1. 命題とその真偽
科目: 基礎数学A及び演習(演習)(2‐1組)
担当: 相木
命題
平たく言うと「命題」とは誰が考えても「(数学的に)真偽」がはっきり決まる主張の ことである.「真偽」とはその主張が正しいか正しくないか,ということである.例えば,
全ての自然数は実数である
という主張は命題である.実際,上の主張は人の解釈の仕方などと無関係に自然数と実数 の定義から「正しい」と決まる.また,
全ての実数は自然数である
も命題である.この場合,上の主張は正しくないが,「正しくないことがはっきり決まる」
ので命題なのである.
このように「ある主張が命題であるか」ということと「ある主張が正しいか」という ことは別のことであり,その主張が正しいかどうかに関わらず,「正しいこと,あるいは正 しくないことがはっきり決まる」のであればその主張は命題なのである.
命題を扱う際に,上のような主張をいちいち書いていると面倒なので命題にアルファ ベットをあてることが多い.例えば
全ての自然数は実数である という命題をQとおく,などと断っておき,以降
命題Q
などと文章中に表記したりする.この命題は正しいので「命題Qは正しい」あるいは「命
などと,名前を付けるためにアルファベットをあてて使うことも多い.以下の言葉の定義 においてはまさにこのような使い方がされている.
命題の真偽
命題P に対してその主張が正しいとき,
命題P は真である
という.また,正しくないとき,
命題P は偽である という.
P が命題であるならば,命題の定義からP は必ず真か偽かどちらかである.
命題から新たな命題を作る
複数の命題を組み合わせて新たな命題を作ることもしばしば行う.高校までで扱った ことあるものが大半であるが,以下でそれらを復習する.
論理和
命題P, Qに対して
P またはQのどちらかは真である
という主張は命題であり,P とQに対して上の命題をP とQの論理和といい,
P ∨Q と表す.
注意:論理和においてはP, Qのどちらかが真であればP ∨Qは真となるので,特に P, Q共に真であってもP ∨Qは真である.
論理積
命題P, Qに対して
P とQは両方とも真である
という主張は命題であり,P とQに対して上の命題をP とQの論理積といい,
P ∧Q と表す.
これらを帰納的に用いて,命題P1, P2, P3に対して P1∨P2∨P3
など,3つ以上の組み合わせを考えることもできる.このように,複数の命題を組み合わ せていくと命題の真偽の場合分けが増え,分かりづらくなることがある.そのようなとき に役に立つのが真理値表である.
例えば,命題P, Qに対してP ∨Qの真偽を考える際には 1. P もQも真
2. P は真,Qは偽 3. P は偽,Qは真 4. P もQも偽
の4つのパターンが考えられ,それぞれの場合においてP ∨Qは 1. 真
2. 真 3. 真
この方が場合分けをコンパクトにまとめることができる.
真偽の場合分けについて
ここで1つ注意をする.ある主張が命題であるとは,その真偽がはっきり決まってい ることであると定義した.すると,上の真理値表の例で見たように,
「P とQの真偽に応じてP ∨Qの真偽は変わってしまうので“はっきり”決まっては おらず,P ∨Qは命題ではない!」
と,考える人もいるかもしれない.しかし,そんなことはなくP ∨QやP ∧Qは命題 である.どういうことかP ∨Qを例にして詳しく見てみよう.
まず,P ∨Qの定義をもう一度見てみると,「命題P, Qに対して...」とある.最初に P, Qは命題であるとしているのである.つまり,P, Qは真偽がはっきりしている主張 である.したがって,考えている状況下でP とQの真偽は決まっている.ただし,具 体的な内容を指定せずに抽象的にP, Qを命題であるとしか言っていないので,理論 上すでに決まっているP, Qの真偽を我々が知ることはできない.
応用上はP, Qは我々が真偽を知ることが出来る具体的な命題を用いるのであるが,論 理和そのものを定義するためには抽象的なP, Qを用いる他ないのである.なので,
P ∨Qが命題であると言ったときには
「考えている状況下でP とQの真偽がどのような組み合わせになっていたとしても,
P ∨Qという主張の真偽は“はっきり”と1つに決まっている」
という風に解釈すると分かりやすいのではないだろうか.命題に限らず,大学の数学 では抽象的にものごとを扱う機会が増える.最初は慣れず,分かりずらいという印象 を受けるかもしれないが,よく復習して抽象的なものを扱った議論をできるようにし よう.
命題P ⇒Q
命題P, Qに対して
P が真ならばQも真
という主張は命題であり,命題P, Qに対して上のような命題を P ⇒Q
と表す.
注意:命題P ⇒ Qは「P が真のときにQが真になっていれば真」という命題であ り,P が偽だったときに関しては何も言及していない.そこで,P が偽のときは,命 題P ⇒Qは真であると定義する.つまり,P ⇒Qの真理値表は以下のようになる.
P ⇒Q の真理値表 Qが真 Qが偽
P が真 真 偽
P が偽 真 真
必要条件
P, Qを命題とする.命題P ⇒Qが真のとき,「命題Qが真である」ことをP が真で あるための必要条件という.
このことを「QはP であるための必要条件である」などと省略することもある.
このことについて少し考えてみよう.命題P ⇒Qが真であるので定義から,「P が真なら ばQは真である」という命題が成り立っていることになる.
すると,P が真であるためにはQが真である必要がある.実際,P が真であるのにQ が偽であるとすると,P ⇒Qが真であることに反する.このようなことから命題P ⇒Q においてQのことを必要条件とよぶのである.
十分条件
つためにはP が成り立っていれば十分であると言える.
命題に対してその否定命題を考えることもできる.
否定命題
命題P に対して
命題P は偽である
という主張は命題であり,命題P に対して上の命題をP の否定命題といい,
¬P
と表す.¬P の真理値表を以下のように書くことも出来る.
¬P P が真 偽 P が偽 真
言い換えると,¬P は命題の真偽がP と真逆な命題である.
もう少し噛み砕いてい言うと,P の否定命題¬P は P は成り立たない
ということを主張する命題である.なお,流儀によってはP の否定命題を P
と書く場合もある.
さて,2つの命題の真偽が一致するとき,それら命題は同値であるという.
命題の同値
命題P, Qに対して,その真偽が一致するとき,P とQは同値であるといい,
P ≡Q あるいは P ⇔Q などと表す.ここで,P とQの「真偽が一致する」とは
P が真のときのみにQも真であり,P が偽であるときのみにQも偽である ということである.
である.実際,p.3 のP ∨Qの真理値表から¬(P ∨Q)の真理値表は真偽を逆にして
¬(P ∨Q) の真理値表 Qが真 Qが偽
P が真 偽 偽
P が偽 偽 真
となることが分かる.また,(1)の右辺の命題は¬P と¬Qが両方とも真のときに真であ り,それ以外のときは偽である.¬P と¬Qが真となるのはそれぞれP が偽,Qが偽,の ときであるので(¬P)∧(¬Q)の真理値表は
(¬P)∧(¬Q)の真理値表 Qが真 Qが偽
P が真 偽 偽
P が偽 偽 真
となる.2つの真理値表を見比べると,¬(P ∨Q)が真のときのみに(¬P)∧(¬Q)も真で あり,¬(P ∨Q)が偽のときにのみに(¬P)∧(¬Q) も偽になっているので,2つの命題は 同値である.
予約制問題
(1-1) 命題P, Qに対して,以下の2つの命題が同値であるか真理値表を用いて判定せよ.
(i) P ⇒Q (ii) (¬P)∨Q
(1-2) 命題P, Qに対して,以下の2つの命題が同値であるか真理値表を用いて判定せよ.
(1-4) 以下の変数xに対する命題P, Qに対して,どちらがどちらの十分条件になってい るか述べよ.
P: x= 3である.
Q: x2 = 9である.
早いもの勝ち制問題
(1-5) 命題P, Qに対して,以下の2つの命題が同値であるか真理値表を用いて判定せよ.
(i) ¬(P ⇒Q) (ii) P ∧(¬Q)
(1-6) 命題P, Qに対して,以下の2つの命題が同値であるか真理値表を用いて判定せよ.
(i) ¬(P ∧Q) (ii) (¬P)∨(¬Q)
(1-7) 命題P, Qに対して,以下の命題が常に真であることを真理値表を用いて示せ.
(P ∧Q)⇒(P ∨Q)
(1-8) 以下の変数xに対する命題P, Qに対して,どちらがどちらの十分条件になってい
るか述べよ.
P: x̸= 3である.
Q: x2 ̸= 9である.