力としてのエネルギー分野の協力:理由、利益、可 能な分野
北東アジア地域は、巨大なエネルギー市場と広範な地域に及ぶ エネルギー資源を保有しているが、散在するだけで一つにまと まっていないという点において、特異性を持っている。しかし、
地域各国のエネルギー政策の優位性からも裏づけされるように、
このような環境は、地域諸国によるエネルギー協力を余儀なくさ せている。エネルギー協力を導く北東アジア地域の特殊性は、以 下のように要約される。
第一に、協力を自ずと導く経済資源の相互補完性である。北東 アジア地域協力の伝統的な方法は、各参加国がそれぞれの相対的 な利点を生かすことによって、利益を得るということだ。すなわ ち、ロシアは資源、中国と北朝鮮は労働力、日本と韓国は投資と 技術を投じて、利益を得ることができる。
第二に、北東アジア諸国のエネルギー生産・消費パターンにお ける相互補完性である。ロシアは域内において、高品質で大量の エネルギー資源を輸出できる能力を持つ唯一の国だ。日本と韓 国、そして中国においても、各国のエネルギー資源の埋蔵量で自 国のエネルギー需要をまかなうのは、ほぼ不可能であり、特に中 国の場合、エネルギー消費構成が望ましくない。
Countries, Khabarovsk: RIOTIP, 2007.
第三に、北東アジア諸国のエネルギー及び経済政策の相互補完 性である。ロシアは、東部地域に未開発の豊かな開発資源を保有 しており、東シベリアと極東地区における景気不振の脱却に向け て、その資源潜在力の利用を図っている。ロシア政府は、ロシア の国際的な重要性の増大を図り、域内でのロシアの地位を向上さ せる一方で、エネルギーの輸出地域をヨーロッパからその他の地 域へシフトするなどの多角化を模索している。一方、北東アジア 地域の主要国では、地域のエネルギー需要の急増に対して懸念し 始めている。特に中国では、石油及びガス輸入における中東地域 への依存増大、輸送路問題によるエネルギー供給中断の可能性の 高まり、世界的・地域的な環境問題の悪化に関心を寄せている。
第四に、地政学的近接性である。北東アジア諸国は地域内に密 集している。ロシアは中国、北朝鮮と同じ大陸で国境を接してお り、日本とは海上境界線を挟んで近接している。したがって、す べてのエネルギーインフラ協力構想は、約2,000キロメートル範 囲内で実施が可能である(東シベリアは除外する)。
第五に、域内エネルギーインフラ協力プロジェクトの商業的実 現可能性と技術的可能性である。事前実現可能性と実現可能性に ついてのここ数十年の多くの研究において、地域内エネルギー協 力構想計画の合理性が認められている。
第六に、北東アジア地域における資本集約的エネルギーインフ ラの欠如である。北東アジア諸国は、需給連鎖の果てに、莫大な インフラ費用を要するエネルギー部門の集中開発問題に直面する
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と予測されている17。実際に、大規模なエネルギー協力プロジェ クトの経済的利益を活用することによって、計画された各国の投 資需要を減らすことができる。
ここ数年、様々なエネルギー協力プロジェクトをめぐり議論が 交わされている。エネルギー協力構想の分野は、以下の通りだ。
− 北東アジア地域(主にロシア東部地域)のエネルギー資源に 対する共同調査及び開発
− 原油、LNG、石炭の輸送拠点をはじめ、北東アジア地域の石油 及びガス幹線や地域横断的なガス供給網などの共同建設、
運営及び管理
− 効率的利用のための新たな石油・ガス処理設備、化学施設、
共有予備精油施設の建設
− 石油保管施設の共同設立及び利用、備蓄及び緊急時対応プロ グラムの共同実施
− 火力・水力・原子力発電所と伝送回線の共同建設による相互 電力網連結の共同実施
− 国家及び地域の流通・販売システムの共同運営・管理を通じ たエネルギー資源の集中的取引
− 共同核廃棄物管理、次世代原子力技術の共同プログラム
17 IEAの予測によると、北東アジア地域のエネルギー部門は、2001年か ら2030年の間に世界のエネルギー投資の総額(16兆ドル)の約26%
(4兆3,030億ドル)を占めると見込まれる(ロシアは1兆500億ドル、
中国は2兆2,530億ドル、日本と韓国を含むOECD Pacificは1兆ドル)。
東シベリアとロシア極東地区は、地域探査及び開発をはじめとする投 資ニーズは推定2,000億ドルと予測される。今後10年間の中国のエネ ルギー投資ニーズは、7,000~7,250億ドルと推計される。
− エネルギー効率化技術の共同設計及び共有、汚染管理技術の 普及
− 再生可能なエネルギー協力(技術及び資源開発)
今後、エネルギー問題に関する協力を促進することによって、
持続可能な社会・経済開発を目指す北東アジア地域が直面する課 題のうち、最も緊急の問題を緩和ないしは排除することができる だろう。輸出燃料・資源の多様化、確実な輸送経路とシステムの 確保、周辺国とのエネルギーインフラ連結、緊急時のエネルギー 供給の切り替えを可能にする共同保管施設、参加国によるエネル ギー部門開発への相互参加を通じて、安定したエネルギー供給の 確保が予想される。
「量的確保」は、エネルギー効率の改善、環境負荷の小さい技 術の導入、エネルギー供給費用の削減、物価変動への脆弱性の低 減、市場自由化の促進を通じたエネルギー供給の「質的改善」に よる幅広いエネルギーの経済的利益によって、可能になると見込 まれる。
最後に、北東アジア地域のエネルギー協力は、相互信頼及び経 済連携の強化など、地域の相互依存を深め、呼び水効果をもたら すことにより、北東アジアの地域統合へ向けて前進することがで きる。エネルギーが持つ地政学的資源としての特徴を生かせば、
北東アジア諸国は、現在のように非生産的でいるよりも、資源利 用において多国間協力の枠組みを提供することで、域内の国際的 な緊張を緩和することができる。地域のエネルギーネットワーク
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(電力、天然ガス)の構築に向けた地域的努力の強化を図ること は、北朝鮮の国際社会への参加や北朝鮮の経済再建、南北朝鮮の 協力の促進剤となるだろう。
4. 北東アジア地域におけるエネルギー協力の基盤としての ロシア極東地区のエネルギー計画
ロシアは、客観的な事実に基づき、北東アジア地域のエネル ギー協力の構築を支える軸として見なされている。現在、議論、
建設、実行段階にあるロシアのエネルギー資源導入プロジェクト の大部分は、北東アジア経済圏に属するロシア極東地区(REF)
に位置している。
(1) エリガ(El’ga)炭田開発プロジェクト
エリギンスコエ(El’ginskoye)鉱床は、サハ共和国(ヤクーチ ヤ)東南部の離れたところに位置し、最大規模の埋蔵量(約20億 トン)を誇る高品質の軟質炭を有する。
同プロジェクトの実現可能性についての最新の研究は、米国の ボイド社(John T. Boyd)によって行われている。主な点は、次 の通りにまとめられる。エリギンスコエ鉱床は、最大規模の石炭 採掘場として強大な能力を持ち、量的・質的にも世界級である。
同鉱床開発により年間2,000~2,500万トンの石炭採掘が可能とな り、経済的に得策である。市場調査によって、エリガ炭の北東ア
ジア市場参入の可能性が明らかにされている。エリガ炭田では、
一般炭の場合年間1,500万トン、原料炭の場合年間500万トン以上 の採掘が可能である。
鉱 床 北 西 部の セ ク ターの開 発 権 益は、エ リ ガ ウ ゴ ル社
(El’gaugol)が有している。現在、同企業の主要株主は、ヤクー チヤ(39.4%)、ロシア鉄道(JSC “Russian railways”、29.
5%)、そしてイースト・ビルディング・コントラクト社(JSC
“East building contract corporation”、28.8%)となっている。
2007年末にヤクーチヤとロシア鉄道の持ち株を競売にかけること は、すでに承認されている。
(2) サハリン大陸棚における石油・ガス開発プロジェクト
サハリン地域では、「生産分与契約」による2つの大規模な石 油・ガス開発プロジェクトが現在進行中だ。「サハリン~Ⅰプロ ジェクト」は、サハリン島北東部大陸棚の3油ガス田であるチャ イウォ(Chaivo)、オドプト(Odoptu)、アルクトゥン・ダギ
(Arkutun‐Dagi)を開発対象としている。総可採埋蔵量は、石 油が3億700万トン(23億バレル)、天然ガスが4,850億立方メー トル(17兆1,000億立方フィート)を上回る。同プロジェクト は、4段階に分けて進められる予定だ。第一段階の目標は、チャ イウォ、オドプト鉱床における油田とハバロフスク地方の国内需 要用に制限されたガス田(生産量は年間最高30億立方メートル)
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の開発である。
同プロジェクトは、権益比率30%の米国のエクソン・ネフテガ ス社(Exxon Neftegas Limited)がオペレーターとなり、日本の サハリン石油ガス開発(SODECO、30%)、インド石油天然ガ ス公社(ONGC、20%)、そして2社の子会社を含むロシアのロ スネフチ社(JSC “Rosneft”、計20%)といったエネルギー企業 から構成される国際コンソーシアムによって運営されている。プ ロジェクトの投資総額は170億ドルで、2006年上半期末現在まで に66億ドルが投資されたとオペレーターにより推計されている。
2006年のプロジェクト開始により、石油・ガスの生産が行われて いる。
「サハリン~Ⅱプロジェクト」は、サハリン島大陸棚のピリ トゥン・アストフスコエ(Piltun‐Astohskoe)とルンスコエ
(Lunskoe)油ガス田の開発構想である。総可採埋蔵量は1億 4,000万トン(10億バレル)、天然ガス5,500立方メートル(19兆 4,000億立方フィート)だ。同プロジェクトのオペレーターはサ ハリン・エナジー社で、ロイヤル・ダッチ・シェル(Royal Dutch Shell、27.5%マイナス)、三井物産(12.5%)、そして三 菱商事(10.0%)、ガスプロム社(50%超過)がその株主となっ ている18。
1999年に始まったプロジェクトの第一段階は、非凍結期でのピ
18「ガスプロム社「サハリン~Ⅱ」シェル保有株式の買収を中断」NGV ニュース』2007年4月17日。[ロシア語]