このような基本的立場に基づいて、釜山広域市は、具体的に以 下のような北東アジアの地方都市との積極的な関係づくりを通じ て、国際交流の礎を築いている。
(1) ウラジオストク
ウラジオストクは、ロシアにおける科学の中心地で、15の研究 所とロシア科学アカデミーの極東支部がある。1992年6月30日、
金英煥釜山市長とエフゲニー・ブリノフ(Evgeny Blinov)ウラ ジオストク市長が姉妹提携書に署名し、姉妹都市交流が始まっ た。姉妹締結後、93年9月3日に釜山駐在総領事館が開設され、
94年の釜山~ウラジオストクの直航路の開設に続き、95年には貨 物及び旅客直航路が開設、運行されている。
『ウラジオストク・ニュース』(The Vladivostok News)に よれば、2002年6月にロシアのファジェーエフ鉄道相は、ロシア と北朝鮮が30億ドルの投資を誘致すれば、ウラジオストクから 釜山港までシベリア鉄道(TSR:Trans Siberia Railway)を連 結することができると語ったとされるが5、これは注目すべき点 である。連結が実現すれば、韓国や他のアジア諸国の商品を
7&typeMain=overview&typeSub=intro)。
5 釜山発展研究院ホームページ(http://www.bdi.re.kr/publication/pub_view.
asp?bbs=B_pub02&num=168)。
ヨーロッパへと運ぶコンテナの運送時間は、ほぼ半分に短縮さ れ、さらに既存の海路を利用するよりも、約5倍のコストを削減 できると予想される。したがって、ウラジオストクと釜山港の 姉妹提携と交流協力は、航路と鉄道運送の分野において非常に 重要な協力関係を築くことのできる小地域単位の協力プログラ ムとなるだろう。
(2) 上海
1993年8月24日、上海市における鄭文和釜山市長と黃菊上海市 長による姉妹提携書の署名により、両市の協力が始まった。97年 7月8日、上海に釜山貿易事務所が開設され、釜山地域の企業家の 上海進出を大きく助けており、また一方で中国の産業視察団の釜 山地域の産業展示会への参加を促すために、様々な視察団プログ ラムを運営している。2004年から上海市の釜山貿易事務所に企業 家育成施設を設け、小規模の釜山企業が上海に進出する際に活用 できる事務所を運営している。
上海・釜山・福岡の観光ベルト事業も2004年から本格的に始 まった6。しかし、釜山発展研究院が発表した2005年の上海港の 現地調査の研究結果によると、釜山港は、上海港よりもトラン シップ貨物と情報通信では進んでいる反面、物流インフラと観
6 釜山発展研究院ホームページ(http://www.bdi.re.kr/news/View.asp?bbs=B _news05&idx=95)。
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光・金融・投資の環境では遅れている7。そのため釜山港は、上 海港との協力を通じて観光産業だけでなく港湾産業の競争力を高 める必要がある。
(3) 福岡
1989年10月24日、福岡市で安相英釜山市長と桑原敬一福岡市 長が行政協定都市交流のための協定書に署名し、両市の活発な交 流が始まった。また、90年9月27日の公務員の相互派遣協定に基 づき、釜山市と福岡市は2年ごとに各1名ずつの職員を派遣してい る。特にアジア・太平洋サミット会議の共同参加や観光展の交換 開催など、行政、文化、スポーツ、経済等の諸分野において活発 な交流が行われている。
(4) 下関
釜山市と下関市の交流協力は、1976年10月11日、朴英秀釜山 市長と井川克巳下関市長による釜山市での姉妹提携の締結によっ て始まった。92年4月8日の公務員の相互派遣協定に基づいて、釜 山市と下関市は2年ごとに各1名ずつの職員を派遣している。
7 釜山発展研究院ホームページ(http://www.bdi.re.kr/news/View.asp?bbs=B _news03&idx=118)。
4. 釜山広域市の地方化した北東アジア経済協力
(1) 港湾物流
釜山港は、世界三大基幹航路のうち最大の貨物移動量を有する 北米航路、欧州航路など西洋・東洋をつなぐ海上交通の要衝地に 位置している。また、釜山港の属する北東アジアは、2005年以 降、海上運送における世界の物流量の25.9%以上を占めており、
港湾物流を中心に発展している。大陸と海上の相互関門の役割を 果たすべく第2の新港建設も推進されており、釜山港は世界第3位 のコンテナ取扱量を有する港湾として、その地位を維持してい る8。釜山港は、このような港湾物流の基本的潜在力に加え、新 港建設を通じた世界的な物流港湾への飛躍が期待され、さらにそ の背後には大規模な北東アジア経済圏が存在するという、港湾物 流の都市としては最適な立地条件を兼ね備えている。
しかし、このような立地条件を有していても、釜山港が北東ア ジアにおける港湾物流のハブ都市として発展するためには、小地 域単位による経済協力が不可欠だ。釜山港の発展には、何よりも トランシップ貨物の増大が欠かせないが、これはトランシップ貨 物が「国対国」のレベルではなく、「港湾対港湾」のレベルで発 生しているためである。したがって、北東アジア地域内の地方・
都市間の関係構築を通じた小地域単位の地域協力は、釜山の北東
8 釜山港湾公社ホームページ(http://busannp.com/service?_s_idx=0&_s_cnt
=1)。
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アジア協力戦略と一致することが分かる。
(2) 釜山・鎮海経済自由区域(BJFEZ:Busan Jinhae Free Economic Zone)
釜山市は、江西区一帯と鎮海の一部地域を経済自由区域に指定 して、外国企業の釜山進出を誘致している。外国企業にとって、
先端産業及び北東アジアの物流の中心地である釜山地域に拠点を 確保できれば、その背後に存在する北東アジアの巨大な市場を占 有できる上に、小地域単位での関係構築も可能になるため、非常 に魅力的な投資地域なのである。
このような経済自由地域の必要性について、釜山・鎮海経済自由 区域庁は次のように強調している。「世界経済の国際化の流れに伴 い、主要都市をつなぐビジネス中心地の重要性と物流市場の占有の 必要性が急速に高まっている。釜山・鎮海地域を経済自由区域に指 定して、新港を軸に海洋物流の中心拠点へと育成し、これと関連し て新たな産業構造への転換をはかり、北東アジアにおけるビジネス 中心地の開発の波及効果を最大化するための方策が必要だ9。」
このような区域設定の必要性にしたがって、<図Ⅱ‐2>の地図 が示すような小地域の関係構築という具体的な発展方策のもと、
区域庁の設立などの積極的な発展計画が進められている。
9 釜山・鎮海経済自由区域ホームページ(http://www.bjfez.go.kr/)。
<図Ⅱ-2> 釜山・鎮海経済自由区域と北東アジアの 小地域関係図10
釜山・鎮海経済自由区域は、3時間の飛行圏域内に全世界のGNP の20%が集中し、世界人口の25%が居住する北東アジアの中心地 域である11。同区域は新港湾地域、鳴旨地域、智士地域、頭洞地 域、熊東地域に分かれており、その開発方向を、①国際物流・流 通の中心地、②知識基盤、研究拠点及び東南圏の産業クラスタサ ポート中心地、③国際業務サポート及び海事拠点に設定した。
具体的な開発内容については、①新港湾地域を経済自由区域の中核地域 となる物流・流通及び国際業務・海事拠点に育成・開発、②鳴旨地域に国 際業務地区、外国人居住団地、外国人学校及び病院、航空部品・素材の供 給基地を建設、③智士地域に先端産業及びR&Dセンターを設立、④頭洞地 域にメカトロニクス産業及び専門教育・R&Dセンターを設立、⑤熊洞地域 を物流・流通及び余暇・休養の拠点に育成する12と設定した。
10 同上。
11 同上。
12 同上。