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英国防衛調達の特徴と原価企画の考察

Dalam dokumen 原価企画の今日的課題と対応 (Halaman 80-85)

第 6 章 サービタイゼーションにおける契約と原価企画:

4.5 英国防衛調達の特徴と原価企画の考察

利用可能性契約(CfA)を導入・運用するにあたって、原価企画として、防衛調達の特徴 に適した管理が重要である。4.4までの内容をもとに,英国防衛調達の特徴であるアカウン タビリティ、組織の運営、ライフサイクルの長さという点について考察する。

防衛調達において、国税に対するアカウンタビリティは、「国民の安全を守ること」によ り果たされると考えられる。従来の原価企画の目的が量産開始前における市場志向の利益 管理ないし原価管理であるのに対し、防衛調達の原価企画の目的は、政府に課された義務と 位置づけられる、国民から集められた税金の効率的・効果的な運用である。この究極目的を 果たすためには、個々の兵器の性能や各軍の能力をばらばらに向上させることではなく、国 防のために最も必要なシステムを構築することが重要である。

次にこのように複雑に絡み合った要件からなる防衛調達の活動をうまく運用するために は、国防省(MoD)と産業界のパートナシップによって組織を運営する必要があった。英国 防衛調達では、防衛装備品の開発から廃棄に至る一貫した管理を MoD 側である統合プロジ ェクトチーム(IPT)と産業界側であるシステム・インテグレーターの両者で担っている。

国民の税金を有効活用するという責任を果たすためには、分野別の課長(DEC)からの利用 者要求をもとにシステム・インテグレーターが主体となってシステム設計、その後の管理を していくのではなく、官側の防衛調達庁のもとに設置される IPT がコンセプト創出からそ の開発品目の廃棄に至るまで、責任を負うのが妥当であると考えられる。こうして防衛調達 に関して、従来の原価企画における重量級プロダクト・マネジャー組織に該当する組織運営

が官民共同で行われている。

最後に、CfAで対象となる契約期間の長さがある。複数次元の目標を設定後、達成可能な ソリューションを開発する点は従来の原価企画プロセスと同様である。一方で、防衛調達で は、長期間にわたるインサービス(稼働)段階、廃棄段階を調達サイクルとして明確に認識 しており、CfAの下で契約が20年を超えて続く場合もある(Rodrigues et al., 2015b)。 長期間にわたるパフォーマンス・ベースト契約であり、顧客の要求が契約期間内に変化する 可能性がある。また PSS の各部分は陳腐化し、入れ替え等を行う必要が出てくることもあ る。こうした不確実性が生じざるを得ず、プロジェクトでは官民間のリスクの軽減やシェア リングを効果的に行うことが意図されていた。そのため、CfAの下では従来考えられてきた 方法以外にも様々な見積もり方法が契約の段階に応じて組み合わせて利用されていた。

5 .まとめ

本章の目的は、サービタイゼーション(PSS)で重視される傾向にあるパフォーマンス・

ベースト契約に基づく原価管理について、原価企画の視点から考察することだった。そのた めに、パフォーマンス・ベースト契約(主に利用可能性契約(CfA))やそれと関連する原価 管理について継続的なプロジェクトが行われている英国の防衛産業の例を対象として考え た。本章の考察で明らかになったのは次のことである。

まず、PSSにおけるパフォーマンス・ベースト契約にかかるコストの多様性に注意が必要 である。リカーリング・コストと非リカーリング・コストが、入札、デザイン、インサービ ス(稼働)など製品ライフサイクルの様々な段階で生じている。また、サービス提供におい て製造企業側の収益性と顧客側のアフォーダビリティをともに満たそうとする場合に不確 実性が生じる傾向にある。そのため,顧客関係管理をはじめとする隠れたコストへの対処も 重要である(Datta & Roy, 2010)。

次に、製品ライフサイクル全体を対象とする原価の見積もりとその管理である。製品ライ フサイクル全体での原価を正確で、網羅的に予測、管理できるのが理想的である。しかし、

PSSのサービス提供の複雑さを考えると、どうしても正確なデータを集めるのが難しい部分 がある。過去のデータが利用できる部分については定量的分析を行い、利用可能なデータが 不足する部分については類推のような方法を採用するというような使い分けがされていた

(Datta & Roy, 2010)。

また、本章では、アカウンタビリティ、組織の運営、ライフサイクルの長さという防衛調 達の特徴についても考えた。英国の防衛調達においては、税金を効率的・効果的に運用して 国民の安全を守るというアカウンタビリティを果たすべく、官民共同でプロジェクトの管 理が行われていた。また、CfAの下で長期間のオペレーションにかかる一連のコストを正確 に把握するための取り組みがされていた。

最後に、英国の防衛調達の事例から見られるわが国の実務へのインプリケーションにつ いて考える。森光(2014)によれば、日本の防衛調達において2010年時点では契約企業の人 員の参画は行われておらず、契約企業の統合プロジェクトチーム(IPT)参画も将来的には 視野に入れられているが、基本的にその効力の及ぶ範囲・実施期間は契約が締結されるまで の段階に限られている。そして、IPTの主目的は、予算要求のために仕様を決定するための 活動に終始したものとなっていた。日英での防衛産業や制度の違いなどのため単純に比較 することは難しいが、防衛装備品のライフサイクル全体での管理が重要であることを考え ると、英国の事例で見られたIPTとシステム・インテグレーターの共同的な管理、原価見積 もりの内容はわが国における防衛調達を考えるうえでも参考になるだろう11

以上のように、本章では、原価企画の研究で想定されていなかったサービス重視のビジネ スモデルにおける契約と原価管理について考えてきた。本章では防衛産業の例について扱 ったが、ここで考えた契約や原価管理については防衛産業に限らずライフサイクルの長い 設備機器などを扱っている産業財の分野においても応用できる可能性がある。

謝辞

本研究は、日本管理会計学会スタディ・グループの助成、ならびに科学研究費基盤研究B:

課題番号20H01556の助成を受けて進められた研究成果の一部である。なお、日本管理会計

学会2021年度年次全国大会自由論題報告の際には、高梠真一先生(久留米大学)、中村博之 先生(横浜国立大学)より貴重なコメントを頂いた。改めて感謝申し上げる。

1 サービス提供のダイナミックな特徴を把握するための有効な方法としてエージェント・

ベースト・モデル(agent-based modelling: ABM)など数理モデルの適用可能性について も議論がなされている(Erkoyuncu et al., 2011b; Roy & Erykoyuncu, 2011)。

2 2020年度版防衛白書によれば、2019年度の国防費で見ると日本が484億米ドルで、英

国が549億米ドルである(防衛省, 2020, p.229)。

3 ただし、英国の事例においても、防衛装備品調達の複雑さのためサービタイゼーション下 での契約が必ずしも順調に進んでいるのではなく、様々な工夫が見られる。このような運営 に際しての課題やその対応を考えるという目的でも、本事例は適していると考えられる。

4 官民共同で一貫してプロジェクトを管理する、統合プロジェクトチーム(Integrated Project Team: IPT)が組織されたことも、こうした取組みの一環である(NAO, 2002; 西 口, 2007)。IPTについては、4.2で詳述する。

5 英国の防衛産業に関する議論で、産業界はプライムと呼ばれるシステム・インテグレー ターとそのサプライヤーを含むものとされている(Rodrigues et al., 2015b, p.452)。 6 英国では,政府により1992年以降導入されたPFI(private finance initiative)に伴 い、防衛産業でもパフォーマンス・ベースト契約に基づくサービス提供が進められてきた

(Datta & Roy, 2010)。

7 各課長(DEC)が招集する全体会議は、最も大きいもので参加者約70名、年1~2回程

度の開催頻度であり、日常業務の調整は少人数のサブグループによって行われ、電子メー ルによる持ち回り会議が多い。

8 西口(2007, 8章)によれば、古い方式では、ある防衛装備のコンセプトの確定から生産開

始までに 4 段階の認可プロセスがあり、そのたびに次の段階での支出経費を正当化する作 業に手間取り、プロジェクトを遅らせる要因になっていた。しかも、同じプロジェクトの支 出経費とその後の進捗状況に関して、一貫して責任を持つ機関がなく、全体のコストは膨ら む一方であった。新しいシステムでは、IPTが一貫して責任を負い、認可プロセスも2つで ある。新防衛装備品のコンセプトが認可されるイニシャル・ゲート以降は、利用可能な、複 数の技術的代案のリスク、コスト、維持可能性などが比較考量され、メイン・ゲートで1つ の技術案に絞り込まれた後は、実地証明を含む開発期間を経て、契約、製造、納入へと続く。

9 4.4で検討する主な方法以外に、CfAの運用で生じる不確実性を考慮した精緻な見積もり

方法として確率論的な方法や数理モデルによる方法も考えられており(Datta & Roy, 2010;

Erkoyuncu et al., 2011b)、試験的な導入例も報告されている(Erkoyuncu et al., 2011b)。 しかし、実際にどのように使用するかについては研究者間で共通の認識が得られていない ともされる(Datta & Roy, 2010, p.145)。

10 分析的方法の一形態として、活動基準原価計算の使用が考えられている(Datta & Roy, 2010; Settanni et al., 2014)。

11 櫻井(2018)で指摘されるように、わが国での防衛装備品の調達契約は伝統的に原価加算 契約によっており、契約企業にとって原価低減のインセンティブがはたらきづらい状況に ある。現行制度の課題に注意して、契約企業の経営努力を促せるようにサービタイゼーショ ンの考え方に基づく契約や管理手法の導入を検討することが重要である。

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