神 奈 川 大学 ・漸 江 大 学 第11回 日中学 術 交 流 シ ンポ ジ ウムの報 告
人文学研究所所長 鈴 木 陽 一
1実 施 さ れ た 日程
11月4日(日)金 建 人,鈴 木 に よ る 成 田 出 迎 え 。
11月5日(月)午 前 中 打 ち 合 わ せ,午 後1時 よ り20‑301に お い て 特 別 シ ン ポ ジ ウ ム 「金 庸 作 品 の 魅 力 を探 る 」 開 催 。
11月6日(火)午 前,午 後 を 通 し て 通 常 の 形 式 で シ ン ポ ジ ウ ム を 開 催 。 夕 刻 よ り ラ ッ ク ス ホ ー ル に お い て 歓 迎 宴 。
11月7日(水)金 庸,陳 平 原,鈴 木 の 三 名 は 広 報 課 主 催 の 座 談 会 に 参 加 。 漸 江 大 の 他 の メ ン バ ー は 学 内 見 学 。 午 後2:40よ り張 涌 泉 氏 は 学 生,及 び 市 民 対 象 の 講 演 を行 う 。 ま た,午 後3:00よ り今 後 の 学 術 交 流 の あ り 方 に つ い て 討 論 。
11月8日(木)金 沢 文 庫,鎌 倉 の 圓 畳 寺,建 長 寺 な ど を 見 学 。 11月9日(金)経 済 関 係 の メ ン バ ー と 共 に お 台 場 な ど を 見 学 。 11月10日(土)帰 国 。
2シ ンポ ジ ウ ム の概 要
本 年 の シ ン ポ ジ ウム は全 体 テ ー マ を 「歴 史 と文 学 の境 界 」 と し,全 体 を三 部 門 に わ け,三 日 間 に分 け て 行 わ れ た 。 そ の お よそ の 内 容 は以 下 の 通 りで あ る 。
*11月5日(月):シ ン ポ1=特 別 シ ンポ 「歴 史 と文 学 一 金 庸 作 品 の魅 力 を め ぐ っ て」
金 庸 氏(漸 江 大 学 人 文 学 院 長)に 基 調 講 演 を御 願 い し,陳 平 原(北 京 大 学 教 授),王 勇(断 江 大 学 日本 文 化 研 究 所 所 長),蓼 可 斌(漸 江 大 学 人 文 学 院 副 院 長),岡 崎 由 美(早 稲 田 大 学 教 授),金 文 京(京 都 大 学 教 授)の 各 パ ネ ラ ー が そ れ ぞ れ の 専 門 的 立 場 か ら発 言 した 。 陳 平 原 と蓼可 斌 氏 は 中 国 で の 金 庸 の 受 容 の あ り方 に つ い て報 告 し,王 勇 氏 は 日中 間 で の 武 侠 小 説 の 違 い に つ い て発 言 した。 ま た,金 文 京 氏 は 金 庸 氏 の 作 品 に 見 え る 辺 境 と辺 境 に 暮 らす 少 数 民 族 につ い て発 言 し,岡 崎 由美 氏 は金 庸 の 格 闘 シー ン の描 写 に つ い て発 言 した 。 シ ンポ ジ ウム は 一旦 休 憩 した後,主 と して パ ネ ラ ー及 び 会 場 か らの 質 問 に 直 接 金 庸 氏 が 答 え る とい う形 式 で 行 わ れ た 。 司 会 は金 建 人(本 学 特 任 教 授,漸 江 大 学 教 授)と 鈴 木 陽 一 が 担 当 した。
*11月6日(火)
午 前:日 中 比 較 文 化 の 視 点 か ら
佐 野 賢治(本 学 教 授)「 十 三 塚 と十 三 オ ボー 塚 の 比 較 民 俗 学 一 」 山 口 建 治(本 学 教 授)「 散 楽 の伝 来 と ヲ コ(鳥p/鳴 呼)の 語 源 」 午 後:歴 史 と文 学 一 叙 述 の 言 説 をめ ぐっ て
楼 含松(漸 江 大 学 教授)「 古 代 小 説 与 歴 史 的 関 係 」
徐 岱(漸 江 大 学 教 授)「 『愛 生 」 の 哲 学一 金 庸 小 説 的 美 学 考 慮 」
小 林 一 美(本 学 教 授 〉 「日本 と 中 国 にお け る 民 衆 運 動 と通 俗 文 学 一 そ の 比 較 的 考 察 一 」 石 井 美 樹 子(本 学 教 授)「 不 貞 の とが で 裁 判 に 引 き出 さ れ る 王 妃
一 シ ェ イ クス ピ アの 『冬 物 語 』 に お け る歴 史 的 な事 実一 」
*11月7日(水)
張 湧 泉(漸 江 大 学 教 授)「 日本 漢 字 探 源 二 題 」
3総 括
今 回 の 特 別 シ ンポ ジ ウ ム は,金 庸 氏 の 来 日に よ り多 くの 参 加 者 を 迎 え る こ とが で きた こ と,ま た各 方 面 の御 協 力 に よ り,金 庸 シ ン ポ ジ ウ ム と して は現 在 最 もふ さわ しい パ ネ ラー を招 聰 で きた こ とは 大 い な る成 果 で あ る 。 こ の 結 果,本 シ ンポ ジ ウ ム は メ デ ィア の 取 り上 げ る こ と とな り,大 修 館 の 月刊 雑 誌 「し に か 」11月 号,東 方 書 店 及 び 内 山 書 店 のPR誌 に そ れ ぞ れ 詳 細 な案 内 が 掲 載 され た。 ま た 金 庸 氏 の 小 説 の 翻 訳 を刊 行 して い る徳 間 書 店 は,10月 出 版 の 作 品 の 折 り込 み に本 シ ン ポ ジ ウ ム の 案 内 を掲 載 した 。 こ の 他 にNHK教 育 テ レ ビの 中 国語 講 座 が 金 庸 氏 に イ ン タ ビ ュ ー を行 い,1月18日 に金 庸 氏 が 神 奈 川 大 学 との シ ンポ ジ ウ ム の た め に 来 日 した 旨 の コ メ ン ト付 き で放 映 さ れ た 。 更 に チ ャ イ ナ大 富(CSの 中 国 語 専 門 チ ャ ン ネ ル)の 社 長 が,自 ら イ ン タ ビュ ー に 訪 れ,放 映 は 未 定 な が ら,そ の 一 部 が 同 チ ャ ンネ ル の番 組 案 内 週 刊 誌 に掲 載 され て い る。
当 日はPRの か い も あ っ て,23‑301は4時 間 余 り ほ ぼ 満 員 の 状 態 が 続 き,一 時 は相 当 数 の 立 ち見 が 出 る ほ どの 盛 況 で あ っ た 。 また,本 学 の 学 生(留 学 生 も含 む)と 共 に,他 大 学 か らの 参 加 者 が 多 か っ た
こ と も今 回 の シ ン ポ の特 色 で あ っ た。 こ ち らの 掌 握 して い る 限 りで は,九 州 か らの 参 加 者 も あ っ た 。 今 回 の シ ンポ ジ ウム の 成 功 の 最 大 の 理 由 は,漸 江 大 学 人 文 学 院 の 指 導 部 の全 面 的協 力 の も と御 高 齢 の 金 庸 氏 の 来 日が 実 現 した こ と に よ るが,そ の 背 景 に10年 を越 え る 交 流 を通 じて 本 学 と漸 江 大 学 との 間 に築 か れ た信 頼 の 絆 が あ っ た こ と を忘 れ る こ とは で きな い 。 長 期 に渡 る交 流 の 中 で,日 中 双 方 の,中 国 の 諺 に い う 「井 戸 を掘 っ た 人 々 」 の 多 年 の 苦 労 に 謝 意 を 表 す る。
また 今 回 の シ ンポ に際 して の 人 文 学 会 の 甚 大 な協 力,更 に 国 際 交 流 セ ン タ ー は じめ 学 内 の 各 方 面 の協 力 に対 して深 甚 な る 謝 意 を 表 す る 。
今 回 の シ ンポ ジ ウ ム の 成 功 は,シ ンポ ジ ウ ム の もつ プ ラ ス 面 が 最 大 に 発 揮 さ れ た もの で あ る と共 に, 通 例 の タ イ プの シ ン ポ ジ ウ ム を同 時 に 開 催 す る こ と に よ っ て,そ の 限 界 も極 め て 明 瞭 に な っ た 。 シ ン ポ ジ ウム は学 術 交 流 の 成 果 を公 開,交 換 す る もの で は あ るが,地 道 な 共 同研 究 に取 っ て代 わ る もの で は な い とい う こ とが 明 らか に な っ た 。 後 で も述 べ る よ う に,両 校 の 学 術 交 流 の 発 展 の た め に継 続 さ れ て き た シ ン ポ ジ ウ ム は,こ れ まで に な い 充 実 した 内容 と数 多 くの 参 加 者 と い う成 果 を挙 げ,と りあ え ず そ の 歴 史 的 役 割 を終 え た の で あ る。
4今 後 の 交 流 の あ り方 につ い て
本 学 人 文 学 研 究 所,漸 江 大 学 人 文 学 院,同 日本 文 化 研 究 所 は今 後 の 交 流 につ い て 議 論 を行 っ た 。以 下, 合 意 され た 内容 を箇 条 書 きで 列 挙 す る 。
① 全 学 交 流 協 定 の調 印 問 題 につ い て は,{折 江 大 学 側 が 再 度 学 長 に調 印 を促 す こ と,そ れ が 難 しい 場 合 に は双 方 が 両 大 学 の 副 学 長 に よ る調 印 の 道 を探 る こ とで 合 意 した 。
② 双 方 は全 学 交 流 協 定 の 調 印 問 題 が 主 と して漸 江 大 学 側 の事 情 か ら容 易 な ら ざ る状 況 にあ る こ と を共 通 の 認 識 と し,解 決 へ の 努 力 は 惜 しむ もの で は な い が,全 学 協 定 問 題 が ど の よ う に決 着 した と して も, こ れ まで の成 果 を踏 ま え な が ら,本 学 の 人 文 学 研 究 所 と漸 江 大 学 の 人 文 学 院 及 び 日本 文 化 研 究 所 は交 流 を継 続 し,更 に レベ ルの 高 い 学 術 交 流 を 目指 して 双 方 が 努 力 して い くこ とで 意 見 の 一 致 を見 た 。
な お,全 学 協 定 が 締 結 され な い ま ま交 流 を行 う場 合,断 江 大 学 側 に は財 政 面 で の 大 き な障 害 は な い が, 本 学 の 人 文 学研 究 所 にお い て は予 算 的 措 置 が 保 証 さ れ な い とい う問 題 が あ る こ と を双 方 が 認 識 した 。
③ 今 後 の 学 術 交 流 の 継 続 に あ た っ て は,シ ン ポ ジ ウ ム形 式 は必 ず し も採 らな い こ と,予 め ス タ イ ル を 定 め ての 交 流 は避 け る こ と,着 実 で 多様 な成 果 が 得 ら れ る よ う,交 流 の 内 容 と方 法 に つ い て 双 方 で 検 討 し,話 し合 っ て い くこ と を確 認 した 。 ま た,研 究 の テ ー マ に即 して,そ れ ぞ れ の 大 学 が 有 す る ネ ッ トワ
一 ク を活 用 し
,他 大 学,他 研 究 機 関 の メ ンバ ー を組 織 した研 究 交流 を も行 う こ とで 合 意 した 。
④ 今 後 の 交 流 の 際 の 費 用 の負 担 につ い て は 日本 文 化 研 究 所 王 勇 所 長 よ り本 学 人 文 学研 究 所 及 び漸 江 大 学 の 人 文 学 院 に対 して以 下 の 申 し出 が あ っ た 。
*相 互 に訪 問 す る場 合,航 空 運 賃 に つ い て は訪 問 す る側 が全 額 負 担 し,滞 在 費 に つ い て受 け 入 れ 側 が 負 担 す る 。
*滞 在 費 の 負 担 につ い て は,「 宿 泊 数 ×宿 泊 者 数 」 の い わ ゆ る延 べ 人 数 を 同 数 とす る こ とで 負 担 の 平 等 を 目指 す 。
こ の 申 し出 の うち 運 賃 に つ い て は 双 方 が 同 意 した 。 滞 在 費 の 問 題 は,本 研 究 所 は 基 本 的 に 同 意 し,人 文 学 院側 か らは 前 向 き に検 討 す るが,財 政 的 な問 題 な の で,回 答 を保 留 す る 旨発 言 が あ っ た。
講 演 会 要 旨
開 催 日:2001年6月20日(水 〉 午 後3時 〜午 後5 時
会 場:神 奈 川 大 学 人 文 学 研 究 所 資 料 室(17号 館216号 室)
講 演 者:ホ イ ト ・ロ ン グ氏(ミ シ ガ ン大 学 東 洋 言 語 文 化 学 部)
演 題:「 日本 の 環 境 文学 と 『自然 」 そ の 概 念 一 比 較 環 境 文学 の 可 能 性 と困 難 さ一 」
ア メ リ カ に お け る 環 境 文 学 ・エ コ ク リ テ ィ シ ズ ム の 発 達 は,主 と し て1960年 代 の 環 境 問 題 の 表 面 化 と そ れ に 対 す る 環 境 文 学 の 盛 り上 が り に 始 ま
る 。1980年 代 後 半 に は 環 境 文 学 研 究 が 活 発 と な り,1990年 代 に 入 っ て か ら は,環 境 文 学 と エ コ ク リ テ ィ シ ズ ム の 学 者 が 増 え て い る 。1992年 に ASLE(AssociationfortheStudyofLiteratureand
Environment)と い う 学 会 が 正 式 に 創 立 さ れ た 。 こ こ で,環 境 文 学 と は 簡 潔 に は 人 間 社 会 と 自 然 環 境 と の 関 係 を 主 な 題 材 と し て 書 か れ た 文 学 作 品 で あ り,ヘ ン リ ー ・ソ ロ ー,ジ ョ ン ・ ミ ュ ア,レ ー チ ェ ル ・カ ー ソ ン な ど が 代 表 的 で あ る 。しか し, ロ ー ラ ン ス ・ビ ュ ー ル な ど は 環 境 文 学 を ど う 定 義 す べ き か に よ り詳 し い 指 針 を 挙 げ て い る 。 こ れ に
対 して,エ コ ク リテ ィシ ズ ム とは,自 然 に焦 点 を あ て て,環 境 と人 間 の 関係 を 中 心 に作 品 を分 析 す
る文 学 の 解 釈 方 法 で あ る。
こ う した,環 境 ・文 学 評 論 は ア メ リ カ か ら 日本 に も もた ら され1994年 に は 環 境 ・文 学 会(ASLE‑
Japan)が 設 立 され て い る。
ア メ リ カ か ら 日本 へ とい う プ ロセ ス に お い て 日 本 に お け る 環 境 ・文 学 評 論 に は2つ の 一 般 化 論 が 発 生 す る 傾 向 が あ る。1つ は,オ リエ ン タ リズ ム 的 な 一 般 化 論 で あ り,も う一 つ は 西 洋 に 解 決 が あ る とい う一 般 化 論 で あ る 。 前 者 は,近 代 化 以 前 の 日本 文 化 や伝 統 に 今 の環 境 問 題 を解 決 す る た め の 手 が か りが あ る と考 え る もの で,後 者 は西 洋 の 文 化 に解 決 方 法 を探 る べ きで あ る と考 え る もの で あ る。 しか し,い ず れ の 一 般 化 論 に お い て も,近 代 を看 過 して しま う点 と,「 自然 」 とい う概 念 の 多 様 性 を隠 蔽 す る とい う点 で 問 題 が あ る と考 え られ
る。
日本 に お け る環 境 ・文 学 評 論 の 本 来 の あ る べ き 姿 は,日 本 文 学 を通 し て,「 自然 」 とい う概 念 の
多様 性 ・多 義 性 を知 る こ とで あ る と考 え る。
(文責:松 本 安 生)
陽 安 石 正 晴 喜 美 代 清 治 典 子 木
沢 屋 野 本 鈴 孫 寺 古 西 岩 人 文 学 研 究 所
所 長 国 際 交 流 所 報 会 計 ・ 講 演 図 書 共同研究・叢書
本学外国語学部教授 本学外国語学部教授 本学外国語学部教授 本学外国語学部教授 本学外国語学部教授
人 文 学 研 究 所 報
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研究所 代表者鈴木陽一
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