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沿岸漁業の後継者の現状について - 福島大学

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(1)

【 調査・実践報告 】

沿岸漁業の後継者の現状について

─ 漁業センサス結果より ─

井 上   健

1. はじめに

日本において漁業という産業が縮小し続けているという点については,多くの人が持つ共通の認 識であると言って良いだろう。様々な観点からそのような判断をすることは可能だが,漁業を生業 の中心として選択している人の数の変化で見ることがその一つである。(図

1)は個人で漁業を営

む経営体の数の推移を示したものである1)。継続的に減少を続け,2017年(約

7

4

千)には,

1987

年(約

18

9

千)の

4

割程度の経営体数まで減少している。単純に考えれば,「新しく始め る者」の数が「辞めていく者」の数を下回っているために,起こっていると判断できる。ここで,「新 しく始める者」については,以下の

2

種類に分類されることに注意されたい。すなわち,① 漁業 に従事していた者の子息等(後継者),② 漁業に基本的には縁がなかった状況から新たに漁業に就 業した者(新規参入者)の

2

分類である。漁業が新たな職業を選択する者にとって十分に魅力的な 産業であれば加入が期待されるという点については,いずれの分類についても共通であるだろう。

一方,それぞれに固有な要因もあり,漁業就業者を持続的に確保していくという課題を考える場合 には,それぞれについて対応を検討していく必要があるだろう。

本稿における研究目標は,日本の沿岸漁業の持続性を支える一つの要素が後継者の順調な加入で あるととらえ,それらを促進する有効な方法を検討することである。ここでは,検討のための準備 的考察として,後継者の現状について,公的な統計調査(漁業センサス)から確認できることを調 査し,報告する。

以下,2節では後継者の有無についての概況を確認し,3節において,要因についての準備的考 察を行う。最後の

4

節を考察と課題の整理に当てる。

1) 2011年,2012年については,岩手県,宮城県及び福島県を含まない数値となっている。

(2)

2. 後継者の有無についての概況

2.1. 使用するデータについて

本節および次節で使用するデータは

2008

年および

2013

年の漁業センサスである2)。主として漁 業地区単位で集計された各種指標を利用する。その理由は,後継者の有無といった漁家に関する意 思決定は個別要因と考えられる要素が多いと考えられるが,集計することでそのような要素が消え てしまい情報として活用できなくなると判断したためである。もっとも注目するのは,漁業を個人 で営む者(=個人経営体)について行った調査項目のうち,「後継者の有無」を尋ねた結果である。

利用する地域区分は,漁業地区および全国の

2

種類であるが,それぞれについて後継者ありの個人 経営体数の集計値を利用していく。

ここで,公表されている集計区分の関係上,本来の調査目的とは厳密には異なるデータを利用す ることについて,述べておきたい。前節で述べたように,本稿の研究対象は日本の沿岸漁業である。

従って,沿岸漁業に限定したデータを利用するべきであるが,中心的に利用する漁業地区単位の集 計では,沿岸とそれ以外での区別がなされていない。この点は調査の正確性に関わることであるが,

幸い,個人経営体全体に占める沿岸漁業経営体の割合が非常に大きいことから3),本質的な影響は ないと考えている。

なお,2013年の調査では福島県の個人経営体についての統計が得られない。そこで,2008年に ついても福島県のデータを除き,今回の調査対象から福島県を外すこととする。

2)最新の調査は2018年に実施されたものだが,本稿執筆時点(20197月)においては,その結果が公表され ていない。

3) 2013年調査では,全個人経営体89,47095.8%が沿岸漁業に携わる経営体となっている。

(図1) 個人経営体数の推移

    (出典) 農林水産省「漁業センサス」および同省「漁業就業動向調査」をもとに作成

(3)

2.2. 全国的な状況

地域区分を全国として,後継者の有無の状況について確認する。この地域区分では沿岸とそれ以 外が区別されて集計されているため,沿岸に限定したデータを利用する。(図

2)は 2008

年から

2013

年にかけての変化(個人経営体総数および後継者ありの個人経営体数)を,3区分(沿岸漁業 全体,海面養殖業のみ,海面養殖業以外の沿岸漁業)ごとに図示したものである。

まず,3区分のいずれについても

2008

年(黒点)から

2013

年(矢羽根)への方向が右上から左 下に向かっており,全体としての縮小傾向が確認される。次に,個人経営体総数に対する後継者あ りの個人経営体数の占める割合(以下,後継者あり比率と略す)の変化について見ていくことにす る。視覚的な考察を容易にするため,図には後継者あり比率が

15%,30%

の位置に補助線を引い てある。それらの補助線との位置関係から,以下のことが確認できる。

✧海面養殖業では,2008年,2013年いずれについても

30%

を超える水準を維持している

✧海面養殖業以外では,2008年で既に

15%

を下回っていたが,2013年になり更に低下している

✧沿岸漁業全体では,海面養殖業の経営体割合が低いことから4),概ね,海面養殖業以外の状況に 近い水準・動きになっている

海面養殖業とそれ以外で後継者有無の状況に大きな差が見られることについては,比較的良く知ら れている事実であるだろう。背景にある要因としては,平均的な所得の高さ,経営の安定性がしば しば挙げられる。

ここまでは,全国を一つの地域区分とした,いわば,平均的な結果を見てきたが,全体の分布に

4) 2013年調査で確認すると15.7%となっている。

(図2) 個人漁業経営体の動向に関する変化(2008年→2013年)

    (出典) 農林水産省「漁業センサス」をもとに作成

(4)

ついて確認することも重要な視点であると考える。そこで,地域区分を漁業地区とし,後継者あり 比率の分布を見ていくことにする5)。(図

3)は 2008

年,2013年それぞれについて,後継者あり比 率の(漁業地区単位の)分布を示したものである。図の作成の仕方は,以下の通りである。まず,個々 の漁業地区ごとにどの階級に属するかを判定する。例えば,ある漁業地区内の個人経営体のうち,

後継者がいる経営体の割合が

12%

であれば,10-

15%

の階級に属することになる。このような形で 全ての漁業地区について,属する階級を対応させる。全ての漁業地区について対応させたら,階級 ごとに属する漁業地区の総数を求める。最後に各階級に属する漁業地区の総数の全漁業地区数に占 める割合(=相対度数)に変換し,縦軸の高さに対応させて完成する。図からいずれの年について も,もっとも頻度が高いのは

0

-

5%

の階級となっていることが確認できる。2008年については,全 漁業地区の

24.9%

において,地区内で後継者がいる個人経営体の割合が

5%

未満となっている。同 じ割合が

2013

年においては更に大きくなっており(29.4%),後継者の加入状況が一層厳しくなっ ていることがうかがえる。2008年から

2013

年にかけて

0

-

5%

の頻度が大きくなった一方,10〜

25%%

および

40〜60%

の範囲の頻度が小さくなっていることが読み取れ,(図

2)で見た全国値(=

平均)の減少に対応した結果になっている。

なお,いずれの年についても,右に大きく歪んだ分布となっていることから,平均の解釈には注 意が必要である。異時点間の水準の変化,海面養殖業とそれ以外の水準の比較については問題ない ものの,水準そのものの解釈については慎重に行う必要がある。例えば,(図

2)を用いた考察では,

「海面養殖業では,2008年,2013年いずれについても

30%

を超える水準を維持している」と解釈 したが,右に歪んだ分布の特性から,実質的な水準としてはもう少し低いと見ておくべきだろう。

5)既に述べたように,漁業地区単位の集計では,沿岸漁業に限定したデータとなっていないことから,全国を 一つの地域区分とした結果とは厳密な意味では対応していない。

(図3) 後継者ありの個人経営体割合の分布(漁業地区単位)

    (出典) 農林水産省「漁業センサス」をもとに作成

(5)

2.3. 地域別の状況

後継者の状況について,地域による違いがあるかどうかという視点も今後の課題の克服方法を検 討する際には重要になると予想される。ここでは,海区単位および都道府県単位で,後継者の状況 についての特徴を確認して行くことにする。

(図

4)は,漁業地区単位の後継者あり比率について,大海区ごとの分布を示したものである。

なお,外れ値(図の白抜きの点)は,慣例に従い,「【第

1

四分位点­四分位範囲の

1.5

倍】より小 さいもの」および「【第

3

四分位点+四分位範囲の

1.5

倍】より大きいもの」としている。また,

それぞれの海区の平均値を図では×で示している。図には様々な特徴が表れているが,ここでは,

以下の

3

点について確認する。

[観点

1] 2008

年から

2013

年にかけての変化

[観点

2] 2013

年の水準についての地域差

[観点

3] 2013

年の分布についての地域差

[観点

1]

5

年間で大きな変化があった海区とそうでなかった海区に分かれている。もっとも大きく減少し たのが北海道太平洋北区で,平均が

10%

以上減少している。分布全体が完全に下側にシフトして おり,地区全体の構造変化の可能性が示唆される。その他に,北海道日本海北区,日本海北区,日 本海西区,太平洋中区についても,全体として減少している。残りの

4

回区については,5年前と

(図4) 後継者がいる個人漁業経営体割合の分布(漁業地区単位,海区別)

    (出典) 農林水産省「漁業センサス」をもとに作成

(6)

ほぼ同水準を維持している。どのような地域要因が以上のような違いをもたらしているのか,更に 調査を進めていく必要がある。

[観点

2]

絶対的な水準にも明確な地域差が見られる。平均が

20%

を超えているのは,北海道太平洋北区,

太平洋北区の

2

海区のみであり,それ以外の海区については平均が

10%

弱〜15%弱の範囲にある。

太平洋の北側が漁場として恵まれているという単純な理由も推察されるところだが,詳細について は,検討が必要であるだろう。

[観点

3]

分布の歪みの程度を外れ値の相対的な発生度合いから判断することにする。外れ値が多く,従っ て,分布の歪みが大きいと判断できるのが,太平洋中区,東シナ海区の

2

海区である。右に大きく 歪んでいることから,海区内で後継者の加入状況の観点から上位にいる漁業地区とそうでない地区 との差が大きい状況が窺われ,より小さな地域区分での調査の必要性が示唆される。

海区単位の状況を確認した中で,太平洋北区においては,全国的な後継者あり比率の低下傾向の 中で,水準・

5

年間の変化共に相対的には良好な状況を維持していることが分かった6)。そこで,こ の海区について,都道府県ごとの状況を見ていくことにする。対象都道府県は,青森県,岩手県,

宮城県,茨城県である7)。(図

5)はそれぞれの県について,横軸に個人経営体総数,縦軸に後継者

ありの経営体数を取った散布図を作成したものである。各点が一つの漁業地区に対応している。図 には,後継者あり比率の目安値として

20%

および

40%

の位置に補助線を引いている。全体の概況 としては,以下の点が確認されるだろう。

個人経営体総数が

100

を超える漁業地区において,青森県では一様に

20%

を下回る水準である のに対して,岩手県・宮城県では

20%〜40%

にも分布している。

個人経営体総数が

100

未満の漁業地区において,他の

3

県に比べて茨城県の分布範囲が狭い。

2

点目については,もう少し丁寧に見ていく必要があるだろう。そこで,(図

5)を個人経営体総

数が

100

未満の範囲に限定して描きなおしている((図

6))。分布の範囲の広さという観点からは,

既に指摘した茨城県とともに青森県についても比較的狭い範囲に分布していることが確認できる。

特に,個人経営体総数がきわめて小さい地区を除き,0%の漁業地区がないことが注目すべき特徴 であるだろう。背景要因について,更に検討する必要がある。一方,岩手県,宮城県は,0%から

40%

を大きく上回る地区まで広い範囲に分布している。両県の比較では,全体の水準が宮城県の 方が高いことが確認できる。両県ともに

2011

年の東日本大震災の影響を大きく受けているという

6)後継者あり比率が20%を超えている程度でこのような表現は適当ではないとも言えるが,ここでは他の地区 との比較の意味で利用している。

7)既に述べた様に,福島県は本稿での調査対象から除いている。

(7)

状況において,後継者の加入状況が相対的には良好であるという点は注目すべき事実であるだろう。

この点は,(図

2)で確認した状況,すなわち,海面養殖業において相対的に後継者の加入状況が

良好であることと無関係ではないと推測できる。もちろん,それ以外の地域の特徴の影響も考えら れ,更に詳細な調査が必要であると判断している。

3. 要因についての調査

3.1. 調査の方法

前節において,後継者の加入状況について漁業センサス結果を用いて概観した。本節では,前節

(図5) 総経営体数と後継者ありの経営体数(2013年)

    (出典) 農林水産省「漁業センサス」をもとに作成

(8)

で観測された事実を参考に,後継者の加入状況の背景要因についての準備的考察を行う。加入の有 無を説明する要因に関するモデルを考える場合,経営体単位での観測を前提として検討することが もっとも自然な選択肢であると考える。すなわち,後継者あり・なしの

2

値選択に対して,それら に影響するような個人経営体単位の指標を結びつけるモデル化である。現在,官庁統計においては,

オーダーメイド集計サービスが行われており,このようなモデルに対応したデータが得られる可能 性も十分にあるが,ここでは,公表されている統計のみを用いた調査を行うことにする。そこで,

前節と同様,漁業地区単位のデータを用いて調査を実施する(漁業地区数

1894)。

回帰分析において,検証する仮説は以下の

3

点である。

(図6) 総経営体数と後継者ありの経営体数(2013年,経営体数100人未満地区のみ)

    (出典) 農林水産省「漁業センサス」をもとに作成

(9)

[仮説

1] 養殖漁業経営体の比率が高いほど,後継者の加入状況が良好である

ここでは,海面養殖漁業,特に,岩手県,宮城県において営んでいる経営体が多い漁業を選定し,

漁業地区単位で以下の割合を求め,変数として利用する。

主とする漁業種類が該当する海面漁業の経営体数÷経営体総数

具体的に利用する海面漁業種類はホタテ,カキ,ホヤ,ワカメ,ノリ,コンブの

6

種類である。

この変数については,一つ述べておかなければならないことがある。漁業地区単位の集計結果にお いて,「主とする漁業種類別経営体数」という集計が公表されているのは,全経営体を対象とした ものであり,個人経営体のみに限定されたものではない。そのため,ここで用いる割合は,大規模 な漁業を営む会社や漁協を含めた全経営体に対する各海面養殖業を営む経営体の割合ということに なる。公表されているデータの制約から,本来の目的とは異なるデータを利用することになるが,

個人経営体以外の経営体の割合が小さいことから8),大きな影響はないのではないかと判断してい る。

[仮説

2] 平均販売金額が高い漁業地区ほど,後継者の加入状況が良好である

所得が高いほど後継者が順調に加入するという単純な推測にもとづく仮説である。本来であれば,

所得に該当するデータを利用したいところだが,漁業地区単位の所得の平均が入手できなかったた め,全経営体を対象とした販売金額についてデータで代用する。漁業種類によって,費用構造が異 なることを考えると,必ずしも適切な選択肢であるとは言えず,そのため,結果の扱いについては 慎重に行う必要がある。また,個人経営体に限定していないことも問題であるが,それについては,

以下の変数の作成の際に簡易的に対応する。回帰分析で利用する変数は以下の

2

種類である。

平均販売金額(単位

: 100

万円)

公表されているデータは平均そのものではなく,階級別の経営体数である。そこで,各階級の 階級値を用いた平均を算出した。ただし,1億円以上の階級については,個人経営体に該当し ないと判断したため,算出の際に利用しなかった。

低販売金額割合

販売金額が

300

万円未満の経営体の割合を用いる。300万円に根拠はないが,その上の階級ま で含めると

500

万円未満となるため,低販売金額に該当する水準として,ここに境界線を引い た。

以上の

2

種類の変数は相関が高いことが予想されるが(標本相関係数は­0.71),前者が平均的な 水準を表すのに対して,後者が分布の下位の方向の広がりに対応しており,ばらつきの情報も含む ものであり,補完的に利用する。

8) 2013年の経営体総数12,882に対して,個人経営体以外の総数は1,26810%程度である。

(10)

[仮説

3] 専業割合が高い漁業地区ほど,後継者の加入状況が良好である

全個人経営体に占める専業経営体の割合を利用する。専業割合が高いということを,その漁業地 区において漁業が盛んであると解釈することによって生まれた仮説である。一方,兼業においては,

それほど多くの期待を持たずに後を継ぐことができるという側面もあり,逆方向の影響も予想され る。

以上の仮説をもとに,(表

1)に示した 9

種類の説明変数を用いて回帰分析を実行する。

3.2. 調査結果

(表

2)および(表 3)は回帰分析の結果を示したものである。本稿では明確な因果関係を示すこ

とは目的としないが,モデルが正しいと仮定した上で,統計的な裏付けが与えられるかについて確 認して行くことにする。

[仮説

1]に対応した変数については,ホタテ,カキ,ホヤ,ワカメ,ノリの 5

種類において,

正に有意という結果が得られている。これらは岩手県,宮城県において盛んな漁業種類であり,前 節の結果と対応するものとなっている。唯一,有意とはならなかったコンブについては,漁業地区 内においてコンブ養殖業を主とする経営体の比率が他の魚種と比べて低いことが影響していると考 えられる。この点は,(表

1)に示した平均値を魚種別に比較することで確認できるが,ホヤにつ

いては,更に平均値が低いため,それだけでは必ずしも説明しきれない。実はホヤ養殖業を主とす る漁業経営体は今回用いた全経営体数

1,894

のうち

16

経営体と非常に少ないため,漁業地区固有 の要因の影響があることが考えられる。

[仮説

2]に対応した変数については,いずれも予想通りの符号で有意な結果が得られた。特に

低販売金額割合の影響は大きく,1%上昇すると後継者比率が

10%

以上減少するという推定結果と

(表1) 各変数の基本統計量

最小値 最大値 平均値 中央値 標準偏差

後継者あり比率 0.000 0.875 0.143 0.111 0.135

ホタテ 0.000 0.966 0.014 0.000 0.092

カキ 0.000 1.000 0.026 0.000 0.115

ホヤ 0.000 0.643 0.001 0.000 0.020

ワカメ 0.000 0.907 0.016 0.000 0.076

ノリ 0.000 1.000 0.039 0.000 0.140

コンブ 0.000 0.808 0.007 0.000 0.052

平均販売金額 0.125 52.976 6.010 3.930 6.224 低販売金額割合 0.000 1.000 0.624 0.667 0.264

専業割合 0.000 12.400 0.509 0.481 0.479

(11)

なっている。

最後に,[仮説

3]に対応した変数である専業割合については,仮説とは反対の符号で有意とい

う結果になった。この結果は,仮説の段階でも述べたように,兼業の方がそれほど大きな期待を持 たずに後を継ぐとことができるという要因が影響しているという可能性が考えられる。もちろん,

そのような結論は,今回の結果のみから容易に導けるものではなく,さらなる検討が必要であるだ ろう。

4. おわりに

本稿では,日本の沿岸漁業における後継者の加入状況について,漁業センサス結果を用いて調査 した結果を報告した。前節の回帰分析の結果から,東北地方太平洋岸で盛んに営まれている養殖漁 業が盛んな漁業地区ほど高齢者あり比率が高いことが確認された。この点について,留意が必要な のが,所得要因を完全に取り除けたかという点である。データの制約からこの点が不完全な可能性 があり,その場合には,各養殖業比率の影響について割り引いて考える必要があるだろう。一方,

ワカメ養殖などでは必ずしも販売金額が高いとは言えず,所得要因が影響しているとは考えにくい。

この場合,養殖業の特徴や地域要因など,後継者の加入を良好にする固有の要因が存在する可能性 があり,今後の方策を検討する上での手掛かりとなりうる。

回帰分析からは,専業割合が低い漁業地区ほど高齢者あり比率が高いという結果も得られた。こ の点については,データとして兼業の細分類のものを活用することで詳細な検証が可能となるかも しれない。

最後に,本稿での調査において,決定的に欠けている視点を確認しておく。それは,経営の多角

(表2) 回帰係数の推定結果

変数 モデル1 モデル2

定数 0.186(0.013***) 0.187(0.013***)

ホタテ 0.119(0.030***) 0.118(0.030***)

カキ 0.110(0.023***) 0.110(0.023***)

ホヤ 0.518(0.133***) 0.517(0.132***)

ワカメ 0.264(0.035***) 0.265(0.035***)

ノリ 0.054(0.020**) 0.054(0.020**)

コンブ 0.029(0.051) –

平均販売金額 0.005(0.001***) 0.005(0.001***)

低販売金額割合 ­0.118(0.015***) ­0.119(0.015***)

専業割合 ­0.020(0.006***) ­0.020(0.006***)

回帰係数の推定結果の後ろに( )書きで示した数値は対応 する標準誤差である。

***0.1%,**1%,*5%,.10%の有意水準でそれ ぞれ有意であることを示している。

(表3) 各モデルの適合度の指標 指標 モデル1 モデル2 AIC ­8,172.4 ­8,174.1

決定係数 0.2695 0.2694

補正決定係数 0.2660 0.2663

(12)

性について考慮できていないという点である。主とする漁業種類という捉え方では,主要漁業のみ に注目することになり,多くの漁業を組み合わせて

1

年を通じて安定的な漁業経営を行うような場 合に対応できていない。今後の研究において対応していきたい。

謝辞

本稿の修正にあたり,大変有益なコメントをいただきました査読者には感謝を申し上げます。

参考文献・資料

加瀬和俊.(2007).沿岸漁業の担い手をどう確保するか(特集 持続的な沿岸漁業の担い手対策 ─ 魅力ある職場 の実現).アクアネット,10(1), 18-20.

田北寛奈.(2017).大分県の漁業担い手育成活動 (第58回 シンポジウム 地域漁業を支える人材育成: 浜のリー ダーの役割を考える).地域漁業研究,57(3), 29-32.

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Referensi

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