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1 アメリカ経済・金融の構造的問題 - (1) 金融化モデルの破綻

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(1)

1 アメリカ経済・金融の構造的問題

(1) 金融化モデルの破綻

米サブプライムローン問題で明らかになったことは、米投資銀行による利潤率極大化モ デルの破綻である。それは同時に日本も含めて先進国共通の問題である。先進国の物的拡 大が終わったのは1974年である。物的拡大がピークをつけた同年、資本利潤率の代表であ る使用総資本事業利益率(ROA)がピークをつけているのである(1)

先進国1人当たりの粗鋼生産量がこの年ピークを迎えた。1998年以降、鉄の使用量が増加 に転じたが、それは新興国における需要増であって、先進国では現在に至るまで1974年の 水準を下回っている(第1図)。鉄の使用量は近代化のバロメーターである。近代化のプロセ スは都市化とモータリゼーションに現われるからである。農村から都会への人口移動をも たらす都市化の過程で、マンションブームが起きる。自給自足社会を基本とする農村社会 では移動は限られるが、都市生活者の移動範囲は飛躍的に広がり、自動車が普及する。1人 当たり粗鋼使用量が1974年にピークをつけたあと、30年以上にわたって、低下傾向にある

第 1 図 近代化のバロメーター1人当たりの世界粗鋼生産量 1.6

1.2

0.8

0.4

1950 530 56 59 62 65 68 71 74 0.91

0.84

77 80 83 86 89 92 95 98 2001 04 07

(トン/人)

(年)

 世界粗鋼生産量/先進国の人口。

(注)

 IISI(国際鉄鋼協会)Steel statistics より筆者作成。

(出所)

先進国の 近代化

途上国の 消費量

先進国の 消費量

(2)

ということは、物的な需要が飽和に達していることにほかならない。

このとき、同時に市場の対外膨張も限界に達したのである。1973年1月にパリでベトナム 和平協定が締結され、翌々年の1975年4月にサイゴンが陥落し、ベトナム戦争が終わったか らである。この年をもって、武力を背景として常に海外市場を開拓することで利潤を高め ていったヴァスコ・ダ・ガマ以来の西欧型資本主義の時代が終わったのである(2)。近代社会 と表裏をなす資本主義の行動原理は「より速く、遠くへ」である。利潤を極大化するには、

他の人よりもいかに速く、遠くへ行くかにかかっているのである。だから、資本主義の対 外拡張には、「火器搭載船」の開発によって可能となった15世紀の大航海時代、英国の産業 革命の技術によって開花した19世紀の鉄道と運河の時代、そして20世紀の自動車、いずれ も移動手段の発明が必ず絡んでいた。国内を移動するにも、国境を越える移動にも鉄が欠 かせない。都市化は中産階級を生み出し、自動車を筆頭に大量消費社会を実現させる。

1974年で物的拡大が終わって、利潤率の趨勢的低下が始まると、その打開策としてとら れたのは、「多機能化」、「高級化(大型化)」、そして「金融化」である。「多機能化」は1970 年代半ばから日本の電機機械産業で、「高級化(大型化)」は1980年後半から日本の自動車産 業で採用された。それが成功して、1987年以降、日本は米国を抜いて1人当たり国内総生産

(GDP)で事実上世界一を維持することができた。ところが、2001年に米国は日本を抜き返 したのである。それを可能にしたのが、1995年の「強いドル」政策であった。これによっ て、国際資本の完全移動性が実現し、米投資銀行が中心となって、世界の余剰マネーを米 国に集めて、株式や住宅など資産価格を値上がりさせて、経済を活性化する、いわゆる

「金融化」モデルが完成したのである。

「金融化」モデルのピークが2007年であり、翌2008年には米5大投資銀行の破綻と英国の 銀行国有化でこのモデルは事実上破綻したのである。「100年に一度の金融危機」(グリーン スパン前連邦準備制度理事会〔FRB〕議長)は、米自動車メーカー「ビッグスリー」を経営危 機に陥れ、3社は政府から公的資金を受け入れてかろうじて倒産を免れている。最も国際競 争力のあるはずだった日本の自動車メーカーと家電メーカーは赤字決算を強いられている。

「金融化」モデルの破綻は同時に「多機能化」と「高級化」モデルの破綻でもある。米国の 抱える問題は近代化のピークに達した先進国共通の問題だったのである。

(2) 21世紀の利子率革命と「空間革命」

1974年は16世紀以来の近代資本主義のピークだったのである。この年、既述のように先 進国1人当たり粗鋼使用量がピークをつけ、前後して先進国の合計特殊出生率が2.1を下回 った。先進国の内部において「前へ前へ」の運動が止まったのである。前年の1973年には ベトナム戦争のパリ和平で、西欧型資本主義の「外へ外へ」も限界に達した。そして、第1 次石油危機は16世紀以来の資本主義の安価な化石燃料への依存体質に打撃を与えた。資源 を安く仕入れて、高く売ること(高級化)ができなくなったからである。

こうした事態を象徴しているのが債券市場で決まる長期金利である。長期金利は利潤率 の代理変数であり、潜在成長率とおおむね等しい。1974年に先進国の長期金利は英国で 14%と、経済大国としては史上最高利回りをつけ、その後1997年以降日本で2.0%を下回り、

(3)

2003年には0.43%まで低下し、1619年のイタリアのジェノバがもつ過去最低利回り1.125%

を更新したのである(第2図)。しかも、2.0%以下で推移する期間が現時点で12年に及ぶと いう点で、17世紀にイタリアが記録した11年を更新しているのである。1974年を境に人類 史上最も利潤率が低下し、400年続いた近代資本主義がこれまでのシステムを維持できない ほどの危機に直面しているのである。

16世紀以来の近代資本主義が有している基本的な特徴は、資本(利潤)、国家(税収)、国

民(賃金)の三者の利害関係を基本的に一致させることにある。「インフレがすべての怪我 を癒す」システムなのである。1974年に先進国を襲ったスタグフレーション(インフレと景 気後退の同時進行)は、賃金と利潤を減少させたのであり、ケインズ主義に替わって新自由 主義が正統派経済学となった。金融・資本市場に最適資源配分機能をゆだねる新自由主義 はグローバル化と密接に繋がる。資本不足の米国が「金融化」で利潤率を高めるにはグロ ーバル化は必然であった。「金融化」は、米国内で「高級化」そして、新興国では先進国向 け輸出増を通じて「近代化」を促した。

21世紀のグローバリゼーションは、16世紀大航海時代のそれに匹敵する歴史的転換であ

る。グローバリゼーションはまったく異質な経済圏の市場統合プロセスであり、「空間革命」

(シュミット2006、62―64ページ)を引き起こす。21世紀と16世紀の共通要素は二つある。一 つは、追いかける経済圏(新興国)の人口のほうが先進国のそれを圧倒しているから(3)、先 進国のシステムは維持できなくなることにある。そして、もう一つは「海と陸のエレメン ト間の根源的な関係」(シュミット 2006、113ページ)が変化することである。16世紀には

「大陸から海洋への移行」であり、21世紀はおそらくその逆の移行が起きることになる。こ の二つはいずれも、先進国からみれば「新大陸の発見」にほかならないのである。

21世紀の「新大陸」は28億人のBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)をはじめとす

第 2 図 経済大国の金利の歴史的推移

14.0

12.0

10.0

8.0

6.0

4.0

2.0

0.0

1200 1300 1400 1500 1600 1700 1800 1900

(%)

2000(年)

スパニッシュ・

ネーザーランド

 Sidney Homer, A History of Interest Rates, 2nd ed., Rutgers University Press, 1977, 日銀『経済 統計月報』より筆者作成。

(出所)

伊ジェノヴァの 4―5年物国庫貸付金

オランダ

伊1.125%

(1619) 日本0.430%(2003/6/11)

米1.85%(1941)

英2.21%(1897)

(1974)

英国14.2%

(1981)

英国13.9%

日本10年国債

米国長期国債 伊9.0%

(1555, 66)

16世紀末の利子率革命 21世紀の

利子率革命 英国3%永久国債

(4)

る新興国である。これらの国は主としてユーラシア大陸の中央に位置するので、16世紀の ようにヨーロッパとアメリカ、インドを結ぶ海洋支配権を確保しなければ、利潤を英国な ど本国にもちこめなかったのとは異なり、21世紀は陸の支配へとエレメントが移行する可 能性が高い。「長い16世紀」(1450年から1650年)に起きたことは、21世紀のグローバリゼー ションの行方を考えるのに最適な教訓なのである。19世紀の「運河と鉄道の時代」におけ るグローバル化には前述の二つの特徴はみられず、16世紀の近代資本主義の延長線上であ った。16世紀以前に3回あったグローバル化(4)も二つの要素を満たしてはいないのである。

(3) 欧米の過剰債務調整は最低で5年

「長い16世紀」の中間点にあたる1553年に、「イギリスはみずからの存在を文字どおり陸

から海のエレメントへと移し変えたのである」(シュミット2006、61ページ)。ほぼ同じ時期 の1557年に、陸の帝国スペインの皇帝フェリペ2世が財政破綻宣言を行なった。これを境に スペイン世界帝国の凋落が始まり、「ヨーロッパ全体が、1590年前後に北方プロテスタント 諸国に向けて重心を移動させ」(ブローデル1988、362ページ)たのである。1557年のスペイ ン世界帝国の財政破綻宣言は、スペイン経済に打撃を与えたばかりか、当時の世界経済で あったヨーロッパ経済全体を躓かせたのである。

サブプライムローン問題が顕在化した2007年は、「長い16世紀」の1557年である(第1表)。

「長い16世紀」は小麦を中心として物価が高騰し、「価格革命」の時代であったが、1557年

第 1 表 歴史的転換期の16世紀と21世紀

1450年―1650年

(長い16世紀)

1968年―

(グローバリゼーションの21世紀)

内部システムの 決定的亀裂

システムの外からの 攻撃

フィレンツェ公会議 1439年 世界革命 1968年

イタリア・ルネサンス 1450年―

ビザンチン帝国の首都 コンスタンチノープル 陥落

1453年

ポスト・モダニズム

(大きな物語の終焉) 1979年

石油危機 1973年

「ジハード」宣言

(オサマ・ビンラディン) 1979年

技術革新 活版印刷技術

(グーテンベルク) 1455年 MPU (インテル)誕生 1971年 新時代の幕開け

(市場の開拓)

グレナダ陥落 アメリカ大陸「発見」

1492年 1492年

ベルリンの壁崩壊 1989年

精神革命 宗教改革 1517年 ハイエク、新自由主義 1974年

貨幣革命 ポトシ銀山発見 1545年 「強いドルは国益」 1995年 旧体制、大打撃を被る ローマ劫掠 1527年 米同時多発テロ(9・11)

旧体制の敗北と挫折

旧体制を揺るがす 経済危機

アウクスブルクの宗教和議 1555年

フェリペ2世、

財政破綻宣言 1557年―

北海道洞爺湖サミット

2001年 2008年

ドル危機

(サブプライムローン問題) 2008年―

カール5世退位 1556年 米ブッシュ大統領退任 2009年 インターネット革命 1995年

(注) *1 永田諒一『宗教改革の真実』、講談社現代新書、2004年、28ページ。

 *2 MPU=マイクロプロセッサー(超小型処理装置)。

*1 *2

(5)

から71年までの14年間デフレが続き、1559年から75年の16年間にわたって長期不況に陥 った。2008年からの世界同時不況も、グローバリゼーションの21世紀(1974年から始まる)

の中間点に該当する。米家計は1990年代半ばから現在に至るまでに、4兆ドルを超える過剰 債務を抱えた。うち1.4兆ドルは返済が不可能となって銀行の不良債権化するが、残りの3 兆ドルは個人貯蓄率を引き上げて(個人消費支出を抑制)、債務を返済していくしかない。

その過程で、米実質GDP成長率は最低でも5年間はマイナス成長が続く可能性が高くな ってきた。過剰債務に陥っているのは米国のみならず、ヨーロッパも同じである。英国や スペインなどヨーロッパも、米国と同じく4兆ドルの過剰債務を家計が抱え、最短で5年間、

あるいはそれ以上長きにわたってマイナス成長が見込まれる。

「金融化」モデル破綻による個人消費の不振は、「高級化」路線を走った自動車産業に最 大の打撃を与えることになる。「輸出株式会社」である日本や韓国、台湾、中国、そしてド イツも不況に陥り、世界同時不況となる。グローバル化が進むと、国境を越えて消費と輸 出(および設備投資)が結びつくことになる(第3図)。1990年代半ば以降のほうがそれ以前 よりも米国の消費と日本の輸出の間の相関関係が高まっているのである。1980年代半ば以 降、日本の対米輸出依存度が低下しているにもかかわらず相関関係が高まっているのは、

世界経済が一体化しているからにほかならない。

米住宅ブームが始まった1996年から2007年までの間、米国の自動車販売台数は年平均で

1640万台だったが、2008年12月には年率換算で1030万台にまで落ち込んだのである。通常

なら2009年は、10年前の販売台数であった1690万台(1999年)の買い替え期にあたるが、

自動車の長期保有化で買い替え需要は顕在化しない可能性が高い。米家計が自動車の保有 期間を、仮にこれまで10年間だったとして、11年に1年延ばすだけで、今後2年間、新車の

第 3 図 一段と一体化が強まる日米経済

―米国の個人消費支出のGDP比率と日本の輸出のGDP比率の連動 76.0

73.0

70.0

67.0

64.0

61.0

(%)

20.0 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0

(%)

 米商務省 Gross Domestic Product 、内閣府「国民経済計算年報』より筆者作成。

(出所)

97年第2四半期 66.7%

96年第2四半期 8.8%

日本輸出 比率(右目盛)

米個人消費比率(左目盛)

08年第4四半期 14.0%(推定)

1955 58 61 64 67 70 73 76 79 82 85 88 91 94 97 2000 03 06 09(年)

(6)

販売台数は年800万台に落ち込む可能性があるが、自動車免許保持者1人当たりの自動車保 有率は変わらないのである。すなわち、1990年代の日本と同様のことが米国で起きるので ある(5)

バブル崩壊の過程において日米で同じことが起きるのは、バブル生成の理由も日米同じ だからである。生成の根本的理由はこれまでのシステムを維持できないほどに利潤率が低 下したからである。バブル崩壊が実体経済に与える打撃は、崩壊過程における迅速で適切 な処理いかんで決まるのではなく、バブル生成の過程ですでに決まっているのである。過 剰債務を不良債権として国が肩代わりしても、それは「インフレがすべての怪我を癒す」

時代が終わっている限り、最終的に増税として家計につけが回ってくるのである。1997年 の消費税引き上げの日本が、その後アジア通貨危機と重なって不況に陥ったように、すで に前例がある。しかも、「インフレがすべての怪我を癒す」時代が終わっていなければ、す なわち近代がピークを迎えていないのであれば、通常のインフレと経済成長で、期待どお りの利潤率が得られるのだから、そもそも「金融化」モデルに依存してまでバブルを起こ す必要がないのである。

2 米新政権の経済政策と課題

(1) 8250億ドルの経済対策の効果

オバマ新大統領の喫緊の課題は経済再生である。2008年10―12月期の米小売売上高(実 質)は、年率で12.9%減と、第1次、2次石油危機当時の落ち込みを上回って、戦後最悪と なっている。しかも、2度の石油危機では2桁減少は1四半期だけであったが、今回は7―9 月期の2桁に近い9.1%減に続いてであるから、深刻な消費不況に陥っていることは明らか である。米新政権は総額8250億ドルの景気対策を打ち出したが、オバマ大統領は就任直後 に米経済が1兆ドルの需要不足(GDPの7―8%に相当)にあり、8250億ドルの景気対策では 不十分であるとの認識を明らかにした。米需要減少額は今後5年で4兆ドルに達する可能性 が高い。米過剰債務の生成過程は17年前の日本と規模といい期間といい、まったく同じで ある(第4図)。バブル生成過程で4.3兆ドルに膨れた過剰債務を米家計が返済することで、

累計で4.3兆ドルの消費需要が消滅するのである。

米景気対策のうち、減税は2750億ドルで、残りの5500億ドルは歳出増となる。歳出の内 訳は、高速道路の建設などインフラ整備に900億ドル、省エネや再生可能エネルギーへの投

資に320億ドル、雇用対策(失業給付と職業訓練の拡充)に430億ドルなどである。

当初、3000億ドル程度が想定されていた経済対策の規模は8000億ドル超にまで膨れ上が り、今後も追加が予想されているのは、1990年代の日本と同じである。「真水」論争が真面 目に行なわれ、昨年の真水より今年度は増やさないと回復の途についた景気が失速してし まうという議論が毎年繰り返されて、景気対策に総額136兆円を費やした。これは日本の GDPの27%に相当し、1989年時点での日本の過剰債務比率108兆円(対GDP比で26%)と同 率である。米国も8250億ドルの経済対策は1年半でその執行の75%を支出するとして、速 やかな実行をアピールしている。

(7)

しかし、米国は日本と違って迅速な対応を実施していると考えていようが、日本の1990 年代のように“Too Little Too Late” であろうが、いずれにしてもバブルピーク時で確定した過 剰債務は、賃金上昇を伴うインフレが起きない限り、消せないのである。米国は最終的に4 兆ドルの景気対策を迫られることになろう。しかもその前提として、バブル生成の前まで の潜在成長率が維持されていることが必要である。日本の場合、1974年以降、バブル期

(1984―90年度)を除くと、実質成長率は2.0%で、1991年以降の日本の潜在成長率1.5―

1.9%と大して変わらない。バブル崩壊後の米潜在成長率が2%台半ばを維持できなければ、

過剰債務は4兆ドル以上に膨れ上がることになり、財政負担はますます重くなる。

(2) 膨れ上がる財政赤字と出口なき量的緩和 

米経済再生にとって、日本の1990年代以上に財政赤字問題がアキレス腱となる。米財政 赤字に伴って発行される米国債は2007年10―12月期以降、外国人投資家が新規発行額を超 えて購入している。2009会計年度(2008年10月―09年9月)の財政赤字は4548億ドルで過去 最高であったが、2009年12月で終わる12ヵ月間の赤字は8332億ドルに膨れ上がっている。

わずか3ヵ月間で4000億ドル近く赤字が増加したのである(第5図)。これから8250億ドル の景気対策の財源として米国債が発行され、2010会計年度の米財政赤字は1.5―2.0兆ドル に達する見込みである。しかも、来年度に入っても追加景気対策が求められて、需給ギャ ップ議論が出てきていることから、2011会計年度の赤字も大して減らないであろう。

最後の米国債の買い手は、米連邦準備銀行しかいないのである。1990年代後半に起きた アジア通貨危機、ロシア金融危機、ITバブル崩壊のたびに、米家計は世界の「最後の買い 手」となって世界経済を牽引してきた。その米家計が過剰債務調整で消費支出に急ブレー キをかけると、今後は米連銀が米国債の「最後の買い手」として登場することになる。現 時点では、連銀は国債の買いオペを増やしてはいないが、早晩実施せざるをえなくなる。

世界中で各国政府が景気対策で国債を発行し、景気刺激策をとるから、外国人投資家には

第 4 図 日本を追いかける米国の過剰債務―日本の銀行貸出(対GDP比)との比較

1.10 1.00 0.90 0.80 0.70 0.60 0.50 0.40

1960 64 68 72 76 80 84 88 92 96 2000 04

1977 81 85 89 93 97 2001 05 09

08

(倍)

(年)

 日銀「金融経済統計月報」、FRB Flow of Funds Accounts より筆者作成。

(出所)

米国の1997年 日本の銀行貸出(対GDP比)

米国の2007年

日本、2004年に 過剰貸出調整

が終了 米国家計部門の住宅

抵当借入(可処分所得比)

日本の1989年

08年第2四半期 1.00 108兆円

(1989年、日本)

(8)

米国債を購入する余裕はないからである。連銀の国債買い切りオペは、事実上国債引受に 等しい。両者が区別されるのは、前者が市場を通して購入するから、市場機能のチェック を受けることで際限のない買い切りに歯止めがかかるということが前提となっている。し かし、米10年国債利回りが戦後最低の2.0%台前半にまで低下していることを考慮すれば、

連銀の国債引受に等しいのである。

現在のところ、連銀は流動性対策で自らのバランスシートを膨張させている(6)が、今後 国債の貨幣化現象に手を染めることになる。ドルの下落にいっそう拍車がかかることが予 想されている。連銀の流動性対策には保険グループAIGに対する緊急融資などが含まれて おり、仮にその一部が毀損したとしても、結果として財務省が税金で補てんせざるをえな い。しかし、国債の貨幣化現象へとさらに連銀が踏み込めば、最後の「買い手」の後ろ盾 はいない。最後の後ろ盾は自国の生産力である。米国債の大量発行による米連銀の資産サ イドの膨張に見合って、連銀の負債にはドルの大量発行がリンクする。米経済の潜在的生 産能力が増えるわけではないので、ドル価値が減価することになる。基軸通貨国のバブル の後始末は、必然的にドル問題へと繋がっていく。今後最低でも1年間で国債発行額の半分 を連銀が購入するとすれば、5年間で5兆ドルとなる。景気回復期に連銀が量的緩和政策を 解除しようとして、大量の国債を市場に戻せば、長期金利が需給悪化で上昇する。かつて の日本がそうであったように、量的緩和の解除は景気回復に水を注すからと米国で批判が 出て、超低金利政策が長期化する。ドルの魅力は米景気が回復しても戻らないのである。

(3)「海の帝国」から「陸の帝国」へ

基軸通貨ドルの命運は、連銀が量的緩和に踏み切るかどうかにかかっている。すでに米 連銀は2008年12月16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で国債の大量購入を決めている

第 5 図 急速に悪化する米財政赤字―米財政収支の推移 400

200

0

200

400

600

800

1,000

1981 83 85 87 89 91 93 95 97 99 2000 03 05

(10億ドル)

08年1―12月 8332億ドル

 米財務省 Treasury Statement

(出所)

(12ヵ月累積値)

07(年)

(9)

ことから、ドルの長期下落のプロセスに突入した可能性が高い。「1%以下のインフレは受け 入れられない」(イエレン = サンフランシスコ地区連銀総裁、2009年1月15日)とか、「経済の 現状は大胆で迅速な行動を求めている。新しい雇用を創造するだけではなく、成長の新し い基盤を築くためにわれわれは行動する」(オバマ新大統領の就任演説、2009年1月20日)と 言えるのは、「インフレが怪我を癒す」近代であって、現在のポスト近代にはもはや通用し ないのである。当然、インフレには資産インフレも含まれる。

世界的な住宅バブルの崩壊は、資産インフレの時代が終わったことを示唆しており、そ れは同時に「強いドル」の時代の終焉でもある。「金融化」には世界中の余剰マネーを米国 に還流させる「強いドル」政策が不可欠だったが、「金融化」モデルの破綻で米国から資本 が逃げている。2008年7月から世界の投資家は米国から資本を回収している(第6図)。米

「金融帝国」は資金繰り倒産の危機に瀕している。月間400億ドルの貿易赤字代金の支払い に事欠き、国債の貨幣化は米連銀の弥縫策である。金融・資本市場で米国がドルを調達で きないということは、米国の新自由主義路線の破綻である。市場が価格を決める金融・資 本市場で必要最低限のドルが集められないのである。1557年の世界帝国スペインのフェリ ペ2世が「インディアス〔カリブ・中南米〕からやってくるこの金がエスパニア〔スペイン〕

に対して行なっていることは、雨が屋根に対して行なっていることと同じであります。降 り注ぎ流れるのです」(チポラ1996、33ページ。〔 〕内引用者)。同じことが1995年から「世界 中のマネーはウォール街に通ずる」米金融帝国で起きた。降り注いだ金(ゴールド)やマネ ーはその国の生産力を増やすことに使われることなく、土地に投資されたことは両国に共 通するのである。

オバマ新大統領の就任直後の支持率(ギャラップ調査)が戦後歴代大統領のなかで2番目 に高いにもかかわらず、株価(NYダウ)とドルが就任直前と比べて下落しているのは、1人

第 6 図 資金繰りに窮する「金融帝国」―米国の対内対外証券投資 200

150

100

50

0

50

100

1995 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09

(10億ドル)

(年)

外国資本

ネット資本流入

米国資本

 米国への資金流入=外国の対米証券投資−米国の対外証券投資。

(注)

 米財務省 Capital Movements

(出所)

米国の対外証券投資 海外の資金回収 海外からの資金流入

米国の資金回収

(10)

の大統領ではいかんともしがたい「歴史の歯車」が回り始めていることを暗示している。

問題は、先進国の近代を終わらせた「歴史の歯車」がどこで止まろうとしているかである。

明らかなことは、ユーラシア大陸の中央部に成長の源泉が集中すれば、ポンドとドルが支 配した「海の帝国」は終わるということである。「陸の帝国」の時代に相応しい通貨が基軸 通貨となる。その鍵を握るのはアフガニスタンの安定化に貢献できた国である。オバマ新 大統領がイラクから撤退してアフガンに増派するのはこの動きに対応している。アレキサ ンダー大王の時代からアフガンはユーラシア大陸の東西を結びつける交通の要所だったか らであり、今後その重要性が一段と増すのである。

1 ROAは事業利益(経常利益+支払い利息)を使用総資本(負債+株主資本)で控除した比率。

日本の中小企業・非製造業のROAのピークは1973年で、その後趨勢的に低下し続けている。日本 の中小企業・非製造業は基本的に後述の「多機能化」「高級化」「金融化」(グローバル化)とは 無縁であり、日本国内における実物投資のリターンを表わしている。

2)「コロンブスとヴァスコ・ダ・ガマ以来の近代世界史とは、要するに、ヨーロッパによる南北ア メリカの開発に伴う長期のブームだった」(川北1995、52ページ)と解釈すれば、その消滅は「お そらくは、1960年代後半の『アメリカのヘゲモニーの衰退』が、それにあたるだろう。ヴェトナ ム戦争とドル危機は、その象徴であった」(同前、54ページ)ことになる。

3 21世紀のグローバル化は、先進国10億人とBRICsだけでも28億人の市場統合である。16世紀の

それは、先進地域であった地中海世界2400万人と後進地域であった英蘭仏独、そして東欧諸国合 わせて4500万人であった。

4) カール・シュミットは、アレキサンダー大王の遠征、シーザーのガリアとイギリスの占領、そし て十字軍の遠征を挙げている(シュミット2006、64―71ページ)

5 2009年、2010年と車の保有年数が1年伸びるだけで、米自動車販売台数は年800万台に落ち込む ものの、1人当たりの保有台数は減らないことになる。しかし実際には、1990年代の日本がそうで あったように、米国でも自動車を手放す人が出てくることが予想されるため、年800万台よりもさ らに減る可能性が高い。

6) 米連銀が発行する1ドルにつき、2009年1月14日現在、54セントしか米政府の徴税権で裏打ちさ れていない。フランスの大手銀行BNPパリバ・ショックの2007年8月以前は、1ドルにつき93セン トは国債で裏打ちされていた。

■参考文献

川北稔(1995)『イギリス 繁栄のあとさき』、ダイヤモンド社。

ブローデル、フェルナン(1988)『物質文明・経済・資本主義 15―18世紀(Ⅱ) 交換のはたらき(2) 山本淳一訳、みすず書房。

シュミット、カール(2006)『海と陸と―世界史的一考察』、生松敬三・前野光弘訳、慈学社出版。

チポラ、カルロ・M(1996)『大砲と帆船―ヨーロッパの世界征覇と技術革新』、大谷隆昶訳、平凡社。

みずの・かずお 三菱UFJ証券株式会社チーフエコノミスト http://www.sc.mufg.jp/inv_info/business_cycle/m_report/m_contribute.html [email protected]

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