第 11 章 エネルギーの保存則
保存則としては質量の保存則、運動量の保存則とここで説明するエネルギーの保存則の三つで、
これらが基本的な保存則です。これ以外にも保存則と称される式が出て来ることがありますが、特 定の問題に対するもので、力学の基本的な保存則とは異なります。
質量・運動量・エネルギーの保存則は全ての力学の基本的な保存則になります。
ここでは定常流に対するエネルギーの保存を表したベルヌーイの定理について説明します。
11.1 定常流に対するエネルギー保存則
まず、非圧縮性流体・定常流を仮定してエネルギー保存の式を求めます。
定常流を対象とする場合、流管を用いる と簡単に考えられるので、右図のような「極 めて細い」断面積の流管を考えます。
流管の途中に流管に対して垂直に断面 I と断面IIを考えます。この断面I、IIと流 管で囲まれた領域に対してエネルギーの保 存を考えましょう。
I
I
II
II v
v
dA
dA
I I
II II
ここでは図のように、右上の方向に流れる場合を考えます。定常流なので、流管の形状や位置 は時間によって変化することはなく、時間的に一定です。また、流管は流線の束ですから、流管の 外部から内部へ流体が流れ込むことも、流れ出すこともありません。ですから速度は流管(流線) 方向への流速vだけを考えれば十分です。速度の方向は常に流管方向(流線の接線方向)なので、
流速は大きさのみを表すスカラー表示にします。
エネルギー保存則を表すと以下のようになります。
定常流では対称とする領域に外部から流入するエネルギー量と外部から成された仕事 量の和は0に等しい。
「対象とする領域に外部から流入するエネルギー量と外部から成された仕事量の和」が0以外の値 を持つと時間的に領域内のエネルギーが時間的に変化することになります。これは定常流の仮定 に反します。エネルギー保存の時に注意すべきことは、エネルギーが外部から成された仕事によっ て増加するということです。
11.1.1 仕事とは
先に進む前に「外部の流体がする仕事」について確認しておきます。
外力F が作用しているときに、この外力Fに逆らって、外力の作用方向と逆向きに距離Lだけ 物体を動かしたとき、F Lの仕事をしたと言います。外力Fを作用させている物体はF Lの仕事 をされたことになります。このとき物体はF Lだけエネルギーが増加します。
例えば、質量M の物体を右図のように支えている状態から、
鉛直上向きにhだけ上に揚げた場合を考えましょう。支えている 人は物体からM gの力で下向きに力を受けており、この力に対し て力とは逆向きにhだけ物体を動かしたので、M g×hの仕事を したことになります。物体は移動する前の状態に比べてM g×h の仕事をされたことになります。この結果、物体はhだけ高く なってよりM ghだけ、位置エネルギーが増加しています。
仕事を「された」側はエネルギーが増加し、「した」側はエネ ルギーが減少します。
h
Mg
11.1.2 外部から流入するエネルギー
微小時間∆tの間に、対象とする領域内に外部から流入する流体は、断面Iからの流入と断面II から流出する流体の差で表される。まず、断面I から流入する流体の体積は
vI∆tdAI
で表される。流入する流体の単位体積当たりのエネルギーをEIとすると、流入するエネルギーは EI×vI∆tdAI
となる。同様に、断面 II から流出するエネルギーは次のようになります。
EII×vII∆tdAII
ここで、単位体積当たりの流体の持つエネルギーとしては、力学的エネルギーとして運動エネル ギーと位置エネルギーの二つがあるので、両者を足し合わせたエネルギーを考えれば良い。した がって、Eは次のように定義できる。
E= 1
2ρv2+ρgz
対象とする領域に流入するエネルギーは以下のようになる。
µ1
2ρvI2+ρgzI
¶
vI∆tdAI− µ1
2ρvII2 +ρgzII
¶
vII∆tdAII (11.1)
11.1.3 外部の流体との仕事
対象とする領域の流体は外部の流体と「仕事」を「する」「される」ことによってエネルギーの やり取りを行います。
まず断面Iでは内部の流体が外部の流体をpI×dAIで、流れと逆向きに押しています。これに 対して外部の流体は内部の流体をvI∆tだけ押し込みます。したがって、内部の流体が外部の流体 によって
pIdAIvI∆t
だけの仕事を「された」と考えることができます。今対象としているのは内部の流体ですから、内 部の流体が「された」または「した」仕事を考えます。
断面II では、外部の流体が内部の流体をpII×dAIIで、流れと逆向きに押しています。これに 対して内部の流体は外部の流体をvI∆tだけ押し込みます。したがって、内部の流体が外部の流体 に対して
pIIdAIIvII∆t
だけの仕事を「した」と考えることができます。
対象とする流体(内部の流体)は仕事を通じて、微小時間の間に
pIdAIvI∆t−pIIdAIIvII∆t (11.2)
のエネルギーを獲得したことになります。
11.1.4 ベルヌーイの定理
『対象とする領域内に外部から流入するエネルギー量と外部から成された仕事量の和は0に等 しい。』ことから、エネルギー保存を表す以下の式が成り立ちます。
µ1
2ρvI2+ρgzI+pI
¶
vI∆tdAI− µ1
2ρvII2 +ρgzII+pII
¶
vII∆tdAII = 0 (11.3) いま対称としているのは非圧縮性流体・定常流ですから、質量保存則は流管内の流量が一定であ ることを意味します。すなわち、
vIdAI =vIIdAII
が成り立ちます。これを用いてエネルギー保存の式を書き換えると、
1
2ρvI2+ρgzI+pI= 1
2ρv2II+ρgzII+pII (11.4)
が得られます。これを定常ベルヌーイの定理といいます。断面 IとII は流管のどの位置にあって も結果は変わらないので、同じ流管内であれば
1
2ρv2+ρgz+p=一定 (11.5)
と書くことができます。いま考えている流管は極めて細い断面ですから,一本の流線上と同じと見 ることができます。したがって,同一流線上で上式が成り立つと考えることができます。
11.1.5 位置エネルギーと重力による仕事
この誘導では仕事を考えるときに重力にる仕事を無視しています。仕事のことだけを考えるので あれば、圧力による力に対抗した仕事と同様に、重力に対抗した仕事も考えなければ不自然です。
ここで用いたエネルギー保存では、単位体積当たりの流体の持つエネルギーE として、運動エ ネルギーと位置エネルギーの和を考えています。位置エネルギーをエネルギーとして考えること と、重力に対抗してする仕事は実は同じものなのです19。もし、単位体積当たりのエネルギーとし て運動エネルギーだけを考えるのであれば、仕事として、重力に逆らってする仕事の量を加えな ければなりません。どちらで考えても同じ結果が得られます。後者の方法では若干式の誘導が面 倒になるので、ここでは位置エネルギーを加えた単位体積当たりの流体の持つエネルギーEを用 いて考えました。
19このような性質を持つ外力をポテンシャル外力と呼びます。
11.2 定常ベルヌーイの定理 11.2.1 エネルギーと水頭
通常水理学ではエネルギーを水頭(water head)という長さの単位で表します。これは式(11.5) をρgで除し、長さの単位に変化して表示したものです。各項をそれぞれ速度水頭,位置水頭,圧力 水頭と呼び,すべてを加えた量を全水頭といいます。
また、位置水頭と圧力水頭の和をピエゾ水頭といいます。11.1.5節で説明したように、この2つ は外力による仕事を表しており、外力による仕事(ピエゾ水頭)と運動エネルギー(速度水頭)の 和が一定と考えるほうが現象が理解しやすい場合があります。
z 全水頭}| {
v2
|{z}2g
速度水頭
+ |{z}z
位置水頭
+ p
|{z}ρg
| {z圧力水頭}
ピエゾ水頭
=一定 同一流線上でのみ一定 (11.6)
と表わすことができる。この式を 定常ベルヌーイの定理(式) と呼ぶ。
ベルヌーイの定理は 流れが定常であるとき同一流線上で全水頭が一定 であることを意味しま す。
11.2.2 圧力水頭の意味
圧力はこれまで『流体によって単位面積に働く力の大きさ』と考えてきた。ところが定常ベル ヌーイの式においては圧力は単位体積の流体の持つエネルギーでなければならない。まず、次元 を考えてます。各物理量の次元は次のようになっている。
密度ρ 流速vs 圧力 p 力 エネルギ- 次元
"
M L3
# "
L T
# "
M L T2
1 L2
#
[N] [N L]
これらを用いて考えると
エネルギー 次元
運動エネルギー
"
M L3
# "
L2 T2
#
=
"
M L T2L 1
L3
#
=
"
N L L3
#
位置エネルギー
"
M L3
# "
L T2
# [L] =
"
M L T2L 1
L3
#
=
"
N L L3
#
圧力
"
M L T2
1 L2
#
=
"
M L T2L 1
L3
#
=
"
N L L3
#
となって、エネルギーの次元が[N L](力×距離)であることから、圧力の次元も、他のエネルギー と同じく単位体積当たりのエネルギーの次元と等しいことが分かる。つまり圧力は『単位面積当
たりの力の大きさ』であると同時に『単位体積当たりのエネルギー』でもあり、両方の意味を持っ ていることになる。
では、圧力はどんなエネルギーと理解すれば良いのだろう?
これに対する明確な答えはなく、強いて言うなら、「内部エネルギー」のような用語がもっとも 近いイメ-ジだと思います。内部エネルギーとは力学的なエネルギーではないが、運動(流れ)の 中で力学的なエネルギーに変化しうるエネルギーを意味していると理解すれば良いでしょう。水 理学で扱うのは力学的な運動のみであり、力学的なエネルギーには運動エネルギーと位置エネル ギーしかありません。これ以外のエネルギーで、条件が整えば力学的なエネルギーに変換される エネルギーを内部エネルギーと考えれば、圧力が『単位体積当たりのエネルギー』としての性質 を持つことが理解できると思います20
20圧縮性流体の場合には圧力と熱エネルギーとの関係を表す状態方程式が基礎方程式に加えられる。つまり、圧力の 大きさと流体の温度が一定の関係で結びつけられており、内部エネルギーとしての圧力の正体は熱エネルギーであると いうことになる。しかし、水のような非圧縮性流体では、非圧縮性を仮定した時点で、熱エネルギーを無視して考える ことになる。したがって、圧力は内部エネルギーのような良く分からないエネルギーとして理解するしかない。
高校の化学でボイル-シャルルの法則として、気体の熱エネルギーに関して P V =nRT
という式を学んでいる。ここでP;気体の圧力、V;気体の体積、n;モル数、R;ガス定数、T;気体の絶対温度(◦K)で ある。これは温度T、nモルの熱エネルギーnRTが気体の圧力と体積の積P V に等しいことを表す式である。すなわ ち、圧力は単位体積の気体が持つ熱エネルギーnRT /V であることを示している。液体の場合には気体と比べて比熱が 非常に大きく、液体の温度と圧力が結び付くような熱力学的な考察は現実的ではなく、このボイル-シャルルの法則を 当てはめる必要はない。しかし、同じ流体であるので、圧力が単位体積当たりのエネルギーであるという概念は熱力学 的な考察からも学ぶことができる。
第 12 章 定常1次元解析−その1
ここでは これまでに学んだ質量保存則,エネルギー保存則を完全流体の定常流に適用します。流 れが複雑な場合は難しいのですが, 一方向に流れる流れの場合には比較的簡単に流れの解析がで きます。特に,単純なパイプ内の流れや単純な川の流れの場合21には流れの方向が一方向に定めら れ,これまでの保存則を簡単に適用し,流れを解析できます。パイプ内の流れはパイプ内部が流体 で満たされている場合のみを考えます。川の流れは水面があり,開水路流れと呼びます22。
本章では,このような単純な場合を想定し,非圧縮の流体を対象として二つの保存則を用いて流 れを解析する方法を説明します。
12.1 基礎式の確認
完全流体で定常流を仮定するので,質量保存則(あるいは連続式)は流れのどの場所でも断面を通 過する流量 Q(単位時間の間に断面を通過する体積)が一定であることを意味します。したがって, Q=一定 です。
エネルギー保存則としては定常ベルヌーイの定理を使うことになりますが,厳密に扱うならば定 常ベルヌーイの定理を流れの断面内で断面平均を求める必要があります。しかし,一般的には解析 が単純になるようないくつかの仮定を設けて,簡単に定常ベルヌーイの定理を適用できるようにし ます。
12.2 トリチェリの定理
定常ベルヌーイの定理を使うときに、良く用いる特別な点が2点ありますが、このトリチェリ の定理にはその2点が表れています。貯水池内の水面と空中放流です。
貯水池 貯水池はそれに続くパイプや河川の断面と比べて流れに対する断面積が非常に大きい と考えます。このため、貯水池から流出(あるいは流入)するパイプや河川への流出口(あるい は流入口)から十分に離れた貯水池の水面では、その流速はほぼ0に等しいと見なします。貯水 池には十分な水量があり、貯水池の水面位置は時間的に変化しないとして扱います。貯水池の壁 を片側しか描かないのはこのことを示すためです。しかし、流出口(あるいは流入口)からは水 が流出(あるいは流入)しているので、貯水池の水面から流出口(あるいは流入口)へと流線は 繋がっていると見なします。また水面の圧力は大気圧に等しく、ゲージ圧を用いるので、水面で の圧力は0です。
以上のことから、貯水池の水面は速度水頭と圧力水頭が0なので、位置水頭だけが値を持ちま す。位置水頭の基準点から水面までの高さが分かれば、貯水池の水面における全水頭の値が定ま ります。同一流線上では全水頭が一定ですから、水面から延びる流線上の全水頭が決まります。
空中放流空中へ放流する場合、放流された水の周りは大気圧なので、放流された水柱の周りの 圧力は当然0になります。水中の中央部の圧力だけが大気圧とかけ離れた値を持つことは考えに くいので、空中放流では放流された直後から圧力はいたる所で0であると考えます。
21同じパイプでもパイプが分岐していたり,途中に貯水池があると複雑になります。川の流れも川が合流していたり, 分岐したりすると複雑になります。また実際のパイプなの流れや川の流れは粘性による摩擦の影響でエネルギー保存則 が単純に適用できなくなります。
22パイプ内の流れに水面がある場合は開水路流れとして扱うことができます。
A
B h
z=0
図のように位置水頭の基準点z= 0を貯水池の水底 に置く。水面上の一点Aと流出口Bは同一流線上に あるので、この2点間に定常ベルヌーイの定理を用 いる。
vA2
2g +zA+pA ρg = v2B
2g +zB+ pB ρg
水面上の点AではvA= 0, pA= 0であり、流出口B は空中放流なので、pB = 0である。
また、zA=zB+hの関係がある。
これらを定常ベルヌーイの定理に代入すると zB+h= vA2
2g +zB
これより、流出口の流速vBは vB=p
2gh となる。
12.3 パイプ内の流れへのベルヌーイの定理の応用
パイプ内の流れにベルヌーイの定理を応用することを考えます。当然定常流と仮定できなけれ ばいけません。 通常、パイプは十分細い流管であると考えます。
つまり、パイプ内の流速はパイプの断面方向には変化が小さく、パイプ内の流速は断面方向に 変化しないとします。つまりパイプ中央部の流速vはパイプ内の断面平均流速v¯として用いても 実用上問題がないと考えます23。
位置水頭を考えるのもパイプの中央の位置になります。圧力水頭についても同じです。
• パイプの中央を通る軸を仮想的な流線とし、流線上のベルヌーイの定理をそのまま適用し ます。
• パイプに適用するときはパイプの図心位置(パイプ中央)でのz座標を用いる。
• 圧力「パイプの図心位置」(またはパイプ中央)の圧力を用いる。
• 流速は断面平均流速と考える。
ピエゾ水頭は1次元解析では重要な概念になります。例題や問題を解くときはピエゾ水頭に注目 すると理解し易くなる場合が多いでしょう。
23水理学bでこの点について少し修正を加えます。それまではこの考え方でOKです。
12.3.1 ベンチュリ管
ベルヌーイの定理の応用例として図のような水 平に置かれた円管を考えます。管の中央部分は少 し断面積が小さくなるように絞られています。こ の縮小部と元の断面積の部分にマノメータと呼ば れる細いパイプが付いています。このような管に 設けられた縮小部をベンチュリメーターと呼び, この部分で管に流れる流量が計測できます。
A h
h
B A
B
マノメータは一般に柔らかく透明なビニルパイプが使われます。マノメータは管と垂直に接続 され,他端は管より十分高い位置で,鉛直に立てて使用します。マノメータは単純なパイプですの で,鉛直に立てられた端部は開いていて,内部に空気が入ります。一方, 管との接続部から流体は マノメータ内部に流れ込みますが,時間が経つとマノメータの内部の流体は静止し,鉛直に立てた 部分に静止した水面が見えるようになります。マノメータ内の流体は静止しているので,当然圧力 は静水圧になります。管とマノメータの接続部では,接続部のマノメータ側と管側で圧力は等しく なっています24。
管路にベルヌーイの定理を用いるときは管路の中央部の圧力を使いますので,知りたいのは管路 中央部の圧力です。管路の内部は軸方向にのみ流れていると考えられるので,管路内の圧力の断面 方向の変化はすべて静水圧的であると考えられます。マノメータ内部は静止しているので,管路中 央部からマノメータ内の水面までの高さhを用いて,管路中央部の圧力pは,p=ρghとして求め ることができます。
以下教科書3.2.3を参照
12.4 川の流れへのベルヌーイの定理の応用
定常な流れと見なすことのできる開水路流れ(水理学で川の流れを意味する用語です)にベルヌー イの定理を適用するときには,通常水路床(水底を意味します)を仮想的な流線とみなし,この流線 上(水底)での位置水頭と圧力水頭を用いると分りやすくなります。開水路流れでは, 圧力は鉛直 方向に静水圧的な分布をすると仮定します。また,速度水頭は断面平均流速で(あるいは流量を利 用して)表示します25。
これは,圧力が静水圧的分布をすると仮定したことにより,どの流線を選んでも位置水頭と圧力 水頭の和 − 水理学でピエゾ水頭と呼ぶ − は同じ値をとるからです。つまり流れの中央を通る流 線も水底を通る流線もピエゾ水頭(位置水頭+圧力水頭)は同じになります。したがって,仮想的な 流線としてどのような流線を選んでも,流速として断面平均流速を用いれば,全水頭は同じ値です。
24もし,圧力差があるなら接続部分で流速が発生し,マノメータ内部は静止している事と矛盾します。つまり,マノ メータの接続部での圧力が分れば管路の圧力も分ることになります。
25開水路流れでもパイプの場合と同じように断面平均したベルヌーイの定理を使います。上で述べた方法で水頭を表 すと,断面平均したベルヌーイの定理を使っていることになります。
z=0 h
z U
圧力水頭
位置水頭
ピエゾ水頭 仮想流線
開水路の場合に水底を通る仮想的な流線上でベル ヌーイの定理を用いた場合を考えましょう。まず,位 置水頭は図のように水路床の基準面からの高さを表 すことになります。また, 圧力水頭は圧力が静水圧 的分布をすると仮定しているので, 水底での圧力は 水深hを用いて
p=ρgh
となります。つまり, 圧力水頭は水深 hを表すこと になります。
開水路において川幅Bが一定の場合は, 単位幅当たりの流量q(= Q
B)を用いると便利な表示が できます。流量Qは断面平均流速U と流水断面積(A=B×h ;流積ともいう)の積Q=U ×A なので,単位幅流量qは断面平均流速U を用いて,q =U ×h となります。さらに単位幅流量qを 用いて速度水頭を表すと
U2 2g = q2
2gh2
となります。これらを用いて開水路流れの全水頭は q2
2gh2 +z+h
と表せます。定常流を対象にしているので質量保存より流量Qが一定ですから,もしも川幅B が 一定なら,単位幅流量qも一定になります。すると全水頭は水深と水路床高zだけで変化すること になります。
川幅が場所によって変化する場合には単位幅流量qの変わりに流量Qを用いて Q2
2gB2h2 +z+h
としたほうが便利かもしれません。
開水路では水路床を仮想的な流線と考えると,水頭表示が物理量を直接表すことになり便利です。
12.4.1 ベンチュリフリーム
教科書 の図 3.7のような開水路を考えます。図3.7は上が川幅の変化を示した平面図,下が断 面図です。水深を圧力水頭と理解すれば,管路のベンチュリ管とよく似た状態になっていることが 分ります。