*a いわき市立汐見が丘小学校 *b 福島大学人間発達文化学類
社会参画力を高める社会科授業に関する研究
─「提案型社会参画学習」の構想を通して─
星 野 尊 乗*
a鵜 沼 秀 雅*
b内閣府(2014)の調査では,社会問題への関与や自身の社会参加について,日本の若者の意識は諸外 国と比べて相対的に低いことが示された。また選挙権が18歳に引き下げられて初の国政選挙では期待さ れた高投票率は実現しなかったと報じられた。そうした状況下で「主体的に社会の形成に参画する力」,
つまり「社会参画力」の育成が一層求められている。そうした問題を解決する方途として,筆者らは小 西正雄(1992)が提唱する「提案する社会科」をはじめとする提案型授業という方略に着目した。提案 型授業の授業構成を明らかにするとともに課題を析出し,その解決を図る新しい授業構成を構築する。
それを社会参画を志向する単元(地域学習)に取り入れ,「提案型社会参画学習」として再構成し,実 践および分析を行った。児童の発言や記述,質問紙調査などの分析から,児童の社会参画力を高める授 業として「提案型社会参画学習」の有効性が示唆された。
【キーワード】社会参画力 提案型授業 提案型社会参画学習
Ⅰ 本研究の概要
₁ 問題の所在と本研究の意義
選挙権が18歳に引き下げられて初の国政選挙(2016 年₇月10日の第24回参議院議員通常選挙)では,
18・19歳の投票率は45.45%と「期待された高投票 率は実現しなかった」と報じられた(福島民友新聞 2016.7.12朝刊)。また内閣府(2014)の調査からは,
社会問題への関与や自身の社会参加について「日本の 若者の意識は諸外国と比べて,相対的に低い」ことが 示された。こうしたことを背景に,自らの手で社会を 形成していこうとする意欲や態度の育成が学校教育の 大きな課題とされている。
社会科教育においては,2006年の教育基本法の改正 や現行学習指導要領(2008年公示)への改訂の要点に
「社会参画」が含まれたことなどから,社会参画を授 業構成の原理とする社会科授業づくりが提唱されるよ うになった。唐木(2010)の「社会参加学習」がその 代表であり,多くの実践事例が紹介されている。しか しそれらは,中学校や高等学校の実践であったりカリ キュラムが特殊な私立の学校であったりすることが多 く,小学校段階の授業実践が多いとは言えない。また 小学校の実践であっても,大学の附属小学校やいわゆ る研究校での実践が多いことも指摘されている(藤原 2010)。
また社会参画が志向されるべきとしながらも,授業 内で実際に参画活動(行動)を危険視する意見もある。
このような状況下で,主体的に社会の形成に参画する 力「社会参画力」を高める社会科の授業のあるべき姿 を検討し,授業を構想,実践することは意義あるもの
と考える。
₂ 研究の目的と方法
本研究の目的は,社会参画力を育成する社会科の授 業はどうあるべきかを検討,構想し,授業実践を通し てその有効性を示すことである。
そこで筆者は,この目的を達成するために提案型授 業に着目した。提案型授業とは,単元の中心に児童が 選択・提案する場面をすえて,話し合いによって価値 判断や意思決定を行う構成を組む授業を指す。提案型 授業の授業構成を,社会参画を志向する単元(地域学 習)に取り入れ,「社会参画力を高める授業」として 再構成することで社会参画力は高められると考える。
本研究では,次の段階的な方法をとる。
第一に,今日求められている社会参画力とはどのよ うな力であるかを明らかにし,社会科教育においてそ の力をどう育成すべきかについて,他領域の特質と比 較することで明らかにする。
第二に,社会科の教科書の発問1を分析するととも に社会科における提案型授業の先行研究を概観し,社 会科教育の課題と提案型授業の有効性を展望する。
第三に,社会参画を志向した授業に提案型授業を組 み込んで再構成し,「提案型社会参画学習」を構想す るとともに授業を実践,考察し,その有効性を実証する。
Ⅱ 社会参画力と社会科教育
₁ 現代社会において求められる社会参画力
近 年 語 ら れ て き た キ ー・ コ ン ピ テ ン シ ー を Education2030が再定義したもの(田熊2016)や国立 教育政策研究所(2013)の「21世紀型能力」において
も,習得した知識や技能を生かし,よりよい社会にな るよう働きかける力「社会参画力」の育成が謳われお り,日本のみならず世界中で育成すべき力として位置 づけられていることがわかる。「よりよい社会の形成 に参画する資質や能力の基礎をも含む」とされる公民 的資質の育成を目標とする社会科はもとより各教科,
ひいては全ての教育活動においても,この社会参画力 の育成を目標とした教育活動がめざされる必要がある。
現行学習指導要領に「よりよい社会の形成に参画する 資質や能力の基礎を培うことを重視している」という 文言が示されて以降,様々な文脈で社会参画力の育成 が語られるようになった。例えば,柳生ら(2008)は,
「国際的な資質」を構成する要素の一つとして社会参 画力を位置づけ,それは「学び取った知識や理論を駆 使」することを通して社会に参画する力とした。また 吉田(2013)は,具体的に何をなすべきか,またなす べきではないかを判断することができる知識や技能に 加え,それを実行へとつなげることができる態度をも 含めた力であると定義している。さらに北(2014)や 北海道教育大学附属札幌中学校(2016)は,これらに 加えて「他者との協働」を重視し,協働してよりよい 社会を形成する力が社会参画力には含まれることを主 張している。
以上を整理すると,社会参画力とは大きく₃つの要 素から構成される力であると考えられる。すなわち「地 域社会への興味・関心(主権者意識)」,「課題に関す る価値判断・意思決定」,「他者との協働・合意形成」
である(図1)。ただし,これらはいずれも学校教育全 体における文脈で語られている。では,社会科教育に おける社会参画力の育成は,どのように進められるべ きなのであろうか。それを明らかにするためには,こ れら₃つの要素を視点として先行研究や事例実践を検 討し,社会参画力を高める社会科授業の単元を構想・
実践し,その結果を検証していく必要がある。
₂ 他領域における社会参画力の特質
「特別活動」「道徳」2「総合的な学習の時間」(以下,
総合学習)の現行学習指導要領には「社会参画」や「社 会の形成(生活づくり)に参画」という文言が示され ている。そこで,これら₃領域における社会参画力の 特質を明らかにする(以下,すべて引用者傍点)。
特別活動の「学級活動」の目標には「集団の一員と して学級や学校におけるよりよい生活づくりに参画
し,諸問題を解決しようとする自主的,実践的な態度 や健全な生活態度を育てる」とある。ここでは「生活 づくり」に参画することで実践的な「態度」の育成が 重要視されていることがわかる。学校で生活をする児 童にとって学校・学級生活が最も身近な社会であると 言える。そこでよりよい生活や人間関係をつくろうと する態度を育むとともに,児童が学校・学級という「小 社会」の一員として自覚し,そこに積極的にかかわろ うとする態度を育成することは,将来的にかかわりを もつ実社会の形成に参画する基礎を養うことである。
まずは身近な「学級や学校におけるよりよい生活づく り」に参画することに視点が置かれている。
『小学校学習指導要領解説道徳編』には,教育基本 法の改正を受けて道徳教育改善の具体的事項として10 項目示されたが,その中の一つに「社会参画への意欲 や態度」という言葉がある。また「道徳教育改訂の要 点」には,集団の中で進んで働くことを通して他者の 役に立ち,自分の役割に気づかせることで社会参画へ の意識の醸成を図ることが示されている。さらには,
学級や学校のために活動をする当番活動や自分たちの 環境を整えようとする環境美化への取り組みも社会参 画への素地を養うものとして示されている。こうした 日常的な生活の場面を社会参画力の育成の機会として 改めてとらえ直し,意識的に働きかけることが必要で あることを示している。
『小学校学習指導要領解説総合的な学習の時間編』
には,他者と協同3して学習に取り組むことに重点を 置くと言う文脈の中で,「参画」の言葉が登場する。
地域の人や専門家といった校外の人との交流が「児童 の社会参画の意識を目覚めさせる」ものとして推奨し ている点などから,総合学習では「協同的に学習をす る」「外部の人材を活用する」といった学習手段・方 法の習得に重点が置かれている点が特質であると言え る。
₃ 社会科における社会参画力の特質
ここでは社会科における社会参画力の特質を前の₃ 領域のそれと比較することで明らかにし,社会科固有 の社会参画力とは何かについて検討する。
特別活動と社会科とは「相互還流的で相互補完的な 関係に位置づけられている」と二井(2012)は指摘す る。それは,特別活動の学習指導要領の目標等に「公 民としての資質」(中学校)や「公民的資質」(高等学 校)が示された過去があり,社会科の目標である「公 民的資質の基礎を養う」に通じるものと考えられるた めである。一教科である社会科と自主的,実践的な態 度を育む教科外活動である特別活動とで,育成すべき 児童の姿,つまり目標レベルにおいて共通点を有して いることがわかる。
宮崎(2010)は,教科および特別活動の特質とその 教育的意義について,対比する形で述べ,両者の「性 格の相違」を明らかにしている(表₁)。
教科全体と特別活動とを対比した記述であるが,二 井の論考も踏まえて考えると,教科を社会科に置き換 図 社会参画力の構成要素
他者との協働 合意形成
地域・社会へ の興味・関心 主権者意識 課題に対する
価値判断・意 思決定
参画力 社会
他者との協働 合意形成
地域・社会へ の興味・関心 主権者意識 課題に対する
価値判断・意 思決定
参画力 社会
えることに無理は生じないであろう。そうした場合,
社会科の学習においては「科学的認識の育成」という 視点が不可欠である。社会科が教科の一つである以上,
一定の学習内容をもち,特定の知識や技能の習得がめ ざされる。その際に必要となるのが「科学的認識」や
「科学知」と言われる,社会諸科学の成果の活用である。
これらの活用により,社会的事象を時間的,空間的に とらえることが可能となり,社会認識の深化が期待で きる。
社会科と道徳は歴史的に見ても密接に関連してお り,「社会についての知識と規範や道徳とは密接で分 けられず,具体的な社会問題を学習することが道徳性 の育成にもつながる」といった主張があったことなど から,道徳が特設されるまで,社会科が「道徳教育の 中心的役割を担っていた」(胤森2014)と言える。
またそれは現行の学習指導要領からも,両者の関連 性を見出すことができる。次に示すものは,社会科の 第₆学年の目標の一部と道徳の第₅学年および第₆学 年の内容として示されたものであるが(表₂),ほぼ 同じ趣旨の文章と言ってよい。
このことからも,両者は部分的には同じような目標 や内容を共有していると言ってよいだろう。しかし,
長尾(2009)は,教科について「客観的な根拠とか裏 付けというものが教科では大切にされなければならな いし,ある意味では万人が共通的に納得する一定の『解 答』があってしかるべきものとなっている」とし,「必 ずしも『解答』が一つとはなっていない」道徳との違 いを指摘している。言い換えるならば「納得解」や「最 適解」の導出こそが教科としての社会科固有の特質で
あり,それを生かした授業構成が求められると言える。
社会科と総合学習との特質の違いについて岩田(2001)
は,「社会科と総合的学習の教材としての重なりの部 分は相当ある」としながらも,社会科は内容知に,総 合学習は方法知にそれぞれ重点を置いた学習とすべき であると主張している。また中本(2012)は,社会科 と総合学習との問題設定の違いについて,前者は「科 学的な知識体系・構造に即して科学知を重視したもの」
で,後者は「子どもの生活経験に根差した体験知を重 視したもの」であるべきとした。その理由として中本 は,個人の体験や経験からでは見出すことができない,
または類推することができない社会の諸事象を時には 対象化し,認識させるが社会科の役割であると述べて いる。
そもそも科学知とは何で,それを活用するとはどう いうことを言うのであろうか。奈良・伊勢田(2009)
によれば科学知とは「科学の営みの中で作り出される 知識や知恵」を指し,「科学的手法によって獲得され る客観的な知」「科学的知識」などと言い換えること もできる。それを活用するということは,科学者によっ て発見された「事実」や「用語」を覚えることではな く,それに至る理論を構築する「プロセス」を活用す るということである。すなわち,仮説の立て方や実験 のデザインの仕方,データの解釈の仕方,結論の導き 方とった理論を組み立てるスキルの活用である。それ を社会科の学習過程に組み込む必要があると考える。
これまでの検討を小括すると,₃領域との比較にお いて社会科における社会参画力の特質はⅰ「教科とし ての知識・技能の習得」,ⅱ「最適解の導出」,ⅲ「科 学知(プロセス)の重視」が含まれることがわかる。
Ⅲ 「社会参加学習」の検討
₁ 「社会参加学習」
「社会参加学習」とは,唐木(2010)が提唱する授 業論であり,社会参画を授業の構成原理とするもので ある。唐木は「社会参加学習」が成立する「必要条件」
として次の₅つの条件を示している点に大きな特徴が ある(表₃)。社会参画を授業構成の原理とする社会 科授業づくりが推進されるようになったのは最近のこ とであるが,授業構成を理論的に構造化し,「必要条件」
といった具体的内容にまで言及した社会科授業論は管 見の限り見当たらない。
表 教科と特別活動との比較
宮崎(2010)を基に,筆者作成
活動形態ねらい学習内容
児童・生徒の選択や要求によっ て種々様々な活動がなされ,そ れらの活動を経験することそれ 自体が特別活動の内容をなす 児童・生徒の生活や活動そのも のを通して人間として望ましい 能力・態度・習慣を形成する
学級集団以外のさまざまな集団 による比較的自由な集団活動
一定の教科内容があり,
それらをすべての児童・
生徒が学習する
主として文化遺産を次の 世代に伝達し,知識技術 を習得させるとともに科 学的認識能力を育成する 原則として学級集団によ る学習活動
教科 特別活動
表 社会科第 学年の目標と道徳第 ・ 学年内容
筆者下線,作成 社会科第 6 学年の目標の一部 道徳第5・6 学年の内容
の一部 国家・社会の発展に大きな働きをした先人の業績 や優れた文化遺産について興味・関心と理解を深 めるようにするとともに,我が国の歴史や伝統を 大切にし,国を愛する心情を育てるようにする。
郷土や我が国の伝統と 文 化を大 切にし,先 人 の努力を知り,郷土や 国を愛する心をもつ。
表 社会参加学習の必要条件
① 地 域 社 会 の 課 題 を 教 材 化 す る こ と
② プ ロ ジ ェ ク ト 型 の 学 習 を 組 織 す る こ と
( 問 題 把 握 ➡ 問 題 分 析 ➡ 意 思 決 定 ➡ 提 案 ・ 参 加 )
③ 振 り 返 り を 重 視 す る こ と
④ 学 問 的 な 知 識・技 能 を 習 得 ,活 用 す る 場 面 を 設 定 す る こ と
⑤ 地 域 住 民 と の 協 働 を 重 視 す る こ と
唐木(2010)を基に,筆者が箇条書きにして作成
₂ 学習の最終段階「提案・参加」について
「社会参加学習」では学習の最終段階に「提案・参加」
が位置づけられており(表₃参照),地域社会の課題 解決へ向けて積極的に実社会と関わることが是とされ ている。
「社会参加学習」をはじめとした社会参画を志向す る授業づくりが叫ばれる一方で,学習の最終段階を「参 加」とすることについては賛否の両論が存在する。例 えば小西(1997)は,「参加」つまり行動には責任が ともなう以上,「責任のとれない者がうかつに直接的 な行動に走るべきではない」と批判し,授業の一環と して実際に地域に出る「行動参加型」授業の危険性を 指摘する。加えて「学校というところは,いい意味で 地域から隔離された独自の思考空間であるべき」だと し,学校(学級)内において地域社会の課題について 思考・判断し,その結果を表現していく「思考参加型」
授業の必要性を主張している。永田(2016)は,一時 の主義主張に基づいて行動することの危険性を指摘 し,「(行動の)直前まで他者の主義主張と調整しつつ,
自らはいかに社会に参加すべきかを仮想的に創造し続 け」る「創造主義の社会科」を提唱している。橋本(2012)
は,社会への参加を取り入れた授業は「限られた社会 問題の,体系的でない社会認識による学習」であり,
「態度主義」「行動主義」が自己目的化されてしまえば,
道徳や総合学習との差異が見いだせなくなってしまう と指摘している。
以上のことから,小学校社会科の教育段階において は具体的な参加(行動)まで視野に入れながらも,実 際的な行動までは求めず,その直前までの他者との議 論や協働に重点を置くべきだと筆者は考える。特に社 会参画を志向した授業においては,「社会参画」とい う言葉の響きから「行動=善」,「具体的な参加行動」
と判断されがちである。しかし大切なのは,無目的に 行われる「行動」ではなく「社会参画の視点」を単元 開発や授業に取り入れることである。地域や社会に直 接参加することの意義を認めつつも,社会認識の形成 を目的とする社会科の授業においては,それを深める 価値判断や意思決定,そして他者との対話を通した合 意形成,換言すれば最適解の導出が教科としての社会 科が果たすべき役割である。
したがって,学習の最終段階を「提案」とした社会 参画を志向する授業づくりが必要であると考える。具 体的には「社会参加学習」を土台としながらも,学習 の最終段階には「提案」を位置づける授業の構想であ る。そこで次章では,提案型授業の先行研究から「提 案」という学習活動の有効性と実践上の課題について 検討する。
Ⅳ 提案型授業の研究
₁ 教科書の発問分析
田山(2012)が示した発問の分類法にもとづき,現 行の教科書(東京書籍)の発問を統計した(表₄)。
その結果,教科書に掲載されている発問は「状態・
様子」を問う発問に大きく偏り,「深い追究を生むこ とになる質の高い発問」(田山2012)とされる「因果 関係」を問う発問はごくわずかであることがわかる。
また児童の自由な発想を促す“If-then”発問は皆無で あった。
「Why」「Which」,さらには「If-then」を問う発問は,
教科書に記載してある情報を整理したり比較したりし ながら仮説を立て,吟味して価値判断しなければ「答 え」にたどり着かない。このような学習過程を経て「最 適解」を生み出す学習過程が求められている今こそ,
積極的に“If-then”発問を設定し,未来(架空)を語 り,議論や討論を通して「最適解」を導出する提案型 授業の導入を一層進めていく必要がある。それは,こ れまで批判の対象とされてきた「謎解き型」「暗記型」
の社会科からの脱却を意味する。
₂ 提案型授業の先行研究
提案型授業の先行研究として小西(1992)の「提案 する社会科」,岡崎(1995)の「“If-then”発問」,佐 藤(2006)の「地域社会に提案する参加型社会科学習」
などがある。これらに共通するのは,「もし~なら,
…だろうか?」と子どもに「イフ」を投げかけ,それ に対して仮説を立てて吟味し,価値判断や意思決定を 通して合意形成を図るという授業構成である。
「もし~なら,…だろうか?」と問いかける“If-then”
発問は,子どもに仮説を立てる経験を積ませることに 寄与し,その仮説を吟味する過程で「事実認識は科 学的なもの」(岡崎2013)となり,よりよい社会的見 方・考え方へと成長させることが期待できる。また
“If-then”発問は課題が近未来や仮定の話であり,正 しい唯一の解など存在しないため,課題の解決のため には他者との話し合いによる合意形成が必然となる。
その点からも小西(1992)は提案型授業を「単に“社 会を知り社会に入る”ための学習にとどまらず,“社 会を吟味し社会をつくる”ための学習」とした。
以上,提案型授業では児童へ課題に対する価値判断 や意思決定,他者との協働による合意形成を求めるこ とから,提案型授業は社会参画力を高める授業構成と して有効に働くと推論することができる。
しかし先行研究から上記の有効性は見出せるもの の,学びが教室内で完結しており,地域や社会といっ た外部への提案・参画活動へと繋がっておらず,現在 必要とされる社会参画力の育成につながる授業構成で あるとは言えない。提案型授業の特性を生かしながら も社会参画力の育成を図った授業構想が求められる。
表 現行教科書(東京書籍)の発問の分類
①「投げかけ」
○○しましょう いつ どこで だれが なにを どんな どのように なぜ どうして 3・4年上
3・4年下 5年上 5年下 6年上 6年下
計 129 1 11 4 5 12 230 3 1
②「状態・様子」 ③「因果関係」
発問 18 28 14 21 28 20
0 1 0 0 0 0
2 4 2 1 0 2
0 2 1 0 1 0
1 0 1 2 1 0
5 6 0 1 0 0
27 48 35 44 47 29
1 2 0 0 0 0
0 0 1 0 0 0
Ⅴ 「提案型社会参画学習」の構想
₁ 「提案型社会参画学習」の構想
これまでの検討から筆者は,今日求められている社 会科の授業は,社会科における社会参画力の特質(ⅰ
「教科としての知識・技能の習得」,ⅱ「最適解の導出」,
ⅲ「科学知(プロセス)の重視」)を授業の要素とし て取り入れた提案型授業であることを述べた。
そうした授業を構想するにあたり,筆者は「社会参 加学習」の条件を前提としながらも学習の最終段階を
「提案」とし,社会参画を志向した新しい提案型授業 として再構成していく必要があると考える。すなわち 地域社会の課題について“If-then”発問を設定し,話 し合いによって導出された最適解としての成果物を地 域や社会に提案する活動を取り入れた授業である(図
₂)。それを「提案型社会参画学習」とし,授業実践 を通してその有効性を示したい。なお提案型社会参画 学習と「社会参加学習」との関連および₃つの特質と の関わりを示したものが表₅である。
Ⅴ 実践および考察
₁ 単元計画および対象と教材観
これまでの検討から,筆者は下記(表₆)の授業を 計画し,実践した。
対象はいわき市立A小学校の₄年生(21名)で,
2017年₆月27日~₇月13日にかけて実施した(全₆時 間)。授業実践前の質問紙調査では,地域の歴史や文化,
行事等に対する興味・関心が低いことから(詳細は「₃ 本実践の分析」にて述べる),社会参画力の要素の一 つとして設定した「地域・社会への興味・関心」を高 める必要があると考える。
本単元は学習指導要領の内容⑹ウを扱う単元であ
り,県内の特色ある地域の人々の生活を学習する。そ こで筆者は「いわき踊り大会」に着目し,教材化を試 みた。その理由は,本大会で歌われる「いわき踊り」
の歌詞には,いわき市の景勝地や名所,地理的環境な どの特色が盛り込まれており,歌詞の内容を理解した り創作したりすることを通していわき市の特徴がとら えられると考えたからだ。また本大会は,いわき市各 地で行われる夏の一大イベントであるため子どもの認 知度や興味・関心も高く,単元の目標達成に有効であ ると判断したためである。
₂ 振り返りの方略
振り返りの方略として本実践ではOPPAを活用す る。OPPAと は,「One Page Portfolio Assessment」
の略で,堀(2013)が提唱する評価方法である。具体 的には「OPPシート」と呼ばれる一枚の用紙の中に,
毎時間「授業の一番大切なこと」だけを書くことを児 童に求めるものである。OPPAを活用する理由として は,授業の中で児童がどう考え,何を一番大切だと感 じたかを把握することができ,そこから地域社会への 興味・関心の高まりが読み取れると考えたからである。
また教師が児童の「理解状況を確認」できるとともに,
教師自身が「授業の適切性を判断」することができる とされているからである。さらに「OPPシート」は単 元の学習前と後で同じ問いを設定するため(本実践で は「地域の人々は,どんなことを考えて町づくりをし ているのだろうか」),その変容を自他ともに認識する ことができ,質的分析の一助となり得ると考えたから である。
₃ 授業の実際
紙幅の関係から,第₁時,第₂時,第₄時,第₆時 のみ,授業の実際や児童の様子について記す。
⑴ 第₁時の実際
児童は「いわき踊り」の歌詞からいわき市の特色を 知る一方で,自分たちが住む地域や好きな場所,おす すめのものが歌われていないことに気づく。そこで「も
他者との協働 合意形成
地域・社会へ の興味・関心 主権者意識 課題に対する
価値判断・意 思決定
参画力社会
案 ・ 提 画 参 動 活
If-then
発問 他者との協働
合意形成
地域・社会へ の興味・関心 主権者意識 課題に対する
価値判断・意 思決定
参画力社会
図 提案型社会参画学習の授業イメージ
案 ・ 提 画 参 動 活
案 ・ 提 画 参 動 活
If-then
発問
If-then
発問 最適解の
導出 最適解
の導出 最適解
の導出
表 「社会参加学習」と提案型社会参画学習の比較
「社会参加学習」の必要条件(唐木) 提案型社会参画学習 特質
①地域社会の課題を教材化 地 域 学 習 に お け る If- then 発問
②プロジェクト型の学習を組織(問題把 握➡問題分析➡意思決定➡提案・参加)
課題に対する最適解の導出 学習の最終段階は「提案」 ⅱⅲ
③振り返りの重視 OPPA の活用
④学問的な知識・技能を習得,活用す
る場面の設定 調べ学習や議論の場の保障 ⅰ
⑤地域住民との協働を重視 成果物による提案活動
表 実践授業の単元計画
※①〜⑤は表5の必要条件を表している。
習 学 の 型 ト ク ェ ジ ロ プ 件 条 要 必
動 活 習 学 な 主 時
1
福島県の気候区分やいわき市(浜通り)特有の 気候や地理的環境について理解し,「いわき踊 り」の歌詞を知る。
①地域の伝統文化の 継承
③OPPA の活用
問題把握…「いわき踊 り」に新しい歌詞を加 えよう
問題分析…「いわき踊 り」の歌詞を分析し,
いわき市の特色につい て考える
意思決定…歌詞に加え る単語やフレーズの取 捨選択,合意形成
提案…「いわき踊り 4- 2 バージョン」の完成
提案…地域住民への提 案,講評 2
「いわき踊り」の歌詞やパンフレットなどの資 料から,いわき市の特色について考える。
(第 1 次案提出)
③OPPA の活用
④郷土資料集や観光 パンフレットの活用
3
資料集やパンフレット,インターネット等を使 って,いわき市の特色について調べる。
(第 2 次案提出)
③OPPA の活用
④インターネットの 活用
4 第 2 次案を検討するとともに,話し合いによっ て歌詞とするキーワードを 2 つに絞る。
③OPPA の活用
⑤話し合いの助言
5
いわき市の特色を表す言葉を選び,話し合いで 歌詞を決める。
完成した歌詞で,歌の練習をする。
③歌詞の完成 歌の練習
③OPPA の活用
6
完成した「いわき踊り 4-2 バージョン」を GT に披露する。GT の話を聞いたり一緒に歌った りして交流し,特色を生かしたまちづくりにつ いて考える。
③OPPA の活用 ワークシートの活用
⑤GT による成果物の 講評,講話
し『いわき踊り』に13・14番を加えるならどんな歌詞 がよいか?」と発問し,「自分たちなりの『いわき踊り』
を作ろう」と学習問題を設定した。
⑵ 第₂時の実際
第₂時では「いわき踊り」の歌詞を再確認したりゲ ストティーチャー(以降,GT)の「特色とは何か」
についての意見を紹介したりすることで,改めて「い わきの特色」について考えることにした。その結果,
特色とは「ほかの地域にはない,いわき市だけのモノ やコト」,「ほかの地域の人にじまんできるもの」との 結論に至った。
その後は調べ学習を行い,特色を表す言葉を₂つ,
第₂次案として提出した。第₂次案としては,第₁次 案で出された「アクアマリンふくしま」や「白水阿弥陀」
に加えて「マリンタワー」「石炭化石博物館・ほるる」
といったいわき市が誇る観光・文化施設や「いわき踊 り」や「いわき花火大会」などのいわき市を代表する 年中行事が発表された。
⑶ 第₄時の実際
本時は話し合っていわき市の特色を表す言葉を₂つ に絞る話し合い活動の時間と位置づけた。その様相の 一部を下に示す(表₇)。
発言する児童の数や内容から,はじめは話し合って 合意形成をしていこうとする雰囲気は感じられなかっ たが,特色とは何かについて授業者が確認させたり(番 号₁,23,26),ペアやグループで話し合う時間を設 け,再度全体で話し合ったりする中で,相手に共感を 示しながら₂つに決めていこうとする発言が現れてき た(番号₄や₅,番号11や12)。
その後はいわき市で開催される「いわきサンシャイ
ンマラソン」が「県内初」の公認マラソンであること,
スパリゾートハワイアンズに新設されたボディスライ ダーの高低差および長さが「日本一」であることがわ かり,その₂つに決定した。
上記のやり取りからは自分の意見への固執は示し,
₂つに絞ることの難しさを感じていることがわかる。
また一方で,友達の発言を繰り返す児童が複数名いる ことからも(番号₄,₇,₉),他者の意見にも共感 を示しながら何とか合意形成を果たそうとする姿勢も 感じ取ることができる。
さらに本時の振り返りとしてのOPPシートには「ハ ワイアンズとマラソンに決まったけど,いろいろ出 てきたものも特色で,どれもよかったです。15番目も 入れたいです」と,もっと歌詞を考えたいという意欲 的な意見や「みんなでたくさんある中から₂つを決め て,歌詞を考えたことが一番大切だと思った」という,
他者と合意形成していくことの難しさや大切さに気づ き,それについて記述する児童も数名見られた。こう した経験を社会科の学習の中で積み重ねていくことが 大切であると考える。
⑷ 第₆時の実際
本時はGTとして来校する三味線奏者のB氏に「い わき踊り4-2バージョン」を聞かせることになってい る。まずはB氏に完成した歌を披露し,その後は歌詞 や歌に関する感想だけでなく,いわき踊りの歴史や誕 生の背景,今後の課題等についても話をしてもらった。
なかでも,「これからは若いあなたたちの時代です。
地域の伝統や文化を大切にして,一緒にいわき市を盛 り上げていきましょう。それが私の願い,夢なんです。」
という言葉が印象的であった。児童たちも「私もいわ き踊りに参加してみたい」「地域の人々は伝統を大切 にしてまちづくりをしている」などの感想が出てくる など,地域社会に対する関心の高まりが感じられた。
自分たちで作り上げた歌を披露しGTと交流すること で,「いわき踊り」という具体的事例をもとにしなが ら地域の人々が何を大切にしてまちづくりをしている のかについて理解することができた。
₄ 本実践の分析
⑴ 量的分析(質問紙調査の結果)
授業実践の前後で質問紙調査を行った。課題であっ た「地域・社会への興味・関心」についての質問項目 については下記の結果が得られた(表₈)。
17人(81%)の児童が「もてた」,₄人(19%)の 児童が「どちらかといえばもてた」と回答するなど,
すべての児童が肯定的な回答をしている。また「地い 表 学級全体での話し合いの発言記録
番号 発言者 発言内容
1 T いわきにしかないもの,他の地域に自慢できるもの。これが選ぶ基準で す。さぁ,どうしよう。
2 C1 え〜。
3 C2 いわきサンシャインマラソンは入れたい。
4 複数 うん,そう。
5 C2 そう,それは入れたい。サンシャインは入れたい。
県内初っていうのでちょっと・・・。
6 T おぉ,何か今みんなのところから,県内初っていうので少し残したい?
7 複数 はい。
8 C3 あと何だろうなぁ。
9 複数 ハワイアンズかぁ(ハワイアンズ)。
10 C4 日本一長いスライダー。
11 複数 う〜ん。
12 C3 東京ドーム 6 倍って自慢できるんじゃない?
・・・・・(中略)・・・・・
13 C3 自分のも気に入ってる。
14 C2 自分のが一番気に入ってる。
15 T 自分のが気に入ってる,そっかぁ,その中から 2 つだもんね。
16 複数 3つだったらいい。
17 T 3つがよかった?
18 C2 3つがいい,本当。だったらだいたい決まってるんだけど。
19 C5 3つだったら,もう決められそう,私も決まってる。
20 C6 6こ,6こ。
21 T 6こ!?
22 C7 6こ,全部!
23 T 全部特色なんだよ,全部いいところなんだよね。だから,その中から2 つというのが難しいところなんだよね。
24 C8 じゃぁ,数,文字の数で決める。
25 C2 それじゃ,サンシャインマラソンになっちゃう。
26 T だからまたこれなんだよ,やっぱり。「いわき市にだけ」,もう一回戻る けど,あと「他の地域に自慢できるもの」。
27 大多数 いわきサンシャインマラソンは入れたい。
(「サンシャインマラソン」,「ハワイアンズ」の声)
28 C4 (挙手・指名して)ハワイアンズで日本一長いスライダー。
表 実践前後との比較
質問項目
「地域の歴史や文化,行事な どに興味関心があるか?」
ある 少しある あまり
ない ない
事前アンケート 15 人
(71.4%)
4 人
(19.0%)
0 人 2 人
(9.5%)
授業実践
事後アンケート 17 人
(81.0%)
4 人
(19.0%)
0 人 0 人
きの行事やまちづくりに参加(協力)してみたいと思 いましたか」という質問項目には20人(95.2%)が肯 定的な回答をするなど,アンケートの数値の変化は微 小ながらも高い値を示した。
さらに図₁で示した社会参画力を構成する₃つの力
「地域社会への興味・関心(主権者意識)」,「課題に関 する価値判断・意思決定」,「他者との協働・合意形成」
にかかわる質問項目においても肯定的な回答が多く見 られる等(図₃),「提案型社会参画学習」が社会参画 力を高める授業として有効であることが示唆された。
⑵ 質的分析(児童の記述の変容)
ここでは振り返りシートとして活用したOPPシー トの記述内容から,児童の変容を分析する。
児童Cは毎時間の振り返りで「授業の中で一番大切 だと思ったこと」を書く欄に,次のように記述してい た(表₉)。
第₁時,₂時では自分のしたこと(行為)に対して の記述だったが,第₃時,₄時ではいわき市の特色を 思考,判断し,第₆時ではいわき市のまちづくりにつ いて,自分の思いを表現していることがわかる。言い 換えれば,記述の内容も具体的な行為(活動)から概 念的な思考(獲得させたい知識)に及んでいる。第₆ 時の記述はまさに本単元における獲得させたい概念的 知識であり,目標と位置づけられる姿である。
また児童Dは,表現の仕方としては不十分で,授業 者が想定(期待)していた内容には及んでいないなが らも,記述からは単元を通して何を学んだのかが自覚 的に理解できていることがわかる(図₄)。
つまり自分の学びをメタ認知することができている と言ってよい表現が見られる。「作詞をして,そして 発表をして楽しかった」で終わることなく,その活動
を通して何を学んだのかがしっかりと示されている。
上に示した児童の記述から,大切なのは最適解に相 応しい「答え」を持ち合わせていることではなく,課 題に対して自分なりの価値判断・意思決定をし,他者 との協働の中で知識を再構成することができる力であ る。それは社会参画力を構成する力の₁つということ にとどまらず,人はいかに学ぶべきかにかかわる大き な力でもある。本実践において児童はそうした姿を体 現したと言える。
Ⅵ 成果と今後の課題
₁ 成果
本研究における成果としては次の₂点を挙げること ができる。
₁点目は,他領域との比較を通して社会科における 社会参画力の特質を明らかにするとともに,これまで なされてこなかった提案型授業の授業構成を整理し,
それを生かした提案型授業の有効性およびその必要性 を示した点である。
₂点目は「提案型社会参画学習」の構想をし,授業 モデルを示したことである。その特徴は,これまでの 提案型授業の有効性(特徴)を生かしながらも,現在 求められている「社会参画を志向する授業」としての 要素を取り入れ,再構成した点である。社会参画を志 向しながらも積極的に提案活動を位置づけたところに
「提案型社会参画学習」の最大の特徴がある。社会参 画力を高める授業としての可能性が示唆された。
₂ 今後の課題
課題としては,次の₅点が挙げられる。
₁点目は,本研究の課題設定および分析方法につい てである。本研究で着目した社会参画力とは他分野,
他領域にかかわる力であるが,それぞれの視点からの 議論が浅く,焦点を絞りきることができなかった。ま た授業実践の分析においては,質問紙調査の質問項目 の検討が不十分で,「結論ありき」の作為的印象を与 えかねない結果となってしまった。研究対象の焦点化 および分析方法の十分な検討が今後の課題として指摘 できる。
₂点目は,他学年や他領域において「提案型社会参 画学習」が展開できるのかという課題である。特に直 接観察や調査ができない単元,たとえば第₆学年の歴 史学習や第₄学年の「郷土学習」などにおいて「提案
⑥地域の行事やまちづ くりに参加(協力)し てみたいか。
◎+○= %
②学習内容について,
自分の考えをもつこと ができたか。
◎+○= %
①地いきのれきしや文 化,行事などに興味・
関心がもてたか。
◎+○= 00%
③みんなの意見をまと める話し合いについ て,どうおもったか。
◎+○= 00%
他者との協働 合意形成
地域・社会へ の興味・関心 主権者意識 課題に対する
価値判断・意 思決定
社会 参画力
他者との協働 合意形成
地域・社会へ の興味・関心 主権者意識 課題に対する
価値判断・意 思決定
社会 参画力
図 社会参画力と質問紙調査結果の連関
※◎・〇はそれぞれ「よくできた」・「できた」の回答を表す
表 児童CのOPPシートへの記述
容 内 述 記
ル ト イ タ 習 学 時
第 1 時 みんなの力で 自分たちで,歌のかしを考えたことです。
第 2 時 歌の力で はんの人たちと,考えたことです。
第 3 時 いわきの自まん いわき市にはたくさんの特色,ほるる,ハワイアンズなどな ど,いろいろな特色があるいい地いきだと思った。
第 4 時 すてきな歌で みんなでたくさんある中から 2 つを決めて,歌詞を考えたこ とです。
第 5 時 特色の中で サンシャインマラソンとハワイアンズのたくさんの特色を選ん だことです。
第 6 時 いわきの人々 地いきの人々は,いわきの特色(み力)を大切にしてまちづ くりをしていると思いました。
【学習前】
◎ 地域の人々は,どんなことを考えて,
町づくりをしているのだろうか。
ゴミ拾い
【学習後】
◎ 地域の人々は,どんなことを考えて,
町づくりをしているのだろうか。
地域の人々はでんとうを 大切にして町をつくっている。
学習前と学習後の内容をくらべて,思ったことや感じたことを書きましょう。
学習前はゴミ拾いしかかけなかったけど,社会のじゅぎょう でいっぱいいろんなことをまなんで学習後はいっぱいかけた。
図4 児童DのOPPシート
※ゴシックが児童の記述
型社会参画学習」の実践は可能か,という課題である。
それぞれの単元における学習の目標や内容を見極め,
どの単元において「提案型社会参画学習」の実践が可 能か,実証を図っていく必要がある。
₃点目は評価方法に関する課題である。本研究では
「提案型社会参画学習」における評価の観点や評価方 法の開発まで到達することができなかった。
₄点目はサンプル数による信頼性の問題である。授 業実践の対象児童は₁学級の21名であり,教科書の発 問分析も₁社のみの検討であったため,そこで得られ た₁つの結果から「提案型社会参画学習」が十全なも のであったと断定することは困難である。今後も授業 実践を継続して行い,「提案型社会参画学習」の有効 性を明確化していくことが求められる。
₅点目は,新学習指導要領(平成29年告示)からの 検討がなされていないことである。今後は新学習指導 要領の趣旨を反映し,他教科・他領域との関連を意識 した授業実践(カリキュラム・マネジメント)を展開 していく必要がある。
以上が筆者が指摘することができる課題である。こ れらの課題の解決に取り組み,「提案型社会参画学習」
を精緻化すべく研究を継続していく必要がある。
注
1 「教科書の発問」とは,教科書の見開き各ページに示 されている学習問題(問い)を指す。
2 本論における道徳は,平成29年度告示の次期学習指導 要領における道徳(「特別の教科 道徳」)ではなく,平 成20年度告示の現行学習指導要領(「道徳の時間」)を指す。
3 『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』
では「協働」ではなく「協同」の文言が使用されている ため,それにあわせてここでは「協同」を採用した。
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