Ⅰ.問題と目的
1.アサーションスキルの重要性について
コミュニケーションスキルの1つにアサーションが ある。玉瀬(2001)は,アサーションを「自分の考え を主張すべきときに,相手の立場を尊重しつつ,その 場にふさわしい方法で,率直にそれを表現すること」
であると述べている。大対(2011)は,アサーション スキルは一般高校生の不登校予防にも,また不登校の 状態にある生徒への学校復帰にも有効なスキルである ことを示している。このことから高校生にとってア サーションスキルが学校に対する肯定感を高めたり,
良好な人間関係を築いたりするための重要なスキルで あると考えられる。
企業が重視した項目の1位にコミュニケーションス キルがある(日本経済団体連合会,2019)ことからも,
社会でもこのスキルは求められていると考えられ,就 職を選択する高校生にとっては社会に出る前に高校の 教育課程において,このスキルを築いておくことが重 要だと考えられる。
2.対人的自己効力感,社会不安とアサーションの関 係について
社会的スキルとは,「対人関係を円滑にはこぶため のスキル」,「人付き合いをうまくするための技術」,「他 者との関係や相互作用を巧みに行うために,練習して 身に着けた技能,もっと簡単に言えば,ほかの人に対
するふるまい方やものの言い方」等と定義がなされて いる(相川,2000)。この「人付き合いをうまくする ための技術」や「他の人に対するふるまいやものの言 い方」と言う点は,アサーションの「相手を尊重しつ つ,その場にふさわしい方法で表現すること」と類似 していると考えられる。この社会的スキルの獲得や遂 行の程度に関連する重要な変数として自己効力感があ る(戸ヶ崎,2002)。自己効力感は領域に基づいて分 類することができ,特に対人場面での行動に関する自 己効力感を対人的自己効力感と呼ぶ(松尾・新井,
1998)。
社会不安とは,現実の,あるいは想像上の対人場面 において,他者からの評価に直面したり,もしくはそ れを予測したりすることから生じる不安状態のことで ある(Schlenker & Leary, 1982)。大対ら(2018)は,
社会不安と似た概念の対人不安について,アサーショ ンスキルを含むスキルトレーニングの効果を検討した が,その際に対人不安得点はスキルトレーニングの前 後で有意な差が見られなかったことを指摘している。
社会不安と対人自己効力感の間には負の関連がある ことが示されている(新井ら,2015;松尾・新井,
1998)。大対の研究で結果が見られなかった背景には,
社会不安がアサーションスキルと直接的な関係がある のではなく,対人自己効力感を介して影響を与えるも のであったからではないか。そのため,対人自己効力 感と社会不安の相互作用により,アサーションスキル 本研究の目的は高校生を対象として,考え方のクセが社会不安,対人的自己効力感を媒介し,ア
サーションスキルに与える影響について検討し,高校生のアサーションスキルの規定因を検討する ことであった。調査方法として,高校生358名を対象に,考え方のクセ,社会不安,対人的自己効 力感,アサーションスキルの尺度を用い調査を行った。分析の結果,考え方のクセは社会不安と対 人的自己効力感に影響を与えること,社会不安から対人的自己効力感に影響を与えること,対人的 自己効力感からアサーションスキルに影響を与えることが明らかとなり,考え方のクセと対人的自 己効力感の間には,直接的にも間接的にも関連があることが示された。社会不安,対人的自己効力 感の相互作用によってアサーションスキルが高まることも示唆され,アサーションスキルを高める ためには,社会不安,対人的自己効力感にもアプローチをかけることでより効果的になることが推 察される。
〔キーワード〕高校生 考え方のクセ 社会不安 対人的自己効力感 アサーションスキル
菊 池 香 菜 岸 竜 馬
*a
*b
*a 社会医療法人 あさかホスピタル *b 福島大学人間発達文化学類附属学校臨床支援センター
高校生の対人関係場面における考え方,感じ方が
アサーションスキルに与える影響について
26 福島大学人間発達文化学類附属学校臨床支援センター紀要第6号 2022 - 8
に影響があることが考えられる。
3.考え方のクセが社会不安,対人的自己効力感に与 える影響について
大野(2011)は,認知とは,ものの受け取り方や考 え方であり,自動思考とスキーマの2つのレベルに分 けて考えることができると述べ,自動思考とはある体 験をしたときに,瞬間的に頭の中を流れる思考やイ メージであると述べている。一方,スキーマとは,そ の人がずっと持ち続けている基本的な人生観や人間観 であり,生まれながらの素質や,環境,体験により形 成され,自動思考の基礎となるものと述べている。中 塚ら(2011)はさまざまなきっかけにより生じた思い 込みや不適切な考え方は,その人のものの捉え方の基 礎となって,ゆがんだ自動思考を生むと述べ,その認 知によって,感情や行動や身体反応が異なると述べて いる。石川(2012)は,ネガティブな認知が抑うつや 不安症状に影響を及ぼすことを明らかにしている。不 安症状に影響を及ぼすような認知の仕方は,「認知の 歪み」「認知の誤り」と表現されることも多いが,認 知が誤っているとは言い難いため,本研究では「考え 方のクセ」という表記を用いる。
考え方のクセによって,感情が異なると述べられて いる(中塚,2011)ことから,対人的自己効力感にも 関連があると考えられるが,考え方のクセと対人的自 己効力感の関連を検討している論文は少ない。
4.本研究の目的
考え方のクセと対人自己効力感の関連については研 究が少ない。しかし,考え方のクセと対人自己効力感 との関連について,考え方のクセと社会不安の関連,
社会不安と対人的自己効力感との関連が示されている ことから,直接的もしくは間接的に関連があると考え る。また,社会不安と対人的自己効力感が相互に作用 し,アサーションスキルに影響を与えることを検討し た先行研究は見られないが,本研究では相互作用を仮 説に置き検討する。
また,アサーションや考え方のクセの研究において,
青年期前期である中学生や青年期後期の大学生を対象 にした研究は多く見られるが,青年期中期である高校 生を対象とした研究はあまり見られず,高校生におけ るアサーションスキルの規定因について検討する必要 があると考えられる。
Ⅱ.質問紙調査
1.方 法 ① 調査対象
A高等学校の379名,1学年107名(男子:41名,女 子:64名,その他:2名),2学年132名(男子:55名,
女子:75名,その他:2名)3学年140名(男子:46名,
女子:92名,その他:2名)のうち,欠損値のあった 者を除き,358名のデータを使用した。
② 調査手続き
質問紙を配布し,無記名で実施した。調査期間は 2021年12月上旬であった。
③ 調査内容 ⑴ フェイスシート
正しい回答や間違った回答はないこと,データの扱 いについて個人情報の保護に配慮することを記載し た。
学年,組,性別を尋ねた。性別については,男子・
女子・その他で回答を求めた。
⑵ 考え方のクセ尺度
『子どものための認知行動療法ワークブック』(松丸・
下山,2020)に記載されている,考え方のクセを見つ けるための質問14項目を使用した。大きく「マイナス 面ばかりを見る考え方」「ダメなところを大げさに強 調する考え方」「悪いことばかりを予測する考え方」「自 分を責める考え方」「失敗する自分を作りだしてしま う考え方」の5つの項目に分かれている。「当てはまる」
から「当てはまらない」の5件法で回答を求めた。
⑶ 社会的不安測定尺度(FNE)短縮版
社会場面での不安を測定するために,笹川・金井・
村中・鈴木・嶋田・坂野(2004)が作成した「社会的 不安測定尺度(FNE)短縮版」12項目を「当てはまる」
から「当てはまらない」の5件法で回答を求めた。
⑷ 対人的自己効力感尺度
対人場面における自己効力感尺度を測定するため に,松島(2000)が作成した「対人的自己効力感尺度」
31項目を「当てはまる」から「当てはまらない」の5 件法で回答を求めた。
⑸ アサーションスキル尺度
アサーションスキルを測定するために,鶴田・有倉
(2007)が作成した「アサーションスキル尺度」13項 目を「当てはまる」から「当てはまらない」の5件法 で回答を求めた。
2.結 果
① 因子分析及び内的整合性 ⑴ 考え方のクセ尺度
「マイナス面ばかり見る考え方」はα=.74,「ダメな ところを大げさに強調する考え方」はα=.75,「悪い ことばかりを予測する考え方」はα=.50,「自分を責 める考え方」はα=.80,「失敗する自分を作り出して しまう考え方」はα=.70であった。「悪いことばかり を予測する考え方」の信頼性は.50と十分ではなかっ たため,今回は「悪いことばかりを予測する考え方」
を除いた4因子で分析を行う。
⑵ 社会的不安測定尺度(FNE)短縮版
最尤法,プロマックス回転により因子負荷量を求め,
2因子解を採用した。「私の友達が自分をどう思って いるのかをあれこれ考えてしまう」「誰かと話してい るとき,その人が自分のことをどう思っているか心配 だ」など8項目がまとまり「他者評価の敏感性」と命 名した。「他の人が自分のことを認めてくれなくても,
あまり気にならない(逆転項目)」「他の人が私のこと をどう思うかはほとんど気にならない(逆転項目)」
など4項目がまとまり「他者評価の気にしやすさ」と 命名した。なお,「他者評価の気にしやすさ」はすべ て逆転項目で構成されている。内的整合性を検討する ためにα係数を算出した。「他者評価の敏感性」はα
=.92,「他者評価の気にしやすさ」はα=.84という結 果が得られ,十分な内的整合性が示された。
⑶ 対人的自己効力感尺度
31項目について天井効果・床効果を確認したところ,
7項目が天井効果となり,7項目を除いて因子分析を 行った。最尤法,プロマックス回転により因子負荷量 を求め,4因子解を採用した。「友人はいつも私のこ とを分かってくれると思う」「友人に何を話しても,
理解してくれると思う」など8項目がまとまり「友人 との相互信頼」と命名した。「私は友達と話を合わせ ることがうまいと思う」「私は人にうまくアドバイス できる」など6項目がまとまり「円滑な会話の自信」
と命名した。「初めてあう人でもうまく自己紹介がで きる」「私は誰とでも気軽に話せる」など4項目がま とまり,「誰とでもやりとりできる自信」と命名した。
「友人は自分を必要としてくれている」「私は友人に信 頼されている」など6項目がまとまり「自分への自信」
と命名した。内的整合性を検討するためにα係数を算 出した。「友人との相互信頼」はα=.89,「円滑な会話 の自信」はα=.80,「誰とでもやりとりできる自信」
はα=.88,「自分への自信」はα=.79という結果が得 られ,十分な内的整合性が示された。
⑷ アサーションスキル
13項目について天井効果・床効果を確認したところ,
2項目が天井効果となり,2項目を除いて因子分析を 行った。最尤法,プロマックス回転により因子負荷量 を求めたところ2因子に分かれ,負荷量を確認したと ころ,1項目の負荷量が.315と値が十分でなかったた め,削除し再度因子分析を行った。結果,2因子解を 採用した。「相手の話にうなずいたり,相槌をうちな がら,会話を弾ませることができる」「自分の視線・
表情・姿勢などに気を配って,相手を確認しながら話 をできる」など7項目がまとまり「相互受容的な話術」
と命名した。「友人が間違ったことを言っているとき は「それは違うと思う」とはっきり言える」「話し合 いの中で相手と意見が違った時,自分の意見を言える」
など3項目がまとまり「異なる意見の表明」と命名し た。次に内的整合性を検討するためにα係数を算出し た。「相互受容的な話術」はα=.85,「異なる意見の表 明」はα=.81という結果が得られ,十分な内的整合性 が示された。
② 性別による差の検討
考え方のクセについて,性別差を検討するために Mann-WhitneyのU検 定 を 行 っ た と こ ろ, 尺 度 全 体
(r=-.12 p<.05) と, 自 分 を 責 め る 考 え 方(r=-.12 p<.05), 失 敗 す る 自 分 を 作 り 出 す 考 え 方(r=-.14 p<.01)において有意な差が認められた(表1)。
社会不安も同様にMann-WhitneyのU検定を行った ところ,尺度全体(r=-.28 p<.001)と,他者評価の敏 感性(r=-.27 p<.001),他者評価の気にしやすさ(r=-.21 p<.001)において有意な差が認められた(表2)。
対人的自己効力感についてt検定を行ったが,有意
平均値 標準偏差 中央値
効果量 p値 男子 女子 男子 女子 男子 女子
考え方のクセ 尺度全体 2.730 2.990 .827 .803 2.830 2.920 -.123 .021 マイナス面ばかり予測する 2.870 3.080 .984 .866 3.000 3.250 -.093 .081 ダメなところを大げさに捉える 2.690 2.930 1.026 1.048 3.000 3.000 -.093 .082 自分を責める 2.640 2.950 1.145 1.188 3.000 3.000 -.122 .022 失敗する自分を作り出す 2.660 2.970 .900 .873 2.830 3.000 -.145 .007
表1 考え方のクセ 男女差の比較
平均値 標準偏差 中央値
効果量 p値 男子 女子 男子 女子 男子 女子
社会不安 尺度全体 2.870 3.410 .905 .907 2.920 3.500 -.279 .000 他者評価の敏感性 2.730 3.320 1.042 .980 2.810 3.380 -.270 .000 他者評価の気にしやすさ 3.160 3.580 1.033 .967 3.000 3.750 -.208 .000
表2 社会不安 男女差の比較
28 福島大学人間発達文化学類附属学校臨床支援センター紀要第6号 2022 - 8
差は認められなかった。
アサーションについてMann-Whitney のU検定を 行ったところ,相互受容的な話術(r=-.13 p<.05)に おいて有意な差が認められた(表3)。
③ 学年による差の検討
考え方のクセの学年差を検討するためにKruskal Wallisの検定を行ったところ,有意な差は認められな かった。
社会不安についてKruskal Wallisの検定を行ったと ころ,有意な差は認められなかった。
対人的自己効力感について,一元配置分散分析を 行ったところ,有意な差は認められなかった。
アサーションについて,Kruskal Wallisの検定を 行ったところ,尺度全体(p<.05)と,相互受容的な 話術(p<.05)において,有意な差が認められた。尺 度全体(p<.05)と相互受容的な話術(p<.01)のどち らも,2年生と3年生の間に差があることが明らかと なった(表4)。
④ 仮説モデルの検証
仮説モデルを検証するにあたって,共分散構造分析 によるパス解析を行った。考え方のクセを独立変数に,
社会不安,対人的自己効力感を媒介変数に,アサーショ ンスキルを変数とし,共分散構造分析を行った。分析 にあたっては,モデル内の変数間に,想定しうる全て
のパスを仮定し,5%水準で有意とならなかったパス は削除しながら解析を繰り返し,以下のモデル(図1)
を 採 用 し た。 モ デ ル の 適 合 度 は χ²=6.3 df=2,
p<.05,GFI=.991,AGFI=.957,RMSEA=.78 であり,
ほぼ満足できる水準であった。図1にパス係数を示す。
考え方のクセから社会不安へ,社会不安から対人的自 己効力感へ,考え方のクセから対人的自己効力感へ,
対人的自己効力感からアサーションスキルへという影 響があることが明らかとなった。
次に,図1で得られたモデルを元に,因子間のモデ ルを検討するために,再度共分散構造分析によるパス 解析を行った。その際,外生変数である考え方のクセ の因子それぞれに相関係数を設定した。同様に社会不 安の誤差間,対人的自己効力感の誤差間,アサーショ ンスキルの誤差間にそれぞれ共分散を仮定した。分析 にあたっては,モデル内の変数間に,想定しうる全て のパスを仮定し,5%水準で有意とならなかったパス は削除しながら解析を繰り変えし,以下のモデル(図 2)を採用した。最終的なモデル全体の適合度はχ²
=88.8 df=33,p<.001,GFI=.962,AGFI=.910,
RMSEA=.69であり,悪くはない水準であった。図2 にパス係数を示す。自分を責める考え方から他者評価 の気にしやすさへの影響,他者評価の気にしやすさか ら自分への自信への影響,自分への自信から異なる意 見の表明に影響というパスの流れが確認できた。
平均値 標準偏差 中央値
効果量 p値 男子 女子 男子 女子 男子 女子
アサーション 3.690 3.810 .783 .654 3.800 3.800 -.046 .391 相互受容的な話術 3.750 3.990 .784 .644 3.860 4.000 -.131 .014 異なる意見の表明 3.560 3.400 .981 .978 3.670 3.330 -.089 .095
表3 アサーション 男女差の比較
平均値 標準偏差 中央値
p値 多重比較 1年生 2年生 3年生 1年生 2年生 3年生 1年生 2年生 3年生
アサーション 3.800 3.620 3.880 .684 .740 .676 3.750 3.700 3.900 .043 2<3 相互受容的な話術 3.900 3.760 4.020 .700 .738 .667 3.860 3.860 4.000 .033 2<3 異なる意見の表明 3.550 3.290 3.550 .891 1.022 1.002 3.670 3.330 3.670 .087
表4 アサーション 学年差の比較
図1 尺度間における共分散構造分析の結果
高校生の対人関係場面における考え方,感じ方がアサーションスキルに与える影響について 29
Ⅲ.考 察
考え方のクセにおいて,柳ら(2017)は,認知のゆ がみ得点が女子の方が男子より高いことを示してお り,石川(2012)でも,中学生を対象にした研究であ るが,認知の誤りは女子の方が高くなるという結果が 明らかにされており,本研究と同様の結果が得られた。
このことから高校生においても考え方のクセは女子の 方が高くなる傾向があると考えられる。
社会不安において笹川ら(2009)は,不安は小学生・
中学生ともに,男子よりも女子の方が高いことを明ら かにしている。三島(2009)は,男子に比べ,女子の 方が親しい友人に対し,不安や気がかりを感じやすく,
いじめ被害があるとよりその傾向は強まることを明ら かにしている。三島の研究で使われている不安とは
「自分のいちばん大切な友人を,ほかの子にとられそ うで心配になった」という類のものであり,本研究で 使用した不安の内容とは異なるが,心配になったり,
不安になったりする感情は女子が感じやすいものであ ると考えられる。
アサーションにおいては,柳ら(2017)の研究や大 学生を対象にした成井・村井(2020)の研究から性差 はないことが示されているが,本研究では女子の方が 相互受容的な話術において得点が高い結果となった。
相手の話を頷いて聞く,視線,表情,姿勢に気を配る,
相手の都合を考慮して声を掛けるという相互に受容し あう関わり方は女子に見られる傾向であることが示唆 された。
学年差の検討の結果,アサーションについて有意な 差が認められ,3年生の方が2年生よりも高いという 結果が明らかとなった。年齢に共に経験が増えること で,アサーションスキルが身についていくと考えられ る。
共分散構造分析の結果から,考え方のクセと対人的 自己効力感の間には,直接的にも,媒介的にも関連が あることが示された。このことから,高校生にとって 考え方に偏りがあると,対人場面において自信が欠如 したり,自分自身への信頼感や,相手から信頼されて いるといった自信等が薄れてしまうことが考えられ る。対人的自己効力感を高めるためには,なぜ低まっ ているのか,低まっている考え方は何なのか自身の考 え方のクセについて検討することが大切になると考え られる。
アサーションスキルについて,対人的自己効力感と 社会不安の相互作用によって,影響があることが示さ れた。共分散構造分析では,社会不安とアサーション スキルの間にはパスが引かれなかったが,これは,大 対ら(2018)の研究と類似した結果といえる。社会不 安は対人的自己効力感に負の影響を与えており,これ は新井ら(2015)等の研究と同様の結果であった。社 会不安,対人的自己効力感の相互作用によってアサー ションスキルが高まることが示唆され,アサーション スキルを高めるためには,学校教育等でスキルトレー ニングをするだけでなく,社会不安,対人的自己効力 感にもアプローチをかけることで,より効果的になる ことが推察される。
考え方のクセは直接アサーションスキルに影響を及 ぼさないことが示唆された。栁(2017)は,高校生を 対象に認知の歪みとアサーションスキルの影響を確認 したところ,自分を過剰に低く評価してしまうものほ ど,人とよい関係を形成することが困難であることが 明らかにしている。本研究では,考え方のクセからア サーションスキルに直接の影響は見られなかったが,
本研究で得られた,自分を責める考え方が社会不安,
対人自己効力感を介して,アサーションスキルに影響
図2 因子間における共分散構造分析の結果
30 福島大学人間発達文化学類附属学校臨床支援センター紀要第6号 2022 - 8
を与えている結果は,栁(2017)の結果と類似してい るとも考えらえる。これらのことから,考え方のクセ の中でも,特に自分を責める考え方が,高校生の社会 が明らかにしている。本研究では,考え方のクセから アサーションスキルに直接の影響は見られなかった が,本研究で得られた,自分を責める考え方が社会不 安,対人自己効力感を介して,アサーションスキルに 影響を与えている結果は,栁(2017)の結果と類似し ているとも考えらえる。これらのことから,考え方の クセの中でも,特に自分を責める考え方が,高校生の 社会不安や対人自己効力感やアサーションスキルに強 い影響を及ぼしていることが示唆された。
考え方のクセが社会不安・対人的自己効力感に影響 を与え,社会不安から対人的自己効力感に影響を与え,
対人的自己効力感がアサーションスキルに影響を与え るというパスの流れが確認できた。このことから,ア サーションスキルを高めるためには,社会不安・対人 的自己効力感へのアプローチも必要であり,社会不安 を和らげ,対人的自己効力感を高めるためには,どの ように考えているのかを見直し,考え方を変えていく 過程が重要だと考えられる。
高校生におけるアサーションスキルの規定因とし て,今回の結果から,直接的な影響が見られた対人的 自己効力感が大きく関わっていると考えられる。この 対人的自己効力感を高めるには,考え方のクセも関 わっており,社会不安も対人的自己効力感に負の影響 を与えていることから,媒介的な影響であるものの,
社会不安,考え方のクセも規定因の1つと言えるだろ う。
Ⅳ.今後の課題
尺度間の分析では,誤差間の相関をつけることで適 合度が認められるモデルとなった。このことは,今回 の分析の範囲外からの影響である誤差に関連があり,
本研究では本来測定すべきものが測定されていない可 能性を示唆している。高校生のアサーションスキルに 影響を及ぼす要因を考える際には,考え方のクセ,社 会的不安,対人的自己効力感以外の要因も影響を及ぼ し得ることを検討する必要があると考えられる。
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(2) 223-237.
<謝辞>
質問紙調査を実施するにあたり,快く協力していた だいた高等学校の校長先生,諸先生方には,ご多用中 にも関わらずお時間を頂いたこと,深く感謝申し上げ ます。