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2001 年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文

「通勤快足」が突然売れたのは何故か?

     ネーミング効果とは何か

2002 年 1 月 15 日提出

A 9842234

高橋 賢治

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Ⅰ 売れる製品とは?

世の中には様々な製品が存在する。そしてこの様々な製品は我々消費者によって購入 され、個々に異なった売上げをもたらしている。例えば缶コーヒーとテレビを考えてみよう。缶 コーヒーは食料品というカテゴリーに属する一つの製品であり、同様にテレビも家電というカテ ゴリーに属する一つの製品である。しかし缶コーヒーは食料品、つまり日々の生活により消費さ れる製品であり、また単価もそれなりに安いものとなっている。一方でテレビは家電である。こ の製品を生産するのに必要な様々なコストを考えると、必然とその単価も高価なものとなる。し たがってこの二つの製品が異なった売上げをあげているのは明確であるだろう。

ではここで缶コーヒーとテレビのどちらの製品がより売れているのか?という問いを 投げかけてみるとする。果たしてこの問いに対する明確な答えがあるのであろうか。そもそもこ の問いは二つの異なったカテゴリーに属する製品の比較を対象としている為に、それぞれの製品 がもたらす売上高の比較を行うことは無意味である。今度は条件を少し変えた場合はどうであろ う。ここに缶コーヒーが二つあったとする。この場合、どちらの製品がより一方よりも売れてい るのか?と問われ、果たしてどう答えればよいのだろうか。これは同じカテゴリーに属する製品

(同じ性質をもつ製品)の比較を行っているが為に答えを導くのも簡単である。単純に売上高が 高い方が売れていると答えるのが賢明であろう。

世の中には様々な製品が存在する。一昔前ならば、同一カテゴリー内には単純に単一 の銘柄の製品しか存在していなかった。したがってどの製品が売れているのか?という問いかけ は、異なったカテゴリーに属する製品の比較を行うという意味の無いものであったのかもしれな い。しかし製品市場が供給過剰化し、各企業間での競争が激化している現在では同一カテゴリー 内でも複数の銘柄の製品が存在するようになり、しだいに同カテゴリー内に属するどの製品がよ り売れているか?という問いかけに対し、各企業そして消費者ともども注目するようになってき た。しかしながらこのような状況において最も注目されるべき点はどの製品が売れているのかと いうことよりも、何故そのような結果になったのか?ではないだろうか。つまり何故ある銘柄の 缶コーヒーは他の缶コーヒーよりも売れているのだろうか?ということが分析されるべき対象 であると考えられる。

Ⅱ 売れる製品をもたらす要素

ある銘柄の缶コーヒーは他の缶コーヒーよりも売れているのは何故なのか? この分 析を行うことは簡単ではない。なぜならば消費者に対しコーヒーという飲料水を与えるという、

いわゆる製品がもつ本質的サービスの部分ではどの缶コーヒーも同じであるからだ。異なる点は その製品がどのような経路で売り出され、そしてどのように消費者に認知されているか、つまり

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複数の構成要素を持つ補助的サービスによって生まれていると考えられる。製品差別化(自社の 製品を競争企業の類似製品から区別しうるような、また消費者の選好を誘導するに足る何らかの 特徴を製品に打ち立てることによって、消費者の需要を製品に適合させようという水平的市場創 造戦略)が良く機能していたからとも言えるかもしれないが、ではこの差別化をもたらす複数の 構成要素をもつ補助的サービスとは一体何であろうか。

マーケティングにおける知識を用いて補助的サービスを考えると、これは一般的にマ ーケティング戦略においてのマーケティングミックス諸要素であると考えられる。その諸要素と は即ち、①製品政策、②価格政策、③広告・販売促進政策、④チャネル政策の 4 つである。そ してこれらの諸要素をもとにマーケティング戦略はシステムを成し、それぞれの製品に異なる差 別化をもたらしていると考えられる。缶コーヒーの例で考えるならば、ある特定の A という銘 柄の缶コーヒーが他と異なるのは;

① 製品政策

市場需要の開拓と広大を達成するためにどのような製品を開発し、それを育成していくかを考え る。この領域での主な問題は、新製品開発プロセスをどのように作り上げ製品コンセプトをいか に確立するか、製品ラインをどのように拡大し維持するか、ブランドをどのように作り上げるか などを考える。またブランド戦略における先発優位性、あるいは後発優位性も同時に考慮される。

・Aという銘柄の缶コーヒーは他の缶コーヒーよりもデザインがよく、古くから名の知れた商品 である。

② 価格政策

価格は本来商品の価値を表明する基準であり、顧客の現実の商品に対する知覚品質と価格認識と の関係を明らかにする。ここでは市場の需要の価格弾力性や競争差別性と競争価格の設定、価格 と商品差別化との関係なども検討される。 

・Aという銘柄の缶コーヒーは他の缶コーヒーよりもリーズナブルで安い。

③ 広告・販売促進政策

電波・印刷媒体による広告活動、そして消費者キャンペーン、店頭キャンペーン、取引先向け販 促などの販促活動の選択。

・Aという銘柄の缶コーヒーは他の缶コーヒーよりもよくテレビCMで流れている。

④ チャネル政策

広い拡大チャネルを求めるのか、それとも狭い限定的なチャネルを求めるのかの、流通チャネル 構造の選択を決定する。 

・Aという銘柄の缶コーヒーは他の缶コーヒーよりも広大な流通チャネルを持つ。

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という、各要素の組み合わせによって生まれた総合的な状況であるといえる。

ある銘柄の缶コーヒーは他の缶コーヒーよりも売れているのは何故なのか? この分 析を行うことは簡単ではない。それは本質的サービスが同じである場合に、まず各銘柄それぞれ についてのマーケティング諸要素を考慮しなければならないからだ。製品政策、価格政策、販促 政策、そしてチャネル政策のどの部分で優位であったのか。またこれらの要素の組み合わせによ って生み出される製品についての戦略的状況がどう有利であったのかを詳しく分析する必要が ある。もしそこである特定の製品についての何らかの優位性を見つけることができるのであれば、

それは確実にマーケティング諸要素によってのもたらされた製品差別化であり、結果としてその 製品が売れているという状況が生み出されているのである。しかしながらここで疑問が無いわけ ではない。それは果たして本当にこの 4 つの要素だけで製品の優位性を語れるのであろうか?

という疑問である。例えばもしここに、本質的サービスと補助的サービスの両面でまったく同じ である2つの製品があった場合に、どちらの製品がより売れているといえるのだろうか。 

Ⅲ 抗菌靴下「通勤快足」

みなさんは「通勤快足」という靴下をご存知だろうか。これは株式会社レナウンが高 度成長期のころから研究開発を始めた大ヒット抗菌防臭靴下である。抗菌の仕組みは、菌の増殖 を抑える薬剤を練りこんだナイロン糸「タイジロン」で、つま先やかかとに重点的に編み込んで いる。担当の伊地知重昭室長は「糸に練り込んでいるので、洗濯しても機能は落ちません。繊維 製品の機能を検査する協議会の設立に当初からかかわり、基準も作っているので、安全面でも心 配ありません」と話している。

しかしこの抗菌靴下は以前「フレッシュライフ」という別名で売り出されていた。通 勤快足とまったく同じ効果のあるこの靴下を81年から販売したが、その売上げは初年度でこそ 2億円近く売り上げたが、年間1億円前後にとどまり、市場の反応もさほどよいものではなかっ たそうだ。ところが87年3月、毎日通勤快速で会社へ通う一社員が『満員電車でも足がむれな いで清潔でいられる靴下』という思い付きをもとにネーミングを考案し、同抗菌防臭タイプの靴 下を「通勤快足」に改名したところ、市場のブームに火をつけた。テレビCMと共に売り出した ところ、売上げは年々増加。1足1000円と高めの価格設定で、当初は百貨店のみの販売だっ たが、予想以上の好評となり88年には量販店でも扱うようになった。90年には最高の27億 円となり、なんと従来の約10倍の売上げになっている。97年も10億円の売上げを保ってお り、ブランド品の製品寿命は5年とされている中で異例のロングヒット商品となった。その後、

通勤快足に刺激されて各社が参入した。例えば紳士靴下の最大手であるナイガイは、99年2月 から、銀の殺菌効果を利用した混紡糸で作る「シルバーコート」を売り出した。混紡糸は鐘紡の

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開発で、銀メッキをしたナイロン繊維と綿を混ぜた糸で編む。綿との混紡によって柔らかさを出 している。またグンゼの「漢方」シリーズは、アロエ、ドクダミ、クローブなど数種類の薬草の 混じった加工剤を、天然材料を用いた特殊なのりで足の裏の部分に定着処理する。これとは別に、

グンゼはにおいを抑えるだけでなく消してしまう効果があるという肌着「デオグリーン」を99 年2月に発売している。しかしながら靴下業界の最大手であるナイガイでもシェアが約5%にと どまり、現在では通勤快足を含む各社の製品が激しく競争している状況にある。

Ⅳ フレッシュライフと通勤快足

何故通勤快足が突然売れ出したのか? この問いは第二節における私の問いかけであ る、本質的サービスと補助的サービスの両面でまったく同じである2つの製品があった場合に、

どちらの製品がより売れているといえるのだろうか?に似ている。 なぜなのかを検証するため には詳しい「フレッシュライフ」と「通勤快足」との比較を行ってみよう。

「フレッシュライフ」と「通勤快足」の両者は同じ抗菌防臭加工の靴下であるという 点で、その本質的サービスがまったく同じであると言うことが出来る。しかしながらピーク時に おいて、通勤快足はフレッシュライフよりも10倍以上の売上げを上げている。では通勤快足と いう製品に差別化を与え、より売れる要素をもたらした補助的サービス、つまりマーケティング 諸要素はどうであったのだろうか。まずは製品政策における比較から考えてみよう。そもそもこ の 2 つの製品の関係はそのコンセプトから開発における全てにおいてまったく同じものである と考えてよい。事実レナウンの広報部も「フレッシュライフという名前が通勤快足に変わっただ け」と述べている。この状況で注目とされるのは命名変更後の後発ブランドの優位性であるが、

しかしこの問題も通勤快速がフレッシュライフの時とまったく同じ顧客層をターゲットとして いること、また製造元が同一企業であるがために広告・販売費への投資や研究開発費に変更が無 いことから優位性は存在しないといえるだろう。つまり製品政策における通勤快足の優位性は見 られないのである。では価格政策はどうであろうか。

1000円と高めの値段設定である通勤快足は、フレッシュライフ時には980円で あった。多少の変更はあるものの、差額である20円がそれほど消費者の認知に影響を与えてい るとは思えず、むしろこの価格政策についても通勤快足は優位ではなかったと呼べるのではない だろうか。

次は広告・販売促進政策である。ここでは若干の変更が見られる。通勤快足の販売開 始と同時に行ったテレビ CM による広告がそれであるが、これは果たして通勤快足が持つ優位 性の対象となるだろうか。レナウンでは1961年からテレビ宣伝を開始し、同年には CM ソ ング「レナウン・ワンサカ娘」により時の話題をさらっていることから、広告等の販売促進活動

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にかなり力を入れている。そしてフレッシュライフ販売開始時においても、既に雑誌広告やテレ ビ等の販売促進活動を大体的に行っていた。しかしこの広告効果の問題はとても微妙なものであ る。確かに製品の紹介としての重要な意味をもつことは理解できるが、以前よりも広告活動を強 化したという事実をもとに消費者の劇的な購買行動の変化を起こしたとは考えにくい。広告効果 は未知数である。したがって、広告活動を行っていたかいないかで広告効果を判断するのが適切 であると考え、これは通勤快足の優位性を証明するには不十分であると言える。

最後にチャネル政策であるが、確かにチャネル政策にも変更が見られた。88年には 通勤快足の売り場(流通チャネル)を百貨店から量販店にまで拡大している。しかしここで注意 したいのは、通勤快足が87年に売り出されており、既に売上げを伸ばしていたということであ る。チャネルの拡大はあくまでも製品売れ行きのさらなる増加を狙ってのことであり、差別化を 行うためにもたらされた優位性であるとは考えられない。

以上のように、通勤快足とフレッシュライフはその補助的サービスという側面からみ てもほぼ同じ製品であると言うことができる。本質的サービス、あるいは補助的サービスでも同 じであるこの2つの製品。では一体何が通勤快足をこれほどまでのヒット製品と仕立て上げたの だろうか。

Ⅴ 消費者による製品の認知

1981 年に抗菌防臭加工の靴下「フレッシュライフ」を開発、発売しました。「フレッ シュライフ」は他社の同様の商品よりもうんと性能も良く、水虫や足元の臭いや不快感を解消し てくれる素晴らしい商品でした。しかし、何故か売上げが伸びません。その商品を必要としてい る人が現実として、数多く存在しています。夢でもなく、映画の中ででもなく、現実としてニー ズがあるのです。それなのに売上げが伸びません。何故でしょうか?目の前にそれが陳列されて いることに気がつかない、あるいは気づいても興味を示さなかったのです。確かに、多少性能が 衰えるかも知れなくても似たような商品が他にない訳ではないし、どれでも良ければ手間暇かけ ずにパッと手に取れるところにあるものを買うのは当然です。目の前にそれが陳列されているこ とに気がつかない、あるいは気づいても興味を示さなかったのです。「山田(2001)」

マーケティング諸要素とは生産者サイドから見た製品差別化である。それぞれ4 つの 諸要素を組み合わせ、自社の製品が戦略的に優位な位置にあるならば、その製品は他社の同様な 製品よりも売れるであろうという論理に基づいている。確かに大抵の場合、この論理を用いて製 品が売れている理由を説明することができる。しかしながら通勤快足の例でも挙げられるように、

マーケティング諸要素による戦略的優位性がないからといい、その製品が売れないとは言い切れ ない。これは何故なのか?ここでポイントとなるのは消費者の観点である。消費者はある製品に

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対して、マーケティング諸要素によって差別化されたものであると捉えている訳ではない。フレ ッシュライフは他社の同様製品よりも確かに品質が良いものであり、そのニーズも見込まれてい た。大体的な広告活動、あるいは販売チャネルの確保も行ってはいたが、しかし消費者にはこの 製品が伝わらなかった。一つ仮説としてあげられるのは、消費者は本質的・補助的サービスもさ ることながら、ある特定の要素を製品の中に見出し、そして購買行動を起こしているのではない か?である。では消費者はどのように製品をとらえているのだろうか。

消費者はテレビやラジオ等の広告、店頭、あるいは知人や友人との会話を通して製品 情報に接触している。そして最終的にはもたらされた情報に意味付けを行い、その結果として購 買行動を起こす。この過程を消費者行動分析論においては情報処理過程と呼んでいる。情報処理 過程とは大きく分けて三つの段階に分けることができる。まず接触段階において、消費者は感覚 受容器に入ってくる刺激に注目する。また消費者が過去の経験をベースにした知覚的なフィルタ ーを用いて情報処理を行う対象を決定するのもこの段階である。そして次の注意段階において情 報の選択を行う。注意段階では、ある特定の刺激を知覚している間、他の刺激が入ってくるのを 遮断し、利用できる刺激のある部分だけを選択する。そして最後の解釈段階において、選択した 情報に意味を与えるのである。

情報処理過程において最も注目したいのは注意過程、中でも情報の選択の際に関わる 刺激的要因である。なぜなら、もし刺激に対する反応を認知というように定義するならば、まさ しくこの注意過程において製品情報は認知されると言えるのだろう。刺激的要因とは消費者が特 定の刺激に注意を向けていない場合、刺激そのものの物理的、認知的な特性の違いによって消費 者の製品に対する関与の程度が異なるというものである。では物理的特性と認知的特性とはどう いうものであろうか。

①物理的特性

物理的特性とは、刺激自体が持っている物質的性質であり、刺激の大きさ、強さ、色、

音、におい、動き、方向などがある。例えば、明るい色の商品パッケージは、落ち着いた色のパ ッケージよりも店頭でよく目を引く。新聞のカラー広告は、モノクロ広告よりも注意をひきつけ る。インターネットのホームページ上の動いている絵や文字は、動かないものよりも注意を引き 付ける。店頭ディスプレイ、ネオンサイン、回転する広告板、なども同様である。

②認知的特性

刺激がもつ認知的特性は、消費者の注意を活性化する。消費者の情報処理とかかわり のある認知的特性としては、孤立、対比、フォーマット、情報量などの側面がある。孤立の効果 とは、広い空間における小さな刺激が注意を引くような場合のことである。この効果の使用は、

グラフィックデザインにおけるホワイトスペースの使用でしばしば見られる。新聞広告の全てが

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カラーになると、モノクロ広告の方が注意をひくような場合が対比の効果である。フォーマット はメッセージの呈示の仕方に関連している。一般に、シンプルで簡潔な表現は、複雑な表現より も注意を引く。

確かに優れた製品差別化によって、消費者の注目を集める場合もある。しかしながら 消費者の注意をひきつけるのは、マーケティングがもたらす差別化だけではない。単なる付加的 な要素に思えるような物理的特性と認知的特性が刺激的要因をもたらし、消費者の情報処理過程 においてその有効性を発揮するのである。マーケティング諸要素による差別化と同様に、刺激要 因を用いて、いかに消費者の注意を引き付けることが出来るのかが製品の売れ行きの鍵を握って いるのである。

Ⅵ 通勤快足が与えた刺激とは何か?

消費者は本質的・補助的サービスもさることながら、ある特定の要素を製品の中に見 出し、そして購買行動を起こしているのではないか?この仮説に対する一つのサポートとしてあ げられるのは、消費者の注意過程における刺激的要因にあることは前述の通りである。ではフレ ッシュライフには無い、通勤快足が消費者に対して与えた刺激要因とは一体何であろうか。

刺激要因とは物理的特性と認知的特性によるものである。したがってここで考えられ ることは、通勤快足とフレッシュライフの色やパッケージ等の差異、あるいは通勤快足がもたら した認知の活性化である。では再び通勤快足がフレッシュライフと異なる点を考えてみよう。第 4節のマーケティング諸要素の分析により発見できなかった通勤快足の異なる点は、唯一その名 前であるということができる。そしてこの名前の変更が結果として刺激を消費者に与え、爆発的 なヒットを呼んだのではないであろうか。なぜならば、製品を包むパッケージを含めてフレッシ ュライフと通勤快足の物理的特性の差異を検討してみたところ、ほとんどと言ってよいほど変化 は見られなかった。確かに現在では透明なビニールの袋によって包まれ、異なるパッケージング が施されている。しかし発売当時の通勤快足は、紙で出来たラベルによって留められた2足の靴 下という、フレッシュライフと同様なパッケージングが施されていた。奇抜な色や形を使わない、

ごくシンプルなパッケージングによってもたらされた通勤快足の刺激要因は、物理的特性と言う よりも、名前の変更によってもたらされた認知の活性化であり、認知的特性として確かに効果が あるものであったと考えられる。我々はこれをネーミング効果と呼ぶべきであろう。

Ⅶ ネーミング効果

もしネーミング効果というものが、この通勤快足だけの例で見られたのであれば、ネ ーミング効果の有効性を論じることは難しいであろう。しかしながらネーミングによる消費者の

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認知の活性化は確かに行われているのである。その証拠として以下の幾つかの例があげられる。

レンズつきフィルムの代名詞となっているのが「写ルンです」。フィルムにレンズをセ ットした”レンズ付きフィルム”で、フイルムメーカーでなければ発想出来ない画期的なカメラだ った。 紙のボディーに付いているレンズは、その軽さといい、雑誌の付録のような感じを与え た。誰もがこのカメラを最初に手にした時に抱く疑問はあった。 「これ、写るんですか?」も ちろん開発者としては。「大丈夫です。心配ありません。ホントに写るんです。」 このような会 話は、試作品の段階からあったと言う。当然、発売後には消費者との間にかわされることは十分 に予想された。それならば、その会話をネーミングにしてみてはどうであろうか?   ”私、これ でも、ちゃんと写るんですよ”と商品に自己主張させるのだ。そこで決定されたのが「写ルンで す」。”るん”を”ルン”としてウキウキ、ルンルンとしたおチャメなノリを出したのが、ウケたの である。

キリンの「一番絞り」(1990 年発売)は、アサヒの「スーパードライ」の独走を阻む べく開発されたビールである。それまでビールと言えば横文字ネーミングが主流だった。そこに”

一番”という消費者の心をくすぐる言葉と馴染みの薄かった”搾り”が合体した。純和風のネーミ ングの目新しさが受けてブームを呼んだのである。

緑茶飲料のトップブランド「お〜い お茶」は、1989年2月、すでに発売されていた

「缶入り煎茶(緑茶)」のネーミングを一新して売り出された。緑茶を缶入りにすることは難し いと考えられていたが、技術陣の努力で 85 年に世界で初めて緑茶の缶ドリンク化に成功した。

ところが画期的商品にもかかわらず、売上げは思うように伸びなかった。その原因は、「お茶を 飲むのに百円は出せない」という消費者感覚と商品の中身をストレートに表現した「煎茶(せん ちゃ)」という商品名のインパクトが弱いだけでなく、読みにくく、馴染みにくいということが あった。このため、新しいネーミングが再検討された。家庭の中で日常的に使われている言葉、

「お〜い お茶」。消費者の耳に残っているフレーズでありヤング層に家庭の雰囲気を味わって もらうネーミングとして「お〜い お茶」を使うことにしたのだ。 ネーミングを変えて効果は 大きく、販売量も大きく伸びた。さらにペットボトル化にも成功して、毎年最高売上げを更新し ている。

この他にも数々の例がネーミングの効果としてあげられ、この効果は実証されるとい える。

マーケティングにおける製品の捉えかたは、消費者の問題を解決する「便益の束」で ある。例えば女性が口紅を買うのは、単に口紅そのものを欲しいからではなく、美しくありたい という問題解決のために買うのである。とするならば、当然品質やブランドのみならず、スタイ ルやパッケージも重要な要素となってくる。人はイメージを買っており、そしてネーミングはそ の製品のイメージを伝えるきっかけとなる。したがって、ネーミングは単にものの名前としての

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役割だけではなく、イメージ作りという面でも重要な意味をもつのである。従来、ネーミングは あくまで製品の特性、差別化を明確にすることが第一とされた、いわゆる製品の分類的価値に当 たるものであった。製品自体が良ければ、特に宣伝しなくても、目立つ名前をつけなくても自然 と売れるものとなる。しかし情報が高度化、多様化するにつれ、よりインパクトやイメージの与 えやすいネーミングが消費者を刺激する要素となり、結果として売上げに影響するようになるの であろう。

Ⅷ ネーミング戦略

ネーミング効果とは、製品の名前がもつインパクトやイメージが消費者に対し刺激を 与え、彼等の認知に活性化を与えるというものである。したがって単に製品に目立つ名前をつけ れば良いという訳ではない。日経産業消費研究所研究員である中井豊氏は次のように述べている。

「ネーミングがピンとこなかったり、ネーミングが商品の実態を反映させていないと、ブランド として発展もせず、売れ行きがぱっとしないことが多い。例えばあるシューズメーカーが開発し た通勤用革靴「独立独歩」。読み方は「ドゥ・リ・ドゥ・ヴ」。外を歩き回ることの多い営業マン などは、革靴を履きつぶす人が多かったのに対応して、運動靴並み機能を持つ革靴を開発したも の。「自分の足で立つ」というコンセプトで百以上のネーミングを用意したが、結局中国語が堪 能な社員に中国語でネーミングしてもらったという。しかし発音の難しさなどで「最初はドリボ などと呼ばれた」(ミズノ)こともあり、せっかくの商品なのに開発から十年たった今は、人々 の記憶から消えている。また優れた商品でも、ネーミングで消費者に商品特性をアピールしきれ ず、メッセージが届かないケースもある。シャープが今年春に発売した洗濯機は、回転する洗濯 槽から穴をなくし、水が外に出なくしたことで、洗濯槽の裏側に付くカビを防止すると同時に、

使用する水の量も半分近くまで減らし、洗剤や電気、水などを画期的に減らした、優れた製品だ った。しかし肝心の商品名が「カビぎらい」。洗濯機といえば他社製品との差別化をする際に「水 の節約」「電気代節約」などが、もはや決まり文句となっており、「新鮮味がない」(あるマーケ ティング研究者)。同社としてもそうしたことから他社と違った特徴を打ち出すために、「節水」

よりもあえて「カビ防止」をアピールせざるを得なかったのだろう。しかし「カビ」という語感 は消費者にいいイメージを起こさせるものでなく、せっかくいい機能を持っているのに、むざむ ざ使わなかったケースだといえる。」

製品の名前がもつインパクトやイメージが消費者に対し刺激を与え、彼等の認知に活 性化を与えるというものがネーミング効果であるとするならば、ネーミングが目立つものである こともさることながら、ネーミングがしっかりした製品のイメージを消費者に対して与える必要 がある。さもなければ「独立独歩」や「カビぎらい」の様に失敗してしまうこともあるのだ。で は良いネーミングとは何であろうか。製品イメージを与えるという点を強調して考えてみよう。

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第一に、製品コンセプト(製品の特性)が伝わりやすくなっているか?ということに 注目しなくてはならない。いかに奇抜な名前を用いたとしても、製品の特徴やターゲットがしっ かり伝わらなければ、消費者はその製品を買うはずがないであろう。したがって製品の中身を簡 単に想像できる様な要素が必要であるといえる。例えば、「オセロ」(ツクダ・オリジナル)とい うゲームがあるが、このネーミングはシェイクスピアの名作「オセロ」からとったものであり、

黒人のオセロ将軍と白人の妻という設定は、コマの両面を白と黒にして使うゲームには適してい たといえる。

次に音感が商品のイメージやターゲットに合っているかということも考えなければな らない。なぜならば音の使い方によっては連想されるイメージがまったく違ったものになるから だ。先の「カビきらい」がよい例といえる。「カビ」という語感は消費者にいいイメージを起こ させるものでなく、せっかくいい機能を持っているのに消費者は購買行動までに至らなかった。

またテレビ・プロデューサーの横澤氏(現吉本興業東京支社長)は、「笑っていいとも!」「オレ たちひょうきん族」などのヒット番組を生んだが、このタイトルを考える際、書き言葉としてで はない話し言葉を用いて、耳から入る名前のフィーリングを重要視したそうだ。これにより視聴 者のフィーリング=親しみ易さを重視したということが、番組のヒットに繋がったと考えられる。

また「見た目」のインパクトはどれだけ視聴者の視覚に訴えるか?を考えることも必 要である。店頭に商品があるにも関わらず、しかし消費者の目にとまらない。つまりどれだけ目 立つかが勝負なのだ。確かに商品イメージや飲食の内容を伝えることが重要視とされるが、これ に加えた付加的な要素として、最近では字面の面白さを表現したネーミングが目立つようである。

例えば、関西地区では、関西弁をもじった店名が多い。「CoCo壱番屋」(カレーハウス)は、「こ こ、一番や。」をもじったもので、「ここ」のローマ字表示と「一」ではなく「壱」を使うことで 新鮮なイメージを与えているようだ。「愛に恋(あいにこい)」(居酒屋)は「会いに来い」をも じったものだ。さらに「恋恋(こいこい)」(=来い来い)(居酒屋)もある。「笑笑」(居酒屋)

は、「わいわい」、「わらわら」、「クスクス」などと読ませる。

 

最後にその時々の時代に合っているのか?ということもネーミングにおいては重要な 要素となる。名前にも当然、流行り廃りが存在する。したがってその時代の流行の要素を取り入 れていることも重要な要素となる。通勤快足を例としていうならば、この製品が発売される 2,

3年前に、これまで電車といえば各駅停車しかなかったところに、新しく通勤快速電車が登場し たという時代背景があった。通勤快速は、一時期人々の話題をさらった名前であり、同名である 通勤快足もまた話題を呼んだのは言うまでもないだろう。

Ⅸ ネーミング戦略と通勤快足

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製品コンセプト(製品の特性)が伝わりやすくなっているか? 音感が商品のイメー ジやターゲットに合っているか? 見た目のインパクトはどれだけ視聴者の視覚に訴えるか? 

その時々の時代に合っているのか? この4つの要素をもってネーミング戦略とするならば、本 論の仮説である、消費者は本質的・補助的サービスもさることながら、ある特定の要素を製品の 中に見出し、そして購買行動を起こしているのではないか?において、ネーミング戦略がその効 果を発揮し、消費者の購買行動を起こしているといえる。ではこのネーミング戦略をもって、通 勤快足がヒット製品となった理由を検証してみよう。

フレッシュライフという言葉から、これが靴下であるということをイメージするのは 難しい。確かに新しく抗菌靴下なるものが開発され、そしてこの靴下がもたらす抗菌作用が、す がすがしい気持ちにさせてくれるという意味では、フレッシュなライフなのであろう。しかしな がら製品コンセプトを伝えるには、製品の中身を簡単に想像できる様な要素が含まれていなくて はならない。だとするならばフレッシュライフよりも通勤快足の方が、少なくとも語尾に 足 という言葉が使われていることから、足に関わる何らかの製品であると容易に予想することがで きる。したがって通勤快足の方が、フレッシュライフよりもより「靴下である」という製品コン セプトの伝わり易いネーミングであったといえる。

音感としてのフレッシュライフはどうであろうか。確かに「フレッシュ」という言葉 から、すっきりさわやかであるイメージを受けることができる。しかしながら、やはりこの言葉 から連想されるイメージが明確ではない。一方で通勤快足は、その快足という言葉から、足がと てもすっきりしているイメージが連想され易い。足とは靴下によってとても蒸れやすく、むずむ ずした感覚が常にある。しかしそこに「快足」という言葉を用いることで、すっきりさわやかな 足という、誰もが持つ理想をよく表し、そして消費者の購買意欲を高めているといえる。したが って「フレッシュ」は「快足」という言葉には勝てなかったのであろう。通勤快足は、その音感 によって抗菌靴下であるという製品の内容までも表すことのできたよい名前であったといえる。

また見た目という面から見ても、通勤快足がよりインパクトの強い名前であったとい える。なぜならば80年代から90年代にかけての時代的な特徴として、英文字が多くの製品の 名前に使われていたことがあげられるからである。多くの製品がアルファベットやカタカナで書 かれているのに対し、画数の多い漢字を用いることは、視覚的効果としてより強いインパクトを 消費者に与えるのと同時に、漢字が使われているというものめずらしさもある。フレッシュライ フというネーミングは、言ってみれば「ありきたり」であったのに対し、通勤快足はその見た目 からしてもとてもインパクトのあるネーミングである。

最後にその時々の時代に合っているのか?であるが、これは前節で述べた通りである。

これまで電車といえば各駅停車しかなかったところに、新しく通勤快速電車が登場したという時

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代背景が、通勤快足に更なる話題を呼んだのだ。そして結果として、フレッシュライフよりも通 勤快足の方がブームを呼んだと言えるのであろう。

以上4 つの要素全てにおいて通勤快足はフレッシュライフよりもネーミング戦略にお いて優れたものであったといえる。そしてだからこそ、マーケティング戦略においては差別化が 見られないこの製品も、空前のブームを呼ぶヒット製品となったのである。

Ⅹ 最後に

現時点でのマーケティング戦略論においては、価格政策、広告・販売促進政策、チャ ネル政策を用いた製品差別化がより重視される傾向にある。しかしながらマーケティングにおけ る製品の捉えかたが「便益の束」であること。また製品を買うものである消費者の行動が無視で きないことから、戦略として、価格政策、広告・販売促進政策、チャネル政策と同様にネーミン グ戦略も重視されなければならないのであろう。確かについ最近においては商品、会社、ビルの 名称等、いい名前を考えてつけるプロをネーミングライターと呼び、これを一つの職業として雇 っている企業も少なくはない。したがってネーミング戦略の重要性は無視できないのである。通 勤快足の例でも見られたように、マーケティング戦略の一環として、このネーミング戦略を積極 的に取り入れることが、ヒット製品を生む引き金になることは間違いないだろう。

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<参考文献>

和田充夫・恩蔵直人・三浦俊彦 『マーケティング戦略論』

有斐閣アルマ 1996

杉本徹雄 『消費者理解のための心理学』福村出版株式会社 1997 田島盛幸 『経営学用語辞典』 税務経理株式会社 1997

<レナウンホームページ>

http://www.renown.com/bland/index02.html

<ネーミングにこだわる>

http://www.foodrink.co.jp/backnumber/200103/news0103a-1.html#1a1

<ネーミング論>

http://www.linkclub.or.jp/~move/naming/naming.html

<ネーミングの由来と謎>

http://www.tbs.co.jp/besttime/back_no/jun2001/6_21/relay4.htm

<抗菌防臭靴下>

http://osaka.yomiuri.co.jp/catalog/cat0610.htm

<確かなブランド戦略が新たな顧客を創造する>

http://www.nikkei.co.jp/rim/web-ron/rondan-old/ron010612.htm

(ホームページ参照資料は全て2002年1月15日現在にて確認)

Referensi

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学校経営論 授業科目名 CB24031 科目番号 2.0 単位 単位数 2 年次 標準履修年次 春AB秋AB木3 時間割 担当教員 近代学校というシステムにおいて「経営」が必要とされるようになったのはなぜか?「学 校経営」という概念はこれまでどのように理解されてきたのか、また、捉え直されてき

5, 2016 茶殻 ・ コーヒー滓が触媒に? 繰り返し使用が可能なフェントン反応 ふだん私たちが口にするお茶やコーヒー.その香りや 味わいを楽しんだあとに残る茶殻やコーヒー滓はもちろ ん人体に無害なものである.この茶殻やコーヒー滓に は,そもそも触媒としての機能はない.しかし,それら にある元素を加えると,強力な酸化反応の触媒になる.

― 4 ― 3 容器包装リサイクル法が対象としている「容器」「包装」とは,商品を入れたり包んだりして いるもので,中身を出したり使ったりすると不要になるものです。その種類は,ガラスびん,ペッ トボトル,紙製容器包装,プラスチック製容器包装,①アルミ缶か ん,スチール缶,紙パック,段ボー ルです。

nations)により定義される海賊犯罪を行なった者を終身刑に処すると規定しているが、 何が「国際法」かの定義はなく、もっぱら裁判所の解釈に委ねている。それと同時に、 第1652条以下で、海賊行為またはそれに準ずる行為類型(合衆国に敵対行為を行なう意 図で船舶を武装する行為や積み荷と共に逃走する行為等)を独自に定めている(14)。第三の

R の部分集合 M に最大値 maxM が存在すれば、それは上限 supM でも ある。最小値・下限についても同様。 問8-5A... 数列a= an∞n=0 について、上極限・下極限がともに存在して一致すれば、 a はその値に収束することを示せ。

R の部分集合 M に最大値 maxM が存在すれば、それは上限 supM でも ある。最小値・下限についても同様。 問8-5A... 数列a= an∞n=0 について、上極限・下極限がともに存在して一致すれば、 a はその値に収束することを示せ。

第1章 同族企業とは 1−1同族企業の定義 同族企業(以下、同族経営・ファミリービジネスも同意で用いる)についての統一された定 義は今のところない。しかしその多くは、創業者の一族が会社を所有し、経営において実質的 な支配権を行使している企業のことであるとしている。後藤(2012)によると、同族経営 の定義をつけるにあたって大きく4つの重要な要素が存在する。

3 Ⅰ.はじめに 私は大学 4 年間部活でラグビーを続ける中で、仲間とともに日々練習や分析を積み重ね体を動かし ながら仲間や相手と競い高めあうスポーツをプレーする楽しさや、自分がプレーする以外にも日々の鍛 練や経験、様々な思いの詰まったプレーを見ることの感動を知ることができた。