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教育社会学 幼児教育追加資料1(10月27日分)
日本の幼稚園についての基本データ 1. 幼稚園と保育所の制度比較
幼稚園 保育園(認可保育所)
文部科学省 管轄 厚生労働省
学校教育法 法令 児童福祉法
「幼児を保育し、適当な環境を与えて その心身の発達を助長すること」
(学校教育法第77条)
目的
「日々保護者の委託を受けて、保育に 欠けるその乳児又は幼児を保育する こと」(児童福祉法第39条)
3歳から5歳 年齢 経営内容によるが、主に0歳から5歳 国、地方公共団体、学校法人等
(宗教法人などもある。) 設置者(経営者)
地方公共団体、社会福祉法人等
(宗教法人、個人、その他法人企業など の場合もある。)
幼稚園教育要領 教育・保育内容の基準 保育所保育指針 4時間(お昼まで) 1日の保育時間 8時間(原則)
任意 給食 義務
大体の園にある 園バス ほとんどの園にない
幼稚園教諭免許状 先生の免許 保育士資格証明書
幼稚園設置基準による 設置 児童福祉施設最低基準による
所得によらず、固定 保育料 家族の所得による
表1 幼稚園と保育所の比較
↑以下のサイトを参照 http://ba.boo.jp/hoikushishin/hikaku/
a. 幼稚園の現状
昔から保育園に対して「学校」であると言う考えから、教育機関であるという世間一般の考えが継続している。しかし 昼までであったり土日が休みであったりして、ほとんどのお母さんが働くこのご時世において保育園人気や少子化問題も 後押しして、非常に人気がなくなってきている。園児も定員を割っているところがほとんどである。
b. 保育園の現状
一昔前は託児所の延長のように世間一般扱われていた。しょうがなく保育園に通わせても、幼稚園卒にさせたいため、
ぎりぎりで幼稚園に転入させる、などがあったりした。時代は変わり、「子どもを預けるだけ」という考え方から、「教 育、育ちの場」としてのサービス、取り組みなどが充実し、 「待機児童問題」がでるほどの人気に。
2. 園児減少のインパクト
量的な面からみれば、日本の正規の就学前教育機関の普及は一段落し、出生率の低下と共に、実数は減少傾向にあるの が実情である。保護者が直接入園手続きをとる幼稚園、とりわけ園数で60%、園児数で79.5%を占める(平成18年度)私 立幼稚園にとって、園児数の減少は園の存続にとって死活問題となっている。このため、私立幼稚園の園児獲得競争、必 死の生き残り戦略は、様々な試みとなって現れている。
a. 3歳児の受け入れ
幼稚園における三歳児の在籍比率を見ると、8.4%(1979年)→14.0%(1985年)→29.8%(1997年)と、増加の一途を 辿っている。
b. 保育時間・期間の延長
従来1日4時間の保育時間を標準とし(幼稚園教育要領)、春・夏・冬期に長期休暇を設けていた運営体制を見直し、長 時間保育・休暇中の開園などを行って、母親の就労にも対応しようとする幼稚園が増加している。いわば保育所に近い体 制をとることで、女性の職場進出といった社会情勢に対処し、幼稚園離れを防ごうというものである。
文部省は1997年度から預かり保育の促進に関して予算を計上するようになっている。実際、文部省の調査によれば、預 かり保育を実施している幼稚園の比率は年々増大している(以下の表を参照)。
休暇中の開園についても同様で(以下の表を参照)、幼稚園がますます「保育所化」している実態がうかがえる。
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→ 森上史郎編『最新保育資料集』ミネルヴァ書房(2007)より c. 幼稚園の個性化
少子化に対応する幼稚園の戦略として挙げられる第三のものは、「特色のある保育」を行うことで親の関心を引こうと いうものである。従来、「給食」「送迎バス」「長時間保育」というのが幼稚園の三種の神器といわれてきたが、これら に加え、温水プールや体育館など、いっそうデラックスな施設・設備を整えてハード面で園児を獲得しようとする園や、
保育内容(ソフト)の面でいわゆる「目玉保育」を実践している園も見られる。
さらには、「早期教育」や「才能開発教育」を積極的に行っている園も増えている。具体的には、文字・漢字・算数・
英語・体操・絵画・音楽などの教育に力を入れる園、それに対し「しつけ」を重視する園、また、むしろ自由遊びを目玉 にする園と、様々な特色を持たせる努力が行われている。
幼稚園の目的は、学校教育法において、「幼児を保育し、適当な環境を与えてその心身の発達を助長することを目的と する」(第77条)と規定されており、具体的な知識を授けることは目的とされていない。むしろ、小学校以降にはじまる 普通教育を受けるための心身の健全な準備状態をつくることにあるとされている。
しかし現実には、公的な就学前教育の量的な普及が達成された今、幼稚園教育はそれぞれの園の特色を出すために多様 になっており、早期教育に力を入れる園も増えてきている。そして、その多くが私立の幼稚園であるため、文科省として も強く介入できないというのが実情であろう。
3. 早期化するダブル・スクール(塾・習い事)
a. 子ども教育産業の興隆
ある調査によると、「習い事をしている」子どもは、年少児(幼稚園年少児クラスと保育園3歳児クラスの子ども)で 36.2%、年中児(幼稚園年中児クラスと保育園4歳児クラスの子ども)で57.7%、年長児(幼稚園年長児クラスと保育園5
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歳児クラスの子ども)では67.4%にのぼるという(ベネッセ教育研究所、1998『研究所報vol.14 子育て生活基本調査報 告書―園児、小学校1・2年生の母親を対象に』ベネッセコーポレーション)。一人当たりにすると、年少児が1.5個、年 中・年長児で1.7個の習い事をしていることになる。
習い事の内容をみると「スイミング・スクール」がもっとも多く、年少児では次に「月1回教材が届く通信教育」、そ して「スポーツクラブ、体操教室」「バレエ・リトミック」「教材を一度に購入する通信教育・教材」となっている。年 長児になると、「スイミング」の次が「楽器の個人レッスン」「スポーツクラブ、体操教室」「月1回教材が届く通信教 育」、そして5番目に「幼児向けの音楽教室、英会話などの語学教室や個人レッスン」が登場する。
平均開始年齢を計算すると、「スイミングスクール」が4.0歳、「楽器の個人レッスン」が4.8歳、「幼児向けの音楽教 室、英会話などの語学教室や個人レッスン」が4.3歳、「月1回教材が届く通信教育」が3.9歳となっている。
b. 習い事をはじめる理由 末尾の図を参照のこと。
c. 教育費(平成18年度「子どもの学習費調査」より)
これらの活動にどのくらい費用がかけられているのかみてみよう。文部省が1994年度から隔年で実施している「子ども の学費調査」の平成18年度の結果をみると、幼稚園(4,5歳児)に子どもを通わせている保護者の年間の「学校外活動 費」は、公立で約10万4000円、私立で約14万5000円となっている。
表1 学校種別子どもの学習費総額(単位:円)
ちなみに、「学校教育費」(授業料や教材費・通学料などを含む)でみると、公立は約13万3000円、私立は約36万8000 円。「学習費総額」(「学校教育費」「学校外活動費」「学校給食費」を合計した額)を見ると、公立が約25万1000円、
私立が53万8000円となっている(上の表を参照)。公立と私立では教育費に倍以上の差が生じていることが分かる。
d. まとめ
現在、幼稚園も保育所も多用な保育ニーズに対応することが求められており、幼稚園の3年保育の増加、保育時間の長 時間化、休暇中の開園などは、保育所との違いをわかりにくくする傾向に働いている。二元行政に対しては「幼保一元 化」の運動が戦前期からあったが、今日では幼稚園と保育所、そして幼児教室や塾といった3種類の就学前教育機関の境 界がむしろ曖昧になっており、親の必要性に応じて「選択」される時代になってきている。
4. 参考文献
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a. 濱名陽子、2000「幼児教育の変化」苅谷剛彦・濱名陽子・木村涼子・酒井朗『教育の社会学―<常識> の問 い方、見直し方』有斐閣アルマ、第2章
b. 森上史郎編、2007『最新保育資料集』ミネルヴァ書房 c. 文部科学省平成18年度「子どもの学習費調査」
(http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/006/07120312.htm) 5. 習い事を始めた理由