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化学と生物 Vol. 51, No. 1, 2013 7

今日の話題

自家不和合性における「自己認識」と「非自己認識」

ナス科自家不和合性における非自己認識システム

被子植物の花の多くは,雄ずいと雌ずいをともにもつ 両性花であるため,自己の花粉が雌ずいにつきやすい構 造となっている.実際,イネやシロイヌナズナなど自己 の花粉と受精して種子を残す自殖性の植物も存在する が,多くの植物種は自己と非自己の花粉を識別し,自殖 を回避する自家不和合性と呼ばれる仕組みを発達させて きている.これは,自殖により引き起こされる悪い影響

(近交弱勢)を回避しうる,種の遺伝的多様性を維持し 有益な遺伝子を集団内に素早く浸透させうる,といった 自家不和合性のもつ利点が進化上有利に働いたためと考 えられている.自家不和合性は,一般に一つの遺伝子座

( 遺伝子座)によって調節されており,ここには構造 多型性を示す少なくとも2つの因子(雌ずい因子と花粉 因子)がコードされている.雌ずい/花粉因子をコード する複対立遺伝子のセットは,組み換わることなく単一 の遺伝子ユニットとして遺伝するため, ハプロタイプ 

12, …,  ) と呼ばれており,その数 (n) はアブラナ 科やナス科の自家不和合性種では50種類以上に及ぶこ とが知られている.そして,同じ個体の花の間ではもち ろん,別の個体であっても花粉と雌ずいが同一の ハプ ロタイプをもつ場合に受精が抑制される.この現象のメ カニズムの説明として,同一 ハプロタイプに由来する

「自己」の雌ずい因子と花粉因子が「鍵と鍵穴」の関係 で相互作用する場合に不和合反応が誘導されるという

「自己認識」モデルが予測された(1, 2)

さて,さまざまな植物種を対象に ハプロタイプの実 体解明が進められた結果,始めにアブラナ科の自家不和 合 性 種 で あ る カ ブ ( ) か ら 雌 ず い 因 子 

(SRK)/花粉因子 (SP11/SCR) の実体が明らかにされ

(1, 2).これらは,雌ずい表層の乳頭細胞膜上の受容体

型キナーゼと花粉表層に存在するリガンド様分子であ り, ハプロタイプごとに異なる多型性を示すことも明 らかにされた.さらに,同一 ハプロタイプに由来する 両因子のみが特異的に相互作用すること,その結果 SRKが活性化(自己リン酸化)され乳頭細胞内で自己 花粉への水の供給阻害などの不和合反応が誘導されるこ と,などがわかってきている.

その後,イギリスのグループにより,ケシ科の自家不

和合性種において雌ずい因子 (PrsS)/花粉因子 (PrpS) 

が同定されたが,それらは雌ずいに存在するリガンド様 分子と,花粉の細胞膜上に存在するチャネル様分子で あった.同一 ハプロタイプに由来する両者が特異的に 相互作用すると,花粉管内へのカルシウム流入が誘導さ れ,自己花粉がプログラム細胞死を起こすことが示唆さ れてきている(1, 2)

結局,アブラナ科植物とケシ科植物についての研究か らは,全く異なる自家不和合性の分子機構が明らかにさ れた一方で,同一 ハプロタイプに由来する雌ずい因 子/花粉因子が相互作用することで不和合反応を誘導す るという「自己認識」モデルの予想が正しいことも示さ れた(図1A).さらに,これらの植物では,雌ずい因 子/花粉因子をコードする複対立遺伝子が共進化してい ることが示され,両者が「鍵と鍵穴」の関係を保ちつ つ,多様な ハプロタイプが生み出されきたことが示唆 された.

ところが,最近ナス科の自家不和合性種の研究から,

自己認識モデルとは全く異なる自家不和合性機能の存在 が明らかとなってきた.ナス科植物においては,雌ずい 因子はリボヌクレアーゼ活性をもつ酵素 (S-RNase) で あることが古くに見いだされてきた.また,受粉した花 粉の内,自己花粉管内のRNAのみが特異的に分解さ れ,その伸長が停止することが示され,S-RNaseが自己 花粉管特異的な細胞毒として機能していることが示唆さ れてきた.なぜ非自己の花粉管のRNAは分解を受けな いのかが謎であったが,約10年前に花粉因子候補とし てF-boxタンパク質のSLF/SFB ( -locus F-box) が同 定されてきた.F-boxタンパク質は,一般にユビキチン- プロテアソームタンパク質分解系の分解標的分子の認識 にかかわることから,非自己花粉ではSLFが非自己S- RNaseの特異的ユビキチン化・分解を誘導するため花 粉管が伸長を続け受精できるとする「非自己認識」モデ ルが提唱された(3).これは,上記のアブラナ科/ケシ科 とは全く異なる自家不和合性機構の存在を想定するもの であり,本当に自己以外のすべての非自己の鍵穴を開け ることが可能な鍵がありうるのかなど,多くの議論を呼 んできた.また,S-RNase/SLFの間には共進化的な関

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化学と生物 Vol. 51, No. 1, 2013

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今日の話題

係が認められず,SLFが本当に花粉因子なのかさえ疑問 視されてきた(4)

筆者らは,ナス科ペチュニアを材料とする解析から,

まずS-RNaseが異なるのにSLFが100%同一の ハプロ タイプを見いだし,SLFが唯一の花粉因子とすると本植 物の自家不和合性を説明できないことを明らかにした.

さらに,花粉のトランスクリプトーム解析から,

は 遺伝子座上にただ一つ存在するのではなく,類似の 遺伝子が少なくとも6種類 ( - ) 以上存在する ことを見いだした.そして,形質転換実験により,その うち少なくとも3種類が花粉因子として非自己S-RNase の認識にかかわっていることを証明した.同時に,

の相互作用実験により,各々のSLFが特定の非自 己S-RNaseと相互作用することを明らかにする一方,い ずれのSLFも同一 ハプロタイプ由来の自己S-RNaseと は相互作用しないことも明らかにした(5) (図1B).

これらの事実から, 遺伝子座上には複数のSLF分子 がコードされており,これらが分担して数十種類に及ぶ 非自己S-RNaseを認識・分解しているというモデルを提 唱した.このモデルは,自己のものを除く非自己の多く の鍵穴をあけるために,複数の鍵を用意しているとイ メージできるだろう.筆者らはこのモデルを「協調的非 自己認識システム」 (Collaborative non-self recognition  system) と名づけた(5)

さて,このシステムでは,交配可能な相手を増加させ るために,すなわち多様な非自己S-RNaseを認識・分解 するために,SLFはその数を増しながら進化してきたも のと予測される.一方で,自己S-RNaseを認識・分解す

るSLFを獲得した場合には,自家不和合性が打破され て近交弱勢を招くことが予測されることから,そのよう なSLFは進化の過程で排除されてきた可能性も考えら れる.その後の解析により,ペチュニアの 遺伝子座に はさらに多数の の存在が示唆されてきており,今 後それらのゲノム塩基配列をさらに詳細に解析すること で,どのような経緯で多様な ハプロタイプが進化して きたのかが明らかになってくるものと期待している.

筆者らは,ナス科植物の雌ずい―花粉因子間の協調的 非自己認識システムを明らかにしたが,非自己花粉管が 特異的に伸長阻害を回避する仕組みについてはまだ仮説 の域を出ない.複数の研究グループが,SLFを含む  SCF (Skp1-Cullin-F-box) 型E3ユビキチンリガーゼ複合 体の存在を確認しているが,その構成についてはコンセ ンサスが得られておらず,また和合性受粉時に予想され る非自己S-RNase特異的なユビキチン化および分解につ いては,いまだ証明がなされていない.今後の重要な研 究課題である.

筆者らの発見は,自家不和合性に根本的に異なる2つ のタイプの認識機構,「自己認識」と「非自己認識」が 存在することを示した.自家不和合性という同じ現象を 多様なメカニズムが制御しているという事実は,植物の 進化において自家不和合性が複数回,独立して獲得され たことを物語っている.現在,そのほか多数の植物種に ついても 遺伝子座の解析が進められており,さらに新 しい自家不和合性機構の存在が示されると同時に,各々 の植物がこうした機構を獲得してきた進化の道筋がしだ いに明らかにされてくることが期待される.

図1A 自己認識型,(B 非自 己認識型自家不和合性の 遺伝子 座の構造模式図

雌ずい因子を四角,花粉因子を楕円 で示した.それぞれのタンパク質産 物間の相互作用を矢印で示した.図 の下に,アブラナ科,ケシ科,ナス 科において同定された各因子の分子 実体を示した.

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化学と生物 Vol. 51, No. 1, 2013 9

今日の話題

  1)  S.  Takayama  &  A.  Isogai : , 56,  467 (2005).

  2)  M.  Iwano  &  S.  Takayama : , 15,  78 (2012).

  3)  Z. Hua, A. Fields & T.-h. Kao : , 1, 575 (2008).

  4)  E.  Newbigin,  T.  Paape  &  J.  R.  Kohn : , 20 

(2008).

  5)  K. Kubo, T. Entani, A. Takara, N. Wang, A. M. Fields, Z. 

Hua,  M.  Toyoda,  S.  Kawashima,  T.  Ando,  A.  Isogai  : , 330, 796 (2010).

(久保健一,円谷徹之,高山誠司,奈良先端科学技術 大学院大学バイオサイエンス研究科)

プロフィル

久保 健一(Ken-ichi KUBO)    

<略歴>1995年東北大学工学部生物化学 工学科卒業/2000年東北大学大学院工学 研究科博士後期課程修了(工学博士)/同 年農業生物資源研究所博士研究員/2005 年奈良先端科学技術大学院大学博士研究 員/2011年長浜バイオ大学大学院博士研 究員/2012年奈良先端科学技術大学院大 学博士研究員,現在に至る<研究テーマと 抱負>非自己認識システムの分子メカニズ ムとその進化の過程について研究したい

<趣味>読書(特に村上春樹)

円谷 徹之(Tetsuyuki ENTANI)   

<略歴>1999年奈良先端科学技術大学院 大学バイオサイエンス研究科研究指導認定 退学/2000年学位取得/同年奈良先端科 学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 研究員,現在に至る<研究テーマと抱負>

自家不和合性におけるタンパク質間相互作 用の特異性の進化について今後調べたい

<趣味>料理

高山 誠司(Seiji TAKAYAMA)    

<略歴>1981年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1986年東京大学大学院農学系研 究科博士課程修了(農学博士)/同年味の 素株式会社中央研究所研究員/1995年奈 良先端科学技術大学院大学バイオサイエン ス研究科助教授/2001年同教授,現在に 至る<研究テーマ>植物の細胞間情報伝達 機構,自家不和合性<趣味>旅行

Referensi

Dokumen terkait

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