地球惑星科学II第1回 2017年10月5日
0. はじめに
0–1 地球惑星科学とは
地球惑星科学の対象と位置づけ
地球惑星科学=地球科学+宇宙科学
対象 現象・構造 起源・進化
地 地球内部 地震学・測地学・地球電磁気学 地質学・惑星科学 球 地球表層 気象学・海洋学・水文学 地質学・惑星科学 惑 宇宙空間 超高層大気物理学・宇宙空間物理学
星 星・惑星系 宇宙物理学・惑星科学
科学 銀河系・宇宙大構造 宇宙物理学・素粒子物理学
もちろんより細かな学問領域もある.
地球宇宙の科学の特徴
• 自然界の仕組みを自然界に向き合いながら探る
• 単純化した系で同じ条件での実験を繰り返して自然法則を探るのとは異なる アプローチ (実証主義であることは共通)
• 総合化が重要:要素還元主義(代表的な科学の手法に一つ)と相補うことで 自然界を理解
地球・宇宙を知る意味
• 自然界への興味・好奇心への解答
• われわれはどこから来てどこへ行くのか(見当識)
• 功利的な側面:科学技術の源泉・基盤,人間生活(環境・食・資源・防災・
経済活動・軍事・国家戦略など)
0–2 本講義の内容と目標
大気と海洋,宇宙と惑星について以下の事柄を学ぶ
• 大気と海洋:組成,物質量,構造,運動,循環,エネルギー収支,変動性
• 宇宙と惑星:構造と現象,起源と進化
• 生命居住可能惑星(ハビタブル惑星)の成立条件
• これらを知るための方法 目標
• 大気と海洋が,地球環境をどのように形成しているのか,そして地球温暖化 に代表される気候変動がどうそれを変えつつあるのか科学的に考察する力を つける
• 地球を取り巻く諸天体について,その成り立ちを科学的に理解し,これら相 互の結びつきと併せて説明できるようになる
• 宇宙の一員としての惑星地球の位置づけ,ならびに特殊性と普遍性を理解 する
1. 大気・海洋の成り立ち
1-1 物質圏としての位置づけ
地球システム
地球は,それぞれ特徴的な物質と固有の運動や循環を持ついくつかの物質圏から なり,それらが結合したシステムとして振る舞っている.
表1.1地球の大構造
(外半径km) 質量(×1024 kg) 主要成分 状態 化学結合の主形態
大気(>6371) 0.00000515 N,O 気体 共有結合
海洋(6371) 0.00138 H,O 液体 水素結合
地殻(6371) 0.028 Si,Al,Ca,O 固体 イオン結合
マントル(6350) 4.000 Mg,Si,O 固体 イオン結合
外核(3480.0) 1.840 Fe 液体 金属結合
大気・海洋の特徴
• 地球の総質量(5.974×1024 kg)に占める割合は極めて小さい (海洋=0.023%, 大気はさらにその約1/300)
• 循環運動の時定数が他の物質圏と比べて極めて短い(大気大循環=0.5〜2月,
海洋深層循環=1000年,マントル対流=数億年)
• CO2に乏しく, H2Oに富む(1-2節参照)
• 重要な成分の滞留時間(問題1.2参照)が地球の年齢に比べて極めて短い(大 気O2=4500年,大気CO2=5∼200年).物質循環の影響を強く受けている.
• 生命圏の器になっている
1-2 地球が貧二酸化炭素大気を持つ理由
惑星の大気
地球型惑星 元素組成,太陽大気.重元素に富む.
金星・火星:CO2が主成分.金星は厚く,火星は薄い.
地球:N2,O2が主成分.地表に大量の液体のH2O.
木星型惑星 元素組成∼太陽大気.HはH2分子として存在.極めて厚い.
• 地球型惑星と木星型惑星の大気組成の差は,太陽からの距離に応じた両タイ プの惑星の成因の違いに由来.
• 惑星は原始太陽を取り巻くガスと塵の円盤から形成した.塵(1<µm)が付 着成長して,まず多数の微惑星(直径数キロサイズ,自己重力で固体成分が まとまった天体)となり,微惑星が相互重力でひきつけあってさらに合体成 長し,原始惑星が形成した.
• 木星型惑星領域では原始惑星が大量の氷・岩石成分を集め大質量化し,周囲 の原始太陽系星雲ガスを重力で大量に引きつけた(ガス捕獲).
• 地球型惑星領域では,固体物質が少ないため原始惑星があまり大質量化せず,
原始太陽系星雲ガスがほとんど捕獲されない.一方で,固体成分に捕らわれ ていた水分や揮発性成分が,原始惑星上で気化することで,重元素に富む大 気が形成された.
表1.2太陽と代表的な惑星の大気(Natioal Space Science Center, NASA, USA)
太陽 地球 金星 火星 木星
質量M(地球=1) 332946 1 0.8150 0.1074 317.83
半径R(地球=1) 109 1 0.95 0.53 11.0
表面気圧P(bar) 0.13 (光球面) 1.013 92 0.004∼0.0087 -
表面温度Ts(K) 6430 (光球面) 288 737 210 165 (at 1bar)
平衡温度Teq(K) 5780 254.3 231.7 210 110
有効温度Te f f(K) — 254.3 231.7 210 124
主要大気成分 H (91.0) N2(78.08) CO2(96.5) CO2(95.32) H2(90) (vol%) He (8.9) O2(20.95) N2(3.5) N2(2.7) He (10) O(78ppm) Ar (0.93) SO2(150 ppm) Ar (1.6) CH4(0.3)
地球大気からの二酸化炭素の除去
地球の両隣の惑星の大気はCO2が主成分.対照的に地球の大気にCO2は約400ppm(0.004 気圧相当)しか含まれていない.なぜか?
• 海洋への溶解(大気CO2量の50倍=0.2気圧相当)
• 有機物への固定(大気O2と等価なら約0.2気圧相当,地殻中の有機炭素量約 6気圧相当)
• 炭酸塩への固定(地殻中の炭酸塩量=大気CO2約30気圧相当)
これらには,いずれも海洋を含む物質循環が重要な役割を果たしている.
金星と火星には海洋が存在しない.金星は日射が強いため,仮想的に表面に液体 の水を与えても完全に蒸発してしまい,海洋が形成されない.逆に,火星では日 射が弱く,表面の水は凍結してしまう(詳しくは後の章で取り上げる).
問題
問題番号に★が一つ付けてあるものは難しいが現在の知識でもきちんと考えれば 解ける問題.★が二つのものは現在の知識+アルファが必要な挑戦問題.間違っ ても良いのでトライしてみて欲しい.
1.1 地球大気の大規模な東西風と南北風の典型的な地表風速はそれぞれおよそ10
m/s, 1 m/sである. ここから,東西風が赤道を一周するの要するおよその時
間と,南北風が赤道から北極まで子午線にそって横断するのに要するおよそ
1.2★ 物質圏を構成するある物質の量が,物質循環すなわち供給と除去の釣合で 決まっていることがある.このとき,この物質が入れ替わるのに要する時間 tを次のように見積もることができる
t= 物質圏中のその物質の総質量
単位時間当たりの供給質量あるいは除去質量 (1) こうして求まる時間を,滞留時間という.また物質の入れ物という意味で,
物質圏をリザーバー(貯蔵庫)と呼ぶことがある.
大気・海洋系のもっとも重要な循環に水循環が挙げられる.地球海水量と全 球平均年間降水量約1×103mmから,海水のおよその滞留時間を求めよ.ま た陸地に存在している水の量は海水量の3.5%に相当する.陸地の平均降水 量も全球平均降水量と変わらないものとして陸地の水のおよその滞留時間を 求めよ.