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謝罪場面における中国語母語話者の 日本語の音声表現及び意識

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早稲田大学大学院日本語教育研究科 修 士 論 文 概 要 書

論 文 題 目

謝罪場面における中国語母語話者の 日本語の音声表現及び意識

星 千尋

2017 年 9

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1

第1章 序論

本研究は、謝罪場面における中国語母語話者と日本語母語話者の間に生じる「音声表現」

の誤解の原因を明らかにした研究である。

本研究における問題意識は、筆者の経験から生まれた。日本で接客業に携わっていた筆 者の中国人の友人が「店内アナウンス」で商品を渡すため、お客様を呼び出した際に、お 客様から「あなた新人さん?もう少し、頑張って」と言われたという。さらに友人の上司 から「もう少し丁寧に話せない?お客様が不快に思うアナウンスはしないで」と注意され たのである。友人は「店内アナウンス」の「音声」から勤務期間が長いにも関わらずお客 様から「新人」という印象を持たれ、上司からは「丁寧に話せない?」と注意を受けた。

友人はお客様を呼び出すため、お待たせしたことを丁寧に伝えたくて言ったが、聞き手の お客様と上司は、友人の意図とは違う印象を持った。このことから中国語母語話者の話し 手が意識して発音した日本語が、聞き手の日本語母語話者には正しく伝わらず、誤解が生 じることがあると知り、興味を持った。

そのため、本研究では、「職場における電話の謝罪場面」を設定し調査を行う。調査場面 を設定した理由は 3 点ある。まず「職場場面にした理由」は日本国内において販売業で働 く留学生が多いためである。次に「謝罪場面にした理由」は、「音声」から謝罪の気持ちが 相手に伝わらなければ、相手の怒りを助長させてしまい、関係悪化にもなりかねないため である。そのような事態になれば、前述した中国人の友人のようにトラブルになる可能性 もなると考えられるためである。最後に、「電話の場面にした理由」は、音声のみに着目し 研究をしたいためである。以上の理由から本研究では「職場における電話の謝罪の場面」

を設定した。

本研究の目的は、中国語母語話者と日本語母語話者の間に生じる「音声表現」の誤解の 原因を明らかにすることである。そのために、以下のリサーチクエスチョン(以下 RQ)3 点を立てた。

RQ1 謝罪場面において中国語母語話者がどのように日本語の音声表現をしているのか RQ2 謝罪場面において日本語母語話者が中国語母語話者の音声表現を聞いて、どのよう

な印象を持つのか

RQ3 日本語母語話者がなぜRQ2のように判断したのか

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2 第2章 先行研究

第 2 章では、本研究と関連のある先行研究を整理した。具体的には「コミュニケーショ ンにおける音声教育」、「中国語母語話者の謝罪研究」である。

近年、日本語教育では「コミュニケーション」が重要視されており、音声の重要性につ いても注目されている。その研究成果として、小池(2000)、篠原(2011)、ケーシー(2014)、

辻田(2015)が挙げられる。以上の先行研究により、友人同士や職場における謝罪や配慮が必 要な場面において、身振り手振り、顔の表情ではなく、音声表現から相手に気持ちが伝わ らなかったり、マイナスの印象を与えてしまったりすることが明らかになった。

「中国語母語話者の謝罪研究」では、高橋(2005)、ボイクマン・宇佐美(2005)、山本(2004)、

佐竹(2005)が挙げられる。日本語母語話者と中国語母語話者における「謝罪表現の使い方の 違い」、「謝罪意識の違い」の研究が見られた。しかし、謝罪場面における先行研究から、「謝 罪場面における中国語母語話者の日本語の音声」に着目した研究は管見の限り見つからな かった。そのため、本研究で調査し明らかにしたい。

第3章 調査Ⅰ:中国語母語話者の日本語の音声表現調査

第 3 章では、調査Ⅰにおける調査結果、分析結果を述べる。中国語母語話者が謝罪場面 において、どのように日本語の音声表現をしているのかを明らかにしたものである。調査 協力者は、日本で接客経験があり上級レベル以上の日本語能力を持つ中国語母語話者 5 名 である。いずれも調査当時は、大学院生である。調査場面は、お客様に賞味期限の切れた 商品を売ったことに対する謝罪場面である。中国語母語話者は店員役、筆者がお客様役と なり、会話文を設定した。調査協力者には、謝罪場面で聞き手に気持ちが伝わるように会 話文を読んでもらい、録音した。次に、録音した発話を再生しながら、気持ちを伝えるた めにどのような音声表現をしたか、なぜそのような音声表現をしたか、について半構造化 インタビューを行った。そして、インタビューの録音データを文字化したものを分析対象 とした。調査結果から中国語母語話者は謝罪場面において、気持ちを伝えるために、「声の 高低」、「速度」、「声の長さ」、「息」、「ポーズ」、「声の大きさ」、「摩擦音」といった音声表 現をしていたことが分かった。

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3 第4章 調査Ⅱ:日本語母語話者の印象の調査

第 4 章では、調査Ⅱにおける調査結果、分析結果を述べる。調査Ⅰで録音した中国語母 語話者の音声を日本語母語話者が聞いて、どのような印象を持ち、なぜそのような印象と 判断したのかを明らかにした。調査協力者は、日本語母語話者5名である。5名とも、音声 の専門知識は有していない。さらに、本研究の調査場面である「スーパー」に来店するお 客様を想定し、年齢も職業も性別も異なるようにした。調査では、調査協力者に会話文を 配布し、調査場面を説明した後、調査Ⅰで録音した音声を聞いてもらい、会話全体の印象 と一発話ごとの印象について半構造化インタビューを行った。その結果、日本語母語話者 はプラスの印象とマイナスの印象を受けたことが明らかになった。それぞれの「印象」を 判断した理由は以下の音声表現によるものであった。

プラスの印象を与えた音声表現の特徴は以下の4点である。

1) 謝罪の気持ちを伝える場面では「低い声」を用いると気持ちが伝わる。

2) 謝罪の表現「大変申し訳ございませんでした」、「申し訳ございませんでした」では、

「抑揚」をつけて言うと謝罪の気持ちが伝わる。

3) 謝罪の表現「大変申し訳ございませんでした」は、「大変」を言う前に「息を吸う」

音声表現、もしくは「ポーズ」を入れる音声表現があると深い謝罪の気持ちが伝わる。

4) 謝罪の表現「大変申し訳ございませんでした」、「申し訳ございませんでした」は「ゆ

っくり言う」と謝罪の気持ちが伝わる。

マイナスの印象を与えた音声表現の特徴は以下の5点である。

1) 「~致します」、「~ございます」の「ます」を「まーす」と言い、「長音化」する音 声表現は、謝罪の場面において、よくない印象を与える。

2) 謝罪表現に「抑揚」がない音声表現は、謝罪の気持ちが伝わりにくい。

3) 謝罪で「高い声」を用いる音声表現は、謝罪の気持ちが伝わりにくい。

4) 急に「高い声」になる、急に「低い声」になる音声の変化は、良くない印象を与える。

5) ③と④と⑨の謝罪表現では、同じ音声表現に聞こえると謝罪の気持ちが伝わりにくい。

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4 第5章 結論

第 5 章では、3つの RQに対する答えとそれを踏まえた総合的考察、日本語教育への示 唆および今後の課題を述べた。

調査Ⅰと調査Ⅱから、RQ1、RQ2、RQ3の答えを述べる。

1) RQ1の答え

中国語母語話者は謝罪場面において、「謝罪の気持ち」、「丁寧さ」、「配慮する」といった 気持ちを込めるために、「声の高低」、「速度」、「声の長さ」、「息」、「ポーズ」、「声の大きさ」、

「摩擦音」の音声表現で伝えていたことが明らかになった。

2) RQ2の答え

日本語母語話者は中国語母語話者の音声表現を聞いて、「謝罪の気持ちが伝わった」、「誠 意がある」、「親身になって対応してくれている」といったプラスの印象を持った。しかし、

「謝罪の気持ちが伝わらなかった」、「客ではなく友達と話しているようだった」といった マイナスの印象も持ったことも明らかになった。

3) RQ3の答え

日本語母語話者は、「低い声」、「抑揚」、「息」、「ゆっくり言う」音声表現から、プラスの 印象を持った。しかし、「長音化」、「高い声」、「抑揚がない」、急に「高い声」や「低い声」

になる音声表現からは、マイナスの印象を持ったことが明らかになった。

以上 RQ の答えから、中国語母語話者と日本語母語話者の間に生じる「音声表現」の誤 解の原因は、以下の3点によると考える。

1) 中国語母語話者と日本語母語話者の「音声表現における意識」が異なる。

2) 中国語母語話者と日本語母語話者の「表現意図の捉え方」が異なる。

3) 中国語母語話者の音声表現の工夫が日本語母語話者に伝わっていない。

1)では、中国語母語話者と日本語母語話者の間で謝罪場面における「高い声」の意識が 異なる。さらに、「長音化」の意識が異なるため、誤解が生じたと考えられる。

2)では、中国語母語話者と日本語母語話者間で発話⑧〈はい。ありがとうございます。

ただ今すぐにお届け致します。〉、⑨〈はい、申し訳ございませんでした。失礼致します。〉

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に対する「表現意図の捉え方」が異なるため、誤解が生じたと考えられる。

3)では、中国語母語話者が謝罪の気持ちを伝えるために「抑揚」をつけて謝罪をしてい るが、日本語母語話者は、「抑揚がない」と判断し、「謝罪の気持ち」が伝わらないという 印象を持ったことが分かった。さらに、中国語母語話者は、3 回謝罪をする場面において、

謝罪の気持ちの強さによって音声表現を変えていたが、日本語母語話者は、3回とも同じ音 声表現に聞こえ、謝罪の気持ちが薄まると判断した。

以上の考察を踏まえ2点の日本語教育への示唆を述べる。

1)音声が与える印象の指導

本研究の結果を踏まえ、教師は、音声表現によって聞き手へ与える印象が異なることを 教える必要がある。例えば、「大変申し訳ござまいません」という一つの表現形式でも、「抑 揚」があるかないか、「高い声」か「低い声」か、によって聞き手に与える印象は様々であ る。従って、教師がモデル音声として「抑揚」がある場合、ない場合の両方を提示し、ど ちらが謝罪の気持ちが伝わりやすいかを授業で示すことが重要である。学習者が音声によ って気持ちの伝わり方が異なることを意識し、学習や会話の際に音声について留意するこ とが出来れば、マイナスの印象を与えることのないコミュニケーションができるのではな いかと考える。

2)抑揚の音声指導

本研究の結果から、「抑揚」の音声表現をクラスの中で指導する際、1)「抑揚」のある謝 罪表現、「抑揚」のない謝罪表現を教師がモデル音声として示し、どちらが謝罪の気持ちが 伝わるのか指導する。2)モデル音声で提示したあと、例えば手で上がり下がりを示しなが ら、視覚的に「抑揚」がわかるように提示する。このように、音声と視覚で「抑揚」を提 示ししていくことで、「上がり下がり」のある音声を実現させること、「抑揚」をわかりや すく指導することが望まれる。

本研究における今後の課題を 1 点挙げる。本研究では、中国語母語話者と日本語母語話 者の間で表現意図にずれが見られた。例えば、発話⑧「ありがとうございます」を中国語 母語話者は「感謝」と捉え、「高い声」で伝えたが、日本語母語話者は、「謝罪の気持ちを 込めてほしいから、高い声では伝わらない」と述べていた。中国語母語話者は、「ありがと

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うございます」を感謝の気持ちを伝える場面で使用すると捉え、謝罪の気持ちを伝える場 面で使用するとは捉えてない。しかし、日本語母語話者は謝罪の気持ちを込める発話と捉 えているため、両者に表現意図のずれが見られた。

本研究が示した最大の問題点は、中国語母語話者による日本語の表現形式と表現意図、

そして音声的実現のずれである。このことが冒頭で述べたような「誤解」が生じる原因に なったのである。今後の課題としては、このような問題を解決するために教育現場におい てどのような教育実践ができるのか、引き続き検討していくことが、コミュニケーション を重視した日本語教育において目指すべき方向性であると考える。

参考文献

小池真理(2000)「日本語母語話者が失礼と感じるのは学習者のどんな発話か「依頼」の場面 における母語話者の発話と比較して」『北海道大学留学生センター紀要』4,pp.58-80.

佐竹千草(2005)「日中語「謝罪」に関する一考察-母語話者の意識調査を通じて」『聖心女 子大学大学院論集』27(1),pp.159-182.

篠原亜紀(2011)「日本語学習者の『気持ちを伝える』音声と聞き手による評価-『申し訳な さ』を中心に-」早稲田大学大学院日本語教育研究科修士論文 未公刊

ケーシー万奈(2014)『企業の採用担当者は日本語学習者の自己 PR の音声をどう評価する か』早稲田大学大学院日本語教育研究科修士論文 未公刊

高橋優子(2005)「日本人と中国人のコミュニケーション方略に関して―『謝罪行為』に注 目して―」『文化外国語専門学校日本語課程紀要』18,pp.49-56.

辻田沙織(2015)「人間関係に配慮が必要な場面における音声表現と聞き手による評価」早稲 田大学大学院日本語教育研究科修士論文 未公刊

ボイクマン総子・宇佐美洋(2005)「友人間での謝罪時に用いられる語用論的方策―日本語母 語話者と中国母語話者の比較」『語用論研究』7,日本語用論学会,pp.33-44.

山本もと子(2004)「社会相互行為としての謝罪表現―言語表現選択の背景には何があるのか

―」『信州大学留学センター紀要』5,pp.19-32.

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