画家マティス
最上 英明
16 世紀に活躍したドイツの画家マティアス・グリューネヴァルトの有名な 作品に「イーゼンハイムの祭壇画」がある。最近、知る学「《怖い絵》で人間 を読む」という中野京子さんの番組(NHK)で詳しく紹介され、この祭壇画 の概要を知ることができた。 番組によると、この祭壇画は鳴門市の大塚国際 美術館にもあるとのこと。
また番組では、巡礼の寸劇もあったが、鳴門のドイツ館や、鳴門の坂東捕虜 収容所にいたドイツ人の作っためがね橋などが舞台となって出てきて、興味深 く見ることができた。
ドイツの作曲家ヒンデミットは、この祭壇画をもとに《画家マティス》とい う交響曲とオペラを作曲した。交響曲《画家マティス》は1934年3月12日、大 指揮者フルトヴェングラーがベルリンで初演した。1935年春にはベルリン州立 歌劇場でオペラ《画家マティス》も初演しようとしたが、ヒトラーの許可が得 られなかった。1934年11月25日、フルトヴェングラーが「ヒンデミット事件」
という論説を新聞に発表すると大騒動となり、ベルリン・フィルの首席指揮者 などを辞任した。
フルトヴェングラーの評伝は、日本でもすでに何冊か出版されたが、どれも 一長一短といった感じだ。今年、拙訳で新しいフルトヴェングラーの評伝が出 版される予定がある。発売されたら、フルトヴェングラーではもっともスタン ダードな本になると思うので、店頭で眺めていただけるとありがたい。
交響曲《画家マティス》の第1楽章は「天使の合奏」。この曲のメロディー、
ヒンデミットはベーメの『古いドイツの民謡集』から着想を得たようだ。トロ ンボーンにより奏でられる、なかなかきれいな旋律だ。
ヒンデミットは北村先生のお好きな作曲家でもあり、将来、《ウェーバーの 主題による交響的変容》(これは打楽器の人数が必要か)や《画家マティス》
なども、選曲時に検討の対象に含めていただけるとうれしい。