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2015 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文
ネガティブ要素に対するトクホ消費行動
A1242044 三輪剛也
提出年月日 2016 年 1 月 15 日
2 はじめに
2000年代に突入以降、健康志向の高まりから世界の食品市場においてオーガニック化された製品が、
また、日本国内においては特定保健用食品が増加してきた。
卒論の構想初期段階においてはオーガニック食品について注目した。単純におしゃれ・ロハスとい ったイメージを持つこれらの製品がどのように消費されているのかという観点から興味を持ったが、
オーガニック製品についてカテゴリを分類する中で、アメリカンスピリットという「オーガニックた ばこ」のように、本来はジャンキー・健康への悪影響の要素を持つ製品でありながら健康志向のオー ガニックという1個の製品の中に矛盾する要素同士が併存している例を発見し、これについて注目し た。このような事例が他にも無いのかと調査する中で、本卒論においてメインテーマとなる特定保健 用食品に辿り着いた。特定保健用食品においてはトクホコーラのように本来ジャンキーなイメージを 持たれるコーラについて健康志向の特定保健用食品とする例が確認されたほか、脂質の多い食事とい う不健康な要素に対して、製品そのものを「免罪符」として使用できるような脂質の多い食事のお伴 の黒烏龍茶という例も確認された。ネガティブ要素に対してポジティブな価値を孕む製品を消費者が どのように消費するのかという部分に注目したのが本卒論の出発点である。
3 目次
はじめに
Ⅰ問題提起
Ⅱ前提定義
ⅰオーガニック製品とは ⅱオーガニックの歴史 ⅲオーガニック市場動向 ⅳトクホとは
ⅴトクホの歴史 ⅵトクホ市場の概況 ⅶトクホ市場規模
ⅷ飲料商品における通常商品とトクホ商品との価格比較
Ⅲ仮説
ⅰ本卒論におけるターゲット ⅱ仮説設定
Ⅳ検証
製品特性について洗い出し 消費者の消費理由
2つの結び付き
Ⅴ結論
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Ⅰ問題提起
消費者が日常的に摂取する飲食物の中にはその飲食物ごとに多様な形態、多様な価値を持っている。
本論文では本来ジャンキー・不健康といったイメージのあるコーラでありながら、特定保健用食品 として健康志向の価値が付与されたトクホコーラと、脂質の多い食事という不健康な要素に対して、
ネガティブ要素を打ち消すないしは軽減する「免罪符」として使用できる黒烏龍茶について、その消 費行動はどのようになっているのか?について仮説を立て、検証する。また、2つの製品間での消費行 動の差異についても言及する。
まずは前提として、現在ある現象や商品について歴史や市場規模の整理・リストアップを行う。そ して次に、消費者が矛盾する価値を持つ商品に対してどのように対価を支払っているのか、消費行動 の実態についてについて仮説を立て、実態の検証を行う。
オーガニック市場とアメリカンスピリットを代表例としたオーガニックたばこについても消費行動 を解明する予定であった。しかしアメリカンスピリットの場合は製品そのもののブランド価値や単純 にたばことしての消費行動が強いことから、本論文でテーマとするネガティブな要素に対する「免罪 符」の側面が希薄なために、仮説検証においてテーマとしては扱っていない。しかしながら「免罪符」
としての健康志向製品の需要が増加していることの参考データとして、オーガニック市場については
Ⅱ章で言及させていただきたい。
Ⅱ前提定義
Ⅱ-ⅰオーガニック製品とは
2000年代突入以降多くの食品や化粧品に見られるようになったオーガニックとは、本来有機栽培と いう意味を持つ言葉である。農産物としての意味合いは、生物由来や、天然物から派生する生産物を 指す。有機栽培の条件としては大きく3つあり、農薬を使用しない、化学肥料は使用しない、肥料を 使用する場合は有機肥料のみを使用する、というものである。オーガニックを製品の名前につけるこ と自体には規制などは存在しないが、農産物の流通段階においてオーガニックを標榜する場合には国 際基準の資格を持つ第三者機関の有機認証を得てはじめてオーガニックと名乗ることができる。各国 の確認証機関により若干の差異が存在するが、有機認証は大きく以下の7つの要件で構成されている。
1.圃場は最低3年以上農薬を使っていない
2.有機肥料であっても化学薬品や重金属が含まれないものを使用する
3.栽培によって環境を破壊しない 4.労働条件を厳守している 5.環境・衛生管理の整備
6.上記に関する管理プログラムの制定とその実施
7.上記に付帯する全ての事項に対する第三認証機関による検査と認証及び年次更新
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日本国内において「オーガニック」や「有機」と商品に直接表記する場合には、農林水産省の定め る有機JAS認定の取得が必要となる。また、商品表示以外にオーガニック製品として説明、販売する には国内外を問わず第三オーガニック認証機関の証明が必要である。有機JAS認定の格付けは日本農 林水産省の認証機関により許可された認定業者が行う。また有機JAS認定以外の海外の認定の場合は IFORM(国際有機農業運動連盟)に加盟する認証機関が国際的なオーガニックのスタンダードとなっ ている。これにより日本国内では認定された事業者のみが有機JASマーク(図1)を使用することが できる。
図1
出典: 農林水産省 有機食品の検査認証制度
このように農産物や食品飲料については定められた基準を合格し、認証を得た製品がオーガニックを 名乗っている。
Ⅱ-ⅱオーガニックの歴史
オーガニックの歴史は国際的には1972年国際有機農業連盟(IFOAM)の発足がスタートと考えられ る。その後、アメリカにおいては1990年代から有機食品の市場が拡大。EUにおいては1992年に有 機農業に対する政府支援(有機農業導入の促進)が開始。日本では1989年に農林水産省に有機農業対 策室が設置された。1999年にはIFOAMから有機食品の国際規格が制定され、この年からオーガニッ ク市場が明確な形を持ち始めたと考えられる。このようなオーガニック市場の拡大や有機農業の推進 には1986年にOECDから「組換え DNAの安全性に関する考察」が発表されていることから見られ るように、遺伝子組み換えによる人体への悪影響や農薬を大量使用した農作物の大量生産といった現 象に対する一種の対抗策という側面を持っている。
出典:農業環境技術研究所, 2011, p.p.211-219.
Ⅱ-ⅲオーガニック市場動向
次に示す2つの図をみれば分かるように、オーガニック食品市場はリーマンショクの影響で販売額 を落としたこともあるものの、順調にその規模を伸ばし続けている。
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図2 アメリカ合衆国有機食品市場規模の推移
図3 イギリス有機食品市場規模の推移
出典:OTA Organic Trade Association https://www.ota.com/
また、次の図4では前の図2,3の最終年である2012年時点でのEUにおけるオーガニック食品の売 上高を示している。EU全体の名目GDPが同年に13兆4290億ユーロであったので、欧州全体のオー ガニック食品売上額226億ユーロは市場規模としては極めてニッチなものというわけではないと考え
4.3 5.0 6.1 7.4 8.6
10.4 11.9 13.8 16.7
19.8
22.9 24.8 26.7 28.6 31.5
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 販売金額
10億米ドル
0.39 0.61
0.80 0.92 1.00 1.10 1.20 1.60
1.90 2.08 2.11 1.84
1.73 1.66 1.64
0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 販売金額
10億ポンド
7 られる。
図4 オーガニック食品のEUにおける売上高(2012年度)
順位 国名
売上額
(百万ユーロ)
売上額
(億円) 割合
欧州全体 22,670 32,411 100.00%
1 ドイツ 7,040 10,074 31.10%
2 フランス 4,004 5,730 17.70%
3 イギリス 1,950 2,790 8.60%
4 イタリア 1,843 2,637 8.10%
5 スイス 1,520 2,175 6.70%
6 オーストリア 1,065 1,524 4.70%
7 スペイン 965 1,381 4.30%
8 スウェーデン 918 1,314 4.00%
9 デンマーク 887 1,269 3.90%
10 オランダ 791 1,132 3.50%
注1.1ユーロ143.10円で計算
注2.オーストリアのみ2011年度のデータ
注3.アメリカの同年度市場規模は226億ユーロ(3.2兆円)でありEUとほぼ同等
出典:The World of Organic Agriculture FIBL(有機農業研究所)IFOAM(国政有機農業運動連盟)
JETRO,欧州におけるオーガニック食品市場の動向,2014年3月.
日本においては2010年度時点でオーガニック食品の市場規模は1300~1400億円と推計されている。
なお、日本国内の正確なオーガニック食品市場のデータは存在しない。しかしながらEU、アメリカと いった先進国においてオーガニック食品が市場規模を伸ばしているということは、それらを購入する 消費者達が何かしらの「免罪符」を求めている可能性を示すものとして、参考データ扱いでここに記 載しておく。現代においてオーガニック食品の市場規模が拡大していると言える。
Ⅱ-ⅳトクホとは
トクホとは特定保健用食品の略である。実験データに基づいて審査を受け、健康づくりのための食 習慣改善のきっかけとして「~が気になる方に」という効能効果を表示することを日本政府から認可 された食品のことを指す。からだの生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品で、血 圧、血中のコレステロールなどを正常に保つことを助けたり、おなかの調子を整えたりするのに役立 つ、などの特定の保健の用途に資する旨を表示するものをいう。
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特定保健用食品(条件付き特定保健用食品を含む。)は、食品の持つ特定の保健の用途を表示して販 売されている。特定保健用食品として販売するためには、製品ごとに食品の有効性や安全性について 審査を受け、表示について国の許可を受ける必要がある。その際に、特定保健用食品及び条件付き特 定保健用食品には、許可マークが付されている。なお、特定保健用食品は食品に限らず飲料も含む。
特定保健用食品の表示許可を受けた製品の品目は2015年11月時点で1,210品目となっている。
図5 特定保健用食品及び条件付き特定保健用食品の許可マーク
出典:消費者庁 特定保健用食品(トクホ)許可制 健康増進法第26条
Ⅱ-ⅴ トクホの歴史
昭和59年から61年に実施された研究の成果として 「食品の3次機能」(体調調節機能)が提唱さ れ、「機能性食品」の概念が生まれた。その後、検討が進められ、平成3年に特定保健用食品制度が創 設された。(消費者庁食品表示課,健康食品の表示をめぐる現状,平成21年11月)平成3年9月には特 定保健用食品制度が施行され、平成5年6月には特定保健用食品許可第1号が誕生している。また、
国が食品に健康表示(健康への効用をしめす表現)を許可する制度として世界で初めてである。特定 保健用食品の歴史は日本国内のドメスティックなものであり、ここ20数年ほどの間にその歴史は集約 されている。
Ⅱ-ⅵトクホ市場の概況
トクホを発売しているメーカーは計68社である。以下にトクホ製品の合計品目数の推移を記載する。
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図6 トクホ製品の品目数推移
出典:公益財団法人 日本健康・栄養食品協会 『特定保健用食品2015年度版』
Ⅱ-ⅶトクホ市場規模
図7 特定保健用食品の市場規模推移
出典:公益財団法人日本健康・栄養食品協会 プレスリリース 平成27年4月1日
13 23 58 78 100 126 171 222 289 332 398 475 569 627 755 827 883 967 983 1030 1095 1140 1174 0
200 400 600 800 1000 1200 1400 品目数
年度
1315
2,269
4,121
5,669
6,299 6,798
5,494
5,175
6,275 6,135
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000
1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2014 単位:億円
年度
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図7における市場規模の推移では2007~2009年度の間、リーマンショック後に市場規模の落ち込み が見られる。リーマンショクに端を発する世界恐慌とそれに伴う不況から消費財の消費量が落ち込み、
トクホ製品も市場規模が縮小したと考えられるが、実際のトクホ製品の価格帯は通常製品と比較して どのようになっているのだろうか。
Ⅱ-ⅷ 飲料商品における通常商品とトクホ商品との価格比較
同一カテゴリのトクホ製品と非トクホ製品について、価格にどれほど差異があるのかどうかを検証 した。サンプルとして飲料カテゴリの中から、コーラ、緑茶、烏龍茶の3カテゴリを揃えた。本来な らばシリアル食品やコーヒーについてもサンプルを揃えるべきであったが、今回調査を行ったコンビ ニでは販売されておらず、また、大型スーパーやドラッグストアなど比較する店舗を広範囲に広げな ければならないために除外した。図8での各製品の価格は半径1km圏内に密集しているコンビニエン スストア Family Mart、セブンイレブン、LAWSON 各1店舗での小売価格(税抜き)を記録し、平 均価格を算出したものである。なおペプシスペシャルはLAWSONのみの価格、ペプシストロングは
Family Martとセブンイレブンのみの価格とそれぞれなっている。
図8
図8で示されるように、飲料というカテゴリ内でなおかつコーラ、緑茶、烏龍茶と限定的なカテゴ リではあるが、トクホ製品は全て非トクホ製品よりも価格が高いということが判明した。
150.3 150.0
140.0 140.0 140.0
180.0 173.3
119.7 119.7 126.7 119.7
93.0 93.0 119.7
144.7 126.3
93.0
0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 単位:円
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Ⅲ 仮説
Ⅲ-ⅰ本卒論におけるターゲット
本卒論において仮説検証を行うのは図8でも示されていたトクホコーラと黒烏龍茶である。後述す るが、矛盾した価値を1つの製品内に孕んでいるという事例、ネガティブ要素に対する「免罪符」と しての製品消費事例を扱いたいために、この2つの製品を選択した。なお、この2つの製品は同じト クホ製品ではあるものの、消費理由が異なると考えられる。これは次の仮説設定において詳細に記述 していく。
Ⅲ-ⅱ仮説設定
製品のどのようなポイントが訴求されているのか、各製品の公式サイトの情報を頼りにポイントの リストアップを行い、そこから各製品の購買理由、消費行動の仮説を立てる。
・トクホコーラ
メッツコーラの公式ホームページでは
1.強めの炭酸ならではの飲みごたえと後ギレの良さ(コーラらしさ)
2.強めの炭酸での食事との相性の良さ
3.カロリーゼロ
4.日本人間ドック健診協会推薦
5.食事の際に脂肪の吸収を抑える難消化性デキストリンを配合
ペプシスペシャルにおいてはこれらの要素に、食後の血中中性脂肪の上昇を穏やかにするというポイ ントが追加されていた。
これらのポイントから、「ジャンキー・不健康といったイメージがあって気がひけるもののコーラを 飲みたい、しかしながら健康には気を使いたい」という矛盾した思考が1 つの製品内に並存している と考えられるという仮説を立てる。『特定保健用食品2015年度版』においてメッツコーラ、ペプシス ペシャルはともに「血中中性脂肪が気になる方の食品」としてカテゴライズされている。
・黒烏龍茶
サントリー公式サイトにて3つのポイントが訴求されている。
1.脂っこい食事はもちろん、毎日の食事のお伴に。(携帯しやすいボトル形状)
2.さわやかな飲み口の茶葉を新たに配合(苦みや渋みの軽減)
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3.脂肪の吸収を抑えて、体に脂肪がつきにくい
このため烏龍茶カテゴリにおいては脂っこく脂質の多い食べ物を食べる際に同時に飲むという理由 で購買消費される、つまりはネガティブ要素に対する「免罪符」としての消費が行われている、とい う仮説を立てる。テレビCMにおいても事実そのような消費行動が推奨されている。また、『特定保健 用食品2015年度版』において黒烏龍茶は「血中中性脂肪と体脂肪が気になる方の食品」としてカテゴ ライズされている。
・緑茶
日常生活の中で日々消費する飲料をトクホの緑茶に置き換え、健康に気を使おうという消費行動が 行われていると考えられる。本卒論で着目するネガティブ要素に対する「免罪符」としての機能が希 薄と考えられるので今回の仮説検証からは外す。
Ⅳ検証
これらの仮説が正しいのかの検証を行うために、以下インターワイヤード株式会社によるネットリ サーチアンケート(図◯◯-Iと表示)、株式会社ゲインによるネットリサーチアンケート(図◯◯-Gと 表示)を使用する。消費者がトクホ製品を消費するにあたって、どのような付加価値をトクホ製品に 対して見出しているのか、トクホコーラと黒烏龍茶それぞれの消費理由は何で付加価値は何なのか、
製品特性と消費理由の結びつきについて検証を行う。消費者の消費理由のアンケート調査はインター ワイヤード株式会社によるネットリサーチを利用した。リサーチの内容は以下に記す通りである。
・インターワイヤード株式会社
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・株式会社ゲイン
・トクホコーラ
図1-Iではトクホのコーラを飲む理由が複数回答で多い順にリストアップされている。
図1-I
これによると1位の理由は「どうせ飲むなら体に良いものを飲みたいから」であり、コーラを飲みた いが、どうせなら体に良いコーラを飲みたいという消費行動がうかがえる。これは本来ならばジャン キーなコーラは我慢しなければいけないが、トクホという要素が免罪符としてはたらくことで、トク ホだからコーラを飲んで良いという消費者心理が出来上がっていると考えられる。「ジャンキー・不健 康といったイメージがあって気がひけるもののコーラを飲みたい、しかしながら健康には気を使いた い」という矛盾した思考が1 つの製品内に並存しているという仮説が検証された。
・黒烏龍茶
図2-Iにおいてはトクホのお茶を飲む理由がリストアップされている。
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図2-I トクホのお茶を飲む理由
このアンケートにおいてトクホのお茶を飲む理由で最も多かったのは「どうせ飲むなら体に良いも のを飲みたい」から、という理由であった。仮説として設定したネガティブ要素に対する「免罪符」
である食事のお伴という回答は回答数10位の「食事に合うから」まで登場しない。とはいえこのアン ケートはトクホ茶全体なので、次の図3-Gにて実際に購入した消費者の黒烏龍茶の消費理由まで掘り 下げていく。
図3-G サントリー「黒烏龍茶」購入意向理由
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購入以降理由として食事と併用するという理由は低く、購入理由の強さとしては6位にとどまる。図 2-Iのアンケート結果と合わせても、脂っこい食事に対する「免罪符」としての消費という仮説は成り 立たない。
Ⅴ結論
トクホコーラ、黒烏龍茶ともにその消費理由として最も強力なのは「どうせ飲むのであれば体に良 いものを飲みたい」というものであった。これに追随する消費理由はトクホコーラの場合飲むだけで 健康効果がある、痩せたい、コーラの味が好き、というものである。黒烏龍茶の場合は脂肪分解に効 果がありそう、体に良さそう、というものである。
これらの結果から導き出される結論としては、本来ジャンキーな要素を持つ製品にはそれに対抗す るポジティブ要素を製品に付加することで、完全にジャンキーに振り切れない中途半端な消費者から の購買を得られる、そして消費者は対抗するポジティブ要素に対して価格プレミアムを支払う、とい う理論である。また、黒烏龍茶からは体に良いことをしたいが格別に努力をしたくない「ずぼらな」
人が購入する傾向が強いことが判明した。この「ずぼらな」人も格別努力をしない手間に価格プレミ アムを支払う傾向があると考えられる。
おわりに
卒論を執筆する過程で、能動的に社会現象に対して問題提起し、仮説を設定し、検証を行うという ことの難しさを改めて痛感した。本卒論においても私が最も手こずったのはこの問題提起・仮説・検 証という3プロセスであった。中でも最大の反省点は仮説設定と検証プロセスの浅さであると感じる。
普段のゼミの中でこれらを解きほぐす力を養おうと努力してきたが、まだまだ努力が足りず自分自身 に対して甘かったのだなと感じた。
今後長い人生の中で思考体力を鍛えることを中長期的なテーマとしていきたい。このように私が考 えるのも、全て網倉ゼミとして2年間を過ごしてきたからである。指導教官の網倉教授からは卒論執 筆にあたって多くのアドバイスや批判検討をいただいた。また、2年間の中で同期ゼミ生のうち最も多 く研究室に通ったゼミ生だと自負しているが、網倉教授は常に暖かく迎え入れてくださり研究や就職 活動、人生論などジャンルを問わず様々なお話をしていただいた。この場を借りてあらためて感謝を 申し上げる。
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◯参考文献
鈴木智子 『イノベーションの普及における正当化とフレーミングの役割 「自分へのご褒美」消費 の事例から』白桃書房,2013.
公益財団法人 日本健康・栄養食品協会 『特定保健用食品2015年度版』,2015
OTA Organic Trade Association https://www.ota.com/
インターワイヤード株式会社 『「トクホ飲料のイメージ」に関するアンケート』,2014,7月 http://www.dims.ne.jp/timelyresearch/2014/140723/
株式会社ゲイン 『サントリー「黒烏龍茶」に関する調査』,2007 http://www.reposen.jp/957/3/51.html