• Tidak ada hasil yang ditemukan

穀類を汚染するかび毒デオキシニバレノールの分解微生物

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

Membagikan "穀類を汚染するかび毒デオキシニバレノールの分解微生物"

Copied!
3
0
0

Teks penuh

(1)

今日の話題

211

化学と生物 Vol. 51, No. 4, 2013

穀類を汚染するかび毒デオキシニバレノールの分解微生物

その利活用に向けて

植物病原菌である やそのいく

つかの類縁菌は,コムギ,オオムギ,トウモロコシなど の穂に感染し,穀類の最重要病害の一つである「赤かび 病」を引き起こす.発病した穂では穀粒の肥大化の阻害 や穂枯れが生じるとともに,穀粒にかび毒が蓄積する

(図1A).本病の発生は世界中で報告され,その経済的 被害は大きい.たとえばアメリカ合衆国ではかび毒を含 めた赤かび病による経済的損失は1990年代の10年間で 30億ドルにも及んだ.

赤かび病の病原菌が産生するかび毒のうち,最も高頻 度に検出され汚染が問題となっているのはデオキシニバ レノール(DON,図1B)である.DONは真核生物リボ ソームの 60S  サブユニットに結合し,タンパク質の生 合成を阻害する.穀粒に蓄積したDONは,コムギの防 御応答系を抑制し,赤かび病菌の感染拡大を助長す る(1).また,人畜が比較的高濃度のDONを摂取する と,嘔吐や下痢といった急性毒性症状が現れる.低濃度 であっても,長期にわたるDONの摂取は成長抑制や免 疫機能の低下といった慢性毒性症状を引き起こす.日本 では一部のコムギが比較的高濃度にDONに汚染されて いることが報告され,2002年に厚生労働省によりコム ギのDON暫定基準値  (1.1 ppm) が設定された.基準値 を超えた場合は出荷停止となる.

コムギでの赤かび病菌の感染とDONの蓄積は収穫の 2 〜3週間前までは化学農薬の使用による抑制が可能で ある.しかしながら,それ以降の化学農薬の使用できな い時期にも赤かび病菌の感染とDONの蓄積が進行する ことが近年明らかとなってきた.また,DONは熱・化 学安定性が高く,たとえば100℃でも分解しないため,

ひとたび穀粒に蓄積すると調理や加工工程での除去は困 難となる.そのため農業生産現場でDONを直接分解す る技術の開発が望まれており,物理的,化学的および生 物的分解法の研究開発が進められている.なかでも,

DON分解微生物を用いたDON分解法は,穀物の栄養成 分への影響や環境負荷が少ないこと,およびDON代謝 酵素の基質特異性によりDONの選択的分解が可能と考 えられることから有望視されている(2)

DON分解微生物(本稿ではDONを部分的に代謝する 微生物も含む)の研究としては,嫌気性細菌での解析が 先行しており,1997年にウシのルーメンより

 sp. BBSH 797株が分離された(3).その後,ニワトリ

の腸から 目, ,  , 

属のDON分解細菌が,計10株分離されている(3). これらの嫌気性DON分解細菌はDONを脱エポキシ化 し,毒性を低下させることが知られている.このうち,

BBSH 797株は飼料中のDON低減を目的とした飼料添 加物としてすでに製品化されている(2).一方で,穀類に 蓄積したDONの野外環境中での分解には好気性のDON 分解微生物が関与すると考えられ,これらの微生物を利 用した分解技術の開発が望まれる.DONはコムギにお いて赤かび病菌の感染拡大を助長することから,好気性 分解微生物を用いた栽培過程でのDON低減は,赤かび 病発病の抑制という大きな副次的効果が期待できる.し かしながら,筆者らの研究開始時点において好気性 DON分解微生物に関する報告は土壌由来細菌の1例の みに限られており(3),まずは多数の分解微生物を分離 し,分解能や分類,特性を解明する必要があった.ここ では分離された好気性DON分解細菌のユニークな系統

図1赤かび病被害粒に蓄積するデ オキシニバレノール DON

(A) コムギの健全粒(左)と赤かび病 被害粒(右).写真のような被害粒は 通常DONを含む.(B) DONの構造.

(A) (B)

(2)

今日の話題

212 化学と生物 Vol. 51, No. 4, 2013

分布とDON分解機構,およびその利用の展望について 紹介する.

筆者らはコムギの葉,穂および土壌にDONが蓄積さ れると予想し,これらを分離源とした集積培養を行うこ とで計15株の好気性DON分解細菌を分離した(3〜5) (図 2.結果的に,いずれの環境サンプルからも分解細菌が 得られたが,穂についてはそのまま分離源として用いる だけでは成功に至らず,あらかじめDONを噴霧処理し た穂を分離源に用いることで分解細菌の分離を達成し た(5).分離できた要因として,DON噴霧によりDON分 解細菌が植物体上で  集積されたことが考えられ る.得られたDON分解細菌は 綱 

属(と そ の 近 縁 種 で あ る 属) と

α

- 綱 属に分類された.なお,近年 の16S rDNA配列情報から,筆者らの研究以前に分離さ れた細菌も 属近縁種であることがわかった.す なわち,これまでに陸圏で分離された好気性DON分解 細菌は系統的にかけ離れた2つのグループのみに分類さ れることが明らかになった(4, 5) (図2).では,2つのグ ループのDON分解機構は同じなのであろうか? 答え は否で,液体中でのDON分解機構は以下の3つの点で 異なった(4).①DONの資化能について,

属細菌は資化能をもつが, 属細菌はもたなかっ た.②DON分解活性の発現様式について,

属細菌はDONの存在により分解活性が誘導された が, 属細菌はDONの存在によらずDON分解活 性を発現した.③DON代謝経路について,いずれの分

解細菌もDONの異性体である3- -DONを生成したが,

そのほかにも両細菌グループでは互いに異なる代謝産物 が検出され,異なる分解経路を有することが示唆され た.以上から2つのグループのDON分解細菌は独立に DON分解機構を進化させてきたと想定される.なぜ,

系統的に極めて限られたグループに属するDON分解細 菌のみ分離されてきたのかはたいへん興味深い.これら の分解細菌に特有のDONの取り込み機構や代謝酵素に 起因するのかもしれない.

分離された好気性DON分解細菌のうち,コムギ穂由 来の 属細菌については,汚染穀粒への接種 によりDONを暫定基準値以下まで低減できることを実 験室レベルで証明した(5).現在,畑で栽培中のコムギ上 でのDON分解試験研究も進行しており,これが成功す れば,農産物生産現場でのDON分解技術の確立に向け た大きな前進となる.

筆者らは最近,霞ヶ浦の湖水からも好気性DON分解 細菌の分離に成功した(6) (図2).本菌は

属に分類されたことから,まだ一例のみではあるが,陸 圏と水圏ではDON分解細菌の系統分布が異なることが 示唆された.DONの環境中での動態はほとんどわかっ ていないが,ヨーロッパでは河川からDONが検出され ている.DON分解細菌がコムギ,土壌,湖水から分離 されたことはDONが環境中に広く分布していることを 意味しているのかもしれない.DON分解微生物の有す るDON代謝酵素遺伝子群は遺伝子資源としても重要

で,筆者らはすでに 属細菌と 属

細菌からのDON代謝酵素遺伝子の単離に成功してい る(6) (一部未発表).以上の研究成果を基盤として,

DON分解微生物を用いた穀類上でのDON低減,DON 代謝酵素を用いたDONを検出するバイオセンサーの開 発,DON代謝能を有する遺伝子組換え作物の作出など さまざまな応用の展開が考えられる.

謝辞 : 本稿で紹介した筆者らの研究の一部は農林水産省委託プロジェク ト研究「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明と リスク低減技術の開発」の成果である.

  1)  C. Jansen, D. von Wettstein, W. Schäfer, K-H. Kogel, A. 

Felk  &  F.  J.  Maier : , 102

16892 (2005).

  2)  J.  He,  T.  Zhou,  J.  C.  Young,  G.  J.  Boland  &  P.  M. 

Scott : , 21, 67 (2010).

  3)  P.  Karlovsky : ,  91,  491 

(2011).

  4)  I. Sato, M. Ito, M. Ishizaka, Y. Ikunaga, Y. Sato, S. Yoshi-

da, M. Koitabashi & S. Tsushima : , 

図2これまでに分離された好気性DON分解細菌株の分離源と 系統

(3)

今日の話題

213

化学と生物 Vol. 51, No. 4, 2013 327, 110 (2012).

  5)  M.  Ito,  I.  Sato,  M.  Koitabashi,  S.  Yoshida,  M.  Imai  &  S. 

Tsushima : , 96, 1059 (2012).

  6)  M. Ito, I. Sato, M. Ishizaka, S. Yoshida, M. Koitabashi, S. 

Yoshida  &  S.  Tsushima : , 79

1619 (2013).

(佐藤育男,伊藤通浩,農業環境技術研究所)

プロフィル

佐藤 育男(Ikuo SATO)    

<略歴>2003年千葉大学園芸学部生物生 産科学科卒業/2005年千葉大学大学院自 然科学研究科博士前期課程修了後,日東製 粉株式会社/2006年農業環境技術研究所 研究助手/2007年筑波大学生命環境科学 研究科博士課程入学/2010年同大学博士 課程修了後,農業環境技術研究所特別研究 員,現在に至る<研究テーマと抱負>微生 物を用いた植物病害防除,微生物の代謝機 能の解明とその利用<趣味>テニス

伊藤 通浩(Michihiro ITO)    

<略歴>2002年東京農工大学農学部環境 資源科学科卒業/2004年東北大学大学院 生命科学研究科博士前期課程修了/2008 年同大学大学院生命科学研究科博士後期課 程修了/同年農業環境技術研究所特別研究 員/2013年4月早稲田大学先端科学・健康 医療融合研究機構次席研究員<興味をもっ ていること>微生物の進化,生態,活用お よび制御<趣味>野球,旅行,ラーメン屋 めぐり

Referensi

Dokumen terkait

植物の根全体に,根粒菌を含む液体を与えて感染させ る.しかしBauerらは,根粒菌を根全体に感染させるの ではなく,局所的にスポットする手法で感染させ,その 後根粒形成ポテンシャルを評価した2.その結果,根は いずれの場所においても均等に根粒形成能をもつのでは なく,場所により根粒が形成されにくい部位とされやす い部位があることがわかった.特に,根端の近くの根毛