2001年度 上智大学経済学部経営学科 網倉ゼミナール 卒業論文 「時間貸し駐車場を全国展開する必要性はあるのか」
A9742416 片岡 美樹 提出日:2002年1月20日
はじめに
最近になって急に増えてきた感のあるコインパーキング(時間貸し駐車場、コイン式駐車場)。そ の中でも業界最大手はTimes24という名の時間貸し駐車場を運営するパーク24株式会社だ。パーク 24の本社は東京都品川区だが、パーク24が運営する時間貸し駐車場は北海道から九州まで全国に及 ぶ。
首都圏のように人も車も多く、かつきちんとした駐車スペースが慢性的に不足している所でなら時 間貸し駐車場を運営するメリットも理解できるが、車はあっても土地もたくさんありそうな地方にお いてさえ時間貸し駐車場を運営するメリットはどれほどあるのだろうか。地方では土地の価格も首都 圏と比較すれば安い分、単位時間あたりの駐車料金も下げざるをえない。そうなれば運営管理のコス トに比べて収益率が悪くなりはしないのか。
仮説
カーナビで駐車場検索が出来るようになることを見越しての先行投資、というのが当初の予想だっ たが、現実には既にカーナビ・iモードによる駐車場検索が可能となっている(注1)。そこで時間貸 し駐車場というものが今度どうなっていくのか、現状をふまえつつ時間貸し駐車場業界について書い てみたい。
1. 時間貸し駐車場が増えた経緯
まず10年前にはほとんど見かけなかった時間貸し駐車場。近年その数は右肩上がりで(図1)、
売上高も伸びている。そもそも時間貸し駐車場の数が増えてきた背景には、バブル後に地価が下がっ ても売れないような土地をただ寝かせておくのももったいない、ということがあるようだ。コイン式 の駐車場ならば、土地の新たな利用法が見つかれば設備を簡単に取り除くことが出来る。タワー式の 大型駐車場とは対照的だ。事実、立体駐車場工業会の調べでは1991年度に、加盟している約100社 が完成させたタワーパーキング(大型の垂直循環式、エレベーター式)は2261基だが、1994年度に は810基に落ち込んだ。
いくら都心で便利な場所であっても、土地の形が悪かったり、収益性や市場競争力が弱かったりす るといい値段では売れない。バブルの頃は土地の本当の価値を無視した価格がついていたのが、近年 の地価下落に伴って「売れない土地」が浮上してきてとりあえずの駐車場、となっているパターンが 1つ。
2つ目の理由が、都心部におけるオフィス賃料の低下に伴うペンシルビルの新築取り止め・老朽化 したビルの取り壊しだ。数年のうちに開業予定の大規模賃貸オフィスは別記(注2)の通りで、大規 模で新しい賃貸オフィスが市場に豊富にあればペンシルビルの小さいオフィスの需要は減少もしくは 賃料の上昇は見込めない。ならばある程度一定した収入のある時間貸し駐車場に転換しておこう、と いうパターン。
3つ目が月極駐車場からの転換だ。企業が経費削減のため社用車を減らしていることから月極駐車 場の需要が低下しており、稼働率低下を補うためオーナーが月極から時間貸しに転換させるケースが 多い。都内で約1万300台の駐車場を手がける東京都駐車場公社によれば、「東京駅周辺などオフィ ス街を中心に企業から10台単位での解約が目立つ」(事業部)そうだ。
設置費用が低いことも市場拡大を後押ししている。「ロック式」(車を固定して止めるもの)駐車 場の設置費用は1台当たり40〜60万円で、土地のオーナーも気軽に設置できる。
2. 駐車場に停めないといけない理由
さて、いくら駐車場があっても停める人がいなければ意味がない。
平成8年度における自動車保有台数は約7000万台であるが(図2)、駐車場供給台数は250万台で ある。目的地での駐車場需要は880万台と推計されているが(注2)、実際には250万台しかないの で、その差の630万台分の駐車場が単純計算で不足することになる。そして路上駐車されている車が 本来支払うべき駐車料金は年間3兆7500億円、1日当たり103億円と言われている。
昨年警視庁は駐車違反の厳罰化のため、道路交通法を改正して罰金を2倍以内に引き上げるかどう か、試案を公表して一般からの意見を集めたが、罰金引き上げに対する反対意見が多かったのに加 え、罰金を引き上げても駐車違反は減らないとの意見も多く、罰金引き上げは見送られた。ただ、違 反点数を引き上げる方向で今後は検討ということで、ドライバーとしては「停めるところがあるなら ば無意味やたらと路上駐車はしたくない」というのが本音ではなかろうか。
ちなみにTimes24をはじめとしたコイン式駐車場の料金は10分、15分、20分単位で課金され、そ の料金は場所などによって異なるが15分100円または200円などが一般的である。今では駐車場に よっては駐車24時間までなら一定料金というところもあり、月極駐車場を契約する代わりに、気楽 に車通勤の人に停めてもらえるような工夫もなされている。
3. コイン式駐車場 のメリット・デメリット
自分の持っている土地を駐車場にするならば、管理人を置くということも可能である。しかし現実 に増えているのはコイン式が大半だ。その理由として、
・コイン式の方が管理人がいる駐車場よりも入庫率が高い
・人件費がかからない
・入庫車種をあまり選ばない(車高制限がない)
・狭いスペースでも運営可能。2台分以上あれば大丈夫。
・24時間営業できる。
などが挙げられる。
その反面デメリットもあり、
・初期段階で、システムの購入費および施行費等の費用がかかる。
・故障は少ないが機械設備であるので故障は起こる。また利用者の操作ミスなどによっ ても故障が 発生する。
・設備の定期的なメンテナンスが必要。
・無人なので夜間に金庫を破られ金銭を盗まれる可能性もある (実際このような事件は発生している)
また最近では時間貸し駐車場業界に参入する企業も増え、空き地ができた際の土地争奪合戦が激し くなっている。必然的に土地の賃料が高め高めになる傾向が生まれている。
4. コインパーキングの歴史
さて、少々遅くなってしまったが、そもそもコイン式無人時間貸し駐車場というのはいつから始 まったのだろうか。パーク24は1992年にコイン式の時間貸し駐車場経営を始めた(この会社が業界 最大手・最古参である)。土地を借り受け、車が駐車すると自動的にせり上がる車輪止め装置や料金 支払機を設置した。当時は土地を担保に融資をしている金融機関が紹介する例が多かった。当初は領 収書が出ない、おつりがでない、千円札が使えないといった不満がドライバーの側にはあった。その 後新規参入による同業者が増加し、ドライバーの利用頻度も増大、ハード面での改良も進み(不正駐 車への対応も含め)、パーク24の2001年10月期決算は、連結純利益が21億円と、前の期に比べ 14%増加した。時間貸し駐車場の管理台数が18%伸びたのに加え、インターネットを使った駐車場 情報提供などで稼働率も上昇した。パーク24の運営するTimes24では、一般駐車場の新規開発や商 業施設駐車場の管理受託が拡大(高島屋がパーク24に駐車場管理を委託したり等)。管理台数は3万 5470台と前の期に比べ5478台伸びている。
コイン式時間貸し駐車場の運営スタイルとしては、土地のオーナーと賃貸契約を結び運営管理を駐 車場会社が行う場合と、会社側はあくまでも設備の貸し出しを行うのみで管理は土地のオーナーが行 う場合、また完全に会社直営の駐車場がある。
個人的には駐車場の数は東京の方が多いのではないかと思っていたが、主要都市における車1万台 当たりの時間貸し駐車場共用台数は大阪市がトッだ。2位に東京、以下福岡、那覇、長崎、佐世保、
7位8位にようやく千葉、横浜が入る。車1万台当たりの共用台数は、大阪と東京では1000台もの 開きがある。大阪市は違法駐車を一掃するために1990年に駐車場付置義務条例改正で規制内用を強 化したことなどが影響している。全般的には西高東低の傾向がある。
5. 駐車場への社会的関心
図3を見てもらえば分かるように、日本のモータリゼーションは車と道路に偏重した進展を遂げて きた。その結果、慢性的な駐車場不足が起こり
・路上駐車による渋滞問題・事故誘発問題の深刻化
・交通渋滞による経済的ロス緒曜日CO2、NOx等、環境問題の深刻化
・路上駐車による消防車・救急車などの緊急車両の通行問題
・居住環境の悪化
等が発生した。これにより行政の認識も変化してきている。
例えば大阪府警は「ボトルネッククリア作戦」という大規模な渋滞緩和対策に乗り出した。信号機 の時間調整、違法駐車の取締り、道路標示の改良の3点を初めて同時に実施。都心部の2路線と府下 74カ所の交差点などが対象となり、1日の渋滞時間が7時間50分から30分と大幅に改善した例もあ る。また群馬県高崎市では「高崎市駐車場整備計画」なるものを昨年の8月に発表し、それによると 公民分担による駐車場整備の推進、都心環状線の内側にある駐車場を循環するバスを運行することに より、都心部への自動車流入量を抑制しようという試みが立案されている。民間による駐車場整備推 進策として、国の助成制度の活用や税制上の優遇措置の活用等も考えられている。
高崎市と似たような案だが、福岡県北九州市では、民間による時間貸し駐車場の整備を促進するた め条件に合致する駐車場に対して補助金を交付している。
まとめ
時間貸し駐車場(中でもコイン式)ということに関してだけなら、当分の間成長は見込めそうだ。
パーク24のように、保有する駐車場を証券化し資金を調達するなど、純粋な駐車場経営だけでなく 土地を利用したビジネスも今後は増えていくのだろう。
注釈
注1)九州松下電器のカーナビ モバイルデルNAVI 「KX-GP1」のオリジナルコンテンツサービ スとして、パーク24はTimes24の満空車状況を配信することになった。提供する情報は、全国の Times24の3219カ所の内2977カ所(2001年5月現在)の位置情報、都内51カ所、横浜15カ所、大 阪30カ所、福岡4カ所の計100カ所で、5分ごとに情報は更新される。
注2)http://www.cosmoplan.co.jp/office/chuukai/daikibo-office.htm 参照
図
図1(Y軸は駐車場台数)
80000 70000 60000 50000 40000 30000 20000 10000
0 1992 1995 1996 1997 1998 1999 2000
Series 1 Series 2
図2)
昭和41年 昭和51年 昭和61年 平成6年 平成8年 自動車保有台数(万台) 883 3026 4794 6499 6862 運転免許保者数(万人) 2286 3515 5408 6721 6987 人口(万人) 9904 11309 12167 12503
駐車場供給台数(万台) 12 69 129 225 250
参考資料
・駐車場整備ガイドブック(建設省道路局、平成2年と6年の道路交通センサスによる推計)
・インターネットサイト auto-ASCII24 より2001年7月3日の記事 「駐車場の空車状況をカーナビに配信開始」
・日本経済新聞 2001年9月26日 P.11
2000年9月18日 日経地域情報351号
・朝日新聞 1996年5月3日 P.10 2002年1月9日 P.16