79
本校における危機管理教育
― 防災教育プロジェク トチームの取 り組み 一
幸田三広*、 吉留文男*、 川原秀夫*、 藤井敬治料、新谷浩―料、
三原伊文料、辻
啓介料、岡野内 十訃料 、浦上美佐子― 、井上久美恵…
Risk ⅣIanageIIlent Education in Our College
一 Th Challenr in the Educational Pttect fOrttt Di諷 発 r―
Mitsuhm KO乳 Fllmio YOSHIDOME,Hideo… Ketti FUЛI,Koichi SHI卜躍』Ⅵ,
Yoshino五 MIIひ
RA Keisde TSUЛ,Satoru OKANOUCHI,Mお akO URAKAMIand K― ieINOUE
Abstract
In
Japan, the consciousness for the disaster prwention is growrng higher and higher. The challenge of disaster prevention education project has begun at our mllege this year. The mlumns of this project consist of 4T (Tliage, Telegraph, Thansportation, and Tbeatment). The purpose of this project is the effective measures of the crisis management education for students and faculty members. In our college, though antidisaster drills are carried out twice per year, the consciousness for the antidisaster drill of the students is verylow.
In the future, the crisis management education should be positioned as an important matter of our college. Moreorer, a supporter organization for calamities within the college should be set up by all thestaff.
In this way the project can contributeto
the imprwement of the disaster prevention, the risk management and the volunteering consciousness among the students as well as the faculty. In this study we would like to emphasize the value of this project based on the original risk management education in our college.Key
words : Collaborationwith
a community, Disaster prevention, Disaster planning, Risk management education1.はじめに
わが国は近年度重なる自然災害に見舞われてい る。1995年の阪神・淡路大震災をは じめ として、
2000年の有珠 山、三宅島の噴火 、鳥取西部地震、
最近では
2004年
の新潟県中越地震、今年 2005 年 3月 の福岡県西方沖地震な どが大きな被害をも た らしている。海外においても世界的なニュース となった2004年 12月 のスマ トラ沖地震・津波は 記憶 に新 しい ところである。こ うした台風、地震、津波等の 自然災害が生 じ た場合 、複雑かつ高度化 した現代社会においては、
社会の広範囲にわたつて交通 。通信の機 能が麻痺 しライ フライ ンの切断等 によ り大混乱 をきたす こ とが過 去の事例か ら容易に予測す ることができる。
このことか ら地域住民は、 日頃か ら防災関係機 関 と連携 して防災意識 を高め、危機管理 に対す る 知識や技術 を向上 させてお くことが必要である。
また、大規模災害 となればなるほ ど防災関係機 関の対応能力 にも限界が生 じるため、地域住民 自
ら自分や家族、そ して地域の安全 を守 る とい うこ とを認識 し、そのために必要なサバイバル能力を 身 につ けてお く必要がある。
例 えば、阪神・淡路大震災において倒壊建物等 か ら救 出 された住民の
98%は
自分 で這 い出 した り、家族や近所の住民に救助 された ものであ り、専門の救助隊員 によるものは
2%に
も満 たない と い う調査結果が報告1)されている。また、応急手当の救命効果に関 して、救急隊の
*一般科ロ
ホ*商船学科
…Ⅲ電子機械工学科 **十ホ情報工学科
・ ホ**・学生課 2005年 9月30日 受付
80 独立行政法人国立高等専門学校機構大島商船高等専門学校紀要
第38号 (2005)
到着前 に家族な どによ り応急手当が実施 された場 合の生存者数 の割合が、実施 されなかった場合 よ
り高い ことも報告2)され ている。
この こ とか らも、このよ うな災害現場の実態を 認識す る とともに学校では教職員や学生な どによ る応急手 当の重要性 について十分に理解 し、必要 な災害対応能力 を修得す るための危機 管理教育を 学校現場 で も充実 させ る必要があろ う。
さて、大島商船高等専門学校 (以下、本校 と略 す る
)が
所在す る周防大島町は、四方 を海 に囲ま れ た瀬 戸内海 の島嶼部に位置 しなが らも大島大橋 に よ り本土 と結ばれ、安定 した電力・水道の供給 を受 けている。 しか し何 らかの災害によ り大島大 橋が崩れ落 ちライ フライ ンが寸断 された場合、孤 立状態 に陥ることは容易に予測できる。また、周防大島町は山口県で唯一の 「東南海・
南海地震対策推進地域」に指定 されてお り、地震 や津波 の被害が出る と予測 されている。
そ うした災害時に本校は地域避難場所 に指定 さ れ 、 さらには災害時支援公共機 関 として位置づけ られてお り、本校設備や所有船舶 を利用 して救助 活動、救急活動、医療活動における初動体制 を支 援す る役割 を担 ってい る。
とりわけ船舶 はその 自己完結機能
"に
よ り緊急事態 での通信機能、物資等の輸送機能 を発揮 し 海上お よび水際の コン トロールセ ンター として、
また陸上支援体制の拠点 として活用でき、離島で あるが ゆえに本校練習船の持つ機能が果たす役割 は非常 に大きい と考 え られ る。
こ うした背景の中、本校では全学的横断型教育 プ ロジェク トチームが今年2005年 5月 に結成 さ れ、災害支援活動の一助 を担 う防災教育 プ ロジェ
ク トがス ター トした。
本 プ ロジェク トは、危機管理教育の現状 を踏 ま えなが ら、本校が これ まで実施 してきた教育を基 盤 に、学生や教職員 に対す る危機管理教育 をよ り 有効な ものにす るための方策 を検討 し実践す るこ
とを 目白勺としている。
2.危
機管理教育の現状本校の危機 管理教育の取 り組み としては、商船 学科 において将来海技従事者 になるための船員法 お よび船舶職員法によ り、現場での実技能力を審 査す る免許講習が義務付け られている。 この中に は、船舶火 災発 生時に対応す るための「消火講習」、
そ して海難時に人命 を守 るための 「救命講習」が 含 まれ 、その他 にも海難事故の分析、海難救助の 方法、各種海難 に対す る訓練 を実施 している。
3学
年次に実施 される 「消火講習」の内容 とし ては、①消火の3原則、火災探知機について、② 持ち運び式消火器の消化剤充填、③各種消火器の 使用法、④消火ホースによる消火作業の準備、⑤ 消火ホースの操法、⑥呼吸具・防火服の装着、人 工呼吸、⑦操練、などがある。4学
年次に実施される「救命講習」では、①救 命胴衣の使用法、②水中への飛び込み、水中か ら 救命艇・救命いかだへの乗船、③救命艇・救命い かだの進水 と操縦、④応急医療の仕方、⑤信号装 置および無線救命設備の使用、⑥NIARSAR(商
船 捜索救助)に
ついて、⑦操練、な どがある。学生お よび教職員 を含 めた学校全体の取 り組み としては、「防災訓練」 と「防火訓練」が年に各 1 回実施 されている。その訓練内容 は、全学生が教 室か らグラウン ドまで避難 し人員確認 をす るとい うもので教職員 も同 じである。また全員が避難す るまでにかかった所要時間を計測 している。
しか し訓練時の学生の様子 といえば、話 しなが ら笑いなが ら避難す る姿が 目立ち、決 して避難す るまでの時間が早い とは言 えず、防災意識の低 さ を痛感 させ られ る時で もある。
また、毎年 同 じ内容が繰 り返 され、学生や教職 員の防災意識が薄れて きてい るの も事実である。
3.プ
ロジェクトの柱4T
本プ ロジェク トでは、4T(Triage、Telegraph、
Transportation、 Treatment)と 名づけた支援体制 の4分野 を柱 としてい る。
4Tそ
れぞれ のセ クシ ョンで今後取 り組む支援 活動の内容 を以下に示 した。●Triage(救助支援)
災害が発生 した場合、その初動体制が救命活動 において大変重要になる。そ して緊急時における
写真1 ,肖火講習 (人工呼吸)
本校 における危機管理教育 一防災教育プロジエク トチームの取 り組1み― (幸田・吉留・り!1原・藤井・新谷・三原・辻・岡野内・浦上・井
L)81
的確 な判断 とす ばやい行動が求め られ るが、これ までの危機 管理教育では十分 とは言 えない。
そ こで練習船等を活用 した実践的な防災・危機 管理プ ログラムを提供す ることで、災害発生時に 即対応 できる人材 を育てる とともに地域 のキーマ ンを育成す るための救助面の支援 をす る。
今後の活動 としては、①練習船 を使 った無人島 での公 開講座 「親子サバイバルキャンプ」の実施 継続 と学生ス タッフの育成、②本校 と周防大島町 が連携 した合同防災訓練の実施 (今年度は「2005 年総合防災訓練 in周 防大島」へ参加)と 学生 リー ダーの育成 、③ 出前授 業 「サバイバル レッスン」
用防災 グッズの調査お よび選定、④本校学生を使 った 「学校防災教育」用
DVDの
製作、⑤救命意 識 を高 めるためのPWCレ
スキュー (水上バイ ク を使 った救助法)講
習会の開催 な らびにイ ンス ト ラクターの養成 、を行 う。●Telegraph(通信支援)
災害発生時には通信手段 が非常に限 られ、必要 な情報 を得 ることが難 しい とい う問題がある。そ こで「大島丸」の通信 システムを使 った無線通信ネ ッ トワー クを構築 し、救助や物資輸送等 にすみや かに移行できる通信面の支援 をす る。
さらには、阪神・淡路大震災で地元
FMラ
ジオ 局が非 常に有効な情報提供手段 として機 能 した こ とを受 け、災害時に地域に密着 した24時間のFM
ラジオステー シ ョンを開設 し、公共機 関の通信網 とは異なるきめ細かい安否情報や ライフライン復
1日情報 、生活情報な ど一般の被災者 に有益な情報 を提供す る。
今後の活動 としては、外部機 関の協力を得なが ら卒業研究等を含 めて、①災害時に途絶 しない通 信機能 の確 立、② 災害発生後 に避難所間を結ぶ無 線通信ネ ッ トワー クの構築、③安否情報 システム のインター フェース作成、④災害情報用
24時
間FM放
送ステー シ ョンの開設、を行 う。●Transportation(輸 送支援)
災害時には、災害に よつて通行不可能 となった 道路 を避 けて救助 あるいは物資を輸送す るための 迂回経路 を確保 しなければな らない。 こ うした 2 地点間の迂回経路を検索す るシステムを構築す る
ことで、安全で確実な迂回経路をすみやかに確保 できる輸送面の支援 をす る。
また、各地区の防災ハザー ドマ ップを作成す る こ とで、 どのよ うな場所が危険であるかを認識 さ せ危険予測能力を高めるとともに地域ネ ッ トワー
クを構築す る。
今後 の活動 としては、町な らびに地 区 自治会 と
連携 して 自治会 メンバーや学生ボランテ ィア らと ともに、①防災フロー図お よび防災ハザー ドマ ッ プの作成、②地区の道路調査お よび防災 グッズ基 地の確保、③救助お よび物資を輸送す るための リ ヤカーの配置、⑤輸送支援 ロボ ッ トの研究開発、
を行 う。
●Treatment(保護支援)
避難所 にお ける栄養面、体力面、衛生面の管理 を 目的 とした商品 (製品
)を
調査・ 検討 し情報 を 提供す ることで、災害時一時的 に避難 した地域住 民の健康面 と精神面の不安 を軽減す るための支援 をす る。また、
AED(自
動体外式除細動器)講
習 をは じ め とした各種救命講習会を開催 し、いつで も 。ど こでも 。だれ もが救命活動に当たれ る とい う環境 作 りと人材 を育成す る。今後の活動 としては、町保健課や健康福祉セ ン ター、消防署等 と連携 して、①非常食・避難 グッ ズの調査、②食品メーカー等 と連携 した栄養講習 会の開催、③本校の避難所 として使用できる施設 と設備 の調査、④ 本校お よび地域 を対象 とした
AED講
習会の開催 、を行 う。4.活
動の実践ここでは、Triage(救助支援
)の
分野か ら、夏 休みに無人島で行われた公開講座 「親子サバイバ ルキャンプ」を紹介す る。写真
2
船内で防災マップ作り本校練習船 「大島丸」で無人島に行 き実施 され た この活動は、セルフ レスキュー (自分 自身 の安 全確保)の観点か ら、大規模災害時に電気・水道・
ガスな どのライフライ ンが寸断 された ことを想定 し、救助体市」が整 うまでの数 日間に対応できる技 術 を身 につけ、 自分や家族、あるいは近所の人々 と協力 して 生き延び る力
"を
習得す ることを 目82 独立行政法人国立高等専門学校機構大島商船高等専門学校紀要
第38号 (2005)
的 としている。 また地域の防災体制について も学 び、地域全体で防災に取 り組む ことの重要性 を再 認識 させ 、ア ウ トドア体験 ではな く、被 災体験 を 主 とす るものである。
その内容 を以下に示 した。
●公開講座 「親子サバイバルキヤンプ」
期 日 :平成 17年 8月 9日 〜 10日 (1泊 2日)
場所 :山 口県周防大島町頭 島 (無人島)
参加者 :小 。中学生9名、保護者 8名 参加料 :2,000円 (食事代、保険料含む)
レッスン内容 :
① なぜサバイバルなのか
②環境問題について
③防災マップの作成
④上陸と環境整備
⑤非常食体験
⑥ ロープワーク体験
⑦食料調達
③食器を作る
⑨ ラジオで情報収集
⑩砂浜で野宿
①星空観測
⑫ 緊急防災訓練
⑬着衣水泳
⑭ カヌー体験
以上のような盛 りだくさんのレッスン内容で、
非常に充実し意義のある活動となったようである。
特 に夜 中に突然実施 した緊急防災訓練では、事 前に参加者への連絡 を一切行わなかつた ことで、
いつ 。どこで 。どんな災害 に遭 うかわか らない と い うことを非常に印象強 く体験づけられた ようだ。
事実、参加者 の多 くが感想文で この予定になかつ た緊急防災訓練が一番印象に残 つた と答 えていた。
また参加者 に とつて この 「親子サバイバルキャ ンプ」は、身近な人 と協力 しなが ら自分 な りに考 え工夫す ることの大切 さを学び、便利 な暮 らしに 慣れた 自分 をも う一度見直す きつかけ となった よ
うである。
今後 は、 この よ うな活動 を通 して得 られた経験 をもとに、本校学生お よび教職員への防災意識 の 向上、出前授業 「サバイバル レッスン」等による 普及活動 を実施 してい く考 えである。
5.ま
とめ防災へ の意識 が高まる中、地域・ 行政・ 企業等 の協力を得て、全学的横断型教育プ ロジェク トと
して防災教育プ ロジェク トがスター トした。
このプ ロジェク トは、■iage(救助支援)、
Tebgraph(通
信支援)、 nanspOrtation(輸 送 支援)、■eatment(保 護支援)の4分
野 を柱 とし、学生や教職員、地域 に対す る危機 管理教育 をよ り 有効な ものにす るため、その方策 を検討 し実践す
ることを 目的 としている。
本校では年 に2回防災訓練 を実施 しているが学 生の訓練 に対す る意識 は非常に低い。
周防大島町が「東南海 。南海地震対策推進地域」
に山口県で唯一指定 されていることか らも今後は、
危機管理教育を本校 にお ける重要課題 として位置 づけ、商船学科に限定す ることな く電子機械 工学 科や情報工学科 の学生お よび教職員へ も 「消火講 習」や 「救命講習」 といつた各種防災訓練 を実施 し、全校 を挙げて災害時支援公共機 関 としての支 援体制づ くりを強化す るべ きであろ う。
このプ ロジェク トを通 して、地域 との相互協力 体制 を築 きつつ、防災意識 の向上、危機 管理能力 の向上、公共ボランテ ィア意識の向上を図 りたい。
また、将来的には他の商船高専や 医療船等 と連 携 しなが ら活動範囲を瀬戸内海全域 にまで拡大 し たプ ロジェク トに発展 させていきたい と考 えてい る。
最後 に、本校 の持つ支援機能 を有効 に活用 し独 自の危機 管理教育を打 ち出す こ とで、本校 の存在 価値 を さらに高 め られ る と確信 してい る。
引用・ 参考文献
[1]兵 庫県南部地震における火災に関する調査報告 書、 日本火災学会
[2]消 防庁調査
[3]山 口の防災ハン ドブック、エフエム山口、2005.
[4]早 わか り