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巻頭言 Top Column - J-Stage

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化学と生物 Vol. 51, No. 11, 2013

巻頭言

Top Column

難題に挑んで研究を楽しむ

大類 洋

横浜薬科大学

Top Column

研究の醍醐味は全く予期していなかった 事象に出会い,それを画期的な発見・発明 につなげることである.筆者がそのような 事象に出会えたのは「多くの人が解決不可 能と考えていた難題」に挑んだときであっ た.

筆者は学卒であるが,理化学研究所の研 究員補としてキラリテイーと多様な生物活 性をもつ糖質の化学を研究する機会に恵ま れ,それがライフワークとなった.「糖を 原料とする生理活物質の光学活性体の合成 研究」を世界に先駆けて始め,「ヌクレオ シド系農業用抗生物質ポリオキシンJの世 界初の全合成」を行った.

学位を取得し,ヌクレオシド研究で世界 をリードしていた米国の J.J. Fox  博士お よび J.G. Moffatt 博士のもとに 何かをつ かむために 1年ずつ留学した.しかし,

そこでも自分のアイディアでC-ヌクレオ シド類の合成研究を行うこととなり 留学 は期待に反した と思っていた.だが,20 年後にしてこの留学が非常に役に立った.

その間の研究によって 世界初 という言 葉のある論文を書くことができ,達成感は 得られたが,画期的な発見・発明にはつな がらなかった.

理化学研究所に戻ってからは単独での研 究ということもあって,「先が見えない難 題」に取り組むことができず,研究のマン ネリ化に悩んだ.「先が見えない難題」に も挑戦する余裕ができたのは,東北大学農 学部で学生たちと研究する機会を得てから である.そこでキラリテイーに関しては

「ジアステレオマー法がもつ問題点の解決」

に挑んだ.しかし,解決不可能と考えられ

ていた課題だけに,取っ掛かりのアイデイ アすら得ることができず年月が過ぎた.

10年経った頃,大学で学んだ基礎的な 有機化学とFox研滞在中に得た知識(ゴー シュ効果)を組み合わせて,どうやら作業 仮説を立てることができた.この仮説は誰 もが驚くような簡単・単純なものであった が,実験を始めると 先が見えない だけ に次々と予期せぬ事象(HPLCの逆相カラ ムがキラルの場をもちえるなど)に出会 い,それら事象の理由を考えるとさらに新 しいアイデイアが生まれた.こうしたこと を繰り返して,キラル分析法を開発するこ とができ,恩師から 誰もできなかったこ とをやったね! ノーベル賞ものだよ と 非常に高い評価をいただいた.

糖質の生物活性に関しては,「耐性HIV を発現させない低毒性の抗HIVヌクレオ シドの創製」に挑んだ.これも大学で学ん だ基本的な有機化学とMoffatt研で得た知 識を組み合わせていくつかの作業仮説を立 てた.これらも簡単な仮説であるが,次々 とその正当性と重要性とを証すことがで き,4-位のエチニル基がHIVの逆転写酵素 に特異的な親和力をもつ という幸運な事 象に出会い,目的を達成することができた.

両研究とも,大学で学んだ有機化学の基 礎が研究の核心を突くものであったからだ と思う.以上のような経験を踏まえて,現 在,大学で学ぶ基礎の重要性を再認識して 講義に臨んでいる.

筆者は,難題に挑んだお陰で研究の醍醐 味を味わうことができた.皆さんもぜひ難 題に挑んで研究を楽しんでいただきたいと 願っています.

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