二 〇 一 五 年 度 大 学 入 試 セ ン タ ー 試 験
解 説
︿ 古 典 ﹀
古 文
﹃ 夢 の 通 ひ 路 物 語
﹄
ひ路 物語
﹄は
、中 世︵ 鎌倉 時代
~室 町時 代︶ に成 立し た擬 古物 語。 作者 は不 詳。 作品 冒頭
、吉 野に 住む 阿闍 梨︵ 高僧
︶の 夢に
、亡 き権 大納 言 の男 君︶ が現 れ、 三の 宮︵ 問題 文中 の御 子︶ に見 せて ほし いと 言っ て巻 物を 託す
。目 が覚 める と、 巻物 は現 実に そこ にあ り、 読む と、 権大 納言 御︵ 問題 文中 の女 君︶ の恋 の物 語が 書か れて いた
。作 品は
、阿 闍梨 が巻 物を 読み 進め るこ とで
、読 者も 一緒 に巻 物の 物語 を読 むこ とに なる とい う って いる
。巻 物に 書か れた 物語 は、 三の 宮出 生の 後、 権大 納言 が苦 悶の うち に病 死し
、女 御が 吉野 の聖 を導 師と して 出家 して 終わ って おり
、阿 闍 の宮 が成 長し た後 にこ の巻 物を 渡し て出 生の 秘密 を知 らせ る。 問題 の本 文は
、女 君が 女御 とな り、 三の 宮が 生ま れ、 男君
・女 君が 互い に恋 しく 思 悩し てい る場 面で ある
。
、セ ンタ ー試 験の 古文 の問 題は
、平 安時 代の 物語
・鎌 倉・ 室町 時代 の擬 古物 語・ 江戸 時代 の仮 名草 子な ど小 説類 から の出 題が 多く
、擬 古物 語の 出
〇一 三年
﹃松 陰中 納言 物語
﹄・ 二〇 一〇 年﹃ 恋路 ゆか しき 大将
﹄・ 二〇
〇九 年﹃ 一本 菊﹄
・二
〇〇 七年
﹃兵 部 宮物 語﹄ など があ る。 女君
は︶ 互い に恋 しく 思い をお 寄せ にな るこ とが 様々 であ るけ れど
、︵ 男君 は︶ 夢以 外で は決 して
︵帝 の女 御と なっ た女 君の もと へ︶ 通っ て行 く きる 身で はな いの で、 現実 には
︵
うこ との︶期 待も 断た れて しま った つら さば かり を思 い続 けな さり
、大 空だ けを
︵む なし く︶ ぼん やり と眺 め なん とな く心 細く 思い 続け なさ って いた
。男 君の お気 持ち とし ては
、ま して 恨め しく
、︵ 女君 への
︶ど うに もな らな い︵ 恋の
︶苦 悩に 加え て、 御 子に つい ても たい そう 畏れ 多い こと だが
、鏡 に映 った
︵自 分自 身の
︶顔 も︵ 御子 の顔 に︶ そっ くり なの で、 ます ます
﹁︵ 御子 が我 が子 であ ると い
︶は っき りさ せた い﹂ と思 い続 けな さる けれ ど、
︵近 頃は
︶以 前の よう に︵ 女君 ばか りか
︶相 談相 手と なる 人﹇
=女 君の 侍女 の右 近﹈ まで も連 絡 げる こと がな いの で︵ 確か めよ うも なく
︶、
﹁︵ 皇子 が自 分の 子で ある こと を明 らか にす るこ とで
︶み っと もな く、 今さ ら関 わり あっ て、
︵女 君の
︶ 愚か な奴 だと 思わ れは しな いだ ろう か﹂ と自 然と 気が ねさ れて
、︵ ご自 分の 従者 であ る︶ 清さ だに さえ もお 心を 許し てお っし ゃり もせ ず、 ます ま
すひ どく 物思 いを なさ るの であ った
。 こち ら﹇
=女 君の ほう
﹈で もお 心で は絶 えず お嘆 きに なる けれ ど、 どう して
︵わ ずか でも その よう な︶ 気持 ちを お漏 らし にな るこ とが あろ うか
。帝 の寝 所に たび たび 召さ れ、 自然 と帝 のお 側に いる こと が多 くな って
、帝 のご 愛情 がこ の上 なく 深く なっ てい くの も、
︵女 君は
︶と ても つら く、 恐ろ しく
、人 知 れず 苦し くお 思い にな って
、︵ ある 時︶ 少し の間
︵ご 自分 の︶ お部 屋に お戻 りに なっ てい た。 人も 少な く、 もの 静か にぼ んや りと 物思 いに ふけ って いら っ しゃ った 夕暮 れに
、右 近が
、お 側に 参上 して
、︵ 女君 の︶ 御髪
︿お ぐし
﹀な どを とか し申 し上 げる 折に
、例 の︵ 男君 に関 する
︶事 をそ れと なく お話 し申 し 上げ る。
︵右 近が
︶﹁ 近ご ろ︵ 男君 を︶ 拝見 いた しま した とこ ろ、
︵男 君の
︶ご 両親 がご 心配 なさ るの もご もっ とも でご ざい ます
。本 当に げっ そり とお 痩せ にな り、 これ 以上 ない とい うほ どお 顔色 が真 っ青 だと 拝見 いた しま した
。清 さだ も、
︵男 君の もと へは
︶久 しく 無沙 汰を して おり まし たが
、︵ 男君 は︶ どの よう に
︵女 君と のこ とを
︶あ きら めな さっ たの だろ うか と、 何日 も気 がか りに 思い
、恐 ろし く思 われ まし たが
、や はり
︵男 君は
︶辛 抱し きれ なく てい らっ しゃ っ たの でし ょう か︵ 女君 への お手 紙を 清さ だに 託し なさ いま した
︶、
︵清 さだ が︶ 昨日 手紙 をよ こし た中 に、 この よう なこ とが 書か れて おり まし た。
﹃本 当に
、
︵男 君が
︶お 悩み にな り衰 弱な さる こと は、 日を 経て 言う 甲斐 もな いほ どひ どく
、拝 見す るの も気 の毒 で。 東宮
﹇= 皇太 子。 すで に亡 くな って いる 別の 女 御を 母と する 皇子
﹈が たい そう かわ いら しく まと わり つき なさ るの で、 気を 緩め て︵ 部屋 に︶ 籠も りな さる こと もな かっ たの です が、 この 頃は
、続 けて 参 内な さる こと もお でき にな らず
、ひ たす ら深 くお 悩み にな り衰 弱な さっ てい る﹄ と書 いて ござ いま した
﹂ と言 って
、︵ 男君 の︶ お手 紙を 取り 出し たけ れど
、︵ 女君 は︶ かえ って つら く、 何と なく 恐ろ しい ので
、
﹁ど うし て、 この よう に言 うの だろ うか
﹂ とお 思い にな って
、泣 いて しま われ る。
︵右 近は
︶﹁
︵男 君の お手 紙も
︶今 回が
、最 後で ござ いま しょ う。 御覧 にな らな いよ うな こと は、 罪深 いこ とだ とお 思い にな るの がよ い﹂ と言 って
、泣 いて
、
﹁︵ お二 人が
︶以 前の まま の状 態で あっ たら
、︵ どう して
︶こ のよ うに 思い がけ ない こと とな り、 どこ に苦 しい お気 持ち が加 わる こと がご ざい まし たで しょ うか
﹂ と、 こっ そり 申し 上げ るの で、
︵女 君は
︶ま すま す恥 ずか しく
、本 当に 悲し くて
、︵ 男君 の手 紙を
︶捨 てき るこ とが でき ずに 御覧 にな る。
﹁さ りと もと
…= そう はい って も︵
え る機 会も ある だろ う︶ と期 待し てい たが、そ の甲 斐も なく
︵私 は死 ぬの で︶
、私 が死 んだ 後に
、せ めて 並々 で ない 物思 いだ けで もし てく ださ い。
(
あ なた が入 内し て私 の︶ 手の 届か ない 宮中 にい るの を拝 見し、︵ 帝と あな たの 前で 御
越し に︶ あの よう な笛 の音 を奏 でま した 夕方 から、気 持ち も
乱れ
、苦 しく 思っ てお りま した が、
︵死 ぬ前 に︶ 間も なく 魂が この つら い身 を離 れて
、あ なた のも とに さま よい 出た なら
、お 引き 留め くだ さい よ。 惜し くも ない 命で すが
、ま だ死 に果 てて はい ませ んの で﹂ など と、 しみ じみ と、 いつ もよ りま すま す見 所が ある よう に︵ 男君 が︶ 思う まま に書 いて いら っし ゃる のを 御覧 にな ると
、︵ 女君 は︶ これ まで のこ とや 行 く末 のこ とに つい て何 もか も︵ 絶望 して
︶眼 の前 が真 っ暗 にな って
、︵ 涙で
︶お 袖を たい そう 濡ら しな さる
。︵ 女君 が︶ 伏せ って いら っし ゃる のを
、︵ 右近 は︶ 拝見 する のも 気の 毒で
、﹁
︵お 二人 は︶ どの よう なこ の世 での ご宿 縁で あっ たの だろ うか
﹂と
、思 い嘆 くよ うだ
。
﹁人 が来 ない うち に、 さあ
、御 返事 を﹂ と︵ 右近 が︶ 申し 上げ ると
、︵ 女君 は︶ お気 持ち もせ わし くて
、
﹁思 はず も…
=心 なら ずも 離れ ばな れに なっ てし まっ たこ とを 嘆い て、 あな たと 一緒 に︵ 私も この 世か ら︶ 消え 果て てし まい まし ょう
。 死に 遅れ るつ もり は︵ あり ませ ん︶
﹂ とだ け、 お書 きに なる が、
︵手 紙を
︶結 びな さる こと がお でき にな れな くて
、深 く思 い悩 んで ひた すら お泣 きに なる
。︵ 右近 は︶
﹁︵ 女君 の手 紙は
︶こ のよ う に言 葉少 なく
、︵ 二人 の関 係が 改善 する こと を示 すよ うな
︶格 別見 るべ き節 もな いと はい え、
︵男 君は
︶ま すま すし みじ みと 気の 毒に も御 覧に なる こと だろ う﹂ と、 お二 人︵ のお 気持 ち︶ を思 いや るに つけ ても
、悲 しく 見申 し上 げた
。
﹇解 説﹈ 問
傍線 部の 解釈 の問 題
標準 基礎 基礎 傍線 部~
の解 釈と して 最も 適当 なも のを、そ れぞ れ選 べ。 重要 単語
・重 要文 法を 確認 し、 前書 きな どや 前後 の文 意も 踏ま えて 解答 した い。
﹁あ ぢき なき 嘆き
﹂
﹁あ ぢき なき
/嘆 き﹂ と単 語分 けさ れる
。﹁ あぢ きな き﹂ は、
﹁不 当だ
・甲 斐が ない
・無 益だ
・お もし ろく ない
・情 ない
﹂等 の意 の形 容詞
﹁あ ぢき な し﹂ の連 体形
。そ の点 で、
﹁1
頼り ない
﹂・
﹁2
限り ない
﹂・
﹁3
押さ えが たい
﹂は 正し くな い。 の4
﹁ど うに もな らな い﹂ は、
﹁悩 んだ とこ ろで ど うに もな らな い﹂
、つ まり
、﹁ 悩ん でも 甲斐 がな い﹂ の意 だと 考え れば 正し い。 の5
﹁ふ がい ない
﹂は 意味 が近 そう だが
、﹁ あぢ きな き﹂ が﹁ 嘆き
﹂に 係っ てい るの に対 して
、5
の﹁ ふが いな い﹂ は﹁ 嘆き
﹂に 相当 する
﹁い らだ ち﹂ にで はな く、
﹁自 分自 身﹂ に係 って いる ので ある から
、正 しく ない
。
よっ て、 正解 は4
。ま た、 少し 前に
﹁男 の御 心に は﹂ とあ るか ら、
﹁あ ぢき なき 嘆き
﹂は 男君 の嘆 きを 言っ てい るの であ るが
、前 書き の﹁ その 子を 自 分の 子と 確信 する 男君 は人 知れ ず苦 悩﹂ や、 本文 冒頭 の一 文﹁ かた みに 恋し う思 し添 ふ﹂ によ れば
、男 君が 嘆い てい るの は女 君と のこ と、 もし くは
、 御子 のこ とで ある から
、そ の点 から 見る と2
か4
が正 しい が、 傍線 部の 直後 に﹁ に添 へて
、御 子の 御気 配も
﹂と あり
、傍 線部 では 御子 に対 する 思い を言 って いな いこ とが わか るか ら、 この 点か ら見 ても 正解 は4
であ る。
﹁あ きら めて しが な﹂
﹁あ きら め/ てし がな
﹂と 単語 分け され る。
﹁あ きら め﹂ は、
﹁明 らか にす る﹂ の意 の動 詞﹁ あき らむ
﹂の 連用 形で ある
。こ れが 正し いの は2
の﹁ 真 実を はっ きり させ
﹂だ けで ある
。よ って
、正 解は
2
であ る。 何を
﹁は っき りさ せた い﹂ のか につ いて は、 直前 に、
﹁鏡 の影 もを さを さ覚 ゆれ ば︵ 注
︶﹂と あり
、前 書き の、
﹁そ の子 を自 分の 子と 確信 する
﹂な どか ら、 御子 が自 分の 子な のか どう かに つい て、 とい うこ とが わか る。
﹁あ きら む﹂ を
﹁諦 める
﹂の 意だ と考 えて
、1
﹁辞 めて しま い﹂
・3
﹁思 いを 断ち 切り
﹂を 選ぶ のは 誤り
。な お、
﹁て しが な﹂ は、
﹁~ した い﹂ と訳 す、 自己 の願 望の 終助 詞で
、正 しい のは
・1
・2
。3
・4 5
の﹁
~し てほ しい
﹂は
、終 助詞
﹁な む﹂ の訳 し方 で、
﹁て しが な﹂ の訳 とし ては 正し くな い。
﹁御 ここ ろざ しの にな きさ まに なり まさ る﹂
﹁御 ここ ろざ し/ の/ にな き/ さま
/に
/な り/ まさ る﹂ と単 語分 けさ れる
﹁こ ころ ざし
﹂は
、﹁ 心持 ち﹂ の意 だが
、﹁ 愛情
﹂の 意で 使わ れる こと が 多い
。そ の点 では
、1
﹁愛 情﹂
・2
﹁寵 愛﹂ がよ さそ うで ある が、
﹁3
気持 ち﹂
・4
﹁気 遣い
﹂の 可能 性も 残る
。﹁ にな き﹂ は、
﹁二 つと ない
・ま たと ない ほど だ・ この 上な い・ すば らし い﹂ の意 の形 容詞
﹁二 なし
﹂の 連体 形。
﹁ま たな し・ たぐ ひな し・ よに なし
﹂等 と同 義の 語で ある
。こ れが 正し い のは
、1
の﹁ この 上な く﹂ だけ であ る。 よっ て、 が1
正解
。 正解
4
2
1
21
22
23
問敬語
︵種 類と 敬意 の方 向︶ の問 題 標準 波線 部
a
~
c
の敬 語の 説明 の組 合せ とし て正 しい もの を選 べ。まず
、敬 語の 種類 を見 る。 a﹁ 侍り
﹂は
、本 動詞 とし て﹁ あり ます
・お りま す﹂ と訳 す場 合と
、補 助動 詞と して
﹁~ です
・~ ます
・~ でご ざい ます
﹂と 訳す 場合 は、 丁寧 語で あり
、本 動詞 とし て﹁
︵高 貴な 人や 場所 に︶ お仕 えす る﹂ と訳 す場 合は 謙譲 語で ある
。a は形 容動 詞﹁ むべ なり
﹂の 連用 形に 付い てい て、
﹁む べに 侍 り﹂ で﹁ もっ とも でご ざい ます
・も っと もで す﹂ と訳 せる ので
、こ こで は、 丁寧 の補 助動 詞。 よっ て、 aの 敬語 の種 類が 正し いの は、
・1
・2
で5
ある
。こ れが わか るだ けで も3
・4
は消 去で きる
。 b・ cは
﹁給 ふ﹂ であ る。
﹁給 ふ﹂ は、 四段 活用
︵給 は/ 給ひ
/給 ふ/ 給ふ
/給 へ/ 給へ
︶の 場合 は尊 敬語 で、 本動 詞と して
﹁下 さる
・お 与え にな る﹂
、補 助動 詞と して
﹁お
~に なる
・~ なさ る﹂ と訳 す。 また
、下 二段 活用
︵給 へ/ 給へ
/○
/給 ふる
/給 ふれ
/○
︶の 場合 は謙 譲語 で、 補助 動詞 と して しか 用い られ ず、
﹁~ です
・~ ます
﹂と 丁寧 語の よう に訳 す。 bは
﹁給 は﹂ の形 であ り、
﹁籠 らせ
﹂︵
﹁せ
﹂は 尊敬 の助 動詞
﹁す
﹂の 連用 形︶ に付 い てい るの で、 尊敬 の補 助動 詞。 よっ て、 bの 敬語 の種 類は
、全 ての 選択 肢が 正し い。 c﹁ 給へ
﹂は
、連 用形 に接 続す る助 動詞
﹁き
﹂の 連体 形﹁ し﹂ が 接続 して おり
、﹁ 給へ
﹂で 連用 形で ある こと がわ かる から
、謙 譲の 補助 動詞
。よ って
、c の敬 語の 種類 が正 しい のは
、1
・3
・5
であ る。 以上 のよ うに
、敬 語の 種類 を見 るだ けで
、選 択肢 は1
と5
に絞 られ る。 次に
、敬 意の 方向 を見 る。
﹁誰 から
﹂に つい ては
、そ の敬 語を 話し てい る人 から と考 える
。会 話文 であ れば
、そ の﹁ 会話 文を 話し てい る人 から
﹂、 地の 文で あれ ば、
﹁作 者︵ 語 り手
︶か ら﹂ と考 える ので ある
。 aの
﹁侍 り﹂ は、 会話 文中 にあ り、 その 会話 文は
、直 前に
﹁右 近、 御側 参り て~ 聞こ え奉 る﹂ とあ ると おり
、右 近の 会話 文で ある から
、﹁ 右近 から
﹂ の敬 意と いう こと にな る。 これ につ いて は、 全て の選 択肢 が正 しい
。b の﹁ 給は
﹂も
、a と同 じく 右近 の会 話文 にあ るが
、b はそ の会 話文 内の
﹃
﹄ の部 分に ある
。﹃
﹄の 前の
﹁清 さだ も~ 昨日 文お こせ し中 に、 かか るも のな む侍 りけ る﹂ が正 しく 読め れば
、﹃
﹄は 清さ だの 手紙 の引 用で ある とわ かる から
、b は﹁ 清さ だか ら﹂ の敬 意が ある こと にな る。 よっ て、 これ を﹁ 御方 々か ら﹂ とし てい る1
・2
・3
は誤 りで ある
。ま た、 cの
﹁給 へ﹂ は
A
の手 紙文 中に あり、こ の手 紙は 問
の設 問文 で明 らか にさ れて いる とお り、 男君 の手 紙で ある から
、﹁ 男君 から
﹂の 敬意 であ るこ とに なる
。こ れ につ いて は、 全て の選 択肢 が正 しい
。よ って
、こ の段 階で
、敬 語の 種類 と、
﹁誰 から
﹂の 説明 が正 しい が5
正解 であ るこ とに なる
。
﹁誰 へ﹂ につ いて も見 てお こう
。﹁ 誰へ
﹂の 敬意 かは
、問 われ てい る敬 語の 種類 から 判断 し、 尊敬 語の 場合 は﹁ 動作 の主 体へ
﹂、 謙譲 語の 場合 は﹁ 動 作の 受け 手へ
﹂、 丁寧 語の 場合 は﹁ 話の 聞き 手へ
﹂と 考え る。 aは
、丁 寧語 であ るか ら、 aを 含む 右近 の会 話文 の聞 き手 であ る女 君へ の敬 意と いう こと にな る。 これ が正 しい のは
、1
・2
・5
であ る。 bは
、 尊敬 語で ある から
、﹁ 籠ら せ給 はぬ
﹂の 主体 であ る男 君へ の敬 意で ある
。こ れは 主体 を読 み取 るの がや や難 しい が、 選択 肢で これ が誤 って いる もの は
ない
。c は、 謙譲 語で ある が、 謙譲 の﹁ 給ふ
﹂は 訳と 敬意 の方 向は 丁寧 語同 然に 扱う ので
、﹁ 話の 聞き 手へ
﹂の 敬意 とい うこ とに なり
、c を含 む男 君 の手 紙文 の聞 き手
︵読 み手
︶で ある 女君 への 敬意 とい うこ とに なる
。謙 譲の
﹁給 ふ﹂ の敬 意の 方向 は丁 寧語 同然 に扱 うべ きだ とい うの は、 やや 難し い が、 これ が誤 って いる 選択 肢は ない
。 aと cの 敬語 の種 類か ら1
と5
に絞 り、 bが ある
﹃
﹄が 清さ だの 手紙 文で あっ て、 bが 清さ だか らの 敬意 であ るこ とが わか れば
、正 解は 得ら れ る。 なお
、下 二段 活用 の謙 譲の
﹁給 ふ﹂ が、 セン ター 試験 で問 われ るの は珍 しい が、
﹁給 ふ・ 奉る
・参 る﹂ など 二種 にま たが る敬 語に 関す る学 習は 重要 であ るか ら、 しっ かり と確 認し てお きた い。 正解
5
24
問傍線 部の 心情 説明 の問 題 標準 傍線 部
X
﹁い とど 恥づ かし う、 げに 悲し くて
﹂と ある が、 この とき の女 君の 心情 の説 明と して 最も 適当 なも のを 選べ
。 選択 肢は 全て
、女 君の 心情 を﹁ 恥ず かし くな り﹂
﹁悲 しく 感じ てい る﹂ と説 明し てお り、 違う のは
、女 君に 対す る右 近の 言葉 や態 度の 説明 であ る。 女君 の心 情説 明問 題の かた ちを とっ ては いる が、 実は
、こ れは
、﹁ 女君 を恥 ずか しく 悲し くさ せた 右近 の言 葉・ 態度 で正 しい のは どれ か﹂ とい う問 題 なの であ る。 第二 段落 以降
、実 際に 登場 して いる のは 女君 と右 近だ けで あり
、女 君の 動作 には 尊敬 語が 使わ れ、 右近 の動 作に は尊 敬語 が使 われ てい ない から
、傍 線部
X
の 直前 にあ る右 近の 言葉・態 度は
、傍 線部
X
の 直前 の、﹁﹃ こた びは
、と ぢめ にも
~忍 びて も聞 こゆ れば
﹂の 部分 であ る。 ここ は、
﹁﹃
︵男 君の お 手紙 も︶ 今回 が、 最後 でご ざい まし ょう
。御 覧に なら ない よう なこ とは
、罪 深い こと だと お思 いに なる のが よい
﹄と 言っ て、 泣い て、
﹃︵ お二 人が
︶以 前の まま の状 態で あっ たら
、︵ どう して
︶こ のよ うに 思い がけ ない こと とな り、 どこ に苦 しい お気 持ち が加 わる こと がご ざい まし たで しょ うか
﹄と
、 こっ そり 申し 上げ ると
﹂と いう 意味 であ る。 よっ て、 これ を正 しく 踏ま えて 説明 して いる が3
正解 であ る。
1
は、
﹁男 君の 病状 が悪 くな った のは 自分 のせ いだ と責 めら れ﹂ たと いう 事実 が本 文に ない
。2
は、
﹁世 に秘 めた 二人 の仲 を詳 しく 知ら れて
﹂が
﹁世 に秘 めた
﹂﹁ 詳し く﹂ から して
、皇 子の 出生 の秘 密の こと を言 って いる と考 えら れる が、 右近 が皇 子の 出生 の秘 密を 知っ たと は本 文に 書か れて いな い。
﹁二 人の 仲が 公に でき ない と思 い知 らさ れて
﹂も
、判 断の 根拠 がな い。 は4
、男 君の 手紙 を﹁ 罪深 い﹂ とし てい るが
、こ れが 本文 にな い。 また
、
﹁男 君の 姿が 元気 だっ た頃 とは 一変 した
﹂こ とは 清さ だの 手紙 によ って 知れ るが
、右 近が それ を﹁ 心苦 しい と嘆
﹂い てい ると は書 かれ てい ない
。5
は、
﹁子 ども の面 倒を 見な いの は﹂ も、
﹁子 ども さえ なけ れば 帝も 男君 もこ こま で苦 しま なか った だろ う﹂ も、 右近 は言 って いな い。 正解
3
25
問内容 説明 の問 題 応用 本文 中の 手紙
A
︵ 男君 の手 紙︶、手 紙
B
︵女 君の 手紙
︶の 内容 の説 明と して 最も 適当 なも のを 選べ
。 男君 の手 紙
A
にあ る和 歌は、﹁ そう はい って も︵
え る機 会も ある だろ う︶ と期 待し てい たが、そ の甲 斐も なく
︵私 は死 ぬの で︶
、私 が死 んだ 後に
、 せめ て並 々で ない 物思 いだ けで もし てお くれ
。﹂ とい う意 味で あり
、男 君は 続け て﹁
︵あ なた が入 内し て私 の︶ 手の 届か ない 宮中 にい るの を拝 見し
、
︵帝 とあ なた の前 で御
越 しに︶あ のよ うな 笛の 音を 奏で まし た夕 方か ら、 気持 ちも 乱れ
、苦 しく 思っ てお りま した が、
︵死 ぬ前 に︶ 間も なく 魂が この つら い身 を離 れて
、あ なた のも とに さま よい 出た なら
、お 引き 留め くだ さい よ。 惜し くも ない 命で すが
、ま だ死 に果 てて はい ませ んの で﹂ と書 いて い る。 ポイ ント は、
﹁私 は死 ぬだ ろう が、 その 前に 魂が あな たの もと にさ まよ い出 たら
﹂と いう 点で ある
。こ れを 確認 でき れば
、﹁
︵魂 が︶ この 身を にと どま って 死に きれ ない
﹂と して いる
、1
魂で はな く﹁ 私を 受け 入れ ては くれ ない もの か﹂ とい って いる
、2
魂が さま よい 出る 時を
﹁死 ぬだ ろう が、 その とき には
﹂と して いる
、4
﹁死 んだ ら﹂ とし てい る5
は、 いず れも 誤り であ り、
﹁死 ぬだ ろう が、 それ まで に﹂ とし てい る3
が正 解で ある とわ か る。 は1
﹁生 きる 甲斐 もな く﹂
、2
は﹁ 死に きれ ない ので
﹂、
4
は﹁ 誰の せい でこ うな った のか 悩ん でほ しい
﹂、 は5
﹁空 を眺 めて ほし い﹂
﹁そ ばに 置い てほ しい
﹂の 部分 にも キズ があ る。 女君 の手 紙
B
にあ る和 歌は、﹁ 心な らず も離 れば なれ にな って しま った こと を嘆 いて
、あ なた と一 緒に
︵私 もこ の世 から
︶消 え果 てて しま いま しょ う。
﹂と いう 意味 であ り、 書き 添え られ てい る﹁ 遅る べう は﹂ は﹁ 死に 遅れ るつ もり は︵ あり ませ ん︶
﹂の 意で ある
。和 歌に ある
﹁思 はず も﹂ は﹁ 思い がけ ずも
﹂の 意で あり
、﹁ もろ とも に﹂ は﹁ 一緒 に﹂ の意 であ るか ら、 これ らの 表現 が﹁ 心な らず も︵
︶3
・意 に反 して
︵4
︶﹂
、ま た﹁ 私も
︵3
・
︶4
﹂と
、正 しく 反映 され てい る3
・4
に選 択肢 は絞 られ るが
、4
に書 かれ てい る﹁ 待っ てい てほ しい
﹂に 相当 する 表現 は手 紙
B
には ない ので、手 紙
B
につ いて 見て も、 正解 は3であ るこ とに なる
。 は1
﹁離 れて しま った こと が苦 しく
﹂﹁ この 嘆き とと もに 消え てし まい たい
﹂、 は2
﹁も はや あな たを 愛す るこ とは でき ない が、 前世 から の因 縁と
思え ばつ らく
﹂、 は5
﹁今
え ない こと でさ えも もど かし く﹂﹁魂 の訪 れな ど待 たず に﹂ にそ れぞ れキ ズが ある
。 手紙 文の 内容 を表 現に 沿っ て読 み、 そこ に書 かれ てい る表 現が 正し く反 映さ れて いる 選択 肢に 絞る 一方
、相 当す る表 現が ない 余計 な説 明を して いる 選択 肢を 排除 して いけ ば、 正解 にた どり 着く こと がで きる
。 正解
3
26
問傍線 部の 心情 説明 の問 題 標準 傍線 部
Y
﹁方かた
々がた
思ひ やる にも
、悲 しう 見奉 りぬ
﹂と ある が、 この とき の右 近の 心情 の説 明と して 最も 適当 なも のを 選べ
。 登場 人物 の心 情は
、そ の人 物の 会話 部分 に表 れる こと が多 い。 ここ でも 右近 の心 情は
、直 前の 右近 の会 話文
、﹁ かや うに こと 少な く、 節な きも のか ら、 いと どあ はれ にも いと ほし うも 御覧 ぜむ
﹂に 表れ てい る。
﹁こ と少 なく
﹂は
﹁言 葉少 なく
﹂、
﹁い とど あは れに もい とほ しう も御 覧ぜ む﹂ は﹁
︵男 君 は︶ ます ます しみ じみ と気 の毒 にも 御覧 にな るだ ろう
﹂と いう 意味 であ るか ら、 これ を説 明し てい る4
が正 解で ある
。 は1
﹁立 場上
、簡 単な 手紙 しか 書け ない
﹂が 誤り
。右 近の 会話 文に その 意味 はな い。 ここ で女 君が 短く しか 手紙 が書 けな いの は、 苦悶 のた めで あ り、
﹁立 場上
﹂の こと では ない
。2
は、
﹁病 のせ いで 言葉 少な い男 君の 手紙
﹂が 誤り
。見 てわ かる とお り、 言葉 少な いの は男 君の 手紙 では なく
、女 君 の手 紙で ある
。よ って
、短 い手 紙を 見て
﹁気 の毒
﹂に 思う のは
﹁女 君﹂ では なく
、﹁ 男君
﹂で ある から
、こ れも 誤り であ る。
3
は﹁ いよ いよ 落胆 する だろ うと
、二 人の 別れ を予 感し て﹂ が誤 り。 右近 の会 話文 にあ る﹁ いと ほし う﹂ は﹁ 気の 毒だ
﹂の 意で
、﹁ 落胆 する
﹂の 意で はな い。
﹁二 人の 別れ を予 感し て﹂ もい ない
。5
は﹁ 控え めな 人柄 がう かが える
﹂と とれ る表 現が 本文 にな い。 女君 の手 紙は
﹁こ と少 なく
﹂で ある と書 かれ てい るだ けで ある
。 また
、確 かに 男君 と女 君の 関係 がこ の後 改善 しそ うな 様子 はな いが
、右 近が
﹁二 人の 将来 を危 ぶん で﹂ いる とま では 本文 に書 かれ てい ない
。 正解
4
27
問内容 説明 の問 題 応用 この 文章 の内 容の 説明 とし て最 も適 当な もの を選 べ。
正解 とな る5
は、
ペー ジ
~
行目、﹁ 御消 息取 う出 たれ ど、 なか なか 心憂 く、 そら 恐ろ しき に、
﹃い かで
、か くは 言ふ にか あら む﹄ とて
、泣 き 29 給ひ ぬ。
︵= 右近 が男 君の 御手 紙を 取り 出し たけ れど
、︵ 女君 は︶ かえ って つら く、 何と なく 恐ろ しい ので
、﹃ どう して
、こ のよ うに 言う のだ ろう か﹄ とお 思い にな って
、泣 いて しま われ る。
︶﹂ と、 傍線 部
X
の直 後の、﹁ 振り 捨て やら で御 覧ず
︵= 男君 の手 紙を 捨て きる こと がで きず に御 覧に なる
︶﹂
、 さら に、
A
の 手紙 文の 後の、﹁ 書き すさ み給 ふを 御覧 ずる に、 来し 方行 く末 みな かき くれ て、 御袖 いた う濡 らし 給ふ
。︵
=男 君が 思う まま に手 紙を 書い てい らっ しゃ るの を御 覧に なる と、 女君 はこ れま での こと や行 く末 のこ とに つい て何 もか も眼 の前 が真 っ暗 にな って
、涙 でお 袖を たい そう 濡ら しな さ る。
︶﹂ に相 当し てい て誤 りが ない
。﹁ かき 暮る
﹂は
、﹁ 空が 暗く なる
﹂の 意を 表す 一方 で、
﹁眼 の前 が真 っ暗 にな って 悲し みに 暮れ る﹂ の意 を表 す語 で ある から
、選 択肢 にあ る﹁ 絶望 的な 気持 ちに なっ た﹂ は﹁ 来し 方行 く末 みな かき くれ て﹂ が表 して いる ので ある
。 は1
、﹁ 未練 がま しく 言い 寄っ ても 女君 が不 快に 思う ので はな いか と恐 れて
﹂が 誤り
。こ れは
、本 文
行目 の、﹁﹃ 人わ ろく
、今 さら かか づら ひ、 を こな るも のに 思ひ まど はれ むか
﹄と 心置 かれ て﹂ に相 当し そう だが
、傍 線部
か ら続 いて いる こと を踏 まえ ると、こ の箇 所は
﹁﹃
︵皇 子が 自分 の子 であ るこ とを 明ら かに する こと で︶ みっ とも なく
、今 さら 関わ りあ って
、︵ 女君 の︶ 心を 乱し 愚か な奴 だと 思わ れは しな いだ ろう か﹄ と自 然と 気が ねさ れ て﹂ とい う意 味で ある
。前 書き や、 本文 冒頭 の﹁ かた みに 恋し う思 し添 ふこ とさ まざ まな れど
﹂に よれ ば、 男君 と女 君は 両思 いな ので ある から
、男 君 が﹁ 女君 を恋 しく 思う 気持 ちを
、女 君が 不快 に感 じる だろ う﹂ と考 えそ うに はな い。 は2
、﹁ 男君 への 手紙 を右 近に 取り 次が せよ うと した
﹂が 誤り
。問
な どで も見 たよ うに
、女 君は 右近 から 男君 の手 紙を 見せ られ ても
、つ らく 感じ
、 恐ろ しが って おり
、﹁ 人目 なき 程に
、あ はれ
、御 返し を︵
=人 が来 ない うち に、 さあ
、御 返事 を︶
﹂︵
ペー ジ 行目
︶と 右近 に促 され て、 短く
B
の 返 29 13 事を 書い たの であ り、 女君 の方 から すす んで﹁手 紙を 右近 に取 り次 がせ よう
﹂と はし てい ない
。 は3
、ほ ぼ全 てが 本文 にな い。 清さ だの 手紙 は ペー ジ最 後の
﹃
﹄の 部分 であ るが
、こ こは
﹁本 当に
、︵ 男君 が︶ お悩 みに なり 衰弱 なさ るこ とは
、 28 日を 経て 言う 甲斐 もな いほ どひ どく
、拝 見す るの も気 の毒 で。 東宮 がた いそ うか わい らし くま とわ りつ きな さる ので
、気 を緩 めて
︵部 屋に
︶籠 もり な さる こと もな かっ たの です が、 この 頃は
、続 けて 参内 なさ るこ とも おで きに なら ず、 ひた すら 深く お悩 みに なり 衰弱 なさ って いる
﹂と いう 意味 であ る。
﹁右 近か ら手 紙が 来な いこ とを 不審 に思
﹂っ てい る様 子も
、﹁ 帝が 真相 に気 づい たの では ない かと 心配
﹂に して いる 様子 もな く、
﹁事 情を 知ら せる よう に﹂ と書 いて いる わけ でも ない
。 は4
、ま ず﹁ 東宮 のも とに 無理 に出 仕を した ため 病気 が重 くな り﹂ が誤 り。 の3
解説 で見 たよ うに 清さ だの 手紙 には
、﹁ 東宮 がた いそ うか わい らし くま とわ りつ きな さる ので
、気 を緩 めて
︵部 屋に
︶籠 もり なさ るこ とも なか った
﹂と はあ るが
、こ れが 原因 で病 気が 重く なっ たと は書 かれ てい ない
。 また
、清 さだ の手 紙か ら、 男君 が衰 弱し てい るこ とは 女君 に伝 わっ てい るに 違い ない が、
﹁男 は死 ぬに 違い ない
﹂と 女君 が思 った とは 本文 に書 かれ て いな いの で、 これ も正 しく ない
。 正解
5
28
第 問 漢 文
程
てい敏
びん政
せい﹃ 篁
こう墩
とん文
ぶん集
しゆう﹄
﹇書 き下 し文
﹈ 家いへ
に一いち
老らう
貍り 奴ど を 蓄やしな ふ。 将まさ
に子こ を誕う まん とす
。一いち
女ぢよ
童どう
誤あやま りて 之これ
に触ふ れ、 而しか
して 堕おと
す。 日につ
夕せき
嗚を 嗚を 然ぜん
たり
。 会たまた
ま
両りやう 小せう
貍り 奴ど を餽おく
る者もの
有あ り。 其そ の始はじ め、 蓋けだ
し漠ばく
然ぜん
とし て相あ ひ能よ くせ ざる なり
。老らう
貍り 奴ど なる 者もの
、 従したが ひて 之これ
を撫ぶ し、 徬はう
徨くわう 焉えん
たり
、躑てき
躅ちよく 焉えん
たり
。臥ぐわ
すれ ば則すなは
ち之これ
を擁よう
し、 行ゆ けば 則すなは ち之これ
を翊たす
く。 其そ の 氄じよう を 舐な めて 之これ
に 食しよく を譲ゆづ
る。 両りやう 小せう
貍り 奴ど なる 者もの
も、 亦ま た久ひさ
しく して 相あ ひ忘わす
るる なり
。 稍やうや く之これ
に即つ き、 遂つひ
に其そ の乳ちち
を承う く。 是こ れよ り欣きん
然ぜん
とし て以もつ
て 良まこと に 己おのれ の母はは
なり と為な す。 老らう
貍り 奴ど なる 者もの
も、 亦ま た居きよ 然ぜん
とし て以もつ
て良まこと に 己おのれ が出い だす と為な す。 吁ああ
、亦ま た異い なる かな
。 昔むかし
、漢かん の明めい
徳とく
馬ば 后こう
に子こ 無な し。 顕けん
宗そう
他た の人じん
子し を取と り、 命めい
じて 之これ
を養やしな
はし めて 曰い はく
、﹁ 人じん
子し 何なん
ぞ必かなら
ずし も親みづか
ら生う まん
︵や
︶。 但た だ愛あい
の至いた
らざ るを 恨うら
むの み﹂ と。 后こう
遂つひ
に心こころ
を尽つ くし て撫ぶ 育いく
し、 而しか
して 章しやう 帝てい
も亦ま た恩おん
性せい
天てん
至し たり
。母ぼ 子し の慈じ 孝かう
、始し 終じゆう 繊せん
芥かい
の間かん
無な し。 貍り 奴ど の事
、適まさ
に契かな
ふ有あ り。 然しか
らば 則すなは ち世よ の人じん
親しん
と子こ と為な りて
、不ふ 慈じ 不ふ 孝かう
なる 者もの
有あ るは
、豈あ に独ひと
り古こ 人じん
に愧は づる のみ なら んや
。亦ま た此こ の異い 類るい
に愧は づる のみ
。
﹇通 釈﹈ 家に 一匹 の年 老い た猫 を飼 って いた
。︵ その 猫が
︶子 を生 みそ うに なっ た。
︵と ころ がそ の時
︶一 人の 女の 子が 誤っ て子 猫に さわ って 落と して
︵死 なせ て︶ しま った
。︵ 親猫 は︶ 一日 中嘆 き悲 しん で鳴 いて いた
。︵ その 時︶ たま たま 二匹 の子 猫を 贈っ てく れた 人が いた
。︵ 子猫 たち は︶ はじ めの うち は無 関心 な様 子で
︵老 猫に
︶な つか なか った
。老 猫の ほう は、
︵子 猫た ちの
︶そ ばに 寄っ て行 って なで さす り、
︵ま わり を︶ うろ うろ した り足 踏み した りし て、 落ち 着か ない 様子 であ った
。︵ 老猫 は、 子猫 たち が︶ 寝る と抱 きか かえ
、は なれ ると つい て行 って 守っ たり した
。子 猫た ちの うぶ 毛を なめ
、食 べも のを 譲っ て 与え た。 二匹 の子 猫の ほう もし ばら くそ うし てい るう ちに へだ てが なく なっ てき た。 だん だん 老猫 にな つく よう にな り、 とう とう 乳を 受け 入れ
︵て 飲む よ うに なっ
︶た
。そ れか らは 大喜 びで
︵老 猫に まと わり つい て︶ 実の 母親 のよ うに 思っ
︵て いる よう だっ
︶た
。老 猫の ほう もま たや すら かな 様子 で、
︵そ の 二匹 の子 猫を
︶自 分が 生ん だ子 のよ うに 思っ
︵て いる よう だっ
︶た
。あ あ、 なん とす ばら しい こと であ るよ
。 昔、 漢の 明徳 馬后 には 子供 がな かっ た。
︵そ こで
︶顕 宗は 他の 妃きさき の子 を引 き取 り、 后に 命じ てそ の子 の養 育を 託し て言 った
、﹁ 子と いう もの は、 自分 で 産ん だか どう かが 大事 なの では ない
。︵ 育て るに あた って は︶ ただ ただ 愛情 をか けて やる こと が大 事な のだ
﹂と
。后 はこ うし て心 を尽 くし て︵ その 子を
︶ 慈し んで 育て
、︵ 育て られ た︶ 章帝 もま た親 に対 する 愛情 が自 ずと そな わっ てい
︵る 子供 とし て成 長し
︶た
。母
︵の 后︶ と子
︵の 章帝
︶の 慈し みと 孝心 は、 終始 わず かな 隔り さえ もな かっ た。 あの 猫の こと は、 ちょ うど この こと にあ ては まる
。そ うで ある なら ば、 世に 親と 子と して 生ま れな がら
、︵ 親と して
︶ 慈し みが なか った り、
︵子 とし て︶ 不孝 であ った り︵ する よう に、 互い に愛 情を 抱き 合え なか った り︶ する 者が いる のは
、ど うし てた だ古 人に 恥じ るだ け
であ ろう か︵ いや
、そ れだ けで はな い︶
。︵ それ は︶ また この
︵猫 のよ うな
︶動 物に も︵ 及ば ない ほど の︶ 恥ず べき 者︵ とい うべ き︶ であ る。
﹇解 説﹈ 問
語の 意味 の問 題
⑴
基礎⑵
標準 傍線 部⑴
﹁承
﹂・
⑵
﹁ 適﹂ の意 味と して 最も 適当 なも のを、そ れぞ れ選 べ。 問
は、 二〇 一四 年度 に続 いて
、﹁ 語の 意味 の問 題﹂ であ った が、
﹁語
﹂と は言 って も、 昨年 度の
﹁習
﹂﹁ 尚﹂ と同 じく
、漢 字一 字の 意味 の問 題で あっ た。
⑴
﹁ 承﹂ は、 二匹 の子 猫が﹁ 稍やうや く之これ
に即つ き︵
=だ んだ んと 老猫 にな つい てき て︶
、遂つひ
に其そ の乳ちち
を~
﹂と いう 文脈 にあ る。
﹁承
﹂の 動詞 とし ての 訓み とし ては
、﹁ うク
﹂﹁ つグ
﹂﹁ うけ たま はル
﹂な どが ある
。主 語が 子猫 であ るか ら、 乳を
﹁1
授け た﹂
、4
﹁差 し出 した
﹂で は立 場が 逆に なり
、﹁ 承認
・ 承知
﹂な どの 熟語 を思 いう かべ ると
、2
﹁認 識し た﹂
、3
﹁納 得し た﹂ を並 べて ある のも わか るが
、2
・3
では どう 考え ても
﹁其 の乳 を﹂ に続 かな いで あろ う。 正解 は5
﹁受 け入 れた
﹂で ある
。
⑵
﹁ 適﹂ は、﹁貍り 奴ど の事
、~ 契かな
ふ有 り﹂ とい う文 の中 にあ る。
﹁契
﹂を
﹁か なフ
﹂と 読ん でい るが
、こ れは ふつ うに
﹁か なフ
﹂と 訓よ みす る字 では な く、 字義
︵約 束す る。 刻む
︶を 考え ても 意味 をあ ては めに くい ので
、な かな か難 しい
。た だ、
﹁か なう
﹂は
、﹁ ちょ うど よく 合う
。あ ては まる
。思 うよ うに なる
。匹 敵す る﹂ とい うこ とで ある から
、あ の老 猫と 実子 でな い子 猫の こと は、 明徳 馬后 と実 子で ない 章帝 のこ とと
﹁ま った く同 じよ うで
、あ て はま る﹂
、と いう 意味 にな るも のと 考え られ る。 とす ると
、﹁ 適﹂ は、
3
の﹁ ちょ うど
﹂が 最も 適当 であ ろう
。
﹁適
﹂は
、﹁ ゆク
︵= 行・ 往・ 之・ 如・ 逝・ 徂・ 征・ 于な ど︶
﹂か
、﹁ たま たま
︵= 偶・ 会な ど︶
﹂と 読む 場合 に質 問さ れや すい が、
﹁ま さニ
︵= 方・ 正 など
︶﹂ と読 んで
、﹁ まさ しく
。ち ょう ど﹂ とか
、﹁ たっ た今
﹂の 意で 用い るこ とが あり
、こ の知 識が あれ ば一 発で 答が 出た こと にな るが
、﹁ まさ ニ﹂ の 知識 は、 やや 厳し いレ ベル であ ろう
。 正解
⑴
5
⑵
3
29
30
問
漢字 の読 み方
︵同 じ読 み方 の字 を選 ぶ︶ の問 題
基礎 基礎 二重 傍線 部﹁将
﹂・
﹁ 自﹂ と同 じ読 み方 をす るも のを、そ れぞ れ選 べ。
﹁漢 字の 読み 方の 問題
﹂は
、二
〇〇 四年 度か ら二
〇〇 八年 度ま で五 年間 続け て出 題さ れた が、 同じ 読み 方を する 字を 選択 肢か ら選 ぶと いう 形は 初め てで ある
。形 とし ては 新傾 向で ある が、
﹁ 将﹂、
﹁自
﹂い ずれ も簡 単な レベ ルで ある
。
﹁ 将﹂ は、﹁︵ 老貍 奴︶ 将に 子を 誕う まん とす
﹂で
、も ちろ ん、 再読 文字
﹁ま さニ
…ン トす
﹂で ある
。 選択 肢も すべ て再 読文 字で
、1
﹁当
﹂は
﹁ま さニ
…べ シ﹂
、2
﹁蓋
﹂は
﹁な んゾ
…ざ ル﹂
、3
﹁応
﹂は
﹁ま さニ
…べ シ﹂
、4
﹁且
﹂が
﹁将
﹂と 同じ で、
﹁ま さニ
…ン トす
﹂、
﹁5
須﹂ は﹁ すべ かラ ク… べシ
﹂で ある
。正 解は
。4
﹁ 自﹂ は﹁ 是こ れよ り﹂ の﹁ より﹂。 同じ 読み 方を する のは
﹁4
従﹂ であ る。
﹁1
如﹂ は返 読す る場 合は
﹁ご とシ
﹂、 その ほか
、﹁ もシ
。ゆ ク﹂
。2
﹁以
﹂は 返読 して
﹁… ヲも ツテ
﹂。
﹁3
毎﹂ は﹁ つね ニ﹂
、返 読す ると きは
、
﹁~ ごと ニ﹂
。5
﹁雖
﹂は 返読 して
﹁~ トい へど モ﹂ であ る。 正解
4
4
31
32
問語の 用法
︵読 み方 と意 味︶ の説 明問 題 基礎 波線 部
⒜
﹁矣
﹂・
⒝
﹁ 也﹂・
⒞
﹁耳
﹂・
⒟
﹁ 焉﹂・
⒠
﹁已
﹂の 説明 の組 合せ とし て最 も適 当な もの を選 べ。 文末 の助 字﹁ 矣・ 也・ 耳・ 焉・ 已﹂ の用 法を 問う とい う、 今ま でに ない 形の 新傾 向の 問題 であ るが
、要 は字 の読 み方
︵あ るい は読 まな いこ と︶ と意 味︵ 用い られ 方︶ を問 うて いる ので ある から
、知 識力 の問 題で
、問
か ら問
ま でこ のよ うな 知識 を問 うタ イプ の問 題が 出題 され たこ とは 珍し いこ と であ る。
⒜
﹁ 矣﹂ は、 冒頭 の﹁ 将に 子を 誕ま んと す﹂ の後 にあ るが、こ れは
、読 まな い置 き字 であ る。
・1 2
のよ うに
、詠 嘆の
﹁か な︵
=夫
・哉
・与 な ど︶
﹂と 読む こと もあ るが
、こ の位 置で は﹁ かな
﹂で はな い。
・1
は2
×で ある
。
⒝
﹁ 也﹂ は、1
にあ るよ うに
、文 末で 断定 の﹁ なり
﹂と 読む こと が多 いが
、3
のよ うに
﹁伝 聞﹂ の﹁ なり
﹂に はな らな い。 ただ
、こ の位 置で は、
﹁老 貍奴 なる 者も
、亦ま た居きよ
然ぜん
とし て以 て 良まこと に 己おのれ が出い だす と為 す﹂ の後 に﹁ 也﹂ があ るの であ るが
、直 前の 対句
、﹁ 欣きん
然ぜん
とし て以 て 良まこと に 己おのれ の母 と為