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黄色ブドウ球菌の2成分性膜孔形成毒素γヘモリジン ... - J-Stage

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136 化学と生物 Vol. 53, No. 3, 2015

黄色ブドウ球菌の 2 成分性膜孔形成毒素 γ ヘモリジンの膜孔形成メカニズム

失敗から明らかになった毒素の戦略

多くの病原性細菌は,宿主の赤血球を破壊するため に,膜孔形成毒素と呼ばれるタンパク質を分泌する.膜 孔形成毒素は,可溶性の単量体タンパク質として分泌さ れるが,赤血球に接すると,細胞膜上で膜孔中間体と呼 ばれる円状の会合体を形成した後,大きく形を変えて膜 孔と呼ばれる孔を空けて赤血球を殺傷する(1)(図1.興 味深いことに,膜孔を形成して細胞を殺傷するという手 段は,哺乳類の免疫系においても用いられており,した がって,膜孔形成はさまざまな生物が普遍的に用いる攻 撃の戦略であると言える(2).さらに,膜孔を分子が通過 するときに生じる電位の変化を利用して,膜孔形成毒素 はナノデバイスとして応用されており,実際にDNA シーケンサーが開発されつつある(3, 4).このように,膜 孔形成毒素は生命科学的だけでなく,工学的にも重要な タンパク質である.

数ある膜孔形成毒素の中で,古くから研究されてきた ものの一つが黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素である.黄 色ブドウ球菌は院内感染の原因菌として広く知られる細 菌であり,複数の種類の膜孔形成毒素を分泌して血球細 胞を破壊する.黄色ブドウ球菌が分泌する膜孔形成毒素 は主に2種類に分類される.一つは,1種類のタンパク 質の会合体として膜孔を形成する1成分性膜孔形成毒素 で,

α

-ヘモリジンがこれに該当する.もう一つは,2種 類のタンパク質が会合して初めて溶血活性を示す,2成 分性膜孔形成毒素で

γ

-ヘモリジンやロイコシジンがこれ に分類される.これらのメカニズムの解明に向け,さま ざまな研究が行われてきたが,X線結晶構造解析により 初めて原子構造が決定されたのは,1成分性毒素の

α

-ヘ モリジンの膜孔であった(図1.Song  (1996)の構 造)(5)

α

-ヘモリジンの膜孔はキノコ型の7量体の分子 で,

β

-バレル型の膜貫通領域を有していた.その後,2 成分性毒素の単量体の結晶構造が次々に発表され(6〜8), 膜孔形成に伴う構造変化の詳細が明らかになってきた

(図1).すなわち,単量体では折り畳まれていたステム 領域が,膜孔では大きく飛び出し,ほかのプロトマーと 会合して筒状の膜貫通領域を形成するのである.

ここまでが明らかになった頃に,膜孔の形について大 きな疑問が生じた.1成分性の

α

-ヘモリジンは7量体の

膜孔だったが,2成分性毒素の膜孔も

α

-ヘモリジンと同 様の7量体構造,すなわち,2つの成分であるにもかか わらず奇数個のプロトマーが会合するのか,それとも偶 数個のプロトマーから構成されるのかという疑問であ る.プロトマーの数については,20年近くにわたって 論争が繰り広げられたが,2011年に2成分性膜孔形成毒 素の

γ

-ヘモリジンの結晶構造が8量体であったことで決 着がついた(図1. Yamashita   (2011)の構造)(9)

γ

-ヘモリジン膜孔は,2つの成分(LukFとHlg2)がそ れぞれ交互に円状に会合して8量体を形成していた.

そして最近,

γ

-ヘモリジンの膜孔中間体の結晶構造が 決定された(図1. Yamashita   (2014)の構造)(10). これにより,単量体から膜孔中間体へと会合し,膜孔を 形成する一連の構造変化の詳細が明らかになった.膜孔 中間体の構造は,膜孔と非常に類似していたが,

β

-バレ ルの上部だけが形成されており,下部の膜貫通領域は構

図1黄色ブドウ球菌の膜孔形成毒素の作用機構の模式図(上 図)と,各状態の結晶構造解析の歴史(下図)

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化学と生物 Vol. 53, No. 3, 2015

造を形成していなかった.これは,

β

-バレルの上側と下 側が別々に形成されることを意味しており,膜孔中間体 ができたときには,

β

-バレルの上半分はすでにできあ がっていて,膜孔を形成するときには,実際に膜に突き 刺さる

β

-バレルの下半分だけが構造変化をするのであ る.膜孔は強い界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウ ム(SDS)存在下でも解離しない非常に安定な構造を有 するため,

β

-バレルは一つの構造単位と考えられてきた が,実は上下半分ずつ徐々に構築されるということは驚 きであった.

このように,膜孔,膜孔中間体の構造が立て続けに決 定されたことで,動的な分子メカニズムが一気に明らか になった.しかし,これらの構造解析の成功の陰には,

非常に重要な実験の失敗が存在することを最後に述べた いと思う.上述のとおり,膜孔形成毒素のうち,最初に 構造が決定されたのは,

α

-ヘモリジン(1成分性毒素)

の膜孔であった.だとすると,膜孔形成の分子メカニズ ムを解明するには,

α

-ヘモリジンの単量体の構造解析を すれば良いと思った読者の方も多いと思う.同様に考 え,Tanakaらは

α

-ヘモリジン単量体の構造解析に取り 組んだが,MPD(2,4-ジメチルペンタンジオール)の存 在下で得られた結晶の構造は7量体の膜孔であった(図 1. Tanaka   (2011) の 構 造)(11).こ の 結 果 か ら,

Tanakaらは,MPDが膜孔を自発的に形成する作用をも つ分子であることを見いだし,これを2成分性毒素の構 造解析に応用したのである.失敗とも言えるような結果 にヒントを得て,より困難な2成分性毒素の膜孔・膜孔 中間体の構造解析を達成させたことは,些細なことを見 逃さずに追求することの重要性を示す良い例と言える.

一連の研究により,単量体から膜孔に至る構造変化の 詳細が明らかになった.先述のとおり,膜孔は分子デバ イスとして応用されている.今後は,一連の研究により 明らかになった分子の動きを利用し,動く分子デバイス が開発されることを期待している.また,1成分性の膜 孔形成毒素については,単量体と膜孔中間体の構造がい

まだに決定されていない(図1.  クエスチョンマークの 部分).さらに詳しく膜孔形成現象を理解するためには,

これらの構造決定が重要となる.何らかの工夫を凝ら し,成功させたいと思う.

  1)  I.  Iacovache,  F.  G.  van  der  Goot  &  L.  Pernot: 

1778, 1611 (2008).

  2)  M. C. Peitsch & J. Tschopp:  , 3, 710  (1991).

  3)  Y. Astier, O. Braha & H. Bayley:  , 128,  1705 (2006).

  4)  A. Asandei, A. Apetrei & T. Luchian:  ,  24, 199 (2011).

  5)  L. Song, M. R. Hobaugh, C. Shustak, S. Cheley, H. Bayley 

& J. E. Gouaux:  , 274, 1859 (1996).

  6)  R. Olson, H. Nariya, K. Yokota, Y. Kamio & E. Gouaux: 

6, 134 (1999).

  7)  J. D. Pedelacq, L. Maveyraud, G. Prevost, L. Baba-Mous- sa, A. Gonzalez, E. Courcelle, W. Shepard, H. Monteil, J. 

P. Samama & L. Mourey:  , 7, 277 (1999).

  8)  V. Guillet, P. Roblin, S. Werner, M. Coraiola, G. Menestri- na, H. Monteil, G. Prevost & L. Mourey:  ,  279, 41028 (2004).

  9)  K. Yamashita, Y. Kawai, Y. Tanaka, N. Hirano, J. Kaneko,  N.  Tomita,  M.  Ohta,  Y.  Kamio,  M.  Yao  &  I.  Tanaka: 

108, 17314 (2011).

10)  D. Yamashita, T. Sugawara, M. Takeshita, J. Kaneko, Y. 

Kamio, I. Tanaka, Y. Tanaka & M. Yao:  ,  5, 4897 (2014).

11)  Y. Tanaka, N. Hirano, J. Kaneko, Y. Kamio, M. Yao & I. 

Tanaka:  , 20, 448 (2011).

(田中良和,北海道大学大学院先端生命科学研究院)

プロフィル

田中 良和(Yoshikazu TANAKA)

<略歴>1999年東北大学工学部生物化学 工学科卒業/2004年同大学大学院工学研 究科生物工学専攻博士課程後期修了/同年 北海道大学大学院理学研究科博士研究員/

2006年東京大学大学院新領域創成科学研 究科博士研究員/2008年北海道大学創成 研究機構テニュアトラック特任助教/2012 年同大学大学院先端生命科学研究院准教授

<研究テーマと抱負>タンパク質の構造機 能解析<趣味>野球・ゴルフ

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

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