3 . 全称・存在命題について追記 および集合
科目: 基礎数学A及び演習(演習)(2‐1組)
担当: 相木
全称・存在命題に関する追記
前回のプリントで全称命題と存在命題を解説したが,応用上は
∀x∈X, P(x)
など,1つの集合に関する命題関数を用いた表現だけでは不十分である.そこで,このプ リントではまず最初に命題関数を「多変数」にしたものを考える.
命題関数(多変数版)
X, Y を集合とする.Xの要素xとY の要素yを1つ決めるごとに,xとyに依存し た主張P(x, y)が命題になっているとき,P(x, y)をXとY に関する命題関数という.
XとY が同じ集合の場合は単にXに関する命題関数とも言う.
基本的には変数の数が増えても命題関数自体には大差ない.しかし,命題関数を用いて具 体的な命題を作る際には大きく状況が異なる.特に,全称・存在と組み合わせた場合には 注意が必要である.例をみてみよう.
X =Y =Rとし,x∈Rとy ∈Rに対してP(x, y)を P(x, y) : x > y
によって定めると,P(x, y)はRに関する命題関数である.実際,実数を2つ選んだとき,
大小関係が成り立つかどうかははっきりと決まる.そこで,以下のような命題を考えて みる.
∀x∈R, ∃y∈R, P(x, y).
(1)
ここで,1つ注意をする.このように,様々な主張が組み合わさった命題は原則として
実際,任意の実数xに対してx−1は実数であり,
x > x−1
であるので,yとしてx−1が条件を満たす実数として存在するので命題(1)は真である.
ここで,もう1つ重要な注意がある.それは,上の議論でyはxに応じて決めている ことである.存在命題は,命題関数の主張を満たすような集合の要素が少なくとも1つあ れば真となるが,その「1つ」とは,それ以前に現れている変数などに依存して取れれば よい.言葉で説明しても分かりづらいので,例をいくつか挙げる:
∀x∈R, ∃y ∈N, y > x.
(2)
この命題は真である.実際,自然数全体の集合Nは上に有界でない(アルキメデスの原 理)のでどのような実数xに対しても,それより大きい自然数yは存在するので,命題 (2)は真である.
∃y∈N, ∀x∈R, y > x.
(3)
この命題は偽である.実際,全ての実数よりも大きい自然数は存在しないので,命題(3) は偽である.
ここで,命題(2)と命題(3)の違いに注目しよう.命題(2)においては任意に取ってき た実数xに応じて自然数yが少なくとも1つあればよいのに対し,命題(3)においては
∃y∈Nが先にあるので,実数xに無関係にy∈Nを選べなければいけないのである.
これまでのことをまとめよう.
全称・存在命題が複数組み合わさる際の原則
• 命題は左から読む
• 後に現れる変数は,先に現れている変数に依存してよい(依存「してよい」だ けで,依存しないといけないわけではない)
集合に関する記号
前回のプリントで少し触れたように,集合とはものの集まりである.数学的な対象で も,そうでないものでも,「ものの集まり」としてとらえることが出来れば,それは集合 である.以下に,集合に関連した記号とその意味,用法を列挙する.
集合に関する基本的記法
• x∈XまたはX ∋x:xは集合Xに属する.このとき,xをXの元,あるいは 要素という.
• x̸∈XまたはX ̸∋x:xは集合Xに属さない.
• X ⊂Y またはY ⊃X:XはY の部分集合
• {x∈X|Q(x)}:命題Q(x)が真となるようなXの要素x全体の集合.({x|Q(x)} とも書く)
• X∩Y ={x | (x∈X)∧(x∈Y)}:集合XとY の共通部分.
• X∪Y ={x | (x∈X)∨(x∈Y)}:集合XとY の和集合.
• X\Y ={x | (x∈X)∧(x̸∈Y)} :集合XとY の差集合.
• ∅:空集合
講義の方では上に挙げた記号等は1つ1つ丁寧に解説していると思われ,まだ授業では 扱ってないものもあるかもしれないので,以下で詳しく解説する.
集合の表し方
これまで扱った集合は「全ての実数の集合」など比較的,言葉で表現しやすいものの みであった(というよりわざとそうしていた).しかし,より複雑な集合を用いて議論す る際には詳細に集合の要素を指定しなくてはならない.そのために,集合を定義する際の
記法がいくつか決まっている.
外延的記法
集合の外延的記法とは,集合の要素を陽に書き下す記法で,例えば「5以下の自然数 の集合」は
{1,2,3,4,5}
と表す.集合を外延的記法によって書き表す場合は,要素をカンマで区切る.また,
この記法にならって空集合を
{}
と表すときもある.
容易に想像できるように,集合の要素が多くなると外延的記法で表すのは難しくなる.そ のようなときは次に解説する内包的記法を用いるとよい.
内包的記法
集合の内包的記法とは,以下のように集合を表す方法である.
Xを集合とし,P(x)をXに関する命題関数とする.このとき,Xの要素xのうち,
P(x)が真となるようなものを集めた集合を {x∈X | P(x)} と表す.
集合を定義する,ということを主観におけば,内包的記法とはP(x)をうまく定め,選 びたい要素を抽出して集める,という集合の記法である.例えば,「絶対値が2以下の 実数を集めた集合」を内包的記法を用いると
{x∈R | |x| ≤2} などとなる.
また,xとしてどのような対象物を扱っているかが明らかなときは{x∈X |P(x)}を 省略して{x | P(x)}と書いたりもする.
要素の数が少ないときは外延的記法,多いときや全て書き下すのが不可能な場合は内包的 記法,のように使い分けるとよい.
どちらの記法を用いた場合でも,定めた集合にアルファベットをあてるときには A ={1,2,3,4,5} とおく
あるいは
B ={x∈R | |x| ≤2} とおく などと書いて,集合に名前を付ける.
空集合
これまで,集合といえばなにか要素が入っているものを扱ってきたが,集合に関する 議論を進めていく上で「要素がなにもない」というものも集合として定義することが 必要になる.このような集合を空集合(くうしゅうごう)と呼び,
∅ で表す.
例えば,内包的記法を用いて
{x∈R| x2 <−1} で定まる集合は空集合である.
部分集合
XとY を集合とする.全称命題
∀x∈X, x∈Y
が真であるとき,XはY の部分集合であるといい,
X ⊂Y
と表す.X ⊂Y のとき,XはY に含まれるなどという.
感覚的にいうと,XがY の部分集合であるとは「Xの全ての要素はY の要素でもある」,
ということである.
ここで,空集合∅は「どんな集合にも含まれる」と約束する.つまり,どのような集 合Xに対しても
∅ ⊂X が成り立つものとする.
共通部分と和集合
共通部分
X, Y を集合とする.このとき,
{x | (x∈X)∧(x∈Y)}
で定まる集合をXとY の共通部分といい,
X∩Y と表す.
XとY の共通部分とは,両方の集合に属す要素を全て集めた集合である.
和集合
X, Y を集合とする.このとき,
{x | (x∈X)∨(x∈Y)}
で定まる集合をXとY の和集合といい,
X∪Y と表す.
差集合
差集合
X, Y を集合とする.このとき,
{x | (x∈X)∧(x̸∈Y)} で定まる集合をXとY の差集合といい,
X\Y と表す.
定義から分かるようにX\Y はXの要素のうちY に属さないものを集めた集合なので {x∈X | x̸∈Y}
と表現することもできる.
集合の等号
集合には外延的記法と内包的記法の2種類あり,同じ集合であってもそれが見かけ上,
違ったものに見える場合がある.例えば,
{1,2,3,4,5} (4)
と
{x∈N| x <6} (5)
は,同じ集合を表すが,表記の違いから見かけ上違って見える(これだけ単純な集合だと すぐに中身は同じであることが分かってしまうが...).また,差集合のときに挙げたよう に,同じ記法を用いたとしても集合の表し方は様々だったりするので,同じ集合を表して いても,それを見た目で判断するのは必ずしも容易ではない.そもそも数学的立場で考え れば「見た目」で集合が同じかどうかを判定するのは違和感さえある.
そこで,ここでは「2つの集合が等しい」ということを改めて考えてみよう.2つの
風に思えるのである.
この感覚を数学的に厳密に定式化したのが以下の定義である.
集合の等号
X, Y を集合とする.
(X ⊂Y)∧(Y ⊂X)
が真であるとき,2つの集合XとY は等しいといい,
X =Y と書く.
X ⊂Y とは
∀x∈X, x∈Y
が真であることだったので,集合としてX =Y を証明するためには
∀x∈X, x∈Y
と
∀x∈Y, x∈X
の両方が成り立つことを示せばよいことになる.この定義は
「全てのXの要素はY の要素でもあり,全てのY の要素はXの要素にもなっているなら ば,2つの集合の要素は完全に一致している他にありえない」
ということを厳密に表現したものになっている.
予約制問題
(3-1) 以下の命題の意味を説明し,その真偽を証明せよ.
∀x∈R, ∃y ∈N, x > y.
(3-2) 以下の命題の意味を説明し,その否定命題を書け.
∀x∈Z, ∃y∈N, x=y.
(3-3) A, B, C を集合とするときに次を示せ.
A∪(B∩C) = (A∪B)∩(A∪C)
(3-4) A, B, Cを集合とするときに次を示せ.
(A\B)\C =A\(B ∪C)
(3-5) 以下の集合を指定された方法で表わせ.
(i) 「−1以上かつ3以下の実数の集合」を内包的記法を用いて表わせ.
(ii) 「2未満の自然数全体の集合」を外延的記法を用いて表わせ.
早いもの勝ち制問題
(3-6) 以下の命題の意味を説明し,その真偽を証明せよ.
∀x∈C, ∃y∈R, |x|< y
ここで,a, b∈Rを用いてx∈Cをx=a+ibと表したとき,|x|は
|x|=√
a2 +b2
(3-8) A, B, C を集合とするときに次を示せ.
A∩(B∪C) = (A∩B)∪(A∩C)
(3-9) A, B, Cを集合とするときに次を示せ.
A\(B\C) = (A\B)∪(A∩C)
(3-10) 以下の集合を指定された方法で表わせ.
(i) 「3未満の実数全体の集合」を内包的記法を用いて表せ.
(ii) 「−3以上かつ2未満の整数全体の集合」を外延的記法を用いて表せ.