の生活と政府の役割

 国民の生活と福祉の向上を図るために,社会 資本の整備,公害の防止など環境の保全,社会 保障の充実,消費者の保護など,市場の働きに ゆだねることが難しい諸問題に関して,国や地 方公共団体が果たしている役割について考えさ せる。また,財源の確保と配分という観点から 財政の役割について考えさせる。その際,租税 の意義と役割について考えさせるとともに,国 民の納税の義務について理解させる。

資料7 平成29年版学習指導要領の記述 B私たちと経済

 ⑵ 国民の生活と政府の役割

ア 次のような知識を身に付けること。

(ア)社会資本の整備,公害の防止など環境の保 全,少子高齢社会における社会保障の充実・安 定化,消費者の保護について,それらの意義を 理解すること。

(イ)財政及び租税の意義,国民の納税の義務に ついて理解すること。

イ 国民の生活と福祉の向上を図ることに向け て,次のような思考力,判断力,表現力等を身 に付けること。

(ア)市場の働きに委ねることが難しい諸問題に 関して,国や地方公共団体が果たす役割につい て多面的・多角的に考察,構想し,表現すること。

(イ)財政及び租税の役割について多面的・多角 的に考察し,表現すること。

(5)

についての解説では,「財政が社会資本の整備や外交,

防衛などの公共財の提供などによって,現在世代のみ ならず将来世代をも含め,持続可能な社会の形成に資 することも念頭に,人々の生活を保障する国民福祉の 観点に立って行われるべきものであること」としてお り,国民福祉が単に個人に対する福祉だけではなく,

社会資本の整備や外交・防衛なども含む持続可能な社 会を形成するためのものであることが示されている。

国民福祉が非常に広い範囲のものを含んでいることに 留意することが必要である。

 そして,このために国民が納税の義務を果たすこと が大切であると指摘した上で,「平和で民主的な国家 及び社会の形成者として必要な公民としての資質・能 力を備えた国民の育成という観点から,税の負担者と して租税の使いみちや配分の在り方を選択・判断する 責任がある」ことが示されている。この記述は先に指 摘した民主主義社会の根幹としての租税としての概念 を示しているが,文章の流れから見ると持続可能な社 会を維持するための経費が事前に与件として示されて おり,あまり大きな自由度は感じられない。「経済教育」

としての租税教育の限界であろうか。

 また,イの(イ)については「財源の確保と配分と いう観点から,財政の現状や少子高齢社会など現代社 会の特色を踏まえて財政の持続可能性と関連付けて考 察し,表現させること」(内容の取扱い)としており,

財政の健全化を進めることが求められている。財源

(租税+公債等)は有限であり,それをどのように配 分するかを考えなければならない。これにあたっては

「国民や住民が受ける様々な公共サービスによる便益 と,それにかかる費用に対する負担など財政の持続可 能性に関わる概念などと関連付けて」考察すること,

すなわち投資対効果の視点から検討することが求めら れている。

 しかしながら,福祉は投資対効果に基づいて分析で きるものばかりではない。「基本的人権としての福祉」

と言う視点が必要であるが,学習指導要領のこの部分 の記述だけでは,十分にとらえられない。取り扱いに 注意が必要であろう。

 以上,中学校社会科公民的分野における租税教育に 関する学習指導要領の記述の変化を捉えた。経済分野 に位置づけられていることから,租税は財政を構成す る要素としての位置づけが強くなり,民主主義社会の 根幹としての租税に関する視点が弱くなっている。こ れは国民福祉に関する捉え方にも影響を与えている。

政治教育の中で租税教育をとらえ直してゆくという視 点も必要であろう。

4.高等学校公民科学習指導要領におけ る租税教育に関する記述

 次に,高等学校公民科における租税教育に関する記

述を検討することにしたい。中学校社会科が昭和30年 代から租税に関して取り上げていたのに対し,高等学 校社会科では租税に関する学習は指導要領の中で取り 上げられてこなかった。高等学校で租税が取り上げら れるようになるのは平成元年の学習指導要領改訂後の ことである。この改定によって社会科は地理歴史科と 公民科に分割された。そのため,以下では公民科を対 象に検討を進める。

 高校公民科では現代社会,政治・経済,倫理の3科 目が設置されている。このうち,租税に関しては,現 代社会と政治・経済の2科目で取り上げられている。

ただし,カリキュラム上,多くの学校では,生徒は現 代社会を選択するか,政治・経済及び倫理を選択する かに大別される。この結果,履修者は現代社会に大き く偏っている。

 平成元年版指導要領では現代社会では「公的部門の 役割と租税の意義について考えさせ,国民生活の向上 と福祉の増大に対する認識を深めさせる」とあり,中 学校と同様,租税を国民生活と福祉の向上と結びつけ ながら取り上げている。同様の記述は平成21年版まで 継続する。

 これに対し,政治・経済では租税は財政と結びつけ られてとらえられており,昭和30年代の中学校社会科 公民的分野の内容と大差ないものにとどまっている。

 高校では新しく入ってきた内容であるために中学校 社会科と類似する内容になったものと考えられる。

資料8 平成元年版学習指導要領の記述 現代社会 ⑶ 現代の政治・経済と人間 イ 国民福祉と政府の経済活動

 現代の市場と企業,技術革新などと情報化や 国際化の進展について理解させ,我が国の経済 社会の変化について考えさせる。また,国民所 得の動き,産業構造の変化,雇用問題と労働関係,

消費者保護と契約,社会保障の充実,社会資本 の整備などについての理解を深めさせるととも に,公的部門の役割と租税の意義について考え させ,国民生活の向上と福祉の増大に対する認 識を深めさせる。

政治・経済 ⑶ 現代の経済と国民生活 イ 現代経済の仕組み

 市場経済の仕組み,資金の循環と金融機関の 働き,財政の仕組みと租税の意義・役割,経済 成長政策と景気変動対策について理解させると ともに,それらの現状と課題について考察させ る。

(6)

 平成10年版指導要領では元年版に比較して現代社会 での記述が減少する一方で,政治経済での記述が増加 している。また,政治・経済では「市場経済の機能と 限界」が中学校社会科公民的分野に先んじて取り上げ られている。ただし,内容的には中学校社会科のもの と大きな変化はない。

 平成21年版学習指導要領では,現代社会と政治・経 済における記述の差がほとんど無くなる。多くの生徒 が現代社会か政治・経済かのいずれかしか選択しない ことを考えれば,租税教育としては妥当な在り方であ ると言える。しかし,一方で異なる科目で同じ内容の 授業を設置することは,効率面から見て問題である。

この問題は,平成30年版学習指導要領で一応解決され る。

 平成30年版指導要領では現代社会が廃止されて公共 へと変化し,公共が必修化された。その上で,政治・

経済と倫理は選択科目として残された。この結果,公 共の内容は全員が学習する一方,政治・経済について は受講生は少ないものにとどまると予想される。

 公民科における租税教育に関しては,租税が財政に 果たす役割,少子高齢化社会における社会保障の必要 性,市場経済の機能と限界など,これまで取り上げら れてきた内容が中心となっている。

資料9 平成10年版学習指導要領の記述 現代社会 ⑵ 現代の社会と人間としての在り 方生き方

イ 現代の経済社会と経済活動の在り方

 現代の経済社会における技術革新と産業構造 の変化,企業の働き,公的部門の役割と租税,金 融機関の働き,雇用と労働問題,公害の防止と 環境保全について理解させるとともに,個人と 企業の経済活動における社会的責任について考 えさせる。

政治・経済 ⑵ 現代の経済

 資本主義経済及び社会主義経済の変容,国民 経済における家計,企業,政府の役割,市場経 済の機能と限界,物価の動き,経済成長と景気 変動,財政の仕組みと働き及び租税の意義と役 割,資金の循環と金融機関の働きについて理解 させ,現代経済の特質について探究させるとと もに,経済活動の在り方と福祉の向上との関連 を考察させる。

資料10 平成21年版学習指導要領の記述 現代社会 ⑵ 現代社会と人間としての在り方 生き方

エ 現代の経済社会と経済活動の在り方

 現代の経済社会の変容などに触れながら,市 場経済の機能と限界,政府の役割と財政・租税,

金融について理解を深めさせ,経済成長や景気 変動と国民福祉の向上の関連について考察させ る。また,雇用,労働問題,社会保障について 理解を深めさせるとともに,個人や企業の経済 活動における役割と責任について考察させる。

政治・経済 ⑵ 現代の経済 ア 現代経済の仕組みと特質

 経済活動の意義,国民経済における家計,企業,

政府の役割,市場経済の機能と限界,物価の動き,

経済成長と景気変動,財政の仕組みと働き及び租 税の意義と役割,金融の仕組みと働きについて理 解させ,現代経済の特質について把握させ,経済活 動の在り方と福祉の向上との関連を考察させる。

資料11 平成30年版学習指導要領の記述 公共

B 自立した主体としてよりよい社会の形成に 参画する私たち

ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

 職業選択,雇用と労働問題,財政及び租税の 役割,少子高齢社会における社会保障の充実・安 定化,市場経済の機能と限界,金融の働き,経 済のグローバル化と相互依存関係の深まり(国 際社会における貧困や格差の問題を含む。)など に関わる現実社会の事柄や課題を基に,公正か つ自由な経済活動を行うことを通して資源の効 率的な配分が図られること,市場経済システム を機能させたり国民福祉の向上に寄与したりす る役割を政府などが担っていること及びより活 発な経済活動と個人の尊重を共に成り立たせる ことが必要であることについて理解すること。

政治・経済 ⑴ 現代日本の政治経済

ア 次のような知識及び技能を身に付けること。

(イ)経済活動と市場,経済主体と経済循環,国 民経済の大きさと経済成長,物価と景気変動,財 政の働きと仕組み及び租税などの意義,金融の 働きと仕組みについて,現実社会の諸事象を通 して理解を深めること。

(7)

 また,指導要領解説には,租税教育に関わる部分に ついて,資料12のような解説が成されている。財政に は所得や資産の再配分を行う機能があること,その財 源として租税などが必要であること,租税に関しては 公正で適切な負担と受益に基づく税制度が必要である こと,納税の義務を果たすとともに使途についても関 心を持つことが必要であること,等が示されている。

さらに,「内容の取り扱い」の部分では,「『財政及び 租税の役割,少子高齢社会における社会保障の充実・

安定化』については関連させて取り扱い,国際比較の 観点から,我が国の財政の現状や少子高齢社会など,

現代社会の特色を踏まえて財政の持続可能性と関連付 けて扱う」とされ,租税と社会保障の充実・安定化が 結びつけられている。「こうあるべき」と言う理想論 を語るのではなく,現実の社会に基づいた,バランス のとれた思考を深めることが求められていると言えよ う。ここでも「民主主義社会の根幹としての租税」と いう発想は弱いと言わざるを得ない。

 また,平成30年版指導要領では,もう一つ問題が存 在している。それは,政治・経済に「財政の働きと仕 組み及び租税などの意義」に関する内容が残っている ことである。前に指摘したとおり,平成21年版学習指 導要領まで現代社会と政治・経済との間で共通する学 習内容が併存していた。これは,両者とも選択科目で

あり,高校生全員に対して租税教育を行うためには,

両方の科目に同じ学習内容を配置しなければならな かったためである。しかし,平成30年版学習指導要領 では公共が必修科目となり,政治・経済と倫理は選択 科目のままとなった。であるならば,公共で取り上げ た内容を政治・経済などで繰り返す必要は無い。しか し,今回の学習指導要領改訂では,このような細部ま で十分に詰められていないと考えられる。

 さらに言えば,中学校社会科公民的分野での学習内 容との差別化も十分とは言えない。前述のように,高 等学校の学習は内容的には詳しいものになっているも のの,取り上げられる範囲や視点はほぼ同じである。

公共は多くの高校で第1学年で履修されることが推測 されるため,生徒は2年連続でほぼ同じ内容の授業を 受けることになる。授業効率化の視点からは課題であ ると指摘せざるを得ない。

 ただし,公共については現段階ではまだ教科書採択 の段階であり,まだ具体的な実践なども行われていな い。今後は教科書の記述分析や実践分析の蓄積などを 進めていく必要がある。

5.おわりに

 以上,学習指導要領の記述の分析を中心に租税教育 の特徴について検討を加えた。

 中学校社会科公民的分野における租税教育は,まず 租税が財政を構成することから始まり,そこから納税 の義務と権利に拡大,さらに福祉面から納税の意義を とらえ,財源からの制約について考えるように拡大し てきた。このような教育の課題としては,租税教育が 経済分野に位置づけられていることがある。この結果,

租税は財政を構成する要素としての位置づけが強くな り,民主主義社会の根幹としての租税に関する視点が 弱くなっている。これは国民福祉に関する捉え方にも 影響を与えている。政治教育の中で租税教育をとらえ 直してゆくという視点が求められる。

 高等学校公民科においては,平成元年版指導要領よ り現代社会と政治・経済で租税に関する記述が表れる が,その内容は中学校社会科のものと大きく変化して いない。高等学校では平成30年版学習指導要領より公 民科が再編され,現代社会が廃止されて公共が設置さ れるとともに必修化された。ただし,その内容は現代 社会のものから大きく変化してはいない。そのため,

中学校の租税教育との質的な差が不明瞭である。また,

公共が必修化されたにもかかわらず政治・経済にも類 似する内容が残るなど,科目間の内容の整理もついて いないなどの課題もある。これらの改善が課題であろ う。

注・引用文献

1)国税庁Webページによる。

資料12 平成30年学習指導要領解説の記述  財政とは政府による経済活動であることの理 解を基に,財政には,資源配分の調整,所得や 資産の再分配,経済の安定化を行って国民福祉 の向上に寄与する働きがあり,財政活動に際し ては,財政に投入された費用に対してそれから 得られる効果を比較しながら最適な政策を選択 していく必要があることを理解できるようにす る。

 また,財政活動を行うには財源が必要である ことの理解を基に,租税や国債など財源の調達 方法の仕組みやそれぞれの問題点について理解 できるようにする。さらに,財政の仕組みは国 だけでなく地方公共団体も行っていることの理 解を基に,両者の役割分担や連携に関して理解 を深めることができるようにする。

 租税に関しては,国民生活における租税の意 義と役割に関心をもち,公正で適切な負担と受 益の関係に基づいて税制度が作られることにつ いて理解を深めることができるようにする。そ の際,国民が納税の義務を果たすとともに,納 税者としてその使途について関心をもつことが 大切であることについて理解を深めることがで きるようにする。

(8)

 https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/

education/index.htm 2)国税庁Webページによる。

 https://www.nta.go.jp/taxes/kids/sozei_kyoiku  /index.htm

3)https://www.nta.go.jp/taxes/kids/index.htm

4)山根栄次(2014):国の累積債務1000兆円時代におけ る中学校での税教育 三重大学教育学部研究紀要 教育 科学65 pp.175-192

5)中村綾李(2018):ゲーミフィケーションを用いた租 税授業の開発 千葉大学大学院人文公共学府研究プロ ジェクト報告書 pp.33-40

6)佐藤央隆・真島聖子(2017)中学校社会科歴史学習で 求められる租税教育-市民革命と税意識- 探究28  pp.17-24

7)金子幹夫(2015):高等学校における租税教育につい ての一考察-租税・財産権を基盤にした授業案構築の研 究 経済教育34 pp.74-81

8)小金澤孝明(2018):持続可能な社会のための租税教 育-日本税理士連合会寄付講座の宮城教育大学での実践

- 宮城教育大学紀要52 pp.357-369

9)佐々木謙一(2019):学生による租税教育の模擬授業 の実践について 経済教育38 pp.123-127

10) 真 島 聖 子(2016): 租 税 教 育 と 国 民 主 権 探 究27  pp.92-103

11)玉岡雅之(2017):租税教育と財政学国民経済雑雑215  pp.47-59

Referensi

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