2004年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
「雀荘経営の経営戦略」
A0141336 竹内 達宏
2005年1月15日提出
1.「素朴な疑問」
まず、始めに経営戦略のゼミのつもりで入ったのに、戦略に関してほとんど触れることなく2年間学ん できたので、最後くらいなにかしら戦略に関することをやりたいと言う気持ちがあった。
次に、3年半、アルバイトとして働いている雀荘に何かしらの恩返しがしたい、また、もっとうまく経 営すれば、利益が出るのではないかという思いがあった。そこから「小規模小売店、個人経営などにおける 戦略は、講義等で学んだ戦略などとは異なる?」のではという考えから、大きな戦略の枝葉として、またサ ービスの変更には細かい戦術と呼べるようなものが存在するのではないかという疑問をもったことから、「経 営戦術」と呼べるものがあるのではいうテーマにについて考えてみたいと思う。
2.「雀荘の用語」の説明
[セット] : お客様が4人以上で来店され、一つの麻雀卓を時間単位で貸すこと。
「フリー」 : 個人個人で来店され、見知らぬお客様同士で麻雀をしてもらい、
1回ごとにゲーム代を頂くこと。
「レート」 : フリーに於ける掛け金。 EX)0.2 = 千点を20円で計算する。
「メンバー」 : 雀荘の店員。
「赤牌」 : ドラ。点数が高くなる。これが入っていることで、ギャンブル性が高くなる。
3.「分析の方法」
レートやサービスの変更があったのでその変更以降の売り上げの変化と私自身のアルバイトを通しての 感覚から調べる。以下の①~⑤の変更があったので、それを軸に検証していく。
①レート
0. 2&0.5 ⇒ (H15年12月) ⇒ 0.2&0.3
②夜番のシフト
H16年5月からそれまでは金曜、土曜など忙しくなる日だけシフトが二人だったものを、常にメンバ ーが二人いるようにした。
理由としては、夜に一人や二人しかフリーのお客様がいなくても、メンバーが入ることで卓を立てるこ とができるから。
③カレー、カップめんのサービス
H15年12月から、徹夜された学生のセットに無料サービスを始めた。
④食事メニュー
H16年5月から、ハヤシライス、中華丼、サワー、リポビタンDなど新しいメニューを増やした。
⑤スタンプカードの配布
フリーはH15年4月から、セットはH16年の6月からポイントカードの配布を始めた。
5.店の特徴、及び他店との違い
①立地条件
まず、メリットとしては、店から徒歩10分以内に4つの大学と、1つの予備校があり学生が多く昼間 や徹夜されるお客様が多い。オフィス街でもあるので夕方以降来店される一般の方がいる。
デメリットとしては、土日や学生が長期の休みに入ったときの来客が減り、また駅から少し離れていて 店が目立ちにくいところにある。また、繁華街ではないので深夜に来店される方が少なく、客がくる時間 帯がほぼかぎられてしまう。
②フリー客のセグメント、ターゲット
・ 学生
・ 初心者
・ 近所の老人
・ 暇つぶしにきているような社会人
・ (麻雀というゲームが好きな人)
・ 純粋にゲームとして楽しみたい
・ あまりお金を賭けずにやりたい
上記に上げられるような人が多い。
理由として考えられるのは、赤牌を使用していない数少ない雀荘であるため、チップがなく、レートも 低いために、ギャンブルとしてではなく、などということが考えられる。
③他店との違い
特に雀荘の多い、新宿などではレートが「1.0」で、1ゲームあたり600円くらい、または東風戦で、
1ゲームの時間を短くすることによって、卓の回転率をあげている。
他の多くの学生をターゲットとした雀荘でも「0.5」の1回350円というのが相場だ。
また、私が浪人時代に客として行っていた、大宮の「0.2」や「0.3」のお店もここ2,3年で3件 潰れ、低レートのゲーム代の安いところは経営があまりかんばしくないように思われる。ただ、チェーン店 のZ雀荘やW雀荘などは、低レートでありながら、駅構内にでかでかと広告を出し、多くの繁華街に次々と 出店していて、経営状態はよさそうだ。理由として考えられるの1回200円という破壊的な安さでデビュ ーし、一気に知名度をあげたことや、待ち客に対して、漫画喫茶のような漫画の種類の多さ、ゲーム機をお いたりなど、かなり質の高いサービスを提供していた。
そこで、私の働いているS雀荘の違いは、赤牌を使用していない雀荘であるため、チップがなく、レート も低いため、金の変動が少ない。レートが低く、客のレベルも低いため、卓の回転率が悪い。私の考える限
り、他の繁盛している雀荘と比べて、マージャン人口の中の大多数のフリー客にとってメリットがない。な ぜなら、「マージャン=ギャンブル」という世間のイメージがあるように、フリー客の多くがマージャンで稼 ごうとか、勝ちたいという気持ちでくるからだ。赤牌入りのマージャンで1回ごとにゲーム代を払い、勝つ には、極論を言えばチップを多くもらうことにつきる。また、レートが低ければ低いほど、2着でもゲーム 代負けしてしまうので、「1.0」以上で打たないと稼ぐのは難しいだろう。 これは、私見ではあるが、麻 雀歴が長いほど気づき自分にあった店に移っていくだろう。
④料金
フリー 0.2 → 250円 0.3 → 300円
(0.5 → 350円)
セット 学生 150円/h
但し、0時〜11時までフリータイムで、1200円 一般 300円/h
6.分析
➀レートの変更 図 1
フリー
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000
H13年
4月 7月 10月 H14年
1月 4月 7月 10月 H15年
1月 4月 7月 10月 H16年
1月 4月 7月 10月
0.2 0.5or0.3 フリートータル
変更前においては、ゲーム代が高い方の「0.5」の卓があまり立つことが無く、「0.5」の賭け金が 高いレートを希望するお客様が少なかったこともあり、一ヶ月で一回も立たないこともあった。前述した客 層、また、流行のレート、店の利益という3点から考えても、「0.3」を始めたらどうかという提案を、店 長に1年近くし続けて、その提案がやっと通り、H15年の12月から、「0.3」を始めることになった。
上の図1をみて分かるのは、以下の3つのことが目立つ。
・ 「0.3」のスタートと同時に「0.2」の売り上げが落ちている。
来客数、客層はほぼ変わっていないのが、ゲーム代の高い「0.3」を店側が積極的に客に勧め卓 を立てるようにしていること。
・ トータルの売り上げは変更前と比べて確実に上がっている。
「0.3」の売り上げが伸びてきている分、「0.2」と「0.3」の合計の半荘の回数は変わらな くても、ゲーム代が高い「0.3」のおかげで、金額的には売り上げが伸びる。
・ 実際に変更の前後でどのくらい違うか?
H13年4月〜H15年11月まで 958、938円 H15年以降 1、079、554円 と、1ヶ月平均で10万以上、1.12倍の増益があった。
☆レートの変更は、客のセグメント、ニーズ、店側の利益など満たし、成功と呼べるのではないだろうか。
ただ、来客数事態は変化が無いので、これからは新規の来客数を伸ばし、またリピーター、固定客を増やし ていかなくてはならず、店側に尚いっそうの努力が求められると考えられる。
②夜番を二人に増やす 図 2
フリー 夜番
0 50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000 400000
H1 3 年 4月 7月 10 月 H1 4 年1
月 4月 7月 10 月 H1 5 年1
月 4月 7月 10 月
H1 6年 1月 4月 7月 10 月
系列1 対数 (系列1)
二人に増やすまでは、お客様が朝まで打ちたいとか、深夜に友人と二人で来店されたりした場合にはお帰 りになって頂いていた。昼間ではなく、深夜客という潜在的な客を掘り起こし、また、いつ来店されても、
麻雀が打てるというイメージを客に浸透させるという狙いがある。また、深夜の卓の稼働率を上げるうえで も重要。補足的な意味としては、メンバーが夜一人でいることで、精神的に参ってしまうことを防ぐという 意味もある。では、実際にどう変わったかは、図2を見てもらいたい。
・1ヶ月の夜番フリー売り上げの平均
H13年4月〜H16年4月まで 161、643円 H16年5月以降 288、050円
と、約13万の増益となっている。
☆しかし、一人アルバイトを増やすことによってかかる人件費は、一月で約18日分だとして、単純に考え て、18万。それを考えると5万円の赤字となる。
プロ野球の球団経営ではないが、フリー雀荘として、いつ行っても麻雀が出来るというイメージを浸透さ せるに初期の赤字はある程度仕方ないとおもう。今まで来ていなかった、新規の客を掴む事ができる。
データがいただけなかったので、数字上では分からないが、私の感覚では、今までは深夜12時以降にはほ とんど来店が無かったが、最近は深夜2時、3時にも頻繁に来店されるお客様が増えてきた。昔は1週間で 一人くるか来ないかだったものが、今は2、3日に一人は深夜の終電が無くなった時間帯に来店されるお客 様がいらっしゃるように思う。このことからも、イメージを浸透させるという目的は有効に作用している。
変更後のデータが少ないため、まだはっきりとしたことは言えないが、グラフを見ても売り上げは上昇傾
向にあるので、これから先の推移に期待したい。
③④⑤ セットの売り上げ
ちなみに③H15年12月〜カレー無料サービス、④H16年5月〜メニュー変更
図 3
セット 売り上げ
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000 1,800,000
H1 3 年 4 月 7月 10月 H1 4 年 1 月 4月 7月 10月 H1 5 年 1 月 4月 7月 10月 H1 6 年 1 月 4月 7月 10月
図 4
雑益(食事等)
0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000 400,000
H1 3年 4月 7月10 月
H1 4 年 1月 4月 7月 10 月
H1 5 年 1月 4月 7月10月
H1 6 年 1月 4月 7月10月
1ヶ月のセットの平均売り上げ 1ヶ月の雑益の平均売り上げ
H13年 1,381,943 296,624
H14年 1,209,041 233,106
H15年 1,131,395 172,193
H16年 1,241,093 232,614
図3、図4より、セットの売り上げと、雑益の売り上げはほぼ連動している。1年単位で見てみると、H 13年が格段によく、それ以降のH14年、H15年共に下がっていて、各種サービスを始めたことにより、セ ット、食事共にH16年の1月頃から徐々にではあるが、売り上げが戻ってきているようだ。H14年、H15 年と売り上げが落ちていたのは、金の成る木だった、一部の毎日のように来ていた一般セットが急に来なく なったことによると店の店長は言っている。確かに、セットの売り上げは、学生よりも、一般セットの売り 上げによるところがかなりある。働いている立場からセットの売り上げに関しては、アクションを起こして も反応が分かりづらいし、積極的に伸ばすためのサービスをしても伝わりづらいことが分かった。
7.S雀荘に対して
S雀荘
0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 3,500,000
H13年4月 7月 10月
H14年1月 4月 7月 10月
H15年1月 4月 7月 10月
H16年1月 4月 7月 10月
セット 雑益(食事など)
総売上 フリー
多項式 (総売上)
①今回のサービス変更に関して
フリーの変更は着実に成果が上がっており、このまま継続することによって、利益は上がると思われる。
変更後、H16年の11月には念願の300万を突破し、総売上の近似値のグラフを見ても、上昇カーブを
描いているので、H17年のがんばりに期待したい。これまでは、セットの売り上げに頼っているところが 大きかったが、これからは、フリー卓の稼働率を上げることが重要だ。
そのために、私が考えられるのは、4、5月の新入生が多い時期に、学生に認知させ、来店して固定客、
リピーターとなってもらうための、ビラ配りであったり、大学の近くにに広告をしたりするなどの努力が必 要だ。
また話が少し外れるが、現在の麻雀がどうなっているかというと、推定で約2000万人で、減少傾向に あるといわれている。しかしゲームセンターでのオンライン型対戦麻雀が大変な人気であるしまた、携帯の アプリでも必ずソフトはある。大学生で麻雀ができる人自体が減っているのか、やらないのか、雀荘、麻雀 のイメージが悪いからなのか、理由は様々あると思うが、麻雀のルールを知っている人はかなりの数いるは ずだ。
このようなことから考えても潜在的な雀荘の客となる人たちはいるはずなので、ゲーム機だけで麻雀をや っている人たちを呼び込めるような戦術、戦略を考えてみると、面白いと思う。
例えば、雀荘の中に、今話題のゲーム機を置いてみるとか、または、ゲームセンターのマージャンゲーム の近くに、チラシなど置いてもらえるようにしてもらうとかすれば、ゲームから、実際のリアルなマージャ ンに興味を持って来店する人も出てくるだろう。
②別の形
フリー雀荘としてでは、他店と比べても、稼働率が悪いので、いっそのこと、セット専門の雀荘にすれば、
人件費も安く済むので、今の売り上げがあるなら、確実に今よりも利益は出る。経営者の都合であったり、
働く人の精神状態を考えたりすると、難しいとも思うが、利益だけでかんげればの話である。
8.結論
「戦略と戦術の区別とは何か。」戦術とは、戦略を実行するための細かな活動計画である。戦略はひとつの 組織の長にとって全体の経営のための基本設計であり、その組織の中の下部組織単位がある場合には、カビ 組織の長にもまた、その人なりのの戦略がある。しかし、上部組織の長からすれば、下部組織の基本設計図 は自分の戦略実行のための細かな活動計画という位置づけになるため、上部組織の長にとっては戦術と呼ぶ べきものになる。つまり、下部組織の長の戦略という一つの基本設計図に対して、二つの呼び方がなされる のである。もし、下部組織のない組織の長であれば、一人で戦略も戦術も考える必要があるだろう。自分の 率いる組織全体の基本設計図が戦略、それを実行するための自分たちの細部の活動計画を戦術と呼ぶことに なるだろう。
この意見を基に考えると、今回のS雀荘については、オーナーが店を経営し、考えているので、今回の変 更は、戦略ではなく、戦術と呼ぶことができる。雀荘として、セットもフリーもやりながら、利益を上げる という大きな目標、戦略がある。今回の変更は、利益を上げるためには、サービス業として、どのようなサ ービスを提供すれば、利益につながるかという、店長の考えの下では、「戦術」と呼ぶことができる。
他に例を考えてみると、三国志の中の諸葛孔明の「天下三分の計」が戦略であり、戦場での、「連環の計」
であったり、「背水の陣」などは、戦術になる。
また、飲食店などのランチタイムサービスメニューや、クリスマスなどの期間限定メニュー、店限定メニ ュー、小売店のセールなどは戦術と呼んだほうがちかいのではないだろうか。
以上のことから考えると確かに「戦略」と「戦術」の線引きは難しいと思われる。チェーン店なら各店舗
ごとの独自のサービス、あるいは個人経営等では短期的な期間限定のサービスをすることなどは、「戦術」と する。
私の考えでは、「戦略」とは、特に大企業など人数の多いところで多く、個人経営などでは、戦術との区別 がつきずらい。人数が増えるほど戦略の数も増え、戦術と呼べる、戦略もでてくる。また、企業、店の長期 的な展望や目標、どのように利益を上げていくかという考えが、「戦略」となる。
「戦術」とは逆に、限定的なサービスの変更など、個人経営など規模の小さいところで多く見られる、赤 字を解消し利益をだすためのアイデアで合ったり、短期的な戦略のことだ。
参考文献
麻雀帝国ホームページ http://www.ambitious-net.com/index.htm 麻雀博物館ホームページ http://www.chiba-web.com/chibahaku/72/
伊丹敬之「経営戦略の論理」 日本経済新聞社,1980