総合研究所・都市減災研究センター(UDM)研究報告書(平成23年度)
テーマ3 小課題番号3.1-3
低品質骨材を用いたコンクリートの長期性状について
低品質骨材 長期性状 圧縮強度 中性化 ヤング係数
阿部 道彦 *1 矢島 怜 *2 関口 祐平 *3
1.はじめに
骨材はコンクリート容積の約7割を占める極めて重要 な構成材料である。わが国は良質な河川骨材に恵まれて いたが、戦後の急激な骨材需要の増大に伴う供給の不足 により河川産以外の骨材や河川産骨材でも従来より品質 の劣るものが使用されるようになり今日に至っている。
本研究では、低品質骨材を使用したコンクリートの長 期性状の把握および普通骨材との比較検討を行うことを 目的とする。
2.実験概要
表1に実験の要因と水準、表2に試験項目を示す。水 セメント比は 3水準とり、細骨材は4種類、粗骨材は 6 種類のものを使用している。いずれのコンクリートも、
目標空気量4.0%、目標スラ ンプ18cmとしている。なお 、 このコンクリートは友沢らが調合したもの 1)であり 、 今 回、31年経過したこのコンクリートについての実験を行 うものとし、養生方法については7日まで20℃水中養生、
以降 20℃60%R.H.室内に 放 置された屋内保存のコンクリ
ートおよび、28日まで20℃水中養生、以降、屋外暴露 し たコンクリートの2つを実験対象とする。なお、屋外暴 露されていたコンクリートは、風雨に曝されたことによ り、供試体表面に記されていた骨材名の大部分が判別不 可能であった。そのため、屋外暴露されたコンクリート の実験に関しては、普通骨材と比較することは困難であ った。
3.実験方法 3.1 使用材料
対象とした骨材は、東北地方の河川産の砂利・砂のう ち品質の良くないもの選定し、比較の対象として良質で ある鬼怒川産の砂利・砂を使用した。これらの骨材の物 性を表3に示し、表4に骨材の組み合わせを示す。ここ で選定した東北地方産骨材の全般的な特徴として、絶乾 密度が小さく、吸水率が大きく、軟石量が多く、安定性 が悪いという傾向を持つ。
3.2 調合およびフレッシュ性状
表5に友沢らが実験で用いたコンクリートの調合およ びフレッシュ性状について示す。
表 1 実験の要因と水準
要因 水準
W/C(%) 45,55,65
細骨材 鬼怒川産(kn)、奥入瀬川産(os) 米代川産(ys)、最上川産(mg)
粗骨材
鬼怒川産(KN)、奥入瀬川産(OS)
米代川産(YS)、最上川産(MG)
雫石川産(SZ)、白石川産(SR) セメント 普通ポルトランドセメント
混和剤 AE減水剤
空気量(%) 4
スランプ(㎝) 18
表 2 試験項目
試験項目
屋内 屋外
試験方法 角柱
10×10×40 角柱 15×15×53
コア φ7.5×15
圧縮強度 ○ JIS A 1107 動弾性係数 ○ ○ ○ JIS A 1127 超音波速度 ○ ○ ○ パンジット使用
中性化 ○ ○ JIS A 1152
表 3 細骨材・粗骨材の物性値
骨材 産地 絶乾密度
(g/cm3)
吸水率
(%)
実積率
(%)
安定性 (%)
細骨材
鬼怒川 2.51 2.88 66.9 4.8 奥入瀬川 2.53 4.32 64.8 8.6 米代川 2.39 4.79 66.5 9.8 最上川 2.49 3.05 65.1 6.0
粗骨材
鬼怒川 2.54 1.96 66.5 15.1 奥入瀬川 2.43 3.50 65.4 16.6 米代川 2.38 4.05 63.0 24.5 最上川 2.47 2.86 65.6 13.4 雫石川 2.55 2.82 63.9 9.0 白石川 2.41 3.60 64.7 23.4
コンクリートの組み合わせは、比較対象とする鬼怒川 産の砂利・砂を軸にして、粗骨材だけを各砂利に変えた もの、細骨材だけを各砂に変えたもの、および同一産地 の砂利、砂を組み合わせたもので構成されている。普通 骨材を使用したKkのスラ ンプ値は±0.5cmの範囲、空 気 量は-1.1~-0.6%の範囲と なった。
3.3 試験方法
圧縮強度試験、動弾性係数試験、中性化試験について は、それぞれ当該 JIS に 規 定された方法で行った。ヤン グ係数については赤荻のヤング係数と動弾性係数との関
係式y=1.72x0.901より求めた 。屋外暴露のコンクリート に
ついては、動弾性係数を求めるにあたって JIS 規格 に 従 ってたわみ振動での一次共鳴振動数を求めたが値のばら つきが著しかったため、その後、縦振動での一次共鳴振 動数を求めた。縦振動での値に大きなばらつきは見られ なかったため、そちらの値を用いることにした。超音波 速度については、パンジットを用いて角柱供試体の長さ 方向および幅方向の超音波伝播時間を求め、それを対応 した長さで除して求めた。また、圧縮強度は暴露供試体
からφ7.5cm×15cmのコ ア を 2本採取して求めた。屋内保
存のコンクリートについては、動弾性係数はたわみ振動 により、また、超音波速度は 供試体の長さ方向で測定し、
中性化は、割裂し、JIS規格に準じて求めた。
4.試験結果および考察(屋外暴露)
4.1 圧縮強度試験結果
図1は28日、1年、31年における各骨材を用いたコン クリートの圧縮強度を示したものである。この図を見る と、気中の場合28日から1年にかけて圧縮強度が僅かに 上昇しているのに対し、屋外暴露の場合28日から31年 にかけて圧縮強度が大きく上昇していることが分かる。
ま た 、28 日 、1 年 に お け る 圧 縮 強 度 の 差 を 見 る と 約
20N/mm2となっているが、31年における圧縮強度の差は
約 30N/mm2となっている 。これらの結果から、31 年 に
おけるコンクリートの圧縮強度は、屋外においては全体 的に上昇し、かつ、水セメント比の違いや骨材の違いに よって圧縮強度に大きな差が生じたものと推測される。
4.2 ヤング係数試験結果
図 2は28日、31年での圧縮強度とヤング係数の関係 を示したものである。2 つを比較してみると、ヤング係 数における差はほとんど見られなかった。図中の曲線は RC 構造計算規準式である 。図 2 に見られるように、28 日のものではいくつかの骨材を用いたコンクリートが曲 線を上回っているが、31年では全てが下回る結果となり、
一部を除いてほぼ全ての骨材が 20~30kN/mm2の範 囲 に 収まった。そのため、年数経過によるヤング係数の上昇 は期待できないと推測される。
表 4 骨材の組み合わせ
鬼怒川
(kn)
Kk Os Mk Yk SZk SRk 奥入瀬川(os) Ko Oo ― ― ― ―最上川(mg) ― ― Mm ― ― ― 米代川
(ys)
Ky ― ― Yy ― ― 細骨材粗骨材 鬼怒川(KN)
奥入瀬川
(OS)
最上川
(MG)
米代川
(YS) 雫石川
(SZ)
白石川
(SR)
表 5 調合およびフレッシュ性状
Kk45 45 38.2 176 391 651 1057 3.4 18.5 2275 Ko45 45 33.0 179 398 571 1137 3.2 19.0 2284 KY45 45 38.2 176 391 632 1057 2.8 19.0 2255 Ok45 45 34.4 181 402 579 1075 3.4 18.5 2237 Oo45 45 33.2 178 396 576 1103 3.0 19.0 2253 Yk45 45 35.9 186 413 596 1021 3.6 18.5 2217 Yy45 45 40.7 183 407 661 952 2.8 19.0 2203 Mk45 45 34.2 180 400 577 1092 4.0 18.5 2249 Mm45 45 36.0 180 400 604 1062 3.3 20.0 2246 SZk45 45 35.3 184 409 589 1097 4.3 18.0 2279 SRk45 45 34.8 182 404 584 1058 3.7 17.5 2229 Kk55 55 41.2 169 307 738 1056 2.9 18.5 2271 Ko55 55 36.3 172 313 660 1137 4.2 19.5 2282 KY55 55 41.2 169 307 716 1056 3.7 19.0 2249 Ok55 55 37.6 174 316 666 1076 3.4 18.5 2233 Oo55 55 37.0 169 307 677 1099 3.4 19.0 2253 Yk55 55 39.3 178 324 690 1022 3.4 17.0 2213 Yy55 55 43.7 176 320 747 952 3.4 18.0 2195 Mk55 55 37.5 173 315 666 1092 3.4 18.0 2245 Mm55 55 39.2 173 315 691 1062 3.8 19.5 2241 SZk55 55 38.7 177 322 681 1095 4.1 18.0 2274 SRk55 55 38.1 175 318 673 1058 4.2 17.5 2224 Kk65 65 43.6 167 257 801 1040 3.4 17.5 2265 Ko65 65 38.8 170 262 724 1121 4.7 19.5 2277 KY65 65 43.9 168 258 781 1032 4.7 17.0 2239 Ok65 65 40.2 172 265 731 1059 4.3 19.5 2227 Oo65 65 39.6 172 265 736 1070 3.5 22.0 2243 Yk65 65 41.8 177 272 752 1004 3.5 18.5 2206 Yy65 65 46.1 174 268 810 936 3.3 19.5 2187 Mk65 65 40.0 172 265 727 1074 4.4 17.5 2238 Mm65 65 40.0 172 265 723 1074 4.0 20.0 2233 SZk65 65 41.2 175 269 745 1079 3.9 18.0 2268 SRk65 65 40.6 173 266 737 1042 4.3 18.5 2218
S G
組 合 わ せ
W/C (%)
s/a (%)
単位容積 質量 (kg/m3) 空気量
(%)
スランプ (cm) 単位量(kg/m3) フレッシュ性状
W C
4.3 超音波速度試験結果
図3は超音波速度と動弾 性係数との関係を示したもの である。点線で示した曲線は赤荻が普通骨材を使用した 場 合 に お け る 既 往 の 実 験 デ ー タ か ら 導 き 出 し た 関 係 式 y=1.16x0.383である。2)図を 見ると、大部 分 の コ ン ク リ ー トがこの曲線に近い値を示している。つまり低品質骨材 を使用した場合でも、超音波速度と動弾性係数との関係 に大差がないことが推測される。また今回の結果から導 き出した回帰式は y=1.85x0.25となり、赤 荻式より緩やか なカーブを描くような形となった。
4.4 中性化試験結果
図4は圧縮強度と中性化 速度係数の関係を示したもの である。図を見ると1年(気中)において、中性化速度 係数は圧縮強度の低いところと高いところでの差がかな り大きいが、31年では比較的その差が小さいことが分か った。また、図中にある点 線は長谷川ら3)が 、破 線 は 建 研4)が導き出 した関係式で あり、共に普通骨材を使用し た場合の式である。この2つのうち、建研が求めた式に かなり近い値を示した。これらのことから、コンクリー トの年数経過に伴う中性化の進行速度は普通骨材を使用 した場合とほぼ変わらないことが推測される。
5.試験結果および考察(屋内保存)
5.1 動弾性係数試験結果
図5は圧縮強度と動弾性係数の関係を示す。図中の実 線は普通骨材を使用した場合、点線は低品質骨材を使用 した場合を示す。動弾性係数は粗骨材に普通骨材を用い たものの方が全体的に大きく、水セメント比が高くなる につれて動弾性係数の値は小さくなった。動弾性係数の 値を低品質骨材を使用したものと、粗骨材・細骨材共に 普 通 骨 材 を 使 用 し て い る Kk と 比 較 す る と 、 平 均 的 に 80~90%低下する結果とな っ た。低品質骨材を用いた場合、
普通骨材を使用した Kk に 近い値を示しているものもあ るが、骨材間の品質の差が大きいため、動弾性係数の幅 を小さくするのは難しいと推測される。
5.2 超音波速度試験結果
図6は動弾性係数と超音波速度との関係を示す。図中 の実線は今回の試験結果から求めた回帰式であり、点線 は赤荻式を示している。超音波速度において、水セメン ト比による差はほとんど見られず、普通骨材を使用した ものと低品質骨材を使用したものとの明確な違いは見ら れなかった。
本実験の回帰式の傾きが赤荻式よりも小さくなり、骨 材の種類によっては水セメント比が低いにもかかわらず 超音波速度が低いものがある。一点鎖線で同じ骨材を結 んでいるものは細・粗骨材に普通骨材を使用したもので、
長期材齢においては、赤萩式には適合しなかった。
RC構造計算規準式
10 20 30
10 20 30 40 50
ヤング係数(kN/mm2)
圧縮強度(N/mm2)
28日(水中) 31年屋外暴露(コア)
図 2 圧縮強度とヤング係数の関係
y = 418x-1.57 y =23.8(1/√F-0.13)
y = 38.3(1/√F-0.13)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
10 20 30 40 50
中性化速度係数(mm/√年)
圧縮強度(N/mm2)
1年(気中) 31年屋外暴露(コア)
図 4 圧縮強度と中性化速度係数の関係
10 20 30 40 50
圧縮強度(N/mm2)
28日(水中) 1年(気中) 31年屋外暴露(コア)
図 1 圧縮強度試験結果
y = 1.85x0.25
y = 1.16x0.38
3 4 5
20 30 40
超音波速度[コア](km/s)
動弾性係数[コア](kN/mm2)
図 3 超音波速度と動弾性係数の関係
5.3 中性化試験結果
図7に材齢25年および31年における圧縮強度と中性 化速度係数の関係を示す。図の点線と一点鎖線は長谷川 らの式と建研式を示している。材齢25年の図を見ると中 性化速度係数はほぼ建研式に一致しているのに対して、
材齢 31 年の図を見ると中性化速度係数は水セメント比 55~45%にかけて建研式か ら やや離れた。今回の試験では 建研式よりも中性化の進行が遅れている結果となった。
図8に骨材全体の吸水率と中性化速度係数の関係を示 す。低品質骨材を使用したコンクリートは水セメント比 が小さくなるにつれて、中性化速度係数の差が小さくな った。また、骨材全体の吸水率と中性化速度係数の間に は 明 確 な 関 係 は 見 ら れ な か っ た 。 特 に 水 セ メ ン ト 比 が 45%の場合、骨材の差はほとんど見られなかった。この 結果を見ると、骨材全体の吸水率はコンクリートの中性 化にあまり影響を及ぼさないと推測される。
6.まとめ
低品質骨材を用いたコンクリートの長期性状について 実験的検討を行った結果は次のようにまとめられる。
1)材齢31年における屋外暴露の圧縮強度は28日よりも 上昇しているが、ヤング係数については、ほぼ横ばいと なった。
2)超音波速度は、動弾性係 数との関係において、屋外 暴 露では普通骨材を用いたコンクリートに近い値を示した が、屋内保存では低い値を示した。
3)中性化については、屋外暴露と屋内保存のいずれの場 合も普通骨材と大きな差は見られなかった。
謝 辞
本 研 究 を 実施 す るに 当 たり 、建築 研 究 所 の鹿 毛 忠継 氏 と日 東 コ ン ク リ ート の 田中 斉 氏の 協力 を 得 た 。記し て 謝意 を 表し ます 。
参 考 文 献
1) 友 沢 史 紀 、 枡 田 佳 寛 、 田 中 斉 : 低 品 質 の 骨 材 を 用 い た コ ン ク リ ー ト の性 質 、コン ク リー ト工 学 年 次 論文 集 、Vol.4、pp.97-100、
1982.6
2) 長 谷 川 拓 哉 、 千 歩 修 : 文 献 調 査 に 基 づ く 屋 外 の 中 性 化 進 行 予 測 、コン ク リー ト 工学 年 次 論文 集 、Vol.28、No.1、pp.665-670、
2006.6
3) 赤 荻 満 、 阿 部 道 彦 : 動 弾 性 係 数 に よ る 高 強 度 域 を 含 む コ ン ク リ ー ト の 物 性 評 価 、 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 非 破 壊 検 査 論 文 集 、Vol.3、pp.1-6、2009.8
4) 阿 部 道 彦 : コ ン ク リ ー ト の 中 性 化 試 験 デ ー タ の 表 示 方 法 、 建 設 省 建 築研 究 所 春 季 研究 発表 会 、聴 講資 料 、pp.9-18、1999.5
*1 工学院大学建築学部建 築学科 教授
*2 工学院大学建築学部建 築学科
*3 同上
y = 20.7x0.12
y = 12.1x0.24
20 30 40
10 20 30 40
動弾性係数(kN/mm2)
圧縮強度(N/mm2)
Kk45 Kk55 Kk65 Ko45 Ko55 Ko65 Ky45 Ky55 Ky65 Ok45 Ok55 Ok65 Oo45 Oo55 Oo65 Yk45 Yk55 Yk65 Yy45 Yy55 Yy65
図 5 圧縮強度と動弾性係数の関係
y = 1.16x0.38
y = 2.17x0.16
3 4 5
20 30 40
超音波速度(km/s)
動弾性係数(kN/mm2)
図 6 動弾性係数と超音波速度の関係
y = 6064x-2.27 y =23.8(1/√F-0.13)×1.6
y = 3071x-2.08 y = 70(1/√F-0.13)
10 20 30 40
圧縮強度(N/mm2) 凡例は図8と同じ 材齢31年
y = 223x-1.20 y =23.8(1/√F-0.13)×1.6
y = 588x-1.49 y = 70(1/√F-0.13)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
10 20 30 40
中性化速度係数(mm/√年)
圧縮強度(N/mm2) 材齢25年
図 7 圧縮強度と中性化速度係数の関係
y = 2.03x-0.002 y = 2.53x0.38 y = 4.84x0.25
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
2 3 4 5
中性化速度係数(mm/√年)
骨材全体の吸水率
45% 55% 65% Kk45 Kk55 Kk65
図 8 骨材全体の吸水率と中性化速度係数の関係