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土の中の銀河 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 54, No. 9, 2016

土の中の銀河

土壌の微生物多様性を評価する

2015年5月1日から6カ月間,イタリアのミラノを舞 台に,「地球に食料を,生命にエネルギーを(Feeding  The Planet, Energy For Life)」をテーマとした万国博 覧会EXPO2015が開催された.

いきなり,化学や生物と何の関係が? と思われる向 きもあるかもしれない.本稿でご紹介する土壌微生物の 多様性評価技術は,この万博史上初めて行われる「食の 万博」における,日本館で世界の課題を解決する日本発 の16の技術の一つとして政府展示されたからだ.解決 すべき課題は,①「人口爆発と食糧危機」

,そのための

ソリューション技術の3番目「地球の土を再生する『土 壌微生物』の見える化」として展示された.140以上の 国々が,いずれも未来の食糧供給に危機感を感じ,解決 策を模索するための祭典(総入場者数2,200万人)の一 隅を照らすことができたこと,そのために四半世紀を費 やすことを許してくれた国と国民に,本題に入る前に感 謝の意を表したい.

まずは,図

1

をご覧いただきたい.白黒だと,ボヤッ としてよくわからないかもしれないが,これは,私が土 壌微生物の科学的評価研究を始めた,いわば黎明期に触 れた,土壌微生物の土壌中での「生きた」姿だ.この写 真は,正真正銘,生きているまま,土の粒子と同居した 姿である.DNA分子だけに結合する指示薬「DAPI(4′,6-  diamidino-2-phenylindole dihydrochloride)」 を 土 壌 に 処理し,その後土壌をよく洗浄すると,遺伝子が存在し

ない部分,たとえば鉱物由来の土壌粒子や,腐植物質な どからは,DAPIは洗い流されてしまうが,遺伝子を もった部分には,DAPIはしっかり保持される.それを 蛍光顕微鏡で紫外線を照射すると,写真のようにDAPI から蛍光が発して,まるで暗黒の宇宙に浮かぶ銀河のよ うに観察できる.

暗い背景にぼんやり浮かび上がって見える点々や,モ ヤのように見えている部分(焦点を合わせると,中央部 に見られるような点になる)が遺伝子DNAをもった粒 子だ.これらの点の大きさを,画面右下の長さが10ミ クロン(

μ

m)のバーと比べてみると,それぞれの点が,

直径約1ミクロン,細菌の大きさと同程度であることが わかる.つまり,この光っている無数の点が,すべて細 菌,土壌微生物ということになる.この画面に映ってい る元の土は,僅か100万分の1グラム以下で,その中に 存在している微生物の数は何と10万を超える.つまり,

土1グラムに換算すると,10万×100万=1,000億かそれ を超える数,場合によっては兆の単位の生き物がひしめ いている.この数字は,それまで行ってきた培地上に生 育させたコロニー数をカウントする「生菌数」の千倍を 軽く超えており,これこそが土壌の生きた姿であること がわかった瞬間,従来の方法論では土壌微生物には到底 歯が立たないと悟った.

なぜなら,われわれが培養という手段で微生物を実体 として捉えることができる数の,千倍以上存在し,特に 細菌などで顕著だが,生死の確定が非常に困難な場合,

土壌微生物の総数,つまり母集団サイズを確定できない ことになる.もし,母集団の総数が不可知な場合,そこ から取り出されるサンプル数をどれほど大きくしたとこ ろで,サンプル集団が母集団に占める割合=サンプル数

(有限)

÷∞=ゼロとなってしまい,サンプル内で起きた

現象で母集団を表現できなくなってしまう.したがっ て,サンプルとして取り出された微生物をいかに精緻に 調べたところで,そこから得られた情報では母集団を説 明できない大問題にぶち当たった.

さらに,もっと深刻な問題は,微生物群集が発現する 機能は,基本的に微生物間の複雑な相互作用の結果,つ まり「複雑系」として現れる.ここでは,古典科学が最 図1土壌懸濁液のDNAシグナル(土壌μg

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も得意としてきた「要素還元主義」

,複雑な現象を,

「分 析」によって少数の原理によって説明する方法論が利用 できないことを意味しており,全く新たな手法,たとえ ば群集全体の属性を分析することなく評価する手法が不 可欠となった.そして,その手法の一つが,「多様性評 価」であった.この科学的に未踏の,常識が通用しない 世界を,いかに科学の土俵に乗せるかという無謀ともと れる挑戦に,その後四半世紀を要することになったので ある.

2

は,岐阜県飛騨地方のホウレンソウ連作土壌から 無作為に純粋分離した24個の細菌コロニーについて,

それぞれ分離株個々の有機物分解パターンをBiolog社 製細菌簡易同定パネル(GNプレート)を用いて測定 し,そのパターンの違いをクラスター間距離として数値 化することで土壌微生物群集の多様性を評価する「土壌 微生物多様性指数(DI)」(1, 2)によって畑土壌を評価し,

そこでの連作障害の発生状況との相関を調査した結果で ある.

縦軸の多様性指数(これが大きいほど,その土の微生 物の多様性が高い)と,横軸の連作障害発病度(%)は 明らかな右肩下がりの関係.つまり負の相関を示してお り,土壌微生物の多様性が低下すればするほど,連作障 害が激発する.しかも,1995と1996年の2年にわたって 行った別々の調査を重ねてみても,同じ相関関係の上に 重なり,再現性が高いことが明らかとなった(3)

以上のように,わが国の大規模野菜産地における土壌 微生物の多様性を維持していく必要性,そのための微生 物多様性情報のモニタリングの重要性が認識されるに 至ったが,「土壌微生物多様性指数」は致命的な問題を 抱えていた.それは,1枚の畑の土壌の微生物多様性指

数(DI)を測定するのに,人件費なども全部含めて,

ざっと100万円以上もかかる.この欠陥を補うために,

およそ10年をかけて開発されたのが,現在実用化され ている「土壌微生物多様性・活性値」評価技術(図

3

である.これは,土から微生物を分離せず,土と一体の ままどれほど多様な有機物を迅速に,偏りなく分解でき るかで,そこの土壌微生物群集の多様性と活性を同時に 定量化する.具体的には,pH 7.0のリン酸緩衝液を用い て1,000倍 希 釈 さ れ た 土 壌 懸 濁 液 を,96ウ ェ ル の BiologGN2プレートに分注し,Biolog社製自動実験ロ ボットOmnilogPMシステム内で,25 C暗黒下,48時間 静置培養する.その過程で,それぞれのウェルに格納さ れている95種類の有機物を土壌懸濁液中の微生物群集 がいかに偏りなく(多様性の高さを示す)

,迅速(微生

物の活性の高さを示す)に分解するかを,ウェルごとの 発色をCCDカメラによって連続測定することで定量化 する技術であり,費用面でも数万円以下の技術ができ た.このことにより,以前よりもはるかに迅速,かつ手 軽に農作業の土壌微生物への影響を測定することが可能 になり,さらに広範囲に土壌微生物多様性のモニタリン グが可能となった(4〜6)

最後に,この研究を続けてきて思うことを述べたいと 思う.長い農耕の歴史は,言い換えれば土壌微生物と共 存する豊かな土づくりの歴史でもあったはずである.20 世紀の農業現場で行われ始め,今も続けられている土壌 燻蒸消毒(土壌微生物を根絶やしにし,それによってか えって土壌生態系を不安定化させ連作障害を誘発してい る)

,あるいは,強烈に土壌を酸性化させることによる

土壌微生物の単純化を招く即効性化学肥料の連用を,何 図2岐阜県飛騨地方のホウレンソウ連作土壌の微生物多様性

指数

図3土壌微生物多様性・活性値の実験手順

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化学と生物 Vol. 54, No. 9, 2016

と表現するべきか? 再び農耕の原点に立ち戻り,真摯 に熟考していただきたい.そして,今世紀半ばに迎える 人口90億,この星の許容限界の世界にあって,人類の 生命の糧である食を生産するという最も重要かつ誇り高 い産業「農業」を未来永劫まで続けていくための本来の 道に,一日でも早く回帰するための勇気,そして正しい 決断に至ることを期待するものである.

最後に,冒頭でお伝えしたミラノ万博日本館は,会場 でも一二を争う人気パビリオンとして,来館者228万人 を数え,終了にあたって優秀展示者に与えられる「パビ リオンプライズ」で,展示デザイン部門「金賞」を受賞 したことを付け加えておく.

  1)  K. Yokoyama:  , 29, 74 (1993).

  2)  横山和成: 複雑現象工学 ,プレアデス出版,2015,  pp. 

333‒343.

  3)  横山和成:土と微生物,47, 1 (1996).

  4)  N. Sakuramoto, K. Yokoyama & T. Iekushi: 

, p. 137, (2010).

  5)  K.  Yokoyama  &  Y.  Taguchi:  , 2,  35  (2013).

  6)  渡邊 健,青木一美,本橋みゆき,柴田夏美,池田千亜 紀,東條元昭,町田暢久,櫻本直美,横山和成:茨城県 病害虫研究会会報,54, 1 (2015).

(横山和成,株式会社DGCテクノロジー)

プロフィール

横山 和成(Kazunari YOKOYAMA)

<略歴>1981年愛媛大学農学部環境保全 学科卒業/1987年北海道大学大学院農学 研究科修了/1986年帯広畜産大学畜産学 部助手/1989コーネル大学農学・生命科 学部客員研究員/1991年農林水産省農業 環境技術研究所主任研究官/1999年北海 道農業試験場主任研究官/2007年農業・

食品産業技術総合研究機構中央農業総合研 究センター生産支援システム研究チーム 長/2015年尚美学園大学尚美総合芸術セ ン タ ー 副 セ ン タ ー 長/2016年株式会社 DGCテクノロジー チーフリサーチャー,現 在に至る<研究テーマと抱負>土壌微生物 複雑系の動的安定制御.多様性がもつ力を システムの安定化に役立てたい! 土壌生 態系も人間社会でも<趣味>諸国漫遊の旅

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.623

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3, 2015 植物がかおりで危険を感じ取るしくみ 隣接する食害植物からのかおり化合物を取り込み , 配糖体化することで来るべき害虫に備える 植物の かおり は何のために存在しているのだろう か? ヒトは花のかおりや森のかおりを感じることで何 となく豊かな気持ちになる.動物や昆虫の場合は,これ らのかおりを利用して餌を探し出したり,食べられない

中を動きにくくなることによる.植物は低リン条件に置 かれると,いくつかの戦略を用いてこれらの難利用性リ ンを可給化(吸収可能な形に変えること)する.その分 子機構を図1に示した.土壌中で無機化合物,有機化合 物にかかわらずリン酸はアルミニウム,カルシウム,鉄 などの金属イオンと結合して難溶性となりやすいが,こ れを可溶化するために根から有機酸トランスポーターを